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2020-06-05 (Fri)
新型コロナウイルス感染拡大に伴う、国の緊急事態宣言解除から9日が経過した6月3日、今年初めてトンボ生息地を訪ね、二ホンカワトンボ Mnais costalis Selys, 1869写真1)を観察・撮影することができました。

感染拡大にコミットしないように、マスク着用、手指消毒、ソーシャルディスタンス確保、建物立ち入り自粛な:)行動スタイルを念頭に置きながらの、マイカー往復による観察行でした。

二ホンカワトンボ橙色翅型♂
写真1 二ホンカワトンボ Mnais costalis 橙色翅型♂ (写真はクリックで拡大します)


初の訪問地

今回の訪問地は、埼玉県内にある、周りを樹林に囲まれた小さな河川支流の源流部で、それまで私にとって未踏の地でした。

サナエトンボ類やカワトンボ類など、渓流性の仲間の種との出会いを期待してのトンボ探訪です。

午前9時57分に現地着。渓流というより、小川という呼び方が似つかわしい、ゆったりして浅くそしてささやかな流れでした。

そして真っ先に出迎えてくれたのが、二ホンカワトンボ 写真1)でした。

埼玉県は、同属の二ホンカワトンボとアサヒナカワトンボ Mnais pruinosa Selys,1853 とが境を接して(あるいは入り組んで)分布しているだけでなく、形態による種の同定も非常に困難です(この過去記事参照)。

今回、迷うことなく二ホンカワトンボと同定できたのは、私のトンボ関係の友人の一人が今回の訪問地には二ホンカワトンボが分布しているという情報を提供してくれていたからです。


出迎えてくれたのは♀個体

さて、最初に見かけた個体は写真1の個体ではなく、1頭の♀でした(時刻:09:58)。

ただし、その♀は、私にとってシーズン撮り始めということで写りが悪かったのと、人工物にとまっていたので絵にならないということで写真掲載は割愛しました。


二ホンカワトンボ橙色翅型♂の翅清掃

次に見かけた個体は橙色翅型♂でした(写真1)(時刻:10:03)。

写真1で、腹が背方にカーブしているのは、曲げた腹と翅をこすりあわせる体清掃をしている最中の1カットだからです

写真2は、同じ個体の腹と翅の動きやこすり合わせの状態を4つのタイミングで抜き出して、組写真にしたものです。

二ホンカワトンボ橙色翅型♂の翅清掃
写真2 二ホンカワトンボ Mnais costalis 橙色翅型♂の翅清掃(写真1と同一個体)

この組写真のA~Dは、1回1サイクルの腹部上下曲げ伸ばし動作の中の4カットに見えるかもしれませんが、実際は数回のサイクルに分けてこの動作をしていた中のそれぞれ別サイクルの中からのカットです(AとDの時間差は40秒)。

Bでは腹部が左翅の外側(左側)とこすり合わさっています。

Cでは腹部が極端に背方に曲げられていて、翅の基部近くと腹部の基部近くとがこすりあわさっています。

当ブログでは過去に数回、トンボの体清掃を写真つきで紹介しています(こちらこちらを参照)。


二ホンカワトンボ無色翅型♂

二ホンカワトンボの無色翅型♂もいました(写真3)(時刻:10:11)。

二ホンカワトンボ無色翅型♂
写真3 二ホンカワトンボ Mnais costalis 無色翅型♂

木の枝の、私の身長よりも高いところの葉にとまっていたので、下から目線の撮影となり、葉におなかを隠されてしまいました。

二ホンカワトンボでは♀の翅も無色透明ですが、♀では縁紋が白いこと(♂では縁紋は赤い)、そして産卵管がある(写真8,9)ことから、性別の判定は容易です。


無色翅型♂?、透明翅型♂?

私は以前、無色翅型♂透明翅型♂(あるいは透明型♂)と呼んでいましたが、この型は橙色味を帯びていないことが特徴であり、その意味で無色翅型と呼んだほうがより正確です。

それに加えて、橙色翅型であっても翅の向こうが透けて見えるという意味では透明性を有しているので、透明翅型という呼称には曖昧さが残るので、その呼び方を避けるほうがベターです。

まあしかし、透明翅型♂もきちんと定義した上で使ってきたわけで、その意味では誤りではありません。

学会レベルでは用語の統一が図られるべきで、いずれそうなるでしょう。


橙色翅型♂、なわばりを占有

小川沿いに少し移動すると、今度は1頭の橙色翅型♂がなわばりを占有していました(写真4、5)(時刻:10:29;10:31)。

二ホンカワトンボ橙色翅型♂
写真4 二ホンカワトンボ Mnais costalis 橙色翅型♂ (写真1,2とは別個体)

二ホンカワトンボ橙色翅型♂
写真5 二ホンカワトンボ Mnais costalis 橙色翅型♂ (写真4と同一個体)

写真4、5の♂個体がなわばりを占有していた一角の景観を写真6として掲げました。

二ホンカワトンボ橙色翅型♂のなわばり占有地点
写真6 二ホンカワトンボ橙色翅型♂のなわばり占有地点

ご覧いただいてわかるように、川幅1m前後、深さ数cmで、水はゆるやかに流れています。

砂利の川底に横たわった細い丸太が水面上に露出しています。

水に浸って朽ちはじめた木質部は、カワトンボの産卵基質として利用可能と思われます。


川岸には高さ数十cmの幼木があり、そこから川の上にせり出した葉に写真5橙色翅型♂が川面を見下ろすようにとまりました。

時折飛び立って、水面上を短時間飛行してまた岸辺の葉の上にとまります。

一度は別の橙色翅型♂が川面上を飛行しながら接近したため、写真5の♂がスクランブル発進して詰め寄り、相手を下流側に追いやってまた元の枝にもどって一つ二つとなりの葉にとまりました(なわばり防衛)。

写真5は、その追い払いから戻ってとまったときに撮影したものです。

もちろん、写真5の♂の監視範囲に同種♀が現れれば、間髪をいれず言い寄って、相手が受け入れる態勢をとれば交尾し、産卵へといざなうことになっているのですが、今回、私が見ている間にはこのなわばりに♀は現れませんでした。

二ホンカワトンボの北海道個体群における、なわばり行動を含む交尾戦略について、東・生方・椿(1987)『トンボの繁殖システムと社会構造』に詳しく書いていますので、興味ある方はご笑覧ください。


もう1頭、無色翅型♂

写真6のポイントから少し移動すると、もう1頭、無色翅型♂がいました(写真7)(時刻:10:39)。

二ホンカワトンボ無色翅型♂ 
写真7 二ホンカワトンボ Mnais costalis 無色翅型♂ (写真3とは別個体)

写真7の♂は写真3とは別個体ですが、今度は、ほぼ真横から撮影させてくれました。


ここにも橙色翅型♂が

少し移動したところには、また別の橙色翅型♂がいました(写真8)(時刻:10:45)。

二ホンカワトンボ橙色翅型♂
写真8 二ホンカワトンボ Mnais costalis 橙色翅型♂ (写真4,5とは別個体)


ある♀個体の食事タイム

小川沿いの林床の日の当たる草の葉の上に1頭の♀がとまっていて、ときおり飛び立って、またほぼ元のところにとまりました(写真9)(時刻:10:59)。

二ホンカワトンボ♀
写真9 二ホンカワトンボ Mnais costalis 

一度は、口に小さな虫を加えて戻りましたので、明らかに採食を目的とした待ち伏せと飛び立ちです。


こちらは、もしかすると交尾する♀?

この日最後のトンボ撮影は、写真9とはまた別の♀です(写真10)(時刻:11:04)。

二ホンカワトンボ♀
写真10 二ホンカワトンボ Mnais costalis (写真9とは別個体)

岸から水面上に出た枝の葉の上にとまっていました。

写真10は、たまたま左前脚の跗節で頭部をこすっているところです。

実は、このほぼ直下の岸の草葉上には橙色翅型♂がなわばりを占有していて、もしこの♀がその高さまで舞い降りればその♂に求愛されること必至という舞台設定になっていました。

その可能性にかけて、あと1,2時間その場でじっと待ち写真や観察記録をゲットする選択肢も残されていましたが、♂の二つの型と♀(1型のみ)の写真をひととおり撮影できたことで満足し、この日は帰路につきました。

後日に交尾や産卵に立ち会えるという機会を残しておくのも、また愉しみでもあります。


次回記事予告

今回、同じ場所で予期に反してサラサヤンマを観察することができたので、その様子を次回記事で報告する予定です。


引用文献

東 和敬・生方秀紀・椿 宜高(1987)『トンボの繁殖システムと社会構造』,東海大学出版会。


謝 辞

今回の観察地についての情報を提供されたトンボ関係の友人に感謝いたします。



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2020-05-26 (Tue)

本シリーズ「新型コロナウイルス vs. 人間」の4回目の今回は、前回記事「(3):感染拡大・収束の簡易シミュレーション」を受けて、コロナウイルスを含む病原体の感染抑制の効果と抑制解除後の感染再拡大のシミュレーション(一応、オリジナル)をご紹介します。


新型コロナウイルス感染拡大を抑えるために2020年4月7日に発令された国の非常事態宣言は、感染収束にともない、5月25日をもって解除されました。


しかしながら、今の状況下で「3密」に象徴される感染前の社会行動に戻してしまうと、たちまち感染の再拡大が起こるというい警告が専門家から発せられています。


では、なぜ、またどういう状況で、感染再拡大が起こるのでしょうか?


この疑問に答えるために、感染症拡大の理論モデルであるSIRモデルに準拠した簡易的なシミュレーションを、前回記事に引き続いて行った結果をご紹介します。



シミュレーションの動画が閲覧できます


今回のシミュレーション(モデルの提示、グラフ表示による時系列変化、二次元平面における感染拡大・収束の可視化アニメーション)の結果をパワーポイントファイルにまとめたものを動画変換したものを、YouTubeFC2動画にアップロードしました。


動画:ウイルス感染、収束したのになぜ再拡大する?

https://www.youtube.com/watch?v=dWzp0uIUn3I

または

https://video.fc2.com/content/202005265MXJAyBx



シミュレーションのベースとなる理論モデル


前回記事および今回記事のシミュレーションのベースとなった理論モデルである、SIRモデル(Kermack and McKendrick, 1927)について簡単に紹介します。


(※SIRモデルの詳細および参考文献については、前々回記事を参照してください。)



(1)SIRモデルにおける人間集団の内訳


人口=N の人間集団(他集団との人間の出入りはない)

・感染者および回復者は以後感染しない

・状態ごとの人数内訳:

  S: 未感染者

  I : 感染者

  R: 回復者

  S + I + R = N



(2)SIRモデルにおけるSIRの変化率の定式化


SIRモデルでは、SIRの変化率 (単位時間当たり人数増加数)は、下の3つの微分方程式で定義されます (t は時刻)(前々回記事参照)。


SIRモデルの方程式(Kermack and McKendrick, 1927)

 


(3)SIRモデルの簡易化


今回の簡易シミュレーションに際し、前回同様に、SIRモデルの3つの方程式における変化率を瞬間変化率ではなく、一定期間(1/γ)あたりの変化率に置き換え、それに基づいて逐次計算を行いました。


S/⊿t=―βSI

St+1)=S (t)+⊿S/⊿t


I/⊿t=βSI―γI

It+1)=I (t)+⊿I/⊿t


R/⊿t=γI

Rt+1)=R(t)+⊿R/⊿t



感染抑制措置のない場合の感染の挙動


前回記事のシミュレーションでは、感染抑制措置を一切とらないことを前提にしているため、感染拡大が進行すると、やがて新規感染者数の増加率が低下していき、ある段階(感染者数ピーク)で感染者数が減少に転じて収束に向かい、最後には終息しますが、残念なことに全人口の90%近くが感染を経験してしまいます。



感染抑制、その解除後の感染再拡大(今回のシミュレーション)


今回のシミュレーションは、感染抑制解除後感染再拡大とその後の終息を、グラフ表示による時系列変化、および二次元空間上の未感染者、感染者、回復者の混在状況のダイナミックな変動により可視化するものです。



(1)感染抑制の開始と解除のタイミング


今回のシミュレーションにおける感染抑制開始およびその解除などのタイミング、および進行経過は、以下のとおりです。


1)未感染者ばかりの島(人口N=200人)に感染者1名が出現(時刻t=0)

2)感染が広がってきたので、t=3の時点で、感染抑制措置(感染率を4分の1にする)をとる(これは75%の外出規制に相当)

3)抑制措置により、t=7の時点でいったん終息

4)t=8の時点で感染抑制を解除

5)t=9の時点で再び感染者が侵入

6)以後、感染再拡大

7)再拡大もピークを過ぎて、t=22の時点で自然終息

8)けれども、人口の81%にあたる人数が感染を経験する結果に



(2)今回のシミュレーションにおける感染率等の設定

1)感染抑制をしない場合の設定


  • 1人の感染者が感染してから回復するまでの期間(例:2週間)に2人を感染させうる(基本再生産数R0=2
  • 感染率β=0.01(100人に一人の割合で二次感染者を作る)
  • γ=1(感染してから回復するまでの期間を時間の単位に採用しているので)



2)感染制御した場合の設定


  • 感染制御下では、1人の感染者が感染してから回復するまでの期間(例:2週間)に0.5人を感染させうる(見かけ上の基本再生産数R0=0.5
  → 感染制御前の4分の1に
感染率β=0.0025(100人に0.25人の割合で二次感染者を作る)

  → 感染制御前の4分の1に

•γ=1(感染してから回復するまでの期間を時間の単位に採用しているので)(制御なしと同様)



(3)シミュレーションの結果


1)感染抑制の施行および解除が挿入された、感染者等の数の時系列変化のグラフ


感染拡大初期に感染抑制措置が施行され、終息にともない抑制が解除されたあとで感染が再拡大する場合のシミュレーションにおける、感染者、回復者数の時系列変化をグラフ化したものが図1です。


感染制御、感染再拡大のグラフ

図1 感染抑制の施行および解除が挿入された、未感染者、感染者、回復者数の時系列変化 (図はクリックで拡大します)


動画では、時点が進行するごとの各状態の数の折れ線グラフの動きを実感することができます。


動画はこちらです:

https://www.youtube.com/watch?v=dWzp0uIUn3I

または

https://video.fc2.com/content/202005265MXJAyBx



2)二次元空間上の未感染者、感染者、回復者の混在状況の空間配置の凡例


次に、未感染者、感染者、回復者の混在状況を二次元空間に配置したものの時系列変化で表したシミュレーションをお示しします。


まず、感染抑制しない場合図2)と抑制した場合図3)の感染率の差異をどう表示したかがわかる凡例です。


感染拡大・収束シミュレーション、凡例

 

図2 二次元空間上の未感染者、感染者、回復者の表示形式の凡例(感染抑制しない場合)



制御、凡例

図3 二次元空間上の未感染者、感染者、回復者の表示形式の凡例(感染抑制した場合)



3)二次元空間上の未感染者、感染者、回復者の混在状況の空間配置の時系列変化


シミュレーションの結果の二次元表示は、全23時点の分だけあり、それらは動画の1コマ1コマに見ることができます。


以下には、それら23時点から、スタートとゴールを含む典型的な8時点を抽出し、感染者や回復者、未感染者の空間配置がわかるように拡大表示したもの(図4~11)をご覧にいれます。


抑制再感染t=2

図4 感染拡大初期(t=2)


抑制再感染t=4

図5 感染抑制により収束に転ずる(t=4)


抑制再感染t=7

図6 感染抑制による終息直後(t=7


抑制再感染t=9

図7 感染抑制解除後、再侵入あり(t=9


抑制再感染t=13

図8 感染抑制解除後、感染再拡大中(t=13


抑制再感染t=16

図9 感染抑制解除後、感染者数Max(t=16


抑制再感染t=18

図10 感染抑制解除後、感染者数収束へ(t=18


抑制再感染t=21

図11 感染抑制解除後、感染者数終息直前(t=21



4)シミュレーションの動画をぜひご覧ください


以上は、全23時点から8時点を抽出したものですが、動画では、時点が0から23まで進行するごとの、未感染者、感染者、回復者の空間的配置の例が順次、示されて、動きをとらえることができますので、ぜひご覧ください。


動画はこちらです:

https://www.youtube.com/watch?v=dWzp0uIUn3I

または

https://video.fc2.com/content/202005265MXJAyBx



(4)感染抑制措置の効果

感染拡大進行途上で感染率を十分に下げる(見かけ上のR0を1よりもかなり小さくする;今回は2だったものを0.5まで下げる)感染抑制措置をとることで、感染の収束・終息を図ることができることが、視覚的に把握していただけたでしょうか?

感染抑制措置としては、ご承知のとおり、外出規制(自粛)、3密回避、消毒などがあります。


(5)感染抑制解除後の再拡大

しかし、終息の後に感染抑制措置を全面解除して、従前の社会行動が再開されると、感染者が1人でも侵入した途端に感染再拡大がおきてしまうことは、ご承知のとおりです。

ですが、人口の構成がどのような状況で、どのように感染再拡大とその収束が起こるか、を説明するのはそれほど簡単ではありません。

今回のシミュレーションでは、抑制と解除後の再拡大の内容(とりわけ、人間集団における未感染者と回復者・感染者の構成比の変動)を視覚化しましたので、多少なりとも納得していただけたのではないでしょうか?


シミュレーションの紹介は以上です。



おわりに


前回記事の最後でも述べたように、新型コロナウイルス出現以前の社会生活を取り戻すには、ワクチンが開発されてそれを重篤化しやすい年齢層や持病持ちの人々に広く適用されることが必要ということは、すでに多くの識者が主張していることで、私も同じ考えです。



おことわり


このシミュレーションの制作者(生方秀紀:うぶかた ひでのり)は、ウイルス学や数理科学の専門家ではありません。


生態学、科学教育、環境教育を専門としています。


今回のコロナウイルスのパンデミックに際して自分で学んだ成果を、わかりやすくまとめたものにすぎません。


ですので、より正確な知識については、それぞれの専門家が公表している資料で確認してください。


また、今回のシミュレーションは直観に訴えるために初期条件を極端に簡略化しています。


すなわち、人口200人というのは、実態とかけはなれています。


感染者は感染後回復するまでの間に隣接した未感染者2名を感染させるというのも、実態には合いません。


感染拡大が、感染者の周辺からじわじわと地域に広がるように行われるのではなく、感染者が集団の全体にほぼ均等にちらばるというのも実態には合いません。


しかし、SIRモデルのしくみを直観的に理解する上でいくらかはお役に立てられるのではないかと考えています。



免責事項


今回のシミュレーションの結果は、コロナウイルスの感染の特性そのものとは全く関係ありません。


ですので、コロナウイルス対策に組み込まれたとしても、制作者は責任を負えません。


コロナウイルス対策を進める方は、WHO、厚生労働省などの責任ある機関の情報を参考にするようにしてください。



他の制作者によるシミュレーションについて


なお、現実の新型コロナウイルスそのものに最大限似せた挙動を示すシミュレーションは、すでに他の制作者によって開発され、インターネット上で散見されます。


たとえば、グーグル検索のこちらには「SIRモデル シミュレーション」の検索結果が一覧表示されます。




筆者について


生方 秀紀 (うぶかた ひでのり)

北海道教育大学名誉教授、理学博士

トンボ自然史研究所、代表  http://dranathis.web.fc2.com/

専門は生態学、科学教育、環境教育

北海道大学理学部卒業、同大学院博士課程単位取得退学

日本大学(環境教育)、大正大学(生態学)の非常勤講師歴任


著書:

 『トンボの繁殖システムと社会構造』,東海大学出版会,1987. (共著) 

“Animal Societies: Theories and Facts”,Japan Sci.Soc.Press, Tokyo, 1987. (分担執筆)

“A Threat to Life: The Impact of Climate Change on Japan’s Biodiversity” , IUCN and Tsukiji Shokan Press, 2000. (分担執筆)

『ESD(持続可能な開発のための教育)をつくる―地域でひらく未来への教育』,ミネルヴァ書房, 2010 (共編著) 

"Glocal Environmental Education" ,Rawat Publisher, 2010 (分担執筆)

『環境教育』,教育出版, 2012 (共編著) 

他に10作以上あり。




参考文献


稲葉 寿 (2002) ケルマック-マッケンドリック伝染病モデルの再検討
www.ms.u-tokyo.ac.jp › ~inaba › inaba2002_KMmodel


稲葉 寿 (2002)微分方程式と感染症数理疫学. 数理科学 NO.538. 
www.ms.u-tokyo.ac.jp › ~inaba › inaba_science_200


門 信一郎(2020)この感染は拡大か収束か:再生産数 R の物理的意味と決定~単純なモデル方程式に基づく行動変容の判断のために~。
https://rad-it21.com/%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9/kado-shinichiro_20200327/


W. O. Kermack and A. G. McKendrick (1927), Contributions to the mathematical theory of epidemics-I, Proceedings of the Royal Society 115A: 700-721.
https://doi.org/10.1098/rspa.1927.0118


牧野淳一郎(2020) 3.11以後の科学リテラシー no.89.科学(岩波書店)5月号(校正原稿).
www.iwanami.co.jp › kagaku › Kagaku_202005_Makino_preprint


桜井 進(2020)【パンデミックシミュレーション】感染症流行の数理モデル - SIRモデル。
https://kukan-joho.plus/sir-model/


Wikipedia(2020 アクセス)Compartmental models in epidemiology.
https://en.wikipedia.org/wiki/Compartmental_models_in_epidemiology#The_SIR_model_is_dynamic_in_three_senses


Wikipedia(2020 アクセス)SIRモデル.
https://ja.wikipedia.org/wiki/SIR%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB




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2020-05-14 (Thu)

2019新型コロナウイルスSARS-CoV-2)感染拡大を収束させ、更には終息させるには、その性質を知り尽くした上で(敵を知り)、その収束を早め更には再燃をふせぐために、我々一人ひとりがどう行動すべきなのか、また、最適行動の徹底を困難にしている社会的要因は何なのかを認識する(己を知る)ことが大切でしょう。


本シリーズ「新型コロナウイルス vs. 人」の3回目の今回は、前回記事「(2)戦術指南書、SIRモデル」を受けて、コロナウイルスを含む病原体の感染拡大・収束の簡易シミュレーション(一応、オリジナル)をご紹介します。


今回のシミュレーション(モデルの提示、グラフ表示による時系列変化、二次元平面における感染拡大・収束の可視化アニメーション)のパワーポイントファイルを動画変換したものを、YouTubeとFC2動画の2か所で公開しました。


動画:感染拡大・収束の簡易シミュレーション ~SIRモデルの簡素化を通して~

https://www.youtube.com/watch?v=-Nv84EitBGM

または、

https://video.fc2.com/content/20200514gYXreFYX



シミュレーションの説明


今回開発したシミュレーションは、SIRモデル(Kermack and McKendrick, 1927)をベースにしています。


SIRモデルの詳細については、前回記事を参照してください。


SIRモデルにおいては、感染拡大が進行すると、やがて新規感染者数の増加率が低下していき、ある段階で感染者数が減少に転じて収束に向かい、最後には終息します。


今回の簡易シミュレーションでは、簡素化された 「SIRモデル」のもとでの感染拡大・収束を、グラフ表示による時系列変化、および二次元空間上の未感染者、感染者、回復者の混在状況のダイナミックな変動を可視化します。



モデルの設定


・人口=N の人間集団

・状態ごとの人数内訳:

  S: 未感染者

  I : 感染者

  R: 回復者

  S + I + R = N



SIRモデルにおけるSIRの変化率の定式化


SIRモデルでは、SIRの変化率 (単位時間当たり人数増加数)は、下の3つの微分方程式で定義されます (t は時刻)(前回記事参照)。


SIRモデルの方程式(Kermack and McKendrick, 1927)

 


今回の簡易シミュレーションでの条件設定


S/⊿t=―βSI

St+1)=S (t)+⊿S/⊿t

I/⊿t=βSI―γI

It+1)=I (t)+⊿I/⊿t

R/⊿t=γI

Rt+1)=R(t)+⊿R/⊿t


•人口N=200人

•人間の出入りなし

•未感染者【S=】200人のうち1人が感染【I(0)=1】した時点【t(0)】がスタート

•1人の感染者が感染してから回復するまでの期間(例:2週間)に2人を感染させうる

•ただし、感染者および回復者は以後感染しない

•β=0.01(100人に一人の割合で二次感染者を作る)

•γ=1(感染してから回復するまでの期間を時間の単位に採用しているので)


係数の値および変数の初期値を任意に設定し、瞬間変化(/dt)の代わりに短期間変化( /⊿t )を採用したのは筆者(生方秀紀)です。



シミュレーションの結果


(1)未感染者、感染者、回復者数の時系列変化のグラフ


未感染者、感染者、回復者数の時系列変化をグラフ化したものが図1です。


感染者数等の時系列変化

図1 未感染者、感染者、回復者数の時系列変化 (図はクリックで拡大します)



動画では、時点が進行するごとの各状態の数の変化が動的に表示されます。


動画はこちらです:

https://www.youtube.com/watch?v=-Nv84EitBGM

または、

https://video.fc2.com/content/20200514gYXreFYX



(2)二次元空間上の未感染者、感染者、回復者の混在状況の時系列変化


1)凡例


感染拡大・収束シミュレーション、凡例

 

図2 二次元空間上の未感染者、感染者、回復者の表示形式の凡例 (図はクリックで拡大します)



2)混在状況の時系列変化の概要

 

シミュレーションの全12時点から、状況が典型的な4時点を抽出した、全体の概要が図3です。


挙動の概要


図3 混在状況の時系列変化の概要 (図はクリックで拡大します)



3)混在状況の詳細


全12時点からスタートとゴールを含む典型的な7時点を抽出し、感染者や回復者、未感染者の空間配置がわかるように拡大表示したのが図4~10です。


t0

図4 感染拡大開始 (t=0)


t2

図5 感染拡大初期 (t=2)


t6

図6 新規感染者数最大(t=6)


t7

図7 感染者数最大 (t=7)


t9

図8 感染者数減少最大(収束を実感)(t=9)


t11

図9 感染終息直前 (t=11)


t12

図10 感染終息後 (t=12)


以上は、全12時点から7時点を抽出したものですが、動画では、時点が0から12まで進行するごとの、未感染者、感染者、回復者の空間的配置の例が順次、示されて動きをとらえることができますので、ぜひごらんください。


動画はこちらです:

https://www.youtube.com/watch?v=-Nv84EitBGM

または、

https://video.fc2.com/content/20200514gYXreFYX


シミュレーションの紹介は以上です。



おわりに


今回ご紹介した簡易シミュレーションは、感染防止対策をとらないまま、自然のなりゆきで感染のピークとそのあとの収束、そして最後の終息へと進行した場合を、わかりやすく可視化したものです。


現在(2020年5月中旬)の日本では、非常事態宣言のもとでの感染防止対策の部分的緩和が取りざたされていますが、これは外出自粛による6割から9割の人の動きの減少などの感染防止対策が功を奏しつつあるからです。


しかし、今回のシミュレーションの収束・終息とどこが異なるかといえば、シミュレーションでは回復者(治癒者+死者)が人口の88%に達していて集団免疫が十分成立しているのに対し、現在の日本ではそれがまったく不十分(1万1千人、人口の0.01%:5月14日現在)で、未感染者の割合は第一の感染拡大当時と実質的に変わりありません。


したがって、感染防止対策の手綱はゆるめたとしても、実質的な対策効果がこれまでとほぼ等しいレベルを維持できるようにしていくべきでしょう。


新型コロナウイルス出現以前の社会生活を取り戻すには、ワクチンが開発されてそれを重篤化しやすい年齢層や持病持ちの人々に広く適用されることが必要ということは、すでに多くの識者が主張していることで、私も同じ考えです。




参考文献


稲葉 寿 (2002) ケルマック-マッケンドリック伝染病モデルの再検討
www.ms.u-tokyo.ac.jp › ~inaba › inaba2002_KMmodel


稲葉 寿 (2002)微分方程式と感染症数理疫学. 数理科学 NO.538.
www.ms.u-tokyo.ac.jp › ~inaba › inaba_science_200


門 信一郎(2020)この感染は拡大か収束か:再生産数 R の物理的意味と決定~単純なモデル方程式に基づく行動変容の判断のために~。
https://rad-it21.com/%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9/kado-shinichiro_20200327/


W. O. Kermack and A. G. McKendrick (1927), Contributions to the mathematical theory of epidemics-I, Proceedings of the Royal Society 115A: 700-721.
https://doi.org/10.1098/rspa.1927.0118


牧野淳一郎(2020) 3.11以後の科学リテラシー no.89.科学(岩波書店)5月号(校正原稿).
www.iwanami.co.jp › kagaku › Kagaku_202005_Makino_preprint


桜井 進(2020)【パンデミックシミュレーション】感染症流行の数理モデル - SIRモデル。
https://kukan-joho.plus/sir-model/


Wikipedia(2020 アクセス)Compartmental models in epidemiology.
https://en.wikipedia.org/wiki/Compartmental_models_in_epidemiology#The_SIR_model_is_dynamic_in_three_senses


Wikipedia(2020 アクセス)SIRモデル.
https://ja.wikipedia.org/wiki/SIR%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB




筆者について

生方 秀紀 (うぶかた ひでのり)

北海道教育大学名誉教授、理学博士

トンボ自然史研究所、代表  http://dranathis.web.fc2.com/

専門は生態学、環境教育

北海道大学理学部卒業、同大学院博士課程単位取得退学

日本大学(環境教育)、大正大学(生態学)の非常勤講師歴任


著書:

 『トンボの繁殖システムと社会構造』,東海大学出版会,1987. (共著)

  “Animal Societies: Theories and Facts”,Japan Sci.Soc.Press, Tokyo, 1987. (分担執筆)

“A Threat to Life: The Impact of Climate Change on Japan’s Biodiversity” , IUCN and Tsukiji Shokan Press, 2000. (分担執筆)

『ESD(持続可能な開発のための教育)をつくる―地域でひらく未来への教育』,ミネルヴァ書房, 2010 (共編著)

  "Glocal Environmental Education" ,Rawat Publisher, 2010 (分担執筆)

『環境教育』,教育出版, 2012 (共編著)

他、10作以上あり。




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ハッシュタグ:
#感染拡大・収束の簡易シミュレーション #なぜ感染が収束する? #なぜ感染が終息する? #収束と終息はどう違う? #SIRモデル #感染の理論モデル #コロナ感染の理論モデル #新型コロナ感染の理論モデル #2019新型コロナウイルス #新型コロナウイルス #コロナウイルス #新型コロナ #SARS-CoV-2 #Stay home #Social distance #ステイホーム #家にいよう #3密 #コロナ対策 #新型コロナがわかる #COVID19 #コロナウイルスがわかる #わかりやすいコロナウイルス話

| 人間社会 | COM(0) | | TB(-) |
2020-05-08 (Fri)

(1)はじめに


2019新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染拡大を収束させ、更には終息させるには、その性質を知り尽くした上で(敵を知り)、その収束を早め更には再燃をふせぐために、我々一人ひとりがどう行動すべきなのか、また、最適行動の徹底を困難にしている社会的要因は何なのかを認識する(己を知る)ことが大切でしょう。


本シリーズ「新型コロナウイルス vs. 人間」の2回目の今回は、前回記事「(1)2019新型コロナウイルスとは?」に引き続いて、コロナウイルスを含む病原体への人口集団における感染者数の増加と、それに引き続く減速、更には減少に転じての最終的な終息に至る量的変化を説明するシンプルな理論モデルである、SIRモデル(適用例、図1)を紹介します。


この理論モデルは、人類が感染症と戦い最終的勝利を収めるための戦略を立てる上での、指南書(少なくともその基礎)となりうるものです。


Sirsys-p9 

図1.SIRモデルに基づく、未感染者数 S)、感染者数 I)、回復者 R)の時間的変動の一例。縦軸は人数、横軸は時間。(図の出典:Wikimedia Commons;https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/32/Sirsys-p9.png;推定作図者:Bye~commonswiki


SIRモデルは、Kermack and McKendrick (1927)によって、当時「なぜ疫病が蔓延しつつもいずれ終息するのはなぜか?」という疑問に答えるために提案された理論モデルの中で最もシンプルなものです。


現在(2020年5月)、日本では非常事態宣言の下で専門家の助言の下で国や地方自治体の長から要請されている数々の行動指針(不要不急の外出抑制社会的距離の維持、3〔密閉、密集、密着〕の抑制手洗いの徹底、感染者の隔離など)はいずれも、上記モデルにおける感染者数 Iの増加速度を可能な限り(最低限の経済活動が維持される範囲で)下げることで、感染者数のピークを低く抑え医療崩壊の抑止死者数の軽減を引き寄せるためのものです。


つまり、93年前に提案されたこの理論モデルが、現在直面している問題の解決に向けた手段を探るための大きな基盤となっているといえます。


以下の文章は、文末にリストした参考文献を通覧した上で、一般の方々(中学・高校生を含む)にもわかるような書き方で、SIRモデルの仕組みや挙動の特徴についてまとめたものです。




(2)SIRモデルが対象とする人間集団とその状態区分


SIRモデルでは、孤立した(島のように、境界外との人の出入りのない*)人間集団(人口=N)の内訳を、未感染者(正確には感受性保持者;Susceptible)S感染者(Infected)I、および回復者(内訳は、免疫保持者Recovered、隔離者 Removedおよび死者Died)Rの3状態に分けます(SIRは状態とともに、それぞれの人数を意味する)。


SIRモデルでは、これら3つの状態の間の人の移行(S I  → R)の速度(時間的変化率)が定式化され、将来の任意の時点でのそれぞれの状態におかれた人数の予測が可能です(もちろん、感染率などの条件が変わらないことが前提)。


(*注:現在〔2020年5月現在〕、日本を含む諸国が新型コロナウイルス関連のさまざまな行政措置の一つとして実施している、感染が広がっている国や地域からの入国禁止は、SIRモデルの前提条件である外部との人の出入りが遮断されている状態を具現化したものといえます。)


図1は人口500人の集団における、SIRモデルに基づく未感染者数 S)、感染者 I)、回復者 R)の時間軸に沿った挙動の一例を示したものです(図の出典:Bye~commonswiki , Wikimedia Commons)。


S + I + R は常に N図1の場合500)と一定なので、感染者 I 人口 N から未感染者数 S回復者数 Rを引いた数になります。




(3)SIRモデルの挙動:数式なしの説明


1)未感染者数の減少の特徴


このモデルにおいて、最初に、未感染者ばかりの集団の中に極少数の感染者が出現したとすると、そこを起点に新規感染者数が指数的に(倍々ゲームのような右肩上がりに)増加し始めます。


この新規感染者数(時間あたり新規増加分)は、そのまま未感染者数 S の時間あたり減少分に相当します(「時間あたり」は通例「1日あたり」が用いられます)。


図1からもわかるように、未感染者数 S は感染拡大開始をきっかけに右肩下がりに減少し(減少速度が加速され)、新規感染者数が最大の時点(=未感染者 S の曲線の接線の傾きが最大の時点)を過ぎると S の減少速度にブレーキがかかり始めることで、以後は減衰曲線を描くように低下します(全体として逆S字形の曲線を描く)。


感染終息後は未感染者数 S は一定の値を維持し続けます。


なぜ、集団の全員が感染するまで( S がゼロになるまで)感染拡大が進行しないのかについては、この記事後半の、数式を用いながらの説明で明らかになります。



2)新規感染者数と感染者数


新規感染者数感染者数 I は間違えやすいですが、厳密に区別しなければなりません。


感染者は感染後の日数の経過とともに症状が進行する中で抗体が形成されて回復するか、重篤化したあと運悪く命を落とすことで、人口集団の中では回復者の状態に移行し、感染者としてカウントされなくなります。


そのため、感染者数 I は、新規感染による追加がない限り、時間とともに減少することになります。


しかし実際は、単位時間ごとに新規感染者追加されるので、それが単位時間ごとの回復者数を上回っている間は、感染者数 I 増加の一途をたどります(感染拡大)。



3)回復者数の挙動


回復者数は時間経過とともに感染者からの不可逆的な移行による加入よってのみ増加します。


一度回復した者は再び感受性を保持することはないので、回復者数は上限に達するまでは、S字形の曲線に沿って時間の経過に沿って増え続けます。



4)感染者数の挙動


さて、肝心要の感染者数 I の時間的変化ですが、感染者数 I は、それまでの感染者数に単位時間ごとの新たな新規感染者が追加される一方で、単位時間内に回復または死亡した人数分が削減されるため、やや複雑な動きをします。


これは、浴槽に水が注ぎ込まれる中、底の穴から一部が流れ出している状況、しかも注入量も漏出量も時々刻々変化している場合をイメージするとわかりやすいと思います(より正確な対比が、門〔2020〕でなされています)。


さて、未感染者ばかりの集団の中に感染者が出現して以降、感染者数 I )はどんどん増加して集団中に広がっていきます。


感染者数の増加は新たに感染させる側の人数の増加を意味しますから、感染拡大の前半時期には感染のアクセルペダルが踏み込まれた状態にたとえることができます。


しかし、この感染拡大が更に続くと、やがて回復者も急増していき、人口に占める未感染者の割合は低下していくことになります。


これにより、一人の感染者が未感染者に遭遇する確率が低下していき、その結果、感染者一人あたりの新規感染発生数が低下します。


つまり、感染拡大に伴う回復者の増加は、新規感染者数の増加速度を低下させるブレーキペダルが踏み込まれた状態を作り出します。


これが更に進行することで、減少してきた新規感染者を、時間あたり回復者数が上回る(アクセルにブレーキが打ち勝つ)ことで、感染者数 I はピークを通り過ぎて減少に転じ、以後は逆S字を描くように完全終息に向かって減少していくことになります。


以上、SIRモデルの挙動の一般的な特性を、グラフやたとえ話を持ち出しながら描写してみました。


ただし、どうしてそうなるのとか、具体的な数値はどうなるのか、という疑問に答えるには、モデルそのもの(連立微分方程式からなる)を避けて通ることはできません。


というわけで、数式に挑んでみましょう(以下へ)。




(4)SIRモデルの挙動:数式に即した説明


1)SIRモデルの数式表現


SIRモデルはKermack and McKendrick (1927)によって、当時、なぜ疫病が蔓延しつつもいずれ終息するのはなぜかという疑問に答えるために提案された理論モデルです。


SIRモデルで、SIRとは、人口=N の人間集団を任意の時点において下記のそれぞれの状態にある人の数を表す3つの変数を並べたものです。


S:未感染者(感受性保持者)(Susceptible)
I: 感染者(Infected)
R:回復者(Recovered)あるいは隔離者(死者を含む)(Removed)


この集団を構成する人はこの3つの状態のいずれかに置かれていますので、それら3状態の人数の合計は、いつでも、


 S + I + R = N


の等式で表されるように、総人口 N と等しくなります。


SIRモデルは、以下の3つの微分方程式のセットとして定義されます。


 SIRモデルの方程式(Kermack and McKendrick, 1927)


ここで、t は時刻です。


(※注:上記の数式表記については、とくに桜井〔2020〕を参考にしました)



2)新規感染者の増加速度


方程式(1)の左辺、dS/dt は未感染者 S時間 t についての微分ということで、単位時間あたりの未感染者の増加数を意味します。


方程式(1)の右辺にマイナスがついていますので、未感染者数 S は時間とともに減少し続けることを意味し、その減少速度は S I の積に定数 β(ベータ;感染率)を掛けた値となっています。


いうまでもなく、単位時間あたりの未感染者数 S 減少数は、そのまま単位時間あたりの新規感染者増加と一致します。


すなわち、単位時間あたりの新規感染者数は、 S I の積に定数 β(感染率)を掛けた値であらわされます。


これは、すでに感染している感染者数 I が2倍、3倍、10倍になれば、それら既感染者から直接感染した新たな感染者数も2倍、3倍、10倍になることを意味します(S と βを固定した場合)。


これは、感染者が2人いれば、彼ら(彼女ら)に単位時間に遭遇する未感染者の数も2倍になることから、当然です。


ただし、感染者同士が時間的、空間的に接近していると感染範囲に重なりが生じて、新規感染者再生産にロスが生じますので、モデルでは感染者はなるべく分散して行動することが暗黙の前提となっています。


このことから、もし未感染者が膨大な数で存在するなら、感染者は等比級数的に増加して感染爆発を起こすことになります(ただし、回復があるので等比級数ほどは急増しない)。


しかし実際は、未感染者 S も激減していきますので、それに比例して新規感染者数の増加にブレーキがかかることになります。


すなわち、未感染者数 S が0.5倍、0.3倍、0.1倍になれば、新たな感染者数も0.5倍、0.3倍、0.1倍となります(I と βを固定した場合)。


感染率 β は、1人の既感染者が単位時間中に、集団の人口(いずれも未感染者とする) N 人中の何人を新たに感染者に変えるかの比率を意味します。


(*注:外出自粛や3密防止、手洗いなどを社会的に強く要請することは、この本来の感染率 β を人為的に低下させるための手法であり、その結果、新規感染者の増加速度を低めに抑える効果をもちます。)



3)回復者の増加率


感染者は、感染後の時間の経過とともに体内で抗体ができることで回復するか、回復できずに死亡するかのいずれかにより、回復者 R のカテゴリーに移行します。


これにより、集団の中で感染者 I の減少および回復者 R の増加が説明されます。


方程式(3)の左辺、dR/dt は単位時間あたりの回復者 R の増加数で、右辺のようにその時点の感染者 I に一定の比率 γ (ガンマ;回復率、または隔離率)を掛けた数であらわされます。


これをわかりやすく例えれば、「1日あたり(dt )感染者の人数(I)の10%(γ )が回復する(dR)」といったようなものです。



4)感染者の増加率


すでに感染したがまだ回復していない人の数が感染者数 I です。


ある時点の感染者数には、時々刻々新規感染者が追加される一方で、それより先に感染した人々の数の一定割合が時々刻々回復者となって「卒業」していくため、その出入りを差し引いた数が単位時間経過後の新しい感染者数になります。


したがって、感染者数の増加率は、方程式(2)のように、新規感染者の増加率 βSI から回復者の増加率 γI を引いた値となります。



5)感染拡大初期の感染者増加曲線


さて、方程式(2)で、人間の集団に初めて感染者が出現直後からしばらくの間、つまり感染拡大初期における感染者数 I の増加曲線はほぼ指数関数となります。


感染者出現直後の未感染者数 S0 は人口 N とほぼ等しいので、


c1


となります。これを方程式(2)に当てはめます。


c2


両辺に dt / I を掛けると、


c3


となります。


この微分方程式を解くと、


c4


が得られます。


自然対数による表現を、指数による表現に変換すると、


c5


となり、感染者数 I は感染拡大初期には指数関数に近似することが明示されました【I0 は、I の初期値】。


ここで、指数がゼロよりも大きければ、時間とともに I は指数関数的に増加しますが、指数がマイナスであれば I は指数関数的に減少し、感染者は消えていきます。


すなわち、


c6(式A)


のときは、 感染者数 I は増加し、


c7


のときは、 感染者数 I は減少します。


(※注:感染拡大初期の感染者増加曲線については、とくに門〔2020〕を参考にしました)



6)基本再生産数


式Aは以下のように変形でき、


c8


c9


のときは、 I は増加します。


左辺は R0 と定義されます。


c10


この R0 よりも大きいか小さいかで、集団の中で感染が広がるか、あるいは広がらないまま病原体が消えていくかが決まります。


R0 は、感染拡大当初に、既感染者が単位時間中に、集団の人口(いずれも未感染者とする) N 人の中で新たに感染させた人数を、同じ単位時間中の新規回復者の数で割った値に相当します。


言い換えれば、R0 は、感染拡大当初において、1人の感染者が回復するまでの間に再生産する二次感染者の平均数を指します。


R0 は、専門家の間で基本再生産数(basic reproduction number)と呼ばれる重要な指標になっています。


基本再生産数 R0 は、いろいろな病原体の違いを反映した、あるいはそれぞれの国の社会経済の特性を反映した、感染力の相違を量的に比較するために使用可能です。


(※注:基本実効再生産数定義については、とくに桜井〔2020〕および門〔2020〕を参考にしました)



7)実効再生産数 R


染拡大が進行した任意の時点で、既感染者が単位時間中に、集団の中の未感染者 S 人の中で新たに感染させた人数を、同じ単位時間中の新規回復者の数で割った値を実効再生産数 Rと定義します。


c11


言い換えれば、Rは、感染拡大が進行した任意の時点で、回復するまでの間に、1人の感染者が再生産する二次感染者の平均数を指します。


ここで上式に、


c12


を代入すると、


c13


が得られます。


すなわち、感染率 β が不変(人間が感染プロセスに干渉しない)である場合の実効再生産数 Rは、基本再生産数 R0 未感染者数 の人口に対する割合を掛けたものに相当します。


ですから、感染が進むにつれて未感染者数 は減少しますから、その減少数に比例して実効再生産数 R低下することになります。


この実効再生産数 R低下が、集団の全員が感染するまで( S がゼロになるまで)感染拡大が進行するということが起こらない理由になります。


ところで、R0 、Rは、回復者数の R とは全く別のものを指すので注意が必要です。



8)人為的な実効再生産数 Rの押し下げ


未感染者数 の減少以外にも、感染率 β を人間が外出自粛や3密抑止などの感染対策をとることで β’ へと減少させることで、Rを低下させることができます。


たとえば、基本再生産数 R0 が2.5だったとします。このままでは、、放置した場合、集団内で倍々ゲーム以上に感染が増大し、感染爆発を起こすのは時間の問題となります


外出自粛や3密防止、手洗い励行などの感染対策をとって β’ β の20%(0.2倍)まで下げれば、実効再生産数 R は0.5となり、新規感染者はどんどん逓減し、感染そのものが収束していきます。


「8割おじさん」(北大・西浦博教授)による外出の8割削減の提案の根拠(Nippon.com, 2020) を、このような形で理解することができます。


(※注:実効再生産数定義についても、とくに門〔2020〕を参考にしました)



(5)おわりに


今年4月の総理大臣による、専門家の提言を受けての「可能な限り8割、少なくとも7割の外出削減」の要請は、国民の理解の深さと協調性が発揮されて不完全ながら実現し、その結果、新規感染者数はピークを過ぎてゆるやかな減少に転じています(2020年5月8日現在)。


このまま、外出や人的集合の規制を緩めると再び新規感染者数の増加は間違いないと思います。


ワクチンあるいは特効薬が実用化されて広く使われるようになるまでは、実効再生産数 R

の動向を注視し、国民の行動制限の手綱を握りしめる必要があるでしょう。


その一方で、行政による半強制的な自粛は限りなく命令に近いものであり、とりわけそれに従うことで生計や事業が成り立たなくなった場合の補償を、国民の間の貧富の差を縮小する方向で歳入を増加させる一方で、防衛装備費を含む会計支出の見直しをすることで、最大限要望に応えていくべきと思います(これはSIRモデルとは直接関係のない個人的な意見です)。


今回この記事で説明したSIRモデルの意味とその挙動の特性を理解する人が一層増加することで、感染拡大の終息には何が必要か、自分はどう行動すべきかの判断がより妥当に行われていくと期待しています。



(6)次回記事予告


次回記事では、SIRモデルで新規感染者、ひいては感染者が増加から減少に転じていくメカニズムを直観的に理解できる簡単なモデルを紹介する予定です。



筆者紹介:

生方 秀紀(うぶかた ひでのり)。1948年生まれ。北海道大学理学部生物学科(動物学専攻)卒業、同大学院理学研究科博士課程単位取得退学、理学博士。生態学専攻(論文に、トンボの繁殖戦略についての数理モデルなど)。北海道教育大学で科学教育・環境教育を担当し、現在は名誉教授。日本大学(環境教育)、大正大学(生態学)の非常勤講師歴任。日本生態学会、日本環境教育学会会員。




参考文献


1)SIRモデルにかかわって直接参照した文献:


稲葉 寿 (2002) ケルマック-マッケンドリック伝染病モデルの再検討
www.ms.u-tokyo.ac.jp › ~inaba › inaba2002_KMmodel


稲葉 寿 (2002)微分方程式と感染症数理疫学. 数理科学 NO.538. 

www.ms.u-tokyo.ac.jp › ~inaba › inaba_science_200


門 信一郎(2020)この感染は拡大か収束か:再生産数 R の物理的意味と決定~単純なモデル方程式に基づく行動変容の判断のために~。
https://rad-it21.com/%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9/kado-shinichiro_20200327/


W. O. Kermack and A. G. McKendrick (1927), Contributions to the mathematical theory of epidemics-I, Proceedings of the Royal Society 115A: 700-721.

https://doi.org/10.1098/rspa.1927.0118


牧野淳一郎(2020) 3.11以後の科学リテラシー no.89.科学(岩波書店)5月号(校正原稿).

www.iwanami.co.jp › kagaku › Kagaku_202005_Makino_preprint


桜井 進(2020)【パンデミックシミュレーション】感染症流行の数理モデル - SIRモデル。
https://kukan-joho.plus/sir-model/


Wikipedia(2020 アクセス)Compartmental models in epidemiology.
https://en.wikipedia.org/wiki/Compartmental_models_in_epidemiology#The_SIR_model_is_dynamic_in_three_senses


Wikipedia(2020 アクセス)SIRモデル.

https://ja.wikipedia.org/wiki/SIR%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB



2)その他のSIRモデル関連文献:


北海道大学大学院医学研究院医学統計学教室(2020アクセス)感染症数理モデル;Sequential SEIR model
https://biostat-hokudai.jp/seirmodel/


稲葉 寿(2000)伝染病流行の数理モデル。東大海洋研シンポジウム 2000年12月7-8日「個体群管理の最前線」。
www.ms.u-tokyo.ac.jp › ~inaba › inaba2000_kaiyouken


牧野淳一郎(2020)新型コロナウイルスに関するメモ。
http://jun-makino.sakura.ne.jp/articles/corona/face.html


Nippon.com (2020) 【ノーカット中継動画】北大・西浦教授「8割接触削減」評価の根拠について説明(2020年4月24日)
https://www.nippon.com/ja/news/thepage20200424005/




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| 人間社会 | COM(0) | | TB(-) |
2020-04-28 (Tue)

昨今、日本でも感染拡大が猛威をふるっている2019新型コロナウイルスSARS-CoV-2)についてはいろいろな情報が飛び交っていますが、一度立ち止まって問題を整理し、自分の頭で考えてみることが大切と考えます。


このウイルスの感染拡大を収束させ、更には終息させるには、その性質を知り尽くした上で(敵を知り)、その収束を早め更には再燃をふせぐために、我々一人ひとりがどう行動すべきなのか、また、最適行動の徹底を困難にしている社会的要因は何なのかを認識することが大切でしょう(己を知る)。


筆者について:私は医学や社会科学については門外漢ですが、動物学出身で、生態学、社会生物学、科学教育、環境教育の分野を歩んできた経験を有していますので、自分なりに理解し、考察したことを分かりやすく記事にしてみようと思います。)



新型コロナウイルスとは?


問題の2019新型コロナウイルスSARS-CoV-2*)(動画1)は、SARSコロナウイルス (SARS-CoV) やMERSコロナウイルス (MERS-CoV)と同様に、プラス鎖の一本鎖RNAウイルス(コロナウイルス)です(Guarner 2020)。


(*注:Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 の略称;訳語:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)


SARS-CoV-2 virion animation

動画1 新型コロナウイルスの表面構造のCG動画 (図の出典:AustroHungarian1867 : Animated SARS-CoV-2 morphologically illustrated. Red spike proteins crown-like shape.; licensed under the Creative Commons Attribution-Share Alike 4.0 International license; https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/21/SARS-CoV-2_virion_animation.gif


動画1の外観図そのものは、アメリカ疾病予防管理センターが作成したもので、 赤い突起はスパイクタンパク質、灰色の被膜がエンベロープ(主成分は脂質で、アルコールや石鹸により破壊できる)、 黄色の付着物はエンベロープタンパク質、そしてオレンジの付着物が膜タンパク質です(Wikipedia 2020)。



新型コロナウイルスの感染の仕方は?


2019新型コロナウイルスSARS-CoV-2)が、すでに感染した人の咳やくしゃみ、発声などにより発せられる飛沫が直接に、あるいは飛沫の付着した器物に触れた手指などを経由して未感染者の口、鼻、眼などから侵入することで、新たな感染者を作り出します(Centers for Disease Control and Prevention, 2020a)


それに加えて、SARS-CoV-2には、SARS-CoV-1と同様に、エアロゾル感染*もあることが報告されていて、それによれば、このウイルスのエアロゾル中での半減期は約1.1〜1.2時間と、意外と長く感染力を維持しています(一方、半減期の中央値はステンレス鋼で約5.6時間、プラスチックで6.8時間と非常に長いです)(Doremalen et al. 2020)


(*注:エアロゾルとは、浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体のこと。粉じん、ばいじん、霧、もや、煙霧などが該当する;日本エアロゾル学会HP


He et al.(2020)によれば、一人の感染者が発症するまでの潜伏期間*は平均5.2日ですが、他の未感染者を感染させる能力(感染性)は発症の2.3日前から出現し、発症の0.7日前に最大となり、その後7日以内に急速に感染性が減退すると推定されました。


驚くべきことに、この発症前の感染性全開により、発症前日までにウイルス伝播の44%が引き起こされる計算になります(He et al.2020)。


つまり感染している本人が感染していることを気付かないうちに、その感染力のほぼ半分を使い終えているというわけです。


これが2019新型コロナウイルスの一番怖いところといえるでしょう。


(*注:潜伏期間は、感染後2-14日といわれています: Centers for Disease Control and Prevention, 2020b)

 


新型コロナウイルスの感染症状と重篤化率


新型コロナウイルスに感染した人は、無症状で終わるケースもあれば、重篤化して死に至るケースもあります(WHO, 2020)。


兆候と症状は多い順に、以下の通りです(WHO, 2020):

発熱(87.9%)、空咳(67.7%)、疲労(38.1%)、喀痰(33.4%)、息切れ (18.6%)、咽頭痛(13.9%)、頭痛(13.6%)、筋肉痛または関節痛(14.8%)、悪寒 (11.4%)、悪心または嘔吐(5.0%)、鼻詰まり(4.8%)、下痢(3.7%)、および喀血 (0.9%)、結膜充血(0.8%)。


WHO (2020)によれば、COVID-19 ウイルス感染者の約 80%は軽症から中等症(肺炎を含む)です。


COVID-19 ウイルス感染者の13.8%は重症(呼吸困難、頻呼吸、血中酸素飽和度低下、肺野の 50%を超える浸潤など)となり、6.1%が重篤(呼吸不全、敗血症性ショック、多臓器不全など)となります(WHO, 2020)。

 
重症化および死亡のリスクが最も高いのは、60 歳以上で、高血圧、糖尿病、心血管疾患、慢性呼吸器疾患および癌のような基礎疾患をもつ人達です(WHO, 2020)。


若い人たち(19 歳未満の年齢層)の報告は全症例の約 2.4%で、そのごく一部が重症 (2.5%)または重篤(0.2%)でした(WHO, 2020)。



致死率


致死率は、中国のケースでは、アウトブレイクの初期段階でより高く(2020年1 月 1 日から 10 日の発症症例は 17.3%)、時間の経過とともに減少して、2 月 1 日以降に発症した患者では、0.7%でした(アウトブレイクの経過中に治療の標準化がなされたことに起因)(WHO, 2020)。


致死率は年齢とともに増加し、80 歳以上で最も高い値を示す(致死率 21.9%)。致死率は、女性と比較して男性で高くなっています(4.7%対 2.8%)(WHO, 2020)。


致死率は、基礎疾患のある患者ではより高く、心血管疾患の人で 13.2%、糖尿病で 9.2%、高血圧で 8.4%、慢性呼吸器疾患で 8.0%、癌で 7.6%でした(WHO, 2020)。


それに対して、基礎疾患がないと報告した患者の致死率は 1.4%でした(WHO, 2020)。


以上の症例、死亡率などのデータ(WHO, 2020)は中国での大規模調査に基づくものですので、日本を含む世界各国のその後の多くの調査報告によって、より詳細かつ包括的な全体像が判明していくはずです。


たとえば、Wikipediaの「2019新型コロナウイルス」では、新しい情報によって新型コロナウイルスについての知見が適宜増補改訂されているので、参考にされるとよいでしょう。



おわりに


いずれにせよ、高齢者・基礎疾患者の重篤化率・死亡率が高い一方で、若年層を中心に感染していても軽症に終わる人も多く、これら軽症者、さらには未発症の感染者が市中に繰り出すことによって、新たな感染者を作り出す点で、新型コロナウイルスは非常にやっかいな病原体であるといえます。


以上は、現時点での私なりのこのウイルスへについての認識を整理したものですが、読者の皆さんにおかれましては、連日の報道や情報サイトを通して、すでにご存じのことばかりと思います。



次回記事予定


次回記事では、コロナウイルスを含む感染症の人口集団における感染拡大と、それに引き続く収束がなぜ起きるのかについての理論モデルについて取り上げる予定です。



引用文献


Centers for Disease Control and Prevention (CDC) (2020a) How COVID-19 Spreads.
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/prevent-getting-sick/how-covid-spreads.html?CDC_AA_refVal=https%3A%2F%2Fwww.cdc.gov%2Fcoronavirus%2F2019-ncov%2Fprepare%2Ftransmission.html


Centers for Disease Control and Prevention (CDC) (2020b) Symptoms of Novel Coronavirus (2019-nCoV).

https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/symptoms-testing/symptoms.html?CDC_AA_refVal=https%3A%2F%2Fwww.cdc.gov%2Fcoronavirus%2F2019-ncov%2Fabout%2Fsymptoms.html


Doremalen, Neeltje van; Bushmaker, Trenton; Morris, Dylan H.; Holbrook, Myndi G.; Gamble, Amandine; Williamson, Brandi N.; Tamin, Azaibi; Harcourt, Jennifer L. et al. (2020-03-17) (英語), Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1, doi:10.1056/nejmc2004973, https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMc2004973 2020


Xi He, Eric HY Lau, Peng Wu, Xilong Deng, Jian Wang, Xinxin Hao, Yiu Chung Lau, Jessica Y Wong, Yujuan Guan, Xinghua Tan, Xiaoneng Mo, Yanqing Chen, Baolin Liao, Weilie Chen, Fengyu Hu, Qing Zhang, Mingqiu Zhong, Yanrong Wu, Lingzhai Zhao, Fuchun Zhang, Benjamin J Cowling, Fang Li, Gabriel M Leung (2020) Temporal dynamics in viral shedding and transmissibility of COVID-19.

Nature Medicine 4月15日オンライン版

doi: https://doi.org/10.1101/2020.03.15.20036707


Jeannette Guarner   (2020)  Three Emerging Coronaviruses in Two Decades: The Story of SARS, MERS, and Now COVID-19. American Journal of Clinical Pathology, Volume 153, Issue 4, April 2020, Pages 420–421.

https://doi.org/10.1093/ajcp/aqaa029


WHO (2020) コロナウイルス病 2019(COVID-19)に関するWHO-中国合同ミッション報告書 (PDF)” (日本語). WHO Kobe. 2020 年 2 月 16-24 日

https://extranet.who.int/kobe_centre/ja/news/COVID19_specialpage_technical


Wikipedia(2020)2019新型コロナウイルス。

https://ja.wikipedia.org/wiki/2019%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9



 

筆者紹介:

生方秀紀(うぶかた ひでのり)。1948年生まれ。北海道大学理学部生物学科(動物学専攻)卒業、同大学院理学研究科博士課程単位取得退学、理学博士。北海道教育大学名誉教授。日本大学、大正大学の非常勤講師歴任。日本生態学会、日本環境教育学会会員。




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