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2018-09-19 (Wed)
今年6月中旬に関東地方平野部の沼を訪れ、私とは初対面となるアオヤンマ Aeschnophlebia longistigma Selys, 1883 (写真1前々回記事から再掲)ほかのトンボを観察することができたので、アオヤンマを手始めに簡単に報告します。

アオヤンマ♂ 
写真1 アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma ♂ (写真8をトリミング)(前々回記事から再掲)(写真はクリックで拡大します)


目 次
 ◆アオヤンマへのあこがれ
 ◆アオヤンマとの出会い
 ◆水気のない草むらにアオヤンマがやってきた
 ◆アオヤンマ♂の草むら潜行飛行の意味
 ◆アオヤンマが口に何かをくわえている
 ◆本格的な探雌飛行を激写
 ◆謝辞
 ◆引用文献
 ◆耳より情報!(『トンボ博物学』特価頒布)


アオヤンマへのあこがれ

ヤンマ科 AESHNIDAE の成虫の外見は、皆、いかにもヤンマという雰囲気を共有していますが、よく見ると、属ごとに微妙な形態の相違が見られます。

前々回記事「日本産ヤンマ科全9属の代表、オンパレード(系統順)」および前回記事「日本産ヤンマ科全9属の代表、顔見世(系統順)」に、日本産ヤンマ各属の外見上の相違を写真つきでまとめ、さらに系統樹の中にも位置づけていますので、未見の方はぜひご覧ください。

それらヤンマ類の中で、アオヤンマは、♂♀ともウエスト(腹部第3節)のくびれがなく、寸胴な印象を与えるトンボです。

コシボソヤンマ Boyeria maclachlani (Selys, 1883)をはじめ、大部分のヤンマの♂には、腹部第3節に明瞭なくびれが有りますので、その点、アオヤンマや同属の種は、ヤンマ科の中では例外的な形をしていることになります。

アオヤンマは色も薄緑色を基調としていて、他のヤンマ類に慣れた目には違和感を感じさせます。

このようなことから、ヤンマといえば、オオルリボシヤンマ Aeshna crenata Hagen, 1856・ルリボシヤンマ Aeshna juncea (Linnaeus, 1758)・イイジマルリボシヤンマ Aeshna subarctica Walker, 1908にほぼ限られた北海道東部に永く住んでいた私にとって、アオヤンマは気になる存在、一度は観てみたい存在でした。

数年前に定年退職し、関東に住むようになると、北海道では見られなかった多様なトンボの種が日帰り圏でも観察可能となり、初対面となるトンボの種に出会うのは私の愉しみの一つとなっています。


アオヤンマとの出会い

そんななか、今夏、虫友の夏目英隆さんから、関東地方某県の平野部の沼でのアオヤンマの生息状況に触れたメッセージを頂き、好天が予想された6月中旬の1泊2日を、その沼(写真2,4)でのトンボ観察にあてました。

観察初日から、アオヤンマと念願の初対面を果たすとともに、他の数種のトンボとあわせて、その生態を垣間見ることができました。

観察初日の未明に自宅を出発して、高速道・一般道をひた走りし、午前10時過ぎ、現地に到着すると、首にはデジタル一眼、腰には(コンデジながら昆虫撮影に特化しているともいえる)TG-5のいでたちで、沼縁へと歩み入りました。

曇り空の下、沼の岸沿いをゆっくり歩きながら水辺方向にアオヤンマらしきトンボの姿を求めました。

10時46分、ついにその姿からしてアオヤンマに間違いない1個体が、抽水植物帯の少しオープンになった水面を飛ぶのを発見しました。

しかしながら、その個体はすぐに姿を消し、撮影には至りませんでしたが、幸先よく、1時間足らずでの最初の出会いとなりました。

岸から少し離れた、細い竹が林立する中の踏み分け道を歩いていると、地上1.5mの高さを1頭のアオヤンマがゆっくり飛び過ぎました(11時03分)。

11時19分に、沼の写真2の岸辺のヨシ・マコモの類の群落上を飛ぶアオヤンマ1個体を見た後、岸沿いに移動した別のポイントで、マコモ類の植生沿いの水面上を低く飛ぶ1個体を見つけました。

反射的に、初めてアオヤンマにレンズを向けてシャッターを切りましたが、結果は予想通り空振り(かろうじてヤンマとわかるボケ具合)でした(11時37分)。

アオヤンマほかのトンボが観察された沼 
写真2 アオヤンマほかのトンボが観察された、関東地方平野部の池。
6‎月‎13‎日、‏‎10:27:40

12時13分には、沼中央の水面上で、ヤンマ類(種名不明)の2個体の間で追い合いがありました。


水気のない草むらにアオヤンマがやってきた

12時半を回ったところで、午前中の観察を切り上げ、沼にほど近い路側帯に停めた車中での昼食休憩に入りました。

その最中、すぐ横の草地に突然アオヤンマがやってきて、草むらすれすれの高さを不規則に飛び回り始めました。

慌ててカメラを手に車を降り、草むらの中を縫うように自在に飛び回るヤンマの姿をレンズで追い、シャッターを押しました(12時58分からの14秒間に10ショット)。

突然の出現ということもあって、焦点が合わない上にシャッター速度の遅さも重なったため、得られたのはご覧のようなピンボケ写真4枚でした(写真3a~d)。

乾いた草むらを縫うように飛ぶアオヤンマ♂ 
写真3a~d 乾いた草むらを縫うように飛ぶアオヤンマ Aeschnophlebia longistigma ♂(時系列順)(画像調整後)

本来、人にお見せする出来栄えではないのですが、その時のヤンマの様子を知る上では貴重な証拠となると考え、掲げることにしました。

見づらいとは思いますが、この組写真の各写真の中央に、ほぼ水平の姿勢で飛んでいるのが、その個体です。

黄緑系というより水色系の腹部をし、腹端に向った先細りが一様であることから、♂個体であることがわかります。


アオヤンマ♂の草むら潜行飛行の意味

さて、乾いた草むらを縫うようなこの行動は、何の目的で行われたのでしょうか?

餌となる小昆虫を探すのであれば、もっと広い所を楽に飛び回って探したほうがよさそうに思われます。

また、私のほかに危険な動物は近くにいませんでしたし、私から逃げるのなら草むらから高く舞い上がったほうがよほど安全ですので、天敵から逃れようとしていたのでもなさそうです。

そう考えると、この♂個体は、この草むらの中に交尾相手となる♀がいるかもしれないとみて、探し回っていた、という可能性が残されます。

しかし、この解釈には、「水面のない乾いた草むらに♀が潜んでいるのか?」という難問をふっかけられそうです。

ということで、この草むら潜行飛行の理由は、今後、決定的な観察あるいは文献情報入手があるまでの、宿題とします。


アオヤンマが口に何かをくわえている

13時を回り、雲の隙間から陽が射す中、再び沼岸に向い、写真4のような、ヨシ・マコモの類の抽水植物が疎生するゾーンを見おろす岸辺に立ち、午後の観察を開始しました。

アオヤンマが多く観察された抽水植物群落 
写真4 アオヤンマが多く観察されたヨシ・マコモの類の抽水植物群落
6‎月‎14‎日、‏‎14:01:54

13時49分、その抽水植物ゾーンの頂端付近の高度を飛び回るアオヤンマを発見、急いでカメラを向けました。

直後の35秒間に8ショットしたうちの3ショットは、なんとか証拠写真として使えるものになりました(写真5~7)。

アオヤンマ♂ 
写真5 アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma ♂ (撮影時刻:13h:49m:52s)

ヨシ類の草丈よりも少し下のあたりを、飛び回っています。

アオヤンマ♂ 
写真6 アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma ♂ (‏‎13:50:26)

34秒経過後の同一個体です。

ヨシ類の葉のすぐ上をこちら向きに飛んでいるところですが、口に何か(おそらく昆虫かクモ)をくわえています。

アオヤンマ♂ 
写真7 アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma ♂ (‏‎13:50:28)

更に2秒後の同一個体ですが、拡大して見ると、口にはまだ物をくわえているように見えます。

また、両前翅基部付近には、淡赤色の小粒状のものが付着しているようもに見えます。
食べている虫の体液が飛び散って、付着したのかもしれません。

ということで、この個体のこの飛行は、雌探しも兼ねているとは思いますが、採餌を一つの目的としていたことがわかります。

写真5~7のいずれにおいても、ヨシ類の草丈すれすれ付近の高度で、それもヨシ類群落の開放水面側またはそちらに近い側を飛んでいます。


本格的な探雌飛行を激写

引き続き、そのポイントで粘り強く、15時05分まで、アオヤンマに的を絞った観察を継続しました。

継続といっても、いったん姿が見えなくなると、次のヤンマが現れるまでの時間は長く感じられました。

しかし、その間延びした間に4~5回姿を現したアオヤンマは、私にとってまた一つの新しい経験となる行動を示してくれました。

それは、隙間の多いヨシ・マコモ類群落の株間に入り込み、その中を縫うように、草丈の半分程度の高さの水面上を飛び回る、♂の行動です(写真8、写真1)(14時44分)。

アオヤンマ♂、ノートリミング  
写真8 アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma (14:44:50)

私が立っていた岸は水面から50cmほど高くなっており、そこからの撮影ですので、トンボから見て相当背面方向(上方向)からの写真になっていますが、それでもヨシ類の草丈に比べて低い位置を飛んでいることは、おわかり頂けると思います。

アオヤンマ♀はヨシやマコモなどの抽水植物の茎につかまって産卵する、ということが知られていますので(尾園ほか 2012)、産卵中の♀、あるいは産卵しようとしている♀を、♂が探すとすれば、当然草丈の半分程度までは飛行高度を下げたほうが、♀の発見効率そして発見後の捕捉確率は上がるはずです。

このことを考えると、写真8における♂の行動は、間違いなく♀の探索であると言えるでしょう。

実際に文献(尾園ほか 2012)にも、♂が抽水植物の間を縫うように飛び回り♀を探して交尾する旨の記述があります。

初日には、その後15時42分まで、沼辺で観察を続けましたが、これといったアオヤンマの動きはありませんでした。

翌日も、同じ沼でアオヤンマを中心に、各種トンボを岸からの観察を継続しましたが、それらについては次回以降の記事で取り上げます。


謝 辞
観察地についての情報を提供された夏目英隆さんに、感謝の意を表します。


引用文献:
尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。



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2018-09-16 (Sun)
日本産ヤンマ科の系統樹」シリーズ記事を受けての、前回記事日本産ヤンマ科全9属の代表、オンパレード(系統順)」では代表となるヤンマの種の写真を1葉ずつ順に紹介しました。

今回記事では、それら日本産ヤンマ科 AESHNIDAE 全9属代表種1枚の組写真にまとめたものを掲げます(写真1)。


日本産ヤンマ科 AESHNIDAE 全9属代表種(組写真)

日本産ヤンマ科全9属の代表、顔見世(系統順) 
写真1 日本産ヤンマ科 AESHNIDAE 全9属代表種(組写真)(写真はクリックで拡大します)


写真1では、9つの属の配列を系統順にしたところが、ポイントです。

前回記事でも明記したとおり、9属のうち2属については、筆者撮影のものではなく、wikimediaから同属種(それも外国産)の写真を拝借(ただし撮影者名明記)したものです。


目 次
 ◆日本産ヤンマ科 AESHNIDAE 全9属の代表種(組写真)
 ◆日本産ヤンマ科の系統樹(折衷案)(前回記事より再掲)
 ◆日本産ヤンマ科全9属の代表種のプロフィール
 ◆Refereces (引用文献:ヤンマ科の系統樹関連)(過去記事より再掲)
 ◆耳より情報!(『トンボ博物学』特価頒布)


日本産ヤンマ科の系統樹(折衷案)前回記事より再掲)

日本産ヤンマ科の系統樹(4論文からの折衷案)分岐番号つき

図1 日本産ヤンマ科の系統樹(紹介済みの4論文のデータを元にした折衷案)(前回記事の図に分岐番号付記)(図はクリックで拡大します) 

上掲の系統樹作成のベースとなった4論文は、今回記事の引用文献リストにも再掲しています。


日本産ヤンマ科全9属の代表種のプロフィール

それでは、全9属の代表種を写真2写真1の中の各個写真に図1の分岐番号を付記したもの)と対応させながら簡単に紹介します。

日本産ヤンマ科全9属の代表、顔見世(系統順) 
写真2(写真1の中の各個写真に図1の分岐番号を付記したもの)

以下、先頭の「数字+ABC」は系統の分岐順と姉妹群関係を識別するための分岐番号写真2にも付記)です。

(※ この分岐番号は今回記事の図1を参照した場合以外には通用しませんのでご注意ください。)

1A サラサヤンマ属 Sarasaeschna Karube & Yeh, 2001: サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri  (Martin, 1909)♂過去記事より再掲)。
サラサヤンマ は、黒地に細かい黄斑を散らした更紗模様が特徴の一つです。

1B2A3A コシボソヤンマ属 Boyeria McLachlan, 1895:コシボソヤンマ属の1種、Boyeria irene (Fonscolombe, 1838) , male (Source: wikimedia). Photo by Luis Fernández García. https://fr.wikipedia.org/wiki/Boyeria#/media/File:Boyeria_irene_20140808.jpg
Boyeria ireneは西ヨーロッパ、北アフリカに分布。未熟な♂個体のため淡色部が発色していません。
同属のコシボソヤンマ Boyeria maclachlani (Selys, 1883) ♂ではとくにウエスト(腹部第3節)が極端にくびれているのが特徴の一つです。

1B2A3B ミルンヤンマ属 Planaeschna McLachlan, 1896:ミルンヤンマ Planaeschna milnei  (Selys, 1883)(2016年9月10日、関東地方)(前回記事から再掲)。
ミルンヤンマは、翅胸が小さく、腹部の環状黄斑が印象的です。

1B2B3A アオヤンマ属 Aeschnophlebia Selys, 1883:アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma Selys, 1883 ♂(前回記事から再掲)。
アオヤンマは、コシボソヤンマとは真逆に、♂♀とも腹部第3節のくびれがなく、寸胴のが特徴の一つです。

1B2B3B4A カトリヤンマ属 Gynacantha Rambur, 1842:カトリヤンマ Gynacantha japonica Bartenef, 1909  ♀(前々回記事から再掲)。
カトリヤンマは、♂の腹部が細く、尾部上付属器が超長いのが特徴的です。

1B2B3B4B トビイロヤンマ属 Anaciaeschna Selys, 1878:トビイロヤンマ属の1種、Anaciaeschna triangulifera McLachlan,1896 , male (Surce: wikimedia). photo by Alandmanson. 
Anaciaeschna trianguliferaは同属のトビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea (Burmeister, 1839) 同様、和名そのままに翅胸部や腹部の地色が褐色です。

1B2B3B4C ギンヤンマ属 Anax Leach, 1815:ギンヤンマ Anax parthenope (Selys, 1839)  過去記事より再掲)。
ギンヤンマをはじめ、同属種の翅胸は、黄緑色で(クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus Oguma, 1915 を例外として)黒条がないのが特徴的です。

1B2B3B4D5A ヤブヤンマ属 Polycanthagyna Fraser, 1933:ヤブヤンマ Polycanthagyna melanictera (Selys, 1883)  ♀(前回記事から再掲)。
ヤブヤンマ は、全体に黒味が強く複眼が青いのが印象的です。

1B2B3B4D5B ルリボシヤンマ属 Aeshna Fabricius, 1775:オオルリボシヤンマ Aeshna crenata Hagen, 1856 ♀(過去記事から再掲)。
オオルリボシヤンマは多くの同属種と同様に、腹部に環状および斑点状の淡色斑(青色、黄色、黄緑色)があるのが特徴的です。

(※それぞれの代表種についての、以上の説明文は前回記事の再掲です。)



Refereces (引用文献:ヤンマ科の系統樹関連)過去記事より再掲)

Bechly, G. (1996) Morphologische Untersuchungen am Flügelgeäder der rezenten Libellen und deren Stammgruppenvertreter (Insecta; Pterygota; Odonata) unter besonderer Berücksichtigung der Phylogenetischen Systematik und des Grundplanes der *Odonata. - Petalura, spec. vol. 2: 402 pp, 3 tabls, 111 figs (revised edition with 60 pages English appendix on the phylogenetic system of odonates). (Bechly 2007から間接引用)

Bechly, G. (2007) Phylogenetic Systematics of Euanisoptera / Aeshnoptera.

Carle, F. L. , K. M. Kjer & M. May. (2015) A molecular phylogeny and classification of
Anisoptera (Odonata). Arthropod Systematics & Phylogeny. 73(2): 281-301.
2018.8.25.アクセス

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

von Ellenrieder, N.(2002) A phylogenetic analysis of the extant Aeshnidae(Odonata: Anisoptera). Systematic Entomology (2002) 27, 437-467.
2018.8.25.アクセス



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2018-09-13 (Thu)
前回記事で「日本産ヤンマ科の系統樹」の最新版ともいえる折衷案を提示しました(図1)。

シリーズ記事5本とも、重箱の隅をつつきながら理屈っぽい内容になってしまいましたので、今回はデザートとして、日本産ヤンマ科 AESHNIDAE 全9属代表種横顔を一気にご紹介することにします。

ただし、うち2属については自前の写真が用意できていませんので、wikimediaから同属種(それも外国産)の写真を拝借して、お茶を濁させてもらいます(ザンネン!)。


目 次
 ◆日本産ヤンマ科の系統樹(折衷案)(前回記事より再掲)
 ◆日本産ヤンマ科全9属の代表種の横顔
 ◆おわりに
 ◆日本のヤンマ科(9属23種)のリスト(ギンヤンマ属の位置を変更後)
 ◆Refereces (引用文献:ヤンマ科の系統樹関連)(前回記事より再掲)
 ◆耳より情報!(『トンボ博物学』特価頒布)


日本産ヤンマ科の系統樹(折衷案)前回記事より再掲)

日本産ヤンマ科の系統樹(4論文からの折衷案)分岐番号つき

図1 日本産ヤンマ科の系統樹(紹介済みの4論文のデータを元にした折衷案)(前回記事の図に分岐番号付記)(図はクリックで拡大します) 

図1の系統樹(折衷案)作成のベースとなった4論文は、今回記事の引用文献リストにも再掲しています。


日本産ヤンマ科全9属の代表種の横顔

以下、先頭の数字は筆者提案の系統樹(折衷案)(図1)に付記した分岐順序、ABは当該分岐のそれぞれの枝を意味します。

(※ この分岐番号は今回記事の図1を参照した場合以外には通用しませんのでご注意ください。)

1A サラサヤンマ属 Sarasaeschna Karube & Yeh, 2001
サラサヤンマ♂(3)
写真1 サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri ♂(過去記事より再掲)(写真はクリックで拡大)

サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri (Martin, 1909) は、黒地に細かい黄斑を散らした更紗模様が特徴の一つです。


1B2A3A コシボソヤンマ属 Boyeria McLachlan, 1895
Boyeria irene, male (Photo by Luis Fernandez Garcia) 
写真2 コシボソヤンマ属の1種、Boyeria irene, male (Source: wikimedia). Photo by Luis Fernández García. https://fr.wikipedia.org/wiki/Boyeria#/media/File:Boyeria_irene_20140808.jpg

写真2のコシボソヤンマ属の1種Boyeria irene (Fonscolombe, 1838) は西ヨーロッパ、北アフリカに分布。未熟な♂個体のため淡色部が発色していません。

同属のコシボソヤンマ Boyeria maclachlani (Selys, 1883) ♂ではとくにウエスト(腹部第3節)が極端にくびれているのが特徴の一つです。

写真2B. irene は横斜め背方からの撮影のため、それほど目立ちませんが、やはりくびれています。


1B2A3B ミルンヤンマ属 Planaeschna McLachlan, 1896
ミルンヤンマ♂ 
写真3 ミルンヤンマ Planaeschna milnei ♂(2016年9月10日、関東地方)

ミルンヤンマ Planaeschna milnei (Selys, 1883) は、翅胸が小さく、腹部の環状黄斑が印象的です。


1B2B3A アオヤンマ属 Aeschnophlebia Selys, 1883
アオヤンマ♂ 
写真4 アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma ♂(2018年6月13日、関東地方)

アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma Selys, 1883 は、コシボソヤンマとは真逆に、♂♀とも腹部第3節のくびれがなく、寸胴のが特徴の一つです。


1B2B3B4A カトリヤンマ属 Gynacantha Rambur, 1842
カトリヤンマ♀ 
写真5 カトリヤンマ Gynacantha japonica ♀(2015年8月22日、埼玉県)(前回記事から再掲)

カトリヤンマ Gynacantha japonica Bartenef, 1909 は、♂の腹部が細く、尾部上付属器が超長いのが特徴的です。


1B2B3B4B トビイロヤンマ属 Anaciaeschna Selys, 1878
Anaciaeschna triangulifera, male (photo by Alandmanson) 
写真6 トビイロヤンマ属の1種、Anaciaeschna triangulifera, male (Surce: wikimedia). photo by Alandmanson. 

写真6は、アフリカ大陸に分布するトビイロヤンマ属の1種、Anaciaeschna triangulifera McLachlan,1896 ですが、翅胸部や腹部の地色が褐色です。

同属のトビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea (Burmeister, 1839) も、和名そのままに地色が褐色なのが特徴です。


1B2B3B4C ギンヤンマ属 Anax Leach, 1815
ギンヤンマ ♂
写真7 ギンヤンマ Anax parthenope ♂(過去記事より再掲)

ギンヤンマ Anax parthenope (Selys, 1839) をはじめ、同属種の翅胸は、黄緑色で(クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus Oguma, 1915 を例外として)黒条がないのが特徴的です。


1B2B3B4D5A ヤブヤンマ属 Polycanthagyna Fraser, 1933
ヤブヤンマ♀産卵 
写真8 ヤブヤンマ Polycanthagyna melanictera ♀(2016年9月1日、関東地方)

ヤブヤンマ Polycanthagyna melanictera (Selys, 1883) は、全体に黒味が強く複眼が青いのが印象的です。


1B2B3B4D5B ルリボシヤンマ属 Aeshna Fabricius, 1775
オオルリボシヤンマ♀、産卵 
写真9 オオルリボシヤンマ Aeshna crenata ♀(2007年8月30日、北海道東部)

オオルリボシヤンマ Aeshna crenata Hagen, 1856 は多くの同属種と同様に、腹部に環状および斑点状の淡色斑(青色、黄色、黄緑色)があるのが特徴的です。

以上です。


おわりに

前回記事の予告では、今回は通常の野外観察からのレポートになるはずでしたが、少し趣向を変えて、全属の顔見世興行としました。

後日、再びヤンマ科全属のパレードを主催する場合には、自前の役者(自分で撮影したヤンマ)を揃えたいと心に誓っています。




日本のヤンマ科(9属23種)のリスト(ギンヤンマ属の位置を変更後)

サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri (Martin, 1909)(写真1)
オキナワサラサヤンマ Sarasaeschna kunigamiensis (Ishida, 1972)
コシボソヤンマ Boyeria maclachlani (Selys, 1883)(同属種:写真2)
イシガキヤンマ Planaeschna ishigakiana Asahina, 1951
リスヤンマ Planaeschna risi Asahina, 1964
ミルンヤンマ Planaeschna milnei (Selys, 1883)(写真3)
アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma Selys, 1883(写真4)
ネアカヨシヤンマ Aeschnophlebia anisoptera Selys, 1883
カトリヤンマ Gynacantha japonica Bartenef, 1909(写真5)
リュウキュウカトリヤンマ Gynacantha ryukyuensis Asahina, 1962
トビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea (Burmeister, 1839)(同属種:写真6)
マルタンヤンマ Anaciaeschna martini (Selys, 1897)
ヒメギンヤンマ Anax ephippiger (Burmeister, 1839)
アメリカギンヤンマ Anax junius (Drury, 1770)
ギンヤンマ Anax parthenope (Selys, 1839)(写真7)
クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus Oguma, 1915
オオギンヤンマ Anax guttatus (Burmeister, 1839)
リュウキュウギンヤンマ Anax panybeus Hagen, 1867
ヤブヤンマ Polycanthagyna melanictera (Selys, 1883)(写真8)
マダラヤンマ Aeshna mixta Latreille, 1805
オオルリボシヤンマ Aeshna crenata Hagen, 1856(写真9)
ルリボシヤンマ Aeshna juncea (Linnaeus, 1758)
イイジマルリボシヤンマ Aeshna subarctica Walker, 1908

※(ヤンマ科リストは、尾園ほか[2012]をベースに、ギンヤンマ属の位置を末尾からトビイロヤンマ属とヤブヤンマ属の間に移動)



Refereces (引用文献:ヤンマ科の系統樹関連)前回記事より再掲)

Bechly, G. (1996) Morphologische Untersuchungen am Flügelgeäder der rezenten Libellen und deren Stammgruppenvertreter (Insecta; Pterygota; Odonata) unter besonderer Berücksichtigung der Phylogenetischen Systematik und des Grundplanes der *Odonata. - Petalura, spec. vol. 2: 402 pp, 3 tabls, 111 figs (revised edition with 60 pages English appendix on the phylogenetic system of odonates). (Bechly 2007から間接引用)

Bechly, G. (2007) Phylogenetic Systematics of Euanisoptera / Aeshnoptera.

Carle, F. L. , K. M. Kjer & M. May. (2015) A molecular phylogeny and classification of
Anisoptera (Odonata). Arthropod Systematics & Phylogeny. 73(2): 281-301.
2018.8.25.アクセス

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

von Ellenrieder, N.(2002) A phylogenetic analysis of the extant Aeshnidae(Odonata: Anisoptera). Systematic Entomology (2002) 27, 437-467.
2018.8.25.アクセス



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2018-09-11 (Tue)
シリーズ記事「日本産ヤンマ科の系統樹」は、前回の第4回で終了の予定でしたが、結局4通りの系統樹を並列してコメントしただけに終わっていて、今一つ生産性が筆者自身にも感じられませんでした。

そこで、今回はこれまで(下記のように)4回にわたって紹介してきた、分岐順の微妙に異なる4つの系統樹から、なるべく矛盾のないようにしながら、1つの折衷案としての系統樹を作成してみます。


ヤンマ科のイメージを再確認したい方のために、カトリヤンマ♀の生態写真を当ブログとしては初掲載しておきます(写真5)。

カトリヤンマ♀ 
写真5 カトリヤンマ Gynacantha japonica ♀(2015年8月22日、埼玉県)(写真はクリックで拡大)



 目 次
 ◆Bechly、von Ellenrieder、尾園ほか およびCarle et al.による系統樹を折衷した系統樹の提案
 ◆今回の折衷案作成の基準
 ◆今回の折衷案作成に際しての具体的な判断内容
 ◆おわりに
 ◆参考にした系統樹(シリーズ記事1~4から再掲)
 ◆日本のヤンマ科のリスト(初回記事から再掲)
 ◆Refereces (引用文献:ヤンマ科の系統樹関連)(前回記事より再掲)
 ◆最尤法についての簡単なまとめ(前回記事より再掲)
 ◆引用文献(分子系統学、とくに最尤法関連)(前回記事より再掲)
 ◆耳より情報!(『トンボ博物学』特価頒布)



Bechlyvon Ellenrieder、尾園ほか およびCarle et al.による系統樹を折衷した系統樹の提案
 
前回記事までに紹介した、Bechly (1996/2007) 、von Ellenrieder  (2002) のそれぞれに基づく形態系統樹2点、および尾園ほか(2012)、Carle et al. (2015) のそれぞれに基づく分子系統樹2点の、計4点の日本産ヤンマ科系統樹(記事後半の「参考にした系統樹」に再掲)を参考に、筆者が新しく描いた日本産ヤンマ科 AESHNIDAE (広義)の系統樹を図6に掲げます。

日本産ヤンマ科の系統樹(4論文からの折衷案) 
図6 日本産ヤンマ科の系統樹(紹介済みの4論文のデータを元にした折衷案)(図はクリックで拡大します) 


今回の折衷案作成の基準

この、折衷案ともいえる系統樹は、より時代的に新しい、そして系統解析のアルゴリズムもソフィストケートされた、分子系統解析の結果に重きを置いて、筆者の判断も加味しながら描いたものです。

「コシボソヤンマ属+ミルンヤンマ属」、「ヤブヤンマ属+ルリボシヤンマ属」、サラサヤンマ属以外の各属の分岐順序は、尾園ほか の系統樹では保留されていましたが、Carle et al.の系統樹では憶することなく分岐の連続として提案されています。

Carle et al.のこの分岐順の提案のうち、尤度*の高いもの(尤度≧70)を筆者も採用し、その一方で尤度がそれに満たないものについては分岐順を保留し、(究極の2分岐ではなく)4分岐のかたちを残しました。

尾園ほか では(分岐順の一部保留のため)6分岐がありましたので、今回の折衷案では分岐2つ分踏み込んだことになります。

(*尤度については、今回記事末尾の「最尤法についての簡単なまとめ」で簡単な説明をしています。)


今回の折衷案作成に際しての具体的な判断内容

以下の判断内容の羅列は、これまでの記事での記述スタイルとは逆に、分岐関係(姉妹群の認定)が相対的に新しい順に、言い換えれば系統樹の枝先から大枝の方向に向かって順に、記述します(以下、「である体」で記述)。

・ヤブヤンマ属 Polycanthagyna とルリボシヤンマ属 Aeshna を姉妹群とすることに関して、尾園ほか を支持。(Carle et al.はヤブヤンマ属を対象としていない。)

・トビイロヤンマ属 Anaciaeschna とルリボシヤンマ属の姉妹群(Carle et al.:尤度50、ベイズ事後確率74)は解消(保留)。

・カトリヤンマ属 Gynacantha と「トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属」の姉妹群(Carle et al.:尤度67、事後確率100)は解消(保留)。

・「ギンヤンマ属+カトリヤンマ属+トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属 Anax (+ヤブヤンマ属)」を単系統群とすること(Carle et al.:尤度100、ベイズ事後確率100; von Ellenrieder)を支持。

・「ギンヤンマ属+カトリヤンマ属+トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属(+ヤブヤンマ属)」の単系統群と Brachytron属を姉妹群とすること(Carle et al.:尤度70、ベイズ事後確率100)を支持。

・アオヤンマ属 Aeschnophlebia については、Carle et al.はを対象としていないが、Bechly および von Ellenriederはアオヤンマ属を Brachytron属と近縁なものと扱ったので、今回この判断を採用。(Bechly は両属を[広義のヤンマ科を狭義のヤンマ科おおびいくつかの科に細分したものの一つである]BRACHYTRONIDAE科を共に構成するとし、von Ellenrieder も両属を同一単系統群に所属させている。)

・コシボソヤンマ属 Boyeriaが「ギンヤンマ属+カトリヤンマ属+トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属(+ヤブヤンマ属)+Brachytron属」を姉妹群とすること(Carle et al.:尤度100、ベイズ事後確率100)を支持。

・ミルンヤンマ属 Planaeschna をコシボソヤンマ属との姉妹群とする尾園ほか を支持。Bechlyもミルンヤンマ属をコシボソヤンマ属と同一単系統群(TELEPHLEBIIDAE科[広義のヤンマ科を細分した科の一つ]所属[ただし互いに別亜科])に所属させている。(Carle et al.はミルンヤンマ属は対象としていない。)

・サラサヤンマ属 Sarasaeschna の分岐は尾園ほか および、von Ellenrieder(サラサヤンマ属とOligoaeschna属をGOMPHAESCHNINI族(「族」は、亜科の下の分類階級)に所属させている)を支持。Bechly およびCarle et al.はサラサヤンマ属は対象としていないが、Oligoaeschna属を含む単系統群を広義のヤンマ科の中で最初に分岐させている。

以上です。

重箱の隅をつつくような説明でしたが、飲み込めましたら、その理解を念頭にもう一度、今回提案した折衷案の系統樹をご覧になってください。


おわりに

今回の5回にわたるシリーズ記事で、筆者は自分自身で形態の比較観察も、分子の配列データやアラインメントを眺めることもせずに、他の研究者が苦労して組み立てた系統樹のヤンマ科の部分について、それぞれの特徴を紹介し、最後には、それぞれの良いところをつまみ食いするかたちで、日本産のヤンマ科の折衷的な系統樹を提案しました。

おそらく、数年以内に、分子系統解析を実際に行っている研究者が、最新の各種DNAの塩基配列データをもとに、適切な分子系統解析ソフトによる解析をかけて、オリジナルな系統樹を公表するものと思われます。

それを受けて、分子系統学については門外漢である私が、身の程を顧みることなく作成した、今回の系統樹の樹形(トポロジー)を自己採点できる機会を楽しみにしています。

次回記事からは、通常の野外でのトンボ観察・撮影に基づく内容に戻りますが、ヤンマ科の種がクローズアップされ過ぎないように気を付けたいと思います(笑)。



参考にした系統樹(シリーズ記事1~4から再掲)

 日本産ヤンマ科(広義)の分子系統樹(Carle et al. [2015] に依拠) 
図4 日本産ヤンマ科(広義)の分子系統樹(Carle et al. [2015] に依拠)(再掲)

ヤンマ科(広義)の分子系統樹:尾園ほか[2012]に依拠 
図3 ヤンマ科(広義)の分子系統樹:尾園ほか(2012)に依拠(再掲)


日本産ヤンマ科(広義)の系統樹: von Ellenrieder(2002)に依拠 
図2 日本産ヤンマ科(広義)の系統樹(von Ellenrieder [2002]  に依拠)(再掲)


日本産ヤンマ科(広義)の系統樹:Bechly (1996/2007) に依拠 
図1 日本産ヤンマ科(広義)の系統樹(Bechly [1996/2007] に依拠)(再掲) 



日本のヤンマ科のリスト(初回記事から再掲)

日本には、9属23種のヤンマ科の種が分布しています(下記リスト:尾園ほか[2012]による)。

サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri (Martin, 1909)
オキナワサラサヤンマ Sarasaeschna kunigamiensis (Ishida, 1972)
コシボソヤンマ Boyeria maclachlani (Selys, 1883)
イシガキヤンマ Planaeschna ishigakiana Asahina, 1951
リスヤンマ Planaeschna risi Asahina, 1964
ミルンヤンマ Planaeschna milnei (Selys, 1883)
アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma Selys, 1883
ネアカヨシヤンマ Aeschnophlebia anisoptera Selys, 1883
カトリヤンマ Gynacantha japonica Bartenef, 1909(写真5)
リュウキュウカトリヤンマ Gynacantha ryukyuensis Asahina, 1962
トビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea (Burmeister, 1839)
マルタンヤンマ Anaciaeschna martini (Selys, 1897)
ヤブヤンマ Polycanthagyna melanictera (Selys, 1883)
マダラヤンマ Aeshna mixta Latreille, 1805
オオルリボシヤンマ Aeshna crenata Hagen, 1856
ルリボシヤンマ Aeshna juncea (Linnaeus, 1758)
イイジマルリボシヤンマ Aeshna subarctica Walker, 1908
ヒメギンヤンマ Anax ephippiger (Burmeister, 1839)
アメリカギンヤンマ Anax junius (Drury, 1770)
ギンヤンマ Anax parthenope (Selys, 1839)
クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus Oguma, 1915
オオギンヤンマ Anax guttatus (Burmeister, 1839)
リュウキュウギンヤンマ Anax panybeus Hagen, 1867



Refereces (引用文献:ヤンマ科の系統樹関連)前回記事より再掲)

Bechly, G. (1996) Morphologische Untersuchungen am Flügelgeäder der rezenten Libellen und deren Stammgruppenvertreter (Insecta; Pterygota; Odonata) unter besonderer Berücksichtigung der Phylogenetischen Systematik und des Grundplanes der *Odonata. - Petalura, spec. vol. 2: 402 pp, 3 tabls, 111 figs (revised edition with 60 pages English appendix on the phylogenetic system of odonates). (Bechly 2007から間接引用)

Bechly, G. (2007) Phylogenetic Systematics of Euanisoptera / Aeshnoptera.

Carle, F. L. , K. M. Kjer & M. May. (2015) A molecular phylogeny and classification of
Anisoptera (Odonata). Arthropod Systematics & Phylogeny. 73(2): 281-301.
2018.8.25.アクセス

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

von Ellenrieder, N.(2002) A phylogenetic analysis of the extant Aeshnidae(Odonata: Anisoptera). Systematic Entomology (2002) 27, 437-467.
2018.8.25.アクセス



最尤法についての簡単なまとめ前回記事より再掲)

・最尤法(最尤系統樹推定)は、分子進化(塩基配列あるいはアミノ酸配列の置換)の確率モデルのもとで、観察されたデータ値の生じる確率の積(「尤度*」likelihood)を目的関数として,その値を最大化するように未知のパラメーター(樹形と枝長)を推定する方法(参考:三中 2009;田辺 2015)。

(*「尤度」は、あるモデルが正しいと仮定した状況で手元のデータが得られる確率[参考:大島 2016])。

・最尤法では、近隣結合法(neighbor-joining)や段階的配列付加法などで生成した初期系統樹と、それを枝交換によって樹形改変してできる系統樹の尤度を計算し、より尤度の高い系統樹が見つかればそれを初期系統樹としてまた同じことを繰り返す(参考:田辺 2015;大島 2016)。

・RAxMLによるブートストラップ(bootstrap)解析は、樹形の信頼性を検討するために、ブートストラップリサンプリングしたデータを用いて系統樹推定を繰り返すことで、各内分枝の再現率を得るもの(参考:田辺 2015)。

・ブートストラップでは、元のアラインメントからランダムにサイトを元の数だけ選んで1組の擬似データとする。その際、同じサイトを複数回選んでもかまわない。多数の擬似データの組について、系統樹を作成し、初期系統樹ののトポロジーが作成された回数を数え、再現率を得る(参考:田辺 2015;川端猛 2010)。

・最尤法の具体的な作業手順については、下平(2003)が参考になる。



引用文献(分子系統学、とくに最尤法関連)前回記事より再掲)

川端 猛 (2010) 「分子系統学基礎」。平成22年度・近畿大学・農学部・生命情報学(講義資料)

三中信宏  (2009) 「分子系統学:最近の進歩と今後の展望」。 植物防疫,63(3): 192-196.

大島研郎 (2016) 「生物配列解析基礎 」。分子系統学の基礎 (講義資料)。

下平英寿 (2003) 「系統樹の推定」。バイオインフォマティクス(分子系統樹の推定)の体験的入門5.

田辺晶史 (2015) 「分子系統学演習 データセットの作成から仮説検定まで」。



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2018-09-09 (Sun)
シリーズ記事「日本産ヤンマ科の系統樹」、第4回(最終回)の今回は、第1回の「Bechly (1996/2007) による形態系統解析」、第2回の「von Ellenrieder (2002) による形態系統分析」、第3回の「尾園・川島・二橋(2012)による分子系統樹」に引き続いて、Carle et al. (2015) による分子系統樹からヤンマ科 Aeshnidae の属の部分を抜粋したものを紹介し、相互に比較検討します。

日本産ヤンマ科の全9属23種のリストを、今回記事の末尾にも第1回記事から再掲しておきました。
必要に応じて参照してください。

ヤンマ科のイメージを再確認したい方のために、オオルリボシヤンマの生態写真を当ブログとしては初掲載し(写真4)、サラサヤンマ の生態写真を過去記事から再掲しておきます(写真2)。

オオルリボシヤンマ♀、産卵 
写真4 オオルリボシヤンマ Aeshna crenata ♀(2007年8月30日、北海道東部)(写真はクリックで拡大)

サラサヤンマ♂(3)
写真2 サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri ♂(過去記事より再掲)


 目 次
 ◆はじめに:Carle et al. (2015) による分子系統樹
 ◆Carle et al. (2015) による系統解析の方法
 ◆Carle et al. (2015) の分子系統樹に依拠して作画した日本産ヤンマ科の ◆属の系統樹
 ◆Carle et al. の分子系統樹の、尾園ほかによる分子系統樹、Bechlyおよび von Ellenrieder  による形態系統樹との比較
 ◆以上の比較の要約
 ◆日本のヤンマ科のリスト(初回記事から再掲)
 ◆分子系統解析の5つの手法
 ◆最尤法についての簡単なまとめ
 ◆ベイズ分析についての簡単なまとめ
 ◆分岐分類学の専門用語について(再掲)
 ◆シリーズ記事の後書き
 ◆Refereces (引用文献:ヤンマ科の系統樹関連)
 ◆引用文献(分子系統学一般)
 ◆耳より情報!(『トンボ博物学』特価頒布)


はじめに:Carle et al. (2015) による分子系統樹

Carle et al. (2015) による分子系統解析は、不均翅亜目全体を対象にした大がかりなものですが、今回は私のこのシリーズ記事のテーマであるヤンマ科に的を絞っているため、その解析結果からヤンマ科の部分のみを抜粋して紹介します。

この論文の共著者は、3人ともアメリカのラトガース Rutgers 大学の研究者で、Dr. Frank Carleはトンボの新種記載を多く手がけている、Dr. Karl M Kjer は分子系統解析の論文を多く公表している、Dr. Michael L Mayは生理生態を中心としてトンボ全体に精通している人物です。


Carle et al. (2015) による系統解析の方法

※解析の方法については専門用語が多いので、一般読者の方には飛ばし読みをお薦めします。

※逆に専門分野の方は、隔靴掻痒感を避けるために、原著を直接参照下さい。

Carle et al. (2015) の論文では、系統解析に必要なデータの大部分の配列を著者達自身が決定した上で、GenBank*のデータも取捨選択して援用しています。

(*注:GenBank(ジェンバンク)は、米国生物工学情報センター(NCBI)が運用している、遺伝子塩基配列データの蓄積・公開のためのデータベース。)

系統解析のために選択されたマーカーは、核rRNA(18S、28S)、介在するVal tRNAを加えたミトコンドリアrRNA(12S -16S)、に加えて、ミトコンドリア シトクロム オキシダーゼ サブユニット1および2(COI & COII)、核ヒストン H3および核伸長因子 サブユニット1α(EF-1α)となっています。

系統解析の前に、外群選択、データの取捨選択、分類群の選択と結合、過誤の削除なども行っっています(詳細は原著を参照)。

系統解析そのものは、一般時間反転可能モデル(general time-reversible:略してGTR**)を、その高速な近似法であるCATモデルで代用して尤度を計算するとともに、最良の系統樹を算出するためにRAxML を用いることで行っています(抄訳に際して、田辺[2015]を参照した)。

(**注:GTRは、いくつかある分子系統解析の手法のうちの「最尤法」(さいゆうほう)のもとでの、最近普及している方法の一つ。)

※最尤法についてもう少し知りたい方は、当ブログ記事の末尾の「最尤法についての簡単なまとめ」をご覧ください。

Carle et al.は、これに加えて、「MRBAYES 3.1.1」を用いてのベイズ分析***も行っています。

(***注:ベイズ分析は、いくつかある分子系統解析の手法の中で、最も新しく現れた方法で、さきほどの「最尤法」とともに最近よく用いられている。)

※ベイズ分析についてもう少し知りたい方は、当ブログ記事の末尾の「ベイズ分析についての簡単なまとめ」をご覧ください。


Carle et al. (2015) の分子系統樹に依拠して作画した日本産ヤンマ科の属の系統樹

以上のような、煩雑だがソフィストケートされた方法による分子系統解析の結果、Carle et al. (2015) はトンボ目のうちの不均翅亜目の系統樹を提案しました。

※Carle et al. のこの系統樹は、最尤法に基づいていることから、単に分岐順序だけでなく、分岐から分岐までの枝長や最後の分岐から当該現生種までの枝長(これは分子進化の変化量の大小の相対比較の尺度になる)を含めた提案となっています(参考:図5;シリーズ記事全体の通し番号)。

最尤法のもとでの有根系統樹の形の一例(イメージ) 
図5 最尤法のもとでの有根系統樹の形の一例(イメージ)(生方、作図)

今回の記事では、シリーズ記事の方針に沿って、その分子系統樹(原著のFig. 1B)から分岐の相対順序のみに着目して(つまり枝長の情報は省いて)、日本産のヤンマ科の属に限った系統樹(分岐図)を描きました(図4)(シリーズ記事全体の通し番号)。

 日本産ヤンマ科(広義)の分子系統樹(Carle et al. [2015] に依拠) 
図4 日本産ヤンマ科(広義)の分子系統樹(Carle et al. [2015] に依拠)(図はクリックで拡大します)

図4に見るように、Carle et al. では分析対象としたヤンマ科の属の分岐順(言い換えれば、単系統群間の姉妹群関係)が、すべて描き出されています。

図4での分岐順を見てみましょう。

時代の古い順に、(サラサヤンマ属Sarasaeschnaと近縁な)Oligoaeschna属、(ミルンヤンマ属Planaeschnaと近縁な)コシボソヤンマ属Boyeria、(アオヤンマ属Aeschnophlebiaと近縁な)Brachytron属の順に分岐し、最後にギンヤンマ属Anax+カトリヤンマ属Gynacantha+ルリボシヤンマ属Aeshna+トビイロヤンマ属Anaciaeschnaが一つの単系統群で残るところまでは、読者の皆さんにもデジャヴ(既視感)を与えているのではないでしょうか?

※Bechlyは形態のみで同様の系統樹を提案し(図1)、Carle et al. は分子のみで系統樹を提案していながら(図4)、結果としてよく似た系統樹が得られたことは(細部でいくつかの不一致があるとはいえ)、素晴らしいことではないでしょうか?

※それだけ、20世紀末までに形態にもとづく系統学が成熟に達していたということが言えるでしょうし、誕生して30年そこそこの間に分子系統学が急速に成長し、形態系統学に追いつき、追い越している状況が目の前で起きているとも言えます。


Carle et al. の分子系統樹の、尾園ほかによる分子系統樹、Bechlyおよび von Ellenrieder  による形態系統樹との比較

 この、Carle et al. (2015) による分子系統解析結果から得られた日本産ヤンマ科の分子系統樹(図4)を、 尾園ほか(2012)による分子系統解析結果(図3;前回記事から下に再掲)、von Ellenrieder  (2002) による形態系統分析結果から得られた日本産ヤンマ科の系統樹(図2前々回記事から下に再掲)、そしてBechly (1996/2007) による形態系統解析結果から得られた日本産ヤンマ科の系統樹(図1初回記事から下に再掲)、と比較してみましょう。


ヤンマ科(広義)の分子系統樹:尾園ほか[2012]に依拠 
図3 ヤンマ科(広義)の分子系統樹:尾園ほか(2012)に依拠


日本産ヤンマ科(広義)の系統樹: von Ellenrieder(2002)に依拠 
図2 日本産ヤンマ科(広義)の系統樹(von Ellenrieder [2002]  に依拠)


日本産ヤンマ科(広義)の系統樹:Bechly (1996/2007) に依拠 
図1 日本産ヤンマ科(広義)の系統樹(Bechly [1996/2007] に依拠) 



Carle et al.による日本産ヤンマ科系統樹の、尾園ほか、von Ellenriederおよび Bechly のそれぞれの系統樹との、共通点・相違点は以下の通りです。

・サラサヤンマ属またはそれに近縁なOligoaeschna属(von Ellenriederでは、サラサヤンマ属をLinaeschna属、Gophoaeschna属とともに単系統群にしている)が一番早く分岐するという点は、尾園を含む4組で一致。

・Carle et al.でのこの部分に関わる尤度、事後確率の値を見てみよう。Oligoaeschna属+Gophoaeschna属の系統群を除く全てのヤンマ科の属を一つの大きな単系統群とすることをサポートする尤度は100、事後確率は100である。
※したがって、ヤンマ科の最初のこの分岐は分子系統解析から見ても疑いの余地の(ほとんど)ないものということがわかる。

・Carle et al.では、(サラサヤンマ属と近縁な)Oligoaeschna属の分岐に続いて、コシボソヤンマ属がBrachytron属よりも先に分岐しているが、BechlyではBrachytron属がコシボソヤンマ属よりも先に分岐している(von Ellenriederでは保留)。

・ミルンヤンマ属(Carle et al.では含まれていない)はBechlyと尾園ほかでコシボソヤンマ属と姉妹群とされているが、von Ellenriederではコシボソヤンマ属の次に残りの群と分岐している。
※Carle et al.がミルンヤンマ属を分子系統解析に加えていたら前者と同じ結果になる可能性のほうがやや高いのではないか?

Brachytron属はCarle et al.ではコシボソヤンマ属よりも後で分岐するが、BechlyではBrachytron属(図1では近縁のアオヤンマ属だけ表示)はコシボソヤンマ属よりも先に分岐する。von Ellenriederおよび尾園ほかでは保留。

・Carle et al.でのこの部分に関わる尤度、事後確率の値を見てみよう。ギンヤンマ属(+Oplonaeschna属+Hemianax属)を加えた上記単系統群(カトリヤンマ属+トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属(+Rhinaeschna属))がBrachytron属(+Epiaeschna属)と姉妹群であるとする(つまりBrachytron属がコシボソヤンマ属よりも後で分岐することを是とする)尤度は70、事後確率は100である。
※すなわち、尤度が行司であるとすれば軍配は、若干かしげられながらも、Brachytron属がコシボソヤンマ属よりも後で分岐するほうに上がる。

・アオヤンマ属(Carle et al.では含まれていない)は、Bechlyでも、von EllenriederでもBrachtron属と姉妹群となっているので(当シリーズ記事の図1図2にはBrachytron属は描き込んでいないが)、Carle et al.が分子系統解析に加えていたら同じ結果になる可能性は低くないのではないか?

・カトリヤンマ属、ルリボシヤンマ属、ギンヤンマ属、トビイロヤンマ属の4属が(ヤブヤンマ属の扱いは別として)最も多くの派生形質を共有する単系統群という点で、尾園ほかを除く3組で一致。尾園ほかは保留している。

・Carle et al.でのこの部分に関わる尤度、事後確率の値を見てみよう。単系統群(カトリヤンマ属+トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属[+Rhinaeschna属]+とギンヤンマ属[+Oplonaeschna属+Hemianax属]が姉妹群であるとする尤度は100、事後確率は100となっている。
※というわけで、この単系統群が真に単系統であることの説得力を高めている。

・ヤブヤンマ属(Carle et al.では含まれていない)は、von Ellenriederではカトリヤンマ属よりも早くルリボシヤンマ属とギンヤンマ属を含む単系統群から分岐しているが、Bechlyおよび尾園ほかではカトリヤンマ属よりも後で分岐し、ルリボシヤンマ属と姉妹群(Bechly)または側系統(姉妹群ではないが分岐位置が隣接する)を構成する。尾園ほかではヤブヤンマ属の分岐順を保留していて、側系統の可能性を残す。

・(ヤブヤンマ属は別として、)カトリヤンマ属は、Bechlyとvon Ellenriederではルリボシヤンマ属・ギンヤンマ属・トビイロヤンマ属の3属よりも早く分岐しているが、Carle et al.ではギンヤンマ属が分かれた後にカトリヤンマ属がルリボシヤンマ属+トビイロヤンマ属と分岐している。

Carle et al.による、カトリヤンマ属が単系統群(トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属(+Rhinaeschna))と姉妹群であるとことを裏付ける尤度は67、事後確率は100である。
※この尤度の値は確率3分の2ということを意味しており、ギンヤンマ属が分かれた後にカトリヤンマ属がルリボシヤンマ属+トビイロヤンマ属と分岐という、Carle et al.による、やや意外な系統関係の支持率は若干心許ないように思われる。

・トビイロヤンマ属は、Bechlyとvon Ellenriederでは、ギンヤンマ属と姉妹群を構成しているが、Carle et al.ではルリボシヤンマ属と姉妹群である。尾園ほかではトビイロヤンマ属の分岐順も保留。

・トビイロヤンマ属とルリボシヤンマ属(+Rhinaeschna)が互いに姉妹群であるとする系統樹の尤度は50、ベイズ事後確率は74とかなり低い。
※ということで、トビイロヤンマ属とルリボシヤンマ属がごく近縁であるという点に関するCarle et al.の結果を確実なものと信じ込まないほうがよさそうだ。


以上の比較の要約

サラサヤンマ属(+Oligoaeschna属)がヤンマ科の中で最初に分岐したということは、形態派2組、分子派2組とも支持しています。

Brachytron属(形態上はアオヤンマ属と近縁)とコシボソヤンマ属の分岐の順序がBechlとCarle et al.で逆転していますが、Brachytron属がコシボソヤンマ属よりも後で分岐するというCarle et al.の結果の尤度は70(確率70%)で、若干の不安を残しています。

ヤブヤンマ属、カトリヤンマ属、ルリボシヤンマ属、ギンヤンマ属、トビイロヤンマ属の5属が単系統群という点において、尾園ほかを除く3組で一致しています。
尾園ほかは保留していますが、Carle et al.の結果の尤度は100であり、信頼度は十分なようです。

Bechlyとvon Ellenriederでは、カトリヤンマ属が、ルリボシヤンマ属・ギンヤンマ属・トビイロヤンマ属の3属よりも早く分岐しているのに対し、Carle et al.ではギンヤンマ属がルリボシヤンマ属+トビイロヤンマ属と分岐しています。
Carle et al.の結果の尤度は67と、あまり高くありません。

トビイロヤンマ属はBechlyおよびvon Ellenriederではギンヤンマ属と姉妹群ですが、Carle et al.ではルリボシヤンマと姉妹群となっています(尤度50)。
尾園ほかがこれに関して保留していることは、この尤度からみて妥当のように思われます。

ヤブヤンマ属の分岐位置は、(対象に入れていない)Carle et al.を除く3者で大きく異なっていて、今後の課題であるといえます。



日本のヤンマ科のリスト(初回記事から再掲)

日本には、9属23種のヤンマ科の種が分布しています(下記リスト:尾園ほか[2012]による)。

サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri (Martin, 1909)写真2
オキナワサラサヤンマ Sarasaeschna kunigamiensis (Ishida, 1972)
コシボソヤンマ Boyeria maclachlani (Selys, 1883)
イシガキヤンマ Planaeschna ishigakiana Asahina, 1951
リスヤンマ Planaeschna risi Asahina, 1964
ミルンヤンマ Planaeschna milnei (Selys, 1883)
アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma Selys, 1883
ネアカヨシヤンマ Aeschnophlebia anisoptera Selys, 1883
カトリヤンマ Gynacantha japonica Bartenef, 1909
リュウキュウカトリヤンマ Gynacantha ryukyuensis Asahina, 1962
トビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea (Burmeister, 1839)
マルタンヤンマ Anaciaeschna martini (Selys, 1897)
ヤブヤンマ Polycanthagyna melanictera (Selys, 1883)
マダラヤンマ Aeshna mixta Latreille, 1805
オオルリボシヤンマ Aeshna crenata Hagen, 1856写真4
ルリボシヤンマ Aeshna juncea (Linnaeus, 1758)
イイジマルリボシヤンマ Aeshna subarctica Walker, 1908
ヒメギンヤンマ Anax ephippiger (Burmeister, 1839)
アメリカギンヤンマ Anax junius (Drury, 1770)
ギンヤンマ Anax parthenope (Selys, 1839)
クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus Oguma, 1915
オオギンヤンマ Anax guttatus (Burmeister, 1839)
リュウキュウギンヤンマ Anax panybeus Hagen, 1867



分子系統解析の5つの手法

・村上(2009)は分子系統解析の方法を以下のように整理している。
 距離行列法
  平均距離法(UPGMA)
  近隣結合法
 形質状態法
  最節約法
  最尤法
  ベイズ法(最尤法のうち、事前確率を考慮したもの)



最尤法についての簡単なまとめ

・最尤法(最尤系統樹推定)は、分子進化(塩基配列あるいはアミノ酸配列の置換)の確率モデルのもとで、観察されたデータ値の生じる確率の積(「尤度*」likelihood)を目的関数として,その値を最大化するように未知のパラメーター(樹形と枝長)を推定する方法(参考:三中 2009;田辺 2015)。

(*「尤度」は、あるモデルが正しいと仮定した状況で手元のデータが得られる確率[参考:大島 2016])。

・最尤法では、近隣結合法(neighbor-joining)や段階的配列付加法などで生成した初期系統樹と、それを枝交換によって樹形改変してできる系統樹の尤度を計算し、より尤度の高い系統樹が見つかればそれを初期系統樹としてまた同じことを繰り返す(参考:田辺 2015;大島 2016)。

・RAxMLによるブートストラップ(bootstrap)解析は、樹形の信頼性を検討するために、ブートストラップリサンプリングしたデータを用いて系統樹推定を繰り返すことで、各内分枝の再現率を得るもの(参考:田辺 2015)。

・ブートストラップでは、元のアラインメントからランダムにサイトを元の数だけ選んで1組の擬似データとする。その際、同じサイトを複数回選んでもかまわない。多数の擬似データの組について、系統樹を作成し、初期系統樹ののトポロジーが作成された回数を数え、再現率を得る(参考:田辺 2015;川端猛 2010)。

・最尤法の具体的な作業手順については、下平(2003)が参考になる。



ベイズ分析についての簡単なまとめ

・ベイズ法(Bayesian methods)は、パラメーターの事前確率分布(prior distribution)を仮定し,ベイズの定理のもとで尤度を通してデータの情報を加味した事後確率分布(posterior distribution)を目的関数とするベイズ推定を用いた系統樹の作成法(参考:三中 2009;田辺 2015)。

・ベイズ法の計算アルゴリズムとしてのマルコフ連鎖モンテカルロ法(Markov chain Monte Carlo略してMCMC)により,事後確率分布のかたちをうまく推定することにより,その期待値としてベストの樹形を選び出そうとする(参考:三中 2009;田辺 2015)。

・ベイズ法の詳細については、仲田(2006)が参考になる。 



分岐分類学の専門用語について(再掲)

分岐分類学の専門用語について、梶田(2012)は、最節約法に的を絞って、図を添えて簡潔明瞭に解説しています。



シリーズ記事の後書き

シリーズ記事「日本産ヤンマ科の系統樹」を終えるにあたり、蛇足を付け加えておきます。

シリーズ記事を通して、私は分岐順優先の記述をしてきました。

これは、たとえば人類の進化を語る際に、原始的なものから順にたどっていくと理解しやすいという発想を大切にしたからです。

しかしながら、分岐分類および分子系統解析(距離行列法を除く)のいずれにおいても、解析の手順は「派生形質をもっとも多く共有する分類群同士を互いに姉妹群として枝と枝をくっつける作業を繰りかえしながら、系統を古い時代に遡る方向に進みながら系統樹を組み立てていきます。

そのため、今回の記事では、尤度や事後確率の数値を添えて姉妹群を評価する記述を、その直前の記述(分岐順について述べている)と関連づける際に、読者の皆さんに混乱を与えた可能性があったのではと危惧します。

もし、その部分が何を言いたいのか分かりにくかったという印象をお持ちの方は、この分岐分析、分子系統解析の分岐確定手順や尤度について基本を押さえた上でもう一度私の比較検討の記述を読み返されると少しは理解していただけるかもしれません。

私自身は、大学院では昆虫の行動・生態を研究テーマとしてはいましたが、動物系統分類学講座に所属していましたので、様ざまな動物の比較解剖学の実習を受けたり、Hennig(1966)*の分岐分類学の大著(英語)を輪読したりと、系統分類学の理論と実際に関するトレ―ニングも積みました。

とはいえ、私が小規模な地方国立大学に奉職して以降に興隆した分子系統学については、直接遺伝子の抽出や配列決定などに直接携わった経験はなく、共著論文(Masaki et al. 2016 → こちらの過去記事参照)の作成過程で分子系統解析のデータの解釈の議論に参加したり、大学(大正大学、非常勤)での動物生態学の講義に際して教科書中の分子系統関連の記述を学生に簡単に解説した程度でした。

というわけで、今回のシリーズ記事内での分子系統関連の記述には不正確な点や誤解を与える点が含まれているかもしれません。

今後、気づき次第、訂正しますし、読者の皆さんからのご指摘もお待ちしています。


引用文献(後書き関連)

Willi Hennig (1966) Phylogenetic Systematics. (tr. D. Davis and R. Zangerl), Univ. of Illinois Press, Urbana.

Sinzo Masaki, Masayuki Soma, Hidenori Ubukata, Haruo Katakura, Rie Ichihashi, Zhuqing He, Nobuaki Ichijo, Norio Kobayashi & Makio Takeda (2016) Ground crickets singing in volcanic warm “islets” in snowy winter: Their seasonal life cycles, photoperiodic responses and origin. Entomological Science, 19(4), 416-431.



Refereces (引用文献:ヤンマ科の系統樹関連)

Bechly, G. (1996) Morphologische Untersuchungen am Flügelgeäder der rezenten Libellen und deren Stammgruppenvertreter (Insecta; Pterygota; Odonata) unter besonderer Berücksichtigung der Phylogenetischen Systematik und des Grundplanes der *Odonata. - Petalura, spec. vol. 2: 402 pp, 3 tabls, 111 figs (revised edition with 60 pages English appendix on the phylogenetic system of odonates). (Bechly 2007から間接引用)

Bechly, G. (2007) Phylogenetic Systematics of Euanisoptera / Aeshnoptera.

Carle, F. L. , K. M. Kjer & M. May. (2015) A molecular phylogeny and classification of
Anisoptera (Odonata). Arthropod Systematics & Phylogeny. 73(2): 281-301.
2018.8.25.アクセス

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

von Ellenrieder, N.(2002) A phylogenetic analysis of the extant Aeshnidae(Odonata: Anisoptera). Systematic Entomology (2002) 27, 437-467.
2018.8.25.アクセス



引用文献(分子系統学一般)

梶田 忠 (2012) 「授業/H24/進化生物学I/系統樹に関する基本用語」。

川端 猛 (2010) 「分子系統学基礎」。平成22年度・近畿大学・農学部・生命情報学(講義資料)


三中信宏  (2009) 「分子系統学:最近の進歩と今後の展望」。 植物防疫,63(3): 192-196.

村上勝彦 (2009) 「分子系統解析」。バイオインフォマティクスの基礎:分子生物学データベース(講義資料)

仲田崇志 (2006) 「Bayes 法(ベイズ法)の原理」。


大島研郎 (2016) 「生物配列解析基礎 」。分子系統学の基礎 (講義資料)。

下平英寿 (2003) 「系統樹の推定」。バイオインフォマティクス(分子系統樹の推定)の体験的入門5.

田辺晶史 (2015) 「分子系統学演習 データセットの作成から仮説検定まで」。



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