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2018-11-01 (Thu)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征*の2日目は、地元の昆虫研究家、飯田貢さんらのご案内のもと、1日目とは方面の異なる地域の4カ所を順に訪れ、南国のトンボ、ベニトンボを含む多様な虫達との出会いを経験することができました。

(* この四国でのトンボ探訪記は、シリーズ物として、これまでに16編の記事にしています[記事一覧はこちら])。

第17報の今回は、この日3番目の訪問地である、低山地の溜池でベニトンボとともに見られたマユタテアカネ Sympetrum eroticum (Selys, 1883) 写真1)とヤマトシリアゲ Panorpa japonica  (Thunberg,1784) 写真7)について取り上げます。

マユタテアカネ♂ 
写真1(再掲) マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂ (同一個体)(写真はクリックで拡大します)


第三の訪問地:低山地の溜池

写真2が、ベニトンボ、マユタテアカネを観察したその溜池です。

広葉樹主体の森林に囲まれ、静かなたたずまいをしていました。

ベニトンボが生息する溜池 
写真2 ベニトンボ、マユタテアカネが見られた溜池

溜池の堤体の土手(写真2、左下)には雑草が生い茂っており、多くのベニトンボ成虫(羽化後間もない個体から十分成熟した個体までの♂♀)が滞在していました(前々回記事参照)。

写真2の堤体に沿って目を右方向に転じると、ゆるやかな土砂の斜面があり、今回のマユタテアカネは、その土砂が作り出した浅い水辺で活動していました(写真3)。

ベニトンボ、マユタテアカネの見られた溜池 
写真3 マユタテアカネの活動が見られた溜池の一角

写真3の左の建造物のコンクリート円柱は、前回記事で報告したベニトンボの羽化殻が取り付いていた場所です。

マユタテアカネは、コンクリート堤体と土砂岸の境界部に注ぐ細流(観察当日は流量なし)の「河口部」で見られました。

写真4,5は、その浅瀬の水際で連結打水産卵をしているマユタテアカネのカップルです。‏‎(時刻:11:49:12~11:49:50)

マユタテアカネ連結産卵 
写真4 マユタテアカネ Sympetrum eroticum 連結産卵

マユタテアカネ連結産卵 
写真5 マユタテアカネ Sympetrum eroticum 連結産卵 (同一カップル)

ひたひたに水につかった砂礫の水面をリ、ズミカルに、繰りかえし打水していました。

マユタテアカネの産卵は、当ブログ初登場となりました。

岸沿いに少し移動すると、単独♂の なわばり占有も見られました(写真6,1再掲)。‏‎(時刻:11:51:04‏‎~11:51:40)

マユタテアカネ♂ 
写真6 マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂ (別個体)

写真6写真1(再掲)とほぼ同じ態勢ですが、一瞬、頭部を少し上向きにしたシーンです。

マユタテアカネ♂ 
写真1(再掲) マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂ (同一個体)

マユタテアカネの単独の成熟♂の静止写真は、これまでも何度か、当ブログに登場しています(こちらに関連記事一覧)。

以上で、この溜池で見たトンボについての紹介は全て終わりました。

以下は付け足しになりますが、実は、これが溜池付近で最初に見かけた昆虫でした。


ヤマトシリアゲ、これもインパクトあり

この池への入り口近くの路肩に駐車して、踏み分け道を登りかけた時に出迎えてくれたのは、トンボではなく、シリアゲムシ目(長翅目)の昆虫でした(写真7)。

ヤマトシリアゲ 
写真7 ヤマトシリアゲ Panorpa japonica

※帰宅後ネット上の、Tsukijiさんの「むしなび」Kawabeさんの「昆虫エクスプローラ」、ほかのサイトを参考にして検討した結果、写真7の昆虫は、ヤマトシリアゲ Panorpa japonica と同定できました。

翅の模様の独特なパターンが判定の決め手となりました。

腹部の黄褐色から赤褐色と黒色の横縞模様と、鋭く尖った腹先はハチ目の昆虫と紛らわしいほどです。

腹部が背方に反り気味なのも、近づく動物に殺気を感じさせるのではないでしょうか。

このあたり、構想中の、擬態をテーマにした記事の中で再度取り上げたいと思います。

今回の記事を以て、2日目の第三の訪問地での観察報告は全て終了しました。

本シリーズの次回記事では、2日目の最後、第四の訪問地で見た昆虫達を取り上げる予定です。


謝 辞
現地に案内して下さった飯田貢さんに謝意を表したいと思います。


引用文献:

Takuro Tsukiji:むしなび:「シリアゲムシ目」
Retrieved on 30 October 2018.

Toru Kawabe:昆虫エクスプローラ:「虫の写真図鑑 Cyber昆虫図鑑 シリアゲムシ目(長翅目)[シリアゲムシ図鑑]」
Retrieved on 30 October 2018.


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2018-10-30 (Tue)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征*の2日目は、地元の昆虫研究家、飯田貢さんらのご案内のもと、1日目とは方面の異なる地域の4カ所を順に訪れ、南国のトンボ、ベニトンボ Trithemis aurora (Burmeister, 1839) を含む多様な虫達との出会いを経験することができました。

(* この四国でのトンボ探訪記は、シリーズ物として、これまでに15編の記事にしています[記事一覧はこちら])。

第16報の今回は、第15報「ベニトンボとの再会」(成虫編)に引き続き、低山地の溜池(写真2)で見た、ベニトンボ写真1)の羽化殻について取り上げます。

ベニトンボ♂  
写真1 ベニトンボ Trithemis aurora  前回記事から再掲)(写真はクリックで拡大します)


目 次:
 ◆第三の訪問地:低山地の溜池
 ◆羽化殻発見場所の状況
 ◆飯田さんが観察していたのがベニトンボ羽化殻
 ◆ほかにもいくつかの羽化殻が
 ◆ボルダリング選手も顔負けの終齢幼虫の登攀術
 ◆ベニトンボ終齢幼虫の登攀技術とその進化プロセス
 ◆幼虫の脱殻の強度も驚異的
 ◆昆虫のクチクラの洗練された層構造
 ◆羽化殻写真から種の同定を試みる
 ◆調査対象としての羽化殻の価値
 ◆謝辞
 ◆引用文献


第三の訪問地:低山地の溜池

写真2が、ベニトンボの成虫♂♀そして羽化殻を観察することができた、この日3番目の訪問地である、低山地の溜池です。

ベニトンボが生息する溜池 
写真2 ベニトンボが生息する低山地の溜池 前回記事から再掲)

溜池の堤体の土手(写真2、左下)は雑草が生い茂っており、多くのベニトンボ成虫(羽化後間もない個体から十分成熟した個体までの♂♀)が滞在していました(前回記事参照)。


羽化殻発見場所の状況

写真2の堤体に沿って目を右方向に転じると、ゆるやかな土砂の斜面があり、その水辺には高床式の建造物(監視塔?)がありました。

その建造物を支える数本の太いコンクリート円柱の一部は浅い水面から立ち上がっていて(写真3)、その表面は若干風化してザラザラと砂礫が露出しています。

ベニトンボの羽化殻が残されていたコンクリート柱 
写真3 ベニトンボの羽化殻が残されていたコンクリート柱(山本桂子さん撮影)

その円柱面と向き合う位置にたたずみ、飯田さんが、じっと何かを観察しています。

私も、そーっと近づきます。

飯田さんが円柱面の一カ所を指さして、私に目くばせしました。


飯田さんが観察していたのがベニトンボ羽化殻

指さす先には、トンボ科に属する種の羽化殻が残されていました(写真4)。

ベニトンボ羽化殻 
写真4 ベニトンボ Trithemis aurora 羽化殻

「これ、ひょっとして、ベニトンボ?」と、私。

「そうなんですよ。ここで生まれて育つベニトンボが間違いなく増えている証拠なので、注目していました。」と、飯田さんの明快な答え。

私は、成虫はともかく、羽化殻まで観察できるとは予想もしていませんでしたので、ちょっとした感激を覚えました。

このような機会を用意してくれた飯田さんに感謝です。

写真3には、その羽化殻を顕微鏡モードで狙っている私のセカンドカメラ(TG-5)が写っています。

写真3からは、その羽化殻の取りついている位置が、水面上約1m程度であることが見てとれます。


ほかにもいくつかの羽化殻が

さて、他にも羽化殻はないかと、私も蟹歩きをしながら、円柱の表面を眼でスキャンしました。

その結果、労せずして、次々と別の羽化殻が見つかりました(写真5、6、)。

ベニトンボ羽化殻 
写真5 ベニトンボ Trithemis aurora 羽化殻 (別個体)

下の写真6の場合、1本隣の円柱も写っています。

ベニトンボ羽化殻 
写真6 ベニトンボ Trithemis aurora 羽化殻 (更に別個体)

写真7は、また別の羽化殻を真横から撮ったものです。

ベニトンボ羽化殻 
写真7 ベニトンボ Trithemis aurora 羽化殻 (更に別個体)


ボルダリング選手も顔負けの終齢幼虫の登攀術

さて、終齢幼虫は、鉛直の壁面にどのように取りつき、羽化前後の体重を支えるのでしょうか?

また、羽化の途中に多少の風や雨が振りかかっても脱落しないようにするために、どのような工夫をしているでしょうか?

人間がコンクリートダムの壁面を、これらの羽化殻と同じような姿勢で昇り降りしたり、しがみついたまま休息している動画をSNSにアップしたとしたら、あっというまに百万回を超える閲覧があるのではないでしょうか。

新オリンピック種目であるスポーツクライミングの一競技、ボルダリングでは、選手が、鉛直あるいはオーバーハングした壁面を、そこから突き出た石を模した突起に指2本程度をかけて全体重を支え、さらにスイングまでしながら登っていきます。

この競技をテレビ放映などで見ると、人間の身体能力の限界の広さに驚かされます。

ベニトンボの終齢幼虫は、ボルダリングの場合のように選ばれた選手ではなく、原則として全員がこの登攀術を身に着け、やりぬくのですから、更に驚かされます。

横道にそれた話が長くなりました。


ベニトンボ終齢幼虫の登攀技術とその進化プロセス

それでは、写真4~7の羽化殻の壁面への取り付き方をチェックしてみましょう。

写真4,6,7
・両前脚、両中脚の爪は、爪先が下向き(重力方向)になるように、コンクリートのザラザラ砂粒にかけている。
・両後脚の爪は、下向き上向き(重力と逆方向)になるように、砂粒にかけている。
・このようにして、6本の脚で上下から壁をグリップするかたちで、脱落を防止しつつ、体重を支えている。

写真5:
・両前脚、両中脚は、円柱壁面に繁茂し、枯死した後も壁面に張りついたままの植物繊維に、爪をからめている。
・両後脚は、(写真4,6,7同様に)上向きに爪をたてていて、前脚中脚と連携してグリップし、脱落を防止しつつ、体重を支えている。

このように、誰にも教わることなく、ぬかりのないぶら下がり方を具現化し、幼虫期からの脱皮をやり遂げていることがわかります。

ただし、何十・何百という個体の羽化機会の中には、羽化中に地面や水面に落下し、翅は胴体が変形したり、運が悪ければ命を落とすものもあるはずです。

このようなことが繰り返される中で、より確実に羽化を完遂できる登攀術をプロデュースしている遺伝子群が個体群の中で比率を高め、現在のような高い能力を鍛造してきたといえるでしょう。


幼虫の脱殻の強度も驚異的

羽化あるいは脱皮する前の幼虫では、外骨格の外層をなすクチクラは真皮で裏打ちされ、更に体節間は鎹(かすがい)のように筋肉によってつなぎ留められています。

したがって、脱皮前の外骨格そのものはもちろん、脚の各節の間にある関節も、爪と跗節の間の関節も、重力に起因する張力によって破断される危険性は、脱殻にくらべて多少なりとも低下しているはずです。

しかし、羽化後に殻となってしまったほうの関節は、薄いクチクラ1枚でつながっている状態であるにもかかわらず、羽化前とほぼ同じ体重の新成虫を支えているのですから、このクチクラの構造が持つ、引っ張り力への耐性の強さには驚嘆せざるをえません。


昆虫のクチクラの洗練された層構造

昆虫の外骨格の表面寄りの硬い層は、クチクラと呼ばれます。

脱皮とは、このクチクラの部分を、その中に出来上がった、次の齢期の幼虫または成虫が、脱ぎ捨てることです。

そのあたのより詳細な説明を、島田・普後(2014)から抜粋して、以下に紹介します(引用文中のブラケットで括った部分は引用者による注記)(拝借画像1も参照)。

「昆虫は外骨格をもつ動物なので、エビやカニと同様に成長に伴って脱皮する。昆虫の皮膚は、体腔と皮膚を隔てる基底膜の外側にある真皮細胞と、その外側の硬いクチクラ層から成っている。[中略]幼虫がある一定の大きさになると、真皮細胞はクチクラ層の内側に新しいクチクラを作り、外側の古いクチクラを脱ぎ捨てる」

クチクラを含めた、昆虫の外骨格の層状構造について解説した部分を、日本大百科全書(ニッポニカ):「昆虫」:「(4)外骨格」から、以下に抜粋しておきます(拝借画像1も参照)。

「昆虫の体は、外骨格とよばれるじょうぶな硬い皮膚に覆われ、それは外側の表皮(クチクラ)、真皮、内側の薄い基底膜の3層からなっている。[中略]表皮[クチクラ]の外層は4マイクロメートル以下の上クチクラであって、セメント、ワックス、ポリフェノール、クチクリンの4層からなり、この下に薄層が多数重なって構成された外クチクラ内クチクラの2層がある。クチクラはおもに窒素を含む多糖類であるキチン質とタンパク質からなっており[中略]。この物質[スクレロチン]はきわめて堅く[中略]。[中略]脱皮のときに内クチクラ層を溶かす脱皮液も真皮から分泌する。」(こちら(外部リンク)で原文および関連画像が閲覧可能)。

※ ほぼ同様の内容を、より詳しく説明した英文サイト(詳細な図入り)はこちら(外部リンク:Anonymous: Insectsexplained: Insect Exoskelton)。

下の図(拝借画像1)は、昆虫の外皮の構造(断面)の模式図です。

Section of insect integument
拝借画像1 昆虫の外皮の断面図 Section of insect integument (By Xvazquez (File:Cuticula.svg on wikipedia) [CC BY-SA 3.0 ], via Wikimedia Commons)
A: Cuticle and epidermis クチクラと真皮; 
B: Detail of the epicuticle 上クチクラの詳細.
  1: Epicuticle 上クチクラ  
   1a: Cement セメント
   1b: Wax layer ワックス層
   1c: Outer epicuticle 上クチクラ外層  
   1d: Inner epicuticle 上クチクラ内層
   2+3: Procuticle 原クチクラ 
    2: Exocuticle 外クチクラ 
    3: Endocuticle 内クチクラ  
  4: Epidermal epithelium 真皮の上皮
  5: Basement membrane 基底膜
  6: Epidermal cell 真皮細胞
   6a: Pore Canal 孔管
  7: Glandular cell 腺細胞
  8: Tricogen cell 生毛細胞
  9: Tormogen cell 窩生細胞
 10: Nerve ending 神経終端
 11: Sensory hair (sensillum) 感覚毛
 12: Seta 剛毛
13: Glandular pore 腺孔
(凡例の日本語訳は一部仮訳を含みます)

以上の解説からわかるように、昆虫のクチクラは、薄いけれど強靭な4層の上クチクラとその下のより厚い外クチクラと内クチクラの両層から成り立っており、脱ぎ捨てられた殻は内クチクラ以外のすべての層をそのまま温存していることになります。

この層状構造と、それを構成するキチンやスクレロチンなどの物質が、ベニトンボの羽化殻を含め、昆虫達のクチクラの強靭さを支えているということになります。

このクチクラの構造は、系統発生においてトンボ目が出現する以前にすでに獲得されていたはずですので、今回の記事で取り上げたベニトンボの羽化殻の強靭さは、この「よき伝統」を受け継ぎ、その恩恵に浴しているといえるでしょう。


羽化殻写真から種の同定を試みる

さて、今回取り上げた羽化殻は、ベニトンボのものであるむね、現地で飯田さんにより確認済みでしたが、ブログ記事作成に際して、改めて私自身による同定も試みました。

参考にしたのは、杉村ほか(1999)の『原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』です。

その結果、以下の点から、ベニトンボの羽化殻であると再確認できました。
・背棘が腹部第4~9節にある(第3節は不明瞭)。
・背棘の形は、写真7のように腹節後端を越えて鋭く突出する。
・側棘は第8,9節にあるが微小である。
・複眼はやや大きい(チョウトンボ属のように小さくない)。

ただし、写真を拡大すると粒子が粗くなり、細部の判別がつかなくなることもあり、羽化殻を極少数採取して持ち帰っていれば、同定はより容易かつ確実であったはずです(言わずもがなですが)。


調査対象としての羽化殻の価値

以下、一般論としての、羽化殻の調査対象としての価値について触れておきます。

羽化殻は地味な存在ですが、そこに卵が産みつけられ、幼虫が最後まで育つことができたことの証となります。

「成虫がいた・いない」のデータ、「面積(or 岸沿いの単位距離)の成虫個体数」データも、それなりに貴重ですが、たとえそこで産卵したとしても幼虫が生き延びて羽化するとは限りません。

つまり、成虫だけでは、その観察された特定の水域を生息地としている完全な証拠とはなりません。
そこが、(データを容易に得ることができる)成虫の活動個体数調査の弱点です。

羽化殻は、写真の対象としては美しさの点で成虫には及びませんが、生態研究や生物多様性保全につながる貴重な観察対象として、今後もっと注目されてしかるべきでしょう。

ただし、成虫とちがって、写真だけからは種の同定が困難な場合が多いので(上述のとおり)、まずは現場写真を撮影した上で、2,3個の羽化殻を採集してプラスチックケース等に収容して持ち帰り、帰宅後、虫メガネ(もしあれば実体顕微鏡)で観察しながら幼虫図鑑と比較することが、正確な同定のためには必要になります。

羽化殻ですので、成虫や幼虫を採集して持ち帰るのとは異なり、個体群に悪影響を及ぼしませんので、お薦めの生息状況調査方法といえます。

ただし、調査の際の湿地の踏み荒らしが景観や生物の生息条件に悪影響を与えないよう、特段の注意を払いたいところです。

さて、本シリーズの次回記事では、同じ場所で見られたマユタテアカネとシリアゲムシについて取り上げる予定です。


謝 辞
現地に案内して下さった上にベニトンボの羽化状況について解説された飯田貢さん、有用な写真を提供された山本桂子さんに謝意を表したいと思います。


引用文献

Anonymous: Insectsexplained: Insect Exoskelton.
Retrieved on 29 October 2018.

日本大百科全書(ニッポニカ):「昆虫」:「(4)外骨格」
Retrieved on 29 October 2018.

島田 順・普後 一 2014 脱皮と変態の仕組み。科学なんでも相談室での回答。http://www2.science.med.tuat.ac.jp/home/questions/answers/no21%E3%80%90zhiwen%E3%80%91kunchongnotuopitobiantai

杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司 (1999) 『原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』。北海道大学図書刊行会。


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2018-10-26 (Fri)
四国遠征*の2日目は、地元の昆虫研究家、飯田貢さんらのご案内のもと、1日目とは方面の異なる地域の4カ所を順に訪れ、南国のトンボ、ベニトンボを含む多様な虫達との出会いを経験することができました。

(* この四国でのトンボ探訪記は、シリーズ物として、これまでに14編の記事にしています[記事一覧はこちら])。

第15報の今回は、この日3番目の訪問地である、低山地の溜池(写真2)で観察した昆虫類のうち、ベニトンボ Trithemis aurora (Burmeister, 1839) の成虫(写真1)について取り上げます。

ベニトンボ♂ 
写真1 ベニトンボ Trithemis aurora  (写真はクリックで拡大します)

目 次:
 ◆ベニトンボと私
 ◆第三の訪問地:低山地の溜池
 ◆草むらのベニトンボ♀
 ◆ベニトンボ未成熟♂
 ◆ベニトンボ成熟♂
 ◆水辺でナワバリ占有するベニトンボ♂
 ◆なわばり防衛戦略について
 ◆次回以降記事予告
 ◆謝辞
 ◆引用文献


ベニトンボと私

ベニトンボは、日本では鹿児島県に局地的に生息していただけでしたが、1980年代以降、台湾方面から分布域の北上が目立ち(杉村ほか1999、尾園ほか2012)、現在では九州・四国の南半分を覆うまでに拡がっています(尾園ほか2012)。

私がベニトンボと初めて対面したのは、2010年5月に沖縄県下で短期間のトンボ・トリップを行った際のことです。

北国(北海道東部)のトンボたちの色彩に馴染んでいた私の眼には、その鮮やかな紅色は、南国的な背景の中で、強烈な印象を与えるものでした。

その時に撮影した1頭の♂の写真はお気に入りで、私のブログやSNSでロゴ代わりの役目を務め続けて、もう4年になります(ご覧のブログの左上隅の写真、そしてこちらこちらこちらを参照)。


第三の訪問地:低山地の溜池

写真2が、ベニトンボとの再会の場となった、この日3番目の訪問地、低山地の溜池です。

ベニトンボが生息する溜池 
写真2 ベニトンボが生息する低山地の溜池

私たちは、11時11分にこの溜池に到着しました。

思っていたよりも広い溜池で、広葉樹主体の森林に囲まれ、静かなたたずまいをしていました。

溜池の堤体の土手(写真2、左下)には、雑草が生い茂っていて、小さな虫が飛び回っていました。


草むらのベニトンボ♀

その草々の間に、小さなトンボの姿もありました(写真3)。(時刻:11:14:44)

ベニトンボ♀ 
写真3 ベニトンボ Trithemis aurora 

一見、アカネ属のようにも見えますが、翅胸前面の黄色と黒のハッキリした模様、そして翅胸側面の独特な形をした黒斑は、アカネ属には見られないものです。

ベニトンボの♀に違いありません(尾部上付属器が単純で短いことから、♀と判別可能)。

「ベニトンボの♀がいますね。」と、私がつぶやくと、

「こっちにも♀、いますよ~。」

「♂、いたよ~。」

と、賢悟さんや山本さんからも、呼び声が。

※ 帰宅後の図鑑照合により、ベニトンボ♀であることを再確認しています。

4分後には、同じ草むらの中に、ベニトンボ♀の別個体を見付け、撮影しました(写真4)。

ベニトンボ♀ 
写真4 ベニトンボ Trithemis aurora ♀ (別個体)

翅脈もしっかり黒化し、体を水平近くに保って、シャキっととまっています。

腹部もスマートなことから、尾部付属器をよく確認しないと♂と間違えかねないスタイルです。


ベニトンボ未成熟♂

この後、草にとまるベニトンボの成熟♂たちがすぐに見つかり(写真1;  11:22:36)、様ざまな角度から撮影しましたが、その後で撮影したベニトンボの未成熟♂の写真を先に掲げることにします(写真5、6;11:32:14)。

ベニトンボ♂未熟 
写真5 ベニトンボ Trithemis aurora 未成熟♂

写真5の♂個体を、色彩が一見よく似た、写真4の♀と比べてみます。
・翅胸部と腹部の長さの比は、♂のほうが大きい(つまり腹部がより細がない)。
・腹部(とくに第4~8節)の黒斑は♂で目立たない。
・翅脈は♀では基部付近を除いて黒いが、♂では後縁と前縁の縁紋から先を除いて橙色。
・複眼の発色が写真4の♀に比べて弱い(これは成熟途上のため)。

草むらには、別の未成熟♂も同じように草にぶら下がり、とまっていました(写真6)。‏‎(時刻:11:33:36)

ベニトンボ♂未熟 
写真6 ベニトンボ Trithemis aurora ♂未熟 (別個体)

腹端部が草に隠れていて、作品としては不合格ですが、翅胸側面の模様が見えていることや、翅がまだ硬化しきっておらず、後縁部を含め翅脈の黒化が進んでいないことが見てとれることから、掲げます。

硬化や黒化が進んでいないことから、羽化後まだ日が浅い個体であることがわかります。


ベニトンボ成熟♂

写真掲載順が前後しましたが、未成熟♂よりも先に、土手の草むらで見つかったベニトンボ成熟♂がこれです(写真7)。(時刻:11:22:36)

ベニトンボ♂ 
写真7 ベニトンボ Trithemis aurora 

体軸を水平よりも30度ほど前傾させています。

草むらですので、婚活というより、採餌がメインでしょう。

したがって、餌になる昆虫が多そうな方向に体軸を向けているものと思われます。

実際、土手も画面右下方向に傾いていて、草の茎頂や葉先付近を飛び回る小昆虫は、このトンボが向いている方向の視界を多く横切るはずです。

背景中央部の黄色い部分は、キク科植物の頭花部分です。

写真8は、別の♂個体です。

ベニトンボ♂ 
写真8 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (別個体)

写真5写真6の未成熟♂がぶら下がり傾向だったのに対し、写真8の♂は見事に体を水平にキープしています。

もしかすると、婚活中の♀は、単に♂の着飾る衣装の鮮やかさに惹かれるだけでなく、♂の精悍さや機敏さも密かに品定めしているのかもしれません。

もしそうだとしたら、このように綺麗にバランスをとり、いつでも飛び立てるような態勢でとまる♂は、♀達のお眼鏡にかなうのではないでしょうか。

写真9は、更に別の♂個体です。

ベニトンボ♂ 
写真9 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (別個体)

背面からのショットです。

翅基部の暗赤褐色の斑紋が、「われ、ここに在り」と言わんばかりの存在感を放っています。

写真1(再掲)も別個体です。(時刻:11:29:24)

ベニトンボ♂ 
写真1(再掲) ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (別個体)

写真1は、写真7を左右逆にしたようなシーンですが、キク科草本のしおれた黄色い花びらにとまっている小技を買いました。

写真10は、写真1と同一個体です。

ベニトンボ♂ 
写真10 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (同一個体)

顔が正面から見えるショットです。

その、顔の部分をトリミングして拡大したのが、写真10Bです。

ベニトンボ♂部分拡大 
写真10B ベニトンボ♂部分拡大 (写真10と同じ)

ベニトンボ♂の顔をこの角度から見ると、前額*の背面に金属光沢のある濃青紫の斑紋があり、歌舞伎役者の隈取りのように、存在感を強めている印象を受けます。

(*注:前額[ぜんがく]とは、頭部で、複眼よりも前方の部分のうち、上半分の部分。ただし、単眼や触角が出ている額瘤[がくりゅう]を除く。)


水辺でナワバリ占有するベニトンボ♂

20分ほどで土手の草むらでのトンボ観察を終えて、コンクリートで固められた堤体の水辺方向に目をやると、そちらでもベニトンボ♂が活発に活動していました。(時刻:11:34:54)

その♂は、コンクリート斜面の、水辺から15cmくらいの位置にとまり、水面方向をじっと見ています(写真11、12)。

ベニトンボ♂ 
写真11 ベニトンボ Trithemis aurora ♂(別個体)

ベニトンボ♂ 
写真12 ベニトンボ Trithemis aurora ♂(同一個体)

この♂は時おり飛び立って、水面上をパトロール飛行し、またほぼ同じ位置に戻ってとまる行動を見せていました。

私が堤体づたいに少し移動すると、今度は、水面から突き出した枯れ枝の先端にとまって、なわばり占有している別のベニトンボ♂がいました(写真13~18)。‏‎(時刻:11:44:02)

ベニトンボ♂ 
写真13 ベニトンボ Trithemis aurora ♂  (別個体)

写真13では、体後部を水平に対して60度ほど挙上させています。

枯れ枝にできた蔭からわかるように、腹部を太陽光線に対して平行になる方向ではなく、直角といっても過言でない方向に保持していることから、受光量を減らして体温上昇を防止するための腹部挙上姿勢ではないことがわかります。

ベニトンボ♂ 
写真14 ベニトンボ Trithemis aurora ♂(同一個体)

写真14は、ほぼ真正面です。
この角度から見ると、♂の左右に広がった腹部、そして少しすぼめた左右の翅が構成する左右対称の立体造形は、なかなかの美術作品です。

♂の体色の紅色化をもたらしたのが、♀による♂選択*であったとしたら、ベニトンボの祖先の♀にも、人間に劣らない審美眼があったのでは、と考えるのは買いかぶりすぎでしょうか。

(*注:このほか、♂同士の なわばり争いに紅色が有利であったことが、より紅色の強い♂がより多く交尾し、より多くの子孫を残せたという、♂間の同性間選択という進化過程も考えられます。)

写真15は、同じ♂個体ですが、左前脚で左の複眼の表面をこすっています。
 
ベニトンボ♂ 
写真15 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (同一個体)

何か塵でもついていたのでしょうか?

写真16も同じ♂です。

ベニトンボ♂ 
写真16 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (同一個体)

腹部第5~7節付近の左右幅の広がりが印象的です。

写真17も同じ♂ですが、何かを目で追うように頭部を右下方向に向けています。

ベニトンボ♂ 
写真17 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ 右向く (同一個体)

写真18も同じ♂です。

ベニトンボ♂ 
写真18 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (同一個体)

写真16とほぼ同じ角度からの写真ですが、腹部がやや長く、横幅もやや狭く見えます。

この違いに、当初、別個体の可能性を疑いましたが、翅脈の細部までも一致していたので、同一個体と確認できました。

撮影角度(写真18はほぼ真横の斜め上から、写真16は、やや後方のより背方から)の違いが影響したのでしょう。

このほかに、呼吸運動によって、腹部が上下方向に膨らんだり凹んだりするケースも考えられ、その影響もあるかもしれません。


なわばり防衛戦略について

以上、写真13から写真18まで、同一♂個体がとった様々なポーズをご紹介しました。

お気づきのように、1枚ごとに体軸の水平面上の向きが替わっています。

これは、飛び立ってパトロールしてすぐに戻ってとまるのを繰り返していたためですが、その中には同種♂個体を軽く追い払って戻ったケースもあったことから、池の岸近くの水面の一定範囲を連続的に占有し、同種♂に対して防衛する なわばり防衛という戦略(行動オプション)をこの個体が採用していたことがわかります。

言うまでもなく、そこにやってくる♀を真っ先に発見して連結・交尾する機会を最大化できる利点benefitをなわばり見回り、防衛というコストcostを払ってわが物にしていることになります。

利点・コストの差引勘定は最終的に残した子孫の数で表わされることになります。


次回以降記事予告

この池ではベニトンボの成熟・未熟成虫に加えて、羽化殻も観察することができました。
それについては次回記事で報告します。

また、他にも、マユタテアカネ、ヤマトシリアゲ(シリアゲムシ科)も観察していて、それらについては次々回記事で取り上げます。


謝 辞
現地に案内して下さった飯田貢さん、観察中にアドバイスされた、飯田さん、山本桂子さん、高橋賢悟さんに謝意を表したいと思います。


引用文献

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』。 文一総合出版。

杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司 (1999) 『原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』。北海道大学図書刊行会。


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2018-10-22 (Mon)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征*の2日目は、地元の昆虫研究家、飯田貢さんらのご案内のもと、1日目とは方面の異なる地域の4カ所を順に訪れ、南国のトンボ、ベニトンボを含む多様な虫達との出会いを経験することができました。

(* この四国でのトンボ探訪記は、シリーズ物として、これまでに13編の記事にしています[記事一覧はこちら])。

第14報の今回は、前回記事に続いて、この日2番目の訪問地である沢地の林縁草地で見た虫達についての「その2」として、2種のクモ、すなわち、オオトリノフンダマシ Cyrtarachne inaequalisトリノフンダマシ Cyrtarachne bufo 写真1)についての報告です。

トリノフンダマシ 
写真1 トリノフンダマシ Cyrtarachne bufo(写真はクリックで拡大します)


目 次:
 ◆第二の訪問地(沢地):トリノフンダマシたちに出会った場所
 ◆オオトリノフンダマシとの出会い
 ◆オオトリノフンダマシとの出会い
 ◆画像を回転させると、おやおや!
 ◆紡錘形の揺りかご?
 ◆トリノフンダマシも控えていた
 ◆似ているのは鳥の糞、それともカエル?
 ◆またまた180度回転!
 ◆ポツンと一つ、円い揺りかご
 ◆SNSでのオオトリノフンダマシ画像への反響
 ◆謝辞
 ◆引用文献


第二の訪問地(沢地):トリノフンダマシたちに出会った場所

この訪問地(写真2)は沢地の片斜面がやや平坦になった場所で、向い及び背後の斜面は鬱蒼とした樹林(主に広葉樹)になっていました。

マユタテアカネ、ナツアカネのいた沢地の林縁草地 
写真2 トリノフンダマシ2種が見られた沢地の林縁草地 (前回記事から再掲)

観察ポイントは、その平坦地の一角で、セイタカアワダチソウなどの草本や幼木・低木が生い茂っているところです。

この訪問地には、午前10時少し前に到着して、皆で林縁部の低木の枝葉や、草の葉先などに虫たちの姿を求めました。


オオトリノフンダマシとの出会い

そこで、トンボよりも何よりも先に、私の目に入った虫は、奇妙な色かたちをした1頭のクモでした(写真3)。(時刻:‏‎10:04:04)

オオトリノフンダマシ 
写真3 オオトリノフンダマシ Cyrtarachne inaequalis

大きな三角形の腹部の前方には小さな頭胸部が、申し訳のように、ついていて、折り畳んだ長めの脚が2~3対と小さな触手が見えていることから、クモの一種だというところまでは見破ることができました。

近くで別の虫を探していた飯田さんに、「このクモ、何ですかね?」と私は尋ねます。

飯田さん:
「どれどれ。あ~! これはオオトリノフンダマシですよ。ちょっと探せば卵嚢も見つかると思いますよ。」

「そうなんですか。あまり鳥の糞に見えないですけどね。。でも面白い顔してますね。顔じゃないけど(笑)。。」
と、私。

顔に見えるのはクモの腹部ですが、その腹部背面の模様は、左右の二つの大きな眼でこちらを睨みつけているかのような錯覚を、見る者に起こさせるだろうと思います。

顔の形(実際は腹の形ですが)は逆三角形ですから、カマキリとかカエルの頭部を連想させます。


画像を回転させると、おやおや!

※ 帰宅後、ネット検索すると、カエルの他に、ヘビに似ていることに言及しているサイトも散見されました。

「でも、こんな逆三角で口を閉じていたら、カエルでもヘビでも、迫力がないでしょう!」と思いたくなります。

しかし、この画像を180度回転させてみたら。。。

ぱっくり口を開いて、舌なめずりしているではありませんか(笑)!」(写真4)。

オオトリノフンダマシ、180度画像回転 
写真4 オオトリノフンダマシ Cyrtarachne inaequalis (写真3を180度画像回転させたもの)

現地の観察の時には気づきませんでしたが、ネット上の情報によれば、この偽物の眼の周りの「隈取り」のような黒色の模様は、腹部の表皮の内側で体液が流動するために、ゆらゆら動くように見えるのだそう。

実際に、下記サイト(外部リンク)にアップロードされているオオトリノフンダマシ、もしくはその近縁種の動画では、その「活き活きした」動きを見ることができます。

Nicky Bay: "Mystery of the Pulsating Spider" (日本語訳:脈動するクモの神秘)
 
「その活き活きした動き」は、眼の周りだけでなく、下顎や舌にも見られます。

こうなると、このクモは、自分の体を、動くはずのない鳥の糞ではなく、目や口が動くカエルやヘビのような脊椎動物に似せているに違いない、という確信が生まれてきます。

※ この擬態の生態的メカニズムや進化プロセスに関しては、次回以降の記事で改めて取り上げる予定です。


紡錘形の揺りかご?

さて、観察地点に話をもどします。

私がオオトリノフンダマシの撮影を終えて、アカスジキンカメムシの1齢幼虫のサンプルを採取している、飯田さんにカメラを向けていた時です。

「あったよ~、オオトリノフンダマシの揺りかご!」と、同行の山本さんから声がかかりました。

「え、なにこれ?」と、口をあんぐりしながら、山本さんに引き続いて撮ったのが、写真5(オオトリノフンダマシ卵嚢)です。(時刻:‏‎10:05:08)

オオトリノフンダマシ卵嚢
写真5 オオトリノフンダマシ Cyrtarachne inaequalis の卵嚢

多くのクモが卵嚢をつくることは私も知っていましたが、このように紡錘形をして、しかも数個が寄り集まるようにぶら下がっているのを想像したことはありませんでした。


トリノフンダマシも控えていた

この訪問地では、この後、アカスジキンカメムシの1齢や終齢などの幼虫、そしてマユタテアカネの観察・撮影ができ、そろそろ次の目的地へ移動することになるかな、と思い始めていた時のことです(午前10時18分)。

飯田さんらお三方が、何かを見つけて盛り上がっています。

指さす先を除きこむと、そこにはまた別のクモが(写真1、再掲)。

トリノフンダマシ 
写真1(再掲)トリノフンダマシ Cyrtarachne bufo

オオトリノフンダマシと形や仕草は良く似ていますが、模様が随分ちがいます。

「あー!凄いですね。さっきのと別の種類じゃないかな?」と私。

飯田さん:
「こちらのほうが、トリノフンダマシです。可愛いでしょ?!」

「あ、はい。。」


似ているのは鳥の糞、それともカエル?

トリノフンダマシの学名は、Cyrtarachne bufo

Bufoはヒキガエルの属の学名ですから、このクモに学名をつけた分類学者は、この腹部の形や模様からカエルの顔を連想したのでしょう。

カエルにしては、ハート形の腹部の尖ったほう(腹端部)周辺が白っぽいところに違和感がありますが、たしかに大人しそうなカエルに見えなくはありません。

しかし、眼の模様のインパクトが弱いことと、白と灰色が不規則なグラデーションつきでミックスされていて、トリノフンダマシの方は、オオトリノフンダマシにくらべたら、少しは鳥の糞にも似ています。


またまた180度回転!

帰宅後、今回のブログ記事作成の過程で、トリノフンダマシの画像も180度回転させてみました(写真6)。

トリノフンダマシ、180度画像回転 
写真6 トリノフンダマシ Cyrtarachne bufo  (写真1を180度回転させたもの)

すると、どうでしょう。

口を半開きにして、太い舌をベロンと出し、こちらをジロジロ見ています。

葉の隙間からヘビかカエルが首だけ出し、こちら(潜在的捕食者)を挑発しているようです。
「来るなら来い」と。

こういう場合の賢明な対応は、「君子危うきに近寄らず」ではないでしょうか?

トリノフンダマシの腹面の色彩パターンと、頭胸部、脚、触手を含めた全体の形態表現は、上述のような対捕食者戦略としての擬態のように思われます。
 

ポツンと一つ、円い揺りかご

話を現地のその時刻に戻します。

同じ木の別の枝の葉に、またクモの卵嚢らしきものがぶら下がっているのを、飯田さんが指さして私に目くばせしました(写真7)。

トリノフンダマシ卵嚢 
写真7 トリノフンダマシ Cyrtarachne bufo の卵嚢

「これ、わかります?」と飯田さん。

「もしかして、これがトリノフンダマシの卵嚢?」と私。

「ピンポーン!」と山本さん。

飯田さんも頷きます。

「へ~。木の実と間違えそうですね。それも美味しくないやつに(笑)。」

一番弱い存在である、卵や初齢幼虫たちを、このように風雪から守り、天敵からも目を反らせさせるような袋、それも自分で紡いだものに収めて、少しでも多くの子孫を残そうとするこのクモを、少し尊敬してしまいました。

卵嚢を食い破って巣立つ子グモたちは、振り返り見ながら、「お袋さん、ありがとう。」と心の中でつぶやくのかもしれません(おとぎ話にしたとしたら)。


SNSでのオオトリノフンダマシ画像への反響

帰宅後、昆虫関連のSNSグループに、上掲のトリノフンダマシ2種の画像を、マユタテアカネおよびアカスジキンカメムシの画像とともに、投稿したところ、グループメンバーのお一人である、有本 智さんから、「オオトリノフンダマシ、ムンクの「叫び」を思い出す・・・」とのコメントを頂きました。

下に、そのオオトリノフンダマシの写真3を再掲しておきます。

オオトリノフンダマシ 
写真3(再掲) オオトリノフンダマシ

私(おそらくメンバーの他の誰ひとりも)が、想像すらしなかったコメントでした。

私の返答コメントは、「ホントですね!」。

頬骨を境に顔の下半分を両手の平で挟み、うつろな表情をした人の顔が、たしかにそこにあります。

これは、自然の嘘(擬態)というより、自然の意図せざる悪戯といえるでしょう。

というのも、ムンクがこの作品を描いた後の現代人が現れるまでは、「ムンクの叫び」に酷似していることは、何の意味も持たないからです。

むしろ、「ムンクの叫び」の両目にあたる二つの黒褐色の点は、写真4のように180度回転させた場合に、両生類・爬虫類の鼻孔に擬態していると見ることができるでしょう。

※今回取り上げたトリノフンダマシ2種の特徴的な色彩パターンが、どのように進化したかについては、擬態全体について網羅的に考察する記事に関連させる形で、新たな記事として、アカスジキンカメムシの擬態とあわせ、2・3回後の記事で、じっくり取り上げる予定です。

さて、本シリーズの次回記事では、四国秋のトンボ巡礼の第2日目の観察の第4報として、第3の訪問地である貯水池で見た、ベニトンボほかのトンボを取り上げる予定です。


謝 辞
現地に案内して下さった飯田貢さん、そしてその場にいた虫たちについて教示された、飯田さん、山本桂子さん、高橋賢悟さん、およびSNS上でユニークなコメントを寄せられた有本 智さんに、謝意を表したいと思います。
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2018-10-19 (Fri)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征*の2日目は、地元の昆虫研究家、飯田貢さんらのご案内のもと、1日目とは方面の異なる地域の4カ所を順に訪れ、南国のトンボ、ベニトンボを含む多様な虫達との出会いを経験することができました。

(* この四国でのトンボ探訪記は、シリーズ物として、これまでに12編の記事にしています[記事一覧はこちら])。

第13報の今回は、この日第二の訪問地である沢地の林縁草地(写真2)で見た、マユタテアカネ Sympetrum eroticum (Selys, 1883) 写真1)、そしてアカスジキンカメムシ Poecilocoris lewisi (Distant, 1883) を取り上げます。

マユタテアカネ♂、林野にて 
写真1 マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂、林野にて(写真はクリックで拡大します)


目 次:
 ◆第二の訪問地:沢地の林縁草地
 ◆葉上にとまるマユタテアカネ
 ◆アカスジキンカメムシの1齢幼虫
 ◆アカスジキンカメムシの5齢幼虫
 ◆アカスジキンカメムシの後期齢幼虫の群れ
 ◆アカスジキンカメムシの成虫(参考画像)
 ◆謝 辞
 ◆引用文献


第二の訪問地:沢地の林縁草地

写真2は、2日目の第二の訪問地の景観です。

マユタテアカネ、ナツアカネのいた沢地の林縁草地 
写真2 沢地の林縁草地(第二の訪問地)

この訪問地は沢地の片斜面がやや平坦になった場所で、向い及び背後の斜面は鬱蒼とした樹林(主に広葉樹)になっていました。

観察ポイントは、その平坦地の一角で、セイタカアワダチソウなどの草や幼木が生い茂っているところ。

その林縁部の低木の枝葉や、草の葉先などに虫たちの姿を求めました。

この訪問地には、午前10時少し前に到着して、飯田さんら地元組のお三方と共に、観察を開始しました。

そこで、トンボよりも先に私の目に入った虫は、クモ類カメムシ類でした。

それらの虫たちは、北国での生活が長かった私にとって、新鮮かつ愉快なものでした。

このブログはトンボがメインですので、カメムシ類は今回記事の後半で取り上げ、クモ類は次回記事で扱うことにし、まずは、そこで観察されたトンボについて、ざっと紹介します。


葉上にとまるマユタテアカネ

最初に見つけて撮影したトンボは、マユタテアカネ♂です(写真3)。(時刻、10:16:44)

マユタテアカネ♂、林野にて 
写真3 マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂、林野にて

近くに池はありませんので、摂食と休息のためにこの沢地の林野に滞在しているものでしょう。

色彩からは十分成熟していますので、すでに生殖活動(交尾や連結産卵)を経験していると思われます。

写真1(下に再掲)も同じ個体です。(時刻、10:18:14)

マユタテアカネ♂、林野にて 
写真1(再掲) マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂、林野にて (同一個体)

顔面が少し見える方向に私が回り込んで撮影しましたので、マユタテアカネの名前のもとになった、太眉のように見える黒い二つの斑紋が確認できます。

写真1は、写真3の1分30秒後に撮影したものですが、いずれも両前脚を前に差し伸べたような姿勢をしています(理由不明)。

このほかにも、このマユタテアカネ♂のいた場所のすぐ近くで、もう1種、アカネ属のトンボ(たぶん、アキアカネかナツアカネの♂)を見かけましたが、種の判別に使える写真が得られませんでした。


アカスジキンカメムシの1齢幼虫

これらアカネ属のトンボを見つけるよりも前の10時04分過ぎのことです。

林縁の広葉樹低木の葉を1枚ずつめくって何かを探していた飯田さんが、「これ、面白いでしょう?」と小さく丸い虫達の群れを指さしました(写真4)。

アカスジキンカメムシ1齢幼虫
写真4 アカスジキンカメムシ Poecilocoris lewisi 1齢幼虫

ハローウィーのパンプキン・ランタンのように、オレンジ色の顔に大きな黒褐色の口が開き、一つ眼に大きなゴーグルをかぶせたけたような、ユーモラスな模様をしています。

しかも、1ダースもの個体が集団をなしています。

想像もしていなかった奇抜なデザインの虫に眼が吸い付けられ、思考が一瞬止まる私。

飯田さん:「これ、アカスジキンカメムシの1齢幼虫です。」

飯田さんは、そのうちの一部の個体を、持参したプラスチックケースにそーっと収容しました。

自宅に連れて帰り、飼育しながら成長ぶりを観察するとのこと。


アカスジキンカメムシの5齢幼虫

私が別の木の枝の1枚の葉に目をやると、今度は白色と黒褐色で、大口を開けたようなパターンの、大きくて背面から見ると円い形のカメムシが1頭いました(写真5)。

アカスジキンカメムシ、5齢幼虫 
写真5 アカスジキンカメムシ Poecilocoris lewisi 5齢幼虫

「これ、なんだろ?」と私がつぶやくと、飯田さんが「これがアカスジキンカメムシの5齢幼虫ですよ。」と教てくれました。

「え~?」と私。

同じ種の幼虫なのに脱皮して齢が変わっていくと、こんなにも模様や色彩が変わるとは!

トンボの幼虫(ヤゴ)の成長の一般的特性、を無意識に判断基準としていた私には、新鮮な驚きでした。

ちなみに、写真5を昆虫関連のSNSに投稿したところ、ある方から、ワハハと笑っている印象の虫である旨のコメントをいただきました。

コメントをもらう前の時点で、私は髷を結ったお相撲さんの顔を連想していたのですが、たしかに豪放磊落に笑う人の顔にも見えます。

ネット検索すると、「わははカメムシ」という愛称が、すでに複数のネットユーザーによって用いられていることも判明しました。

ただ、豪快に笑っている感がありますので、私が敢えてアカスジキンカメムシ5齢幼虫に愛称をつけるなら、「ガハハムシ」!

※ アカスジキンカメムシ5齢幼虫のこの特徴的な色彩パターンがどのように進化したかについては、新たな記事として次回以降取り上げる予定です。


アカスジキンカメムシの後期齢幼虫の群れ

話を、現地での観察イベントの続きのシーンに戻しましょう。

しばらく後、「こっちにもいますよ~!」と、同行の高橋賢悟さんの声が。

指さす先を見ると、それは低木の葉の裏に、地面方向に背面を向けてとりついた、アカスジキンカメムシの後期齢幼虫の幼虫の小さな群れでした(写真6)。

「年長組」ですね。

アカスジキンカメムシ 4齢 &5齢幼虫
写真6 アカスジキンカメムシ Poecilocoris lewisi 4齢 &5齢幼虫

帰宅後、私がネット検索すると、このカメムシは背面の模様パターンの特徴や色彩で5つの幼虫齢が判別できる(例:青木繁伸さんのサイト)ことがわかりました。

それを参考にしてこの写真を見直すと、左手前の2頭は第5齢(終齢)、右奥の2頭は4齢であることがわかりました。


アカスジキンカメムシの成虫(参考画像)

※ アカスジキンカメムシの成虫は今回見られませんでしたが、Wikimedia Commonsから拝借したKIM Hyun-taeさん撮影による成虫画像を下に掲げます。

Poecilocoris-lewisi
拝借画像 アカスジキンカメムシ Poecilocoris lewisi の成虫 (By Kim, Hyun-tae [CC BY-SA 4.0  (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], via Wikimedia Commons)

アカスジキンカメムシは、5齢から脱皮して成虫になると、いかにもカメムシらしい体形へと変身を遂げ、しかも鮮やかな金属緑色の地色を、これも鮮やかな朱色の隈取りのような模様で飾っています。

蛹のステージを有しない、不完全変態昆虫(トンボも同様)であるにもかかわらず、初齢幼虫から終齢幼虫を経て成虫までの成長発達過程で、この鮮やかな変身ぶりを示すカメムシの仲間には、昆虫少年になりたての小学生と同じような素直な気持ちで、感嘆せざるをえません。

子どもの頃、カメムシの匂いが触った指について、陸生カメムシ類全体を遠ざけてしまった私ですが、そのような体験を経ないまま画像だけで親しんでいたならば、カメムシを研究対象にしていたかもしれません。


謝 辞
現地に案内して下さった上にカメムシについて解説された飯田貢さん、観察対象に注意を喚起してくれた高橋賢悟さん、山本桂子さんに謝意を表したいと思います。



Kim, Hyun-tae [CC BY-SA 4.0  (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], via Wikimedia Commons


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