03≪ 2017/04 ≫05
123456789101112131415161718192021222324252627282930
2017-04-19 (Wed)

川岸の上をスクランブル飛行するウスバキトンボ Pantala flavescens (Fabricius, 1798)たちです(写真1)。


ウスバキトンボの群飛、四国、6月中旬 
写真1.ウスバキトンボの群飛 Pantala flavescensの群飛

昨年6月19日に四国で撮影したものです。
翅の位置取りや動作を可視化するために、輝度を下げ、コントラストを上げています。
動体の撮影不慣れなため、ピントは激甘です。

ウスバキトンボについては、当ブログに次のような過去記事があります。
よろしければ御笑覧ください。

このほか、
という紹介記事もあります。

その新井さんが、今年もウスバキトンボの初見日を集約するそうです。
全国ウスバキトンボ初見日調査:

今年、すでに沖縄で1月に、鹿児島、千葉の両県で4月中旬に見たという報告が寄せられているそうです。
2017年度ウスバキトンボ初見日速報 4月18日更新:

トンボを観察しておられる方がおられましたら、ご自身の初見日を新井さんにレポートされてはいかがでしょうか? 

ちなみに、昨年の集約結果は下記サイトで閲覧可能です。
全国一斉ウスバキトンボ調査報告書 2015:


☆★☆ ブログランキング(↓):よろしければ両方ともクリックして応援してください。

| 未分類 | COM(0) | | TB(-) |
2017-04-09 (Sun)
前回の記事「世界のグンバイトンボ類、軍配サイズ番付」で公表した「世界のグンバイトンボ類、軍配サイズ番付」では、ラオス産のグンバイトンボ属の種、Platycnemis phasmovolans Hämäläinen, 2003(図1、2;再掲)が見事、東の正横綱の地位を確保しました。

Platycnemis phasmovolans _ photo taken by Dr Matti Hamalainen 
図1.Platycnemis phasmovolans, photo taken by Dr. Matti Hämäläinen. 
   (Platycnemis phasmovolans♂の標本写真。Dr. Matti Hämäläinen提供)
  (写真はクリックで拡大します)

Platycnemis phasmovolans, teneral male _ photo taken by Dr Matti Hamalainen
図2.Platycnemis phasmovolans teneral male, photo taken by Dr. Matti Hämäläinen.
  (Platycnemis phasmovolans未熟♂の貴重な生態写真(Dr. Matti Hämäläinen提供)。 


そこで、今回は、この種を新種として記載した、Matti Hämäläinen博士が、このトンボと出会ったときの生き生きとした印象をその記載論文(Hämäläinen, 2003)からご紹介します。

「横井博士の助けを借りて、私は2002年の4月末、ベトナム国境付近の2,3の小川を訪れることができた。」

Platycnemis属のこの新しい種と私の最初の出会いは、私のこの訪問中のもっともスリリングなものであった。」

「小川の薄暗いブッシュの中で、私はとてもゆっくりとダンスをしながら近づいてくる白い団扇の一群を目にした。」

「はじめは、このゴーストのようなものが何なのか分らなかったが、その後、近ずいたことで、それがとてつもなく幅広い脛節をもつイトトンボだと分かった。」

「横井博士は2001年5月に、すでにこれと同じ種の若干の標本を同じ小川から得ていた。」

「彼は、この魅惑的な昆虫―空飛ぶゴースト―を私が記載することを承諾してくれた。心より感謝する。」

「この種の脛節は、Platycnemis phyllopoda Djakonov, 1926, グンバイトンボP. foliacea Selys, 1886 およびマダガスカルのP. alatipes McLachlan, 1870のそれよりも、比率上ずっと幅広い。」

この論文を書いた時点で、Hämäläinen博士はPlatycnemis phasmovolansの軍配サイズを横綱級と認定していたことになります。

前回記事で、私が網羅的に同属種(他属へ移行した種を含む)の軍配サイズを調べ、リンク付きで紹介しましたが、これを読まれたHämäläinen博士から、
「あなたが列挙したリンクによりいくつかの興味深い写真、たとえばP. alatipesを見られるのは楽しい」、
という言葉を頂きました。

Hämäläinen博士の著作からは、私も学ぶところが多く、これからも交流させていただくつもりです。

Platycnemis phasmovolansの写真の当ブログへの掲載を許可されたHämäläinen博士にあらためてお礼申し上げます。


種の学名の語源(Hämäläinen, 2003)
「Phasma(ギリシャ語の「ゴースト」)+volans(ラテン語の「飛行」)。」
「極端に幅広い白い羽のような脛節をもつ♂がゆっくり飛行している際のゴーストのような印象から。」


引用文献:
Hämäläinen, Matti (2003): Platycnemis phasmovolans sp. nov.—an extaordinary damselfly from Laos with notes on its East Asian congeners (Odonata: Platycnemididae). TOMBO, Matsumoto, 46 (1/4): 1-7. 


 ☆★☆ ブログランキング(↓):よろしければ両方ともクリックして応援してください。
| トンボ:形態と機能 | COM(0) | | TB(-) |
2017-04-01 (Sat)
(この記事の正しい公開日は、2017-04-08 (Sat)です。)


前回の記事「グンバイトンボの軍配は何のため?」では、日本産のグンバイトンボPlatycnemis foliacea Selys, 1886の♂の中脚、後脚の脛節が軍配のように扁平に拡がっていることに注目し、若干の考察をしました。

属の学名Platycnemisの語源が「 扁平な(よろいの)すね当て」であるだけに、グンバイトンボ以外の同属種の中には、グンバイトンボに負けず劣らず立派な「すね当て」を持つ種がいくつか含まれています。

そこで今回は、モノサシトンボ科PLATYCNEMIDIDAEのうち、グンバイトンボ属 Platycnemis Burmeister, 1839に属する種、およびそこから別属Proplatycnemis Kennedy, 1920およびMatticnemis Dijkstra, 2013に移籍された種について、主としてインターネット上の画像を参照し、軍配サイズを比較して見た結果から、相撲の番付風にランキングを試みます。

「軍配サイズ」は、脛節の最大幅を最大長で割った値(幅率)を指すこととし、幅率がより高いほうに「軍配」を挙げることにします。

ランキングに際しては、一般に後脚にくらべて幅率が高い、「中脚の幅率」の値を第一に参照し、それが同等の場合に後脚の幅率を参照することにしました。

属への所属、synonym(同物異名)の取り扱いを含む分類体系は、World Odonata List (https://www.pugetsound.edu/academics/academic-resources/slater-museum/biodiversity-resources/dragonflies/world-odonata-list2/)(2017.4.8.現在)に依拠しました。

画像のうち、Platycnemis phasmovolans Hämäläinen, 2003については、種を記載したDr. Matti Hämäläinenのご厚意により、当ブログへの掲載のための画像データをお送りいただいたものです。
ここに記して感謝いたします。


蒙御免「世界のグンバイトンボ類、軍配サイズ番付」
     行司:生方秀紀(トンボ自然史研究所)


東正横綱:

Platycnemis phasmovolans Hämäläinen, 2003
 中脚幅率=0.46; 後脚幅率=0.40
 参照した画像:
  Dr. Matti Hämäläinenご提供の標本画像データ(図1)。

Platycnemis phasmovolans _ photo taken by Dr Matti Hamalainen 
図1.Platycnemis phasmovolans, photo taken by Dr. Matti Hämäläinen. 
   (Platycnemis phasmovolans♂の標本写真。Dr. Matti Hämäläinen提供)
  (写真はクリックで拡大します)

Platycnemis phasmovolans, teneral male _ photo taken by Dr Matti Hamalainen 
図2.Platycnemis phasmovolans teneral male, photo taken by Dr. Matti Hämäläinen.
  (Platycnemis phasmovolans未熟♂の貴重な生態写真(Dr. Matti Hämäläinen提供)。 


西正横綱:

Proplatycnemis alatipes (McLachlan, 1872)
            Psilocnemis alatipes McLachlan, 1872*
  (*種記載時点(属の所属変更前)の学名。以下同様)
 中脚幅率=0.42(最大0.47) ; 後脚幅率=0.43(最大0.49)
 参照した画像のURL:


大関:

Platycnemis foliacea Selys, 1886 グンバイトンボ
 中脚幅率=0.36; 後脚幅率=0.31
 参照した画像:
 当ブログの前回記事で使用した写真(再掲;図3):

グンバイトンボ♂体前部拡大 
図3.グンバイトンボPlatycnemis foliacea Selys, 1886 ♂(生方秀紀撮影)。

Platycnemis phyllopoda Djakonov, 1926
            Syn Platycnemis ulmifolia Ris, 1930 ←synonym(同物異名)とされた学名(以下同様)
            Syn Platycnemis hummeli Sjöstedt, 1933
 中脚幅率=0.30; 後脚幅率=0.31
 参照した画像のURL:


張出大関:

Proplatycnemis hova (Martin, 1908)
            Platycnemis hova Martin, 1908
 中脚幅率≒0.33; 後脚幅率≒0.26
 (不明瞭な画像の向こう側の脚で計測したため、脛の長さが不確か)
 参照した画像のURL:


関脇:

Proplatycnemis pembipes (Dijkstra, Clausnitzer & Martens, 2007)
            Platycnemis pembipes Dijkstra, Clausnitzer & Martens, 2007
 中脚幅率=0.25; 後脚幅率=0.25
 参照した画像のURL:

Proplatycnemis malgassica (Schmidt, 1951)
            Platycnemis malgassica Schmidt, 1951
 中脚幅率=0.26; 後脚幅率=0.16
 参照した画像のURL:


小結:

Platycnemis latipes Rambur, 1842
            Syn Platycnemis mauriciana Selys, 1863
 中脚幅率=0.23; 後脚幅率=0.18
 参照した画像のURL:


前頭:

Platycnemis pennipes (Pallas, 1771)
            Libellula pennipes Pallas, 1771
            Syn Agrion platypoda Vander Linden, 1823
            Syn Puella nitidula Brullé, 1832
 中脚幅率=0.19; 後脚幅率=0.19
 参照した画像のURL:

Platycnemis dealbata Selys in Selys & Hagen, 1850
            Syn Platycnemis syriaca Hagen in Selys, 1850
 中脚幅率=0.19; 後脚幅率=0.16  
 参照した画像のURL:

Matticnemis doi (Hämäläinen, 2012)
            Platycnemis doi Hämäläinen, 2012
 中脚幅率=0.19; 後脚幅率=0.11
 参照した画像のURL:

Proplatycnemis sanguinipes (Schmidt, 1951)
            Platycnemis sanguinipes Schmidt, 1951
 中脚幅率=0.16; 後脚幅率=0.14
 参照した画像のURL:

Proplatycnemis agrioides (Ris, 1915)
            Platycnemis agrioides Ris, 1915
 中脚幅率=0.16; 後脚幅率=0.12
 参照した画像のURL:


十両以下:

Platycnemis acutipennis Selys, 1841
            Syn Platycnemis algira Kolbe, 1885

Platycnemis echigoana Asahina, 1955 アマゴイルリトンボ
 参照した画像のURL:

Platycnemis kervillei (Martin, 1909)
            Psilocnemis kervillei Martin, 1909
 参照した画像のURL:

Platycnemis subdilatata Selys, 1849
 参照した画像のURL:


休場:
(参照画像が見つからず、番付から暫定的に除外)

Platycnemis foliosa Navás, 1932

Platycnemis oedipus (von Eichwald, 1830)
            Agrion oedipus von Eichwald, 1830)

Platycnemis pierrati (Navás, 1935)
            Copera pierrati Návas, 1935

Platycnemis pseudalatipes Schmidt, 1951

Proplatycnemis aurantipes (Lieftinck, 1965)
            Platycnemis aurantipes Lieftinck, 1965

Proplatycnemis longiventris (Schmidt, 1951)
            Platycnemis longiventris Schmidt, 1951

Proplatycnemis melana (Aguesse, 1968)
            Platycnemis melanus Aguesse, 1968

Proplatycnemis protostictoides (Fraser, 1953)
            Platycnemis protostictoides Fraser, 1953

以上です。
お愉しみ頂けたとしたら幸いです。

なお、以上のランキングはいずれの種もわずか1個体の画像について、それを画面上で拡大して計測したものですので、個体変異、地理的変異、病変、撮影角度、撮影機材のくせなどによる変動をともなっています。

したがって、今後、各種ごとに十分なサンプル量をとってその平均値同士を比較することで、より正確なランキングが得られるでしょう。
地理的変異、個体変異が著しいものについては、それらを特別扱いする必要も生じるかもしれません。

私としても、今後、追加や修正を迫るようなデータが得られましたら、番付表を改訂していきたいと思います。

読者の皆さんも、何かお気づきのことがありましたら、コメント等でお知らせください。


 ☆★☆ ブログランキング(↓):よろしければ両方ともクリックして応援してください。
| トンボ:形態と機能 | COM(0) | | TB(-) |
2017-03-23 (Thu)
(この記事の正しい公開日は、2017-04-04 (Tue)です。)


グンバイトンボPlatycnemis foliacea Selys, 1886(*注1)
は、モノサシトンボ科に属する種で、日本と中国に分布しています(写真1)。

グンバイトンボ♂
 写真1 グンバイトンボPlatycnemis foliacea♂。四国、2016年6月。(写真はクリックで拡大)

このトンボは、♂の中脚、後脚の脛節が軍配のように扁平に拡がっているのが、大きな特徴です(写真2)。

グンバイトンボ♂体前部拡大 
写真2 グンバイトンボ♂の体前部。中脚、後脚の脛節が軍配のように扁平に拡がる。

一方、♀の脚の脛節にはそのような拡張がなく、モノサシトンボ科の他の種[例:モノサシトンボCopera annulata (Selys, 1863)(*注2)]の♀のそれと変わりがありません(写真3)。

グンバイトンボ♀
写真3 グンバイトンボ♀。四国。2016年6月。

このように同種♂♀の外部携帯に明瞭な形態の差異があることは「性的二型」と呼ばれますが、この二型が進化した原因はダーウィンが提起した性淘汰(性選択)であることが多いとされています。

というわけで、グンバイトンボ♂の軍配形の脛節はどのような適応上の利点があって進化してきたかは、トンボの行動を研究してきた者にとって大いに気になるところです。

筆者は、トンボの研究を開始した大学院入学時点以来43年間、北海道に住んでいたため、グンバイトンボを直接観察する機会が得られませんでしたが、定年退職して埼玉に移住したことで距離的にも投入時間的にもグンバイトンボ生息地へのアクセスがしやすくなりました。

そして、グンバイトンボとの対面は、2016年6月中旬、梅雨空を縫っての四国地方トンボ撮影行の中で実現しました。

生息地の情報や観察のコツは、トンボ王国・四万十学遊館(あきついお)館長の杉村光俊さんに伝授いただき、現地への移動では愛媛県在住のアマチュア昆虫写真家のお二人、飯田貢さん、山本桂子さんのお世話いただきました。

現地に着くと、ゆるやかに流れる川の草生した岸(写真4)の上を3人でじっくりと探し回ります。

グンバイトンボ観察地(四国)
写真4 グンバイトンボの生息地。四国、2016年6月。

じきに、「いたー!」、「いるよー!」と声があがりました。私の眼の前にも、モノサシトンボによく似たトンボの、飛んだりとまったりの姿が。
そしてついに、軍配そのものの脚をぶら下げて飛ぶグンバイトンボ♂の姿を確認しました。
あこがれのトンボとの対面です(写真1)。

うっとりと見つめていたいところでしたが、貴重な機会を失うわけにはいきませんので、一眼レフのファインダーを覗きながら、マニュアルフォーカスをいじりながらシャッターを連打しました。

残念ながら、♂が♀に求愛するシーン、連結し、交尾するシーン、産卵するシーンに出会う機会は得られませんでしたが、♂間の排他的行動を間近で観察することができました(写真5)。

グンバイトンボ♂間の排他行動
写真5 グンバイトンボ♂間の排他的行動。四国。2016年6月。

写真は人に見せるレベルのものが撮れなかったのですが、といいつつ見せていますが、観察していて印象的だったのは、相手の♂の接近に対して立ち向かっていくときに、脚を6本とも下方に垂らし、白い軍配状の脛節が(観察者から見て)大変目立ったことです。

写真5の(1)は、接近する相手に気づいて、とまっている草葉の上から飛び立ち、相手に向っていくところです。
(2)は、相手と睨み合うかのように向かい合っている瞬間です。
(3)は、相手を退けて、再び草葉にとまる直前です。
(4)は草葉にとまっている状態(これのみピントを合わせることができました)。

この観察中にもう一つ気づいたことがあります。
それは、♂が相手を追いかけ、別れて、戻る時に、軍配面を後方に向け、軍配を「誇示」したことです。

私は、グンバイトンボの軍配は、孔雀の♂の尾羽のように、♀に求愛する際のセックスアピールになるのだろうと予想していましたが、どうやら鹿の角のように、♂間で相手を威嚇する機能もあるように思えます。

ここまで考察したところで文献にあたってみたところ、杉村ほか(1999)の『原色・日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』の「グンバイトンボ」の項に、次のような記述がありました。

「成熟雄は<中略>縄張りを保持<中略>ほかの♂にであうと軍配状の真っ白い肢をいっぱいに広げてホバリングしながらにらみあい、体を上下にゆさぶっては徐々に上方へ移行し、頃あいをはかって別れる。♀に対しても、まず肢を思い切り拡げて自己顕示を行う。」

「体を上下にゆさぶっては徐々に上方へ移行し、頃あいをはかって別れる。」とありますが、私の観察でもたしかにその傾向はありました。

「♀に対しても、まず肢を思い切り拡げて自己顕示を行う。」との記述は、やはり軍配の白い面を相手に向けて誇示をすることを表現したものといえます。

ヨーロッパに生息するPlatycnemis latipes Rambur, 1842Platycnemis acutipennis Selys, 1841の♂の中脚、後脚も日本のグンバイトンボよりも少し劣りますが、広がった脛節をもちます(参考サイト:Hyde, 2016)。

しかし、これら2種の♂は(少なくともフランスの当該観察地では)求愛の際に拡がった脛節を用いず、飛行中に同種♂を威嚇する際に用いるとのことです(Hyde, 2016)。
下記にその部分の原文を抜粋しておきます。

"Males like to perch on low vegetation near a river bank, and search for prey and mates with a slow zig-zagging or bouncing flight. Their wide tibias are not used in courtship, but as threatening behaviour to other males of the same species in flight."(Hyde, 2016)

日本のグンバイトンボとフランスの同属種の間のこの行動の違い(♀に対する誇示の有無)が、種による違いなのか、それともどの種においても個体群による行動の差あるいは、同一個体群においても何等かの条件によって誇示をしたりしなかったりするのかは、興味のあるところです。

私も今度グンバイトンボを観察に行くときは、♂と♀の間の行動がふんだんにみられる季節、時間帯を狙いたいと思います。

さて、最後に、今回の観察中に見られた、雄の体清掃行動の写真をご覧いただきます(写真6)。

グンバイトンボ体清掃 
写真6 グンバイトンボ雄の体清掃行動。

写真6では、腹部を第2節と題節の間で背方に強く折り曲げ、全体に弓上に背方へ反らせています。腹部を上下に上げ下げする動作の最上点に達する直前のタイミングです。
このような腹部上下により翅の表面についた塵などが拭い去られる効果があると考えられます。

下の写真7は、体清掃が終り、すっきり、まったりとした感じのこの個体です。

グンバイトンボ体清掃後
写真7 グンバイトンボ雄。体清掃行動を終えて、まったりと。

このような、均翅亜目(イトトンボ、カワトンボなどを含む分類群)のトンボが腹部をリズミカルに上下に屈曲して翅と腹をこすりあわせる運動(体清掃行動)は、オツネントンボについて、すでにこのブログに書きました。
連続写真つきで長々と書きましたのでよろしければ御笑覧ください。

末筆になりましたが、この場を借りて、今回の観察でお世話になった、杉村さん、飯田さん、山本さんに感謝いたします。


*注1:Platycnemis Burmeister, 1839の語源は、platyが「扁平な」を、cnemis (κνημίς)が「(よろいの)すね当て」を意味する。

*注2:モノサシトンボが新種記載された時点では、Psilocnemis Selys, 1863のもとに置かれた。その後、Psilocnemis はコガネムシ科Scarabaeidae Latreille, 1806の中でPsilocnemis Burmeister, 1842として使われていることが判明し、本種にはCopera Kirby, 1890が充てられ、これが長い間使われてきている。
しかし、最近、DNA系統解析に基づき、Copera から旧北区以外の種をPseudocopera Fraser, 1922に移す提案がなされている(Dijkstra et al. 2014)。
それに従えば、モノサシトンボの学名は、Pseudocopera annulata (Selys, 1863)となる(World Odonata List参照)。
ちなみに、Psilocnemisの語源は、Psiloは「裸の、露出した」、cnemis は、前述のように「 すね当て」を意味する。


引用文献:
Dijkstra K-D.B., Kalkman V.J. , Dow R.A., Stokvis F.R., van Tol J. 2014: Redefining the damselfly families: a comprehensive molecular phylogeny of Zygoptera (Odonata). Systematic Entomology, 39: 68-96.

Hyde, Bruce  2016 Featherleg Differences.  http://www.ipernity.com/blog/bruce.hyde/4392388


 ☆★☆ ブログランキング(↓):よろしければ両方ともクリックして応援してください。
| トンボ:形態と機能 | COM(0) | | TB(-) |
2017-03-20 (Mon)
私も分担執筆した下記の伝記本:

辻 和希 編(2017):
  海游舎。A5判・上製本・432頁。定価(本体4,600円+税)
  ISBN978-4-905930-10-5

がこのたび(2017年3月)刊行された。

生態学者・伊藤嘉昭伝 
生態学者・伊藤嘉昭伝。(写真はクリックで拡大)

3月14日から東京の早稲田大学早稲田キャンパスで開催された、日本生態学会大会会場内の書籍展示コーナー(海游舎ブース)での展示即売では評判を呼んでいという。

書籍展示開始早々に、海游舎の本間さんから著者献本をしていただき、学会セッションの合間にパラパラと本文をめくり、帰宅後は各執筆者の文章に吸い込まれるように読みふけった。

昼は学会でのポスターセッションと口頭発表セッション、それに自由集会への参加、帰宅してのこの伝記本の耽読という生活リズムが3日間続いた末に読了した。

以下、目次の順に、印象に残った寄稿文を中心に感想を述べたい。

「第一部 農研時代」では、農業技術研究所時代の伊藤嘉昭博士(私を含め、知り合いは「伊藤さん」と呼んでいた)の、基礎研究を重視した個体群生態学の研究姿勢、同僚・後輩とのチーム形成などが語られている。その中で冨山清升さんの一文は伊藤さんのあまり知られていない面に当時の仲間との写真も添えて触れていていて印象に残る。

「第二部 沖縄県時代」では沖縄でのウリミバエ根絶を指揮した伊藤さんを、そのチーム員が生き生きと回想している。 藤崎憲治さんの一文は異色で、伊藤さんのこの成功伝説に隠れた負の側面、その後あらわれている問題点とその解決の方向までも論じていて興味深い。

「第三部 名古屋以降」では、名古屋大学農学部に助教授として任用され、そこで害虫管理ではなく、進化生態学、行動生態学の研究・教育を優れた若手研究者(院生、助手)とともに進めた伊藤さんを、当時の弟子たちが描き出す。
ここはやはり、辻 和希さん、粕谷 英一さんの書いた部分を読むと、伊藤さんの教育者・研究者としての評価の骨格が浮かび上がる。

「第四部 著作活動」では、伊藤さんが文字通り大量に上梓した生態学関連の書籍が日本の生態学に与えた影響について語られる。松本忠夫さんは、伊藤さんの出したすべての本について評価する。嶋田正和さんは伊藤さんの社会進化に関するとらえ方の変遷を厳正に審査している。私の一文もこの第四部に収録されているが、北海道大学で私を含む当時の若い院生に「種の社会学」がどう浸透していて、その後どう脱ぎ捨てられていったかのケース・ヒストリ―の形をとった。

「第五部 比較生態学とその周辺」では、比較形態学者の鈴木邦雄さんの仕事に伊藤さんの『比較生態学』が大きく影響していたことが語られ、意外性がある。

「第六部 ハチ研究」では、山根 爽一さんらによってカリバチの社会進化についての伊藤さんの新説とその問題点が伊藤さんの人間像とともに語られる。

「第七部 伊藤さんの思想」では、岸由二さんの一文が読み応えがある。行動生態学の日本への導入の立役者の一人だった岸さんがいつしか生態学会に出てこなくなったのかの謎も解き明かされる。いや、一人の研究者の動向というよりも、日本の生態学全体の大きな歴史的な転換があったのがこの時代(1975年頃~1990年頃 )であり、それが生々しく描きだされたということなのだろう。

この本の分担執筆者55名の中には、編者の辻さんをはじめ、生態学理論の不完全さを克服し、新しい理論を提案するなど世界のトップレベルで活躍している生態学者が少なとも数名含まれている。

このような人材を育んだ「苗床」をしつらえ、拡げていったのが伊藤さんであることは、本書から読み取ることができる。

伊藤さんは、観察した事実を記載し、帰納法的に見出した傾向に解釈を加え、それを日本語「論文」として発表するのが普通だった時代(1980年前後以前)に、「論文の骨組みをつくってからデータをとれ」「英語で世界的に通用する雑誌に論文を毎年1本以上投稿せよ」「毎日1本論文を読め」と、若い研究者を叱咤・激励したという。

まさに、この本の帯カバーに大書されているとおり、「この1冊で日本の生態学史がわかる」。
「生態学史の『すべて』がわかる」としていないところに、謙虚さも漂う。

巻末には、引用文献、事項索引、人名索引も添えられている。

生態学とは何か?と考えている人、これから生態学をやりたい人、あるいは科学と政治思想とのかかわりの事例に興味ある人には必読の1冊であろうと思う。

ついでに、誤植の報告:
48頁、1行目 開開催 → 開催
169頁、9行目 話し → 話
403頁、26行目 J. → J. Ethol.


特価購入案内の情報:
 → こちらをクリックし、その頁の最下段に注目。


☆★☆ ブログランキング(↓):よろしければ両方ともクリックして応援してください。
| 生態学一般 | COM(0) | | TB(-) |