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2017-09-19 (Tue)
今年度の日本昆虫学会論文賞(他の多くの学会の学会賞に相当)の受賞者が発表されました。

2受賞論文のうちの1論文は、弘前大学名誉教授の故・正木進三先生を筆頭著者とする9名の共著者による、「雪の冬の火山性の温暖な「小島」で鳴くコオロギ―その季節的生活環、光周反応および起源」(英文)となりました。

(生方秀紀@トンボ自然史研究所代表)も、共著者の一人として、その栄誉の一端に浴する結果となり、共著者とともに喜んでおります。


以下、日本昆虫学会ホームページの当該頁からの抜粋です。

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論文賞


和文誌「昆蟲(ニューシリーズ)」と英文誌「Entomological Science」の前年度の巻に掲載されたものから2論文が選考されます。
詳細は、日本昆虫学会論文賞選考細則参照

2017年度

Kosei Hashimoto, Koh Suzuki & Fumio Hayashi:
Unique set of copulatory organs in mantises: Concealed female genital opening and extremely asymmetric male genitalia. 
Entomological Science, 19(4), 383-390

Sinzo Masaki, Masayuki Soma, Hidenori Ubukata, Haruo Katakura, Rie Ichihashi, Zhuqing He, Nobuaki Ichijo, Norio Kobayashi & Makio Takeda:
Ground crickets singing in volcanic warm “islets” in snowy winter: Their seasonal life cycles, photoperiodic responses and origin.
Entomological Science, 19(4), 416-431

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このマダラスズの受賞論文研究経過要約は、それぞれ当ブログの以下の記事で見ることができます。



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2017-09-10 (Sun)
トンボのブログを書く上で、少しでも魅力を高め、読者を退屈させないための必殺の(?)テクニックは、トンボの写真を添えることです。

そのためには、自前の写真を常にストックしておくことが必要となります。
というわけで、トンボ日和で時間にゆとりがある日には、カメラをぶら下げて、トンボのいそうな場所に出かけることになります。

これまで私は、デジタル一眼レフ(キャノンEOS7D)をトンボ撮影用に、生息地の景観などの撮影にはコンパクトデジカメ(リコーCX3)を使ってきました。


「焦点深度合成」と「プロキャプチャー」

近年、近接撮影したトンボ等、奥行きのある被写体の手前から奥まで全体にピントが合っているような写真が仕上がる「焦点深度合成」機能や、トンボが飛び立つ瞬間などを逃さず撮影できる「プロキャプチャー」機能を備えるカメラが量産されるようになり、昆虫写真愛好家の間で持てはやされるようになってきました。

しかし、その機能を備えたミラーレス一眼カメラを購入するとなると、本体と必要な交換レンズ等をあわせて軽く数十万円は飛んでいってしまいますので、そう簡単に手がでるものではありません。

そんな中、コンパクトデジカメのサイズながら、「焦点深度合成」、「プロキャプチャーモード」、「高速度動画」、「フル画素で20枚/秒の高速連写」などの機能を、従来よりの「水中撮影可」、「顕微鏡モード」などの機能に付け加えた、オリンパスTG-5が、コンバージョンレンズ、メモリーカード各1点をあわせても数万円という実売価格で発売になりました。

このような機能の宣伝文句を聞いているだけでは、買ってみようという気持ちになかなかならないものですが、昆虫写真の大家である海野和男さん、トンボを中心とした昆虫写真で気を吐いている尾園暁さんのお二人によるTG-5で撮影した作品例と使用感をブログ(「海野和男のデジタル昆虫記 」、「湘南むし日記」)やフェイスブックでときどき拝見するうちに、喉から手が出はじめていました。


TG-5発注が玉突き状態?

そういう私の背中を押してくれたのは、フェイスブック仲間のDさんのタイムラインでのエンターテインメント感が漂う購入報告です。

その翌日、私もネットショップに発注、それを知った私のフェイスブック仲間お二人の発注という、波及効果が起きました。

ところが丁度その時期に注文が殺到したらしく、製造元からの入荷に一か月以上待たされる情勢であることが判明しました。

待つしかないか、と思っていましたが、翌日、別のネットショップ市場を覗いてみると即日発送の店舗があることがわかり、即発注、そして最初の発注先にはキャンセルをいれました。
いずれもパソコンでクリック2回程度で済むのですから便利な世の中になったものです。


納品と撮り初め

昨日、それぞれ別個に発注したすべての付属品が揃い、家の周りでバッタや毛虫を相手にフルオート・モードでの使い始めをしました。

そして、今日、TG-5を試用してのトンボ撮影へと、近くの公園に出かけました。

ギンヤンマコシアキトンボも元気に飛び交っていましたが、時々岸辺にとまってくれるシオカラトンボ Orthetrum albistylum (Selys, 1848)を被写体に、初めての顕微鏡モード撮影と、焦点深度合成をトライしました。

顕微鏡モードでかなり接近して撮影したシオカラトンボ  ♂の頭部をトリミングしたのが写真1です。

シオカラトンボ♂、顕微鏡モードで撮影 
写真1 シオカラトンボ Orthetrum albistylum ♂、顕微鏡モードで撮影 (写真はクリックで拡大します)

今までの私の手持ちのカメラ+交換レンズでは殆どとらえられなかった、複眼表面のハニカム模様(個眼の並び)をとらえることができました。

この写真ではストロボがオート発光していて、その反射光が白っぽく見えます。
次回は購入済みのフラッシュディフューザーも試して、これがいくらかでも改善されるかどうか見ようと思います。


自動焦点深度合成

TG-5で、深度合成モードをセレクトして撮影すると、カメラには撮影時にピントを合わせたそのままの写真、つまり深度合成前の写真が1枚保存され、それに加えて、カメラ内自動深度合成後の1枚も保存されます。

下の写真2は、同じ場所(コンクリートの斜面)にとまった同じシオカラトンボ♂の全身を、斜め前方から写した写真のうち、焦点深度合成前のものです。

シオカラトンボ♂、深度合成前 
写真2 シオカラトンボ O. albistylum ♂、深度合成前

写真2を撮影する際には、頭部にピントを合わせて撮影していますので、腹部第5節あたりから後方は、あきらかにピントが合っていません。

下の写真3は、同じ写真の自動深度合成後のものです。

シオカラトンボ♂、深度合成後
写真3 シオカラトンボ O. albistylum ♂、深度合成後

深度合成語の写真3では、明らかに腹部後端までピントが改善されて、ほぼ全身にわたってディテールを確認できる仕上がりになっています。

これは癖になりそうです。

これまでの私のカメラの撮影では、イトトンボの交尾や連結産卵などの写真で、♂♀のどちらか一方だけにピントが合ったものしか得られず、苦し紛れに♂ピン、♀ピン各1枚ずつブログにアップした例が続いていましたが、今後、その必要は減少するだろうと思います。


プロキャプチャーモードには若干の忍耐も必要

ところで、今回、プロキャプチャーモードも1回だけ試みましたが、そちらの方は失敗しました。

その時の状況は次の通りです。

舗装された園路を歩きながら車に戻ろうとしていた私の前の路面にシオカラトンボ♀がとまりました。

そこでプロキャプチャーモードを試そうと、カメラを設定し、身をかがめ、飛び立つ瞬間を撮ろうとしました。

しかし、飛び立つまで待ち続けるのがじれったくなり、強制的に飛び立たせるために、かぶっていた帽子を脱いでトンボの近くに投げ落としました。

思い通り、トンボは飛び立ちましたが、帰宅後パソコン画面に現れたそのシオカラトンボの画像はブレブレでした。

この失敗から、今後はもう少し気長に構えないと、そして、棹の先などにとまった個体を真横から撮らないと、あまりよい写真が撮れないのだという教訓を体得することができました。

また、今回写真をアップした、顕微鏡モード、深度合成モードとも、カメラの細かい設定がいい加減でしたので、今後の実践的トレーニングでは、そのあたりも改善していかなければと思っています。


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| トンボ:生態写真 | COM(0) | | TB(-) |
2017-09-08 (Fri)
昨年7月下旬、埼玉県行田市の「古代蓮の里」(写真1)を訪問しました。

「花よりトンボ」が嗜好の私ですが、家族連れだったこともあり、多種多様な蓮の花を愛でるのが主目的でした。

それでも、普通種とはいえ、3種のトンボを撮影することもでき、印象に残る一日となりました。

行田市の古代蓮の里、園内の様子 
写真1 行田市の古代蓮の里、園内の様子(写真はクリックで拡大します)

多様な品種のハス Nelumbo nucifera Gaertn. (ヤマモガシ目、ハス科)の花と、そのすぐ横に設置された写真入りの説明版を交互に撮ったので、品種の同定に苦労しなくてすむのは大助かりです。

こうして撮影した品種の数は、ここに生育する42品種12万株(参考:行田市:「古代蓮の里」)といわれる花蓮のうちの約半数の23品種(+スイレン科2種+オモダカ科1種)に達しました。

以下に、それらの写真の中から、比較的花の形が整っていたものを、撮影順にご紹介します。

まずは舞妃蓮(まいひれん)です(写真2)。

舞妃蓮
写真2 ハス Nelumbo nucifera、品種:妃蓮(まいひれん)<Maihiren>

舞妃蓮は、赤沼・宮川(2010)「水の妖精 睡蓮と蓮の世界」によれば、大型爪紅(黄紅)一重咲種で、黄花種系の王子蓮と大賀ハスとの交配で誕生した品種とのこと。また、屈光性のため、花弁がややねじれるように展開する特徴を持つとのことです。

御坊市役所 さんの「御坊市の観光」の中の「舞妃蓮(まいひれん)」によれば、舞妃蓮は、昭和41年[1966年]に御坊市の阪本祐二氏が、アメリカの黄花ハス「王子蓮」と日本の「大賀蓮」を交配して作り出したもので、花の開閉があたかも女性の舞い姿のようであることから、阪本祐二氏によって『舞妃蓮』と名付けられたものだそうです。

確かに、この花の姿には純白のドレスを身にまとい舞い踊る妃のイメージと重なるものがあります。

次は碧台蓮(へきだいれん)です(写真3)。

碧台蓮
写真3 ハス N. nucifera、品種:碧台蓮(へきだいれん)<Hekidairen>

碧台蓮は、ikiiki-zaidanさんの「42種類の花蓮」によれば、白蓮系統、八重の品種で、花弁は100枚~120枚、江戸時代から伝わるものとのことです。

品種名に碧がつくだけあって、白い花弁の先端付近がうっすらと緑色を帯びています。
開ききっていないこともありますが、清楚な雰囲気の漂う花です。

写真4は、この園地の主役、行田蓮(古代蓮)(ぎょうだはす)です。

行田蓮 
写真4 ハス N. nucifera、品種:行田蓮(古代蓮)(ぎょうだはす)<Gyodahasu>

京都 花蓮研究会さんの「主な花蓮品種」によれば、行田蓮(古代蓮)は、一重・大型・無条で、花色は桃色、弁先に濃い桃色が入るとされています。

私が見るに、大輪の花で、色も艶やか、古代蓮の里の主役たる資質を備えて余りあります。

行田市役所の「行田市勢要覧2016」によれば、行田蓮(古代蓮)は、昭和46(1971)年、公共施設の建設現場で偶然出土した蓮の種子が自然発芽し、掘削によってできた水たまりで2年後に開花したもので、出土した縄文土器と古代蓮として知られている「大賀蓮」を参考に、種子は2千500年から3千年前のころのものと推定したもの。昭和50(1975)年にアイソトープで年代測定した結果、1千400年前と推定された経緯があるとのことです。

古代蓮の里園地内の古代蓮池には約10万株の行田蓮(ikiiki-zaidanさんの「42種類の花蓮」参照)が繁茂しているとのことです。

写真5は、小舞妃蓮(しょうまいひれん)です。

小舞妃蓮
写真5 ハス N. nucifera、品種:小舞妃蓮(しょうまいひれん)<Shoumaihiren>

宮川花園さんの「品種名、小舞妃(しょうまいひ)」によれば、小舞妃(しょうまいひ)は、小型・一重咲きの中国蓮系品種で、花弁元にわずかに黄色が入り、花弁先には紅がかすれるように入るとのことです。

花弁の先の紫色が強いアクセントになっていて、洗練された美を体現している感じです。

写真6は、中国古代蓮(ちゅうごくこだいはす)です。

中国古代蓮
写真6 ハス N. nucifera、品種:中国古代蓮(ちゅうごくこだいはす)<Chugokukodaihasu>

京都 花蓮研究会さんの「主な花蓮品種」によれば、中国古代蓮は、一重、大型、花色は桃色であるが大賀蓮よりうすい紫紅色の品種とのことです。

円形に近い花弁が大きく開き、はしゃぎまわる屈託のない子供を連想させます。

蓮文化研究会さんの「蓮 の Q&A」の中の「002 古代蓮というのは?」によれば、中国古代蓮の名の由来は、「蓮の研究に尽力された大賀一郎氏が、戦前、中国・大連市近郊の普蘭店で発掘した、約1000年前の古蓮の実を開花させ、その蓮の花をフランテン蓮、別名を中国古代蓮と呼んだ」ことにあるとのことです。

写真7は、原始蓮(げんしはす)です。

原始蓮
写真7 ハス N. nucifera、品種:原始蓮(げんしはす)<Genshihasu>

京都 花蓮研究会さんの「主な花蓮品種」によれば、原始蓮 (げんしばす)は、紅一重大型有条の品種で、花弁は幅が広く、色はやや濃い桃色、条線は鮮明であるとされます。

ピンク色の花弁の先端が紅色に染まる、ひときわ艶やかな花です。

石田精華園さんの「原始蓮:天然記念物指定品種」には、原始蓮(げんしはす)は東大阪市善根寺に保存されていた地蓮が大賀一郎博士によって原始的な蓮として1936年に命名されたとあります。

東大阪市役所さんの「季節の花」のうちの「原始ハス」には、「原始ハスは、『古事記』のなかで歌人・引田部赤猪子が『日下江の入江のハチス花ハチス 身の盛り人羨しきろかも』と詠んだハスと言われ、約1600年前の5世紀ごろから咲き誇っていたとされています」とあります。

写真8は、明光蓮(めいこうれん)です。

明光蓮 
写真8 ハス N. nucifera、品種:明光蓮(めいこうれん)<Meikouren>

明光蓮は、ikiiki-zaidanさんの「42種類の花蓮」によれば、紅蓮系統に属する一重の品種で、蜀紅蓮と舞妃蓮の交雑品種とのことです。

明光蓮の親品種の一つである舞妃蓮は、写真2のように花色は淡い黄白色にわずかに淡紅色が入るだけですが、明光蓮では紅色がはっきりと出ています。

これは、もう一つの親品種である蜀紅蓮の遺伝子がなせる業でしょう。

というのも、宮川花園さんの「蜀紅(江)蓮 (しょっこうれん)」(画像もあり)の説明文の中に、蜀紅蓮は、「日本のハスの中では最も紅が濃い品種と言われ、盛夏には赤黒い花を目にする事もあります」とあるからです。

以上、ハスの7品種の写真をそれぞれの品種についての情報を添えながらご紹介しました。


古代蓮の里のスイレン科の植物(1)

以下は、古代蓮の里に植栽されていて、花の雰囲気もハスと似ていますが、分類学上は大きく離れているスイレン科の植物のを撮ったものです。

最初に、スイレン(温帯性スイレン) Nymphaea sp. です(写真9)。

スイレン
写真9 スイレン(温帯性スイレン) Nymphaea sp.

スイレンの花を見ると、多くの方がそうだと思いますが、私も、有名なクロード・モネ(Claude Monet)の一連の名画「睡蓮」( Les Nymphéas)を思い出します。

モネの睡蓮の池にあったのも温帯性スイレンと言われていますので、それもそのはずです。

温帯性スイレンは複数種よりなり、かつ多数の品種が存在しているようですので、今回、種の判定は保留としました。

日本に自生するスイレン属の唯一の種はヒツジグサ Nymphaea tetragona Georgi で、私が大学院生時代にトンボの生態を調査していた札幌市郊外の山中の沼に生育していました。

ヒツジグサは、花弁が10枚ほどの白い花を咲かせる、どちらかといえば地味な種で、ヨーロッパでは北部に分布が限られているようです。

(※以前の記事「奥の蜻蛉道(4):アマゴイルリトンボとの出会い」中に登場したヒツジグサはスイレンに訂正しました)。


スイレンとハスの分類学的関係

スイレンハスは生態学的地位が酷似しており、花や葉の形もよく似た面がありますので、以前は分類学的にも近い扱いを受けていました。

すなわち、少し古い体系である「新エングラー分類体系」(参照:http://hosho.ees.hokudai.ac.jp/~tsuyu/top/plt/engler-j.html#engler)では、スイレンハスキンポウゲ目スイレン科に所属していました(参考:www.geocities.jp/smsnishio/green/ENG.pdfhttp://lab.agr.hokudai.ac.jp/cbg/code/cbg_code3001.html)。

しかし、APG III(2009)による、最近のDNA分析による系統分類の見直しに基づく系統分類体系(APG III体系)においては、ハス(ハス科)は、スイレンとは系統的に大きく隔たった、ヤマモガシ目の中におかれています。

そして、スイレンスイレン目の中に置かれています。

スイレン目は、見かけによらず、現存するすべての被子植物の中で2番目に古い時期に系統が分岐したグループであるとされています(画像:外部リンク;画像リンク先:吉村泰幸さんの「C4植物のきほん」)。

一方、ヤマモガシ目は、スイレン目が分岐した後の被子植物の大きな進化の中で、モクレン類、単子葉植物、マツモ目、キンポウゲ目が次々と分岐したあとの「幹」が、バラ目を含むマメ類、アブラナ目を含むアオイ類、ナス目を含むシソ類、キク目を含むキキョウ類など多様な群に分化する少し前に分岐した、比較的新しい系統とされています。

久保ほか(2015)は、国内の代表的花蓮品種を含む220系統のハスについて、「ハスSimple Sequence Repeat(SSR)マーカー」25遺伝子座の遺伝的変異に基づいて解析し、5つの大きなグループに分類しています(系統樹画像:外部リンク)。

分類のほうに話が大きく脱線してしまいました。


古代蓮の里のスイレン科の植物(2)

古代蓮の里での私の撮影写真に戻ります。

写真10は、コウホネ Nuphar japonica DC. です。

コウホネ
写真10 コウホネ Nuphar japonica

以前の記事「奥の蜻蛉道(4):アマゴイルリトンボとの出会い」には、山地のトンボの住む沼に生育している同属種オオゼコウホネ Nuphar pumilum var. ozeense が登場しています。

コウホネは、スイレン目、スイレン科に属しており、これもAPG分類によってハスとは縁遠い存在となった一員です。


「古代蓮の里」のトンボ達

お待たせしました。

最後になりましたが、今回はわき役に回ったトンボ達をご紹介します。

まずは、チョウトンボ Rhyothemis fuliginosa Selys, 1883 ♀です(写真11)。

チョウトンボ♀ 
写真11 チョウトンボ Rhyothemis fuliginosa ♀

ピントが超甘ですが、これまでこのブログに♂の写真は何度も登場していますが、♀は登場していませんでしたので、今回、ちょい役ながら出てもらうことにしました。

♀の翅色は、♂(下の写真)にくらべて黒褐色系でたいへん地味です。

写真12チョウトンボ です。

チョウトンボ♂(1) 
写真12 チョウトンボ R. fuliginosa  ♂

後翅の基部が大きく広がっていますので、トンボの中では確かに蝶に形が似ています。

♂はそれに加えて、翅の色が青紫色で太陽光線の跳ね返り方によって虹色の輝きが現れます。
写真12でも後翅基部後半分あたりで、赤紫から始まる虹色のスペクトルを見せつけています。

写真13は同じ個体ですが、頭の向きが微妙に異なっています。

チョウトンボ♂(2)
写真13 チョウトンボ R. fuliginosa  ♂(写真12と同一個体)

視界の中を通り過ぎる他の昆虫をしっかり観察していることが伺えます。

 ※チョウトンボが主役となった過去記事を以下にご紹介します。

写真14クロイトトンボ Paracercion calamorum (Ris, 1916) ♂です。

クロイトトンボ♂ 
写真14 クロイトトンボ Paracercion calamorum (Ris, 1916) ♂

いつも脇役のクロイト君ですが、今回のこの♂は、思わず主役にしたくなるような黒さ。
本当に黒いです。

写真15シオカラトンボ Orthetrum albistylum (Selys, 1848) ♂です。

シオカラトンボ♂(1) 
写真15 シオカラトンボ Orthetrum albistylum

ピントが甘いですが、早い時点でカメラの前に登場してくれた個体ですので、アップしました。

写真16は、近くにとまった別のシオカラトンボ♂です。

シオカラトンボ♂(2)
写真16 シオカラトンボ O. albistylum ♂

錆びた鉄パイプにとまるところが、いかにもシオカラ君らしいです。

シオカラトンボも過去記事に時々登場します。

このブログの画面表示で、右上の「ブログ内検索」に「シオカラトンボ」と入力してクリックされると、該当頁の一覧が表示されます。


引用文献:
-赤沼敏春, 宮川浩一 2010 水の妖精 睡蓮と蓮の世界。エムピージェー。
-APG III. 2009. An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG III. Botanical Journal of the Linnean Society  161: 105–121.
-久保中央, 金子明雄, 山本和喜 (2015) SSRマーカーに基づく巨椋池系品種群を含む日本国内花蓮品種の分類. 育種学研究 17: 45-54.



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2017-09-05 (Tue)
昨年7月中旬、水戸市在住の昆虫研究家、染谷保さんに生息状況についての貴重な知見をご教示いただき、希少種ヒヌマイトトンボ Mortonagrion hirosei Asahina, 1972写真1,2)の観察・撮影をすることができました。

ヒヌマイトトンボの学名のうち、属名 Mortonagrion は従来から日本で知られていたモートンイトトボ Mortonagrion selenion (Ris, 1916) と同じモートンイトトンボ属です。
種小名 hirosei は発見者の一人である廣瀬誠氏にちなんでいます。

ヒヌマイトトンボ♂ 
写真1 ヒヌマイトトンボ Mortonagrion hirosei (写真はクリックで拡大します)

ヒヌマイトトンボ♀
写真2 ヒヌマイトトンボ M. hirosei


ヒヌマイトトンボ発見と新種記載の経緯

以下にヒヌマイトトンボ発見と新種記載の経緯をまとめてみました。

1971年7月7日に、従来見たことのないイトトンボ成虫が茨城県の涸沼で廣瀬誠氏と小菅次男氏によって多数採集され(Asahina, 1972;浜田・井上、1985;廣瀬、1997)、廣瀬氏によって東京の朝比奈正二郎先生に送付されました。

同じ1971年の7月4日に(高橋、1988)宮城県岩沼市で採集された同種トンボの標本も、地元のトンボ研究者から朝比奈先生に送られ(Asahina, 1972)、このトンボの生息環境の共通性と分布範囲の広がりを示す貴重な資料となりました。

形態の観察・検討をするのに十分すぎる量の標本に、採集者自身による克明な現場報告が添えられていたからでしょうか、朝比奈先生は涸沼産の標本をタイプ標本に抜擢し、海外の同属種の形態的特徴と比較するなど慎重に検討した上で、翌1972年に新種 Mortonagrion hirosei (ヒヌマイトトンボ)として記載しました(Asahina, 1972)。

なお、新種記載に先立って、朝比奈先生は、1971年7、8月に枝重夫氏を伴って、涸沼と宮城の発見地をそれぞれの発見者の案内のもと、訪れ、詳細な調査を行っています(Asahina, 1972)。


ヒヌマイトトンボ発見前後の日本産トンボ新種の出現状況

ヒヌマイトトンボ は、1971 年に発見され、翌年新種として記載された時点から現在まで、日本で発見され新種記載された最後のトンボと言われています。

1957年に日本トンボ学会(の前身となる組織)が発足して以来、1970年までに、日本各地のトンボ相の解明が進み、1960年代に2種(サキシマヤマトンボ Macromidia ishidai Asahina, 1964オキナワコヤマトンボ Macromia kubokaiya Asahina, 1964)が発見ならびに新種記載された(浜田・井上、1985、参照)のを最後に、もう新種のトンボは日本では見つからないだろうと思われるようになっていました。

1960年代には、他に3種のトンボ(リュウキュウカトリヤンマ Gynacantha ryukyuensis Asahina, 1962アマミサナエ Asiagomphus amamiensis (Asahina, 1962)[以上、Asahina, 1962、参照];ベニイトトンボ Ceriagrion nipponicum Asahina, 1967[浜田・井上、1985、参照])が新種記載されていますが、これらは1950年代以前からその存在が知られていて、別の学名が充てられていたものでした 。

そんな雰囲気が日本のトンボ界に充満していた1971年に、ヒヌマイトトンボが劇的に発見されたというわけです。

朝比奈先生はヒヌマイトトンボの記載論文(Asahina 1972)の冒頭で、「It was quite astonishing to find an entirely unknown dragonfly species from Japan.」(日本から全く知られていないトンボの種が発見されることは[この時点においては]大変な驚きであった)と書いています。

そのようないきさつから、ヒヌマイトトンボの発見は、日本のトンボ研究者・愛好家に意外感から換わった喝采をもって迎えられたようです。
その空気感は、当時、北海道の大学院でトンボ研究を開始して間もなかった私にも、じんわりと伝わってきました。

その後、南西諸島を始めとした島嶼部を含む全国各地で、トンボ相の調査がより一層広範に行われたにも関わらず、人知れず生息していた個体群が発見され、それが新種であったケースはこれまでのところ生起していません。

このことは、ヒヌマイトトンボの記載論文のタイトルに「the last new dragonfly species from Japan?」を書き添えられた朝比奈先生の慧眼を証明して余り有ります。

なお、1970年以前からその存在が知られ、別の学名が充てられていた地域個体群を新種として記載した例であれば4件あります(コシキトゲオトンボ Rhipidolestes asatoi Asahina, 1994ヤンバルトゲオトンボ Rhipidolestes shozoi Ishida, 2005アマミトゲオトンボ Rhipidolestes amamiensis Ishida, 2005オキナワサラサヤンマ Sarasaeschna kunigamiensis (Ishida, 1972)(浜田・井上1985および尾園ほか2012を参照)。


ヒヌマイトトンボの分布範囲と種の存立基盤

ヒヌマイトトンボが新種記載された以降、汽水域のヨシ原に着目したトンボ相調査が広く行われるようになり、現在までに宮城県から福岡・大分両県にかけて、海岸線に沿って飛び石状に散った分布域の全体像が浮かび上がっています(尾園ほか2012)。

更には、中国、台湾からも記録されるようになり(尾園ほか2012)、日本固有種のリストからは離脱することになりました。

そのような中、現在の日本におけるヒヌマイトトンボの存立基盤は脅かされており、環境省レッドデータでは「絶滅危惧I類(CR+EN)」にランクされています。

いきものログ」(環境省自然保護局生物多様性センター内)には、「生息地が沿岸河口地域に集中しているため、つねに水質汚染と河川改修の脅威にさらされています。すでに数カ所の産地では絶滅しており、残りの産地でもいつ絶滅に追いやられても不思議ではない状態が続いています。」との総括が見られます。

一般的な開発・汚染とは別に、東日本大震災の大津波の影響によっても、宮城県から福島県にかけての太平洋岸に飛び石上に存在していたヒヌマイトトンボの個体群もわずか1箇所を除いて絶滅していることが報告されています(牧野、2017:三田村、2017)。

宮城県の場合、震災以前から海岸の開発により、ヒヌマイトトンボ生息地の破壊と分断が続いていて、限りなく絶滅に近い状態だったところに津波がトドメを刺したというのが実態に近いようです(永幡、2013)。


本題:私のヒヌマイトトンボとの出会い

さて、一般論はこのくらいにして、以下に、私とヒヌマイトトンボとの初対面のエピソードをご紹介しようと思います。

真夏日予想の出ていたその日の未明、埼玉県内の自宅から車を乗り出し、一路、目的地に向かいました。

午前10時少し前に目的地周辺の駐車場に到着し、カメラと少量の飲料水を持ち、まずは調査予定ポイントの周辺部を歩き回りました。

強い日差しと真夏日の気温に見舞われる中、木陰を渇望しながら、それでもトンボの姿はないか、眼を凝らします。

10時22分。ブッシュの水面とは反対側にあたる部分の笹の葉上に、ハグロトンボ Atrocalopteryx atrata (Selys, 1853) ♀がとまっていました。

ハグロトンボ♀
写真3 ハグロトンボ Atrocalopteryx atrata 

遠巻きに調査ポイントの周囲を見るのを30分ほどで切り上げ、ヒヌマイトトンボ成虫の活動が期待される第一の調査ポイント写真4)にたどりつきました。

ヒヌマイトトンボの生息環境(1) 
写真4  ヒヌマイトトンボ M. hirosei の生息環境(1)

遠浅の水面から密生したヨシ Phragmites australis (Cav.) Trin. ex Steud. が突き出ている場所で、このヨシ群落の中に出来ている細い踏み分け径をゆっくり歩くと、小さなイトトンボがヨシの根本近くから飛び立ち、株間を器用に縫いながら低空のまま少し移動してとまりました(写真4の中央、枯れヨシの茎にとまっています)。


黒っぽい翅胸前面に円形の淡黄緑色紋が4つ見えたことから(写真1参照)、予習で特徴を把握済みでしたのでヒヌマイトトンボ♂であるとすぐわかりました。

ヒヌマイトトンボ♂ 
写真1(再掲)  ヒヌマイトトンボ M. hirosei ♂

この独特の斑紋パターンは日本ではヒヌマイトトンボ♂にだけ見られ、同属のモートンイトトンボ♂ではイトトンボによく見られる黒色と淡色の縦縞パターンです。

もう一つ、モートンイトトンボと斑紋の大きな相違があり、眼後紋(後頭部の淡色斑紋)がモートンイトトンボ♂ではL字状の紋が左右1個ずつなのに対し、ヒヌマイトトンボ♂では円形の紋が左右2個ずつになっています。

したがって、翅胸前面の水玉模様4個と水玉状の眼後紋4個が観察者から(そして多分他のトンボ個体からも)視認されることになります。

さて、観察メモに戻ります。

その1分後、今度は前半身がオレンジ色後半身が黒っぽいイトトンボがヨシの若株の先端近くにとまりました(写真2参照)。

ヒヌマイトトンボ♀
写真2(再掲)  ヒヌマイトトンボ M. hirosei ♀

これも予習通りのヒヌマイトトンボ♀だとすぐ分かりました。
ただし、写真の写りはあまりよくなかったので、少し後に撮ったものを写真2としました。

このオレンジ色は、まだどちらかといえば未熟な段階の♀が装う色で、成熟が進むとスモークがかかってきて褐色へと変わっていくとされています。

今回の観察地のある関東地方では♀の体色はこのワンパターンですが、中国地方以西では♂と同じような体色・斑紋をもつ♀が現れることが知られています(尾園ほか、2012)。

ヒヌマイトトンボの♀の体色は、同属のモートンイトトンボの♀のそれと紛らわしことが知られています。
実際に同じ場所に同じ時期に出現することもあるようですので、区別点を押さえておく必要があります。

ヒヌマイトトンボ♀では、頭頂部の単眼3個を取り囲むように、はっきりした黒色斑があります。
モートンイトトンボ♀もオレンジ色の頭部を持ちますが、そのような黒色斑はなく、その代わりに複眼に沿ってより淡い色の縦斑があります(尾園ほか、2012)。

再び、観察メモに戻ります。

その後も、トンボの静穏な暮らしを脅かさないように注意しながらゆっくり歩き、本種を見るたびにカメラを向けました。

1時間半粘った間に撮ったそれぞれ数個体の単独♂、♀の中で、私が選んだベストショットが写真1,2でした。

いずれも、ヨシの株間の水面近い所の枯れたヨシの茎や葉、あるいはスゲ類の葉にとまっていました。

この間、ラッキーなことに交尾中のカップルも発見し、撮影することができました(写真5、6)(11時04分~06分)。

ヒヌマイトトンボの交尾(1) 
写真5   ヒヌマイトトンボ M. hirosei の交尾(1)

ヒヌマイトトンボの交尾(2)
写真6  ヒヌマイトトンボ M. hirosei の交尾(2)

交尾中の♀は、文献が教えるとおり、オレンジ色の期間を通りすぎた褐色の体色をしています。
ただし、頭頂部の黒班は確認できました。

このカップルは、発見時には大き目のスゲ類あるいはイグサ類の鉛直の葉にとまって交尾中でしたが、観察者の動きに反応して写真5、6のように枯れヨシの茎にとまり替えました。

ここで交尾中、♂が腰を動かしている様子がわかる2コマ連続写真も得られました(写真7)。

ヒヌマイトトンボの交尾(3)
写真7 =写真5  ヒヌマイトトンボ M. hirosei の交尾(3)

交尾中のトンボ♂のこの腰の動きの機能については過去記事「グンバイトンボ:難儀な交尾も心を一つにすれば成る」に少し立ち入って書いたことがあります。

暑さへの観察者の我慢も限界近くなり、一通り見終わったところで、昼食のため、この調査ポイントを後にしました。

車で移動しながら、コンビニを見つけて、そこの木陰に駐車し、簡単な昼食と休憩をとったあと、第二の調査ポイントに向いました。

12時45分頃、午後の調査地、第二の調査ポイントに到着しました。

土砂の不均一な堆積などから水深が不均等なところのためか、ヨシ主体の湿性草原だがミゾソバPolygonum thunbergii Sieb.et Zucc.などの葉の広い草本が密に侵入しているところです(写真8)。

ヒヌマイトトンボの生息環境(2)
写真8  ヒヌマイトトンボ M. hirosei の生息環境(2)

踏み分け径を歩くと、しばらくして、最初のヒヌマイトトンボ♂を発見しました。

地面近くの枯草の葉の先端にとまっていました。

その1分後、ミゾソバの葉の先端にとまる1♂を見つけて撮影しました(写真9)。

ヒヌマイトトンボ♂(2) 
写真9  ヒヌマイトトンボ M. hirosei ♂(2)

このブログで時々言及する事柄になりますが、トンボ類では一般に♂のほうが♀よりもファッショナブルな装いをしていて、ヒヌマイトトンボもその例にもれません。

胸部、頭部それぞれの背面の黄緑色の水玉に加えて、腹部第7節後端の淡色斑紋が、本種♂にいかにもダンディーな雰囲気を醸し出しています。

このメリハリのある色彩パターンは、きっと♀を惹きつける効果を持っているのではないでしょうか。

さて、更にその1分後、2分後にも、別♂がやはりミゾソバの葉、茎にそれぞれとまっていました。

更に別の♂が、こちら向きにミゾソバの葉先にとまっているのを撮影しました(写真10)。

ヒヌマイトトンボ♂(3)
写真10  ヒヌマイトトンボ M. hirosei ♂(3)

こちらを見ているトンボ紳士、なかなか、きりっとした表情です。

そして、今度はです。
ミゾソバの茎にとまっています。

近づくとこの♀は少し飛んでミゾソバの葉にとまりました(写真11)。

ヒヌマイトトンボ♀(2)
写真11  ヒヌマイトトンボ M. hirosei ♀(2)

この♀はあざやかなオレンジ色ですので、まだ若い個体ということになります。

1分後、今度はスゲ類やミゾソバの葉にとまるイトトンボを発見、撮影しました(写真12)。

木漏れ日があたると露出オーバー、あたらないと露出不足になる撮影条件でした。写真12は、露出不足のものを強引に輝度&コントラスト調整したものです。

ヒヌマイトトンボ未熟♀ 
写真12  ヒヌマイトトンボ M. hirosei 未熟♀

複眼に不透明なグレー味があり、腹部の暗色斑の発色も薄いことから、羽化後間もないステージ、つまりテネラルteneralの段階にあることがわかります。

オレンジ系の色は若干出ていますので、即座にヒヌマイトトンボのテネラル♀と判定するところでしたが、頭頂部に特有の黒色斑が見当たりませんので、慎重にならざるをえません。

しかし、かといって、モートンイトトンボ♀のような複眼沿いの淡色斑もなければ、アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis (Rambur, 1842)アジアイトトンボ Ischnura asiatica (Brauer, 1865) のような翅胸前面の黒色ストライプが現れそうな兆しもみあたりません。

そんな中、私のフェイスブック仲間のお一人、Nature_Oyajiさんのブログ「オヤヂのご近所仲間日記」にヒヌマイトトンボの「羽化間もない個体」(写真:外部リンク)が掲げられているのを見つけました。

Nature_Oyajiさん撮影のその写真の♀と私の写真12の♀の外見が瓜二つのことから、写真12の♀がヒヌマイトトンボ♀であることの意を強くしました。

この後、オレンジ色がかなり発色している♀2頭を見つけ、カメラに収めました。

最後の被写体は、小さな虫をむさぼっている成熟でした(写真13 )。

ヒヌマイトトンボ♂、摂食中
写真13  ヒヌマイトトンボ M. hirosei ♂ 摂食中

この♂にフォーカスした2分間30コマの撮影シーンの最初と最後を比較すると、餌昆虫の腹部はほぼ食べつくされ、翅は脱落していました。

この間、このトンボは両前脚を器用に使って餌昆虫の腹部を自分の口器のように引き寄せていることがわかりました。

午前中の観察で確認できなかった産卵行動や交尾成立前の♂♀の行動などを午後見られるのではないかと、淡い期待をもっていましたが、踏み分け径を2周した限りでは単独個体ばかりでしたので、午後1時を少しまわったところでこの調査ポイントでの観察を切り上げました。

これらの撮り残しのシーンは次回以降の観察トリップのドライバーの前にぶらさがるニンジンとしては十分過ぎるものです。

車に戻り、コンビニで補給した後、まだ時間がありましたので、ヤンマか何かがいそうな湿地を探しに丘陵地方面へと向かいました。

ところが、この後ドライブ中に熱中症の症状が出てしまい、現地の病院で治療を受ける羽目になり、この日はヒヌマイトトンボ一色の一日ということになりました。

この失敗を教訓に、以後は、十分な量のスポーツドリンクを携帯し、体が要求する前に多めに飲用すること、灼熱の太陽の下で1時間を超えるような観察を控えること、休憩時間には冷房の効いた空間で十分体を冷やすことなどに注意することにしています。

最後になりましたが、貴重な情報を提供された染谷さんに感謝いたします。


引用文献:
- Asahina, S. (1962) Odonata of the Ryukyu Archipelago, Part III. The Odonata from the Amami Islands, adult dragonflies. Tombo 5(1-4), 4-18, 
- Asahina, S. (1972) Mortonagrion hirosei, the last new dragonfly from Japan? Kontyu 40 (1): 11-16, figs. 1-12.
- 浜田 康・井上 清 (1985) 日本産トンボ大図鑑。講談社。
- 廣瀬 誠(1997)羽化の刻 茨城のトンボ誌。茨城虫の会。
- 牧野 周(2017)震災後の宮城県のヒヌマイトトンボとコバネアオイトトンボの生息について。Tombo, 59:11-15.
- 三田村敏正(2017)東日本大震災が福島県沿岸のトンボ類に及ぼした影響。Tombo, 59:23-28.
- 永幡嘉之(2013)東北の自然はどこに向かうのか(4)。月刊むし、(512):28-34.<牧野(2017)からの間接引用>
- 尾園暁、川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。
- 高橋雄一(1988)宮城県のトンボ。ぶなの木出版。


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2017-08-28 (Mon)
3回シリーズで続いている、今年の7月上旬、関東地方から北~北東方面に脱出した先にある、自然度の高い浅い沼一帯のトンボ観察記もいよいよ大詰め、今回は私の憧れのトンボとの対面が実現した際のエピソードを中心に紹介します。

憧れのトンボ、それはアマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana Asahina, 1955 です(写真1)。

アマゴイルリトンボ♂(3) 
写真1 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana(12時34分撮影) (写真はクリックで拡大します)

午前11時30分、早目の昼食休憩を済ませた私は、昼食前に観察した岸の対岸側の、日当たりのよい岸沿いにトンボの観察を再開しました。

最初に見つけたトンボはモノサシトンボ Pseudocopera annulata (Selys, 1863) ♂で、沼の水面から出たスゲ類の葉にとまっていました。

少し移動すると、今度は沼の水面から茎を突き出しているミツガシワの葉にもモノサシトンボ♂がとまっていました(写真2)。

モノサシトンボ♂、水辺にて 
写真2 モノサシトンボ Pseudocopera annulata 

いずれの♂も、明らかに、♀の到着を待ち受けている、すなわち婚活モードに入っている様子です。

翅および体表に汚れがないことから、まだ婚活シーズンが始まったばかりだということが伺えます。

11時36分、漏れ日があたる、ミツガシワ帯の草本の葉にとまるモノサシトンボ♀を発見しました(写真3)。

モノサシトンボ♀ 
写真3 モノサシトンボ Pseudocopera annulata 

♂とくらべて、特に体前半分の淡色部が♂のように青味がかった白ではなく、黄褐色がっかった白い色をしています(本種では、青味がかった白の♀も知られていますが)。

午前中にも羽化直後の個体を含め4頭のモノサシトンボを見つけて撮影しましたが、♂ばかりで、♀はここでは初物となりました。

次に、岸の丈の高い草の葉にとまるエゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum (Selys, 1872)の♂(スペード形黒紋の個体)を撮り、少し歩を進めると、水面に浮かぶオゼコウホネ Nuphar pumilum var. ozeense の葉やヒルムシロ Potamogeton distinctus の葉にそれぞれとまるクロイトトンボ Paracercion calamorum (Ris, 1916) ♂を見つけました(写真4)。

クロイトトンボ♂ 
写真4 ヒルムシロ Potamogeton distinctus の葉にとまるクロイトトンボ Paracercion calamorum 

もちろん、いずれも、その葉の周囲を なわばり にし、♀の到着を待っているバリバリの♂です。

クロイトトンボは、この生息地では私の前に初登場です。

今度はエゾイトトンボ連結カップルミツガシワ Menyanthes trifoliata の茎にとまっています(11時41分)。

少し離れたミツガシワの葉の上にはエゾイトトンボの独身がとまっています(写真5)。

エゾイトトンボ♂ 
写真5 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum 

こちらも、♀の登場を待ち受けているモードです。

別のミツガシワの葉にはモノサシトンボ♂もとまっています。

これはもう、婚活パーティ―状態です(笑)。

11時46分、エゾイトトンボの連結産卵が見られました(写真6)。

エゾイトトンボ、連結産卵 
写真6 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum 連結産卵

オゼコウホネかなにかの浮揚植物の葉柄の組織内に、♀がいそいそと卵を産み付け、♂は直立して♀をガードしています(歩哨姿勢)。

11時51分、ミツガシワの茎にとまっているエゾイトトンボ連結カップルに、別のエゾイトトンボ♂が近づいたため、連結♂は翅をばたつかせて威嚇しています(写真7)。

エゾイトトンボ連結 
写真7 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum 連結カップルに他♂が接近

下の写真8は同じエゾイトトンボ連結カップルですが、♀の全身がよく見えているのでここに掲げることにしました。

エゾイトトンボ連結(2) 
写真8 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum連結、同一カップル

11時54分、ヒルムシロの葉の上にとまっているクロイトトンボ連結カップルを見つけ、撮影しました(写真9)。

クロイトトンボ連結 
写真9 クロイトトンボ Paracercion calamorum 連結カップル

写真9も、♀の全身が比較的明瞭に写っているので掲げています。

この後、モノサシトンボ♂3例、エゾイトトンボ♂1例を撮影しましたが、上に紹介した事例と同様の姿勢をとっていましたので詳細は省略します。

そんな中、ミツガシワの葉の縁にとまるトンボの羽化殻を見つけ、撮影しました(写真10

イトトンボ科羽化殻 
写真10 イトトンボ科の1種 Coenagrionidae, sp. の羽化殻

帰宅後、幼虫図鑑等で調べ、尾鰓の概形、体長に対する腹長の比率、尾鰓の途中に折れ目があるらしいことで、均翅亜目の他の科ではなくイトトンボ科に属する種の羽化殻であると判定しました。

12時05分、岸の木漏れ日の当たる、丈の高い草の幅広い葉の先端に、青味の強いモノサシトンボ科のトンボがとまっているのを見つけました(写真11)。

アマゴイルリトンボ♂ 
写真11 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana 

アマゴイルリトンボ♂です。

カメラのファインダー越しに凝視しながら、「やったー!」と心の中で叫び声を上げていました。

今回の奥の蜻蛉道の旅の一番の目的を果たすことができた瞬間です。

ただし、初対面でしたので、帰宅後、パソコン画面で拡大画像と図鑑を見比べてアマゴイルリトンボに間違いないと確信するまでは、ぬか喜びの可能性もありえたのですが。

その後、この一帯で、柳の下のドジョウならぬ、2頭目のアマゴイルリトンボが見つからないか、眼を皿にして歩を進めたのですが、モノサシトンボ♂はいても、アマゴイルリイトトンボの姿はありませんでした。

ふと目を沼の水面にやると、宿願を果たした私を祝福するかのように、スイレン Nymphaea sp. の花が踊っていました(写真12)。[記事掲載時に「ヒツジグサ」としてい他のを訂正。2017.9.8.]

ヒツジグサ 
写真12 トンボの生息地に咲くスイレン Nymphaea sp. 

というわけで、目先を変えて、ハッチョウトンボのいるミズゴケ湿原へ向かうことにしました。

※その前に:昼時の日の当たる側の岸辺のトンボ成虫の構成には、午前中の日陰側の岸辺のそれと比べてクロイトトンボとルリモントンボの存在、オゼイトトンボの不在が指摘でき、♀を待ち受ける♂や連結や産卵中のカップルが見られるなど、生殖行動の活発化が見てとれます。

さて、この後の午後ののミズゴケ湿原で見たハッチョウトンボとアキアカネのオベリスク大会は、前々回の記事「奥の蜻蛉道(2):真夏のミズゴケ湿原のトンボ」に書いたとおりです。

そのミズゴケ湿原に向う通り道の横に、この沼の上流端の湿性草原の水たまりがありますので、そこに寄り道をしてみました。

すると、ますは藪の近くの草にとまるアキアカネが目に入りました(前回記事で既報)。

振り返るとその水たまりの近くの草の葉に、なんとアマゴイルリトンボ♂がとまっているではありませんか(写真13)。

アマゴイルリトンボ♂ 
写真13 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana ♂ (撮影者の影響を受ける前の証拠写真)

これこそが、前回記事「奥の蜻蛉道(3):湿原上流端の脇役トンボたち」で登場を先延ばしされた「この日の昼食休憩後に初対面したばかりのトンボ」そのものです。

お待たせしました。

この日2度目のアマゴイルリトンボ♂ですので、写真写りを優先して、撮影会のカメラマン並みに様ざまな角度・距離からシャッターを押します。

アマゴイルリトンボは、このうざったいカメラマンを避けるかのように、何度かとまり替えました。

そのうちの1枚はこれ(写真14)です。

アマゴイルリトンボ♂(2) 
写真14 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana 

そして最後の1枚(正確には最後から2枚目)がこれ(写真15)です(12時34分)。

アマゴイルリトンボ♂(3) 
写真15 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana  (写真1の再掲)

というわけで、今回の記事の冒頭にはこの写真を使いました。

アマゴイルリトンボは見た感じはモノサシトンボと似ていますが、分類学上の属はグンバイトンボと同じグンバイトンボ属 Platycnemis に属しています。

グンバイトンボ属およびその近縁属の種には♂の中・後脚の脛節が軍配状に拡張しているものが多く知られており(過去記事「世界のグンバイトンボ類、軍配サイズ番付」参照)、その中でアマゴイルリトンボはもっとも軍配に縁がない部類に属しますので、私にとっても興味津々の種です。

この話題については、また後程の記事で取り上げたいと思っています。

この後、トンボ探訪を続けながら、この沼への流入河川(細流)(前回記事参照)とミズゴケ湿原(前々回記事)を通り、森林斜面の迫る岸(3回前の記事)を通って、愛車の待つ場所へと戻りました。

これをもって、当ブログの「奥の蜻蛉道篇」はいったん完結といたします。


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