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2017-08-22 (Tue)
「自然史研究所」のブログに、ハンドルネーム「どう思われますか 」さんから、大変ユニークなコメントが届きました。
コメントへの内部リンクはこちら

コメント欄でのやりとりで終わらせるのはもったいないので、「どう思われますか 」さんへのコメントへのブログ筆者(生方秀紀)からの回答をブログ記事としてアップすることにしました。

今後、この記事への「どう思われますか 」さんからの反論あるいは追加説明などが届きましたら、そのコメントと私の回答はこの記事にリンクしたコメント欄に戻る形で継続することとします。

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「どう思われますか 」さん:> どう思われますか

「どう思われますか 」さん:> こんにちは。カテ違いで初歩的なコメントで申し訳ありませんが、(④を導く根拠に①②を用い、③は④を補強)、どのように思われますか。

「どう思われますか 」さん:> ① 『遺伝子DNAは誰が作ったのか

「どう思われますか 」さん:> 地球上の全ての生命に遺伝子DNAが組み込まれていますが、1mとか2mとかの長さがあり、4種の塩基配列は複雑精巧で、自己修復機能まで有します。

「どう思われますか 」さん:> こんなものが自然や偶然に出来るわけが有りません。作ったのは「遠い未来の人間」です。


生方:→ 現生生物のDNAのように完全なものが偶然に一度で作られたはずはありません。長い進化の過程で、気の遠くなるような回数で無方向に突然変異したそれぞれのDNAが自然選択(自然淘汰)による篩にかけられることを数えきれないほど繰り返し、生き残った勝ち組が現存していると考えるのが現代の進化学の見方です。

生方:→ 「遠い未来の人間」も何らかのDNAをもとに出来上がっているはずですが、このDNAは誰がつくったのでしょうか?

生方:→ もし「遠い未来の人間」がDNAを作ったとして、そのDNAがどのように現在や過去に送り込まれたのか?そのほうがよほど不思議である。


「どう思われますか 」さん:> ② 『物質(原子)は誰が作ったのか』

「どう思われますか 」さん:> 地球上の物質(原子)は百余り有りますが、陽子・中性子・電子の3者で構成され、それ以外の構成は存在しないし、規則性とか法則性に支配されています。

「どう思われますか 」さん:> 中性子は中性子線を内包し、特定の物質(原子)もα線とかβ線などを放射して崩壊し、電子は電荷を内包しています。

「どう思われますか 」さん:>こんな複雑な物が自然や偶然で出来るわけが有りません。原子を作ったのは「遠い未来の人間」です。

「どう思われますか 」さん:> (uクォークとかdクォークとか中性子のβ崩壊で発生する陽子や電子ニュートリノなどの難しい話ではなく、単に『こんなもの(原子)が自然や偶然に出来上がるものか』ということを、お尋ねしております。


生方:→ 「遠い未来の人間」も原子から作られていなければなりませんが、その原子は誰が創ったのでしょうか?

生方:→もし「遠い未来の人間」が原子を創ったとして、その原子がどのように現在や過去に送り込まれたのでしょうか? この大量のタイムトランスポーテ―ションのほうがよほど不可思議です。


「どう思われますか 」さん:>  宇宙の始まりが無機であったとしても、進化の途上で有機(生命とか生活機能)が生まれ、さらに彼らが多様な進化を遂げたうえで、人間や様々なものが作り出された可能性は否定されるものでしょうか。


生方:→ 無機物から有機物が、有機物の中にDNAが、そのDNAの乗り物たる生物の多様な進化の一つの枝の中で人類が、それぞれ進化したというのは、否定されるものどころか、唯一残された可能性です。ところで、「人間や様々なものが作り出された」の文脈で、作り出すの主語は何ですか?私は「自然選択」を主語と想定して回答しています。

「どう思われますか 」さん:> (胎児の成長過程で一時的に見られる「尾っぽ」とか「指の水かき」は進化の記憶でしょうか。)


生方:→ 進化は現象であって、記憶能力を持つ生き物あるいは人工物と考えるには無理があります。

生方:→ 「胎児の成長過程で一時的に見られる『尾っぽ』」はヒトのDNAの中に残った過去の遺物であるといえる。


「どう思われますか 」さん:>  『私たちは人工的に作られた肉体を使って、人工的に作られた「場」で生活をしていますが、実は、今の世界は実在しない虚構であり、実在する本当の自分は「DNAや原子を合成する科学を持った遠い未来」(真実の世界)にいます。』という発想は、(無限回の問答は抜きにして)、成り立つでしょうか。

「どう思われますか 」さん:> (平行宇宙だとか重畳宇宙だとか「メビウスの輪」だとかの難しい解釈ではなく、もっとシンプルで単純な答えが見つからないものでしょうか)。


生方:→ 私の批判が正しければ、①~③の前提が崩れていますので、④は現実世界を説明する命題としては成立しないと言わざるをえません。

生方:→ 進化学を含む科学で生命や進化の神秘が解明される以前には、絶対的存在である神を創造主とあがめる宗教が自然観を支配することが多かったと考えます。

生方:→ 今回の「どう思われますか 」さんの新説は、その「神」を「未来の人間」に(無意識に)置き換えたものとみることができます。

生方:→絶対的神による天地創造説には、「その神をつくるDNAはどこから来たのか」という批判を回避できており、その点、矛盾は「どう思われますか 」さんの新説よりも圧倒的に少ないといえます。とはいえ、その絶対的神はどこから生まれ、どこから来たのかという突っ込みを受ける余地はあり、科学とは相容れません。

「どう思われますか 」さんのコメントへの私の回答は以上です。


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2017-08-21 (Mon)
夏目英隆さんに同行しての、昨年7月上旬の他県へのトンボ・トリップの最終調査地、丘陵地を刻む河川の中流部で観察したトンボのうち、カワトンボ属(現、元)3種オナガサナエは前回までの2つの記事で紹介しました。

その同じ場所で、コヤマトンボ Macromia amphigena Selys, 1871 のを観察・撮影することができました(写真1、3)。

コヤマトンボ、♂ 
写真1 コヤマトンボ Macromia amphigena ♂ (写真はクリックで拡大します)

観察者である私は、胴付長靴(ウェーダー)を着用し、川の中央部に仁王立ちし、通りかかるヤマトンボ科 Macromiidae の成虫が眼の前を通りすぎるたびにシャッターを数回押して、なんとか画面にそのトンボの姿を収めようと試みました。

しかし、午後3時半をまたぐ7分間に、約180回シャッターを切ったのですが、どれもこれもブレたり、ピンボケだったりと、空振りの山を築く結果となりました。

上の写真1は、それらピンボケ写真の中で、証拠写真としてなら使えそうということで残った最後の1枚です。

トリミングしていますが、これ以上のトリミングをして拡大表示するとお目汚しになる、ギリギリのものです。

それでもなんとか、画面で拡大することで、腹部第3節の黄色斑紋の特徴で同属他種と区別できました。

下の写真2も、上記の180コマのうちの1コマですが、同様に水面上の低いところをヤマトンボ科の1種の成虫♂がパトロールしていることを説明するのに使えるアングルで撮れています(トリミング後)。

コヤマトンボ属、♂
写真2 コヤマトンボ属の1種 Macromia sp. 

ただし、写真2の個体がコヤマトンボと言い切るに足る特徴が判然としませんので、安全のため、キャプションはコヤマトンボ属の1種 Macromia sp.の♂としておきました。

下の写真3は、この川でトンボの生態の調査研究を続けておられる夏目さんが、これらパトロール中のコヤマトンボ♂をネットインされたものを、私が撮影させてもらったものです。

コヤマトンボ♂、記録用写真 
写真3 コヤマトンボ Macromia amphigena ♂、記録用写真

手持ちされた状態で撮影された写真3は、前後翅の翅脈はもちろん、頭部や胸部の体毛まで識別可能な写りになっていますので、以下のようなコヤマトンボの特徴(参考:尾園ほか、2012)を確認することが可能です。

・尾部上付属器の先端が外側に弱く湾曲する(オオヤマトンボEpophthalmia elegans [Brauer, 1865]では先端が内向きになる)。
・腹部第3節の黄色斑紋は黒斑によって斜めに切断されることはない(キイロヤマトンボMacromia daimoji Okumura, 1949との区別点)。
・腹部第10節背面が背方(上方)に突出しない(オオヤマトンボでは突出する)。<ただし今回の写真ではこの区別は若干不明瞭>

以上のように、今回の観察では種まで判別できたヤマトンボ科の種は、コヤマトンボのみでしたが、繰りかえし観察者の足元付近を通過してパトロールしていた個体の中に、別種のキイロヤマトンボが含まれていなかったとは言い切れません。

いないことの証明は難しいですが、いたことの証明のためには撮影技術を格段に向上させるか、一時的にネットインして手持ち撮影した後リリースするかが必要となります。

なぜリリースかといえば、希少種の場合は、よほどの研究目的がない限り、標本にして持ち帰ることは差し控えるべきという考えを私はもっているからです。

後者は若干安易な感じがしますので、ふだんから少しずつ撮影技術を向上させるように努力したいところです。

さて、ヤマトンボ科♂のパトロール中の姿を収めるために、写真1、2を含む180コマの撮影をしたポイントをおさめた景観写真を、下の、写真4に掲げます。

コヤマトンボが観察された河川中流部 
写真4 コヤマトンボが観察された河川中流部

写真4から、浅い砂礫底が拡がったこの清冽な河川中流部は、コヤマトンボ属を含む各種河川性トンボの楽園となっていることが伺われます。

さて、このトンボ・トリップのシリーズ報告最終回の記事でしんがりに控えているのは、この河川中流部で観察されたトンボ科3種です(写真5~7)。

ノシメトンボ♂ 
写真5 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum (Selys, 1883) ♀ (再掲)

上の真5ノシメトンボ Sympetrum infuscatum は、今回のシリーズ記事のうちの「ノシメトンボ:ハンディキャップもなんのその」で、準主役級の役どころですでに登場済みです。

ノシメトンボは、脇役としてですが、過去記事「トンボ王国訪問記(2):ヒメサナエと小さな虫たち」にも登場しています。

シオカラトンボ♂
写真6 シオカラトンボ Orthetrum albistylum (Selys, 1848) ♂

上の写真6シオカラトンボ Orthetrum albistylum は、川岸の砂地の上に倒れた枯れた竹の茎にとまっているところですが、白粉がほとんど吹いておらず、まだほとんど成熟が進んでいないことがわかります。

シオカラトンボはどこにでもいる普通種ですので、当ブログではわき役になりがちですが、それでも以下の記事ではしっかり主役も務めています。

ウスバキトンボ♀ 
写真7 ウスバキトンボ Pantala flavescens (Fabricius, 1798) ♀

上の写真7ウスバキトンボ Pantala flavescens は、川岸の背の高い草の葉柄の付け根にぶら下がるようにとまっているところです。

ウスバキトンボは今回のトンボ・トリップで溜め池群でも観察・撮影され、過去記事「トンボらの生命はぐくむ稲の里:アキアカネ、etc.」に登場済みです。


謝辞:
今回のトンボ・トリップの一連の記事を終えるにあたり、現地へのご案内、観察されたトンボについての知見のご教示を下さった夏目さんに、この場を借りて感謝いたします。


引用文献: 
尾園暁、川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。


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2017-08-20 (Sun)
夏目英隆さんに同行しての、昨年7月上旬の他県へのトンボ・トリップの最終調査地、丘陵地を刻む河川の中流部で、日本産アオハダトンボ属(現、元)全3種の豪華な揃い踏みが見られはことは2件前の記事に書いた通りです。

その同じ場所で、オナガサナエ Melligomphus viridicostus (Oguma, 1926) が活動している姿を初めて観察し、撮影することができました(写真1~5)。

その最初の出会いは、川をまたぐ橋の下のコンクリート面に、腹先が棍棒状に左右に拡がったサナエトンボの♂が川面方向を向いてとまっているのを発見したところから始まります(写真1)。

オナガサナエ♂、コンクリート面に静止 
写真1 川岸のコンクリート面にとまる、オナガサナエ Melligomphus viridicostus、♂ (写真はクリックで拡大します)

私:「サナエトンボがいますね。」
夏目さん:「オナガサナエですね。」
私:「は~。これがオナガサナエですか。格好いいですね。」

写真1は、逆光気味で、写りはほとんど証拠写真レベルです。

下の写真2は別個体ですが、もう少し明るく写っていて、オナガサナエ♂がどんな形や色彩パターンを有しているかを見るには好都合です。

オナガサナエ♂、枯れ枝に静止
写真2 岸の枯れ枝にとまるオナガサナエ M. viridicostus、♂

帰宅してからパソコンで撮影画像を拡大してみると、「オナガ」サナエだけあって、確かに立派な「尾」(この場合、尾部付属器)を持っています。

尾部上付属器も長大ですが、尾部下付属器はもっと長大です。

この尾部付属器で頭部をグリップされたら、♀も、相手が自分のタイプでなくても、あきらめざるを得ないでしょう。

冗談はともかく、いずれの♂も後脚を伸ばし気味にして、ほぼ真っ直ぐに伸ばした後半身をリフトしています。

写真1の♂は、腹基部を少し反らし気味にして腹部を一層高く挙げ、腹端部を水平気味になるように腹側(下側)に少し曲げています。

この挙上は、腹の先端が指し示す方向が太陽の方向とは全く一致しませんので、体温調節のためのオベリスク姿勢(過去記事参照)とは別の機能を持つはずです。

本種♂は、川面に なわばり を持つといわれていますので(尾園ほか、2012)、この挙上は接近してくる♂に対して、先着の占有者が存在していることをアピールしているのかもしれません。

今後の観察で、接近♂の態度にこの挙上がどう影響するか、確認してみたいところです。

下の写真3は枯れ枝にとまっている♂を正面から写したものです。

オナガサナエ♂、枯れ枝に静止(2)
写真3 岸の枯れ枝にとまるオナガサナエ M. viridicostus、♂ (2)

腹端部が棍棒状に拡張している様子、そしてそれを目立たせるかのように、後半身を挙上している様子がよくわかります。

サナエトンボ科 Gomphidae の英語名(和名に相当する通称名)に、clubtail dragonflies が使われているのも、この特徴から来ています。

今回、オナガサナエ♂が川面の上空数十センチメートルの高さをホバリングを繰り返ししながらパトロールしている様子も撮影できました(写真4,5

オナガサナエ♂、水面上ホバリング、横から
写真4 水面上をパトロールする、オナガサナエ M. viridicostus、♂
オナガサナエ♂、水面上ホバリング、正面から
写真5 水面上をパトロールする、オナガサナエ M. viridicostus、♂

いずれもピント・露出とも不足していて証拠写真レベルですが、それでも本種♂が水面上をパトロールする際に、それこそ棍棒を誇示するかのように後半身、とりわけ腹部を挙上した姿勢でホバリングすることを確認するには十分の情報量を写し込んでいます。

もしかすると、♂同士がなわばり争いをする際には、単に相手を物理的に追い払おうとするのではなく、棍棒の先端を誇示して威嚇しあうのかもしれません。

このことも、機会があったら、直接観察してみたいところです。

もちろん、交尾や♀の産卵行動の観察も将来の課題として残りました。

さて、次回記事では、今回のトンボ・トリップで観察されたヤマトンボ科の種が登場する予定です。


引用文献: 
尾園暁、川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。


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2017-08-18 (Fri)
夏目英隆さんに同行しての、昨年7月上旬の他県へのトンボ・トリップの最終調査地、丘陵地を刻む河川の中流部では、日本産アオハダトンボ属(現、元)全3種の豪華な揃い踏みが見られました(前回記事参照)。

それらのうち、ハグロトンボ Atrocalopteryx atrata (Selys, 1853)の♂、♀が水辺で静止中に盛んに翅の打ち合わせをしている様子を、写真に収めることができました(写真1~4)。

下の写真1は単独♂が翅を開きつつあるところ、写真2は、翅を閉じたところです。

IMG_7030アオハダ♂-crop-s-credit
写真1 ハグロトンボ Atrocalopteryx atrata の単独♂が翅を開きつつあるところ (写真はクリックで拡大します)

IMG_7029-crop-s-credit.jpg
写真2 そのハグロトンボ A. atrata の♂が翅を閉じたところ

翅を開くときは、比較的ゆっくり開き、閉じる時はパタッと瞬時に閉じます。

下の写真3,4は、川面に倒れかかった枯れ竹の茎に2♂、1♀がほぼ同じ向きにとまり、それぞれが翅の打ち合わせを繰り返しているところです。

IMG_7209-crop2-s-credit.jpg
写真3 ハグロトンボ A. atrata の2♂1♀がそれぞれ翅打ち合わせをしているところ(1)

IMG_7213-crop2-s-credit.jpg
写真4 ハグロトンボ A. atrata の2♂1♀がそれぞれ翅打ち合わせをしているところ(2)

写真3では中央の♂が、写真4では手前の♀が、それぞれ翅を開いている途中が写っています。

翅打ち合わせのリズムは比較的類似していましたが、同期しているわけではなく、それぞれが独自のタイミングでこの動作を繰り返している様子でした。

もう一つ気になるのは、同種個体が並んでいま様子が、それぞれ勝手な方向を向いている感があります。
少なくとも、ライバルあるいは交尾の対象と考えるなら、相手を視野の中央に入れる方向を向いてもよさそうなものなのに、そうしていません。

ということは、かれらは婚活中、あるいは縄張り争い中ではなく、休憩中もしくは餌待ち中であると考えたほうがよさそうです。

それはともかく、カワトンボ科の成虫が静止中に示す、この翅打ち合わせ(wing clapping)の機能は何なのでしょうか?

コーベット著(1999;日本語版、2007)『トンボ博物学をひもといてみました。

「翅打ち合わせ」の機能:
 <コーベット『トンボ博物学』279-280頁から抜粋>

「活動時間中にとまっているとき、均翅亜目の4つの科に属する何種かの成虫は、翅打ち合わせとして知られる特徴的な行動で翅を突然閉じたり開いたりする。」

「Bickら (1978) の仮の結論としては、翅打ち合わせはコミュニケーションの1つの形態であり<中略>、カワトンボ科においては雌雄間の信号であるとしている。カワトンボ科では雌雄の翅打ち合わせが同調しているのでコミュニケーションしているように見える。」

「アメリカアオハダトンボ<Calopteryx maculata (Palisot de Beauvois, 1805)>の場合、翅打ち合わせは色々な状況下で起こるので、コミュニケーション機能をもっているかも知れないが<中略>、近くに同種他個体がいてもいなくても外因性と内因性の加熱に対する反応としてこの行動が起こり、野外では飛翔直後に集中して生じる<中略>(Erickson & Reid 1989)。」

「フランス南部に生息するオアカカワトンボ<Calopteryx xanthostoma (Charpentier, 1825)>では、翅打ち合わせが日中の最も暑い時間に見られ(Rüppell 1992)、Cora属の数種(アメリカミナミカワトンボ科<Polythoridae>)では誘導されてではなく、ふつう飛翔後に翅打ち合わせを行なうようなので、これも同様に体温を下げる効果があるらしい。」

「アオハダトンボ属<Calopteryx>の4種でこの行動を解析したPeter Miller (1994d) は、この行動は呼吸と体温調節の2つの機能をもっており、後者は外部的にも内部的にも空気を循環させて行うと結論づけた。また、カワトンボ科の種は比較的大型の割に効率的な腹部の換気ポンプをもっていないので、このような行動が必要になるのだろうとも述べている。」

「翅打ち合わせによる物理的な影響を考慮して、M. L. May (1994) は翅打ち合わせは量的には重要な冷却効果はもたらさないだろうと考えている。というのは、翅打ち合わせはゆっくりで、しかも気管の中へ実際に入っていく空気の体積はわずかなので、空気の熱容量は非常に小さく、取るに足りない効果しかないからである。Mayは、翅打ち合わせ行動の機能は、高い周囲の気温の下で増大する酸素要求に直面した状況における換気が主要なものであるという見解を採用している。」

以上の、コーベット博士によるまとめから読み取れることは、直感的には個体間のコミュニケーション(たとえば、自己の存在を主張、あるいは他個体の接近の忌避、求愛、など)が考えられやすいが、物理学や生理学の視点を持つならば、体温調節(冷却)や酸素供給量の向上という機能が浮上するということです。

カワトンボ科の翅打ち合わせによって、どの機能が実際に有効に作用しているかは、専門研究者による体内温度センサーや局所酸素濃度センサーなども駆使した精密な実験が必要になるでしょう。

しかし、私たちのようにそのような設備や研究費を持ち合わせない者でも、同じ問題意識を共有し、観察時の環境条件や個体の行動履歴、個体間の関係性などに注意を払い、それらを最大限精密かつ客観的に記録することで、何か見えてくるものがあるのではないでしょうか。

少なくとも、それを期待することで、観察へのモチベーションは高まるはずです。

引用文献:
コーベット, P.S. (1999著)、椿・生方・上田・東、監訳(2007)『トンボ博物学―行動と生態の多様性ー』。海游舎。


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2017-08-17 (Thu)
夏目英隆さんに同行しての、昨年7月上旬の他県へのトンボ・トリップの最終調査地は、丘陵地を刻む河川の中流部の2地点でした。

これら二つの調査地点では、川幅はゆったり拡がり、水深は浅く、砂礫底で、ほとんど汚染が感じられない綺麗な水がサラサラと流れていて、川岸には竹林や草の生い茂った土手が迫っていました。

このうち、一方の調査地点では、日本産アオハダトンボ属(現、元)全3種の豪華な揃い踏みが見られました。
(タイトルの「アオハダトンボ属」に「現、元」が入っている理由については、文末の注をご覧ください。)

まずは、アオハダトンボ Calopteryx japonica Selys, 1869写真1,2です。

アオハダトンボ♂(初撮影) 
写真1 アオハダトンボ Calopteryx japonica、♂(写真はクリックで拡大します)

アオハダトンボ♀
写真2 アオハダトンボ Calopteryx japonica、♀

私にとって、アオハダトンボはデジタル一眼カメラを下げて歩くようになってからは初対面、初撮影となりました(感激)。

アオハダトンボは、比較的清冽な河川に限られるようで、私の住む埼玉県でもなかなか見る機会がありません。

今年、アサヒナカワトンボ、ミヤマカワトンボとともに、県内のある川で本種が見られたのはちょっと意外でした(過去記事「カワトンボ科3種:翅も艶やか裏銀座」参照)。

それはさておき、今回の調査地点で観察されたアオハダトンボ属(現、元)の種の話題に戻します。

次は、ハグロトンボ Atrocalopteryx atrata (Selys, 1853)[かつては、Calopteryx atrata Selys, 1853と呼ばれていた]です(写真3,4)。

ハグロトンボ♂ 
写真3 ハグロトンボ Atrocalopteryx atrata、♂

ハグロトンボ♀
写真4 ハグロトンボ Atrocalopteryx atrata、♀

ハグロトンボ は多少の水質汚染には耐えるようで、私の住む、さいたま市内の比較的自然の残る公園やその周辺でもまだ見ることができます。

アオハダトンボとハグロトンボの区別点

アオハダトンボとハグロトンボ元同属だっただけあって、たいへんよく似ていますが、♀の場合は翅に白い偽縁紋があればアオハダトンボ、無ければハグロトンボと簡単に判別できます。

一方、アオハダトンボとハグロトンボの♂同士の区別はなかなか微妙です。

手持ちの図鑑類(浜田・井上 1985)、杉村ほか(1999)、尾園ほか(2012)を参考にし、両種♂の区別点をまとめてみました。

アオハダトンボ♂:
a1 翅の先端は放物線状に少し細まる
b1 翅の色は藍色(青紫色)
c1 翅脈のうち前横脈は金色
d1 腹部先端(第9,10節)下面が明らかに白い

ハグロトンボ♂:
a2 翅の先端はほぼ半円状
b2 翅の色は黒褐色
c2 翅脈のうち前横脈は黒色
d2 腹部先端(第9,10節)下面は、特別白くない

これらの特徴は、標本を持ち帰り、ルーペを用いながら様々な角度で見比べれば、それほど苦労することなく種の判別ができるのですが、今の私のように一眼デジタルカメラの画像だけで判断する場合には、微妙なケースにも少なからず出くわします。

a1-a2の区別については、個体変異によって重なりが出てくるため、必ずしも明瞭でなくなります。

b1-b2の区別点も採光の具合や角度によって、区別しにくい場合があり、d1-d2の区別点はその部分が蔭になっていたり、ピンボケになっているため分かりにくいことがあります。

そんな中、意外に重宝するのがc1-c2です。
ただし、これも光のあたり具合によっては誤認することがありえますので要注意です。

再び、今回の調査地点で観察されたアオハダトンボ属(現、元)の種の話題に戻します。 

最後は、ミヤマカワトンボ Calopteryx cornelia Selys, 1853です(写真5)。

ミヤマカワトンボ♂ 
写真5 ミヤマカワトンボ Calopteryx cornelia、♂(記事アップ時には♀と誤記していたのを訂正)

今回は、ミヤマカワトンボのみ、♀の写真を撮る機会がありませんでしたので、過去記事「ミヤマカワトンボ♀:にこやかにお出迎え」から埼玉県で撮影した♀の写真を再掲しておきます(写真6

ミヤマカワトンボ♀(1) 
写真6 ミヤマカワトンボ Calopteryx cornelia、♀ 過去記事から再掲)

ミヤマカワトンボは、アオハダトンボ、ハグロトンボからは、以下の特徴により容易に区別することができます。
1.翅の色が半透明な赤褐色である。
2.後翅の先端付近に濃褐色の帯状斑がある。
3.体全長が63-80mmと大型(日本産均翅亜目で最大)
  (アオハダトンボは55-63mm、ハグロトンボは54-68mm)[体長データは、尾園ほか2012]

以上、日本産アオハダトンボ属(現、元)全3種の生態写真を♂・♀揃いでご紹介しました。

このように、華麗なトンボ達が今でも揃って出迎えてくれる、今となっては貴重なこの川の景観写真をご紹介し(写真7)、今回の記事を閉じることとします。

2016年7月上旬、調査地(河川中流) 
写真7 アオハダトンボ属(現、元)3種が観察された河川中流部

次回以降の記事も、この川で見たトンボ達について取り上げます。


注:タイトルの「アオハダトンボ属」に「現、元」を付した理由:
アオハダトンボ属はCalopteryx Leach, 1815のことを指します(ハグロトンボ属と呼ばれていたこともあります)。タイトルの「アオハダトンボ属」に「元」が入っているのは、Calopteryx atrata Selys, 1853の学名を付されたハグロトンボが、DNA解析の結果、タイワンハグロトンボ属Matrona Selys, 1853に近縁の新設属のAtrocalopteryx Dumont, Vanfleteren, De Jonckheere & Weekers, 2005に移され、Atrocalopteryx atrata (Selys, 1853)と呼ばれることになったためです[尾園ほか2012]。
残りのアオハダトンボCalopteryx japonica Selys, 1869とミヤマカワトンボCalopteryx cornelia Selys, 1853の属名は変更されていません。

引用文献: 
浜田 康・井上 清 (1985) 日本産トンボ大図鑑。講談社。
杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司 (1999) 原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑。北海道大学図書刊行会。
尾園暁、川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。


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