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2017-07-03 (Mon)
「トンボの楽園」という言葉は時々耳にしますが、楽園中の楽園は、やはり高知県四万十市(旧中村市)にある「四万十市トンボ自然公園」(別名「トンボ王国」)でしょう。

「トンボ王国」は、公益社団法人「トンボと自然を考える会」が里山であった池田谷の水田や畑地等の一部(約6.8ha)を取得し、あるいは借り受け、トンボの保護区を整備し、管理運営している(出典:トンボと自然を考える会のWebSite)、世界的に見てもトンボ保護のためのナショナルトラストの先駆けです。

そしてこの「トンボ王国」を含む池田谷のトンボ類は2008年現在で76種に達していて、同規模面積でのトンボ記録種数日本一を誇るとのことです(出典:トンボと自然を考える会のWebSite)。

1993年に大阪市で開催された第12回国際トンボ学シンポジウムの参加者を対象としたポスト・シンポジウム・ツアーの訪問先にもなったことがあり、海外からの大勢のトンボ研究者・愛好家を含む参加者を、トンボと自然を考える会の実質的な代表者である杉村光俊氏以下、トンボ王国の「住民」たちが「おもてなし」し、喜ばれたと伺っています。

私も大阪のシンポジウムには参加したのですが、その直後に釧路で開催された「国際シンポジウムートンボの生息環境とその保護」の準備と運営にあたらなくてはいけなかったため、トンボ王国へのツアーには参加せずじまいでした。

昨年6月、23年振りに、私がトンボ王国を訪ねる機会が巡って来ました。

それは、昨年春、フェイスブック上で愛媛県在住のアクティブなアマチュア昆虫写真家の飯田貢さんと「友達」になり、私がトンボ王国への訪問を考えていることを伝えたところ、ぜひ一緒にということで、トントン拍子に旅行計画ができあがったのが発端です。

もちろん、トンボ王国の杉村氏(トンボ王国に併設の「四万十川学遊館」の館長)にも、メールで連絡をとり、対応して下さるとのご返事をいただくことができ、旅行の手配をスタートと相成りました。

6月18日の昼過ぎ、飯田さん、同じくFB仲間でアマチュア昆虫写真家の山本桂子さんのお二人に案内いただき、私はトンボ王国の園地に到着しました。

学遊館の事務室への到着の挨拶もそこそこに、私たちはカメラを首に掛けて園地内の遊歩道に歩み入りました(写真1)。

四万十市トンボ自然公園の様子 
写真1 四万十市トンボ自然公園の遊歩道から学遊館方面を望む (写真はクリックで拡大)

当日のアメダス気温は28℃台、日照時間は7~8割と、梅雨時にもかかわらず、格好のトンボ日和となりました(私、晴れ男です、笑)。

早速、池の岸の草の丸い葉にとまる真っ赤な衣装のベニイトトンボCeriagrion nipponicum Asahina, 1967♂がお出迎えです。

続いて、胸部、頭部前面、脚の腿節にビッシリ粉を吹いたコフキヒメイトトンボAgriocnemis femina (Brauer, 1868)♂の登場です(写真2)。

コフキヒメイトトンボ♂ 
写真2 コフキヒメイトトンボAgriocnemis femina

私にとっては、10年ほど前に沖縄本島で出会い、写真も撮っていますので、それ以来の再会です。

コフキヒメイトトンボは、本州ではかつて山口県で記録されていただけで、本土では九州中南部と四国南部に限定されています(尾園ほか、「日本のトンボ」)。

次に姿を見せたのは、セスジイトトンボParacercion hieroglyphicum (Brauer, 1865)♂です(写真3)。

セスジイトトンボ♂ 
写真3 セスジイトトンボParacercion hieroglyphicum

遊歩道の澄んだ水が流れる浅い側溝の水面に突き出した枯草の細い茎に水平にとまっていました。
同属種も多いクロイトトンボ属のトンボで、一見しての区別は難しいですが、拡大すると肩黒条に淡色の細条が走っているのが見えて判別できます。

セスジイトトンボは私がトンボの研究を始めたばかりのウン十年前に北海道東部の湖畔で未熟な1個体を採集し、朝比奈正二郎先生のもとにお送りして同定していただき、初めて活字の報告にした思い出の種です。
生態写真の撮影は今回が初めてとなりました。

お次に控えしは、サナエトンボです(写真4)。

キイロサナエ♂ 
写真4 キイロサナエAsiagomphus pryeri

池につきだしたイネ科植物の葉にとまっています。
よく見ると、右前脚の付け根に、オレンジ色のミズダニがとりついています。

撮影した写真を帰宅後、図鑑と照らし合わせた結果、このトンボはキイロサナエAsiagomphus pryeri (Selys, 1883)♂と判定できました。
サナエトンボ科が貧弱な北海道に長く住んでいた私

相前後して、セリ科と思われる小さな草の葉にとまっているキイロサナエ♂も撮影できました。

少し移動したところの水辺の草には、モノサシトンボPseudocopera annulata (Selys, 1863)♀もとまっていました(写真5)。

モノサシトンボ♀ 
写真5 モノサシトンボPseudocopera annulata

左右にグーンと伸びた頭部の複眼際の頭頂部の黒と薄緑色が作り出す斑紋が印象的です。

水辺に立っている細い草の葉にとまり、体はぶらさがるのではなく鉛直に対して70度くらいになるように6本の脚でしっかりと支えられています。

コウホネがビッシリ繁茂する池では、水面から数十センチメートルの高さを飛び回るチョウトンボRhyothemis fuliginosa Selys, 1883を目撃しました。
望遠レンズの焦点距離が足りず、トンボのスピードも速いことから、証拠写真を残すのがやっとでした。

別の池では、大型のスゲ類の垂直の茎に、ハラビロトンボLyriothemis pachygastra (Selys, 1878)♂が鉛直にぶらさがっていました。
写真から、体は黒化し、青白い粉もかなり吹いてることが見てとれ、ほぼ成熟している個体と判断できました。

少し移動すると、池の水辺の水面すれすれの倒れた枯草の茎に体を預けるように、イトトンボが水平にとまっていました(写真6)。

アオモンイトトンボ♂型♀ 
写真6 アオモンイトトンボIschnura senegalensis の♂型♀

帰宅後、図鑑やウエブ情報と照らし合わせて、アオモンイトトンボIschnura senegalensis (Rambur, 1842)♂型(同色型)♀と同定しました。

かなりの時間を要しましたが、謎解きと共通するものがあり、時間を自由に使える者にとっては愉しい時間でもありました。

同じアオモンイトトンボ♀でも多数派である異色型♀は、♂とは全く異なる色彩をしており、その理由とかその比率とかは、同属他種の同様の現象と併せて、現在も国内外の研究者の研究対象となっています。

アオモンイトトンボ属の♀の二型の維持機構については、いずれ異色型♀の写真と併せて、項を改めて取り上げたいと思います。

さて、トンボ王国の遊歩道に戻ります。

池の水面に浮いた草の葉には、ユーモラスな姿勢をとったキイトトンボCeriagrion melanurum Selys, 1876の連結カップルが産卵中でした(写真7)。

キイトトンボ連結産卵
写真7 産卵中のキイトトンボCeriagrion melanurum の連結カップル

この連結カップルの♀は、産卵中も静止中も翅を100度から120度くらいまで開いていました。
気になってGoogleで画像検索したところ、先頭からのざっと10例ほどの画像のいずれにおいても、♀は翅を開いていました。
どうもこれがキイトトンボの一つのスタイルのようです。

後述のように、今回観察・撮影した同属種であるベニイトトンボの連結産卵でも、♀は翅を開いていました。
Google画像検索でお、連結産卵中のベニイトトンボ♀は翅を開いている画像がほとんどでした。

ちなみに属の異なるクロイトトンボParacercion calamorum (Ris, 1916)の検索では、大部分の画像で、連結産卵中の♀の翅は閉じ気味でした。

さて、次です。

まだここで撮影していない種を求めて、池から池へと歩を進めると、折れたスゲの葉にとまる、しっかり白粉を吹いたハラビロトンボの成熟♂が見つかり、撮影しました。

少し移動すると、花の芽の先端にコフキトンボDeielia phaon (Selys, 1883)♀がとまっていました(写真8)。

コフキトンボ♀ 
写真8 コフキトンボDeielia phaon

なにか、ちょっと腰が引けているというか、不安定な姿勢です。
よく見ると腹部の先端から何か、はみ出しています。
どうやら、フンのようです。
道理で(?)、この姿勢。。

この個体は♀ですが、若干白粉を吹いています。
腹部が真っ白になる♂ほどではありませんが。。。

コフキトンボ♀には白粉を吹く♂型♀と、白粉を吹かず翅に茶褐色の斑紋を持つ「オビトンボ型」♀の2型の存在が知られています。
私も別の機会に埼玉県内でオビトンボ型♀を撮影していますので、いずれこの2型について紹介したいと思います。

さて、トンボ王国の遊歩道を歩むと、浮揚植物が少なく開放水面が拡がる、大き目な池の真ん中に突き出ている棒の先にウチワヤンマSinictinogomphus clavatus (Fabricius, 1775)の♂がとまっていました(証拠写真のみ)。

少し移動した池の岸のイネ科の頂端の葉に、変わった色彩のイトトンボがとまっています(写真9)。

コフキヒメイトトンボ♂ 
写真9 コフキヒメイトトンボAgriocnemis femina 

腹部先端のオレンジ色が印象的です。
これも、帰宅後、図鑑と照らした結果、コフキヒメイトトンボ♂の成熟途中の個体と判定できました。

その後、いずれも岸辺の枯草の茎にとまっている、チョウトンボ♂ショウジョウトンボCrocothemis servilia (Drury, 1770)♂シオカラトンボOrthetrum albistylum (Selys, 1848)♂が目にはいりました(証拠写真)。

そのうち、ショウジョウトンボとシオカラトンボは同じ茎にとまっていて、シオカラトンボがショウジョウトンボの後方にショウジョウトンボ3頭分の身長と同じ距離を置いて、同方向を向いていました。
どちらもなわばり個体なので、一方が飛び上がれば干渉する関係ですが、どちらの種の個体もこのとまり場所がよほど気にいっているようです。

少し移動すると、スイレンの葉の縁近くにクロイトトンボの♂がとまっていました。
クロイト君は、今回も脇役をしっかり務めてくれています。

別の大きめのスイレンの葉の上では、ベニイトトンボが交尾していました(写真10)。

ベニイトトンボ交尾 
写真10 ベニイトトンボCeriagrion nipponicum の交尾

♀の体の一部が隠れていて、作品としては不完全なのですが、当ブログでは交尾の写真を未収録でしたので、ここに掲げておきます。

この後、別のペアの連結産卵も複数みられました(写真11)。

ベニイトトンボ連結産卵 
写真11 ベニイトトンボCeriagrion nipponicum 連結産卵

今回記事のキイトトンボのところでも触れたように、連結産卵中のこのベニイトトンボ♀も翅を開いています。
♂はキイトトンボの♂と同様、「歩哨姿勢」(連結した♂が直立不動でいる状態)をとり、翅は閉じています。

他に何かいないかな、と見て歩くと、今度は岸の枯草の水平な茎に水平にとまっているハラビロトンボを見つけました(写真12)。

ハラビロトンボ♂未熟 
写真12 ハラビロトンボLyriothemis pachygastra ♂、未熟個体

帰宅して拡大すると、それは♂の未熟個体だということが分かりました。
腹部は黒化しておらず、ましてや白粉はまったく吹いておらず、一見しただけでは♀との区別が困難なほどです。

園地での続きです。
ほどなく、ちょっと雰囲気の違うハラビロトンボがいました(写真13)

ハラビロトンボ♀
写真13 ハラビロトンボLyriothemis pachygastra ♀、未熟個体

画像を拡大すると尾の先端の形態から♀であることが、複眼の色彩が薄いところから未熟個体であることがわかります。

その後、チョウトンボ♂を撮影したところで、園内の観察・撮影は切り上げて、この日のトンボ王国での材を終了しました。

たった1時間そこそこの取材で、4科14種のトンボを観察・撮影することができました。
中でも、キイロサナエと初めて対面することもできましたし、2,3のトンボの種の成熟にともなう体色変化の一端を垣間見ることができました。

この後、杉村館長のご案内を頂くかたちで、私達3人はトンボ王国外のトンボ生息地へ向いました。

さすが、杉村館長、私にとってすばらしい成果を得る機会を用意していただくことができました。
その成果については次回の記事で取り上げます。

今回の記事を終えるにあたり、貴重な観察の機会を与えられた杉村館長、トンボ王国への移動や現地情報の提供などでお世話になった飯田さん、山本さんに改めて感謝の意を表したいと思います。


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2016-08-01 (Mon)
絶滅危惧種ベッコウトンボLibellula angelina Selys, 1883 (写真1、再掲)は、以前の記事で紹介したように、全国的に生息地の数が減少の一途を歩んでいます。

ベッコウトンボ♂160512a
写真1.桶ケ谷沼のベッコウトンボLibellula angelina ♂。生方秀紀撮影。(クリックで拡大)

そんな中で、静岡県の桶ヶ谷沼では、前回記事でご紹介したように、地元の団体が連携しながら精力的に生息地の保全活動にとりくみが功を奏して、一定数の個体数が維持されています。

筆者が今年5月中旬、桶ケ谷沼とそれに隣接する鶴ケ池を訪れた際には、本種の成虫の行動を観察・撮影したほか、保全策の一端も垣間見ることができました(以前の記事参照)。

沼の周りの遊歩道を歩くと、写真2のように、沼に続く真っ直ぐな水路を眼にすることができます。

桶ヶ谷沼浄化用水路2016May
写真2.桶ヶ谷沼浄化用水路。生方秀紀撮影。(クリックで拡大)

観察した当日は、この沼には昔からこのような水路があったのだろうと軽く考えていた次第ですが、前回記事を執筆するために資料を収集し、読み解いていく中で、この水路が沼の水の浄化のために、岩井里山の会のメンバーが中心になって苦労して掘削したものだと解りました。

このような水路は、沼の上流の集水域からの湧水や地表水を沼本体にスムースに導き、沼の下流側にも同様に水路を設けたことで、沼の水の更新が改善され、富栄養化などを起こす汚濁の原因物質などの濃度を低下させることができるでしょう。

そして、ベッコウトンボの個体数維持に大きく貢献している「生簀」を鉄柵越しに観察・撮影することができました。

生簀を管理する際には、写真3のようなゲートを開錠して入るようになっており、一般利用者は生簀に近づくことができません。
おそらく、大勢の一般利用者が生簀に近づくようになると、生簀の周りを取り囲むザリガニ侵入防止のための網や部材に隙間があくなどして、アメリカザリガニ侵入の危険度を高めるからでしょう。

桶ヶ谷沼トンボ生簀2016May
写真3.桶ヶ谷沼トンボ生簀。生方秀紀撮影。(クリックで拡大)

写真2の水路の右横にも生簀が写っています。

これらの生簀は、前回記事で紹介したように、2008年以降に設置されたものです。
また、水路の掘削は2004年以降に行われました。

ですので、1990年以前の沼の航空写真には、生簀も水路も写っていません(下の写真)。

桶ヶ谷沼航空写真1988-90電子国土Webより
桶ヶ谷沼航空写真1988-90電子国土Webより。(クリックで拡大)

そして2009年の航空写真(下の写真)には、当然ですが、生簀と水路が確認できます。

桶ヶ谷沼航空写真2009電子国土Webより
桶ヶ谷沼航空写真2009電子国土Webより。(クリックで拡大)

下の写真は、航空写真の生簀の部分を拡大したものです。

桶ヶ谷沼トンボ生簀2016GoogleEarthより
桶ヶ谷沼トンボ生簀2016GoogleEarthより。(クリックで拡大)

右側に写真2の水路が、上中央に写真3のゲートが写っています。

この写真を見て思うことは、よくぞこれほどの大きさ、数の生簀を掘削、構築し、その後の維持管理、改良を行っておられるな、ということです。
しかし、これだけのことをしなければ、他の生息地同様、ベッコウトンボは滅んでいくことになるということもまた確かです。

国の環境予算のかなりの部分を除染に費やさざるを得なくしたような政策の失敗を繰り返すことなく、かけがえのない地球上の生命の永続のために予算や人員をもっと振り向ける時代を引き寄せたいものです。

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2016-07-31 (Sun)
ベッコウトンボLibellula angelina Selys, 1883 (下の写真、再掲)は、全国的に生息条件が悪化し、絶滅の恐れが高まっている種です(前回記事参照)

ベッコウトンボ♂160512a
桶ケ谷沼のベッコウトンボLibellula angelina ♂。生方秀紀撮影。(クリックで拡大)

筆者は今年5月中旬、桶ケ谷沼とそれに隣接する鶴ケ池を訪れ、本種の生息状況の一端を観察・撮影することができました(以前の記事参照)。

前回の記事では、地元で保全活動を行っている団体が共同で実施している桶ケ谷沼ベッコウトンボの長期にわたる個体数調査の結果(データソース:磐田市桶ケ谷沼ビジターセンター/下記リストの「r0」)をグラフ化し(下図)、その変化の傾向を読み取りました。

桶ヶ谷沼のベッコウトンボ長期変動グラフ(引用データから作成)
桶ヶ谷沼のベッコウトンボ長期変動グラフ (データソース:磐田市桶ケ谷沼ビジターセンター)
(クリックで拡大)

今回の記事では、地元の保全関係者によるベッコウトンボの生息地である桶ヶ谷沼の保全活動の具体的内容を、時系列的にかいつまんで紹介し、それらの活動がベッコウトンボの個体数に与えた効果を、調査個体数の変動経過のグラフを参照しながら、考察します。

筆者は、桶ヶ谷沼のトンボの保全に関してはまったくの部外者ですので、考察はすべて地元関係者がインターネットで公開している文書から読み取った内容に基づいています。
より詳しく知りたい方は、それら文書に直接あたったり、関係者に照会することをお勧めします。

以下、時系列に沿って、取り組み内容と個体数変動について見ていきます(である体で記述します)
(r0~r10は出典の通し番号)

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桶ヶ谷沼におけるベッコウトンボ保全活動の経緯の紹介と個体数変動との関連についての考察

1986年に、市民の立場から桶ケ谷沼周辺を保全しトンボを守ろと「桶ケ谷沼を考える会」が発足した(r1)。

89年、静岡県は桶ヶ谷沼保全のために約20億円の予算を計上し、沼および周囲約60haの用地買収を開始(r2)。
同年、「桶ケ谷沼を考える会」の事務所「トンボハウス」開設。同会と地元住民との沼の協議会が発足(r1)。

89年から91年にかけてベッコウトンボ調査個体数は減少傾向(グラフ)。

91年、静岡県は桶ヶ谷沼とその周辺を自然環境保全地域に指定した。同年、「桶ケ谷沼管理運営委員会」が発足( r1)。

同年から、地元団体が、暗い林になってしまった沼の周囲の林を手入れし、沼南側のヨシで陸地化した部分を掘って復元池に、沼北側の土石採取跡地に池を造り実験池にするなどの具体的保全策に着手(r3)。

93年から、磐田南高校生物部が実験池を用いてベッコウトンボの保護及び増殖を目的とした実験を開始し(r4)、94年には「岩井里山の会」の前身となる地元住民グループが、桶ケ谷沼および周辺の環境保全活動を開始している(r5)。

92年にはベッコウトンボ調査個体数は増加に転じて、94年には約900頭という18年間の中の最大値に達した(グラフ)。

この増加の原因は、沼の環境の回復に向けた具体的施策に地元団体が連携して取り組んだことが効果を上げたためというのが第一に考えられる。

ただし、それら施策のうち、復元池や実験池の造成はその後構造改良(階層構造化)がなされるまでは、羽化数の増加に結び付かなかったとのことである(r3)。

この間の、他の施策の中に、鬱蒼と繁った沼の周囲の林の手入れ(r3)があり、これが林内の空間を明るくし、ベッコウトンボの摂食活動を活発化させ、ひいては産卵数を増大させた可能性が考えられる。

このような生息条件の一部改善がある一方で、ベッコウトンボの主要な天敵であるアメリカザリガニの本格的駆除は、この期間までには行われていない(r5)ことから、幼虫の生息条件の改善はあまり進んでいなかったものと思われる。

こう考えると、92年から94年にかけての大幅な調査個体数増加には、調査条件の向上も影響した可能性も考えられる。
たとえば、沼をめぐる遊歩道や管理用歩道の整備や調査人員の増加があったとすれば、調査の際の観察機会は増大することになる。

95年には調査個体数は突然6分の1以下の100頭台にまで激減し、その後2年間低迷している(グラフ)。

この期間(95年から97年)に調査人員の減少や観察機会の大幅な減少があったというのは考えにくい。
94年から95年にかけてなんらかの生息条件の悪化(たとえばアメリカザリガニの増加)があり、それが影響した可能性が浮上する。

98年の調査個体数は、直前3年間の3倍以上に増加している(グラフ)。

98年のこの増加は、生息条件の一部に改善があったことによる可能性もあるが、翌年には調査個体数が大幅に下落していることを考えれば、その改善は一時的なものに過ぎないことになる。
別の観点からは、調査の際の観察機会の増大の影響、あるいは羽化最盛期と調査日程の間隔が98年にはベストであったためという可能性も残される。

98年にはアメリカザリガニの大発生が観察され、その影響でオニバスほかの水生植物の激減もあったという(r6、r7)。

99年には、調査個体数はデータのある28年間で最少の約50頭へと落ち込んだ(グラフ)。

この激減には、アメリカザリガニによる直接の捕食、水草の減少によるザリガニ以外の捕食者からの危険の増大が関与していると見るのが自然であろう。

99年の調査個体数の激減を受けて、NPO、磐田南高校生物部、市民、磐田市(桶ヶ谷沼ビジターセンター)が連携して、沼の環境改善(ザリガニの捕獲、植物の間引きなどによる環境復元)などに一層力を入れることになった(r6)。

1999年に磐田南高校生物部は、飼育容器(コンテナ)を用いたベッコウトンボの増殖に成功した(r4)。コンテナにザリガニが入らないように、また夏季には水が涸れないようにした(r6)。別の二次資料によれば、コンテナは150個以上(r8)。 

2000年には調査個体数は2,3年前のレベルまで回復した(グラフ)。

この「回復」には、ザリガニの捕獲、植物の間引きやコンテナでの増殖が少なくとも一部は貢献しているのは明らかである。

02年から沼の 北東部に隣接する場所に人工池(プラスチック製コンテナ容器;長さ1065×幅726×高さ303mm)220個が設置され、桶ヶ谷沼を考える会・磐田南高校・岩井里山の会によって共同管理されている(r9)。  

03年には「桶ケ谷沼を考える会」が法人化された(r10)。 

04年、桶ケ谷沼にビジターセンターが設置された。磐田市が管理運営を行い,NPO法人桶ケ谷沼を考える会の事務局も置かれた(r3)。

同年、岩井里山の会は、沼の北と南の湿地帯を切り開いて水路を造り、沼の北にある井戸水や沼に流れ込む雨水を桶ヶ谷川に流すことで水質浄化を図った。また、この水路の西側の湿地帯を掘削し、にトンボの好む「開放水面」(2m×2m)を40箇所造った(r5)。

同会は、同年より、杉の小枝をを沼に入れておき、そこに集まる稚ザリガニをタモ網で掬い取る方法で年間平均1万1千匹のアメリカザリガニを捕獲している。その後、アメリカザリガニの成体の捕獲数は年々減少傾向にあるが、幼少な個体は減少傾向を示さず、次から次へと捕獲される(r5)。

00年からは04年までの5年間は、調査個体数は80~150頭の間を変動し、05年には200頭を越えた(グラフ)。

この間、大きな回復こそ示していないが、50頭を割るような大幅な減少が起こるのを食い止めたのは、ザリガニが侵入しにくい多数のコンテナの設置や、掘削による沼本体の水の更新の促進、ザリガニの大量捕獲などの保全策が効果を上げたからと考えられる。

05年、岩井里山の会は、沼の南側に幅2メートル、深さは1メートル位、長さが80メートルの水路を沼から桶ケ谷川に向けて造り、沼の水の更新を向上させた。また、同年、同会は、湿地帯にベッコウトンボの誘致を目的にプラ舟コンテナを設置した(その後、07年に26頭のベッコウトンボが羽化した)。同年、同会は、50枚のカニ網(餌のソーセージの切れ端を入れる)を毎週1回計40回引き上げて、年平均8000匹のアメリカザリガニを捕獲している(r5)。

05 年に磐田南高校生物部は2つの実験池を改造(枝葉を入れて階層構造をつくり、アメリカザリガニとベッコウトンボヤゴの微生息場所を分離する) を行った。また、外からのアメリカザリガニの 侵入を防ぐために池の周りにネットを張った。さらに、そのうち小さいほうの実験池からはすべての アメリカザリガニを除去した。後者の池からは翌年ベッコウトンボが羽化した(r4) 。

06年、磐田南高校生物部は別の一つの実験池の改造(泥を一旦除去し、ザリガニを駆除したのち、植物を入れる)を行った。この実験池では翌年羽化が観察された(r4、r6)。同部が各30匹のショウジョウトンボ幼虫を入れた二つの水槽で実験したところ、アメリカザリガニ4匹を一緒に入れた水槽ではトンボ幼虫は全滅し、ザリガニを入れなかった水槽からは6匹のトンボが羽化した(r4)。

06年、岩井里山の会は、沼北湿地帯1,500㎡を開墾して、幅5メートル、長さ25メートルの田んぼ復元池を3面造った。しかしアメリカザリガニが生息しているため、トンボの羽化は殆どみられなかった(r5)。

08年、岩井里山の会が、田んぼ復元池を改修して木枠でザリガニの侵入を防ぐ「木製木枠復元池」を3基造り、そこへマコモ、イグサ、水生植物等を移植した。しかしその後、隙間から幼若ザリガニが侵入し、成長して水草を食い荒らした(r5)。 

09年、コンテナ容器から、38頭のベッコウトンボの羽化が確認された(r5)。 

09年、岩井里山の会が、木製木枠復元池に稚ザリガニの侵入を防ぐための細かなネットを二重に張っり、マコモ、イグサ等を移植した(木製トンボ生簀と呼称)(r5)。

10年、岩井里山の会設置の木製トンボ生簀から95頭、プラ舟コンテナから22頭、計117頭のベッコウトンボの羽化が確認された(r5)。

06年には調査個体数はいったん減少したものの、07年から10年までの4年間は100頭前後のレベルを維持した(グラフ)。

他の県で地域絶滅が続いている中で、この期間、桶ヶ谷沼でこのように個体数レベルが維持されたのは、沼の水質改善のための掘削、人工池の設置と工夫・改良(実験池の改良、プラ舟コンテナ設置、木製木枠復元池の設置、その改良版である木製トンボ生簀)、アメリカザリガニの大量捕獲などの施策が実を結んだものと評価できる。

10年の秋に、岩井里山の会が改良型木製トンボ生簀(4メートル×4メートル)2基を造った。これは、 水深を深めの50センチとし、沼土も多めに入れたもので、アメリカザリガニが根に棲み着いている可能性があるマコモ、スゲ、イグサは掘り取り、天日に干してザリガニを駆除した後移植した。また、生簀で繁茂しすぎたマコモ等を間引きをしたり刈り取った(r5)。 

11年、木製トンボ生簀から235頭、コンテナから90頭、計325頭のベッコウトンボの羽化が確認された。毎年行っているベッコウトンボ定量調査では、この年桶ケ谷沼全体で197頭が確認されたがその内、木製トンボ生簀の周りでは134頭(70%)が確認された(r5)。 
11年秋、岩井里山の会は、トンボ生簀の底板の下にネットを二重に張り、側板にもネットを二重に張り、その外側に細かなステンレスの網、さらにトリカルネット(メッシュの網)一番外側に腐食に強い畔波板(プラスチック製)を打ち付けた「改良トンボ生簀」を2基試験的に造った(r5)。 

12年、木製トンボ生簀(5基)とコンテナ容器から354頭のベッコウトンボの羽化が確認された(r5)。

13年、木製トンボ生簀(8基)コンテナ容器およびネット池(2基)から408頭のベッコウトンボの羽化が確認された(r5)。

14年、木製トンボ生簀から396頭の羽化が確認された(r5)。 

14年秋、岩井里山の会が、沼と一体化した「新型生簀」(生簀の底板を除き、沼深く生簀を埋設することで水草の過剰な繁茂を抑制するとともにザリガニの侵入を防ぎ、沼と一体化したもの)を築造した(r5)。

15年、木製トンボ生簀から607頭の羽化が確認された(r5)。

15年秋から、岩井里山の会が5年計画で、暗い林を明るい林にし水質浄化に寄与するために、常緑広葉樹の伐採に着手。(r5)

16年、木製トンボ生簀から463頭の羽化が確認された(r5)。

調査個体数は、11年から16年(現在)までは150~270頭の間で安定に推移している(グラフ)。

この間(2010~15年秋)、岩井里山の会により、「改良型木製トンボ生簀」(水草を天日干ししてザリガニを除去)、「改良トンボ生簀」(各種網や波板でザリガニの侵入防止)、「新型生簀」(生簀の底板を除き、沼深く生簀を埋設)の設置あるいは改良、さらには沼の周囲の常緑広葉樹の伐採などの取り組みがなされてきた。調査個体数の中に占めるこれら生簀周辺での確認個体数の比率も高いことからもわかるように、これらの取り組みの成果が現れて、この期間に先立つ5年間(2005-10年春)よりも高いレベルの個体数が維持されていると評価できる。

このような力強い、また工夫を凝らした取り組みを、希少種が生息する全国各地で同じようにすぐに実施することは必ずしも容易ではないとは思うが、この取り組みに励まされ、この取り組みを参考に、できることから保全への道を歩み出すことが望まれる。


引用文献:

r0)磐田市桶ケ谷沼ビジターセンター(2016)ベッコウトンボについて。桶ケ谷沼ビジターセンター公式ウエブサイト所収。2016年7月24日アクセス。
 http://www.city.iwata.shizuoka.jp/okegaya-vc/okegayanuma.htm

r1)桶ケ谷沼を考える会:
http://www.npo-hiroba.or.jp/search/zoom.php?pk=25739

r2)細田昭博(1990):磐田市桶ヶ谷沼の現状。ちゃっきりむし、No.83。
http://shizukon.sakura.ne.jp/chakiri.html

r3)細田昭博(2006):今、トンボの桶ケ谷沼は。ちゃっきりむし、No.149。
http://www.shizukon.sakura.ne.jp/chakiri2006.html#149

r4)磐田南高等学校生物部:絶滅危惧種ベッコウトンボの自然誘致と増殖。
http://gakusyu.shizuoka-c.ed.jp/science/ronnbunshu/063011.pdf

r5)岩井里山の会:http://www.iwai-satoyama.org/activity.html

r6)野生動物医学会学生部会:ベッコウトンボを絶滅から守れ―桶ヶ谷沼の環境保護活動。
http://www.gakuseibukai.org/brandnew/file/2009bekkou.pdf

r7)苅部治紀・北野忠・福井順治・土井亮介(2014):静岡県桶ヶ谷沼における侵略的外来種アメリカザリガニの侵入が水生昆虫類に及ぼした影響-爆発後15年間の記録-。
日本生態学会第61回全国大会講演要旨
http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/61/H2-07.html

r8)サントリー:サントリー地域文化賞 静岡県磐田市『桶ケ谷沼 トンボの楽園づくり』。
http://www.suntory.co.jp/enjoy/movie/viewer/normal_hd.html?hd=603646190002&sd=603573473002

r9)高橋純一・福井順治・椿 宜高(2009):静岡県桶ヶ谷沼地域における絶滅危惧種ベッコウトンボ(Libellula angelinaの遺伝的多様性。保全生態学研究、14:73−79。
http://ci.nii.ac.jp/els/110007226011.pdf?id=ART0009161288&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1466776705&cp=

r10)静岡新聞社・静岡放送:アットエス TOP>施設>組合・団体>NPO>特定非営利活動法人桶ケ谷沼を考える会。
http://www.at-s.com/facilities/article/union/npo/133798.html


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2016-07-25 (Mon)
ベッコウトンボLibellula angelina Selys, 1883 (下の写真、再掲)は、朝鮮半島および中国中部・北部にも分布する種で、日本では東北地方中部から九州南部まで不連続なパターンを示しながら分布していました(杉村ほか、1999)。

ベッコウトンボ♂160512a
桶ケ谷沼のベッコウトンボLibellula angelina ♂。生方秀紀撮影。(クリックで拡大)

ベッコウトンボが分布している都府県の数は、1970年代頃までは北限の宮城県や関東各県(東京都を含む)を含む28都府県でしたが(高橋ほか、2009)、2008年頃には、静岡、山口、福岡、佐賀、長崎、大分、鹿児島の7県に(高橋ほか、2009;日本トンボ学会自然保護委員会、2016)まで激減しました。

そして、2015年には長崎、佐賀、宮崎県でも確認できなくなり、4県(日本トンボ学会自然保護委員会、2016)のごく少数の生息地に個体群が残されるだけになっています。

そのような中で、静岡県磐田市の桶ケ谷沼(下の写真、再掲)では、地域ぐるみの保全活動が効を奏して、2016年現在もベッコウトンボの個体群が維持されています。
だれしもが認めるように、これは世界にも誇るべき素晴らしい取り組みです。

桶ケ谷沼 北東からの眺め
桶ケ谷沼。生方秀紀撮影。(クリックで拡大)

筆者は今年5月中旬、桶ケ谷沼とそれに隣接する鶴ケ池を訪れ、本種の生息状況の一端を観察・撮影することができました(前記事「ベッコウトンボ、桶ケ谷沼に在り:保全活動に守られて(1)」参照)。

今回と次回の記事では、地元で保全活動を行っている団体が共同で実施している桶ケ谷沼ベッコウトンボの長期にわたる個体数調査の結果を、第三者の視点で評価し、個体数の増減と保全活動のかかわりについて若干の考察を試みたいと思います。

この調査は、毎年4月29日と5月3日に、「桶ケ谷沼を考える会」と「野路会」が中心になって実施しているもので、桶ケ谷沼の随所でベッコウトンボ成虫の個体数を一斉に数え、記録するものです。

2016年度の場合は、2回の調査結果のうち、個体数の多かった5月3日のデータでその年度を代表させていますので、他の年も同様にデータを取り扱っているものと思われます。

1989年から現在までの28年間、毎年欠かさずに行われてきたこの調査の結果を見てみましょう。
下図は、磐田市桶ケ谷沼ビジターセンター(2016)が公表しえいるこの調査結果の数値を元に、筆者がグラフ化したものです。

桶ヶ谷沼のベッコウトンボ長期変動グラフ(引用データから作成)
桶ヶ谷沼のベッコウトンボ長期変動グラフ (データソース:磐田市桶ケ谷沼ビジターセンター)
(クリックで拡大)

このグラフからは、以下のような増減の傾向が読み取れます。

◇モニタリング開始当初(1989年)は400個体と比較的安泰な数であった。
◇91年には約140個体まで落ち込んだ。
◇92年には増加に転じて、94年には約900個体という18年間の中の最大値に達した。
◇翌95年には100個体台にまで激減して、その後2年間回復せず。
◇98年にいったん約450個体まで増加した。
◇しかし、99年には約50個体の最小値に落ち込んだ。
◇翌年には2,3年前のレベルまで回復し、その後は2004年までの5年間80~150個体の間を変動した。
◇06年から10年までの5年間は70~150個体の間を変動した。
◇11年から14年までは160~200個体の間で変動した。
◇15、16年の2年連続で250個体のレベルを達成した。

長期的に見ると、
◇1989年から1994年までは一時的な落ち込みはあるものの、300個体を上回ることができていた。
◇1999年以降、散発的に200個体を超える年や底を突きそうな年があるものの100個体前後を辛うじて維持していた。
◇2011年から150個体以上に底上げされ、15年からは約20年ぶりに2年連続200個体以上を達成している。

この調査では、調査エリア、調査月日、調査方法のいずれもほぼ一定であると考えられ、また同じ年にの2回(5日違い)の調査結果のうち個体数の多いほうでその年を代表させていることから、年度間の個体数比較に十分耐えられるクオリティーを有していると考えられます。

ただし、それでも、観察個体数における20%や30%程度の増減が実際の個体数の増減を忠実に反映しているとまでは言いきれません。
一方、3倍や4倍(あるいはその逆数)の増減が観察されれば、それは実際の個体数に増減があったと考えてよいと思います。
その中間の、1.5倍とか2倍(あるいはその逆数)の増減は考えどころですが、3~4年以上にわたってコンスタントに同様のレベルを達成しているのであれば、実際の個体数になんらかの底上げがあった(あるいは底下げ(?)があった)のではと考えたくなります。

上述の個体数変動経過の読み取りは、このような評価の視点の上に立ってのものです。

さて、これらの個体数増減が、沼の環境変化や保全活動の具体的な施行内容とどう関連したと考えられるでしょうか?
それについては次回の記事で取り上げる予定です。


引用文献:

日本トンボ学会自然保護委員会 (2016)Pterobosca (日本トンボ学会連絡誌)所収の報告。

磐田市桶ケ谷沼ビジターセンター(2016)ベッコウトンボについて。桶ケ谷沼ビジターセンター公式ウエブサイト所収。2016年7月24日アクセス。 http://www.city.iwata.shizuoka.jp/okegaya-vc/okegayanuma.htm

杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司 (1999) 原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑。北海道大学図書刊行会。

高橋純一・福井順治・椿 宜高(2009)静岡県桶ヶ谷沼地域における絶滅危惧種ベッコウトンボ(Libellula angelinaの遺伝的多様性。保全生態学研究、14:73−79。

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2016-06-23 (Thu)
今年の5月中旬に静岡県磐田市の鶴ケ池を訪れ、トンボの生息地としての現況の一端を見てきました。

少し前の記事「ベッコウトンボ、桶ケ谷沼に在り:保全活動に守られて(1)」では、同じ磐田市にある桶ケ谷沼とそこで見られたトンボを取り上げました。
今回記事の鶴ケ池と桶ケ谷沼とは馬の背状の丘一つで隔てられただけの位置にあり、形も大きさもよく似た、いわば姉妹沼の関係にあります。

鶴ケ池の南東角の岸辺には、大きな案内看板(下の写真)があり、大きく描かれたマップから池の水面の配置や観察路の様子を知ることができます。

鶴ケ池(1)
(写真は、クリックで拡大します)

観察路のうち、南西角の部分は水面を上から見おろすことができる小橋状になっていて、睡蓮などの浮葉植物の群落やそこにいる虫たちの姿を楽しむことができます(下の写真)。

鶴ケ池(2)

桶ケ谷沼のビジターセンターの展示資料には、鶴ケ池のこのあたりではベッコウトンボがよく観察できたことを示すマップがありましたので、今回、私も大いに期待したのですが、ベッコウトンボの姿はありませんでした。

観察路をさらに進むと森林地帯へ入っていきますが、ほとんどいつも右手には鶴が池が見えていて、いつベッコウトンボが視線をかすめるかという期待感を持たせ続けてくれます(下の写真)。

鶴ケ池(3)

(それに対して、桶ケ谷沼では、池を巡る一般利用者用の観察路は途中から林の中にはいり、沼そのもの、とくに開放水面を観察しやすい場所はかなり限られています。観察路にはフェンスやロープが設置され、許可なく立ち入ることは禁止されています。)

鶴ケ池の北東岸からはビッシリと茂ったイグサ類の群落がひろがっています(下の写真)。

鶴ケ池(4)

下の写真は、池をほぼ一周した、東岸の南端部付近からの水面です。

鶴ケ池(5)

結局、池を一周する間に、クロイトトンボ、クロスジギンヤンマ、ヨツボシトンボはカメラに収めることができましたが、ベッコウトンボは最後まで姿をあらわしませんでした。

下の写真は、もっとも個体数の多かったクロイトトンボParacercion calamorum (Ris, 1916)です。連結態がコウホネの葉の上で休んでいるところです。産卵のための場所移動の途中なのでしょう。

クロイトトンボ、鶴ケ池

ある筋からの情報では、今年も鶴ケ池でベッコウトンボは観察例があるとのことで、タイミングさえよければ桶ケ谷沼よりも好条件で生態写真が撮影できる環境であるといえそうです。

鶴ケ池には、興味深い伝説が語り継がれています。トンボとは直接関係のない内容ですが、近いうちに取り上げたいと思います。

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