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2016-11-26 (Sat)
Pantala flavescens (Fabricius, 1798)については、まだまだ謎が多く、埼玉県在住の新井裕さん(『トンボの不思議』等の著者)が最近も「海を渡るウスバキトンボの謎」と題した解説記事(外部リンク:日本自然保護協会)を書いているほどです。

ウスバキトンボ♀ 
ウスバキトンボ♀ Pantala flavescens 今年の7月上旬に茨城県で撮影

その新井裕さんが代表を務める「NPO法人むさしの里山研究会」*が、2016年の日本各地におけるウスバキトンボの初見日データを全国のトンボ仲間から募集中で、更なるデータ提供を希望しています。

下記の時期と同時期あるいはそれ以前のデータは貴重ですので、同会の新井さんに直接:
 tombo2d1.dion.ne.jp
 (★をアットマークに置き換え)

または私(生方秀紀)宛:
info.idnh★gmail.com
(★をアットマークに置き換え)

に電子メールでお知らせ下さい。

私宛の情報は、同会の新井さんに転送いたします。

沖縄県 3月中旬
鹿児島県島嶼 3月上旬
鹿児島県(本土) 4月中旬
静岡県、千葉県、福岡県 4月中旬
兵庫県、神奈川県、埼玉県 4月下旬
茨城県 5月上旬
四国(徳島県) 6月中旬
青森県 6月下旬
北海道(石狩) 6月末
長野県、宮城県、 7月上旬
山形県 7月末

全国からのデータを整理したものは同会から発表されることになっていますので、それを受けて、皆様にもお知らせしたいと思います。


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| トンボ:個体群・群集 | COM(0) | | TB(-) |
2014-12-31 (Wed)
前回の記事で、同一生息地(または地域)において調査努力(調査回数・調査時間)を増した場合の、累積種数の増加の関係について、以下の傾向が観察されることをご紹介しました。

(1)累積種数は調査の最初に急速に増加すること。
(2)累積種数の増加速度はその後漸減し、増加率ゼロに近づいていくこと。
です。

この傾向をクリアーに表現しているグラフ(灯火採集された蛾類*)を下に再掲します。
前回記事に掲載のグラフには添えていなかった目盛り数値を今回は加えました。

個体数と種数の関係、目盛り付(Fisher et al 1943)
 ↑クリックで拡大します。

今回は、このグラフを題材にして、調査努力を替えた場合の昆虫群集、昆虫相のデータの得られ方について考察します。

ここで調査努力を問題にする理由は、私たちがある生息地(または地域)において特定の生物分類群(例:トンボ目)のファウナ(動物相:種のリスト)を調べつくすことは、ほとんどの場合には実際上不可能であり、従って、得られたファウナのデータは不完全なものにならざるを得ないからです。

調査結果としてのファウナデータの種数は、群集調査においては累積種数にほかなりません。

Rothamstedのこの調査から推測される大型蛾類相の構成種数は、このグラフで累積種数曲線が飽和曲線型を描き、その想定される漸近線(水平)の切片の座標から、ほぼ250種程度といえます。

250種の完全リスト化のためには、16000個体よりも遙かに多くの個体数の蛾類を灯火採集し、それらを全て種まで同定するという大変な努力が必要となります。

私たちが地域のトンボ相、トンボ群集を調査をボランティアベースで、身構えずに行う場合の調査努力には自ずと低めの限界があります。
どの程度の調査努力でどの程度の調査結果が得られるかについて、この大型蛾類のデータで見ていきたいと思います。
グラフの中の打点のどれが何に相当するのかについては、脚注3***をご覧ください。

平均の確認種数は、単年度の調査努力の「4分の1」では120種、「2分の1」では150種、「4分の3」で170種と順調に増加します(増加率は低下していきます)。
1年では180種、2年で220種、3年で230種、4年で240種となっていて、最初の年と同じ努力をしたのに、4年目ではたった10種しか増加しません。
4年目の累積種数を増加させる効率は、1年目の18分の1になっています。

さて、Rothamstedで大型蛾類相群集を調べたのは、脚注2の論文の共著者である C. B. Williamsですが、その採集品リスト(240種が明示されている)は1933~1936年における当地のほぼ完ぺきな(網羅率95%程度と考えられる)大型蛾類相データといえます。

Williamsは採集個体数データを添えた種のリストを公表しています**ので、80年後の現在(2010年代中葉)に同じ地域において同じ方法、同じ調査努力で群集調査を行えば、特定の種の増減を明らかにすることができます。
その意味で、群集サンプルの種別個体数を調査方法、調査努力の内容とともに後世に残しておくことは、生物多様性の変動を知る上で大変貴重です。

ここで、もし、Williamsが個体数データや調査方法、調査努力の内容を残さず、種のリスト(在・不在データ)のみを残していたとしたらどうでしょう?
4年間に2349個体採集されたAgrotis exclamationis(和名:センモンヤガ:標本画像、外部リンク )も、1個体しか採集されなかった35種の蛾も横一列の扱いとなってしまいます。
そうなると、80年後の現時点での調査でセンモンヤガが1個体も採集されなかった場合でも、当時1個体だった種類が現時点で採集されなかった場合と同じ扱いとなってしまいます。

また、80年間でほとんど群集の生息状況が変わらなかった場合であっても、調査方法、調査努力が異なれば、リストアップされない種が頻発することが十分考えられます。
このような場合、種のリストだけを比較して、「種○○はこの地域で絶滅した」と言い切ることができるでしょうか?
もちろん、それはできないでしょう。

ということで、蛾類でもトンボ類でも、ファウナ(動物相)を把握することは動物群集の一側面を見ようとしていることである、ということを十分意識することが大切でしょう。
そして、将来における同地域、または現時点ないし将来の他地域との比較に耐えるデータを得るためには、調査の仕方を、最大限、動物群集調査に近づけることが、動物相の調査者には求められるのではないでしょうか。

6回連続の記事を通して、ほぼ同じ内容のことを繰り返して述べて来ましたが、今回、蛾類の具体的なデータをなぞることで、少しはイメージが捉えやすくなっていたとしたら、肩の力を抜くことができます。

次回は、トンボ群集調査のプロトコールを取り扱うことにしています。


注:
*注1 Fisher, R. A., Corbet, A. S., & Williams, C. B. (1943). The relation between the number of species and the number of individuals in a random sample of an animal population. Journal of Animal Ecology, 12, 42-58.

**注2 Williams, C. B. (1939). An analvsis of four years captures of insects in a light trap. Part I. General survey; sex proportion; phenology; and time of flight. Trans. R. Ent. Soc. Lond. 89: 79-131.

***注3 [以下の文章全体]:
このグラフに打たれたデータの点のうち、2000個体弱から4000個体弱までの3つの点と7000個体弱の点1つは、4つの単年度データにおける種類数です。
1000個体未満の4つの点は、各単年度の個体を8等分したときの平均種類数です。
5000個体強から10000個体強までの6つの点は、それぞれごとに、2つの異なる年度のデータを合計した場合の種類数です。
9000個体弱から14000個体弱までの4つの点は、それぞれごとに、3つの異なる年度のデータを合計した場合の種類数です。
15000個体強の1つの点は、4つの全ての年度のデータを合計した場合の種類数です。
4つの年度を平均した年間採集個体数は3900個体強*だったので、グラフから推定すると単年度で平均180種が発見される計算になります。
2年間では平均7800個体強で220種弱が、3年間では平均11700個体強で230種弱が、4年間では平均15600個体強で、240種弱が発見されると期待されます。
ここで、各年度の採集努力が低く、実際の「4分の1」、「2分の1」、「4分の3」だった場合を想定すると、採集個体数および推定種類数はそれぞれ、975個体で120種強、1950個体で150種弱、,2925個体170種強となります。


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| トンボ:個体群・群集 | COM(0) | | TB(-) |
2014-12-24 (Wed)
前回までの連続4回の記事で、トンボ群集とトンボ相の関係について、種数に着目して検討してきました。

その中で、
(1)トンボ群集の中において、優占種(群集の総個体数の最大比率を占めている種)を筆頭とする個体数順位が低下するにつれてその順位の種の個体数は等比数列的*に減少する例があること。
(2)調査回数・調査時間を増やすほど、記録される累積種数が増加すること。
をお示ししました。

今回は、(2)調査回数・調査時間の増加と累積種数の関係についてです。
 調査回数・調査時間は、調査努力と言い換えることもできるでしょう。

トンボ群集がほぼ均等に活動している生息地内で調査努力を2倍にすると、それによって観察される個体数もほぼ2倍になるという、比例関係が成立するでしょう。

この関係を利用すれば、横軸に調査で観察・記録された累世個体数を、縦軸にそれまでに記録された累積種数をとれば、調査努力と累積種数の関係が掴めるはずです。

この関係は、実は、70年前に大型鱗翅目群集で明らかにされています。
イギリスのRothamstedでライトトラップ(灯火で蛾類など走光性の動物ほ誘引・捕獲する装置)により採集された蛾類の種数・個体数関係を分析したものです(Fisher et al. 1943***)。

下がその図です(そのまま掲載できませんので、私がトレースしたグラフです)。

個体数と種数の関係(Fisher et al 1943)
 ↑クリックで拡大します。

このグラフからわかることは、
(1)累積種数は調査の最初に急速に増加すること。
(2)累積種数の増加速度はその後漸減し、増加率ゼロに近づいていくこと。
です。

このような関係は鱗翅目に限らず、多くの生物群集で知られています。
トンボも例外ではなく、私の手持ちのデータでも同様の結果が得られています。

ではなぜ、このようなグラフになるのでしょうか?

私たちがトンボシーズン最盛期に、多様性が豊かなトンボの生息地を訪れたとします。
次々と種ごとの個体数のカウントをはじめてみると、優占種(個体数の多い種)が繰り返し観察され、記録され、個体数の少ない種が最初からカウントされる確率は低いはずです。
1時間こうして観察個体数を記録すれば、すぐに5,6種類は記録できるでしょう。
翌日同じ場所を訪れて同じ範囲を観察した場合、前日の1回目に観察された種が大部分で、個体数は増えますが種数は1、2種類追加できればいいほうかもしれません。
同様に毎日1時間ずつカウントしていったとして、稀な種が数回から十数回に1度追加され、その追加の可能性は徐々に低下していくでしょう。

以上のように、トンボ群集調査も、トンボ相調査も、調査努力を累積するにしたがって種数は増加しますが、その増加率は逓減していくでしょう。

さて、トンボ群集調査とトンボ相調査、そのどちらがトンボの多様性の長期変動を捉えるのに適しているでしょうか?

徹底的に調査努力を注ぎ、種数の増加率が実質的にゼロになるまでの結果(「解像度」の高いトンボ相データ)を得ておき、その結果を保存しておいて、それらを長期変動や場所間の比較に利用する、というのは確かにもっとも望ましく、理想的なものです。

しかし、日本中に昆虫少年や昆虫愛好家が満ち溢れていて、生物多様性の長期変動のモニタリングに協力的であるのなら別ですが、それは望むべくおありません。

では、次善の策として何があるでしょう?
調査努力(調査回数、調査時間、調査区面積、調査区数生息地面積のうちの調査区のカバー率など)を一定にした調査によるデータを収集し、保存しておくことで長期比較が可能になろはずです。

この調査努力を一定にし、データの比較可能性を担保することができるのが、モニタリングにおけるプロトコールの設定です。

私は、今年の「昆虫と自然」(ニューサイエンス社)の9月号(特集:昆虫多様性モニター法)に、「トンボ多様性の変化を追う -トンボ成虫群集モニタリングのプロトコール-」というタイトルで、プロトコールのひとつを提案しています。

そのエッセンスについて、今後、このブログでもご紹介したいと思います。

注:
*あらためて元村論文**を読み直すと、等比数列とすべきところを等比級数の用語を充てていることがわかりました。元村の等比級数の法則は等比数列の法則と言い換えるのが適切です。

**元村 勲 1932: 群聚の統計的取扱に就いて。動物学雑誌、 44(528), 379-383.

***Fisher, R. A., Corbet, A. S., & Williams, C. B. (1943). The relation between the number of species and the number of individuals in a random sample of an animal population. Journal of Animal Ecology, 12, 42-58.


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| トンボ:個体群・群集 | COM(0) | | TB(-) |
2014-12-20 (Sat)
前回の記事では、群集の構造、とりわけ構成種の個体数構成について、実例をあげながらご紹介しましした。

今回は、実際にトンボ群集が調査された生息地(沼)のトンボ相についてのお話です。

札幌のH沼の1971年のトンボ群集調査(毎週1回)では、個体数最多のエゾイトトンボから最小のムツアカネまで、11種のトンボが記録されました。

では、H沼のトンボ相はどんな様子だったでしょうか?

1970年から1973年までの4シーズン、私がこの沼に通い詰めて、成虫の行動観察から幼虫調査までのあらゆるフィールドワークの間に、採集したトンボは全部で21種でした(Ubukata 1974*)。

この中には、一時的にこの沼に迷い込んだとしか考えられない流水性の種(オニヤンマ、ニホンカワトンボ)も含まれていますが、オゼイトトンボ、ルリイトトンボなど低密度で生息していながら群集調査の際には発見されなかった種も含まれています。

トンボ相調査によって記録された種類数は、トンボ群集調査のそれの、ほぼ2倍にもなっています。

結果の数値だけ見ると、トンボ群集調査よりもトンボ相調査のほうが能率がよいように思うかもしれません。

しかし、トンボ相調査に掛けた時間は、少なく見積もっても群集調査の10倍以上になるでしょう。
というのも、特に最初の2年間は雨の日を除いてはほぼ毎日のように沼に通い(あるいは沼の近くのテントに泊まり込み)、朝から夕方近くまでトンボの観察を続けたからです。

これだけ時間をかけていますので、この沼のトンボ相**をほぼ調べ尽くしたといっても過言ではないと思います。

逆に言えば、トンボ相をほぼ完全なものとして把握するためには、膨大な時間がかかるということが言えます。

それと同時に、どれだけ沢山の時間をかけて調べても、トンボ相を調べ切る(完全なリストを得る)ということにはなっていないことにも注意が必要です。

ここで、もう一度、H沼の群集構成を見てみましょう(下図の上段)。

トンボの群集構造の例

 ↑クリックで拡大します。

この片対数グラフで、右下がりの直線に回帰した種の優占順位(個体数順位)と個体数の関係を外挿すると、観察された最小個体数の種(第11位)に続いて、第12位、13位を始めとした、より個体数の少ない種が群集調査の網にかからないまま、この沼に出没していたことが示唆されます。
第14位となると、第11位(この調査では1個体)よりも更に1桁少ない密度で存在している計算になります。

群集調査以外の時間も眼を光らせて観察し続けて、H沼のトンボ相に付け加えられた10種は、同沼のトンボ群集の中で12位以下の低密度の種の面々であったということができます***。

さて、トンボ相とトンボ群集。この似て非なるデータ型式は、現在全国的に、あるいは世界的に進行しているトンボの生物多様性(種多様性、群集の多様性)の変化(その大部分は衰退もしくは変質)をキャッチする上でどう役立てられるでしょうか?

これについては、次回以降の記事で取扱いたいと思います。

注:
*Ubukata, Hidenori, 1974: Relative Abundance and Phenology of Adult Dragonflies at a Dystrophic Pond in Usubetsu, near Sapporo JOURNAL OF THE FACULTY OF SCIENCE HOKKAIDO UNIVERSITY Series ⅤⅠ.ZOOLOGY, 19(3): 758-776.

**トンボ相は、年々変動しますので、この文脈では、当時の4年間のトンボ相について言及しています。

***これは元村の等比級数則通りであった場合の話で、実際はサンプリングの際の偶然性も影響し、順位の入れ替わりも十分起こり得ますので、あくまでも傾向についての説明にすぎません。



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| トンボ:個体群・群集 | COM(0) | | TB(-) |
2014-12-16 (Tue)
前回の記事では、動物群集の観察の仕方を取り上げました。

今回はそうやって観察したトンボ群集の構造の一例を見ていきます。

群集の構造は、一般に、それを構成する種の個体数の比率のリストで表現されます。

下のデータは私が(若いころ)実際に観察した札幌市のH沼のトンボ群集のものです(Ubukata 1974*)。

   *      *      * 

札幌市のH沼のトンボ群集

種名(和名) ・・・・・・ 個体数
エゾイトトンボ ・・・・・・ 717
アオイトトンボ ・・・・・・ 670
オオルリボシヤンマ ・・・・ 342
オツネントンボ ・・・・・・ 166
コサナエ ・・・・・・・・・ 120
カラカネトンボ ・・・・・・・ 88
タカネトンボ ・・・・・・・・ 26
カオジロトンボ ・・・・・・・ 14
アキアカネ ・・・・・・・・・ 2
ノシメトンボ ・・・・・・・・ 1
ムツアカネ ・・・・・・・・・ 1

    *      *      *

調査の方法は次のとおりです。
1971年の5月下旬から9月下旬まで、毎週1回、温暖な日の午後1時を挟んだ時間帯に、沼を1周して目視同定して成熟成虫の個体数を記録しました。

こう書くと簡単そうですが、1周222メートルの沼の岸の半分以上は沖に浮き出たヨシ湿原マットですので、歩くと沈み、下手をすると腰まで沼にはまってしまう、ちょっと冒険性のある作業です。

話が少し反れてしまいましたが、H沼の群集構造といって、この個体数データを見せられてもなんの変哲も感じないのが普通だと思います。
このリストを見た、トンボのことを少しでも知っている方の感想は、
「エゾイトトンボやアオイトトンボが多いんだな。」、「全部で11種類か。」、「アカネ属が意外と少ないな。」といったようなものになるでしょう。

構造」というからには、何かそれをプロデュースする力あるいは法則のようなものがあってもよさそうです。

種ごとの個体数が出ていますから、それをグラフに表してみてはどうでしょう?

横軸には、個体数の多い種の順に順位をつけて、その順位を充てます。

縦軸はどうしましょう?
個体数の実数のままでは、個体数の並んだだけの表を単にグラフにするだけで、あまり新しい発想を生みそうにありません。
そこで、縦軸を個体数の対数**にしてみましょう。

下のグラフ2枚のうち、上の1枚がH沼のものです。
下の1枚は同様の方法で示した、北海道釧路湿原T沼***のトンボ群集のものです(生方・倉内 2007****)

いかがでしょう?
かなりきれいに右下がりの直線のまわりにデータが集まっています。
とりわけT沼ではその傾向が強く出ています。

トンボの群集構造の例
 ↑クリックで拡大します。

これらの群集の(サンプルでなく)母集団の個体数が完全に直線に乗っていたと仮定すると、順位 i 番目の種の個体数は順位 i - 1 番目の種の個体数の r 倍である関係が、順位2番目から順位最後の種までの全てに当てはまることを意味します(rは公比で、0<r<1)。

すなわち、それぞれの種の個体数は等比数列をなしていることになります。

これは元村勲が1932年に湖底の動物群集の構成種の個体数の間に横たわる規則性として見出したもので、動物群集の等比級数則と呼ばれています*****。

数式表現では、logNx=b-ax となります******。

等比級数、すなわち等比数列の総和は簡単に計算できますから、個体数の少ない希少種がまだサンプルされていない群集においても、それら未発見の種を含めた(この場合、底生動物の)総個体数(より厳密には総個体群密度)が推定できてしまうのが、面白いところです。

公比rが小さい(即ち、隣の順位の種との個体数の違いが大きい)群集では、グラフに当てはめた直線の傾きが急になり(aの絶対値が大きくなり)、rが大きい群集では傾きが水平に近づきます(aの絶対値が小さくなります)。

後者では、それに伴い、より多くの種が含まれる、より種多様性の高い群集であることを意味します。
このことを利用して、aの逆数「1/a」が群集の多様性の指数として使われることがあります。

H沼とT沼を比較しても、グラフで直線の傾きの小さい(したがってaの逆数がより大きい)T沼のほうが多様であることがわかります。

すべての動物群集が元村の等比級数則どおりに、片対数グラフで直線に回帰するわけではありません。
そのため、対数級数則、対数正規則、ほかいろいろなモデルが提案されています*******。

次回の記事では、H沼やT沼のトンボ群集を念頭に置いて、トンボ相とトンボ群集の関係について考察したいと思います。

注:
*Ubukata, Hidenori, 1974: Relative Abundance and Phenology of Adult Dragonflies at a Dystrophic Pond in Usubetsu, near Sapporo JOURNAL OF THE FACULTY OF SCIENCE HOKKAIDO UNIVERSITY Series ⅤⅠ.ZOOLOGY, 19(3): 758-776.

**今回は縦軸を常用対数にしました。底(てい)が10ですので、対数の値が1上がるごとに個体数は10倍になります。

*** T沼の全周は、H沼の20倍以上ありますし、個体数カウントは一周ではなく、11カ所の調査区(各、岸に沿って10メートル)で行いました。

****生方秀紀・倉内洋平, 2007: トンボ成虫群集による湖沼の自然環境の評価―釧路湿原達古武沼を例に―。陸水学雑誌, 68: 131-144.

*****元村 勲 1932: 群聚の統計的取扱に就いて。動物学雑誌、 44(528), 379-383.

****** Nxは順位xの種の個体数、a、bは定数。bは順位1の種の個体数を(1-r)で割った数に相当します。

*******たとえば、Ferreira, FC. and Petrere-Jr., M. 2008: Comments about some species abundance patterns: classic, neutral, and niche partitioning models. Braz. J. Biol., 68(4, Suppl.): 1003-1012.


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