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2017-08-28 (Mon)
3回シリーズで続いている、今年の7月上旬、関東地方から北~北東方面に脱出した先にある、自然度の高い浅い沼一帯のトンボ観察記もいよいよ大詰め、今回は私の憧れのトンボとの対面が実現した際のエピソードを中心に紹介します。

憧れのトンボ、それはアマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana Asahina, 1955 です(写真1)。

アマゴイルリトンボ♂(3) 
写真1 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana(12時34分撮影) (写真はクリックで拡大します)

午前11時30分、早目の昼食休憩を済ませた私は、昼食前に観察した岸の対岸側の、日当たりのよい岸沿いにトンボの観察を再開しました。

最初に見つけたトンボはモノサシトンボ Pseudocopera annulata (Selys, 1863) ♂で、沼の水面から出たスゲ類の葉にとまっていました。

少し移動すると、今度は沼の水面から茎を突き出しているミツガシワの葉にもモノサシトンボ♂がとまっていました(写真2)。

モノサシトンボ♂、水辺にて 
写真2 モノサシトンボ Pseudocopera annulata 

いずれの♂も、明らかに、♀の到着を待ち受けている、すなわち婚活モードに入っている様子です。

翅および体表に汚れがないことから、まだ婚活シーズンが始まったばかりだということが伺えます。

11時36分、漏れ日があたる、ミツガシワ帯の草本の葉にとまるモノサシトンボ♀を発見しました(写真3)。

モノサシトンボ♀ 
写真3 モノサシトンボ Pseudocopera annulata 

♂とくらべて、特に体前半分の淡色部が♂のように青味がかった白ではなく、黄褐色がっかった白い色をしています(本種では、青味がかった白の♀も知られていますが)。

午前中にも羽化直後の個体を含め4頭のモノサシトンボを見つけて撮影しましたが、♂ばかりで、♀はここでは初物となりました。

次に、岸の丈の高い草の葉にとまるエゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum (Selys, 1872)の♂(スペード形黒紋の個体)を撮り、少し歩を進めると、水面に浮かぶオゼコウホネ Nuphar pumilum var. ozeense の葉やヒルムシロ Potamogeton distinctus の葉にそれぞれとまるクロイトトンボ Paracercion calamorum (Ris, 1916) ♂を見つけました(写真4)。

クロイトトンボ♂ 
写真4 ヒルムシロ Potamogeton distinctus の葉にとまるクロイトトンボ Paracercion calamorum 

もちろん、いずれも、その葉の周囲を なわばり にし、♀の到着を待っているバリバリの♂です。

クロイトトンボは、この生息地では私の前に初登場です。

今度はエゾイトトンボ連結カップルミツガシワ Menyanthes trifoliata の茎にとまっています(11時41分)。

少し離れたミツガシワの葉の上にはエゾイトトンボの独身がとまっています(写真5)。

エゾイトトンボ♂ 
写真5 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum 

こちらも、♀の登場を待ち受けているモードです。

別のミツガシワの葉にはモノサシトンボ♂もとまっています。

これはもう、婚活パーティ―状態です(笑)。

11時46分、エゾイトトンボの連結産卵が見られました(写真6)。

エゾイトトンボ、連結産卵 
写真6 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum 連結産卵

オゼコウホネかなにかの浮揚植物の葉柄の組織内に、♀がいそいそと卵を産み付け、♂は直立して♀をガードしています(歩哨姿勢)。

11時51分、ミツガシワの茎にとまっているエゾイトトンボ連結カップルに、別のエゾイトトンボ♂が近づいたため、連結♂は翅をばたつかせて威嚇しています(写真7)。

エゾイトトンボ連結 
写真7 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum 連結カップルに他♂が接近

下の写真8は同じエゾイトトンボ連結カップルですが、♀の全身がよく見えているのでここに掲げることにしました。

エゾイトトンボ連結(2) 
写真8 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum連結、同一カップル

11時54分、ヒルムシロの葉の上にとまっているクロイトトンボ連結カップルを見つけ、撮影しました(写真9)。

クロイトトンボ連結 
写真9 クロイトトンボ Paracercion calamorum 連結カップル

写真9も、♀の全身が比較的明瞭に写っているので掲げています。

この後、モノサシトンボ♂3例、エゾイトトンボ♂1例を撮影しましたが、上に紹介した事例と同様の姿勢をとっていましたので詳細は省略します。

そんな中、ミツガシワの葉の縁にとまるトンボの羽化殻を見つけ、撮影しました(写真10

イトトンボ科羽化殻 
写真10 イトトンボ科の1種 Coenagrionidae, sp. の羽化殻

帰宅後、幼虫図鑑等で調べ、尾鰓の概形、体長に対する腹長の比率、尾鰓の途中に折れ目があるらしいことで、均翅亜目の他の科ではなくイトトンボ科に属する種の羽化殻であると判定しました。

12時05分、岸の木漏れ日の当たる、丈の高い草の幅広い葉の先端に、青味の強いモノサシトンボ科のトンボがとまっているのを見つけました(写真11)。

アマゴイルリトンボ♂ 
写真11 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana 

アマゴイルリトンボ♂です。

カメラのファインダー越しに凝視しながら、「やったー!」と心の中で叫び声を上げていました。

今回の奥の蜻蛉道の旅の一番の目的を果たすことができた瞬間です。

ただし、初対面でしたので、帰宅後、パソコン画面で拡大画像と図鑑を見比べてアマゴイルリトンボに間違いないと確信するまでは、ぬか喜びの可能性もありえたのですが。

その後、この一帯で、柳の下のドジョウならぬ、2頭目のアマゴイルリトンボが見つからないか、眼を皿にして歩を進めたのですが、モノサシトンボ♂はいても、アマゴイルリイトトンボの姿はありませんでした。

ふと目を沼の水面にやると、宿願を果たした私を祝福するかのように、スイレン Nymphaea sp. の花が踊っていました(写真12)。[記事掲載時に「ヒツジグサ」としてい他のを訂正。2017.9.8.]

ヒツジグサ 
写真12 トンボの生息地に咲くスイレン Nymphaea sp. 

というわけで、目先を変えて、ハッチョウトンボのいるミズゴケ湿原へ向かうことにしました。

※その前に:昼時の日の当たる側の岸辺のトンボ成虫の構成には、午前中の日陰側の岸辺のそれと比べてクロイトトンボとルリモントンボの存在、オゼイトトンボの不在が指摘でき、♀を待ち受ける♂や連結や産卵中のカップルが見られるなど、生殖行動の活発化が見てとれます。

さて、この後の午後ののミズゴケ湿原で見たハッチョウトンボとアキアカネのオベリスク大会は、前々回の記事「奥の蜻蛉道(2):真夏のミズゴケ湿原のトンボ」に書いたとおりです。

そのミズゴケ湿原に向う通り道の横に、この沼の上流端の湿性草原の水たまりがありますので、そこに寄り道をしてみました。

すると、ますは藪の近くの草にとまるアキアカネが目に入りました(前回記事で既報)。

振り返るとその水たまりの近くの草の葉に、なんとアマゴイルリトンボ♂がとまっているではありませんか(写真13)。

アマゴイルリトンボ♂ 
写真13 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana ♂ (撮影者の影響を受ける前の証拠写真)

これこそが、前回記事「奥の蜻蛉道(3):湿原上流端の脇役トンボたち」で登場を先延ばしされた「この日の昼食休憩後に初対面したばかりのトンボ」そのものです。

お待たせしました。

この日2度目のアマゴイルリトンボ♂ですので、写真写りを優先して、撮影会のカメラマン並みに様ざまな角度・距離からシャッターを押します。

アマゴイルリトンボは、このうざったいカメラマンを避けるかのように、何度かとまり替えました。

そのうちの1枚はこれ(写真14)です。

アマゴイルリトンボ♂(2) 
写真14 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana 

そして最後の1枚(正確には最後から2枚目)がこれ(写真15)です(12時34分)。

アマゴイルリトンボ♂(3) 
写真15 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana  (写真1の再掲)

というわけで、今回の記事の冒頭にはこの写真を使いました。

アマゴイルリトンボは見た感じはモノサシトンボと似ていますが、分類学上の属はグンバイトンボと同じグンバイトンボ属 Platycnemis に属しています。

グンバイトンボ属およびその近縁属の種には♂の中・後脚の脛節が軍配状に拡張しているものが多く知られており(過去記事「世界のグンバイトンボ類、軍配サイズ番付」参照)、その中でアマゴイルリトンボはもっとも軍配に縁がない部類に属しますので、私にとっても興味津々の種です。

この話題については、また後程の記事で取り上げたいと思っています。

この後、トンボ探訪を続けながら、この沼への流入河川(細流)(前回記事参照)とミズゴケ湿原(前々回記事)を通り、森林斜面の迫る岸(3回前の記事)を通って、愛車の待つ場所へと戻りました。

これをもって、当ブログの「奥の蜻蛉道篇」はいったん完結といたします。


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2017-08-27 (Sun)
前回前々回記事に続き、今年の7月上旬、関東地方から北~北東方面に脱出した先にある、自然度の高い浅い沼一帯のトンボ観察からのエピソードをご紹介します。

この沼の上流側には小規模なミズゴケ湿原が成立していて、独特のトンボ相が成立しています(前回記事)。

そのミズゴケ湿原を通り過ぎた先にある、沼の上流端部に向うところから、今回の記事がスタートします。

ミズゴケ湿原を通り過ぎるとすぐに小規模な河畔林になっており、その林内の木漏れ日のあたるスゲ類の葉にオゼイトトンボ Coenagrion terue (Asahina, 1949) ♂がとまっているのを見つけ、撮影しました。

更に少し進むと、沼の上流端(湿原になっている)に流入する小河川(細流)を横切ることになります。
その細流沿いに生い茂ったヨシの葉に、ニホンカワトンボ Mnais costalis Selys, 1869 無色透明翅型♂が木漏れ日を浴びながらとまっていました(写真1)。

ニホンカワトンボ♂、無色透明型 
写真1 ニホンカワトンボ Mnais costalis ♂、無色透明翅型 (写真はクリックで拡大します)

日本産のカワトンボ属 Mnais は2種、ニホンカワトンボアサヒナカワトンボ M. pruinosa Selys 1853に分類されていますが、形態が酷似していて、多くの場合、成虫標本の観察、ましてや生態写真だけからの種の同定には困難が伴います。DNAを抽出して解析すれば正確に同定できますが、研究機関の協力なしには行えません(過去記事「カワトンボ属:形態による種の同定は、核DNA塩基配列分析にひざまずく(以前の記事の訂正あり)」参照)。

それなのに、なぜ今回はニホンカワトンボと断定できたのかといえば、その理由は簡単で、今回の調査地域にはアサヒナカワトンボは分布していないことになっているからです。

さて、今回の観察記録に戻ります。

この細流を渡ったところの少し先に行くと見ることができる湿原の最上流端は、本来湿原だったと思われますが、私が訪れた時にはやや乾燥感のある草原の様相を呈していました。

それでも、写真2のように、大きな浅い水たまりがあることから、それなりに地下水位も高いのかもしれません。

湿原の上流端の景観 
写真2 沼の最上流端の湿性草原の水たまり

その浅い水たまりのほとりの幼木の尖端の立った枝の先近くに、シオヤトンボ Orthetrum japonicum (Uhler, 1858) ♂がとまっていました(写真3)。

シオヤトンボ♂ 
写真3 シオヤトンボ Orthetrum japonicum 

シオヤトンボについては、過去記事「シオヤトンボ:男たちの厚化粧」に♂の白粉による装いとその意味について、交尾中の写真も添えて記述していますので、ご一読ください。

この水たまりと向かい合う林縁に接した草むらの頭花にアキアカネ Sympetrum frequens (Selys, 1883) ♂が水平にとまっていました。

見ていると、その♂も前回記事のアキアカネ1♂のように、軽いオベリスク姿勢をとりました(写真4)。

アキアカネ♂
写真4 アキアカネ Sympetrum frequens ♂

少し視線を巡らせると、別のアキアカネ♂が、傾いたスゲ類の尖端の穂に、ほぼ水平にとまっているました(写真5)。

アキアカネ未熟♂ 
写真5 アキアカネ S. frequens 未熟♂

更にもう1頭のアキアカネ♂が、半日陰の草の葉の上にこちら向きにとまっていました(写真6)。

アキアカネ♂ 
写真6 アキアカネ S. frequens ♂

このように、正面からの写真からでは、雌雄の判定は難しいのですが、腹部第4節の前方付近が、それより後方よりも細まっていること、尾部上付属器は♀の相同の体部である尾毛よりもずっと長いことに着目してなんとか判定してみました。

午前10時10時26分。ほかにトンボの姿はないので、直前まで観察していたミズゴケ湿原に戻ることにしました。

そのミズゴケ湿原でのトンボ観察は前回記事に書いたとおりです。

昼食後の12時29分に、この浅い水たまりのある沼(湿原)の最上流端の草原を再訪してみました。

この時最初に出会ったトンボは、半日陰の笹の葉にとまるアキアカネでした(写真には正面向きで腹部が写っていないため、性別判定不能)。

シオヤトンボを撮影した水たまりに着くと、そこには私がこの日の昼食休憩後に初対面したばかりのトンボが1頭とまっていました。
その初対面のトンボについては、次回記事で詳しく報告する予定です。

そのトンボをさまざまな角度から撮影したあと、ミズゴケ湿原に向いました。

その途中の、湿原に流入する小河川(細流)沿いに生えた背の高い笹の葉に、今度はニホンカワトンボの♀が木漏れ日を浴びながらとまっていました(写真7)。

ニホンカワトンボ♀ 
写真7 ニホンカワトンボ Mnais costalis ♀

後半身を水平よりも40度ほど挙上して、いつでも飛び立てるような態勢で、斜め下前方を凝視しています。
小さな虫通りかかれば飛びかかって、捕獲する態勢です。

今回、ニホンカワトンボの♂と♀を観察・撮影することができました。

ただし、同時に見つかってもおかしくないはずのニホンカワトンボの橙色翅型♂(画像はこちら過去記事より])は今回見られませんでした。

その理由として、この細流が非常に小規模で、その上、橙色翅型♂がなわばり占有場所として好む少し開放的な(つまり上空の大半を樹枝で覆われることのない)水流の部分が無かったことが考えられます。

それにしても、カワトンボ類が移動可能な流域で考えれば橙色翅型♂はいるはずですから、今回はたまたま目にとまらなかっただけというのが真相に近いだろうと思います。

ニホンカワトンボの形態について具体的に取り上げたものとして、以下の過去記事があります。

※ただし、この過去記事で扱われているニホンカワトンボは、同属のアサヒナカワトンボと広域的に同所分布している地域内の個体群であるため、アサヒナカワトンボとの形態的差異が拡大する「形質置換」を起こしているケースですので、今回撮影したニホンカワトンボとは、体サイズ、橙色翅♂と無色透明翅型♂の比率、♀の翅の色などで大きな違いが出ています。

今回の記事は、過去記事ピックアップを交えたニホンカワトンボの話題に終始した感がありますが、次回は私を感激された初対面の種との出会いを取り上げる予定です(今回のタイトルに「脇役」を付したのは、この理由からです。御免なさい→ニホンカワトンボさん、シオヤトンボさん、アキアカネさん)。


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2017-08-25 (Fri)
今年の7月上旬、奥の細道ならぬ奥の蜻蛉道をたどり、関東地方では見られないトンボも棲む生息地を初めて訪れました。

朝から夏の日差しが照り付ける好天に恵まれたこの日の朝、私は台地状の丘陵地の中央部の窪地に形成された浅い沼のほとりにたどり着きました(写真1)。

多様なトンボが生息する、台地上に形成された沼 
写真1 多様なトンボが生息する、台地上に形成された沼(写真はクリックで拡大します)

沼の周囲の集水域に人家や畜舎などがないことから、水の富栄養化もおきにくく、トンボを含む水生生物にとって好適な環境であることが予測できていましたが、その期待を裏切らない、素晴らしい生息地であることが、このあと登場するオゼイトトンボ Coenagrion terue (Asahina, 1949)写真2)他(実は「他」の中には、もっと大物が。。。)のトンボ達によって証明されることになります。

オゼイトトンボ♂ 
写真2 オゼイトトンボ Coenagrion terue 

このオゼイトトンボ♂については、以下の時系列順の記述の中であらためて取り上げます。

第1回目の今回の記事では、午前9時ちょっと過ぎにスタートし、森林の斜面が沼のミツガシワなどの抽水植物が繁茂するゾーンに接する、岸沿いの小径をゆっくりと歩みながら見つけた、トンボ達を紹介します。

最初に目にとまったトンボは、水辺から舞い上がり、低木の葉の上にとまった羽化直後のイトトンボでした(写真3)。

イトトンボ科の1種、♀、羽化直後 
写真3 イトトンボ科の1種 Coenagionidae sp. ♀、羽化直後

帰宅後、写真3の画像を拡大して図鑑類と見比べましたが、イトトンボ科の1種の♀と判定するのがやっとでした。
種まで同定するにはもう少し色々な角度からもっとピントのあった写真をとる必要があることを、改めて思い知らされました。

岸沿いに少し歩くと、岸近くの木漏れ日のあたるスゲ類の葉に、モノサシトンボ Pseudocopera annulata (Selys, 1863) の♂がとまっていました。

モノサシトンボ♂ 
写真4 モノサシトンボ Pseudocopera annulata 

このモノサシトンボ♂は、若干青味がかった表皮の白色部はまだ瑞々しく、成熟の途中であることをうかがわせます。
また、視線が斜め上を向いていることから、餌昆虫が通りかかれば飛びかかるという態勢をとっているように思われます。

午前中の岸沿いトンボ探訪で、この後も同様に草木の葉にとまるモノサシトンボ♂を3例撮影することができました。
そのうちの1♂は、木漏れ日もあたっていない日陰の丸い木の葉の表面先端付近にとまっていたものです。

岸沿いに歩みを進めると、岸辺の木漏れ日のあたる、折れ曲がったスゲ類の葉にアキアカネ Sympetrum frequens (Selys, 1883) ♀がほぼ水平にとまっていました。

アキアカネ♀ 
写真5 アキアカネ Sympetrum frequens ♀

こちらにお尻を向けてとまっていますが、この日初登場のアキアカネでしたので掲載しておきます。

木漏れ日のあたる、への字形に折れ曲がったスゲ類の葉に斜めにぶら下がるかたちで、オゼイトトンボ♂写真2:ただし、10時37分に撮影の別個体)がとまっていました(9時36分)。

オゼイトトンボ♂ 
写真2の再掲 オゼイトトンボ Coenagrion terue ♂  (10時37分に撮影)

オゼイトトンボの学名のうち、種小名のterue は命名者である朝比奈正二郎博士(故人)の奥様のお名前をローマ字表記したものです(トンボ界では知らない人はいないほどのエピソード)。

さて、オゼイトトンボと私の関係ですが、大学院生時代に札幌市郊外の山中の沼で、多数派のエゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum (Selys, 1872) に交じって活動していたのを観察して以来の再会になります(過去記事「トンボ相とトンボ群集(4):群集調査地のトンボ相」参照)。

その後、就職して釧路市に転居してからは、道東の生息地ではどこでも、オゼイトトンボの代わりにキタイトトンボ Coenagrion ecornutum (Selys, 1872)(過去記事:「キタイトトンボの産卵:男はつらいよ!?」参照)がエゾイトトンボのライバル、正確には同属の同所分布種となっていました。

埼玉に再転居した今は、北海道特産種であるキタイトトンボはもちろんのこと、エゾイトトンボ、キタイトトンボも県外遠征しなければ会えない、少し遠い存在となっています。

ということで、オゼイトトンボとは今回、感激の再会となりました。

更に岸沿いに歩むと、日のあたる丸い葉にとまっている別のオゼイトトンボ♂もいました。

先に進んだところで、沼の岸のヨシ類の葉の上にとまるヨツボシトンボ Libellula quadrimaculata Linnaeus, 1758 ♂写真6;ただし、10時48分撮影の別♂)を見つけ、カメラに収めました(9時39分)。

ヨツボシトンボ♂ 
写真6 ヨツボシトンボ Libellula quadrimaculata  ♂ (10時48分撮影)

ヨツボシトンボは過去記事「睡蓮をバックにヨツボシトンボは鎧を見せつける」で主役を務めています。

少し進んだところで、沼の抽水植物帯のミツガシワの葉先に水平にとまる、オゼイトトンボ♂を撮影しました。

更には、沼のヨシ類の茎にとまるアオイトトンボ Lestes sponsa (Hansemann, 1823) 未熟♂写真7)も見つけ、撮影しました(9時51分)。

アオイトトンボ、未熟♂ 
写真7 アオイトトンボ Lestes sponsa 未熟♂

アオイトトンボは過去記事アオイトトンボ♂」で一度だけ主役を務めています。

更に進むと、今度は岸の草の丸い葉の中央に水平にとまるエゾイトトンボ♂写真8)が見つけからいました。

エゾイトトンボ♂、サスマタ形黒紋個体 
写真8 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum ♂、サスマタ形黒紋個体

写真8を拡大してよく見ると、腹部第2節背面の黒紋は典型的なスペード形ではなく、サスマタ形、それも半円形ではなくロの字を半分に切ったような形のそれになっています。

●さすまたの実物の参考画像(外部リンク
※参考画像のリンク先頁のタイトル「大工nanoの建築三昧2:『さすまた』

少し移動すると、今度は低い草の葉の先に水平にとまる腹部第2節背面の黒紋は典型的なスペード形エゾイトトンボ♂が見つかりました。

エゾイトトンボ♂、スペード形黒紋個体 
写真9 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum ♂、スペード形黒紋個体

その後も少し離れたところで、スゲ類の葉にとまるサスマタ型のエゾイトトンボ ♂(別個体)を再び撮影しています。

エゾイトトンボと私との関係は、オゼイトトンボのところに書いたように、北海道在住時は長い付き合いでしたが(過去記事:「エゾイトトンボ♂:青空カフェでしばしの休息」も参照)、埼玉県に転居してからは疎遠となっていましたので、オゼイトトンボほどではありませんが、今回の出会いは旧交を温める機会となりました。

札幌市郊外の山中の沼でも、多数派のスペード形黒紋の♂個体に交じって、さすまた形黒紋の♂個体も少数ながら観察・採集した経験があります。

この後、ミズゴケ湿原部分や沼に流入する小さな細流沿いの湿性草原でそれぞれを特徴づけるトンボを観察することになりますが、それについては次回記事で詳しく取り上げます。

また、その後の記事では、同日午後に森林とミツガシワ帯が接する岸沿いで観察・撮影された私にとって憧れのトンボとの出会いをレポートする予定です。

以下は、ミズゴケ湿原部分や沼に流入する小さな細流沿いの湿性草原を見た後、もとの森林斜面とミツガシワ帯の沼面が接する岸上の小径を戻る際に見られたトンボについてのメモです。

そのミズゴケ湿原を折り返す際に、そこのスゲの葉にオゼイトトンボ♂がとまっていました(写真2)(10時37分)。

また、イグサのような草にぶらさがる、アキアカネ未熟♂も観察・撮影しました。

もう少し戻ったところのの、枯れた草の茎の先には、ヨツボシトンボ♂がとまっていました(写真6、下に再掲)。

ヨツボシトンボ♂ 
写真6の再掲 ヨツボシトンボ Libellula quadrimaculata  ♂

森林斜面が迫る戻り道では、ミツガシワ帯のヨシ類の葉にぶらさがるようにとまるモノサシトンボ♂の羽化直後個体を見つけました(写真13)。

モノサシトンボ、未熟♂ 
写真13 モノサシトンボ Pseudocopera annulata ♂の羽化直後個体

モノサシトンボは準主役級で過去記事に登場しています(「トンボ王国訪問記(1):多彩なトンボ達に迎えられ」)。

かれこれしている間に、朝のスタート地点に戻りました。
早目の昼食休憩をとったあと、午後の観察がスタートすることになります。

午前中のミズゴケ湿原一帯のトンボ、午後見られたトンボについては、次回以降の記事でご紹介します。


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2017-05-22 (Mon)

以前の記事「ウスバキトンボ、今年の初見日はいつ?」で、ウスバキトンボ Pantala flavescens (Fabricius, 1798) の全国一斉初見日調査が現在おこなわれていることをご紹介しました。


というわけで、私もトンボの調査中はもちろん、普段のドライブ中も、ウスバキトンボが飛んでいないか注意を払って今日まできていました。


そして、今日(5月22日)、私の地元(さいたま市)で今年初めて目撃しました。


たった1個体でしたが、データを収集している新井さんに報告したところ、埼玉県としては今年初の記録とのこと。


千葉や神奈川では4月に観察されることもあるようですので、埼玉も似たようなものかと思っていましたが、よく見ると、2015年の調査データまとめでも埼玉では6月が初見だったことがわかり、今回の観察は結構ラッキーだったことが後からわかりました。


ただし、今後、他の方からもっと早い日付の採集・観察記録の報告があがれば、私の記録はいとも簡単に塗り替えられることになります。


さてさて、皆さんの地域ではもう見られましたか?


文字だけではさみしいので、写真を添えておきます(再掲)。

2014年9月にさいたま市内で撮影したウスバキトンボです。


ウスバキトンボ ♀ 

写真はクリックで拡大します。



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2017-05-20 (Sat)
5月中旬も間もなく終わろうとしている、関東の一部都市に真夏日予報のでているこの日、関東山地の少し標高の高いところの渓流を何カ所か回りました。

季節が端境期だったせいか、出会えたトンボはクロサナエ Davidius fujiama Fraser, 1936 1♂だけでした。
それも、流畔のクモの垂直網にとらえられた若い個体でした(写真1)。

クモの網のクロサナエ(1)
写真1 クロサナエ Davidius fujiama ♂ (写真はクリックで拡大します)
 
午後2時過ぎ、クモの網にかかって、ゆらゆら揺れていたのを見つけました。

クモの網は枯草の茎にわたしてあるのですが、同じ株の別の茎の先端にカワゲラか何かの羽化殻がとりついているのも写真1には写り込んでいました。

網が揺れているのでなかなかピントがあわず、なんとか使い物になりそうに撮れたのが写真2です。

クモの網のクロサナエ2)
写真2 クロサナエ Davidius fujiama ♂

帰宅後写真から同定するために、翅胸前面や頭部の写真を撮っておく必要がありました。
そこで、クモの網からこのサナエトンボをつまみ上げました。
すると、なんと動いているのでちょっと驚きました(写真3)。

クモの網のクロサナエ(3)
写真3 クロサナエ Davidius fujiama ♂

風に揺れていたのではなく、もしかすると、このサナエが網からのがれようとじたばたしたので、揺れ動いたのかもしれません。

それならと、葉の上にそっと置きました(写真4)。

クモの網のクロサナエ(4)
写真4 クロサナエ Davidius fujiama ♂

可哀そうに、左前翅が基部から3分の1あたりで折れ曲がり、その先はくしゃくしゃになっています。
右前翅も基部から2分の1あたりで、への字形に折れ曲がっていて、これでは再離陸をするのも厳しそうです。
脚も不自由そうです、置いた時点には右中脚と右前脚が不自然に重なりあっています(写真4)。

しばらくすると写真5のように右中脚と前脚が互いに離れるように、自ら位置を変えました。

クモの網のクロサナエ(5)
写真5 クロサナエ Davidius fujiama ♂

その右前足ですが、跗節が通常そうするように外側には開かず、内側に伸びたままです。
私が網から外すときに傷めたのか、それとも網から逃れようとじたばたした際に無理な力をかけてしまったのか?
写真1を拡大してみると、右前足も中脚も跗節にクモの網の丈夫な糸がからみついていて、そこから逃れようと体を動かしたり、第三者が網からはずそうとしたときの力で関節や筋肉を傷めてしまうことはありそうです。

右中脚の跗節も本来のふんばりの態勢になっていませんので(写真5)、同様に損傷を受けているのかもしれません。

こんど、生きているトンボを網から外そうとするときには、気を付けることにしましょう。

複眼の色がまだ濁った色であること、翅に艶があり、クモの網による以外の汚れがなさそうなことから、このすぐ近くでこの日に羽化し、大空へはばたく処女飛翔に飛び立ってすぐ、このクモの網にかかってしまったものと考えられます。

トンボを主人公にすると、クモは悪役になってしまいますが、クモは「当たり前のことをしたまで」と言うでしょう。
そのクモの姿は見当たりませんでした。
クモの専門家でしたら、おおよその種名の見当はつくのではないでしょうか?

気の毒なクロサナエにいつまでも付き合っているわけにいかず、そのままにして、私は次の調査ポイントに向ったのでした(写真6、赤丸印)。

クモの網のクロサナエ(6)
写真6 網から救ったクロサナエ (赤丸の中)を置き去りに。

飛び立つことも歩いて隠れることも不自由になったこの個体は、残念ながら、歩行性のクモかアリの餌食になってしまうものと思われます。

しかし、これも自然の摂理の内。
われわれにできることは、森林破壊や水質汚染などの環境破壊や、採集のための採集によって個体群密度が絶滅の渦に巻き込まれるレベルにまで低下しないよう、意識を高めていくことだと思います。


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