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2017-05-22 (Mon)

以前の記事「ウスバキトンボ、今年の初見日はいつ?」で、ウスバキトンボ Pantala flavescens (Fabricius, 1798) の全国一斉初見日調査が現在おこなわれていることをご紹介しました。


というわけで、私もトンボの調査中はもちろん、普段のドライブ中も、ウスバキトンボが飛んでいないか注意を払って今日まできていました。


そして、今日(5月22日)、私の地元(さいたま市)で今年初めて目撃しました。


たった1個体でしたが、データを収集している新井さんに報告したところ、埼玉県としては今年初の記録とのこと。


千葉や神奈川では4月に観察されることもあるようですので、埼玉も似たようなものかと思っていましたが、よく見ると、2015年の調査データまとめでも埼玉では6月が初見だったことがわかり、今回の観察は結構ラッキーだったことが後からわかりました。


ただし、今後、他の方からもっと早い日付の採集・観察記録の報告があがれば、私の記録はいとも簡単に塗り替えられることになります。


さてさて、皆さんの地域ではもう見られましたか?


文字だけではさみしいので、写真を添えておきます(再掲)。

2014年9月にさいたま市内で撮影したウスバキトンボです。


ウスバキトンボ ♀ 

写真はクリックで拡大します。



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2017-05-20 (Sat)
5月中旬も間もなく終わろうとしている、関東の一部都市に真夏日予報のでているこの日、関東山地の少し標高の高いところの渓流を何カ所か回りました。

季節が端境期だったせいか、出会えたトンボはクロサナエ Davidius fujiama Fraser, 1936 1♂だけでした。
それも、流畔のクモの垂直網にとらえられた若い個体でした(写真1)。

クモの網のクロサナエ(1)
写真1 クロサナエ Davidius fujiama ♂ (写真はクリックで拡大します)
 
午後2時過ぎ、クモの網にかかって、ゆらゆら揺れていたのを見つけました。

クモの網は枯草の茎にわたしてあるのですが、同じ株の別の茎の先端にカワゲラか何かの羽化殻がとりついているのも写真1には写り込んでいました。

網が揺れているのでなかなかピントがあわず、なんとか使い物になりそうに撮れたのが写真2です。

クモの網のクロサナエ2)
写真2 クロサナエ Davidius fujiama ♂

帰宅後写真から同定するために、翅胸前面や頭部の写真を撮っておく必要がありました。
そこで、クモの網からこのサナエトンボをつまみ上げました。
すると、なんと動いているのでちょっと驚きました(写真3)。

クモの網のクロサナエ(3)
写真3 クロサナエ Davidius fujiama ♂

風に揺れていたのではなく、もしかすると、このサナエが網からのがれようとじたばたしたので、揺れ動いたのかもしれません。

それならと、葉の上にそっと置きました(写真4)。

クモの網のクロサナエ(4)
写真4 クロサナエ Davidius fujiama ♂

可哀そうに、左前翅が基部から3分の1あたりで折れ曲がり、その先はくしゃくしゃになっています。
右前翅も基部から2分の1あたりで、への字形に折れ曲がっていて、これでは再離陸をするのも厳しそうです。
脚も不自由そうです、置いた時点には右中脚と右前脚が不自然に重なりあっています(写真4)。

しばらくすると写真5のように右中脚と前脚が互いに離れるように、自ら位置を変えました。

クモの網のクロサナエ(5)
写真5 クロサナエ Davidius fujiama ♂

その右前足ですが、跗節が通常そうするように外側には開かず、内側に伸びたままです。
私が網から外すときに傷めたのか、それとも網から逃れようとじたばたした際に無理な力をかけてしまったのか?
写真1を拡大してみると、右前足も中脚も跗節にクモの網の丈夫な糸がからみついていて、そこから逃れようと体を動かしたり、第三者が網からはずそうとしたときの力で関節や筋肉を傷めてしまうことはありそうです。

右中脚の跗節も本来のふんばりの態勢になっていませんので(写真5)、同様に損傷を受けているのかもしれません。

こんど、生きているトンボを網から外そうとするときには、気を付けることにしましょう。

複眼の色がまだ濁った色であること、翅に艶があり、クモの網による以外の汚れがなさそうなことから、このすぐ近くでこの日に羽化し、大空へはばたく処女飛翔に飛び立ってすぐ、このクモの網にかかってしまったものと考えられます。

トンボを主人公にすると、クモは悪役になってしまいますが、クモは「当たり前のことをしたまで」と言うでしょう。
そのクモの姿は見当たりませんでした。
クモの専門家でしたら、おおよその種名の見当はつくのではないでしょうか?

気の毒なクロサナエにいつまでも付き合っているわけにいかず、そのままにして、私は次の調査ポイントに向ったのでした(写真6、赤丸印)。

クモの網のクロサナエ(6)
写真6 網から救ったクロサナエ (赤丸の中)を置き去りに。

飛び立つことも歩いて隠れることも不自由になったこの個体は、残念ながら、歩行性のクモかアリの餌食になってしまうものと思われます。

しかし、これも自然の摂理の内。
われわれにできることは、森林破壊や水質汚染などの環境破壊や、採集のための採集によって個体群密度が絶滅の渦に巻き込まれるレベルにまで低下しないよう、意識を高めていくことだと思います。


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2017-04-19 (Wed)

川岸の上をスクランブル飛行するウスバキトンボ Pantala flavescens (Fabricius, 1798)たちです(写真1)。


ウスバキトンボの群飛、四国、6月中旬 
写真1.ウスバキトンボの群飛 Pantala flavescensの群飛

昨年6月19日に四国で撮影したものです。
翅の位置取りや動作を可視化するために、輝度を下げ、コントラストを上げています。
動体の撮影不慣れなため、ピントは激甘です。

ウスバキトンボについては、当ブログに次のような過去記事があります。
よろしければ御笑覧ください。

このほか、
という紹介記事もあります。

その新井さんが、今年もウスバキトンボの初見日を集約するそうです。
全国ウスバキトンボ初見日調査:

今年、すでに沖縄で1月に、鹿児島、千葉の両県で4月中旬に見たという報告が寄せられているそうです。
2017年度ウスバキトンボ初見日速報 4月18日更新:

トンボを観察しておられる方がおられましたら、ご自身の初見日を新井さんにレポートされてはいかがでしょうか? 

ちなみに、昨年の集約結果は下記サイトで閲覧可能です。
全国一斉ウスバキトンボ調査報告書 2015:


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2016-11-26 (Sat)
Pantala flavescens (Fabricius, 1798)については、まだまだ謎が多く、埼玉県在住の新井裕さん(『トンボの不思議』等の著者)が最近も「海を渡るウスバキトンボの謎」と題した解説記事(外部リンク:日本自然保護協会)を書いているほどです。

ウスバキトンボ♀ 
ウスバキトンボ♀ Pantala flavescens 今年の7月上旬に茨城県で撮影

その新井裕さんが代表を務める「NPO法人むさしの里山研究会」*が、2016年の日本各地におけるウスバキトンボの初見日データを全国のトンボ仲間から募集中で、更なるデータ提供を希望しています。

下記の時期と同時期あるいはそれ以前のデータは貴重ですので、同会の新井さんに直接:
 tombo2d1.dion.ne.jp
 (★をアットマークに置き換え)

または私(生方秀紀)宛:
info.idnh★gmail.com
(★をアットマークに置き換え)

に電子メールでお知らせ下さい。

私宛の情報は、同会の新井さんに転送いたします。

沖縄県 3月中旬
鹿児島県島嶼 3月上旬
鹿児島県(本土) 4月中旬
静岡県、千葉県、福岡県 4月中旬
兵庫県、神奈川県、埼玉県 4月下旬
茨城県 5月上旬
四国(徳島県) 6月中旬
青森県 6月下旬
北海道(石狩) 6月末
長野県、宮城県、 7月上旬
山形県 7月末

全国からのデータを整理したものは同会から発表されることになっていますので、それを受けて、皆様にもお知らせしたいと思います。


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2014-12-31 (Wed)
前回の記事で、同一生息地(または地域)において調査努力(調査回数・調査時間)を増した場合の、累積種数の増加の関係について、以下の傾向が観察されることをご紹介しました。

(1)累積種数は調査の最初に急速に増加すること。
(2)累積種数の増加速度はその後漸減し、増加率ゼロに近づいていくこと。
です。

この傾向をクリアーに表現しているグラフ(灯火採集された蛾類*)を下に再掲します。
前回記事に掲載のグラフには添えていなかった目盛り数値を今回は加えました。

個体数と種数の関係、目盛り付(Fisher et al 1943)
 ↑クリックで拡大します。

今回は、このグラフを題材にして、調査努力を替えた場合の昆虫群集、昆虫相のデータの得られ方について考察します。

ここで調査努力を問題にする理由は、私たちがある生息地(または地域)において特定の生物分類群(例:トンボ目)のファウナ(動物相:種のリスト)を調べつくすことは、ほとんどの場合には実際上不可能であり、従って、得られたファウナのデータは不完全なものにならざるを得ないからです。

調査結果としてのファウナデータの種数は、群集調査においては累積種数にほかなりません。

Rothamstedのこの調査から推測される大型蛾類相の構成種数は、このグラフで累積種数曲線が飽和曲線型を描き、その想定される漸近線(水平)の切片の座標から、ほぼ250種程度といえます。

250種の完全リスト化のためには、16000個体よりも遙かに多くの個体数の蛾類を灯火採集し、それらを全て種まで同定するという大変な努力が必要となります。

私たちが地域のトンボ相、トンボ群集を調査をボランティアベースで、身構えずに行う場合の調査努力には自ずと低めの限界があります。
どの程度の調査努力でどの程度の調査結果が得られるかについて、この大型蛾類のデータで見ていきたいと思います。
グラフの中の打点のどれが何に相当するのかについては、脚注3***をご覧ください。

平均の確認種数は、単年度の調査努力の「4分の1」では120種、「2分の1」では150種、「4分の3」で170種と順調に増加します(増加率は低下していきます)。
1年では180種、2年で220種、3年で230種、4年で240種となっていて、最初の年と同じ努力をしたのに、4年目ではたった10種しか増加しません。
4年目の累積種数を増加させる効率は、1年目の18分の1になっています。

さて、Rothamstedで大型蛾類相群集を調べたのは、脚注2の論文の共著者である C. B. Williamsですが、その採集品リスト(240種が明示されている)は1933~1936年における当地のほぼ完ぺきな(網羅率95%程度と考えられる)大型蛾類相データといえます。

Williamsは採集個体数データを添えた種のリストを公表しています**ので、80年後の現在(2010年代中葉)に同じ地域において同じ方法、同じ調査努力で群集調査を行えば、特定の種の増減を明らかにすることができます。
その意味で、群集サンプルの種別個体数を調査方法、調査努力の内容とともに後世に残しておくことは、生物多様性の変動を知る上で大変貴重です。

ここで、もし、Williamsが個体数データや調査方法、調査努力の内容を残さず、種のリスト(在・不在データ)のみを残していたとしたらどうでしょう?
4年間に2349個体採集されたAgrotis exclamationis(和名:センモンヤガ:標本画像、外部リンク )も、1個体しか採集されなかった35種の蛾も横一列の扱いとなってしまいます。
そうなると、80年後の現時点での調査でセンモンヤガが1個体も採集されなかった場合でも、当時1個体だった種類が現時点で採集されなかった場合と同じ扱いとなってしまいます。

また、80年間でほとんど群集の生息状況が変わらなかった場合であっても、調査方法、調査努力が異なれば、リストアップされない種が頻発することが十分考えられます。
このような場合、種のリストだけを比較して、「種○○はこの地域で絶滅した」と言い切ることができるでしょうか?
もちろん、それはできないでしょう。

ということで、蛾類でもトンボ類でも、ファウナ(動物相)を把握することは動物群集の一側面を見ようとしていることである、ということを十分意識することが大切でしょう。
そして、将来における同地域、または現時点ないし将来の他地域との比較に耐えるデータを得るためには、調査の仕方を、最大限、動物群集調査に近づけることが、動物相の調査者には求められるのではないでしょうか。

6回連続の記事を通して、ほぼ同じ内容のことを繰り返して述べて来ましたが、今回、蛾類の具体的なデータをなぞることで、少しはイメージが捉えやすくなっていたとしたら、肩の力を抜くことができます。

次回は、トンボ群集調査のプロトコールを取り扱うことにしています。


注:
*注1 Fisher, R. A., Corbet, A. S., & Williams, C. B. (1943). The relation between the number of species and the number of individuals in a random sample of an animal population. Journal of Animal Ecology, 12, 42-58.

**注2 Williams, C. B. (1939). An analvsis of four years captures of insects in a light trap. Part I. General survey; sex proportion; phenology; and time of flight. Trans. R. Ent. Soc. Lond. 89: 79-131.

***注3 [以下の文章全体]:
このグラフに打たれたデータの点のうち、2000個体弱から4000個体弱までの3つの点と7000個体弱の点1つは、4つの単年度データにおける種類数です。
1000個体未満の4つの点は、各単年度の個体を8等分したときの平均種類数です。
5000個体強から10000個体強までの6つの点は、それぞれごとに、2つの異なる年度のデータを合計した場合の種類数です。
9000個体弱から14000個体弱までの4つの点は、それぞれごとに、3つの異なる年度のデータを合計した場合の種類数です。
15000個体強の1つの点は、4つの全ての年度のデータを合計した場合の種類数です。
4つの年度を平均した年間採集個体数は3900個体強*だったので、グラフから推定すると単年度で平均180種が発見される計算になります。
2年間では平均7800個体強で220種弱が、3年間では平均11700個体強で230種弱が、4年間では平均15600個体強で、240種弱が発見されると期待されます。
ここで、各年度の採集努力が低く、実際の「4分の1」、「2分の1」、「4分の3」だった場合を想定すると、採集個体数および推定種類数はそれぞれ、975個体で120種強、1950個体で150種弱、,2925個体170種強となります。


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