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2018-12-15 (Sat)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征*の2日目、この日4番目の訪問地である、小河川の源流部では、案内役の飯田貢さんが採集した、ムカシトンボ Epiophlebia superstes (Selys, 1889) 写真1)など3種のトンボ幼虫を観察・撮影することができました(前回記事参照)。

ムカシトンボ幼虫
写真1 飯田さん採集のムカシトンボ Epiophlebia superstes F-2齢幼虫 (前回記事から再掲)(写真はクリックで拡大します)

(* この四国でのトンボ探訪記は、シリーズ物として、これまでに18編の記事にしています[記事一覧はこちら])。

第19報の今回は、そのムカシトンボ幼虫を近接撮影した動画(動画1)をご紹介し、それをスローモーション変換したもの(動画2)から、ムカシトンボ幼虫の歩き方を読み解きます。


目 次:
◆スローモーション変換前の動画を見る
◆スローモーション動画を見る
◆その前に:昆虫の脚の各節の名称
◆歩行の際の脚の基本的な運び方
  1)前脚の歩行時の動き:
  2)後脚の歩行時の動き:
  3)中脚の歩行時の動き:
◆脚を動かす順序 
  1)今回の動画撮影中の歩行のバランスの崩れ:
  2)片側の3つの脚における動きの時間的順序:
  3)左右両側の脚の動きのタイミング:
◆昆虫の歩行(文献からの要点整理)
  1)ゆっくりとした速度の場合:
 2)中間の速度の場合:
◆今回の動画スロー再生による特性抽出結果の自己採点
 1)3脚歩行の抽出に成功:
 2)メタクロナルパターンは見抜けず:
 3)なぜ見抜けなかったか:
 4)採点結果:
◆動物生理学と私
◆次回予告
◆謝 辞
◆引用文献


スローモーション変換前の動画を見る

まずは、スローモーション変換前の動画(動画1)をご覧ください。



動画1 ムカシトンボ Epiophlebia superstes の第12齢(終齢の2つ前の齢:F-2齢)幼虫の歩行運動。https://youtu.be/aHD3b1OonCA

動画1からは、飯田さんが用意した白い底の容器の水中で、活発に6本の脚を動かして移動しようとしている様子がわかります。

ただし、底が滑らかなプラスチックであるため、つま先が滑って、ほんのわずかしか前に進めません。

そのお蔭で、撮影者から見れば、ヤゴの水中での脚や胴体の動きを読み解くには打って付けのシチュエーションとなりました。

その一つとして、歩きながらわずかに左にカーブするように進んでいる様子が見てとれます。


スローモーション動画を見る

それでは、動画1スローモーション変換(2分の1倍速)した動画2を見てみましょう。


動画2 ムカシトンボ Epiophlebia superstes の第12齢(F-2齢)幼虫の歩行運動(2分の1倍速)。 (動画1をスローモーション変換したもの) https://youtu.be/_p7HkbIEtsY


その前に:昆虫の脚の各節の名称

その前に、昆虫の脚の各節の名称を、おさらいしておきます(下のWikimedia Commonsの画像参照)。

昆虫の構造モデル(成虫)(Wikimedia Commons より) 
拝借画像 昆虫の構造モデル(成虫):21. pillow 22. 爪 23. 跗節Wikipedia日本語版では常用漢字の附節を充てている)(ふせつ) 24. 脛節 25. 腿節 26. 転節 29. 基節。
出典:Piotr Jaworski, PioM,17 V 2005r., POLAND/Poznań [CC BY-SA 2.0], from Wikimedia Commons


歩行の際の脚の基本的な運び方

スローモーションの動画2から、まずは、ムカシトンボ幼虫(終齢の2つ前の齢:F-2齢)が歩行運動をする際の、一つの脚の基本的な動かし方に注目してみました。

※ 以下、文体は「である体」になります。

1)前脚の歩行時の動き:
前脚の歩行時の動きに注目すると、まず、つま先を浮かせながら、腿節と脛節の角度が90度~120度に開くまで前方に伸ばす。

次につま先を底につけ、腿節と脛節の角度を狭めるように曲げながら、底面を手繰るように引く(つま先は体軸に沿って後方に向って移動する;底面が滑らなければ、体は前方に引き寄せられる;動画では底面が滑るため、あまり体は前進しない)。

これにより、最終的に腿節と脛節の角度は約20度まで折れ曲がる。

この引き寄せの動きにより、体軸に沿って、前脚の脛節の長さに跗節の長さの半分ほどを足した長さくらいの距離を、つま先が前から後に移動する。

言い換えれば、ほぼ同長の距離の前方への体の移動の一翼をこの脚の動きが担っている

2)後脚の歩行時の動き:
後脚の場合、まず、つま先を浮かせながら、腿節と脛節の角度が約40度に折れるまで曲げることでつま先を前方に移動する。

これにより、つま先は体軸に沿って基節から腿節長の半分の長さだけ後ろの位置に達するまで、前に移動する。

この後、つま先を底面につきながら、腿節と脛節の角度を拡げながら後脚を後方に伸ばし、その角度は最大で約140度くらいになる。

この後方に伸びきった時点で、つま先は体軸に沿って腿節を1.5倍ほど後方に延長させた位置にまで下がっている。

つまり腿節とほぼ同長の距離の、体の移動の一翼をこの脚の動きが担っている。

3)中脚の歩行時の動き:
中脚の場合、まず、つま先を浮かせながら、腿節と脛節の角度を最終的に約80度まで開き、これにより、つま先は腿節の付け根(基節、転節)の横あたりまで前方に移動する。

そして、つま先を地面に下ろすと、今度はつま先で底面を後方に押しやるように動かす。

この脚の後方への送りの結果、腿節と脛節の角度じは約50度に狭まる。

この後方に押しやる脚の動きにより、体軸に沿って、中脚の腿節の長さとほぼ等長の距離だけ、つま先が前から後に移動する。


脚を動かす順序

歩行において、脚を動かす順序は重要である。

ヒトや鳥類では二足歩行なので、左右交互に動かすか、左右同時にジャンプするかである。

左右に2本以上ずつ脚がある場合は、左右および前後の脚の動きの組み合わせは、より複雑になる。

3対の脚を持つ、昆虫の場合はどうであろうか?

今回の記事の末尾で紹介する Ritzmann and Zill (2013) の論文の一節には、それについての最近の知見が簡潔にまとめられているが、それを先に紹介したのでは面白くない。

なぜなら、自然探究の醍醐味は、自然現象を読み解く中で、その合理性、精緻さ、さらにはヒトとくらべてのもどかしさなどを、自らが感じ取り、因果関係に思いをめぐらせるきっかけを得るところにあるからだ。

というわけで、以下の私の動画解析は、Ritzmann and Zill (2013) を含む、昆虫の歩行関連文献を閲覧する以前に行ったものである。

前置きが長くなったが、今回撮影した動画のスローモーションから、脚を動かす順序を読み解くことにする。

1)今回の動画撮影中の歩行のバランスの崩れ:
今回撮影した動画では、(左後脚で数えて)最初の2蹴りにおいては、左右の後脚が同時に、少し遅れて左右の中脚も同時に同じ方向に動いている。

それ以降、最後までの3~6蹴り目においては、後脚も中脚も左右交互に前後の動きをする歩行動作となっている。

この3~6蹴り目の脚の運びは、その前よりも繰りかえしのスピードが若干アップし、6本の脚が整然とした動きを繰り返しているように見える。

逆に言えば、1~2蹴り目における6本の脚の動きの協調は不明瞭であり、いささかバランスが崩れた印象を与える。

以下の記述では、バランスよく同じ動作を繰り返している、3~6蹴り目における歩行動作について、その特性の抽出を試みる。

2)片側の3つの脚における動きの時間的順序:
片側の3つの脚における、動きの時間的順序に着目すると、前脚と後脚がほぼ同時に前に出て、ほぼ同時に後ろに蹴る。

若干、前脚のほうが後脚よりもタイミングが早いこともある。

中脚、は前脚と後脚のコンビよりも遅れて前に出る。
中脚は、後ろに蹴る際も同様に、前脚と後脚のコンビよりも遅れる。

3)左右両側の脚の動きのタイミング:
中脚の動きに着目すると、中脚は反対側の前脚と後脚のコンビとほぼ同時に前に出て、ほぼ同時に後ろに蹴る。

そして、前・中・後のそれぞれの脚のいずれも、(1~2蹴り目の中脚・後脚のような)左右対称ではなく、左右交互に前後に動いている。

即ち、体の左右から必ず少なくとも1本加わった三脚の2セットが、正確に半サイクルの時間間隔を置いて、交互に体を前に進める。

その結果、ペンギンなどの二足歩行で見られる体の左右の傾きや揺れは、このヤゴの歩行では大幅に軽減される。

繰り返しになるが、最初の2蹴り目まででは、上記の左右の脚の分業が乱れていたということである。

以上が、他者の論文内容などの先入観無しに映像から読み解いた、ムカシトンボ幼虫の歩行の特性である。

これを、動物生理学の最近の研究論文(Ritzmann and Zill, 2013)の記述(以下に抜粋)と対比して、自己採点することにする。


昆虫の歩行(文献からの要点整理)

Ritzmann and Zill (2013)は、昆虫の歩行に伴う基本的な脚の動きを総括している。

以下、主にそれに依拠して要点を整理しておく。

1)ゆっくりとした速度の場合:
昆虫(すべて6本脚)の歩行のうち、ゆっくりとした速度では、脚はいずれか一方の側で、後脚から中脚に、そして前脚に向かって動いているメタクロナルパターンに従う(Ritzmann and Zill 2013; Hughes 1952; Wilson 1966)。

ここで、メタクロナルとは、原生動物における繊毛運動において一定の位相差が隣接する繊毛の間に維持され、繊毛の打ち振りが波のように伝わる状態を指す(Narematsu et al. 2015)。

Ritzmann and Zill (2013)によれば、各脚の動きには二つの段階がある。

跗節が地面にあり、動物が前方に押し出されるときをスタンス段階という。

跗節が空気中を前方に動かされるときをスイング段階という。

歩行の際には、各脚はそれぞれスタンス段階とスイング段階の交代を繰り返す。

2)中間の速度の場合:
Ritzmann and Zill (2013)によれば、中間の速度では、足のスタンス段階の持続時間が短くなるにつれて、脚の動きのパターンはシフトする(これは、滑走調整と呼ばれる:Wendler 1966; Cruse 1990)。

同時に複数の脚を持ち上げることも生ずる(例えば、4脚歩行、 Grabowskaら、2012; Wosnitzaら、2013)。

3) より高速な場合
Ritzmann and Zill (2013)によれば、より高速では、メタクロナルパターンの修正は3脚歩行につながる。

ここでは、動物の片側の前側および後側の脚は、反対側の中央の脚を含むユニットとして移動する。

この3脚は、残りの脚で構成された3脚との間で、スイングとスタンスを交互に切り替える。

3脚歩行はとても安定している。なぜなら、ほとんどの速度で動物の重心が支持基盤内にとどまるため、それが転倒しないからである。


今回の動画スロー再生による特性抽出結果の自己採点

1)3脚歩行の抽出に成功:
Ritzmann and Zill (2013)による、高速歩行時の3脚歩行については、今回の動画解析で、その存在を抽出することができた。

2)メタクロナルパターンは見抜けず:
しかし、Ritzmann and Zill (2013)による、ゆっくりとした歩行の場合のメタクロナルパターンという観点は、今回の動画解析からは捻り出せなかった。

そう言われてみれば、確かに、今回のムカシトンボ幼虫の動画でも、同側の後脚と前脚が同時に前後に動くパターンが少しずれる場合は、前脚が後脚よりも先に動いている。

これは言い換えれば、「後脚→中脚→前脚」の順に動かすメタクロナルパターンが存在し、歩行速度が上がって3脚歩行にシフトする途中および完了の二つの段階の両方が動画に収録されていた、と解釈することができる。

3)なぜ見抜けなかったか:
予備知識なしに、今回の動画を閲覧するだけで、メタクロナルパターンと3脚歩行の両タイプの存在と、互いの移行を抽出することができる観察者がいたとしたら、それは鋭い観察眼の所有者を越えた天才的な能力の持ち主に違いない。

負け惜しみに聞こえるかもしれないが、昆虫の歩行動作のパターン(すなわちメタクロナルパターンと3脚歩行)を概念化するまでには、多くの事例の観察に基づき、それらを相互比較することにより、共通性を抽出するという帰納的な一般化のプロセスが不可欠であったと思われる。

この一般化された歩行パターンを裏付ける神経支配のメカニズムが解明されていくことで、その神経支配から演繹的に予測される現象として、メタクロナルな脚の動きが導かれたときに、自然観察から帰納された規則が、科学的に裏付けられた知識へと昇華する。

4)採点結果:
というわけで、今回の動画の読み解きは、3脚歩行の存在を指摘できたところまではよいが、メタクロナルパターンの存在に気付くことができなかった点で、合格点には及ばず、100点満点で50点の自己採点としておく。

実は、正直なところ、3脚歩行については、私が北海道大学理学部の動物学専攻学生であったときに動物生理学の講義で玉重三男教授から学んだ遠い記憶を持っている。

また、メタクロナルパターンについても、その用語は使われなかったが、同じ講義でムカデやゲジの歩行のパターンとして言及されていたように思う。

にもかかわらず、「本当に3脚歩行をしているのか?」、「もっと違う脚の運びもあるのではないか?」という思いが、動画の読み解きの前に胸中にあったことから、先入観を排除して、見た通りの結果を示したいと考えたのである。

言い訳はこのくらいにしておこう。


動物生理学と私

今回の件に関連して、私が動物学専攻を志した動機は、大学の教養部から学部・学科移行のための希望調書を提出する前に、理学部を訪れ、玉重教授を訪問して動物生理学の未来の話に強い魅力を感じたからであることを付記しておく。

動物学科(正式には生物学科動物学専攻)に移行し、2年半の学びを経て私が大学院の指導教官として選んだのは坂上昭一助教授(当時)であった。

それはなぜなのかについては、いずれこのブログに書きたいと思う。


次回予告

次回記事では、ムカシトンボと同日・同地点で飯田さんによって採集された、アサヒナカワトンボ幼虫の歩行動作について取り上げる予定です。


謝 辞
現地に案内して下さり、採集品の撮影を許可された飯田貢さんに謝意を表したいと思います。


引用文献

Cruse (1990) Ritzmann and Zill (2013)から間接引用。

Grabowska et al. (2012) Ritzmann and Zill (2013)から間接引用。

Hughes (1952) Ritzmann and Zill (2013)から間接引用。

Narematsu N, Quek R, Chiam K-H, and Iwadate Y, (2015): Ciliary metachronal wave propagation on the compliant surface of Paramecium cells. Cytoskeleton 72, 633-646.

Ritzmann R and Zill SN (2013) Neuroethology of Insect Walking. Scholarpedia, 8(9):30879.

Wendler (1966) Ritzmann and Zill (2013)から間接引用。

Wilson (1966) Ritzmann and Zill (2013)から間接引用。

Wosnitza et al. (2013) Ritzmann and Zill (2013)から間接引用。



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2018-11-01 (Thu)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征*の2日目は、地元の昆虫研究家、飯田貢さんらのご案内のもと、1日目とは方面の異なる地域の4カ所を順に訪れ、南国のトンボ、ベニトンボを含む多様な虫達との出会いを経験することができました。

(* この四国でのトンボ探訪記は、シリーズ物として、これまでに16編の記事にしています[記事一覧はこちら])。

第17報の今回は、この日3番目の訪問地である、低山地の溜池でベニトンボとともに見られたマユタテアカネ Sympetrum eroticum (Selys, 1883) 写真1)とヤマトシリアゲ Panorpa japonica  (Thunberg,1784) 写真7)について取り上げます。

マユタテアカネ♂ 
写真1(再掲) マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂ (同一個体)(写真はクリックで拡大します)


第三の訪問地:低山地の溜池

写真2が、ベニトンボ、マユタテアカネを観察したその溜池です。

広葉樹主体の森林に囲まれ、静かなたたずまいをしていました。

ベニトンボが生息する溜池 
写真2 ベニトンボ、マユタテアカネが見られた溜池

溜池の堤体の土手(写真2、左下)には雑草が生い茂っており、多くのベニトンボ成虫(羽化後間もない個体から十分成熟した個体までの♂♀)が滞在していました(前々回記事参照)。

写真2の堤体に沿って目を右方向に転じると、ゆるやかな土砂の斜面があり、今回のマユタテアカネは、その土砂が作り出した浅い水辺で活動していました(写真3)。

ベニトンボ、マユタテアカネの見られた溜池 
写真3 マユタテアカネの活動が見られた溜池の一角

写真3の左の建造物のコンクリート円柱は、前回記事で報告したベニトンボの羽化殻が取り付いていた場所です。

マユタテアカネは、コンクリート堤体と土砂岸の境界部に注ぐ細流(観察当日は流量なし)の「河口部」で見られました。

写真4,5は、その浅瀬の水際で連結打水産卵をしているマユタテアカネのカップルです。‏‎(時刻:11:49:12~11:49:50)

マユタテアカネ連結産卵 
写真4 マユタテアカネ Sympetrum eroticum 連結産卵

マユタテアカネ連結産卵 
写真5 マユタテアカネ Sympetrum eroticum 連結産卵 (同一カップル)

ひたひたに水につかった砂礫の水面をリ、ズミカルに、繰りかえし打水していました。

マユタテアカネの産卵は、当ブログ初登場となりました。

岸沿いに少し移動すると、単独♂の なわばり占有も見られました(写真6,1再掲)。‏‎(時刻:11:51:04‏‎~11:51:40)

マユタテアカネ♂ 
写真6 マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂ (別個体)

写真6写真1(再掲)とほぼ同じ態勢ですが、一瞬、頭部を少し上向きにしたシーンです。

マユタテアカネ♂ 
写真1(再掲) マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂ (同一個体)

マユタテアカネの単独の成熟♂の静止写真は、これまでも何度か、当ブログに登場しています(こちらに関連記事一覧)。

以上で、この溜池で見たトンボについての紹介は全て終わりました。

以下は付け足しになりますが、実は、これが溜池付近で最初に見かけた昆虫でした。


ヤマトシリアゲ、これもインパクトあり

この池への入り口近くの路肩に駐車して、踏み分け道を登りかけた時に出迎えてくれたのは、トンボではなく、シリアゲムシ目(長翅目)の昆虫でした(写真7)。

ヤマトシリアゲ 
写真7 ヤマトシリアゲ Panorpa japonica

※帰宅後ネット上の、Tsukijiさんの「むしなび」Kawabeさんの「昆虫エクスプローラ」、ほかのサイトを参考にして検討した結果、写真7の昆虫は、ヤマトシリアゲ Panorpa japonica と同定できました。

翅の模様の独特なパターンが判定の決め手となりました。

腹部の黄褐色から赤褐色と黒色の横縞模様と、鋭く尖った腹先はハチ目の昆虫と紛らわしいほどです。

腹部が背方に反り気味なのも、近づく動物に殺気を感じさせるのではないでしょうか。

このあたり、構想中の、擬態をテーマにした記事の中で再度取り上げたいと思います。

今回の記事を以て、2日目の第三の訪問地での観察報告は全て終了しました。

本シリーズの次回記事では、2日目の最後、第四の訪問地で見た昆虫達を取り上げる予定です。


謝 辞
現地に案内して下さった飯田貢さんに謝意を表したいと思います。


引用文献:

Takuro Tsukiji:むしなび:「シリアゲムシ目」
Retrieved on 30 October 2018.

Toru Kawabe:昆虫エクスプローラ:「虫の写真図鑑 Cyber昆虫図鑑 シリアゲムシ目(長翅目)[シリアゲムシ図鑑]」
Retrieved on 30 October 2018.


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2018-10-30 (Tue)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征*の2日目は、地元の昆虫研究家、飯田貢さんらのご案内のもと、1日目とは方面の異なる地域の4カ所を順に訪れ、南国のトンボ、ベニトンボ Trithemis aurora (Burmeister, 1839) を含む多様な虫達との出会いを経験することができました。

(* この四国でのトンボ探訪記は、シリーズ物として、これまでに15編の記事にしています[記事一覧はこちら])。

第16報の今回は、第15報「ベニトンボとの再会」(成虫編)に引き続き、低山地の溜池(写真2)で見た、ベニトンボ写真1)の羽化殻について取り上げます。

ベニトンボ♂  
写真1 ベニトンボ Trithemis aurora  前回記事から再掲)(写真はクリックで拡大します)


目 次:
 ◆第三の訪問地:低山地の溜池
 ◆羽化殻発見場所の状況
 ◆飯田さんが観察していたのがベニトンボ羽化殻
 ◆ほかにもいくつかの羽化殻が
 ◆ボルダリング選手も顔負けの終齢幼虫の登攀術
 ◆ベニトンボ終齢幼虫の登攀技術とその進化プロセス
 ◆幼虫の脱殻の強度も驚異的
 ◆昆虫のクチクラの洗練された層構造
 ◆羽化殻写真から種の同定を試みる
 ◆調査対象としての羽化殻の価値
 ◆謝辞
 ◆引用文献


第三の訪問地:低山地の溜池

写真2が、ベニトンボの成虫♂♀そして羽化殻を観察することができた、この日3番目の訪問地である、低山地の溜池です。

ベニトンボが生息する溜池 
写真2 ベニトンボが生息する低山地の溜池 前回記事から再掲)

溜池の堤体の土手(写真2、左下)は雑草が生い茂っており、多くのベニトンボ成虫(羽化後間もない個体から十分成熟した個体までの♂♀)が滞在していました(前回記事参照)。


羽化殻発見場所の状況

写真2の堤体に沿って目を右方向に転じると、ゆるやかな土砂の斜面があり、その水辺には高床式の建造物(監視塔?)がありました。

その建造物を支える数本の太いコンクリート円柱の一部は浅い水面から立ち上がっていて(写真3)、その表面は若干風化してザラザラと砂礫が露出しています。

ベニトンボの羽化殻が残されていたコンクリート柱 
写真3 ベニトンボの羽化殻が残されていたコンクリート柱(山本桂子さん撮影)

その円柱面と向き合う位置にたたずみ、飯田さんが、じっと何かを観察しています。

私も、そーっと近づきます。

飯田さんが円柱面の一カ所を指さして、私に目くばせしました。


飯田さんが観察していたのがベニトンボ羽化殻

指さす先には、トンボ科に属する種の羽化殻が残されていました(写真4)。

ベニトンボ羽化殻 
写真4 ベニトンボ Trithemis aurora 羽化殻

「これ、ひょっとして、ベニトンボ?」と、私。

「そうなんですよ。ここで生まれて育つベニトンボが間違いなく増えている証拠なので、注目していました。」と、飯田さんの明快な答え。

私は、成虫はともかく、羽化殻まで観察できるとは予想もしていませんでしたので、ちょっとした感激を覚えました。

このような機会を用意してくれた飯田さんに感謝です。

写真3には、その羽化殻を顕微鏡モードで狙っている私のセカンドカメラ(TG-5)が写っています。

写真3からは、その羽化殻の取りついている位置が、水面上約1m程度であることが見てとれます。


ほかにもいくつかの羽化殻が

さて、他にも羽化殻はないかと、私も蟹歩きをしながら、円柱の表面を眼でスキャンしました。

その結果、労せずして、次々と別の羽化殻が見つかりました(写真5、6、)。

ベニトンボ羽化殻 
写真5 ベニトンボ Trithemis aurora 羽化殻 (別個体)

下の写真6の場合、1本隣の円柱も写っています。

ベニトンボ羽化殻 
写真6 ベニトンボ Trithemis aurora 羽化殻 (更に別個体)

写真7は、また別の羽化殻を真横から撮ったものです。

ベニトンボ羽化殻 
写真7 ベニトンボ Trithemis aurora 羽化殻 (更に別個体)


ボルダリング選手も顔負けの終齢幼虫の登攀術

さて、終齢幼虫は、鉛直の壁面にどのように取りつき、羽化前後の体重を支えるのでしょうか?

また、羽化の途中に多少の風や雨が振りかかっても脱落しないようにするために、どのような工夫をしているでしょうか?

人間がコンクリートダムの壁面を、これらの羽化殻と同じような姿勢で昇り降りしたり、しがみついたまま休息している動画をSNSにアップしたとしたら、あっというまに百万回を超える閲覧があるのではないでしょうか。

新オリンピック種目であるスポーツクライミングの一競技、ボルダリングでは、選手が、鉛直あるいはオーバーハングした壁面を、そこから突き出た石を模した突起に指2本程度をかけて全体重を支え、さらにスイングまでしながら登っていきます。

この競技をテレビ放映などで見ると、人間の身体能力の限界の広さに驚かされます。

ベニトンボの終齢幼虫は、ボルダリングの場合のように選ばれた選手ではなく、原則として全員がこの登攀術を身に着け、やりぬくのですから、更に驚かされます。

横道にそれた話が長くなりました。


ベニトンボ終齢幼虫の登攀技術とその進化プロセス

それでは、写真4~7の羽化殻の壁面への取り付き方をチェックしてみましょう。

写真4,6,7
・両前脚、両中脚の爪は、爪先が下向き(重力方向)になるように、コンクリートのザラザラ砂粒にかけている。
・両後脚の爪は、下向き上向き(重力と逆方向)になるように、砂粒にかけている。
・このようにして、6本の脚で上下から壁をグリップするかたちで、脱落を防止しつつ、体重を支えている。

写真5:
・両前脚、両中脚は、円柱壁面に繁茂し、枯死した後も壁面に張りついたままの植物繊維に、爪をからめている。
・両後脚は、(写真4,6,7同様に)上向きに爪をたてていて、前脚中脚と連携してグリップし、脱落を防止しつつ、体重を支えている。

このように、誰にも教わることなく、ぬかりのないぶら下がり方を具現化し、幼虫期からの脱皮をやり遂げていることがわかります。

ただし、何十・何百という個体の羽化機会の中には、羽化中に地面や水面に落下し、翅は胴体が変形したり、運が悪ければ命を落とすものもあるはずです。

このようなことが繰り返される中で、より確実に羽化を完遂できる登攀術をプロデュースしている遺伝子群が個体群の中で比率を高め、現在のような高い能力を鍛造してきたといえるでしょう。


幼虫の脱殻の強度も驚異的

羽化あるいは脱皮する前の幼虫では、外骨格の外層をなすクチクラは真皮で裏打ちされ、更に体節間は鎹(かすがい)のように筋肉によってつなぎ留められています。

したがって、脱皮前の外骨格そのものはもちろん、脚の各節の間にある関節も、爪と跗節の間の関節も、重力に起因する張力によって破断される危険性は、脱殻にくらべて多少なりとも低下しているはずです。

しかし、羽化後に殻となってしまったほうの関節は、薄いクチクラ1枚でつながっている状態であるにもかかわらず、羽化前とほぼ同じ体重の新成虫を支えているのですから、このクチクラの構造が持つ、引っ張り力への耐性の強さには驚嘆せざるをえません。


昆虫のクチクラの洗練された層構造

昆虫の外骨格の表面寄りの硬い層は、クチクラと呼ばれます。

脱皮とは、このクチクラの部分を、その中に出来上がった、次の齢期の幼虫または成虫が、脱ぎ捨てることです。

そのあたのより詳細な説明を、島田・普後(2014)から抜粋して、以下に紹介します(引用文中のブラケットで括った部分は引用者による注記)(拝借画像1も参照)。

「昆虫は外骨格をもつ動物なので、エビやカニと同様に成長に伴って脱皮する。昆虫の皮膚は、体腔と皮膚を隔てる基底膜の外側にある真皮細胞と、その外側の硬いクチクラ層から成っている。[中略]幼虫がある一定の大きさになると、真皮細胞はクチクラ層の内側に新しいクチクラを作り、外側の古いクチクラを脱ぎ捨てる」

クチクラを含めた、昆虫の外骨格の層状構造について解説した部分を、日本大百科全書(ニッポニカ):「昆虫」:「(4)外骨格」から、以下に抜粋しておきます(拝借画像1も参照)。

「昆虫の体は、外骨格とよばれるじょうぶな硬い皮膚に覆われ、それは外側の表皮(クチクラ)、真皮、内側の薄い基底膜の3層からなっている。[中略]表皮[クチクラ]の外層は4マイクロメートル以下の上クチクラであって、セメント、ワックス、ポリフェノール、クチクリンの4層からなり、この下に薄層が多数重なって構成された外クチクラ内クチクラの2層がある。クチクラはおもに窒素を含む多糖類であるキチン質とタンパク質からなっており[中略]。この物質[スクレロチン]はきわめて堅く[中略]。[中略]脱皮のときに内クチクラ層を溶かす脱皮液も真皮から分泌する。」(こちら(外部リンク)で原文および関連画像が閲覧可能)。

※ ほぼ同様の内容を、より詳しく説明した英文サイト(詳細な図入り)はこちら(外部リンク:Anonymous: Insectsexplained: Insect Exoskelton)。

下の図(拝借画像1)は、昆虫の外皮の構造(断面)の模式図です。

Section of insect integument
拝借画像1 昆虫の外皮の断面図 Section of insect integument (By Xvazquez (File:Cuticula.svg on wikipedia) [CC BY-SA 3.0 ], via Wikimedia Commons)
A: Cuticle and epidermis クチクラと真皮; 
B: Detail of the epicuticle 上クチクラの詳細.
  1: Epicuticle 上クチクラ  
   1a: Cement セメント
   1b: Wax layer ワックス層
   1c: Outer epicuticle 上クチクラ外層  
   1d: Inner epicuticle 上クチクラ内層
   2+3: Procuticle 原クチクラ 
    2: Exocuticle 外クチクラ 
    3: Endocuticle 内クチクラ  
  4: Epidermal epithelium 真皮の上皮
  5: Basement membrane 基底膜
  6: Epidermal cell 真皮細胞
   6a: Pore Canal 孔管
  7: Glandular cell 腺細胞
  8: Tricogen cell 生毛細胞
  9: Tormogen cell 窩生細胞
 10: Nerve ending 神経終端
 11: Sensory hair (sensillum) 感覚毛
 12: Seta 剛毛
13: Glandular pore 腺孔
(凡例の日本語訳は一部仮訳を含みます)

以上の解説からわかるように、昆虫のクチクラは、薄いけれど強靭な4層の上クチクラとその下のより厚い外クチクラと内クチクラの両層から成り立っており、脱ぎ捨てられた殻は内クチクラ以外のすべての層をそのまま温存していることになります。

この層状構造と、それを構成するキチンやスクレロチンなどの物質が、ベニトンボの羽化殻を含め、昆虫達のクチクラの強靭さを支えているということになります。

このクチクラの構造は、系統発生においてトンボ目が出現する以前にすでに獲得されていたはずですので、今回の記事で取り上げたベニトンボの羽化殻の強靭さは、この「よき伝統」を受け継ぎ、その恩恵に浴しているといえるでしょう。


羽化殻写真から種の同定を試みる

さて、今回取り上げた羽化殻は、ベニトンボのものであるむね、現地で飯田さんにより確認済みでしたが、ブログ記事作成に際して、改めて私自身による同定も試みました。

参考にしたのは、杉村ほか(1999)の『原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』です。

その結果、以下の点から、ベニトンボの羽化殻であると再確認できました。
・背棘が腹部第4~9節にある(第3節は不明瞭)。
・背棘の形は、写真7のように腹節後端を越えて鋭く突出する。
・側棘は第8,9節にあるが微小である。
・複眼はやや大きい(チョウトンボ属のように小さくない)。

ただし、写真を拡大すると粒子が粗くなり、細部の判別がつかなくなることもあり、羽化殻を極少数採取して持ち帰っていれば、同定はより容易かつ確実であったはずです(言わずもがなですが)。


調査対象としての羽化殻の価値

以下、一般論としての、羽化殻の調査対象としての価値について触れておきます。

羽化殻は地味な存在ですが、そこに卵が産みつけられ、幼虫が最後まで育つことができたことの証となります。

「成虫がいた・いない」のデータ、「面積(or 岸沿いの単位距離)の成虫個体数」データも、それなりに貴重ですが、たとえそこで産卵したとしても幼虫が生き延びて羽化するとは限りません。

つまり、成虫だけでは、その観察された特定の水域を生息地としている完全な証拠とはなりません。
そこが、(データを容易に得ることができる)成虫の活動個体数調査の弱点です。

羽化殻は、写真の対象としては美しさの点で成虫には及びませんが、生態研究や生物多様性保全につながる貴重な観察対象として、今後もっと注目されてしかるべきでしょう。

ただし、成虫とちがって、写真だけからは種の同定が困難な場合が多いので(上述のとおり)、まずは現場写真を撮影した上で、2,3個の羽化殻を採集してプラスチックケース等に収容して持ち帰り、帰宅後、虫メガネ(もしあれば実体顕微鏡)で観察しながら幼虫図鑑と比較することが、正確な同定のためには必要になります。

羽化殻ですので、成虫や幼虫を採集して持ち帰るのとは異なり、個体群に悪影響を及ぼしませんので、お薦めの生息状況調査方法といえます。

ただし、調査の際の湿地の踏み荒らしが景観や生物の生息条件に悪影響を与えないよう、特段の注意を払いたいところです。

さて、本シリーズの次回記事では、同じ場所で見られたマユタテアカネとシリアゲムシについて取り上げる予定です。


謝 辞
現地に案内して下さった上にベニトンボの羽化状況について解説された飯田貢さん、有用な写真を提供された山本桂子さんに謝意を表したいと思います。


引用文献

Anonymous: Insectsexplained: Insect Exoskelton.
Retrieved on 29 October 2018.

日本大百科全書(ニッポニカ):「昆虫」:「(4)外骨格」
Retrieved on 29 October 2018.

島田 順・普後 一 2014 脱皮と変態の仕組み。科学なんでも相談室での回答。http://www2.science.med.tuat.ac.jp/home/questions/answers/no21%E3%80%90zhiwen%E3%80%91kunchongnotuopitobiantai

杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司 (1999) 『原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』。北海道大学図書刊行会。


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2018-10-19 (Fri)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征*の2日目は、地元の昆虫研究家、飯田貢さんらのご案内のもと、1日目とは方面の異なる地域の4カ所を順に訪れ、南国のトンボ、ベニトンボを含む多様な虫達との出会いを経験することができました。

(* この四国でのトンボ探訪記は、シリーズ物として、これまでに12編の記事にしています[記事一覧はこちら])。

第13報の今回は、この日第二の訪問地である沢地の林縁草地(写真2)で見た、マユタテアカネ Sympetrum eroticum (Selys, 1883) 写真1)、そしてアカスジキンカメムシ Poecilocoris lewisi (Distant, 1883) を取り上げます。

マユタテアカネ♂、林野にて 
写真1 マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂、林野にて(写真はクリックで拡大します)


目 次:
 ◆第二の訪問地:沢地の林縁草地
 ◆葉上にとまるマユタテアカネ
 ◆アカスジキンカメムシの1齢幼虫
 ◆アカスジキンカメムシの5齢幼虫
 ◆アカスジキンカメムシの後期齢幼虫の群れ
 ◆アカスジキンカメムシの成虫(参考画像)
 ◆謝 辞
 ◆引用文献


第二の訪問地:沢地の林縁草地

写真2は、2日目の第二の訪問地の景観です。

マユタテアカネ、ナツアカネのいた沢地の林縁草地 
写真2 沢地の林縁草地(第二の訪問地)

この訪問地は沢地の片斜面がやや平坦になった場所で、向い及び背後の斜面は鬱蒼とした樹林(主に広葉樹)になっていました。

観察ポイントは、その平坦地の一角で、セイタカアワダチソウなどの草や幼木が生い茂っているところ。

その林縁部の低木の枝葉や、草の葉先などに虫たちの姿を求めました。

この訪問地には、午前10時少し前に到着して、飯田さんら地元組のお三方と共に、観察を開始しました。

そこで、トンボよりも先に私の目に入った虫は、クモ類カメムシ類でした。

それらの虫たちは、北国での生活が長かった私にとって、新鮮かつ愉快なものでした。

このブログはトンボがメインですので、カメムシ類は今回記事の後半で取り上げ、クモ類は次回記事で扱うことにし、まずは、そこで観察されたトンボについて、ざっと紹介します。


葉上にとまるマユタテアカネ

最初に見つけて撮影したトンボは、マユタテアカネ♂です(写真3)。(時刻、10:16:44)

マユタテアカネ♂、林野にて 
写真3 マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂、林野にて

近くに池はありませんので、摂食と休息のためにこの沢地の林野に滞在しているものでしょう。

色彩からは十分成熟していますので、すでに生殖活動(交尾や連結産卵)を経験していると思われます。

写真1(下に再掲)も同じ個体です。(時刻、10:18:14)

マユタテアカネ♂、林野にて 
写真1(再掲) マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂、林野にて (同一個体)

顔面が少し見える方向に私が回り込んで撮影しましたので、マユタテアカネの名前のもとになった、太眉のように見える黒い二つの斑紋が確認できます。

写真1は、写真3の1分30秒後に撮影したものですが、いずれも両前脚を前に差し伸べたような姿勢をしています(理由不明)。

このほかにも、このマユタテアカネ♂のいた場所のすぐ近くで、もう1種、アカネ属のトンボ(たぶん、アキアカネかナツアカネの♂)を見かけましたが、種の判別に使える写真が得られませんでした。


アカスジキンカメムシの1齢幼虫

これらアカネ属のトンボを見つけるよりも前の10時04分過ぎのことです。

林縁の広葉樹低木の葉を1枚ずつめくって何かを探していた飯田さんが、「これ、面白いでしょう?」と小さく丸い虫達の群れを指さしました(写真4)。

アカスジキンカメムシ1齢幼虫
写真4 アカスジキンカメムシ Poecilocoris lewisi 1齢幼虫

ハローウィーのパンプキン・ランタンのように、オレンジ色の顔に大きな黒褐色の口が開き、一つ眼に大きなゴーグルをかぶせたけたような、ユーモラスな模様をしています。

しかも、1ダースもの個体が集団をなしています。

想像もしていなかった奇抜なデザインの虫に眼が吸い付けられ、思考が一瞬止まる私。

飯田さん:「これ、アカスジキンカメムシの1齢幼虫です。」

飯田さんは、そのうちの一部の個体を、持参したプラスチックケースにそーっと収容しました。

自宅に連れて帰り、飼育しながら成長ぶりを観察するとのこと。


アカスジキンカメムシの5齢幼虫

私が別の木の枝の1枚の葉に目をやると、今度は白色と黒褐色で、大口を開けたようなパターンの、大きくて背面から見ると円い形のカメムシが1頭いました(写真5)。

アカスジキンカメムシ、5齢幼虫 
写真5 アカスジキンカメムシ Poecilocoris lewisi 5齢幼虫

「これ、なんだろ?」と私がつぶやくと、飯田さんが「これがアカスジキンカメムシの5齢幼虫ですよ。」と教てくれました。

「え~?」と私。

同じ種の幼虫なのに脱皮して齢が変わっていくと、こんなにも模様や色彩が変わるとは!

トンボの幼虫(ヤゴ)の成長の一般的特性、を無意識に判断基準としていた私には、新鮮な驚きでした。

ちなみに、写真5を昆虫関連のSNSに投稿したところ、ある方から、ワハハと笑っている印象の虫である旨のコメントをいただきました。

コメントをもらう前の時点で、私は髷を結ったお相撲さんの顔を連想していたのですが、たしかに豪放磊落に笑う人の顔にも見えます。

ネット検索すると、「わははカメムシ」という愛称が、すでに複数のネットユーザーによって用いられていることも判明しました。

ただ、豪快に笑っている感がありますので、私が敢えてアカスジキンカメムシ5齢幼虫に愛称をつけるなら、「ガハハムシ」!

※ アカスジキンカメムシ5齢幼虫のこの特徴的な色彩パターンがどのように進化したかについては、新たな記事として次回以降取り上げる予定です。


アカスジキンカメムシの後期齢幼虫の群れ

話を、現地での観察イベントの続きのシーンに戻しましょう。

しばらく後、「こっちにもいますよ~!」と、同行の高橋賢悟さんの声が。

指さす先を見ると、それは低木の葉の裏に、地面方向に背面を向けてとりついた、アカスジキンカメムシの後期齢幼虫の幼虫の小さな群れでした(写真6)。

「年長組」ですね。

アカスジキンカメムシ 4齢 &5齢幼虫
写真6 アカスジキンカメムシ Poecilocoris lewisi 4齢 &5齢幼虫

帰宅後、私がネット検索すると、このカメムシは背面の模様パターンの特徴や色彩で5つの幼虫齢が判別できる(例:青木繁伸さんのサイト)ことがわかりました。

それを参考にしてこの写真を見直すと、左手前の2頭は第5齢(終齢)、右奥の2頭は4齢であることがわかりました。


アカスジキンカメムシの成虫(参考画像)

※ アカスジキンカメムシの成虫は今回見られませんでしたが、Wikimedia Commonsから拝借したKIM Hyun-taeさん撮影による成虫画像を下に掲げます。

Poecilocoris-lewisi
拝借画像 アカスジキンカメムシ Poecilocoris lewisi の成虫 (By Kim, Hyun-tae [CC BY-SA 4.0  (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], via Wikimedia Commons)

アカスジキンカメムシは、5齢から脱皮して成虫になると、いかにもカメムシらしい体形へと変身を遂げ、しかも鮮やかな金属緑色の地色を、これも鮮やかな朱色の隈取りのような模様で飾っています。

蛹のステージを有しない、不完全変態昆虫(トンボも同様)であるにもかかわらず、初齢幼虫から終齢幼虫を経て成虫までの成長発達過程で、この鮮やかな変身ぶりを示すカメムシの仲間には、昆虫少年になりたての小学生と同じような素直な気持ちで、感嘆せざるをえません。

子どもの頃、カメムシの匂いが触った指について、陸生カメムシ類全体を遠ざけてしまった私ですが、そのような体験を経ないまま画像だけで親しんでいたならば、カメムシを研究対象にしていたかもしれません。


謝 辞
現地に案内して下さった上にカメムシについて解説された飯田貢さん、観察対象に注意を喚起してくれた高橋賢悟さん、山本桂子さんに謝意を表したいと思います。



Kim, Hyun-tae [CC BY-SA 4.0  (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], via Wikimedia Commons


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2018-08-19 (Sun)
今年6月上旬に栃木県の農村部の溜池群を訪れ、私とは初対面となるトラフトンボ Epitheca marginata (Selys, 1883) を始め、数種類のトンボを観察することができました。

今回は、その溜池群のトンボについてのシリーズ記事第5報として、成熟に伴う体色変化の各段階の個体が見られた、ショウジョウトンボ Crocothemis servilia (Drury, 1773) をとりあげます(シリーズ記事一覧はこちら)。


目 次
 ◆ショウジョウトンボの見られた池
 ◆ショウジョウトンボ♀の体色変化
 ◆ショウジョウトンボ♂の体色変化
 ◆謝辞
 ◆付記


ショウジョウトンボの見られた池

写真1は、ショウジョウトンボが比較的多く観察された溜池です(シリーズ第2回記事の池と同じ)。

トラフトンボなどが見られた溜池 
写真1 ショウジョウトンボが見られた溜池。(写真はクリックで拡大します) 

このほか、シリーズ初回記事で紹介した池や、更に別の池でもショウジョウトンボが観察できました。


ショウジョウトンボ♀の体色変化

最初に、ショウジョウトンボ♀の体色変化について、色の薄い順に紹介します。

まずは、シリーズ初回記事で紹介した池の岸上の草むらに止まっていた♀個体です(写真2)(観察初日の午後2時21分に撮影)。

ショウジョウトンボ未熟♀ 
写真2 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia 未熟♀

写真2の♀個体は、複眼が乳白色~淡白紫色であることから、羽化後まだ日が浅いことが伺えます。
腹部は基部近くに白味の残る黄褐色で、脚の腿節も黄褐色です。

写真3は、写真1の溜池の岸辺の枯草にとまっていた別の♀です(観察2日目の午前11時09分)。

ショウジョウトンボ未熟♀ 
写真3 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia 未熟♀ (別個体)

写真3の♀個体は、複眼の乳白色味が薄れて淡紫色になっていることから、写真2の♀個体よりも羽化後の日数が経過していることが伺えます。

腹部の白味も消えて、全体に黄褐色を呈しています。

写真4は、写真1の溜池に接する林内の草地の枯草にとまっていた、これまた別の♀個体です(観察初日の午後1時34分)。

ショウジョウトンボ未熟♂ 
写真4 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia (ほぼ成熟)(さらに別個体)

写真4の♀個体は、複眼の色は一層濃くなり、茶色味も加わってきていて、写真3の♀個体よりも明らかに成熟が進んでいることを伺わせます。

それでも、腹部は♂のようには赤化せずに、黄褐色のままです。

脚の色は写真2の♀個体のような淡黄褐色ではなく、濃褐色になっています(写真5写真4と同一個体)。

ショウジョウトンボ未熟♀ 
写真5 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia (ほぼ成熟)(写真4と同一個体)


ショウジョウトンボ♂の体色変化

次は、写真1の溜池に隣接する林内の草地の枯草にとまっていた♂個体です(写真6)(観察初日の午後1時39分)。

ショウジョウトンボ未熟♂ 
写真6 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia 未熟♂

写真6の♂個体は、色だけで判断すると、ほぼ成熟したショウジョウトンボの♀(例えば写真4の♀個体)とよく似ています。

しかし腹端から後方に突き出している突起は♀の尾毛ではなく、♂の尾部付属器です。

それに腹部は♀のそれと比べて横幅が少し狭く、全体にスマートな印象を与えています。

複眼も焦げ茶色に近く、♀よりも「濃い」顔かたちを演出しています。

写真7改は、シリーズ初回記事で紹介した池の岸辺の草にとまり、沖合を眺めていた♂個体です(観察2日目の午前10時21分)。

ショウジョウトンボ♂、中間成熟 
写真7 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia 

写真7の♂個体は、すでに赤化が相当進んだ♂です。

赤化が進んでいるとはいえ、各腹節の正中線沿いや側縁沿いには、白色~黄色の細帯斑あるいは斑点が散在しています。

これはショウジョウトンボ♂の成人社会の中では、「青二才」と見られてもしかたのない、経験の浅さを表出するシンボルになるでしょう。

過去記事「ハッチョウトンボ:(2)成熟に伴う体色変化」に登場したハッチョウトンボの♂の体色変化のプロセスの中でも、同様のステージがありました(同記事中の写真10)。

赤地の中に黄色の市松模様といえば、今年のロシア・ワールドカップサッカー第三位のベルギーのユニフォーム。

来年以降、この「青二才カラー」のショウジョウトンボ♂あるいはハッチョウトンボを見るたびに、小国ながら決勝に勝ち上がったベルギー・サッカーチームを思い出すかもしれません。

さて、♂の体色赤化のゴールは、下の写真8の状態といえるでしょう。

ショウジョウトンボ成熟♂ 
写真8 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia 成熟♂

写真8の♂個体は、シリーズ初回記事で紹介した池の岸の低木の枝にとまり、沖合方向を監視していたことから、♀個体が現れたら交尾を挑む意欲満々なことでしょう(初日の午後2時37分)。

腹部は完全に赤化し、顔面、複眼、それに脚に至るまで、赤色を越えて紅色に近い色に深く染まっています。

この色彩こそ、猩々蜻蛉と名づけられた由縁です(過去記事「ショウジョウトンボ♂」参照)。

次回以降の記事でも、この溜池群で見られた他のトンボの種について、引き続きレポートします。


謝 辞
現地をご案内くださった月井栄三郎さんに、心よりの感謝の意を表します。

付 記:
今回の記事は「初夏の溜池群のトンボたち(5):ショウジョウトンボの体色変化の、写真7を入れ替え、付随する説明文を改訂したものです。それに加えて、「準優勝のクロアチアのユニフォーム」を「第三位のベルギーのユニフォーム」に訂正しています。


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