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2017-08-16 (Wed)
夏目英隆さんに同行しての、昨年7月上旬の他県へのトンボ・トリップの第二、第三の立ち寄り地は、里山地帯の丘陵地の先端付近の林縁部や、その丘陵地を横断する村道沿いの林縁や草地でした。

それら林縁部の草木に静かにとまっていたのは、ノシメトンボ Sympetrum infuscatum (Selys, 1883) です(写真1,2)。

ノシメトンボ♀ 
写真1 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum♀ (写真はクリックで拡大します)。

枯草の折れた茎の先端にとまっていた写真1の♀は、よく見ると、腹部第5,6節あたりが緩いS字状に変形しています。
それだけでなく、翅胸部左側面後方も大きく凹んでいるように見えます。

一方、頭部・脚部には目に見える変形はなく、翅もしっかりしていますので、物にとまったり飛び立ったりする動作や小さな昆虫の捕食にも差支えなさそうです。

この♀が曲がった腹部をコントロールして、うまく交尾姿勢をとれるかどうか不安が残りますが、ここまできたら、なんとか頑張って、たくましく生き抜こうとする意欲を紡ぐDNAを受け継いだ子供たちを残せるよう、応援したい気持ちになります。

つづく第三の訪問地でも、撮影できたトンボは写真2のノシメトンボだけでした。

ノシメトンボ♀ 
写真2 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum ♀、別個体

写真2のノシメトンボ♀は、何不自由ない雰囲気でバランスよく草の穂先にとまっています。

ノシメトンボは、このトンボ・トリップの最終目的地である河川中流部の岸近くでも撮影しています(写真3)。

ノシメトンボ♂ 
写真3 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 

ピントは甘いですが、この時期、この地域のこれらの環境でノシメトンボの新鮮な成虫が目についたことの証として、この写真も掲げておきます。

ノシメトンボは、私の前住地である北海道でも普通種ですので、私がトンボ撮影行で本種に出会っても、一応撮っておこうかという、ちょっと失礼な扱いをすることが多いのですが(例:以前の記事「トンボ王国訪問記(2):ヒメサナエと小さな虫たち」、今回は主役の座をつとめてもらいました。

次回記事は、私にとって初対面のトンボが複数出迎えてくれた、河川中流部が舞台になります。


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2017-08-13 (Sun)
昨年7月上旬、東京在住のトンボ研究家、夏目英隆さんのご案内のもと、他県のトンボ生息地数カ所を見てきました。 

この素晴らしいトンボ・トリップで、いくつかの種と初対面をはたすことができました。
数回の連続記事で、それらの出会いをご紹介したいと思います。 

初回の今回は、最初の立ち寄り地、農地に囲まれた溜め池群およびその周辺の湿地や水田で撮影したトンボたちから、その1です。  

この溜め池群に挟まれた湿地には広いヨシ原が残されていて、池で羽化した均翅亜目のトンボにとっては貴重な休息場所や前生殖期を過ごす場所になっているようです。 

その湿生草原沿いの小径をゆっくりと歩きながらトンボを探すと、いました。 
緑色の胴体と大きく開いた4枚の翅、尾部付属器の形から、アオイトトンボ属の♂であることはすぐ分かります(写真1)。 

コバネアオイトトンボ未熟♂
写真1 コバネアオイトトンボ Lestes japonicus 未熟♂(1) (写真はクリックで拡大) 

夏目さん:「コバネアオイトがいますね。」 
私:「これがコバネアオイトですか。初めて見ました。」  

翅胸部がオレンジ色がかっている(金属緑色がほとんど発色していない)のは未熟なためですが、それも相俟って、コバネアオイトトンボ Lestes japonicus Selys, 1883 のこの個体は私にはとても新鮮な印象を与えてくれました。 

下の写真2は、この溜め池群の周りの小径を更に進んだところで写したコバネアオイトトンボ の別個体です。 

コバネアオイトトンボ未熟♂(2)
写真2 コバネアオイトトンボ Lestes japonicus 未熟♂、別個体。

帰宅後、図鑑等で調べてみると、コバネアオイトトンボの形態的特徴として、「後頭部が淡色であること、縁紋がアオイトトンボに比べて太短い。尾部下付属器が短い。」などが挙げられており、写真のトンボの特徴と一致しました。 

本種は青森から鹿児島までのほとんど全都府県に分布していたが、全国的に個体群の絶滅が起きていて、すでに記録の途絶えている都県もいくつかあるようです(尾園ほか、2012)。 

このような状況から、本種は環境省レッドデータでは絶滅危惧ⅠB類(EN)にランクされています。 

記録のある生息地の環境保全を行うのは勿論、真に研究に必要な場合を除いては採集を自粛することが望まれます。 

現地の話に戻します。 

写真1のコバネアオイトトンボを撮影したポイントから小径を歩み進めると、他のいくつかの種のトンボに加えて、アオイトトンボ Lestes sponsa (Hansemann, 1823) の姿もありました(写真3、4)。 

アオイトトンボ♂(1)
写真3 アオイトトンボ Lestes sponsa  

アオイトトンボ♂(2)
写真4 アオイトトンボ Lestes sponsa ♂、別個体 

写真3、4のアオイトトンボの個体は写真1,2のコバネアオイトトンボの個体よりも翅胸部の金属緑色がしっかり出ていますので、より成熟が進んでいることが伺えます。  

アオイトトンボは北海道に永く住んでいた私にとってもおなじみのトンボですので、このブログではこれまでも今回のように脇役に甘んじることが多いです。 


ですが、ブログ開始当初の記事「アオイトトンボ♂」ではちゃんと主役を務めていました。  

この両過去記事には、アオイトトンボ未熟♀、成熟して白粉を吹いた♂の写真が掲げられていますので、よろしければクリックしてご笑覧ください。  

次回記事では、この溜め池群で撮影したイトトンボ科とモノサシトンボ科のトンボを取り上げます。 

引用文献: 
尾園暁、川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。


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2017-08-04 (Fri)
今年6月前半の東海地方での、グンバイトンボ Platycnemis foliacea Selys, 1886 の観察(前回記事「グンバイトンボのファッション:四国 vs 東海」参照)の折りには、交尾や産卵についてもじっくり観察・撮影することができました。

今回は、そのうち、交尾が完全に成立するまでのプロセスを取り上げます。

それに加えて、交尾の際に合体する♂♀の外部生殖器の構造についても、先人の研究を引用しながら確認していきます。


まずは交尾写真と交尾動画

本論に入ると、細かい話が連続しますので、まずはシンプルに、無事交尾が成立した後の今回の主役カップルの様子を、写真1とYoutubeに私がアップした動画1でご覧ください。

グンバイトンボ、交尾(1) 
写真1 グンバイトンボ Platycnemis foliacea の交尾(写真はクリックで拡大)


動画1(外部リンク)(ただし、筆者自身による作品へのリンク):
グンバイトンボの交尾:生方秀紀撮影:

この動画では、♂は、交尾環を保ったまま、腰を屈伸する動作を繰り返しています。
この動作により、♂の副交尾器(ペニス)は♀の生殖器(膣)の中をピストンのようにスライドされることになります。


ちょっと横道(1):交尾中の♂の腹部前方屈曲動作の機能

このペニスのピストン運動は、♀の膣の最奥部にある交尾嚢、さらにはそれに付随する受精嚢の中にある、以前の交尾で注入された他の♂の精子を掻き出す(あるいは奥に押し込む)機能(精子置換)を持ちます(参考動画、外部リンク:by Rüppell)。

これにより、♂は自らの精子を受精に使われやすくし、直接の子孫をより多く残す可能性を高めることができるというわけです。

参考外部リンク動画
Georg Rüppell: Dragonfly Behaviour: Demoiselle sperm removal and egg fertilization


グンバイトンボの連結ペア発見(ストーリーを最初から)

それでは、主役のカップルが交尾前連結の状態からスタートし、何度か失敗を繰り返し、最後に完全な交尾に至るまでのプロセスを時系列に沿って見ていきます。

晴れた日の午前11時過ぎ、小さな小川のヨシ類の葉にとまるグンバイトンボの連結ペアを発見しました(写真2)。

グンバイトンボ交尾前連結(1) 
写真2 グンバイトンボ Platycnemis foliacea 交尾前連結

私がカメラを構えて近づくと、このペアは連結のまま飛び立って、小川の岸沿いに数十cm離れた別のヨシ類の葉にとまりました。


交尾開始は♂の動きから

そしてそこで、♂は♀の体全体を吊り上げ、これから交尾をする意図を露わにしました(写真3)。

グンバイトンボ交尾の試み(1)
写真3 グンバイトンボ Platycnemis foliacea 交尾の試み(1)

♀は、今のところ大人しく体を真っ直ぐにして、吊り下げられたままです。

次に、♂は更に♀を吊り上げ、腹先を下前方に強くカーブさせ、♀に交尾の態勢をとることを促します(写真4)。

 グンバイトンボ交尾の試み(2)
写真4 グンバイトンボ Platycnemis foliacea 交尾の試み(2)

この段階では、♀も自分から腹部を下前方にカーブさせて、自分の外部生殖器と相手♂の副交尾器とが接近するように「協力」しています。


交尾形成における♀の役割

この♂副交尾器と♀外部生殖器との定位には♀が重要な役割を果たしているようです。

というのも、♂の副交尾器は腹部第2節にあるため、腹部を♂の意思で左右に動かせるとしても、ごく僅かな幅でしかないからです。
その上、定位しようとしている場所はトンボの大きな複眼をもってしても死角となる、頭部から見て後下方になっていますから、♀の腹先を見ながらの腹部の微妙なコントロールはできないでしょう。

それに対して♀は、自分の腹部の先端の微妙な動きを視界の中でしっかりととらえることができます。
ですので、腹部に備わる随意筋をコントロールしながら、腹部先端、とりわけ♀の外部生殖器を♂の副交尾器に定位させる主要な役割を担うことができるはずです(写真5)。

グンバイトンボ交尾の試み(3)
写真5 グンバイトンボ Platycnemis foliacea 交尾の試み(3)

しかし、ことはそう簡単ではないようです。


交尾完成にてこずる

下の写真6では、♀の腹端は♂から見て右側に反れてしまいました。

グンバイトンボ交尾の試み(4)
写真6 グンバイトンボ Platycnemis foliacea 交尾の試み(4)

♂は左後脚をわざわざ持ち上げて、♀の腹部先端のコントロールを補助しようとしているかのようです。

最初の試みは、こうして、うまくいかず、いったんまっすぐな連結の状態に戻りました(写真7)。

グンバイトンボ交尾の試み中断(1)
写真7 グンバイトンボ Platycnemis foliacea 交尾の試み中断(1)

その後、すぐにまた交尾を試みることを再開しました。


ちょっと横道(2):♀の外部生殖器の構造

ここで問題となるのは、均翅亜目♀の複雑な外部生殖器(広義の産卵管)の、交尾の際の取り扱いです。

その中でも、とりわけカーブした鋭い針状の狭義の産卵管(正確には、産卵弁腹片と産卵弁内片の各1対が束になったもの)を、♂の腹部に突き立てて怪我をさせたり、腹部の突起にひっかけてうまく交尾できないなどのことが起きては困ります。

均翅亜目♀の腹部第8,9節にある、広義の産卵管の形態(Tillyard, 1917)については、私の以前の記事「トンボの産卵器の構造:植物組織内産卵用」から、下に再掲しておきます(図1)。

均翅亜目の産卵管(Tillyard 1917) 

図1 均翅亜目♀の広義の産卵管の形態 (drawn by R. J. Tillyard, 1917)  
図のキャプションの訳【補訳】:Synlestes weyersi Selys ♀【ミナミアオイトトンボ科】の産卵器【広義の産卵管】。ap:前方突起【産卵弁腹片】;mp: 中央突起【産卵弁内片】; st: 尖突起;v: 産卵弁【産卵弁側片】。  

上の図は、トンボの体を、頭を上、尾を下にして立てた状態の、腹部第8節後端と第9節を、トンボから見て右斜め下から眺めたものです。  狭義の産卵管(産卵弁腹片[ap]+産卵弁内片[mp])は、産卵しない時は左右の産卵弁側片(v)の間に折りたたまれて収納されています。 


ちょっと横道(3):♀の膣孔の位置

次に、交尾の際、♂のペニスが挿入されることになる、♀の膣口の位置を確認しておきます。

均翅亜目の♀の膣口(va)は、産卵弁腹片(gp8 [図1のap])と産卵弁内片(gp9 [図1のmp])
のそれぞれの基部に前後から挟まれた正中線上にあり、その襟状部位は左右からクチクラに覆われた裂片(vl)で囲まれています(図2,3)。

図2,3で、グレーに着色された部分はクチクラ(硬皮)、波線は観察者が切り取った縁です。

Calopteryx♀交尾器、腹面図、Klass、図 

図2 Calopteryx virgo (Linnaeus, 1758) ♀の腹端部の外骨格、腹面図(Klass, 2008 のFig. 4から転載(転載許可済)(reproduction permitted)
<凡例>
a: 前方腹側角における背板の拡張(側腹部の腱を支持)extension of tergum at its anteroventral corner, supporting tendon et
ag: 付属腺accessory gland
ca: 第9腹節付属肢基節間の中央内突起 central apodeme between coxae IX
cr : 膣の首輪状の(柔軟な)隆起 collar-shaped (soft) 'ridge' of vagina
CX: 付属肢基節(数字は節)coxa (number=segment)
dl: 第9腹節生殖板【産卵弁側片】の背側裂片 dorsal lobe of gonoplac IX
gl9: 第9腹節生殖板【産卵弁側片】 projecting body of abdominal limb (without stylus)= coxal lobe; gonoplac on segment IX (number=segment)
GP8: 第8腹節陰具片の硬皮 sclerite of gonapophysis (number=segment)
gp8: 腹節陰具片【産卵弁腹片】 gonapophysis (number=segment)
GP9: 第9腹節陰具片の硬皮 sclerite of gonapophysis (number=segment)
gp9: 9腹節陰具片【産卵弁片】 gonapophysis (number=segment)
gt: 第8腹節の付属肢基節の前方の腱 anterior tendon of coxa VIII, median to apdeme ga
LS8,9: 8、9腹節側部付属肢基節の腹板 laterocoxosternum (number=segment) 
MS: 腹節陰具片【産卵弁腹片】間の欠刻の前端部の硬皮 sclerite at anterior end of cleft between gonapophyses VIII
oc: 共通輸卵管の内膜に被われた部分 part of common oviduct bearing intima
PS9: 9腹節腹面後縁部の「後腹板」(機能未解明)'poststernum' at ventral hind margin of segment IX (interpretation unresolved)
sI9: 9腹節螺旋硬皮 spiracle sclerite 9
sp: 受精嚢 spermatheca
TG8,9,10: 8、9、10腹節背板tergum 8,9,10
va: 膣 vagina
vb: 膣前方のバルブ様部分【交尾嚢】 anterior bulb-like portion of vagina (bursa copulatrix)
VB: 膣基部の側方壁の硬皮sclerite in basal lateral wall of vagina)
vl: 膣開口部に沿う裂片 lobes flanking vaginal opening
VL: 膣開口部に沿う裂片上の硬皮 sclerite upon lobe vl

Calopteryx♀交尾器、背面図、Klass、図
図3 Calopteryx virgo ♀の腹端部の外骨格、背面図(Klass, 2008 のFig. 3から転載(転載許可済)(reproduction permitted)。
<凡例>
図2の凡例と共通。


♂が交尾する際には、♂の副交尾器のうちのペニスを、産卵弁腹片(gp8)のフォークの股間をすり抜けて膣口へと押し込まなければなりません。

♂の眼からは死角となる♂の腹基部腹面側で行われているこの作業を完遂させるためには、♀の♂と一心同体の協力が不可欠となります。
その際、産卵弁腹片(gp8)のフォークはペニスを膣に導く、よいガイドとなっているのかもしれません。


ちょっと横道(4):均翅亜目の膣と交尾嚢

ちなみに、♀の体内で、膣は膣口(va)から、硬皮に被われた側方壁(VB):に囲まれた管を経て、腹部第8節後端付近の腹面側にある交尾嚢(bursa copulatrix; vb)へと延びています(図2,3)。
交尾嚢からは、小枝のような形の受精嚢(sp)が突き出ています。

♂のペニスの先端ははこの交尾嚢の中まで、そしてペニスの細い枝状の末端節は受精嚢の奥まで届き、この♀と先に交尾した♂の精子を掻き出す機能を持っています。
この記事の前半でリンクした外部動画(下に再掲)を、このことに注意しながら、もう一度ご覧ください。

参考外部動画(再掲):
Georg Rüppell: Dragonfly Behaviour: Demoiselle sperm removal and egg fertilization


ちょっと横道(5):産卵の際の卵の通り道と受精

交尾嚢には、卵巣で作られた卵を運ぶ共通輸卵管(oc)が開口しており(図2)、交尾嚢を通過中の卵はそこにある精子によって受精し、トンネル状の膣の中を通り抜けて外部の産卵管へと送られ、植物組織内に産み付けられます。


ちょっと横道(6):♂の副交尾器の構造

ここで、均翅亜目トンボ♂の副交尾器の構造(図4)を簡単に見ておきます。

均翅亜目トンボの♂の副交尾器のうち、主要な役割を果たすペニス(p)は、は腹部第2節の腹側正中線上に位置し、後方にバナナのようにカーブする細長い突起となっています。ペニスの末端関節中片(mp)の先端からは反り返った突起(側鞭)(lp)が突き出ています。

均翅亜目♂の副交尾器、Tillyardより 
図4 均翅亜目のSynlestes weyersii Selys, 1868 の♂の交尾器(Copulatory apparatus)。腹面図、ペニスは向って左に(倒しながら)ずらして描かれている。Reproduced from Fig. 96  (drawn by R. J. Tillyard) of Tillyard (1917) .
<凡例>
al: 前片(anterior lamina); cl: 前片の凹部(cleft of same); fr: 枠組み(framework); 
Ip: ペニスの側鞭(lateral flaps of penis) ; mp: ペニスの末端関節中片(middle piece of distal joint of same);またはペニスの開口部(or orifice of same); p: ペニス(penis); 
ph: 後鈎(posterior hamule); st1, st3: 第一、第三腹節腹板(first, third urosternite);t2: 第二腹節背板(second urotergite) ; vp: 精子嚢(vesicle of penis). 


♂の精巣で作られた精子は、腹部第9節の生殖門から腹部第3節前端にある精子嚢(vp)に♂自身によって移されて(雄内移精)一旦蓄えられます。交尾の際には、この精子がペニスの背面(図4では、向ってペニスの右端のライン)にある膜状の溝を通ってペニスの先端(mp)に送られ(Corbet, 1999; Fig. 11.41)、更に♀の膣あるいは交尾嚢中に注入されるわけです。


ちょっと横道(7):交尾の際の♀の産卵管の位置取り

交尾の際、均翅亜目♀の鋭い針状の狭義の産卵管(産卵弁腹片[ap]+産卵弁内片[mp])は、左右の産卵弁側片(v)の間に大人しく収められていると思われるかもしれません。

均翅亜目、ムカシトンボ亜目(ムカシトンボ;不均翅亜目に含める見解もある)、不均翅亜目でも植物組織内産卵をするヤンマ科などでは、交尾の際、♀の狭義の産卵管は♂の副交尾器の外枠部分にある、交尾前鈎(hamulus anterior)、交尾後鈎(hamulus posterior)、(均翅亜目では加えて)交尾前片(lamina anterior)のそれぞれによって左右から挟まれるようにホールドされ、♂の副交尾器の基盤をなしている腹部第2節腹面の縦長の広い溝に収まります(Corbet, 1999; Fig. 11.39)


話を本題に戻します:グンバイトンボの交尾完成への道(続編)

均翅亜目のトンボの生殖器の構造、交尾の仕方に少し詳しくなったところで、私の撮影したグンバイトンボの交尾完成への道の続きを見ていきます。

最初の交尾の試みがうまくいかず、いったんまっすぐな連結の状態に戻ったところ(写真7)からのリスタートです。

まもなく、このカップルは再び交尾を試みます。

産卵管が♂の溝にまっすぐ突き立てられたり、産卵管の先端が♂の腹部第1節のほうに行き過ぎてしまったり(写真8b)と、今回もなかなかうまくいきません。

写真8aでは、産卵管が♂副交尾器の溝に収まっていないので、産卵管その物がよく見えています。

グンバイトンボ交尾の試み(5) 
写真8 グンバイトンボ Platycnemis foliacea 交尾の試み(5)
a 左上、b 右上、c 左下、d 右下

このようなことを繰り返しているうちに、♂のペニスの基部の周りに体液の粒が付着しているシーンもありました(写真9a、bとほぼ同様のシーン)。

そして、また、いったん直列タンデムに戻りました。

懲りずに、このカップルは三たび交尾を試みます。

またうまくいかないものですから、♂は後脚で♀の腹端を操作しようとしている様子を2,3度見せました(写真8c)。
体液の粒はもう見当たりません。

今度も、産卵管が右にずれたりと、うまくいかず、また直列タンデムに戻りました(これで三度目)。

四度目の正直、この直後の試みでは完成形の交尾に移行することになります。

産卵管の先が♂の第1腹節のほうに出てしまう失敗が一度ありましたが、へこたれず、つづけます。

写真8dでは、立てた産卵管が半分見えています。

下の写真9a、bでは、またもや立てた産卵管が半分見えていますが、♂のペニスの基部の周りに再び体液の粒が付着しています。
この液滴は、精子嚢からの精液が大きくこぼれたものである可能性が考えられます。

グンバイトンボ交尾の試み(6)
写真9 グンバイトンボ Platycnemis foliacea 交尾成功まで
a 左上、b 右上、c 左下、d 右下

この後、♂♀の交尾器同士がしっかりとかみ合わさり(写真9c[写真10の部分拡大])、交尾はうまくいったようです。
この間、三度目の体液の粒が確認されました。

今回の記事の冒頭でリンクした、私が撮影したグンバイトンボ交尾の動画1は、写真10の撮影の直前に同じカップルを録画したものです。

グンバイトンボ、交尾(1) 
写真10 グンバイトンボ Platycnemis foliacea の交尾(写真1の再掲)

ここで、写真9cとその少し後の写真9dを見比べてみてください。
写真9dでは、写真9cの場合よりも♂が腰を背方に引いている状態のため、♂と♀の密着度が少し低下しています。

これは、写真9dでは♂のペニスが♀の膣から半分ほど引き抜かれた状態で、写真9cではペニスが膣の一番奥まで差し込まれた状態であることを伺わせます。

交尾リングのまま、♂が腰を背腹に屈曲させる運動は、即ちペニスのピストン運動の源となっていることも、このことからわかります。

連結ペアが1回目の交尾を試み始めてから、完全な交尾になるまでに約1分間、そのまま交尾を継続してそれを解き、連結になって産卵へと向かうまでに約9分間が経過していました。


ちょっと横道(8):交尾が終った後の♂のペニスの収納

今回は、グンバイトンボの交尾が解けた瞬間の交尾器の状態を、残念ながら撮影することはできませんでした。

そこでネット上で動画検索をしたところ、同じ均翅亜目に属するアオイトトンボの1種 Lestes australis Walker, 1952 の交尾の動画(外部リンク、Nature in Motionさん)の中に、そのシーンがあるのを「発見」しました。

動画(外部リンク)
Nature in Motion: Southern Spreadwing Damselflies mating with clear view of male genitalia

この動画を、コマ送りして観察してみました。

0分48秒:交尾は、ほぼ完全挿入の状態。この後、産卵管が抜ける様子が追跡できます。
1分01秒:産卵管がすべて抜けた瞬間、♂のペニスも抜けて「自由」になっているのがよく見えます。
1分07秒:♂はペニスを腹部本体に収納する方向に倒し込みつつあります。
1分37秒:♂のペニスは完全に収納されて見えなくなっています。

これがすべて1分程度の短い時間で行われています。


おわりに

以上、長くなりましたが、文献・動画等の引用で雌雄の外部生殖器の構造を参照しながらの、グンバイトンボの交尾プロセスの観察報告は、ここまでとします。

なお、今回の観察開始は、すでに交尾前連結が完成し、これから交尾リングを形成しようとしていたところからでした。

今後、機会があれば、単独の♂が単独の♀を発見して接近し、連結するまでのプロセス、更には連結してから交尾するまでの間に行うはずの「雄内移精」(♂が腹部第9節の生殖門から腹部第3節の精子嚢に精子を写すこと)を観察・撮影したいと考えています。

グンバイトンボの産卵行動については、今回観察・撮影できましたので、次回以降の記事で取り上げる予定です。

長文へのお付き合い有難うございました。


Acknowledgement
I thank Dr. K-D. Klass for kindly permitting me to reproduce two drawings from his article.


引用文献:
Corbet, P.S. (1999) Dragonflies: Behavior and Ecology of Odonata. Ithaca, NY: Cornell Univ. Press. 829. 日本語版: コーベット著、椿宜高・生方秀紀・上田哲行・東和敬 監訳(2007)トンボ博物学―行動と生態の多様性―海游舎

Klass, K-D, (2008) The Female Abdomen of Ovipositor-bearing Odonata (Insecta: Pterygota). Arthropod Systematics & Phylogeny 66 (1), 45-142.
www.senckenberg.de/files/content/forschung/.../asp_66.../66_1_klass_45-142.pdf

Tillyard, R. J.. (1917) The biology of dragonflies (Odonata or Paraneuroptera. Cambridge University Press. (2007年までに著作権期間が終了しています。)
 

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2017-07-22 (Sat)
今年6月前半の県外に脚を延ばしての取材旅行先で、各種のトンボとともにコオニヤンマSieboldius albardae Selys, 1886と出会うことができました(写真1)。

コオニヤンマ♂ 
写真1 コオニヤンマSieboldius albardae ♂ (写真はクリックで拡大します)。

丘陵地の小川沿いに歩いていた私の眼の前のコンクリート擁壁の上端縁に、1頭の大型トンボがとまりました。

シャッタ―をばバシャバシャ押しながら近づくと、飛び立って、少し先の鉄製の土管の上端にとまりました(写真2)。

コオニヤンマ♂(2)
写真2 コオニヤンマSieboldius albardae ♂(同一個体)

オニヤンマを連想させるしっかりした黒い腹部に黄色い帯状斑紋、胸部とくらべて異様に小さい頭部、前・中脚とくらべてこれまた異様に長い後脚。

このアンバランスな小頭・長脚は、コオニヤンマのユニークな特徴です。

コオニヤンマとは、私が北海道に住んでいた際に出会ったことがありますので、初対面ではありませんが、デジタル一眼に収めることができ、パソコン画面でじっくり対面するためのよい機会となりました。

今シーズン、フェイスブックで誰かがコオニヤンマの写真をアップしたときに、ある方が「格好いいです♡」とコメントしたことがありました。

私は「え~?」と一瞬驚きましたが、人間界のファッションモデルに当てはめるなら、小頭・長脚はまさに「グッド・ルッキング」のベースになているな、と妙に納得したものです。

それはさておき、なぜこんなアンバランスな体形をしているのでしょう?

まずは同じ属の別の種が同様の形をしているのかが気になります。

同属の種の成虫の外形をGoogleで画像検索してみました。
以下がその結果です。

小頭・長脚派:
   コオニヤンマSieboldius albardae Selys, 1886
  検索不要
   Sieboldius alexanderi (Chao, 1955)
         by Bergman
   Sieboldius deflexus (Chao, 1955)
         by Keven_Lin

中頭・長脚派:
   Sieboldius japponicus Selys, 1854
         by Naturalis Biodiversity Center (dry specimen)
         by Dragonchaser

中頭・短脚派:
   Sieboldius nigricolor (Fraser, 1924)
         By Dennis Farrell  
         By Faz

所属不明(現在のところ):
   Sieboldius gigas (Martin, 1904)
   Sieboldius herculeus Needham, 1930
   Sieboldius maai Chao, 1990

以上のように、小頭・長脚派が少なくとも3種あり、主流派のように見えます。

その一方で、Sieboldius nigricolor のように、中頭・短脚派の同属種もいるのは驚きです。

また、「中間派」のSieboldius japponicus が中頭・長脚派であることから脚が短くなる前に頭が少し大きくなる傾向があるのかもしれません。

なぜこういう書き方をしたかと言えば、コオニヤンマ属Sieboldius とともにコオニヤンマ亜科Hageniinaeを構成するHagenius brevistylus Selys, 1854は、明らかに小頭・長脚派に属するからです(下記外部リンク参照)。

Greg Lasley: Hagenius brevistylus

つまり、現行のSieboldiusHageniusの分類が正しい(つまりそれぞれが単系統、より正確には完系統)ということを前提とすれば、SieboldiusHageniusの共通祖先は小頭・長脚派だったと推定されます(小頭長脚祖先形質説)。

ただし、SieboldiusHageniusの共通祖先は中頭・短脚派で、小頭・長脚派はそれぞれの属へと分化していく道筋の中で「平行進化」した(小頭長脚平行進化説)という可能性もゼロではありません。

とはいえ、このようなアンバランスな体形への進化がそう頻繁に起こるとは考えにくいので、私は今のところ、小頭長脚祖先形質説を支持しています。 

この二つの説の名称は私が今回の記事作成中に勝手につけたものですが、すでに他の方が同様の議論をしていいて、結論じみたものも提出されているかもしれません。
もしご存知の方がおられましたら、コメント欄等でご教示ください。

さて、小頭長脚には何らかの適応度を高める要素があるのでしょうか?

一つ考えられるのは、成虫が石、枝、葉などにとまった時に、後半身を重力に逆らって支えるために、長くて丈夫な後脚を備えるに至ったのかもしれません。

とりわけ、腹部に卵がいっぱい詰まった♀と交尾し、交尾態(リング状)のまま物にとまる際は、♂が2頭分の体重をささえることになり、とりわけ後脚に重い負担がかかるはずです。

ただし、これは他の大型トンボにもあてはまることなので、なぜコオニヤンマ類に限ってそうなのか、という疑問は残ります。

胸部とくらべて相対的に小さい頭部が進化した理由はなんでしょうか?

他の方がフェイスブックにアップしたコオニヤンマの写真へのコメント欄でも、本種が結構獰猛で自分より大型のヤンマ類を捕食した例などが紹介されていました。

この「猛虫」ぶりを見ると、視覚能力、脳での瞬間判断能力なども決して他の「中頭」、「大頭」のトンボのそれに引けをとらないように思われます。

ということは、コオニヤンマ亜科の系統進化の過程で、これらのハンターとしての感覚・情報処理能力を損なうことなく、複眼サイズを含む頭部の小型化を「達成」し、低コスト化(同化した栄養を体内の他の部位に振り向けることができる)も同時に手にいれたということが考えられます。

このように考えると、今までコオニヤンマのアンバランスな体形を見下すかのように見ていたことを、恥じなければいけないかもしれません。

ここでコオニヤンマの幼虫虫の形態についてご紹介し、若干検討してみましょう。。

本種の幼は、サナエトンボ科の中でも風変りで、腹部はコインのように扁平で丸く、脚(とくに後脚)は長くて丈夫です(Hagenius brevistylusの場合も同様)。

私も北海道東部の遠浅の砂礫底をもつ清冽な湖で本種の幼虫を水面上から直接視認し、更に網ですくって確認したことがありますが、写真の手持ちがないため、下記の外部リンク先の幼虫写真をご紹介しておきます。

外部リンク:
 Kazuya Hiramatsu:コオニヤンマ:コオニヤンマ幼虫(ヤゴ)

幼虫のこの、コインのような腹部を支えるには、確かに、このように大きくてガッチリした脚が必要と思われます。

こう考えると、成虫の長い後脚は幼虫の立派な後脚を持ち越しているという可能性が浮上します。

同じコオニヤンマ亜科に属するHagenius brevistylus の幼虫も同様の形態をしています(下記外部リンク参照)。
Jasonさんのサイトの写真からは、コインのように薄い腹部であることもよくわかります。

外部リンク:
  Tom Murray: Dragonhunter naiad - Hagenius brevistylus 

  Jason Neuswanger: Hagenius brevistylus Dragonfly Nymph Pictures


ここまで見てきたように、コオニヤンマは、妙に私の興味をそそるトンボの一つです。

これからも1ファンとして追い続けてみようと思います。


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2017-07-21 (Fri)
昨年6月18日、「四万十市トンボ自然公園」(別名「トンボ王国」)を初訪問し、園地内でわずか1時間そこそこで4科14種のトンボを観察・撮影することができました(3回前の記事「トンボ王国訪問記(1):多彩なトンボ達に迎えられ」参照)。

それに続いて、同行の飯田貢さん、山本桂子さん(ともにアマチュア昆虫写真家)とともに、杉村光俊氏(トンボ王国に併設の「四万十川学遊館」の館長)のご案内のもと、園地外の貴重な生息地2地点に移動しました。
そこでは、シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi Yamamoto, 1955カラスヤンマChlorogomphus brunneus Oguma, 1926(四国を含む本土産のものは以前は亜種和名ミナミヤンマが使われていた)、ヒメサナエSinogomphus flavolimbatus (Matsumura in Oguma, 1926)などの生息環境と成虫の行動の一端を垣間見ることができました(前々回記事「トンボ王国訪問記(2):ヒメサナエと小さな虫たち」参照)。
シコクトゲオトンボの撮影では空振り三振に終わりましたので、リベンジを誓ったことでした。

その翌日(6月19日)の午前中は、梅雨空のもと、「四万十市トンボ自然公園」の園地内での2回目の観察・撮影を行い、ハグロトンボAtrocalopteryx atrata (Selys, 1853)を撮影できたことで、2日間で5科15種のトンボ撮影を達成できました(前回記事「トンボ王国訪問記(3):梅雨時の草間にトンボ見え隠れ」参照)。

さて、今回の記事は、19日の午後の園地外の生息地2カ所へのトンボ探訪記です。

午後の最初のポイントは、杉村館長にご教示いただいたグンバイトンボPlatycnemis foliacea Selys, 1886の生息地です。
そこでのグンバイトンボの観察、撮影についてはすでに以前の記事「グンバイトンボの軍配は何のため?」に報告済みですので、ここでは写真2枚(写真1,2)を再掲するにとどめておきます。

グンバイトンボ♂
 写真1 グンバイトンボPlatycnemis foliacea♂。四国、2016年6月。(再掲)(写真はクリックで拡大)

グンバイトンボ♀
写真2 グンバイトンボ♀。四国。2016年6月。(再掲)

グンバイトンボのポイントでは、ハグロトンボ(写真3,4)も観察・撮影できました。

ハグロトンボ♂、四国
写真3 ハグロトンボAtrocalopteryx atrata

 ハグロトンボ♀、四国
写真4 ハグロトンボAtrocalopteryx atrata

そのほか、ウスバキトンボ Pantala flavescens (Fabricius, 1798)が川岸の上をスクランブルしているところも観察できました(写真5、再掲)。

ウスバキトンボの群飛、四国、6月中旬 
写真5.ウスバキトンボ Pantala flavescensの群飛 (コントラスト調整後)(再掲)

この写真は以前の記事「ウスバキトンボ、今年の初見日はいつ?」中に掲載済みです。

1・2時間でこのポイントでの観察を切り上げ、飯田さん、山本さんと共に、前日も訪れたシコクトゲオトンボのポイントに向いました。

前々回の記事に書いたように、そこは山林の中に谷川の支流の源流部が入り込んだような場所です。
樹陰で薄暗い中に歩を進めると、シコクトゲオトンボがこの日も出迎えてくれました。

まずは、赤い細枝にひっそりととまる♂です(写真6)。

シコクトゲオトンボ♂(1) 
写真6 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 

なんとか、人に見せられる写真を撮らせてくれました。
翅を開いています。
薄暗い林内に、漆黒の胸部や腹部がうまく紛れ込んでいます。

写真7は、同じ♂を横から撮ったものです。

シコクトゲオトンボ♂(2)
写真7 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 同一 

胸部の肩のあたりと側面に黄白色の斑紋があり、黒っぽい体の中でアクセントとなっています。
脚はオレンジ色系で、頭部胸部腹部の漆黒とは好対照になっています。

少し歩くと、今度は♀が木の葉の上にとまっています(写真8)。

シコクトゲオトンボ♀(1)
写真8 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 未熟 

羽化からそれほど時間が経っていないのでしょう、写真6,7の♂と比べても、腹部の黒化があまり進んでいません。翅も閉じています。
脚の色はどちらかといえば薄い茶褐色で、上の♂のオレンジ色の脚とは大違いです。

写真9は、同じ♀を反対側から写したものです。

シコクトゲオトンボ♀(2)
写真9 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 同一未熟 

腹部の基部(第2節)が少し凹んでいます。
羽化後時間経過が短い段階でその部分が何かにぶつかったか、腹部全体が左から右に風圧などで押されたのかもしれません。

別の♂が、枯れかけた細枝の先にとまっています(写真10)。

シコクトゲオトンボ♂(3)
写真10 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 別 

左前脚の脛節前縁で顔面をこすっているところです。
複眼になにか小さなゴミでもついていたのでしょうか。
脛節前縁のこの部分には剛毛が列生していて、ブラシと同じ作りになっていますので、ワイパーとしての機能は十分でしょう。

写真11は別の♀です。

シコクトゲオトンボ♀(3)
写真11 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 別 

腹部はかなり黒化していますので、写真8,9の♀よりも成熟が進んでいることがわかります。
翅も大きく開いています。
脚も幾分赤味が表れていますが、♂のオレンジ色と比べれば赤茶色にしか見えません。

尾園ほか著の『日本のトンボ』(文一総合出版)に掲載の生態写真を見ても、成熟♀の脚はオレンジ色というより、くすんだ赤茶色に近いことから、♂♀の間で色彩2型があるようです。

同属他種でも同様の色彩2型があるかどうか気になったので、『日本のトンボ』に掲載の写真を比べ見たところ、ヤンバルトゲオトンボRhipidolestes shozoi Ishida, 2005アマミトゲオトンボRhipidolestes amamiensis Ishida, 2005では、♀も脚に鮮やかな紅色が現れており、♂とそれほど色彩差が見られません。
一方ヤクシマトゲオトンボRhipidolestes yakusimensis Asahina, 1951では色彩差がシコクトゲオトンボ並み、残り3種ではその中間的な差といった印象を受けました。

属全体で見るとはっきりとした性的2型にはなっていないものの、脚以外の黒っぽい体色と脚の赤から赤褐色の鮮やかな色とのコントラストは、同種間の性的アピール、あるいは♂間の威嚇誇示の機能を高めている可能性が考えられます。

個体間の行動で、この脚を誇示しているかどうかが、この仮説のテストになるでしょう。
今度観察機会があれば、このあたりに注目したいところです。

話を戻します。

写真11では、トンボの右前方に小さなカメムシのようなものが写っています。

何だろうと思い、拡大してみましたが、踏ん張っているはずの脚が見えず、触角も見当たりません。
背面も泥と木くずが乾いて固まったような感じで翅や前胸が見えていません。
何かの破片か鳥獣の排泄物の一部だろうと思われます。

撮影者の動きを気にしたのか、この♀は少し飛んで今度はシダの葉にとまりました(写真12)。

シコクトゲオトンボ♀(4)
写真12 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 写真11と同一♀

この日のシコクトゲオトンボ撮影は、こうして、なんとか前日の空振り三振からのリベンジに成功することができましたので、彼らに付きまとうのはこのくらいにし、彼らを再び安穏とした日常に返してあげることにしました。

前日のこの場所でのシコクトゲオトンボの撮影に失敗した主な原因が光量不足であったことに、ホテルの自室でその日の撮影画像をカメラの小さな液晶画面で見直すことで、気づきました。

私が常用している望遠ズームレンズは絞り開放でも5.6にしかならない、入門者用です(中級者なら2.8を使用するところ)。
なので、ズームアップを最大にしてこのトンボをとらえた場合、画角が狭くなるため、内蔵ストロボを発光させただけでは光量が足りなかったというわけです。

そこで、ズームアップを抑え気味にし、カメラをトンボにより近づけて撮影することにしました。
ISO感度やシャッター速度も変えてみましたが、前日の撮影データと比較すると、やはり被写体との距離を縮め、画角を少しでも広くすることが最大の改善ポイントだったことが、後日のパソコン画面での比較検討で分かりました。

リベンジに成功したのを、自分の反省と気づきが奏功した結果であるような書き方をしましたが、2日間とも現地で一緒に撮影した飯田さん、山本さんの撮影テクニックを見習ったり、どのような工夫をしているかの話を聞かせてもらったことも、大いに参考になりました。

名人でなければ撮影不可能な飛翔中のカラスヤンマ(ミナミヤンマ)を除けば、今回のトンボ王国トンボ撮影行は私にとって大変満足のいったものとなりました。

続編、「トンボ王国訪問記(5)」では学遊館の展示の印象や、「トンボと自然を考える会」の活動内容を紹介する予定ですが、それはトンボシーズンが終わってからゆっくりと書くことにしています。

今回の記事を終えるにあたり、現地での貴重な観察の機会を与えられた杉村館長、現地への移動や各種情報の提供などでお世話になった飯田さん、山本さんに改めて感謝の意を表したいと思います。


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