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2017-05-13 (Sat)
大型連休が明けて2・3日過ぎた晴天の日。
夏日の天気予報下、自宅から日帰り圏の低山地にトンボたちの青春を探しに行きました。

人里から少しはいった道路脇に車を停め、渓流沿いの林道を上流に向って歩きはじめると、早くも アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa Selys 1853* の面々が川岸の低木の枝から別の枝へとまり替えるなどして、出迎えてくれました(写真1~5)。

アサヒナカワトンボ橙色翅型♂
写真1.アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 橙色翅型♂ 
    (写真はクリックで拡大します)

写真1の橙色翅型♂は、体表に白粉が吹きはじめ、縁紋の色も赤味が強くなってきていて、いくらか成熟が進んでいる様子です。

アサヒナカワトンボ橙色翅型♂、未熟 
写真2.アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 橙色翅型♂、やや未熟

写真2の橙色翅型♂は、体表の白粉はほとんどなく、縁紋の色も赤よりはずっと白に近く、さらには複眼の透明感もまだ不完全で、写真1の個体にくらべても、羽化後の日数があまりたっていないことがわかります。

アサヒナカワトンボ無色翅型♂(1)
写真3.アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 色翅型♂

写真3は無色翅型♂です。
カワトンボ♂には基本的に橙色翅型と無色(透明)翅型の二型があり、集団内で型間の比率はそれなりにバランスがとれているようです。

♀は無色(透明)翅型が基本ですが、2種共存地域のニホンカワトンボでは淡橙色翅型が現れることがあります(参考記事2)。

写真3の無色翅型♂は、縁紋の色が写真2の橙色翅型同様に白に近いことから、成熟の途中であることがわかります。

アサヒナカワトンボ無色翅型♂(2)
写真4.アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 無色翅型♂(別個体)

それに対して、写真4の無色翅型♂は、縁紋の色がすでに鮮やかな赤になっていることから、かなり成熟した個体であることがわかります。

橙色翅型♂と無色翅型♂が混在しているケースでは、橙色翅型♂で成熟とともに白粉が強く吹くのに対し、無色翅型♂は成熟してもあまり白粉を吹かないことが多いようです。

写真4の個体も例外ではなく、白粉は写真1の橙色翅型♂にくらべて、あまり目立ちません。

話題が反れますが、写真4の♂、腹部と翅がサンドイッチのように1枚の葉をはさんでいますね。
普通に、パッととまった場合はこのようになるとは考えられませんので、今とまっている葉のもう少し先端近くに、頭は葉の元の方に少し向けてとまったあと、背方から見て反時計回りに体が回転するように歩いて向きを変えたために、葉の上と下に翅と腹部が別れたのではないでしょうか。

私が撮影していたときには、とくにそのような動作に気づきませんでしたので、あくまでも想像にすぎません。
読者の方で別の仮説を思いつかれた方がおられましたら、コメント欄でお知らせください。

アサヒナカワトンボ♀
写真5.アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa ♀

さてさて、最後に登場したのは♀です(写真5)。

縁紋の色は鮮やかな白です。♀の場合、成熟しても縁紋は赤くなりません。
これは、同種の個体同士が眼の前の相手の性を識別する際に重要な役割を果たしているはずです。
そのほか、腹部の形態の違いや動作の特徴なども性識別に利用されているでしょう。

メスはまた、体表に白粉を吹く傾向も♂に比べればないに等しく、これも性識別に援用されるでしょう。

その点、縁紋が赤いことを除けば、無色翅型♂の外見は♀にかなり似ていることになります。
これは、♂の一部が同種の♀に擬態することで、強いなわばり行動を示す橙色翅♂による排撃行動を少しでも回避しやすくなり、なわばりに出入りする♀を横取りするという配偶戦略として解釈することが可能です。
このあたりのことは、東・生方・椿(1987)の中の一つの章で詳しく書いたことがあります。


*注:カワトンボ属Mnaisは、日本に2種(二ホンカワトンボMnais costalis Selys, 1869とアサヒナカワトンボM. pruinosa)が分布しており、両種の分布が広域的に重なっているところ(同所的分布)もあれば、戦国時大名のように領域を分け合っているところ(側所的分布)もあります。
 同所的に分布しているところでは、形質置換が起こり、両種の形態的差(翅脈の横脈数、翅の不透明斑のサイズなど)が明瞭になるため、生態写真からの種の同定は比較的正確に行えますが(下記リスト記事1&2を参照)、側所的分布の場合は、幼虫の尾鰓の形態は別として、形態的特徴だけからの種の同定は非常に困難で、DNAによる判定が得られるまでは確信が持てません(下記リスト記事3を参照)。
 ただし、側所的分布であっても、最近のDNA判定を採用した研究により、どちらの種が分布しているから判明している場合には、その研究を信頼してどちらか一方の種名を充てることが可能となります。
 今回は、苅部ほか(2010)に依拠して、アサヒナカワトンボと判定することができました。

参考となる、以前の記事:

引用文献:
東 和敬・生方秀紀・椿 宜高(1987)『トンボの繁殖システムと社会構造』東海大学出版会。
苅部治紀・守屋博文・林 文男(‎2010):神奈川県を中心としたカワトンボ属の分布。Bull.Kanagawa prefect. Mus. (Nat.Sci.),(39):25-34.


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2016-09-26 (Mon)
2016年のイグ・ノーベル賞「知覚賞」を立命館大学の東山篤規教授と大阪大学の足立浩平教授が「頭を逆さにして両足の間から見る『股のぞき』によって、物の見え方はどう変わるか」という研究成果により、受賞したことは日本のマスメディアでユーモラスに報道されたことは、まだ記憶に新しいですが(NHKニュース記事[外部リンク]参照)、「物理学賞」をトンボと白い馬の研究で受賞したことに今日気づきました。

受賞者は、Gábor Horváthさんほか8名(ハンガリー、スペイン、スエーデン、スイス)です。

二つの論文が対象で、1つは、白い馬が偏光した白い光を反射するためにアブが引き寄せられないメリットを享受しているというもの(論文1)、もう一つがアカトンボの仲間が黒い墓石の水平偏光にひきつけられて生態的罠に陥っているというもの(論文2)です。

下の写真は論文とは関係ありませんが、私が撮影したアカトンボ(アキアカネSympetrum frequens (Selys, 1883))です。

アキアカネ ♂
アキアカネ;2014年9月中旬に埼玉県の平地の池で生方秀紀が撮影。(再掲) ← クリックすると拡大します。

このうち、論文2のトンボの研究成果についてさらっとご紹介します。

1.ハンガリーの墓地の磨かれた黒い墓石に引き付けられたエゾアカネSympetrum flaveolum (Linnaeus, 1758), タイリクアカネS. striolatum (Charpentier, 1840), S. sanguineum (Müller, 1764), S. meridionale (Selys, 1841) およびムツアカネ S. danae (Sulzer, 1776)を観察した。

2.トンボたちは、水域でとるのと同じ行動をしめした。すなわち、すぐ近くに継続してとまり、他のトンボに対して防衛した。飛行個体は墓石の水平面に繰りかえし腹端をタッチさせた。連結(タンデム)ペアが黒い墓石の上空でひんぱんに輪を描いた。

3.このトンボたちに選好された墓石はオープンなところにあり、すくなくとも0.5㎡あり、ほぼ水平で、磨かれていて、黒い表面をもち、すくなくとも一つのとまり場所がすぐそばにあった。

4.画像偏光分析imaging polarimetryを行った結果、黒い墓石はスムースな水面同様に水平偏光を反射することがわかった(論文に掲載された画像[外部リンク]参照)。

5.さまざまなテスト表面を用いた、二者択一させる野外実験で、輝く黒い墓石に引き付けられたトンボたちは正の偏光走性positive polarotaxisを示し、自然条件では水平偏光となった反射光によって水を判別した。このことと黒い墓石の反射ー偏光特性が、トンボがなぜ黒い墓石に引き付けられるかを説明する。

6.もし♀が黒い墓石に引き付けられ、その上に産卵するなら、墓石はトンボにとって水とは似てもにつかない生態的罠の役どころとなる。

画像偏光分析をするなど、読者を納得させる研究となっており素晴らしいものですが、私たちトンボ研究者・愛好家にとっては、それほど衝撃を持って受け止められるところまではいっていないように感じます。

というのも、トンボがビニールハウスのビニール表面や車のボンネットなどに産卵行動を試みることはずっと以前からよく知られており、水平偏光が水面認知で重要な役割を果たしていることも、今回の受賞者の一人Hansruedi Wildermuthさん(スイス)の研究がコーベット著『トンボ博物学』で紹介されていて知る人ぞ知ることになっているからです。

今回の受賞は、トンボだけでなく、一般の人により身近でかつ「王子様」の乗る馬というイメージのある白馬の毛並みの偏光反射がアブ忌避に役立っているという、より意外性の高い研究を同じGábor Horváthさんが第一著者をつとめる別の研究グループが明らかにし、トンボの研究結果とセットにしたことでインパクトを強めたからだと思われます。

研究者は誰でも、少なくとも駆け出しのころは「自分もあわよくばノーベル賞を」と志すのではないでしょうか。
私の研究分野は生態学でしたので、もっとも近い生理学賞の対象からもはずれていて、その志を抱き続けることにはなりませんでしたが、そのころイグ・ノーベル賞というのがあるのを知っていたら、密かに狙い続けたかもしれません(笑)。

余談ですが、Hansruedi Wildermuthさんは私と同じエゾトンボ科の生態・行動を研究しておられた関係で、私と別刷りや研究情報の交換をしていた方で、2007年のナミビアでのWDA国際トンボ学シンポジウムでは親しく歓談することができました。

ご本人にはメールで祝福の意を伝えることにします。


引用文献:
1:  Gábor Horváth, Miklós Blahó, György Kriska, Ramón Hegedüs, Balázs Gerics, Róbert Farkas and Susanne Åkesson, 2010. "An Unexpected Advantage of Whiteness in Horses: The Most Horsefly-Proof Horse Has a Depolarizing White Coat." Proceedings of the Royal Society B, vol. 277 no. 1688, pp. June 2010, pp. 1643-1650.

2: Gábor Horváth, Péter Malik, György Kriska, Hansruedi Wildermuth, 2007. "Ecological Traps for Dragonflies in a Cemetery: The Attraction of Sympetrum species (Odonata: Libellulidae) by Horizontally Polarizing Black Grave-Stones." Freshwater Biology, vol. 52, vol. 9, September 2007, pp. 1700–9.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2427.2007.01798.x/abstract


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2016-02-07 (Sun)
「トンボにも恋愛感情はありますか?」
唐突ですが、これはある生物系専門学校の生徒から最近届いた私へのメール質問の一つです。

ほかにも三つほどトンボ関連の質問がありましたが、それらはトンボの本を調べればわかることなので本のタイトルや入手法を書いたものを回答としておきました。

このトンボの恋愛についての質問の答はどの本にも書いてないでしょう。

私も即答できませんので、少し調べてみました。

まず、「恋愛」とは何かですが、『広辞苑』第6版では「男女が互いに相手をこいしたうこと。また、その感情。こい」と説明されています。
辞典にはそれ以上のことが書いてないのでもどかしいのですが、「恋愛が成就する」ことは結婚もしくはそれに準ずる相互の太い絆の成立することにほかならないでしょう。
ですから、恋愛感情は、つまるところ、二人だけの世界をゴールにもつ、感情の高ぶりであるといえるでしょう。

以下、18歳未満の方が閲覧するには不適切な内容が含まれますのでご注意ください。

最近BBCのWebsiteの科学と自然の欄にすっきりまとめられた記事:
The Science of Love:
http://www.bbc.co.uk/science/hottopics/love/
には、恋愛感情(Fall in love)が次の三つの段階に区分されています。

1)性欲:ホルモンである、テストステロンとエストロゲンによって突き動かされる。とくにテストステロンは女性においても主要な性衝動を担っている。

2)誘引:恋に落ち、寝食を忘れて恋い焦がれる状態。ここではモノアミンと呼ばれる神経伝達物質の一群が重要な役割を果たす。

・ドーパミン:これはコカインやニコチンによっても分泌が促される快感物質。
・ノルエピネフリン(アドレナリン):発汗や胸の高鳴りをひきおこす。
・セロトニン:もっとも重要な化学物質で一時的に狂わせるほど。

3)接触:これがなければ「誘引」段階は終わらない。最終的に愛の結晶(つまり二人の子)ができることになる。ここでは二つのホルモンが神経系から分泌され、社会的結合の効果をもたらす。
・オキシトシン:出産や授乳でも分泌され、母子関係の強化の効果をもつが、両性間の性的結合のオルガスムの際に分泌され、両性間の絆を強める効果がある。
・バソプレッシン:オキシトシンと同じようなタイミングで分泌されるが、両性間の絆を長期的に維持する効果がある。

*  *  *  *

性欲から両性間の絆にまでかかわるこれらホルモンはハタネズミをはじめ、他の哺乳動物でも調べられており、動物界を通して、両性間の誘引や結合の行動傾向ににホルモンが作用していることがわかります。

さて、トンボではどうでしょうか?

残念ながらトンボでこれらのホルモンが調べれられた例はないようです。

しかし、ショウジョウバエではドーパミンが雄の求愛行動に影響することがわかっています(Lieu et al. 2008)。
面白いことに、ドーパミン濃度が高すぎると雄が雌だけでなく雄に対しても求愛行動をしきりにするようになるとのことです。

結論としては、おそらくトンボでもドーパミンが分泌され、特に雄が雌を探し回ったり求愛したりする行動を促していることが予想されます。
実験による検証と詳細の解明がまたれます。

Tong Liu et al. 2008. Increased Dopamine Level Enhances Male–Male Courtship in Drosophila. The Journal of Neuroscience, May 21, 2008 • 28(21):5539 –5546 • 5539.
http://www.jneurosci.org/content/28/21/5539.short

他の参考サイト:
THE NEUROCHEMISTRY OF SEX
By Walter Last
http://www.health-science-spirit.com/neurosex.html


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