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2018-06-12 (Tue)
栃木県の小湿地での観察に基づいたハッチョウトンボ Nannophya pygmaea Rambur, 1842 についてのシリーズ記事、2回目の今回は成虫の羽化完了時点から成熟までの体色変化をトレースします(初回記事はこちら)。

このトピックについては、すでに過去記事「ハッチョウトンボ:恋のドレスアップ」で取り上げていますが、その記事では中間段階の写真が若干不足していただけでなく、完熟段階の写真を欠くという不十分さがありました。

今回記事は、それを補うとともに、過去記事の観察地である岐阜県と今回記事の舞台である栃木県との間でこの過程に何らかの相違があれば、それを見出すのがミッションとなります。


目 次
 ◆♀の体色変化
 ◆♂の体色変化
 ◆体色変化パターンの、岐阜と栃木の間の比較
 ◆♂と♀の成熟色の違い
 ◆謝辞


♀の体色変化

まずは、羽化当日から完全成熟までの、いくつかの段階を代表する成虫♀の写真を順にご紹介し、♀の体色変化を探ります。

写真1は、今年6月2日の9時32分にその小湿地で撮影した、羽化当日の♀です(シリーズ前回記事から再掲)。

ハッチョウトンボ羽化直後の♀ 
写真1  羽化当日のハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♀(再掲)(写真はクリックで拡

写真1では、翅を開き鉛直にぶら下がるように植物の茎にとまっています。

複眼は羽化直後同様の乳濁した薄紫色です。

翅脈は羽化直後同様に白いですが、縁紋は薄い灰色にまで着色しています。
脚の黒味も増しています。

腹部に、♀特有の斑紋パターン(褐色、白、黒の横縞の繰りかえし)が、うっすらとですが、出ています。

下の写真2の♀(別個体)も鉛直にとまっていますが、翅脈も縁紋も十分黒化し、翅の基部には透明黄褐色斑が現れています。

ハッチョウトンボ未熟♀ 
写真2 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♀ (別個体)

写真2では、腹部の茶色・黒色の横縞模様は、いくらか濃くなっています。

しかし、複眼の発色はほとんど進んでおらず、大部分、薄紫がかった乳白色です。

下の写真3の♀は、水平にとまり、複眼の色が淡褐色になり、腹部の茶色、黒色もより強くなっています。

ハッチョウトンボ未熟♀ 
写真3 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♀ (別個体)

写真3では、翅基部の黄色斑の部分の翅脈の色が茶色になっています。
ただし、成熟♂のその部分のように赤くはなっていません。

下の写真4の♀では、複眼は焦げ茶色へと濃くなり、翅胸前面の黒斑も濃くなっています。

ハッチョウトンボ♀ 
写真4 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♀ (別個体)

写真4では、腹部の色は写真3とほとんど変わりはありません。

ちなみに、この♀は、私の眼の前で、飛んでいた小昆虫を空中でつかまえてこの草にとまり、モグモグ食べているところです。

写真5の♀は、私の眼の前で♂と交尾し、その後♂のナワバリ内で打水産卵をしていた個体で、打水産卵の合間に小休止しているところです。

ハッチョウトンボ♀、産卵中の休息 
写真5 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♀、産卵中の休息 (別個体)

写真5の個体と写真4の個体の間に、色調に差は見出せませんので、写真4,5とも、完全に成熟した♀の色調を示しているといえます。

過去の同様テーマの記事「ハッチョウトンボ:恋のドレスアップ」では、♀で写真4、5の段階の提示をしていませんでしたので、今回記事で体色変化の追跡がほぼ完全になったといえるでしょう。


♂の体色変化

つぎは、♂の体色変化についてです。

いずれも6月2日に同じ湿地で撮影したものです。

下の写真6の♂(別個体)の複眼は乳白色の濁りが強く残り、茶色への変化がほとんど現れていません。

 ハッチョウトンボ未熟♂
写真6 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♂ (別個体)

写真6では、翅基部の黄褐色班ははっきり現れていますし、翅脈は基部近くの前縁のものを残して黒化しています。

腹部背面は、黄褐色を呈してきていて、各腹節の後寄りの色がより濃くなっています。

腹部第3,4節の前端部に白色の横縞があるのも目立ちます。
その一方で♀のように黒い横縞は現れていません。

下の写真7の♂では、複眼の乳白色の濁りは消え、複眼背面に茶色味が出ていますが、まだ茶色にまではなっていません。

ハッチョウトンボ未熟♂ 
写真7 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♂ (別個体)

写真7の♂では、腹部背面の黄褐色は、写真6よりもいくらか濃くなっていますが、赤味は出ていません。

下の写真8の♂では、複眼背面に赤味がはっきり表れています。

ハッチョウトンボ未熟♂ 
写真8 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♂ (別個体)

写真8では、翅脈のうち、基部に近い前縁が赤化しています。

腹部の赤化が末端3~4節で始まっていますが、中間部の腹節では茶色化すらあまり進んでいません。

このように、写真7写真8の個体の間で、腹部の色彩変化のパターンに微妙な個体差が出ているようです。

下の写真9の♂は、腹部背面の色が茶色を通り越して、黒味がかった赤茶色にまで濃くなっています。

ハッチョウトンボ♂ 
写真9 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♂ (別個体)

写真9では、腹部第3,4節の前端部の(写真7では)白色だった横縞は黄色く濁っています。

下の写真10の♂は、腹部背面が赤くなり、ハッチョウトンボの♂らしい色彩に到達しかかっています。

ハッチョウトンボ♂ 
写真10 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♂ (別個体)

写真10では、腹部第3,4節の前端部の黄色い横縞はまだ消えることなくハッキリと見えます。

下の写真11の♂は、複眼はもとより、腹部全体、それに胸部を含め真っ赤に染まっています(ただし、胸部、腹部には黒斑あり)。

ハッチョウトンボ成熟♂ 
写真11 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♂ (別個体)

これらの複眼、翅脈前縁、腹部の赤化は、♀には見られないことから、♂にだけ現れる第二次性徴ということになります。

写真10までは白かった尾部付属器は、写真11ではオレンジ色がかっています。

これこそ、完全に成熟した♂の色彩コーディネートといえるでしょう。

過去の同様テーマの記事「ハッチョウトンボ:恋のドレスアップ」では、♂については3段階の写真を提示しただけでしたが、今回は初期を含む6段階の写真を提示できましたので、より肌理(きめ)の細かい体色変化のトレースができたのではと思います。


体色変化パターンの、岐阜と栃木の間の比較

♂、♀それぞれの、体色変化パターンを、岐阜県(過去記事)と栃木県(今回記事)のそれぞれの1生息地の間で比較してみました。

♀に関しては、今回の写真だけからは、岐阜と栃木の間で明らかな相違を見出すことはできませんでした。

一方、♂では以下のような差が見られました。

岐阜では、複眼がまだ赤くなっていないのに、腹部背面が濃い茶色になっている個体がいました(過去記事の写真6)。

それに対して、栃木では、腹部背面が濃い茶色になっている個体では、複眼は赤くなっていました(今回記事の写真9)。

これを地域間の違いと決めつけてしまうのは、危険が大きすぎます。

単なる個体変異(遺伝子レベルの変異があるにせよ)にすぎず、それゆえ、同じ地域内に赤眼先行タイプと濃茶色腹先行タイプが共存(あるいは連続的変異として存在)している可能性のほうが高そうです。

しかし、今後、各地でこのような体色変化パターンに注目した観察がなされれば、変化パターンに何らかの地域変異が検出される可能性もゼロではありません。


♂と♀の成熟色の違い

以上、見てきたように、ハッチョウトンボは、羽化直後には体全体として乳白色に近い色彩だったものが、♀では複眼は茶色、腹部は茶色、黒、白の横縞模様へと変化しています。

もしかすると、この横縞模様は、湿地の枯草や底泥を背景にした場合の、迷彩色(つまり保護色による隠蔽擬態)の機能を持っているかもしれません。

一方、♂では成熟すると、複眼背面、胸部、腹部とも真紅に染まり、大変目立ちます。

過去記事で比喩したように、ハッチョウトンボでは(人間とは逆に)♀よりも♂のほうが、大人に近づくにつれてドレスアップしています。

トンボの世界ではなぜこうなっているのかについては、以下の過去記事で考察していまので、興味のある方はご笑覧ください。


次回記事では、交尾・産卵を含むハッチョウトンボ成熟成虫の行動を取り上げます。


謝 辞

現地をご案内くださった月井栄三郎さんに、心よりの感謝の意を表します。


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2018-06-08 (Fri)
世界最小級のトンボであるハッチョウトンボ Nannophya pygmaea Rambur, 1842
その可憐な姿は、われわれトンボ観察者だけでなく、自然愛好家の心を和ませる存在です(関連過去記事はこちら)。

残念なことに、生息湿地の埋め立てや乾燥化に伴って、地域絶滅が相次ぎ、その結果、ハッチョウトンボは私の住む埼玉県ではすでに絶滅し、12県で絶滅危惧I類に指定されるにまで至っています。

このたび、「那須塩原市の自然」のHPに、生きいきとしたトンボたちの姿をアップしておられる、月井栄三郎さんにお招きいただき、栃木県内の小規模な湿地でハッチョウトンボを観察・撮影する機会を持つことができました。

その際に私が撮影したハッチョウトンボの振舞いを、数回のシリーズ記事でご紹介します。
初回の今回は、羽化したばかりの妖精のような姿をご覧に入れます。


目 次
 ◆ハッチョウトンボの生息地
 ◆羽化直後の個体発見
 ◆羽化後の時間経過と外見の変化
 ◆光が透けて見える腹と透けない頭・胸
 ◆羽化後の時間経過と外見の変化(続き)
 ◆謝辞


ハッチョウトンボの生息地

6月22日の朝、待ち合わせ場所に到着した私は、月井さんの案内でハッチョウトンボ生息地へと向かい、8時半ちょっと過ぎに到着しました。

そこは、林地に囲まれた平坦な土地で、草地、草がまばらに生えた裸地、小規模な湧水で潤わされた湿地などからなっていて、少しずつ幼木の侵入が起きているようなところです。

その湿地部分(写真1)がハッチョウトンボの幼虫の住み場所となっており、私達が到着した時には、朝露の残るミズトクサの群落のあちこちに、様々な成熟度合いのハッチョウトンボ成虫たちがとまっていました。

ハッチョウトンボが生息する小湿地 
写真1 ハッチョウトンボが生息する小湿地 (写真はクリックで拡大します)

中でも、腹部を真っ赤に染めた成熟♂たちが目立ち、それらを引き立てるように、成熟途中で赤味の薄い♂や、成熟しても赤くならない♀たちが、互いに距離を置いて、とまっていました。


羽化直後の個体発見

そんな中、月井さんが一早く羽化直後の個体を発見し、私に観察の機会をゆずってくれました。

それが写真2の個体です(8時38分撮影)。

ハッチョウトンボの羽化場所の例 
写真2 羽化直後のハッチョウトンボ♀ Nannophya pygmaea 

ミズトクサの先端近くに定位した幼虫の背面の裂け目から脱出した成虫は、まだ幼虫の殻(羽化殻)につかまったままです。


羽化後の時間経過と外見の変化

写真2を部分拡大したものが写真3です。

ハッチョウトンボの羽化 
写真3 羽化直後のハッチョウトンボ Nannophya pygmaea (写真2の部分拡大)

全体的に乳白色を帯びていて、いかにも柔らかな羽化直後の体をしています。

翅は伸びきっていますが、翅脈は真白、そして翅膜には乳白色味が残っています。
脚も乳白色で、硬いものがぶつかったら、グニャリと曲がってしまいそうです。

写真4写真3(=写真)と同一個体です(8時49分)。

ハッチョウトンボの羽化 
写真4  羽化直後のハッチョウトンボ Nannophya pygmaea (写真3と同一個体)

腹部は、羽化殻から脱出後だんだん伸びて、最後に成虫のトンボらしい長さに達するわけですが、この時点でもこの個体の腹は、ヤゴの腹の長さより少し長くなっているだけで、翅の長さの半分程度にすぎません。

この日は、これ以外によい羽化の写真が撮れませんでしたが、翌日(3日)の午前8時20分過ぎに同じ湿地を再訪したところ、8時21分に1個体が、8時38分にもう1個体が、それぞれ羽化しているのを見つけました。

写真5は後者の個体の8時46分時点での様子を、ほぼ真横から撮影したものです。

今年4月の別の所でのムカシトンボの撮影(関連記事はこちら)では活かしきれなかった、デジタル一眼レフカメラ用のアングルファインダーが、今回は役に立ってくれました。

ハッチョウトンボの羽化 
写真5 羽化直後のハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♀(別個体)


光が透けて見える腹と透けない頭・胸

写真5の個体も、同じように、ミズトクサの茎に幼虫が定位して羽化していますが、逆光のため腹部が透けて見えます。

その一方で、胸部や頭部は透けて見えません。
これは、それぞれ飛翔筋、複眼の内部組織等が実質化しているために、透過光を遮るからに違いありません。

飛翔筋・複眼とも、翅が硬化して処女飛行に飛び立つ瞬間から、基本的な機能を発揮させる必要がありますので、器官・組織の早期完成は不可欠です。

写真5の段階で透けて見える腹部には、消化管、内部生殖器、そして腹を動かすための筋肉などが内蔵されていますが、これらは飛翔筋や複眼ほどには早期の完成を必要としていないと考えられます。
それに、腹部の伸長も途中ですから、腹全体の更なる伸長に対応できる柔軟さの維持も求められるでしょう。

このような事情が、この羽化ステージでの腹部の半透明感を演出しているといえるでしょう。


羽化後の時間経過と外見の変化(続き)

写真6写真5の個体の9時04分時点での様子です。

ハッチョウトンボの羽化 
写真6 羽化直後のハッチョウトンボ Nannophya pygmaea (写真5と同一個体)

写真5の時点にくらべて、腹部が少し細長くなり、腹長は翅長の7割程度に達して、成虫の腹長にかなり近づいます。

別個体ですが、より初期の写真3の時点の個体よりも、脚や翅胸側面の濃色斑の黒味が強まっています。

写真7は、初日(6月2日)の9時32分にこの湿地で撮影した別個体で、すでに脱殻からはなれたところまでよじ登った羽化当日の♀です。

ハッチョウトンボ、羽化後 
写真7  羽化当日のハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♀(別個体)

翅を開き腹部に♀特有の斑紋パターン(褐色、白、黒の横縞の繰りかえし)が、うっすらとですが出ています。

翅の縁紋も白かったものが薄い灰色にまで着色しています。
脚の黒味も増しています。
複眼の着色は相変わらず弱いです。

そして、水平にとまるのではなく、鉛直にぶら下がるように植物の茎にとまっています。

これらは、いずれも羽化当日のハッチョウトンボの特徴といえるでしょう。

次回記事では、羽化直後の写真7のような色彩をした成虫が成熟につれてどう体色を変えていくかについて写真をもとに考察します。

謝 辞

現地をご案内くださった月井さんに、心よりの感謝の意を表します。


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2018-05-21 (Mon)
今年の5月1日、好天のもと、ムカシトンボ観察を主目的に、車で自宅から日帰り圏にある山地の渓流部にプチ遠征した際に、最初に出迎えてくれたのは、うら若きアサヒナカワトンボ Mnais pruinosa Selys 1853(注*)たちでした。

今回はその状況を報告するとともに、成虫出現初期や後期の個体と比較した上での本種の羽化後の体色変化について簡単に整理することにします。


目 次
 ◆最初は、無色翅型♂
 ◆次はうら若き♀が
 ◆最後は橙色翅型♂
 ◆体色と成熟度
 ◆橙色翅型♂の体色変化
 ◆無色翅型♂の体色変化
 ◆♀の体色変化
 ◆まとめ


最初は、無色翅型♂

その日、私は、今年初めてムカシトンボ♂を観察・撮影した渓流の一角(関連記事はこちら)へとつながる林道のゲート手前で車を停めました。

徒歩で沢の上流方向へと進んでいくと、しばらくして、沢斜面の低木の葉の表面に、1頭のアサヒナカワトンボの無色(透明)翅型♂がとまっていました(午前10時16分)。

私がカメラを構えて近づくと、すぐ近くの別の低木の葉にとまり替えました(写真1)。

アサヒナカワトンボ無色翅♂ 
写真1 アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 無型♂ (写真はクリックで拡大します)

この無色翅型♂が、今シーズン最初のカワトンボ撮影のモデルになってくれました。


次はうら若き♀が

私がムカシトンボの姿を求めて、この沢のより上流側へ歩を進めると、今度はアサヒナカワトンボの1♀が低木の葉にとまっていました(写真2)(10時43分)。

アサヒナカワトンボ♀ 
写真2 アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa ♀

写真2の♀は、この時期の無色翅型♂(写真1)と外見上は紛らわしいですが、腹部全体が円筒状でやや太く、尾端部と腹部第2節のつくりが♂と全く違う点に着目すれば意外と簡単に区別できます。

※ カワトンボ属の♀の翅は写真2のように、無色透明なのが一般的ですが、ニホンカワトンボ Mnais costalis Selys, 1869 では西日本で淡橙色翅型が広く出現します(参考過去記事[写真つき]はこちら;くわしくは、尾園ほか2012参照)。


最後は橙色翅型♂

上記の♀の発見地点付近は、沢の水も枯れ気味で、これ以上上流側を探索してもムカシトンボの姿は期待できないと判断し、私は折り返して下流側に歩を進めました。

すると、5,6分歩いたところで、今度はカワトンボの橙色翅型の♂1頭を見つけました(写真3)。

アサヒナカワトンボ橙色翅♂ 
写真3 アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 橙色翅型♂ 

この♂も、写真2の♀と同じ種類の低木の葉にとまっています。

私が何枚か写真をとっていると、おっと飛び立ちました(写真4)。

アサヒナカワトンボ橙色翅♂ 
写真4 アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 橙色翅型♂ 同一個体

トンボはピンボケとなりましたが、動きがあり、ちょっとユーモラスなシーンです。

この後、この♀は、また同じ葉にとまりました。

今季初対面のカワトンボとの出会いのスケッチはこれくらいにして、以下、今回の写真と過去に撮影した同種成虫の写真とを比較しながら、成虫期の進行にともなう体色・翅色の変化について、簡単に整理します。


体色と成熟度

カワトンボ属の成虫は、他の多くのトンボ同様、羽化後の成熟とともに、体色や翅色を変化させます。
 ※過去記事「お化粧開始!:カワトンボ橙色型♂」も参照。

以下に、2016年4月6日(出現初期)に別の山系に属する細流の河畔林で撮影したアサヒナカワトンボの二型の♂と♀の写真と、2017年6月上旬(出現後期)に河川中流域の傍流畔で撮影したアサヒナカワトンボの二型の♂の写真を過去記事から再掲します。

中間の時期にあたる今回撮影の写真も比較のため再掲します。

4月と6月の写真の個体群の生息地は、いずれも今回(5月)の生息地と異なりますし、また同じ個体群内でも個体変異が存在します。

しかしそれぞれを代表と考えれば、大まかな傾向は見て取れるでしょう。


橙色翅型♂の体色変化

まずは橙色翅型♂です(写真5、3、6)。

Mnais_costalis_160406_A  
写真5 アサヒナカワトンボMnais pruinosa 橙色型♂(過去記事から再掲) 2016年4月6日(出現初期)

アサヒナカワトンボ橙色翅♂ 
写真3(再掲) アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 橙色翅型♂ 2018年5月1日(出現前期)

アサヒナカワトンボ橙色翅型♂
写真6 アサヒナカワトンボ橙色翅型♂(過去記事から再掲) 2017年6月上旬(出現後期)

出現初期写真5)の個体は、体の表面に白粉が吹いておらず、翅の発色も不十分で、翅前縁中央部に帯状に伸びている不透明斑の発色不足が目立ちます。

また、カワトンボ♂の、♀との大きな違いの一つである、縁紋の赤色が発現されておらず、白っぽいままです。

※ 羽化後の日数がまだ少ないと思われるこの個体は、人間の発達段階に例えれば、児童期の段階のものといえるでしょう。

一方、出現後期写真6の♂では、体表は真白に粉が吹き、翅も美しい琥珀色を見せつけています。
そしてもちろん、不透明斑の白っぽさは消え去り、縁紋は真っ赤で、「完熟」個体であることを見せ付けています。

※ 人間の発達段階に例えれば、青年後期を通り越した成人期の段階に相当します。

今回記事の主役の一員である写真3の♂は、翅の発色が進んでいないところでは出現初期(写真5)の個体に近いですが、体表、とくに胸部や腹端部にうっすらですが白粉が吹き始めています。

※ このことから、今回記事のこの♂は出現中期で性的成熟も中間段階にあること、人間の発達段階に例えるなら思春期(青年前期[+中期])にあるということができるでしょう。

この体色変化の段階を参考にすることで、今回記事のアサヒナカワトンボは出現前期(ただし、初期ではない)に相当すると判断しました。

今年(2018年)は、温暖な春ということで、関東地方でも例年より1週間ほど早く生物季節が進行していましたが、今回の観察ポイントは、沢の上流部(つまり、いくらか冷涼)ということで(写真5,6を撮影した)、より下流部に比べて生物季節の進行が遅くなっているのでしょう。
 

無色翅型♂の体色変化

次は無色翅型♂です(写真7、1、8)。

  Mnais_costalis_160406_B 
写真7 アサヒナカワトンボMnais pruinosa 型♂(過去記事から再掲) 2016年4月6日(出現初期)

アサヒナカワトンボ無色翅♂ 
写真1(再掲) アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 無型♂ 2018年5月1日(出現前期) 

アサヒナカワトンボ無色翅型♂
写真8 アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 無色翅型♂(過去記事から再掲) 2017年6月上旬(出現後期)

出現初期写真7)の個体は、同時期の橙色翅型♂と同様、体の表面に白粉が吹いておらず、縁紋も白っぽいままです。

※ 人間でいえば児童期。

一方、出現後期写真8の♂では、体表は腹部の中間部と翅胸背面・側面を残して白粉が吹き、縁紋には赤味が発現しています。

※ 人間でいえば青年後期から成人期。

今回記事の主役の一員である写真1の♂は、体表にうっすらですが白粉が吹き始めていますが、縁紋は白いままです。

※人間でいえば思春期。


の体色変化

最後はです(写真9、2、10)。

Mnais_costalis_160406_C 
写真9 アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♀(過去記事から再掲)2016年4月6日(出現初期)

アサヒナカワトンボ♀ 
写真2(再掲) アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa ♀ 2018年5月1日(出現前期)

カワトンボ♀ 
写真10 アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♀ 2017年6月5日(出現後期)(新規掲載)

出現初期写真9)の♀個体は、体の表面に白粉も汚れも一切なく、新鮮な印象を与えます。翅も同様です。

※ 人間でいえば児童期。

一方、出現後期写真10の♀は、昨年6月5日(出現後期)に、写真5~9の生息地の山系と互いに隣接する山系に属する生息地で撮影した、アサヒナカワトンボ♀です(新規掲載)。

この♀は、腹端部や翅胸部腹面などにうっすらと白粉を吹き、翅の汚れや曇りが目立っています。
ただし、♂と異なり、成熟さらには老化が進んでも縁紋は白いままです。

※ 人間でいえば青年後期から成人期。

今回記事の主役の一員である写真2の♀は、尾の先端や脚の腿節・脛節に極うっすらと白粉が吹き始めていて、翅にも若干、曇りと硬さが増しているようにうかがえます。
※人間でいえば思春期。


まとめ

というわけで、今回私を出迎えてくれたアサヒナカワトンボ達は、いずれも人間でいえば思春期真っ只中、もう少しすれば青年後期として婚活に勤しむようになる、そういう段階にある元気な仲間であり、ライバル達だったようです。

※児童期、思春期、青年期、成人期はあくまでも人と並べた場合の例えで当ブログ記事で比喩的に使用したもので、昆虫を材料にした科学論文での使用は適しません(言うまでもありませんが)。ブログで親しみを込めて用いやすい、これ以外の人間社会用語、「青春」「婚活」「結婚」「不倫」「離婚」なども同様です。ただし、「求愛」courtship は昆虫を含め、動物行動学で古くから用いられていますので、これに限っって論文での使用に問題はありません。


引用文献:

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。


*注(過去記事から再掲):カワトンボ属Mnaisは、日本に2種(二ホンカワトンボMnais costalis Selys, 1869とアサヒナカワトンボM. pruinosa)が分布しており、両種の分布が広域的に重なっているところ(同所的分布)もあれば、戦国時大名のように領域を分け合っているところ(側所的分布)もあります。
 同所的に分布しているところでは、形質置換が起こり、両種の形態的差(翅脈の横脈数、翅の不透明斑のサイズなど)が明瞭になるため、生態写真からの種の同定は比較的正確に行えますが(下記リスト記事1&2を参照)、側所的分布の場合は、幼虫の尾鰓の形態は別として、形態的特徴だけからの種の同定は非常に困難で、DNAによる判定が得られるまでは確信が持てません(下記リスト記事3を参照)。
 ただし、側所的分布であっても、最近のDNA判定を採用した研究により、どちらの種が分布しているから判明している場合には、その研究を信頼してどちらか一方の種名を充てることが可能となります。
 今回は、苅部ほか(2010)に依拠して、アサヒナカワトンボと判定することができました。

参考となる、以前の記事:

注の引用文献:
苅部治紀・守屋博文・林 文男(‎2010):神奈川県を中心としたカワトンボ属の分布。Bull.Kanagawa prefect. Mus. (Nat.Sci.),(39):25-34.


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2018-04-04 (Wed)
夏日が予想された今日の昼前、快晴のもと、さいたま市内の公園2カ所を回りトンボ探しをしました(トンボ撮影時点でのアメダス気温は24℃前後(この日の最高気温は15~16時台に26℃越え)。

比較的広い園地内のいくつかの池を一通り巡り、終点にしていた真夏にはガマ属の植物が生い茂る浅い池(写真1)を半分回り、「まだトンボは出ていないか・・・」と半ばあきらめかけた時、足元から小さなイトトンボがフルフルと舞い上がりました。

アジアイトトンボを観察した公園の池 
写真1 今シーズン最初のトンボが観察された池(さいたま市の公園内)(写真はクリックで拡大します)

羽化してまだ日が浅いテネラル成虫独特の飛び方です。

見失うことなく、岸にほど近い枯草にとまるところを確認することができました。

カメラを構えそーっと近づきました。

そこにいたのは、私にはすっかりお馴染みの種となった、アジアイトトンボ Ischnura asiatica (Brauer, 1865) の♂です(写真2)。

アジアイトトンボ♂未熟個体 
写真2 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♂

上の写真が、焦点リングを微妙に動かしながら50回シャッターを押した中の、ベストショットです(ISO=640、1/200、f=13、FL=250mm)。

下の写真は、同じ個体を少し前方から撮ったものです(撮影時点はこちらが先)。

アジアイトトンボ♂未熟個体 
写真3 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♂、同一個体

黒い鼻の下に黒いチョビ髭の顔と、対面です。

おや、足もとに何か、小さな虫が・・・・。

拡大すると。。

アジアイトトンボ♂未熟個体とゾウムシ 
写真4 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♂(同一個体)の足下のゾウムシ

どうやらゾウムシの一種のようです。

このトンボを、もっと接近して短焦点マクロで撮影しようと近づいたところ、飛び立って空高く舞い上がってしまいました。


成熟に伴う色彩変化(異なる時期間の比較)

さて、一見して未成熟な色彩や硬化度を見せていたこの個体ですが、成熟個体とどう違うのでしょうか?

トンボ図鑑やトンボ専門ブログには、成熟に伴う色彩変化が述べられていることが多いですが、この際、自分がこれまでに撮影した写真同士を比較して、その違いをこの眼で確かめたくなりました。

まずは、今回撮影したアジアイトトンボ♂(羽化後、日の浅い個体)の写真2を下に再掲します。

アジアイトトンボ♂未熟個体 
写真2 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♂(再掲)さいたま市、4

比較対象は今回の個体に加えて、以下の2個体です。

(1)埼玉県上尾市で6月に撮影したアジアイトトンボ♂(ある程度成熟が進んだ個体)(写真5)(登場ブログ記事はこちら

アジアイトトンボ ♂
写真5 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♂ (再掲) 上尾市、6月 

(2)関東北部で9月に撮影したアジアイトトンボ♂(かなり成熟が進んだ個体)(写真6)(登場ブログ記事はこちら

アジアイトトンボ♂
写真6 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♂ (再掲) 関東北部、9月

複眼の色彩:
複眼の背面は、さいたま市4月の個体では、乳濁した茶紫色;上尾市6月の個体では、透明感茶紫色;関東北部9月の個体では、焦げ茶色。

複眼の側面は、さいたま市4月の個体では、乳濁した紫;上尾市6月の個体では、やや透明な白っぽい薄紫;関東北部9月の個体では、薄い黄緑色。

胸部の色彩:
胸部淡色部の地色は、さいたま市4月の個体では、紫がかった水色;上尾市6月の個体では、薄い水色;関東北部9月の個体では、薄い黄緑色。

脚の腿節背面の黒斑は、さいたま市4月の個体では、まだ薄い;上尾市6月の個体では、はっきり黒化、ただし小斑(地理変異?);関東北部9月の個体では、はっきりとした黒色。

翅の色彩:
翅脈は、さいたま市4月の個体では、淡褐色;上尾市6月の個体では、黒色;関東北部9月の個体では、黒色、ただし前縁脈などは淡褐色。

縁紋は、さいたま市4月の個体では、灰色;上尾市6月の個体では、黒色だが周辺が少し灰色、ただし後翅の縁紋は灰色で中央が黒い;関東北部9月の個体では、黒色。

腹部の色彩:
腹部第9節背面は、さいたま市4月の個体では、灰色がっかった薄青紫;上尾市6月の個体では、ややくすんんだ薄紫味のある白色;関東北部9月の個体では、澄んだ水色。


成熟に伴う色彩変化のまとめ

以上の比較結果をまとめる前に、押さえておくことがあります。

アジアイトトンボは年に2化以上することが分かっていますので(尾園ほか、2012)、4月、6月、9月の出現順は、必ずしも羽化後の経過日数が短い順とは限りません。

また、同じ関東地方とはいえ、撮影場所が異なりますので、体色に関して地域変異が存在する可能性があります。

更に同じ撮影場所、つまり同一個体群内に、色彩の異なる遺伝子型が複数存在することがありえます。

実際、黄緑色が普通のアジアイトトンボ♂の中に、青色型も存在することが知られています(杉村ほか、1999)

カメラは同じカメラを用いましたが、撮影条件、現像条件、パソコン画面の性能の差などによっても、色彩は微妙に異なりえます。

さて、本論に戻ります。

複眼の色彩を見ると、どの種でも未成熟個体に見られる傾向である、乳濁感が4月→6月→9月の順に消失していきますので、この順に成熟度が進んでいることが強く示唆されます。

したがって、複眼背面の濃褐色、側面の黄緑色は、成熟が進むことによって発現してくるようです。

胸部淡色部の地色は、薄い水色だったものが、成熟が進むことによって薄い黄緑色へと変化するようです。

翅脈は、淡褐色だったものが、成熟が進むことによって黒色になっていきます(これは多くのトンボの種に共通)

縁紋は、灰色だったものが、成熟が進むことによって黒色になっていきます(これも多くのトンボの種に共通)

腹部第9節背面は、灰色がっかった薄青紫ったものが、成熟が進むことによって、澄んだ水色になっていくようです。

このことは、アジアイトトンボ♂が成熟すると、複眼側面や胸部側面が黄緑色になるのに対し、腹部第9節背面は澄んだ水色になるという、目立つ色をコーディネートさせる形で「変身」することがわかります。


引用文献

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司 (1999) 『原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』。北海道大学図書刊行会。


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2017-05-13 (Sat)
大型連休が明けて2・3日過ぎた晴天の日。
夏日の天気予報下、自宅から日帰り圏の低山地にトンボたちの青春を探しに行きました。

人里から少しはいった道路脇に車を停め、渓流沿いの林道を上流に向って歩きはじめると、早くも アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa Selys 1853* の面々が川岸の低木の枝から別の枝へとまり替えるなどして、出迎えてくれました(写真1~5)。

アサヒナカワトンボ橙色翅型♂
写真1.アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 橙色翅型♂ 
    (写真はクリックで拡大します)

写真1の橙色翅型♂は、体表に白粉が吹きはじめ、縁紋の色も赤味が強くなってきていて、いくらか成熟が進んでいる様子です。

アサヒナカワトンボ橙色翅型♂、未熟 
写真2.アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 橙色翅型♂、やや未熟

写真2の橙色翅型♂は、体表の白粉はほとんどなく、縁紋の色も赤よりはずっと白に近く、さらには複眼の透明感もまだ不完全で、写真1の個体にくらべても、羽化後の日数があまりたっていないことがわかります。

アサヒナカワトンボ無色翅型♂(1)
写真3.アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 色翅型♂

写真3は無色翅型♂です。
カワトンボ♂には基本的に橙色翅型と無色(透明)翅型の二型があり、集団内で型間の比率はそれなりにバランスがとれているようです。

♀は無色(透明)翅型が基本ですが、2種共存地域のニホンカワトンボでは淡橙色翅型が現れることがあります(参考記事2)。

写真3の無色翅型♂は、縁紋の色が写真2の橙色翅型同様に白に近いことから、成熟の途中であることがわかります。

アサヒナカワトンボ無色翅型♂(2)
写真4.アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 無色翅型♂(別個体)

それに対して、写真4の無色翅型♂は、縁紋の色がすでに鮮やかな赤になっていることから、かなり成熟した個体であることがわかります。

橙色翅型♂と無色翅型♂が混在しているケースでは、橙色翅型♂で成熟とともに白粉が強く吹くのに対し、無色翅型♂は成熟してもあまり白粉を吹かないことが多いようです。

写真4の個体も例外ではなく、白粉は写真1の橙色翅型♂にくらべて、あまり目立ちません。

話題が反れますが、写真4の♂、腹部と翅がサンドイッチのように1枚の葉をはさんでいますね。
普通に、パッととまった場合はこのようになるとは考えられませんので、今とまっている葉のもう少し先端近くに、頭は葉の元の方に少し向けてとまったあと、背方から見て反時計回りに体が回転するように歩いて向きを変えたために、葉の上と下に翅と腹部が別れたのではないでしょうか。

私が撮影していたときには、とくにそのような動作に気づきませんでしたので、あくまでも想像にすぎません。
読者の方で別の仮説を思いつかれた方がおられましたら、コメント欄でお知らせください。

アサヒナカワトンボ♀
写真5.アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa ♀

さてさて、最後に登場したのは♀です(写真5)。

縁紋の色は鮮やかな白です。♀の場合、成熟しても縁紋は赤くなりません。
これは、同種の個体同士が眼の前の相手の性を識別する際に重要な役割を果たしているはずです。
そのほか、腹部の形態の違いや動作の特徴なども性識別に利用されているでしょう。

メスはまた、体表に白粉を吹く傾向も♂に比べればないに等しく、これも性識別に援用されるでしょう。

その点、縁紋が赤いことを除けば、無色翅型♂の外見は♀にかなり似ていることになります。
これは、♂の一部が同種の♀に擬態することで、強いなわばり行動を示す橙色翅♂による排撃行動を少しでも回避しやすくなり、なわばりに出入りする♀を横取りするという配偶戦略として解釈することが可能です。
このあたりのことは、東・生方・椿(1987)の中の一つの章で詳しく書いたことがあります。


*注:カワトンボ属Mnaisは、日本に2種(二ホンカワトンボMnais costalis Selys, 1869とアサヒナカワトンボM. pruinosa)が分布しており、両種の分布が広域的に重なっているところ(同所的分布)もあれば、戦国時大名のように領域を分け合っているところ(側所的分布)もあります。
 同所的に分布しているところでは、形質置換が起こり、両種の形態的差(翅脈の横脈数、翅の不透明斑のサイズなど)が明瞭になるため、生態写真からの種の同定は比較的正確に行えますが(下記リスト記事1&2を参照)、側所的分布の場合は、幼虫の尾鰓の形態は別として、形態的特徴だけからの種の同定は非常に困難で、DNAによる判定が得られるまでは確信が持てません(下記リスト記事3を参照)。
 ただし、側所的分布であっても、最近のDNA判定を採用した研究により、どちらの種が分布しているから判明している場合には、その研究を信頼してどちらか一方の種名を充てることが可能となります。
 今回は、苅部ほか(2010)に依拠して、アサヒナカワトンボと判定することができました。

参考となる、以前の記事:

引用文献:
東 和敬・生方秀紀・椿 宜高(1987)『トンボの繁殖システムと社会構造』東海大学出版会。
苅部治紀・守屋博文・林 文男(‎2010):神奈川県を中心としたカワトンボ属の分布。Bull.Kanagawa prefect. Mus. (Nat.Sci.),(39):25-34.


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