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2018-10-22 (Mon)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征*の2日目は、地元の昆虫研究家、飯田貢さんらのご案内のもと、1日目とは方面の異なる地域の4カ所を順に訪れ、南国のトンボ、ベニトンボを含む多様な虫達との出会いを経験することができました。

(* この四国でのトンボ探訪記は、シリーズ物として、これまでに13編の記事にしています[記事一覧はこちら])。

第14報の今回は、前回記事に続いて、この日2番目の訪問地である沢地の林縁草地で見た虫達についての「その2」として、2種のクモ、すなわち、オオトリノフンダマシ Cyrtarachne inaequalisトリノフンダマシ Cyrtarachne bufo 写真1)についての報告です。

トリノフンダマシ 
写真1 トリノフンダマシ Cyrtarachne bufo(写真はクリックで拡大します)


目 次:
 ◆第二の訪問地(沢地):トリノフンダマシたちに出会った場所
 ◆オオトリノフンダマシとの出会い
 ◆オオトリノフンダマシとの出会い
 ◆画像を回転させると、おやおや!
 ◆紡錘形の揺りかご?
 ◆トリノフンダマシも控えていた
 ◆似ているのは鳥の糞、それともカエル?
 ◆またまた180度回転!
 ◆ポツンと一つ、円い揺りかご
 ◆SNSでのオオトリノフンダマシ画像への反響
 ◆謝辞
 ◆引用文献


第二の訪問地(沢地):トリノフンダマシたちに出会った場所

この訪問地(写真2)は沢地の片斜面がやや平坦になった場所で、向い及び背後の斜面は鬱蒼とした樹林(主に広葉樹)になっていました。

マユタテアカネ、ナツアカネのいた沢地の林縁草地 
写真2 トリノフンダマシ2種が見られた沢地の林縁草地 (前回記事から再掲)

観察ポイントは、その平坦地の一角で、セイタカアワダチソウなどの草本や幼木・低木が生い茂っているところです。

この訪問地には、午前10時少し前に到着して、皆で林縁部の低木の枝葉や、草の葉先などに虫たちの姿を求めました。


オオトリノフンダマシとの出会い

そこで、トンボよりも何よりも先に、私の目に入った虫は、奇妙な色かたちをした1頭のクモでした(写真3)。(時刻:‏‎10:04:04)

オオトリノフンダマシ 
写真3 オオトリノフンダマシ Cyrtarachne inaequalis

大きな三角形の腹部の前方には小さな頭胸部が、申し訳のように、ついていて、折り畳んだ長めの脚が2~3対と小さな触手が見えていることから、クモの一種だというところまでは見破ることができました。

近くで別の虫を探していた飯田さんに、「このクモ、何ですかね?」と私は尋ねます。

飯田さん:
「どれどれ。あ~! これはオオトリノフンダマシですよ。ちょっと探せば卵嚢も見つかると思いますよ。」

「そうなんですか。あまり鳥の糞に見えないですけどね。。でも面白い顔してますね。顔じゃないけど(笑)。。」
と、私。

顔に見えるのはクモの腹部ですが、その腹部背面の模様は、左右の二つの大きな眼でこちらを睨みつけているかのような錯覚を、見る者に起こさせるだろうと思います。

顔の形(実際は腹の形ですが)は逆三角形ですから、カマキリとかカエルの頭部を連想させます。


画像を回転させると、おやおや!

※ 帰宅後、ネット検索すると、カエルの他に、ヘビに似ていることに言及しているサイトも散見されました。

「でも、こんな逆三角で口を閉じていたら、カエルでもヘビでも、迫力がないでしょう!」と思いたくなります。

しかし、この画像を180度回転させてみたら。。。

ぱっくり口を開いて、舌なめずりしているではありませんか(笑)!」(写真4)。

オオトリノフンダマシ、180度画像回転 
写真4 オオトリノフンダマシ Cyrtarachne inaequalis (写真3を180度画像回転させたもの)

現地の観察の時には気づきませんでしたが、ネット上の情報によれば、この偽物の眼の周りの「隈取り」のような黒色の模様は、腹部の表皮の内側で体液が流動するために、ゆらゆら動くように見えるのだそう。

実際に、下記サイト(外部リンク)にアップロードされているオオトリノフンダマシ、もしくはその近縁種の動画では、その「活き活きした」動きを見ることができます。

Nicky Bay: "Mystery of the Pulsating Spider" (日本語訳:脈動するクモの神秘)
 
「その活き活きした動き」は、眼の周りだけでなく、下顎や舌にも見られます。

こうなると、このクモは、自分の体を、動くはずのない鳥の糞ではなく、目や口が動くカエルやヘビのような脊椎動物に似せているに違いない、という確信が生まれてきます。

※ この擬態の生態的メカニズムや進化プロセスに関しては、次回以降の記事で改めて取り上げる予定です。


紡錘形の揺りかご?

さて、観察地点に話をもどします。

私がオオトリノフンダマシの撮影を終えて、アカスジキンカメムシの1齢幼虫のサンプルを採取している、飯田さんにカメラを向けていた時です。

「あったよ~、オオトリノフンダマシの揺りかご!」と、同行の山本さんから声がかかりました。

「え、なにこれ?」と、口をあんぐりしながら、山本さんに引き続いて撮ったのが、写真5(オオトリノフンダマシ卵嚢)です。(時刻:‏‎10:05:08)

オオトリノフンダマシ卵嚢
写真5 オオトリノフンダマシ Cyrtarachne inaequalis の卵嚢

多くのクモが卵嚢をつくることは私も知っていましたが、このように紡錘形をして、しかも数個が寄り集まるようにぶら下がっているのを想像したことはありませんでした。


トリノフンダマシも控えていた

この訪問地では、この後、アカスジキンカメムシの1齢や終齢などの幼虫、そしてマユタテアカネの観察・撮影ができ、そろそろ次の目的地へ移動することになるかな、と思い始めていた時のことです(午前10時18分)。

飯田さんらお三方が、何かを見つけて盛り上がっています。

指さす先を除きこむと、そこにはまた別のクモが(写真1、再掲)。

トリノフンダマシ 
写真1(再掲)トリノフンダマシ Cyrtarachne bufo

オオトリノフンダマシと形や仕草は良く似ていますが、模様が随分ちがいます。

「あー!凄いですね。さっきのと別の種類じゃないかな?」と私。

飯田さん:
「こちらのほうが、トリノフンダマシです。可愛いでしょ?!」

「あ、はい。。」


似ているのは鳥の糞、それともカエル?

トリノフンダマシの学名は、Cyrtarachne bufo

Bufoはヒキガエルの属の学名ですから、このクモに学名をつけた分類学者は、この腹部の形や模様からカエルの顔を連想したのでしょう。

カエルにしては、ハート形の腹部の尖ったほう(腹端部)周辺が白っぽいところに違和感がありますが、たしかに大人しそうなカエルに見えなくはありません。

しかし、眼の模様のインパクトが弱いことと、白と灰色が不規則なグラデーションつきでミックスされていて、トリノフンダマシの方は、オオトリノフンダマシにくらべたら、少しは鳥の糞にも似ています。


またまた180度回転!

帰宅後、今回のブログ記事作成の過程で、トリノフンダマシの画像も180度回転させてみました(写真6)。

トリノフンダマシ、180度画像回転 
写真6 トリノフンダマシ Cyrtarachne bufo  (写真1を180度回転させたもの)

すると、どうでしょう。

口を半開きにして、太い舌をベロンと出し、こちらをジロジロ見ています。

葉の隙間からヘビかカエルが首だけ出し、こちら(潜在的捕食者)を挑発しているようです。
「来るなら来い」と。

こういう場合の賢明な対応は、「君子危うきに近寄らず」ではないでしょうか?

トリノフンダマシの腹面の色彩パターンと、頭胸部、脚、触手を含めた全体の形態表現は、上述のような対捕食者戦略としての擬態のように思われます。
 

ポツンと一つ、円い揺りかご

話を現地のその時刻に戻します。

同じ木の別の枝の葉に、またクモの卵嚢らしきものがぶら下がっているのを、飯田さんが指さして私に目くばせしました(写真7)。

トリノフンダマシ卵嚢 
写真7 トリノフンダマシ Cyrtarachne bufo の卵嚢

「これ、わかります?」と飯田さん。

「もしかして、これがトリノフンダマシの卵嚢?」と私。

「ピンポーン!」と山本さん。

飯田さんも頷きます。

「へ~。木の実と間違えそうですね。それも美味しくないやつに(笑)。」

一番弱い存在である、卵や初齢幼虫たちを、このように風雪から守り、天敵からも目を反らせさせるような袋、それも自分で紡いだものに収めて、少しでも多くの子孫を残そうとするこのクモを、少し尊敬してしまいました。

卵嚢を食い破って巣立つ子グモたちは、振り返り見ながら、「お袋さん、ありがとう。」と心の中でつぶやくのかもしれません(おとぎ話にしたとしたら)。


SNSでのオオトリノフンダマシ画像への反響

帰宅後、昆虫関連のSNSグループに、上掲のトリノフンダマシ2種の画像を、マユタテアカネおよびアカスジキンカメムシの画像とともに、投稿したところ、グループメンバーのお一人である、有本 智さんから、「オオトリノフンダマシ、ムンクの「叫び」を思い出す・・・」とのコメントを頂きました。

下に、そのオオトリノフンダマシの写真3を再掲しておきます。

オオトリノフンダマシ 
写真3(再掲) オオトリノフンダマシ

私(おそらくメンバーの他の誰ひとりも)が、想像すらしなかったコメントでした。

私の返答コメントは、「ホントですね!」。

頬骨を境に顔の下半分を両手の平で挟み、うつろな表情をした人の顔が、たしかにそこにあります。

これは、自然の嘘(擬態)というより、自然の意図せざる悪戯といえるでしょう。

というのも、ムンクがこの作品を描いた後の現代人が現れるまでは、「ムンクの叫び」に酷似していることは、何の意味も持たないからです。

むしろ、「ムンクの叫び」の両目にあたる二つの黒褐色の点は、写真4のように180度回転させた場合に、両生類・爬虫類の鼻孔に擬態していると見ることができるでしょう。

※今回取り上げたトリノフンダマシ2種の特徴的な色彩パターンが、どのように進化したかについては、擬態全体について網羅的に考察する記事に関連させる形で、新たな記事として、アカスジキンカメムシの擬態とあわせ、2・3回後の記事で、じっくり取り上げる予定です。

さて、本シリーズの次回記事では、四国秋のトンボ巡礼の第2日目の観察の第4報として、第3の訪問地である貯水池で見た、ベニトンボほかのトンボを取り上げる予定です。


謝 辞
現地に案内して下さった飯田貢さん、そしてその場にいた虫たちについて教示された、飯田さん、山本桂子さん、高橋賢悟さん、およびSNS上でユニークなコメントを寄せられた有本 智さんに、謝意を表したいと思います。
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