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2019-08-15 (Thu)
この夏(8月上旬;猛暑日)、トンボ研究家の夏目英隆さんにご案内いただき、マルタンヤンマ Anaciaeschna martini (Selys, 1897) の黄昏飛翔や、私にとって未知のコシボソヤンマ Boyeria maclachlani (Selys, 1883) が観察できる生息地2箇所を訪れました。

その際に観察されたヤンマ類については前回記事で報告しました。

今回記事では、それら生息地で観察されたヤンマ以外のトンボ、すなわちコオニヤンマ Sieboldius albardae Selys, 1886 、ミヤマアカネ Sympetrum pedemontanum (Müller, 1766) 写真1、ナツアカネ Sympetrum darwinianum Selys, 1883 、シオカラトンボ Orthetrum albistylum (Selys, 1848) 、オオシオカラトンボ Orthetrum melania (Selys, 1883) と、蝶2種(オオムラサキ Sasakia charonda (Hewitson,1863)、ミスジチョウ Neptis philyra (Ménétriès,1858))の横顔をご紹介します。

ミヤマアカネ♂
写真1 ミヤマアカネ Sympetrum pedemontanum (写真はクリックで拡大します)


目 次:
◆丘陵地の小河川には、やはり川好きのトンボ達が
◆里山の水際にオオシオカラトンボ
◆谷戸に華やぐオオムラサキとミスジチョウ
◆里地に戻ればナツアカネ
◆小規模な枝沢にトンボを探る
◆里山沿いの細流付近のトンボ
◆夕刻はやはりヤンマ・タイム?
◆シリーズ記事「ヤンマの舞う里」のまとめ
◆謝 辞
◆ハッシュタグ


丘陵地の小河川には、やはり川好きのトンボ達が

その日に夏目さんと最初に訪れた場所(12時50分~13時30分)は、樹林に沿ってゆったりと流れる丘陵地の小河川(写真2)でした。

コシボソヤンマが生息する小河川
写真2 コシボソヤンマが生息する小河川(動画静止画面のスクリーンショット)

樹林におおわれた川沿いの細道は、猛暑日とはいえ思いの他しのぎやすく、夏目さんの一帯での観察経験を伺いながら、トンボの姿を追い求めました。

前回記事にも書いたように、この日のこの小河川ではコシボソヤンマは観察できませんでしたが、樹の陰になった川岸の幼木の葉にとまるミヤマカワトンボ Calopteryx cornelia Selys, 1853 ♂が見られました(13時00分)。

夏目さんの話では、猛暑日の炎天を避けて日陰でなわばり静止しているのだろうということでした。

このミヤマカワトンボを私が動画で撮影している最中に、私の背後の岸沿いに、流れの上をオニヤンマ Anotogaster sieboldii (Selys, 1854)が通り過ぎていくのを夏目さんが目撃していました。

その前後には、流畔に生える高木の枯れた枝先には、コオニヤンマが、ぶら下がり気味にとまる様子も観察できました(写真3)。

コオニヤンマ♂
写真3 コオニヤンマ Sieboldius albardae ♂


里山の水際にオオシオカラトンボ

この日14時50分に到着した第二の観察場所は、農家が点在する里山地帯でした(写真4)。

猛暑日の里山と細流畔
写真4 猛暑日の里山と細流畔(一部ボカシ)

この里山の麓に沿った細流沿いを、夏目さんから各種トンボによる利用状況の説明を聞きながら歩いていると、ロープにオオシオカラトンボ♂がとまっていました(写真5)(14時53分)。

IMG_7840 okokオオシオカラ♂
オオシオカラトンボ♂
写真5 オオシオカラトンボ Orthetrum melania 


谷戸に華やぐオオムラサキとミスジチョウ

この後、谷戸(写真6)となっている枝沢沿いの小径に歩み入り、夏目さんとのトンボ談義に花をさかせながら進んでいくと、広葉樹の高いところの枝先をオオムラサキらしき大型の蝶が飛んでいました(15時36分)。

マルタンヤンマの黄昏飛翔が見られた谷戸
写真6 オオムラサキ、ミスジチョウも見られた谷戸(一部ボカシ)

夏目さんの長柄のネットで一時的に捕獲したところ、やはりオオムラサキで、帰宅後図鑑やネット情報から確認したところ♀であることがわかりました(写真7)。

オオムラサキ♀
写真7 オオムラサキ Sasakia charonda (この後、リリース)

まあ、腹の膨れ具合からお母さん蝶であることは素人にもわかりましたが(笑)。

そのあとも、なかなかトンボは現れず、目に留まったのはミスジチョウくらいでした(真8)(15時38分)。

ミスジチョウ♀
写真8 ミスジチョウ Neptis philyra 

レンズを向けていると、3本の白線が綺麗に平行になるように4枚の翅を開いてくれました。


里地に戻ればナツアカネ

この谷戸でのトンボ探訪をいったん終わり、そこから下りて、里山との細流と廃田に挟まれた農道を歩きはじめました。

すると、その廃田の中の枯草の茎の先に、ナツアカネ♂がとまりました(写真9)(15時45分)。

ナツアカネ♂
写真9 ナツアカネ Sympetrum darwinianum 

この個体を夏目さんがネットインして撮影に供してくれたことで(写真10)、ナツアカネの特徴の一つである翅胸側面の黒斑(第一側縫線黒条)の特徴(上端が直角にカットされること)がはっきりと確認できました。

ナツアカネ♂
写真10 ナツアカネ Sympetrum darwinianum ♂ 同一個体(この後、リリース)


小規模な枝沢にトンボを探る

このナツアカネをリリースしたあと少ししてから、小規模な枝沢の奥の池を見に行きましたが、近年でも観察されているヤブヤンマやタカネトンボの姿はありませんでした(前回記事参照)。

里地に戻る少し手前の水がチョロチョロ流れる沢斜面沿いの溝では、草木にとまるハグロトンボ Atrocalopteryx atrata (Selys, 1853) ♂も目撃できました。


里山沿いの細流付近のトンボ

そしてまた里地に戻ってからは、里山沿いの細流の水面上を飛ぶコシボソヤンマを目撃しています(前回記事参照)。

その後、この里山の細流と廃田の間の農道を歩くことで、シオカラトンボ♂写真11)(16時42分)とシオカラトンボ♀写真12)(17時17分)をそれぞれ撮影しました。

シオカラトンボ♂
写真11 シオカラトンボ Orthetrum albistylum 

シオカラトンボ♀
写真12 シオカラトンボ Orthetrum albistylum 

そのすぐ後には、ミヤマアカネ♂が道端の枯れ枝の先にとまっているのを見つけました(写真1、再掲)(17時18分)。 

ミヤマアカネ♂
写真1(再掲)ミヤマアカネ Sympetrum pedemontanum ♂

この♂の腹の色は、成熟した真っ赤な色には程遠いですが、若干赤くなり始めているようです。


夕刻はやはりヤンマ・タイム?

この後、少しずつ夕空に変わってきたので、オオムラサキやミスジチョウを見た谷戸に再度移動してマルタンヤンマの黄昏飛翔を観察・撮影しました(前回記事参照)。

この日の観察を終える直前の18時52分には、里地の細流のすぐ脇の農道でミルンヤンマを観察しました(前回記事参照)。


シリーズ記事「ヤンマの舞う里」のまとめ

コシボソヤンマ、マルタンヤンマ、ヤブヤンマなどのヤンマ類を求めてこの里山地帯を猛暑の中訪れたわけですが、終わってみればヤブヤンマを除く2種はたとえ短時間でも観察することができ、私が予期していなかったミルンヤンマにも会うことができましたし、脇役とはいえ、アカネ属 Sympetrum シオカラトンボ属 Orthetrum の種が各2種と存在感のある蝶2種の姿を楽しむこともできました。

謝 辞:
遠路にも拘わらず現地にご案内いただき、各種トンボの生息状況について詳細なご教示を賜った夏目英隆さんに心より感謝いたします。

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ハッシュタグ:
#トンボ #トンボの写真 #トンボの行動 #トンボの生態 #トンボのブログ  #赤トンボ #昆虫写真 #昆虫の生態 #ヤンマ #川のトンボ #蝶の写真

| トンボ:生態写真 | COM(0) | | TB(-) |
2017-09-10 (Sun)
トンボのブログを書く上で、少しでも魅力を高め、読者を退屈させないための必殺の(?)テクニックは、トンボの写真を添えることです。

そのためには、自前の写真を常にストックしておくことが必要となります。
というわけで、トンボ日和で時間にゆとりがある日には、カメラをぶら下げて、トンボのいそうな場所に出かけることになります。

これまで私は、デジタル一眼レフ(キャノンEOS7D)をトンボ撮影用に、生息地の景観などの撮影にはコンパクトデジカメ(リコーCX3)を使ってきました。


「焦点深度合成」と「プロキャプチャー」

近年、近接撮影したトンボ等、奥行きのある被写体の手前から奥まで全体にピントが合っているような写真が仕上がる「焦点深度合成」機能や、トンボが飛び立つ瞬間などを逃さず撮影できる「プロキャプチャー」機能を備えるカメラが量産されるようになり、昆虫写真愛好家の間で持てはやされるようになってきました。

しかし、その機能を備えたミラーレス一眼カメラを購入するとなると、本体と必要な交換レンズ等をあわせて軽く数十万円は飛んでいってしまいますので、そう簡単に手がでるものではありません。

そんな中、コンパクトデジカメのサイズながら、「焦点深度合成」、「プロキャプチャーモード」、「高速度動画」、「フル画素で20枚/秒の高速連写」などの機能を、従来よりの「水中撮影可」、「顕微鏡モード」などの機能に付け加えた、オリンパスTG-5が、コンバージョンレンズ、メモリーカード各1点をあわせても数万円という実売価格で発売になりました。

このような機能の宣伝文句を聞いているだけでは、買ってみようという気持ちになかなかならないものですが、昆虫写真の大家である海野和男さん、トンボを中心とした昆虫写真で気を吐いている尾園暁さんのお二人によるTG-5で撮影した作品例と使用感をブログ(「海野和男のデジタル昆虫記 」、「湘南むし日記」)やフェイスブックでときどき拝見するうちに、喉から手が出はじめていました。


TG-5発注が玉突き状態?

そういう私の背中を押してくれたのは、フェイスブック仲間のDさんのタイムラインでのエンターテインメント感が漂う購入報告です。

その翌日、私もネットショップに発注、それを知った私のフェイスブック仲間お二人の発注という、波及効果が起きました。

ところが丁度その時期に注文が殺到したらしく、製造元からの入荷に一か月以上待たされる情勢であることが判明しました。

待つしかないか、と思っていましたが、翌日、別のネットショップ市場を覗いてみると即日発送の店舗があることがわかり、即発注、そして最初の発注先にはキャンセルをいれました。
いずれもパソコンでクリック2回程度で済むのですから便利な世の中になったものです。


納品と撮り初め

昨日、それぞれ別個に発注したすべての付属品が揃い、家の周りでバッタや毛虫を相手にフルオート・モードでの使い始めをしました。

そして、今日、TG-5を試用してのトンボ撮影へと、近くの公園に出かけました。

ギンヤンマコシアキトンボも元気に飛び交っていましたが、時々岸辺にとまってくれるシオカラトンボ Orthetrum albistylum (Selys, 1848)を被写体に、初めての顕微鏡モード撮影と、焦点深度合成をトライしました。

顕微鏡モードでかなり接近して撮影したシオカラトンボ  ♂の頭部をトリミングしたのが写真1です。

シオカラトンボ♂、顕微鏡モードで撮影 
写真1 シオカラトンボ Orthetrum albistylum ♂、顕微鏡モードで撮影 (写真はクリックで拡大します)

今までの私の手持ちのカメラ+交換レンズでは殆どとらえられなかった、複眼表面のハニカム模様(個眼の並び)をとらえることができました。

この写真ではストロボがオート発光していて、その反射光が白っぽく見えます。
次回は購入済みのフラッシュディフューザーも試して、これがいくらかでも改善されるかどうか見ようと思います。


自動焦点深度合成

TG-5で、深度合成モードをセレクトして撮影すると、カメラには撮影時にピントを合わせたそのままの写真、つまり深度合成前の写真が1枚保存され、それに加えて、カメラ内自動深度合成後の1枚も保存されます。

下の写真2は、同じ場所(コンクリートの斜面)にとまった同じシオカラトンボ♂の全身を、斜め前方から写した写真のうち、焦点深度合成前のものです。

シオカラトンボ♂、深度合成前 
写真2 シオカラトンボ O. albistylum ♂、深度合成前

写真2を撮影する際には、頭部にピントを合わせて撮影していますので、腹部第5節あたりから後方は、あきらかにピントが合っていません。

下の写真3は、同じ写真の自動深度合成後のものです。

シオカラトンボ♂、深度合成後
写真3 シオカラトンボ O. albistylum ♂、深度合成後

深度合成語の写真3では、明らかに腹部後端までピントが改善されて、ほぼ全身にわたってディテールを確認できる仕上がりになっています。

これは癖になりそうです。

これまでの私のカメラの撮影では、イトトンボの交尾や連結産卵などの写真で、♂♀のどちらか一方だけにピントが合ったものしか得られず、苦し紛れに♂ピン、♀ピン各1枚ずつブログにアップした例が続いていましたが、今後、その必要は減少するだろうと思います。


プロキャプチャーモードには若干の忍耐も必要

ところで、今回、プロキャプチャーモードも1回だけ試みましたが、そちらの方は失敗しました。

その時の状況は次の通りです。

舗装された園路を歩きながら車に戻ろうとしていた私の前の路面にシオカラトンボ♀がとまりました。

そこでプロキャプチャーモードを試そうと、カメラを設定し、身をかがめ、飛び立つ瞬間を撮ろうとしました。

しかし、飛び立つまで待ち続けるのがじれったくなり、強制的に飛び立たせるために、かぶっていた帽子を脱いでトンボの近くに投げ落としました。

思い通り、トンボは飛び立ちましたが、帰宅後パソコン画面に現れたそのシオカラトンボの画像はブレブレでした。

この失敗から、今後はもう少し気長に構えないと、そして、棹の先などにとまった個体を真横から撮らないと、あまりよい写真が撮れないのだという教訓を体得することができました。

また、今回写真をアップした、顕微鏡モード、深度合成モードとも、カメラの細かい設定がいい加減でしたので、今後の実践的トレーニングでは、そのあたりも改善していかなければと思っています。


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2017-06-08 (Thu)
クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus Oguma, 1915 は同属のギンヤンマと並んで本州以南ではもっとも普通に見られるヤンマ科の種とされています。

私が本州に移住してデジタル一眼レフを首にかけて歩きまわるようになってから、ギンヤンマもクロスジギンヤンマも目撃する機会は多く、カメラを向けるのですが、♂たちはほとんどホバリングすることなく飛び回るものですからなかなか撮影に成功していませんでした。

そんな中で唯一見せられるレベルに撮れたギンヤンマ♂を3年前の9月にブログにアップしていますが(こちら)、これはホバリングした瞬間のものです。

私が5月末に里山の溜め池群を訪れた際も、沈水植物が豊富な比較的澄んでいる溜め池で、クロスジギンヤンマ1♂が水面上を勇壮に飛び回るのを観察することができました。

カメラを向けますが、全くホバリングしないでかなりの速度で飛び回っています。
ただし、高度は比較的安定し、岸にほび平行にほぼ一定速度で飛ぶ傾向があり、しかも目の前の同じ一帯を繰り返し通過します。

そこで、カメラのISO感度を3200と大きくとり、シャッター速度を1250分の1秒という最大速度に設定し、シャッター速度優先オートで、シャッターを押しまくりました。焦点距離はあらかじめこのあたりと狙いを定めた距離にしておき、そのあたりに近づいたときにファインダーをのぞくのではなく、自分の顔よりも低い位置にカメラを構えてレンズの先をヤンマの通る方向に向けて待ち構えました。

こうして350回シャッターを押した中からベストショットを選びだしたのが下の3枚の写真です。
いずれも多少のトリミングを加えています。

クロスジギンヤンマ♂(1)
クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus Oguma ♂(1)(写真はクリックで拡大)

 クロスジギンヤンマ♂(2)
クロスジギンヤンマ ♂ (2)

クロスジギンヤンマ♂(3)
クロスジギンヤンマ ♂(3)

このヤンマが観察された場所の写真を下に再掲しておきます。

沈水植物のある溜め池(2017年5月末)(1)
沈水植物の繁茂する浅い池(上流側を望む)

沈水植物のある溜め池(2017年5月末)(2)
同上の池(堤体部)。この水面上でクロスジギンヤンマ♂が観察された。

観察中、他の♂と追い合いをしてすぐにこの池に1♂が戻り同じように水面上のパトロールを続けたシーンが2,3回観察されましたので、おそらくナワバリとしてこの池のこの部分(堤体沿い、池の面積の数分の1程度)を防衛していたのでしょう。

さてさて、今回、なんとか人に見せられるような写真が撮れたのも、フェイスブック仲間のうちのトンボ写真のプロ・セミプロの皆さんによる、作品や撮り方の工夫談義から少しずつ学ばせていただいた成果かと思います。

まだまだ下手の横好きのレベルですが、少しずつでも進歩していければと思っています。

そうそう、観察を深めることも忘れずにいきたいです。


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2016-08-23 (Tue)
今年5月中旬、岐阜県の丘陵地帯でのトンボ探訪では、ムカシヤンマ、アサヒナカワトンボ、タベサナエ、アオサナエと豪華メンバーと初対面が続き(前回までのシリーズ記事参照)、私の運も使い果たしたのではと思い出した矢先、見たことのないサナエトンボが目にとまりました。

小川の湿った河原の苔むした石の上に中型のサナエトンボがとまっています。

カメラを構え、撮ってはそーっと近づきを繰りかえしながら画面一杯ちかくになるまで歩み寄ります。
その中のベストショットが写真1です。

ヤマサナエ♀(1)160513
写真1.ヤマサナエAsiagomphus melaenops (Selys, 1854)♀、(1)。 (クリックで拡大)

翅胸部の黄色と黒の縞模様が印象的です。

帰宅後、拡大画像と図鑑を照合した結果、この♀個体は、翅胸側面の黒色紋が2本あり、翅胸前面の黄色のL字型斑紋が中太の状態で折れていること、産卵弁が短いため腹部を側面から見た場合に見えないことから、ヤマサナエAsiagomphus melaenops *(Selys, 1854)であることが判明しました。

(*属の学名Asiagomphusは、「アジアのサナエトンボ」、種小名のmelaeno「黒い」+ops「眼」を意味します。しかし、その割に生体の眼は黒くありません。標本の眼であれば、黒っぽくなってもおかしくありませんので、命名者のSelysがその色からつけたとも考えられますが、それもあまり考えにくいです。浜田・井上(1985)ではopsを頭部を意味するとしています。私にはこれもしっくり来ませんので宿題とします。)

  → 追記(2016年9月18日):この宿題は片付けました。こちらの記事参照。結論を言えば、opsには「眼」という意味に加えて「顔」という意味があることが分かりました。したがって、ヤマサナエの学名の種小名の意味は「黒い顔」となります。

同属種の中ではキイロサナエAsiagomphus pryeri (Selys, 1883)によく似ていますが、キイロサナエでは翅胸前面の黄色のL字型斑紋がくびれた状態で折れていること、♀の産卵弁が長いため腹部側面からもよく見えると、図鑑(尾園、2012)に書かれています。

近縁の別な属の一員であるミヤマサナエAnisogomphus maacki (Selys, 1872)は、和名も似ていますが、ヤマサナエと形態も似ています。ただし、ミヤマサナエの後脚には小さい棘のような毛が列生し、腹部第8節背板側面には多きな黄色斑紋があります(ヤマサナエではそうなっていない)。

写真2は、同じ個体を写真1を撮る少し前に撮ったものですが、頭部が前方斜め左上を向いていていてユーモラスな雰囲気が出ていますので掲載しました。

ヤマサナエ♀(2)160513
写真2.ヤマサナエAsiagomphus melaenops ♀、(2)。 (クリックで拡大)

おそらく、その方向に小さな虫でも通りかかったのでしょう。
この頭部の位置取りは、胸部・腹部にくらべて頭部がバランス的に小さいことが強調されるだけでなく、顎が大きい割に、頭部上半分が前後に圧平された形であることを気づかせてくれます。

頭部上半分は脊椎動物でいえば大脳にあたる中枢神経が収められている場所ですから、このトンボの行動統御機能はよほど高機能な神経ネットワークで担われているか、それとも行動そのものがシンプルになっていて、特に高機能化していなくとも処理しきれているかのいずれかではないか、などと私は想像をたくましくしてしまいます。

おそらく後者ではないか、と考えてしまう私はサナエトンボに偏見を持っているのかもしれません。
今後の神経機能のと行動能力を結び付けた研究の進展に審判をゆだねたいと思います。

この♀を観察・撮影した場所から移動した、池のようになっている場所の草の上で、今度はヤマサナエの♂を発見し、撮影しました(写真3)。

ヤマサナエ♂160513
写真3.ヤマサナエAsiagomphus melaenops ♂。 (クリックで拡大)

これも帰宅後、図鑑と照合し、確実に同定することができました。

翅胸前面の黄色のL字型斑紋の折れ曲がり部分の形状および、尾部上付属器が下付属器とほぼ同長(キイロサナエ♂では尾部上付属器が下付属器よりも短い)である点が決め手になりました。

この♂、腹部の第4~6節とその前後がバットの握りのように絞れていてスマートです。
しかし、草の葉の上に体をあずけるように体軸を後方に傾けた状態でとまっていて、精悍さがあまり感じられません。

それもそのはず、この♂はまだ未熟だったのです。
というのも、複眼の色が一部茶色がかった灰色で、輝きがあまりありません。
成熟した個体の複眼は緑色を帯びて、生き生きとした輝きをはなっていまる(生態図鑑等の写真参照)。

この♂が沢山餌をたべて「成人」の体になり、軽快に婚活に精を出している姿を見たいものですが、埼玉県の自宅からここまで再訪するとなると大事です。
来年以降も、各地でトンボの観察を予定していますので、どこか別の所で再会できることを楽しみにしています。

引用文献:
浜田 康・井上 清 (1985) 日本産トンボ大図鑑。講談社。
尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012 )日本のトンボ。 文一総合出版。

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2016-08-21 (Sun)
今年5月中旬、岐阜県の丘陵地帯でのトンボ探訪では、ハラビロトンボLyriothemis pachygastra (Selys, 1878)を見ることもできました。

ハラビロトンボは、以前、私が住んでいた北海道では絶滅危惧種に指定されているほどに稀少な種であったこともあり、これまでの私にはあまりなじみのない種でした。

本州での出張調査時に、休耕田のような場所で見かけたことはありましたが、生態写真を撮る機会はありませんでした。

今回、アサヒナカワトンボを観察したその足で、少し離れた小さな池や小川のほとりを通った際に、そこに繁茂する抽水植物の葉にとまったり飛び立ったりしていた、ハラビロトンボの小ささと黒づくめのスタイルを目にした時には(写真1)、自分がおとぎの国に来たかのような錯覚に襲われました(ちょっと大げさ?)。

ハラビロトンボ♂(1)160513
写真1.ハラビロトンボLyriothemis pachygastra

名前が名前だけに、腹部は横幅が大きく*、平べったい形をしていて、どこか愛らしい雰囲気を醸し出しています。

(*ハラビロトンボの学名の種小名pachygastraのpachyは厚い、太いを、gastraは腹、胴、胃を意味しています。ついでに言えば、属名LyriothemisのLyrioは竪琴、themisはギリシア神話の法・掟の女神テミスを意味しています。)

また、小型(平均体長でシオカラトンボよりも1.5センチメートルほど小さい)であるだけに、翅の網目(翅脈)の横脈数が全般に少なく、シンプルになっています。

写真2は同じ個体(♂)を横から見たところですが、腹部の横幅の割には背腹の厚さがないことがわかります。

よく見ると脚は2対しか草に着けておらず、前肢は折り畳んで、頭部と翅胸部の間のすきまの位置に立てられています。

ものにとまる時はいつでもそうしているかといえば、そうではなく、写真1では前脚も下方(背腹でいえば腹側)に伸ばしていて、左前肢は草の葉に爪をたてています。

ハラビロトンボ♂(2)160513
写真2.ハラビロトンボLyriothemis pachygastra

写真3は、写真1,2のすぐ近くで撮った別の♂個体です。

ハラビロトンボ♂(3)160513
写真3.ハラビロトンボLyriothemis pachygastra

写真1,2の♂の腹部が黒っぽいのに対して、写真3の♂では腹部に成熟のシンボルとなる、青白い「白粉*」が吹いていることがわかります。

(*トンボの成熟に伴う「白粉」の成分とその生態学的意義については、このブログの「シオヤトンボ:男たちの厚化粧」と題した記事で簡単にご紹介しています。)

実は、写真1の♂のように「白粉」が吹く前のこの黒っぽい色の腹部も、この♂がすでにかなり成熟していることを示しています。

なぜかといえば、羽化後間もない未熟な♂の腹部、翅胸部は、黄褐色の地に黒い斑紋があるだけで、写真1の♂とは色彩的には似ても似つきません。

♀は成熟しても、未熟な♂同様、黄色系に黒斑というファッションのままです。
その点、シオカラトンボの♀の俗称である「ムギワラトンボ」とスタンスがよく似ています。

黄色に黒斑の♂、♀は今回は撮影できませんでしたので、後日、機会があればご紹介したいと思います。


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