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2016-10-08 (Sat)
昨日(10月8日)、当研究所から車で数分のところにある小規模な水辺に、カメラをぶら下げて出かけました。

トンボはいないかと、目を凝らしていると、アキアカネSympetrum frequens (Selys, 1883)の連結態が1ペア、心なしかふらふらと飛んできて、ヒメガマの茂みのはずれにある枯葉にとまりました(写真1)。

アキアカネに組みついたコモリグモの一種(1)
写真1.アキアカネSympetrum frequens の連結態(クモがとりついている) (クリックで拡大)

早速カメラを向け、ピントを合わせながら繰りかえしシャッターを押しました。
それと同時に、ファインダー越しに、♀の頭部・胸部付近にクモが1匹からんでいることにすぐ気づきました。

20回ほどシャッターを押したところで、♂に促されるように、このペア―はクモが取りついた状態のまま飛び上がり、どこかへ飛んでいきました(この間、1~2分経過)。

撮影中、その♀に元気がないことにも気づきましたが、ファインダー越しでは細かいところがよくわからず、♀がクモをかかえているのか、それとも逆に♀がクモにとりつかれているのかは、帰宅後の現像の際に確認することにしました。

帰路、同行者(家人)曰く、「クモの巣にかかった♀とつながったんじゃない?」。
私、 「そうかな?連結中に♀がクモを捕まえたのかもしれないよ。ま、翅にクモの糸がついてれば、そのとおりだな。」

というわけで、現像してみました。
冒頭の写真1は、撮影開始から4回目のシャッターでとらえたものです。
下の写真2は、その2回後のシャッターでとらえたほぼ同一のシーンをクロップしたものです。

 アキアカネに組みついたコモリグモの一種(2)
写真2.同じアキアカネ連結態で、クモがとりついている部分を拡大(観察初期) (クリックで拡大)

ご覧のように、クモは♀の頭部から翅にかけての背面にとりついています。
そして、♀の首が180℃ねじれている状態で連結している♂の腹部先端をもクモが左右の第1、第2脚でかかえています。

ですので、♀はねじられた首のまま、背面飛行をさせられる形で♂の連結飛行にお付き合いしていたことになります。
お付き合いといっても、♀はすでに意識不明のようで、断続的に撮影した最初から最後までの1,2分の間、♀の脚や翅の位置に変動はありませんでした。
このことは、写真2と、下の写真3(このペアが撮影場所から飛び立つ直前に撮影)を比べていただけると確認できるでしょう。

アキアカネに組みついたコモリグモの一種(3)
写真3.同じアキアカネ連結態(観察末期;写真2から1~2分経過) (クリックで拡大)

それに対してクモの脚は、よく見ると最初(写真2)と最後(写真3)とで以下のように微妙に動いていることがわかります。

写真2のクモの脚の位置
      → 写真3のクモの脚の位置
右第1脚が前方に伸びていて、見えている。
      → 右第1脚が左第2脚の反対側から♂の腹をはさむ。
左第1脚の先が♂の腹の右側面
      → 左第1脚の先が♂の腹の左背面
左第2脚がより折れ畳まれている
      → 左第3脚が♀の左中脚の脛節をかかえている。
左第3脚がより折れ畳まれている
      → 左第4脚の先は♀の左前翅の後縁にかかている。
右第4脚が浮いている
      → 右第4脚がトンボについている

このことから、♀は死んでいるか、それに近い状態であること、そしてクモは生きて活動的な状態であることがわかります。

したがって、現像前に想定した二つの選択肢
♀がクモをかかえているのか、
♀がクモにとりつかれているのか、
に関しては、後者であったことが確認できたことになります。

もう一つの対立点、すなわち、
クモの巣にかかった♀に♂が乗りかかって連結したのか、
すでに連結中の♀がクモを捕まえたのか、
については、後者はすでに棄却されていて、前者の可能性は残されます。

もし、♀の翅にクモの糸が付着していれば、前者の可能性がぐんと高くなるはずです。
そこで、写真2を見ると、なんとクモの糸のようなものが着いているではありませんか。

クモ類図鑑の手持ちがありませんので、ネット検索で似たクモを探したところ、タナグモ科の種と今回撮影したクモの雰囲気が似ていました。
タナグモ科は造網性ですので、この時点での私の暫定的な結論は、
「クモの巣にかかった♀(まだ生きていた)にこの♂が連結してゲットし、そのときに、クモがこの餌食は渡さないぞとしがみついた」
というものになりました。

この観察・現像の経緯と同じ写真3点を添えて、昆虫関係のフェイスブックに投稿したところ、「第三の予想」がコメントというかたちで提出されました。

愛媛県の飯田貢さん:
「脚の毛等を見ると徘徊性のクモのような気がします。私の考えるシナリオは交尾態のペアが葉に止まったところを背後からクモに襲われたのではないかと…雌は胸部と腹部の付け根辺りが葉に近い状態で止まるので葉の裏に隠れているクモはアタックし易いのではないか」

神奈川県の尾園暁さん:
「水田や湿地に多いコモリグモの一種に見えます。僕が観察した事例では、連結産卵中のメスにクモが地面から飛びつき、この写真と同じような状態になりました。」

尾園さんはその時の写真(すでに尾園さんのブログ「湘南むし日記」に報告済み)へのリンクも添えてくれました。
http://blog.livedoor.jp/photombo/archives/1585425.html

その写真は、クモが♀の胸部左側面からしがみついている点と、♀の首の捻じれが135℃程度なのを除けば、私が撮影したペアとほぼ同じ状況です。
しかも水田で産卵動作中のアキアカネペアへのクモのしがみつきという決定的な瞬間を捕えています。
さすがプロの昆虫写真家。脱帽です。

フェイスブックへの投稿と前後して、私が写したこのクモの種または属の名前を正確に知るために、『クモの巣と網の不思議―多様な網とクモの面白い生活』(夢工房より増補復刻版)の編著者である、池田博明氏に、写真を添えて判断を仰ぐメールを差し上げたところ、次のようなご回答とブログへの転載許可をいただきました。

「コモリグモ科のオオアシコモリグモ属Pardosaの一種で、本州産なら頭胸部の色彩と斑紋から普通種のキクヅキコモリグモと同定できます。」
「コモリグモは網を張らない徘徊性のクモなので連結しているペアの♀にクモが取り付いてかみつき、♀の麻痺が始まった状態であったと思います。」
「このクモではかみついた後で獲物を糸で巻くので糸はその作業で付いたものと思われます。クモにとっては自分が取り付いた♀に♂が連結していて飛行まですることは予想外だったのではないでしょうか。」

クモの専門家による的確な教示と、昆虫写真家による類似事例の紹介を得たことで、撮影・現像時に浮かんだ疑問や誤った推測がそのまま持ち越されることなく、たった2日間で完全整理し、クモの習性についての目から鱗の知見を得ることができました。

このとにより、友人(飯田さん、尾園さんとはトンボ研究・撮影の仲間、池田さんとは大学の学科の同窓)の有難さと、SNSをはじめとしたインターネットによる情報交換の普及の恩恵を再認識した次第です。

池田さんならびにSNSでコメントいただいた飯田さん、尾園さんほかの皆さんに、この場をお借りして感謝したいと思います。


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2016-09-09 (Fri)
今年の5月下旬のある晴れた日、前回記事のクロイトトンボを観察・撮影した池から車で移動して、今度は岸に抽水植物が繁茂している池の岸の上を歩きながら、トンボの姿を探しました。

すると、1頭のイトトンボが草にとまるのが見えました(写真1)。

アオモンイトトンボ♂(1)160523
写真1.アオモンイトトンボIschnura senegalensis♂。 (クリックで拡大)

アオモンイトトンボIschnura senegalensis (Rambur, 1842)♂です。

おや、翅を半開きにしていて、まるでアオイトトンボのとまり方そっくりです。
このブログの以前の記事「アオモンイトトンボ♂」では、♂は翅を閉じてとまっています(2014年9月中旬撮影)。

念のため、Google検索でアオモンイトトンボ♂の生態写真の画像を検索しましたが、ほとんどすべての個体が翅を閉じてとまっています。
しかし、1例だけ、今回私が撮影したのと同じように翅を半開にしてとまっている画像がヒットしました。

それは、ぱてさんのブログ「心のままに」のうちの、「アオモンイトトンボ」という記事中の写真(外部リンク)です。
9月2日にぱてさんが撮影された本種成虫の写真7枚のうち1枚だけ♂が翅を半開きでとまり、他はすべて閉じてとまっています。

このように、アオモンイトトンボが翅を半開にしてとまるのは稀なようです。

このことを確認した段階で、私の脳裏に、「もしかして、翅を閉じてとまっていた♂が翅の開閉動作を一時的に行って、翅が開いた瞬間にシャッターを押しただけかもしれない」という疑念が浮かびました。

そこで撮影データをチェックしたところ、フレーム番号下2桁が32から38までの4コマ(残りの3コマはピンボケのため削除)すべてが翅をほぼ同じ角度で開いていました(その間、1分前後経過しています)。
したがって、翅開閉動作によるものではなく、開いてとまっていたことは間違いありません。

では、なぜ、あるいはどういうシチュエーションのときに翅を開いてとまるのでしょうか?

未熟だからというのは理由にならないようです。
というのも、上記のぱてさんのブログに掲載されている未熟個体2頭とも成熟個体同様(半開の1♂を除いて)翅を閉じてとまっているからです。

それとも、一日の時刻の早い・遅いで違うのでしょうか?
これも該当しないようです。
というのも、この日、この個体を撮影した直後に、岸沿いを少し移動したところで、今度はは翅を綴じてとまっているアオモンイトトンボ♂を見つけ撮影しているからです(写真2)。

アオモンイトトンボ♂(2)160523
写真2.アオモンイトトンボIschnura senegalensis♂。 (クリックで拡大)

というわけで、この半開き静止姿勢の原因ならびに機能はわからず終いということになりました。

このブログをご覧になって、何かヒントになるような観察事例や知識をコメントしていただければ有難いです。

私自身も、文献等にあたって、何か関連のありそうなことがわかれば、追加記事を書こうと思います。

さて、ご紹介が遅れましたが、この日、この場所では、アオモンイトトンボの♀も観察・撮影することができました(写真3)。

アオモンイトトンボ♀160523
写真3.アオモンイトトンボIschnura senegalensis♀。 (クリックで拡大)

アオモンイトトンボの♀には2つの型(♂型=同色型と基本型=異色型)があり、この個体は異色型で、♂や同色型♀とは翅胸背面の黒条の中に淡色の前肩条がないこと、腹部第8節背面の黒斑が前後の節と連続すること、未熟な時期に胸部や腹基部がオレンジ色になるなどの特徴を体現しています。

アオモンイトトンボ属の♀の2型(あるいは多形)については国内外で多くの興味深い研究がなされていますので、いずれこのブログでも紹介する機会をもちたいと思います。

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2016-09-08 (Thu)
陸上男子400メートルリレーの銀メダルに日本中が沸いたリオデジャネイロのオリンピックの記憶も薄れ始めた9月上旬、今度はパラリンピックが開催されようとしています。

先日、今年の5月下旬に埼玉県内の公園内の池で撮影したトンボの写真を眺めていた時に、1頭のイトトンボの姿からパラリンピックを連想してしまいました。

カメラをぶらさげて池の周りをゆっくり歩いていると、スイレンの花が一面に咲く水面に岸から突き出すツツジの小さな枯れ枝の先にイトトンボがとまっていました(写真1)。

クロイトトンボ♂(1)160523
写真1.スイレン咲く岸辺にイトトンボ (クリックで拡大)

近づいて見ると、それはクロイトトンボParacercion calamorum (Ris, 1916)の♂でした(写真2)。

クロイトトンボ♂(2)160523
写真2.クロイトトンボParacercion calamorum (クリックで拡大)

写真で見ると、楽々とまるというよりも、しがみついている感じです。
とまっている場所がほぼ水平になっている枝の上面ではなく、カットされている先端であるため、そういう姿勢になってしまったようです。
しがみつくと表現しましたが、このとまり方では、棒の先を前肢と後脚で挟みつけるようにとまっていることがわかります。

イトトンボは体の前方に偏った3対の足で細長い体を支えているので、体をほぼ水平にささえるためには、テコの原理から、後脚には下向きに大きな力がかかるはずです。

水平にとまってる場合なら、後脚は単にとまり場所に対して踏ん張ればよいだけですが、写真2のように、棒の先を挟み付けるようにとまっている場合には、そうはいきません。

棒の上面に乗った前肢を支点に、体全体が下方に回転する方向に重力がかかりますので、それに逆らうためには後脚で逆方向の力を産み出さなければなりません。

写真2をよく見ると、脛節内側の剛毛列とつま先を棒の下面に押し付けるようにしながら後脚が棒を下側から挟みつけている様子がうかがえます。
このようにして、後脚が滑って体を回転するのを抑えているというわけです。

このとまり方をしているケースでは、後脚をテコの支点とみれば、前脚には上向きそしてうしろ向きの力がかかっていることがわかります。
したがって、前足を単に接地面に「置く」だけでは不足で、接地面を「つかむ」ことによって「引き離そうという力」に対抗しなければいけません。
実際、よく見ると、前足の爪をしっかりと樹皮に立てていて、前足の引きはがしや後方への滑りの力に抗していることがわかります。

と、ここまで、主に姿勢の維持について力学的な観点から考察してきましたが、何かが抜けていました。
そうです。中脚のことです。

この♂をよく見ると、左中脚が基節を残して欠損しています。
右中脚は正常で、写真2ではちゃんと棒の右側面をしっかりと抱えて、体のバランスの維持に一役買っています。

このように、左は前と後の2本の脚だけで体をささえているだけであるにもかかわらず、なんとその左前脚を持ち上げて足先を顔面にもっていきました(写真3)。

クロイトトンボ♂(3)160523
写真3.クロイトトンボParacercion calamorum (クリックで拡大)

複眼に小さなゴミがついたときなどに、トンボ達がよく行う仕草です。
左は後脚1本だけ棒をつかんで体を支えています。
パラリンピックの選手ではありませんが、思わず拍手を送りたくなります。

まもなく、この♂はちょっと飛び立ち、またすぐにとまりました(写真4)。

クロイトトンボ♂(4)160523
写真4.クロイトトンボParacercion calamorum (クリックで拡大)

ごく普通のとまり方で、後脚を含めすべての脚を枝の上面に置いて踏ん張っています。
もちろん細い枝なので、長い後脚は特に、枝の側面に向かって斜めになっている面につま先を置くことになりますので、その分、脚がすべらないように、しっかりと爪を立てて棒の左右から挟みつけていることでしょう。

しばらくしたら、また飛び立って、今度はまた写真2と同じ棒の先に、とまりました(写真5)。

クロイトトンボ♂(5)160523
写真5.クロイトトンボParacercion calamorum (クリックで拡大)

おどろいたことに、大相撲の水入り後の再開の時の体勢再現のように、写真2の時と脚の位置が寸分たがわず同じであったことには驚かされます。
よほどこのとまり方がこの個体にとって安定なのでしょう。

このイトトンボが親から受け継いだ遺伝子には、脚が1本、2本欠けてもちゃんととまれるような神経情報処理機構までが刻まれていたのではないでしょうか?

そんなことを考えつつ、次の写真(写真6)を見ると、同じとまり場所にとまったまま、今度は右前足で頭部の身づくろいをしています。

クロイトトンボ♂(6)160523
写真6.クロイトトンボParacercion calamorum (クリックで拡大)

片方だけで上向きの力で引きはがされる力に抗しているはずの左前足にはまだゆとりさえ感じられます。
さすがです。
右中脚は右前脚の分まで役割を引き受けるかたちで、棒の側面から挟みつけて体を支えていることでしょう。

これらの連続写真を撮り終えた後で、写したのが写真1です。
話の都合上、写真1のみ、時系列から逸脱させて掲載しました。

住宅地にほど近い公園の池のごくありふれたトンボでも、じっと観察あるいは撮影すれば生き物の持つ奥深い「生きる力」の様々な姿が見えてくるように思います。

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2016-08-22 (Mon)
今年5月中旬、岐阜県の丘陵地帯でのトンボ探訪では、アオサナエNihonogomphus viridis Oguma, 1926を見ることもできました。

前回記事でご紹介したハラビロトンボを観察した後、シオヤトンボ、タベサナエ(いずれも数回前の記事で紹介済み)など2・3種のトンボの観察・撮影を挟み、オープンな環境の中を流れる小川でアオサナエを見つけました(写真1)。

アオサナエ♂(3)160513
写真1.アオサナエNihonogomphus viridis

少し大きな岩のてっぺんにとまり、4,50センチメートル下の水面付近をじっと睨みつけるような姿勢をとっています。

以前の記事にも書いたように、数年前まで北海道に住んでいた私は2、3種を除いてサナエトンボ科の種を直接観察する機会があまりありませんでした。

その私の眼には、大型で黒地に緑がかった黄色斑紋が浮き立つ、このアオサナエの姿(写真2)はとても新鮮に映りました。

アオサナエ♂(2)160513
写真2.アオサナエNihonogomphus viridis

この日は陽射しが強かったので、この♂は太陽に向かって腹部挙上姿勢をとり、体温のオーバーヒートを避ける、いわゆるオベリスク姿勢*をとっているようにも見えました。

(*オベリスク姿勢につては過去記事:「炎天の猛暑日、チョウトンボの対処法」、「アキアカネ♂」、「リスアカネ♂」に他種の例を写真付きで紹介しています。)

しかしながら、上にも述べたように、数十センチメートル下の水面上に現れる同種♂・♀を発見し、飛び立って対処するためには、この角度で見下ろすことが必要であることに気付きました。

写真3をご覧下さい。
この個体が頭部を背面方向(上方)に向けて、少し窮屈な姿勢をとっています。
少しユーモラスですね。思わず笑ってしまいそうです。

アオサナエ♂(1)160513
写真3.アオサナエNihonogomphus viridis

どうやら、斜め上方から見おろすようにこのトンボを撮影していた私が気になって、こちらの様子を伺っているようです。

このトンボの腹部挙上の角度は写真2のよりも写真3のほうが少し低くなっていることが、石の表面にできた影の先端の位置で判定できるますので、腹部挙上して頭部が下がるため、頭部と岩の表面の接触をさけるために頭部を持ち上げたのではなさそうです。

話は変わりますが、私がアオサナエで気にいった点がほかにもあります。

それは、腹部先端近くが棍棒のように左右に拡がっていることと、尾部上付属器が大きく、またその先が直角に曲がっていて、左右の上付属器と組んできれいな長方形を形作るところです。

腹部先端近くが棍棒のように先太りなるのはサナエトンボ科の種にしばしば見られる特徴で、英語でこの科のトンボがclubtail dragonfliesと呼ばれる由縁です。

♂同士の比較において、アオサナエは、メガネサナエ属3種(オオサカサナエStylurus annulatus (Djakonov, 1926)、メガネサナエS. oculatus (Asahina, 1949)、ナゴヤサナエS. nagoyanus Asahina, 1951)を別格として、ミヤマサナエAnisogomphus maacki (Selys, 1872)に続く立派さの棍棒型の腹部を持っているといえます。

さて、アオサナエの学名のうち、属名Nihonogomphusは、Nihono「日本の」+gomphus「ノブ状の先を持つ棒、ヘラ(サナエトンボの基本的属名」を意味します。種小名のviridisは、「緑」を意味します。

アオサナエの場合、アオといっても、ブルーではなく、グリーン。道路の信号のアオと一緒です。
ついでに言えば、アオイトトンボのアオもグリーンです。
そんなわけで、日本の場合ブルーのイトトンボを見て「アオイトトンボだ」と口に出すと、ブザーがなりかねません(笑)。
「ルリイトトンボだ」といえば、正解になる確率があります。

話を戻します。Nihonogomphusは、後に北海道帝国大学の教授となる小熊 捍(おぐま まもる、1886年8月24日 - 1971年9月10日)が1926年アオサナエの新種記載をする際に新属・新種として扱い、属の記載も行ったものです。

90年後の現在でも独立属として認められていますので(World List of Odonata)、その後細胞学・遺伝学の分野で大きな業績を上げ、国立遺伝学研究所長まで務めたこの学者の昆虫分類学者としての眼力も鋭かったことになります。

ちなみに、私が北大理学部で動物学を専攻した際の教授陣の中には、理学部創立時に農学部から移動した小熊教授のもとで助教授を務められ、薫陶を受けられた定年直前牧野佐二郎先生もおられ、元気なお声での講義を聞かせていただきました。

「小熊捍」と入力してネット検索すると、Wikipediaのほかに、「旧小熊邸」の写真がヒットしました(下の写真)。

旧小熊邸-Wikimedia
旧小熊邸(出典:禁樹なずな - https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/14/Lloyd%27s_Coffee_Former_Oguma%27s_House.JPG/800px-Lloyd%27s_Coffee_Former_Oguma%27s_House.JPG

旧小熊邸は、移築されたものですが、帝国ホテルを設計したフランク・ロイド・ライトの弟子であった田上義也が1929年(昭和4年)に設計したとされ(Wikipedia:「小熊捍」)、大きな5角形の欄間窓や暖炉もあると思われる集合煙突、屋根の意匠、豪雪地帯に対応した基礎回りなどが印象的です。

今度札幌に行く機会があったら、この邸宅の内外をじっくりと見てみたいものです。

最後はちょっと横道に反れてしまいました。

次回も引き続き、トンボ探訪記からの紹介記事となります。


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2016-08-20 (Sat)
シリーズでご紹介している、今年5月中旬、岐阜県の丘陵地帯でのアサヒナカワトンボMnais pruinosa Selys 1853の姿と振舞いについての観察記、最終回の今回は産卵警護行動です。

2回前の記事でも書いたように、アサヒナカワトンボを初めて見た落葉広葉樹林の小さな谷の幅1メートル程度の細流沿いでの観察・撮影を終え、平坦で日当たりのよい細流に戻ると、そこには、お互いに追い合いをしたりしているアサヒナカワトンボの無色透明翅型♂数頭を目にしました。

アサヒナカワトンボの無色透明翅型♂は同じゾーンでなわばり占有をしようとしているニホンカワトンボの橙色翅型♂に対して対等に、時には対等以上に、占有権を主張する空中戦で争っていました。

このように、なわばり争いたけなわな、このゾーンで産卵中の♀を、近くの石の上にとまって見守るアサヒナカワトンボの♂を見つけました(写真1)。

アサヒナカワトンボ産卵警護(1)
写真1.アサヒナカワトンボMnais pruinosa、産卵警護(1) (クリックで拡大)

♀は流水中の石の間から伸びている細いイグサの類の根元近くの植物質の中に卵を産もうとしているように見えます。
♂は、その数センチメートル上流の石の表面にとまり、♀を上から目線で見守っています。
♂のとまってる部分は水面すれすれで、中脚と前肢は浅く水に浸っています。

この見守りは典型的な産卵警護行動で、なわばり内にやってきた♀をなわばり占有♂が捕捉して交尾し、そのなわばり内の産卵基質に産卵するその♀を他の♂による連れ去りを防ぐ機能を持ちます。

もし、警護をしないと、別の♂に♀を連れ去られ、その別の♂が交尾して、その♀の受精嚢・交尾嚢中の精子を大部分入れ替えられてしまいます。
そうなると、せっかく交尾したのに、♀が産む卵の大部分は別の♂の精子で受精したものになってしまいます。

さて、写真1のシーンに戻ります。

まもなく、この♀がちょっと飛び立って、少し場所を替えました。
すると、この♂が飛び立って上空でホバリングしながら♀の様子を伺う様子を見せました(写真2)。

アサヒナカワトンボ産卵警護(2)
写真2.アサヒナカワトンボMnais pruinosa 産卵警護(2) (クリックで拡大)

♀は、ふたたび飛び立って、少し川下側に移動し、同じ種の植物の別の叢生にとまり、そこで産卵動作を始めました(写真3)。

アサヒナカワトンボ産卵警護(3)
写真3.アサヒナカワトンボMnais pruinosa 産卵警護(3) (クリックで拡大)

もちろん、♂も追随し、その産卵スポットを見下ろせる位置に倒れかかっている草の先にとまりました(写真3)。

ですが、その草先という足場が不安定だったと見えて、すぐにその場を離れ、♀の産卵スポットのすぐ横にある石の上にとまりました(写真4)。

アサヒナカワトンボ産卵警護(4)
写真4.アサヒナカワトンボMnais pruinosa 産卵警護(4) (クリックで拡大)

なんと、産卵♀が自分の斜め後ろになるような位置・体の向きでとまりました。
もしこのトンボが私なら、まっすぐこの♀のほうを向き、他の♂にこの♀が連れ去られないように監視したでしょうが。。

おそらく、この♂の視界には♀の姿ははいっているでしょうし、真後ろから水面すれすれに近づかない限り、他の♂が上空から接近するのは見えているだろうと思いますので、監視のミッションはこの位置取り・体の向きでも果たせるのかもしれません。

そして、なわばり♂には、交尾した♀の警護だけでなく、第二、第三の♀がやってきたら彼女らと交尾し、産卵させる(生方、1977)というミッションがありますし、多方面からやってくる♂を追い払うことはルーティンの仕事ともなっています。

それを考えると、♀を横目に川下方向を向いて監視しているのも、あながち下手なやり方ではないのかもしれません。

このペアのこの後の行動も気になるところですが、今回は他にも観察したいトンボがまだまだありましたので、このなわばり地帯を後にして、再び探索モードになって、歩を前に進めるのでした。

次回以降も、引き続き、この調査場所で出会ったトンボについての記事を書く予定です。

引用文献:
生方秀紀(1977) なわばりあらそい。アニマ 1977年7月号: 24-29。

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