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2019-07-14 (Sun)
今年の6月上旬、2日間にわたって関東地方の平野部の沼(写真11)を訪れ、今回取り上げるオオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensis (Asahina, 1948) と出会うことができたほか、他の数種のトンボを観察しました。

目 次
◆オオモノサシトンボとの出会い
◆午後の部のオオモノサシトンボ
◆翌日午前:オオモノサシトンボは身づくろい
◆岸上の笹藪には未熟なオオモノサシトンボ♂♀が
◆未成熟の♂はブラウン系
◆同種♀の接近に♂が開翅腹部上曲反応
◆赤いストッキングの若♀たち
◆♂よ、ここまで黒くするか?!
◆♂が好む水辺の景観
◆成人式の♀もいれば食べ盛りの♀も
◆この沼の生息環境の変貌
◆オオモノサシトンボとモノサシトンボは同種か別種か?
◆謝辞
◆引用文献
◆ハッシュタグ


オオモノサシトンボとの出会い

午前10時半に現地に到着し、早速沼の岸沿いを歩いて、トンボの姿を追い求めました(直近のアメダス気温23℃、薄曇り)。

すると、早速、コフキトンボ♂が沼辺の抽水植物の葉にとまっているのが見つかりました。

その後、沼の岸近くで、アオヤンマ♂、コフキトンボ♀、コシアキトンボ♂、ムスジイトトンボ♂、アジアイトトンボ♂を、沼辺から離れた草地でシオカラトンボ未熟♂、チョウトンボ♀を観察しました。

その少し後のことです。

体全体が黒っぽいが、腹端と中脚・後脚の脛節が白いモノサシトンボ科の昆虫が、マコモのような植物の高さ80cmくらいの葉にとまっていました(写真1)。‏‎(11時26分)

それは、オオモノサシトンボ♂でした。

オオモノサシトンボ♂
写真1 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensis (写真はクリックで拡大します)

私が持ったオオモノサシトンボ♂についての第一印象は「とにかく黒いな、そしておとなしいな」というものでした。

それでありながら、腹部各節前端にある白いモノサシ目盛りと脚の脛節のブレード状の張り出しは、本家モノサシトンボを彷彿とさせます。

オオモノサシトンボ♂モノサシトンボ Pseudocopera annulata (Selys, 1863) 過去記事からの写真はこちら)との分かりやすい区別点は、腹部第9節背面が黒いこと(モノサシトンボ♂では白い)です。

この♂は、この後飛び立って、1mくらいの高さをマコモやヨシの株間を縫うように飛んで、同じような葉にとまり替えました。2,3回とまり替えましたが、その移動範囲は直径1.5m程度でした。

このあと、コシアキトンボ♀やアオモンイトトンボの交尾を撮影してから昼食休憩となりました。


午後の部のオオモノサシトンボ

午後の沼巡りでは、クロイトトンボ♀、アオモンイトトンボ♂、コフキトンボ♂♀、コシアキトンボ♂などを観察・撮影したところで、再びオオモノサシトンボ♂に出会いました(午後2時42分)。

この♂は、その後5分間、岸辺のヨシ・マコモ帯の水平範囲1.5mの範囲で、水面上20~60cmの高さの葉をとまり替えながら、小さい虫を追っていました。

私はその後、沼の各所を見て歩くことで、アオモンイトトンボ♂、コシアキトンボ♂、オオヤマトンボ♂、コフキトンボ♂・♀の観察・撮影を楽しみ、午後4時ちょっと過ぎに沼を離れました(気温23℃、ここままでずーっと曇り、最高気温は13時の24℃)。


翌日午前:オオモノサシトンボは身づくろい

翌日も、同じ沼を訪れ、午前8時50分からトンボ観察を開始しました(25℃、晴れ)。

コフキトンボ♂、コシアキトンボ♀、アオモンイトトンボの交尾などを撮影したあと、運よくオオセスジイトトンボ♀を発見することができました(9時07分)。

しばらくはこのオオセスジイトトンボ♀の虜となり、カメラのレンズで狙い続けました(詳細は次回記事で報告予定)。

この後、この日初めてのオオモノサシトンボを沼岸のヨシ・マコモ群落の中に見付けました(写真2)。(9時11分)

オオモノサシトンボ♂
写真2 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensis ♂

撮影しながら見ていると、ほどなく、この♂は腹部を強く背方にカールさせるように屈伸させて体清掃を始めました(写真3ABC)。

オオモノサシトンボ♂の体清掃
写真 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensi♂の体清掃(写真2と同一個体)

写真3Aは、腹部の背方への反らしがほぼ最大の瞬間で、腹部の側面と前翅の縁とを軽くこすり合わせているように見えます。

写真3Bは、腹部の反らし始め、あるいは真っ直ぐに戻す途中のいずれかです。

写真3Cは、腹部が斜め下に真っ直ぐ伸びていますが、翅の開きの角度は写真2よりやや大きいことから、腹部の上下に備えていることがわかります。

写真3ABCは時系列順ですが、実は、写真2写真3Cの8秒後に撮影したものです。

写真3ABCのような腹部屈曲の最中あるいはその直前に、別のトンボが近くを通りかかったということはなかったので、腹部屈曲動作はそのような個体間の干渉に起因するものではありません。

したがって、この腹部屈曲動作は、身体のこの部分のどちらか一方、あるいは両方の表面に付着物(汚れ、寄生虫など)があり、それををこすり落とすために、腹と翅をこすり合わせたものと思われます。

同様の動作が、他の均翅亜目トンボの種(下記)でも観察されていて、当ブログの記事でも何回か取り上げています(クリックでジャンプ)。

岸上の笹藪には未熟なオオモノサシトンボ♂♀が

この後、沼辺のヨシ・マコモ帯でコシアキトンボ♀の産卵、コフキトンボの交尾の観察・撮影をしてから、沼の岸上の高さ約2mの笹薮中の踏み分け道に入りました。

すると、オオモノサシトンボ未熟な♂♀が互いに近い距離で飛んだりとまったりしているのを見つけました(写真4)。(9時24分)

オオモノサシトンボ、♂が上、♀が下にとまる
写真4 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensi、♂が上、♀が下にとまる‏‎

写真4は、地面からの高さ50cmに♂が、25cmに♀がとまっているところです。


未成熟の♂はブラウン系

これら未成熟個体のうちのを真横から撮ったのが写真5です。

オオモノサシトンボ♂未熟
写真5 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensis 未熟♂

写真5オオモノサシトンボ♂は、 写真1,2の♂に比べて黒味がそれほど強くなく、黒褐色になっています。

腹端や脚の脛節、それに胸部側面下側の色は、真1,2の♂に比べて青白くなく、淡いピンク色に見えます。

更に、翅が透明ではなく黄褐色がかっています。

このように、未成熟♂は、全体としてブラウン系でコーディネートしています。


同種♀の接近に♂が開翅腹部上曲反応

写真6は、この♂にオオモノサシトンボ♀が背後方から接近した際の、♂の行動を示しています。

写真6Aは、接近した瞬間で、写真6Bは、その直後です。(いずれも9時23分12秒)

オオモノサシトンボ♂未熟、他個体接近への反応
写真6 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensi♂未熟、他個体接近への反応 (‏‎写真5と同一個体)

接近した個体がオオモノサシトンボ♀だということは、写真6Aの飛んでいる個体の脚がオレンジ色であることからわかります。

写真6Bで、♂の反応は、翅を半開きにして、腹部後半を背方に反らすというものです。

このパターンの反応は、静止中の均翅亜目昆虫の♀が、♂に接近された際に示すことがあり、それ以上の接近を忌避する効果を持つことが知られています(コーベット〔椿・生方・上田・東 監訳〕2012)。

一方、静止している♂が他個体に接近された際に同様の反応をする、という観察例はそれほど注目されていないようで、コーベット(前出)が引用しているのは、Gorb (1992) による Platycnemis pennipes (Pallas, 1771) の♂♀における例のみです。


赤いストッキングの若♀たち

この後オオモノサシトンボ♀を観察する機会がやや増加し、写真7~9の撮影ができました。

オオモノサシトンボ♀、未熟
写真7 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensi未熟♀(9時32分)

オオモノサシトンボ♀、未熟
写真8 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensi未熟(9時34分)

オオモノサシトンボ♀は、脚が赤味がかっていて、しかも脛節がブレード状になることがないので、同種♂との区別は容易です。

ただし、♀の脚の赤味(オレンジ色)は成熟に伴い消失していき、♂の脚と似た黒と白の配色になることが知られています(尾園ほか 2012)。

写真9は、岸上の涸れたヨシの切り株の頂点にとまるオオモノサシトンボ♀を正面から写したものですが、このような枯草を背景にしたとき、青白くしかもブレード感のある脛節をした♂よりも、赤茶色の脚や顔面をもつ♀は、捕食者、更には交尾を挑もうとする成熟♂からのアタックに対して、より迷彩色で身を包んだことになり、より安全なのではないでしょうか?

オオモノサシトンボ♀、未熟
写真9 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensi未熟(9時35分)

写真9の♀は、水辺から1m弱離れた岸上の、地上から30~40cmの高さの枯れヨシの切り株にとまっていたものです。

撮影中に何回かとまり替えましたが、私の近くに再びとまってくれたので、なんとか狙い通りの写真が撮れました。


♂よ、ここまで黒くするか?!

引き続き、沼の周りを探索すると、1頭のオオモノサシトンボ♂が草丈1.3mのマコモの0.7mの高さにとまっていて、2,3回とまり替えていましたた(写真10)。(9時46分)
 
オオモノサシトンボ♂、黒味強い
写真10 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensi♂、黒味強い

写真1の♂は背面から撮っているので黒くて当然ですが、写真10の♂は真横よりも少し背側に上がっただけの角度から撮っているにもかかわらず、ほぼ真っ黒です。

2日間に撮影した数頭の♂の写真を相互に比較した中でも、写真10の♂は黒斑の広がりと黒さが一番でした。

枯草の中の茶系統もそうですが、沼の水面上(写真11)や濃緑の葉の上をバックにとまる限り、黒いオオモノサシトンボは捕食者に目立ちにくいだろうと思います。


♂が好む水辺の景観

さて、このオオモノサシトンボ♂は、私が動いたら、岸沿いに水面上を左に飛んで見えなくなってしまいました。

写真11は、この♂を観察したポイントの景観です。

オオモノサシトンボの見られた沼辺
写真11 観察地の沼(写真10のオオモノサシトンボ♂を撮影したポイント)

10時43分にも沼の別のポイントで、オオモノサシトンボの1♂が岸辺の草の葉にとまっていました。

私が近づいたところ、飛び立って水辺のほうに向かって飛び、水面から茎を伸ばしているヨシ(水面上の草丈2m)の、水面から0.7から0.9mのあたりに潜り込んで姿を消しました。

この日、♀との連結や交尾はまったく見られませんでしたが、この個体はもう♀を探しているような雰囲気を漂わせていました。

水辺で何かを待ち構えているのですから、他に理由は考えにくいです。


成人式の♀もいれば食べ盛りの♀も

この後、私が沼に隣接した笹薮の縁を通りかかると、草の葉(高さ80cmくらい)にオオモノサシトンボ♀がとまっていました(写真12)。‏‎(10時43分)

オオモノサシトンボ♀
写真12 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensi

10時50分には、沼のヨシの茂った水辺で、羽化したてのオオモノサシトンボ♀をみつけました(写真13)。

オオモノサシトンボ♀、羽化直後
写真13 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensi♀、羽化直後の個体

体色の黒褐色化があまり進んでおらず、とまり替えの際の飛び方もヒラヒラ、なよなよしていました。

これを、より正確に言えば、翅の硬化や筋肉の強化が不十分で、翅がしなり、振動数も少ない印象を与える飛び方でした。

羽化は昆虫にとっては成人式。この薄茶色のコスチュームは、人間の世界でいえば晴れ着に相当するものになるでしょう。

10時59分には、岸上の藪沿いの丈の高い草むらにオオモノサシトンボ♀がとまっていて、私の眼の前で虫をとって戻り、またとまりました(写真14)。

オオモノサシトンボ♀、未熟個体。摂食後の脱糞
写真14 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensi♀、別の未熟個体。摂食後の脱糞

構えた6本の脚と首の構えは、虎視眈々と次の小虫の接近を待ち構えているようにも見えます。

写真をよく見ると、お尻の先には糞がぶら下がっています。

沢山食べたのでしょう。どうやら、食べ盛りの年頃の個体のようです。

写真15はまた別のオオモノサシトンボ♀ですが、右前足で頭部や複眼を軽くこすっています。

オオモノサシトンボ♀未熟、頭部清掃中
写真15 オオモノサシトンボ Pseudocopera tokyoensi♀未熟、頭部清掃中 (別個体)

レディーらしく、お化粧直しと形容したくなるところですが、これは老若男女を問わず虫たちが行うことなので、外部感覚器が集まる頭部を洗顔あるいは洗眼していると表現したほうが、より正確でしょう。

このあとも、2,3個体オオモノサシトンボを含めたトンボ達の観察をし、午後2時少し前にこの沼一帯での観察を終了し、帰途につきました(終了時、26℃;ずーっと晴れ;最高気温は10時30分の27℃)。


この沼の生息環境の変貌

私がこの沼で観察中に、地元の自然観察者お二方と話をする機会があり、その際にこの沼の生息環境の変貌ぶりについて伺うことができました。

>「沼は水草がもっとたくさんあり、トンボも、もっと多くいた。」
>「クロイトもたくさんいたが、減ってきた。」
>「沼は、昔と比べて水が汚れた。」
>「加えて、ブラックバスやミシシッピアカミミガメといった外来種もいる。」

私(生方)も、この日、沼の水面に浮上した小さい亀(おそらくミシシッピアカミミガメ)を見ていましたし、水中からジャンプした40~60cmはある魚も目撃しました。

亀のほうは、私がカメラを向けようとした途端に、素早く水中に隠れるという抜け目なさを示しました。

これ以外にも、沼を取り囲んでいた林地が最近の開発行為で広範に皆伐されるなど、この沼のトンボを含めた水生生物たちの生息条件への危機が迫っています。

これについては、生物多様性保全の観点から見過ごすべきではないと、私は考えています。


オオモノサシトンボとモノサシトンボは同種か別種か?

オオモノサシトンボは、モノサシトンボとは別種として扱われてきていますが、新潟県などでは両種の中間的な形態の個体も確認されているほか、これまでのところDNA解析による明瞭な差がないことから、両種に遺伝的な差があるかどうかは今後の検討課題とされています(尾園ほか 2012)。

文献データだから考えるならば、両種の分布域が大きく重なっている関東地方でそれぞれの種が交雑によって同化していくことなく維持されてきていることから、一部地域を除いては、なんらかの生殖隔離が存在していることが想定され、したがって「種の生物学的定義*」からしてオオモノサシトンボモノサシトンボは別種であるとみなすのが妥当であると、私(生方)は(現時点では)考えています。

(*注:種の生物学的定義:他のそのようなグループから生殖的に隔離されている、実際にまたは潜在的に交配する自然集団のグループ/原文:Mayr's biological species concept: groups of actually or potentially interbreeding natural populations, which are reproductively isolated from other such groups./Wikipedia〔英文〕)


謝 辞
この沼の存在についての情報を提供された夏目英隆さん、この沼の環境変化についてお話くださった地元の自然観察者お二人(匿名とさせていただきます)に感謝いたします。


引用文献

コーベット, P.S. (1999著)、椿宜高・生方秀紀・上田哲行・東和敬、監訳(2007)『トンボ博物学―行動と生態の多様性ー』。海游舎。

GORB, S.N., 1992. An experimental study ofrefusal display in the damselfly Platycnemis pennipes Pall. (Zygoptera: Platycnemididae). Odonatologica 21(3): 299-307.

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』。 文一総合出版。



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#トンボの生態 #トンボの行動 #トンボの写真 #昆虫の写真 #モノサシトンボ科

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2019-07-12 (Fri)
トンボ自然史研究所(代表:生方秀紀)撮影のアキアカネ Sympetrum frequens (Selys, 1883)写真が、昨日(2019年7月11日)午後11時過ぎにTV asahi の「報道ステーション」の天気予報の枠内で、40秒間にわたって全国放映されました(画像1)。

TVasahi報道ステーションで放映されたトンボ自然史研究所撮影のアキアカネ
画像1 TV asahi 報道ステーション で放映されたトンボ自然史研究所撮影のアキアカネ。専門家コメントを紹介しているのは、喜田勝気象予報士。

放送開始直後からの政治や社会、スポーツのニュースが一通り終わった後、喜田勝気象予報士による天気予報へと番組は進行していきました。

MCの一人、徳永有美アナと掛け合いをしながら、喜田予報士が全国の天気の概況と予報を伝える場面の途中で、唐突に挿入されたのは曇り空のもと乱舞するトンボ*の大群の動画(高橋宏さん提供)でした。

(*注:これを録画したものをコマ送りで視聴したところ、アキアカネよりもウスバキトンボ Pantala flavescens (Fabricius, 1798) である可能性が高いと思われました。)

その動画を指しながら、喜田予報士は、「全国各地からトンボの大量の目撃情報が届いています。」と主題を告げた後、切り替わったパネルに並べられた7枚のトンボ生態写真を提示しました。

それらは、順に(括弧内の説明は生方による)、福岡市(トンボ科、1個体、上空)、出雲市(ウスバキトンボ**5個体、細枝にとまる)、敦賀市(ウスバキトンボ1個体、草にとまる)、長岡市(上空、虫影不明瞭)、福島市(ミヤマアカネ、石上とまる)、周防大島町(トンボ科3頭、上空)、田辺市(トンボ科2~3頭上空)、千葉市(手持ち、アキアカネ)で視聴者あるいは番組担当者が撮影したものでした。

(**注:高橋(2019)に、同じ写真のより画素数の高いものが掲載されていることがわかりました)

そして、喜田予報士は千葉市ですっふが撮影したアキアカネの写真を示しながら、「こちら、アキアカネ、アカトンボ」と注意を向けます。

すると、徳永アナから「アカトンボなのに黄色いですね。私が昔採ったアカトンボはちゃんと真っ赤でしたけど。」と合いの手が。

喜田予報士は「羽化したては赤くないんです。紫外線から守るために、だんだん赤くなるんですね。そしてこれが大量に見られている原因なんですが、専門家に聞いて見ますと。。」と、次のパネルに記された清拓哉研究員(国立科学博物館)による以下のコメントを紹介しました。

「羽化してすぐに涼しい山に行き秋になると赤くなって平地に戻る。現在、関東は気温が低いため平地に留まっている可能性がある。」

このパネルで、このコメント文章の上に配置されていたのが、今週スタッフによって撮影されたアキアカネ未熟♂と、トンボ自然史研究所(代表:生方秀紀)が撮影し、提供したアキアカネ成熟♂♀ペアの写真(画像1)でした。

実は、私は放映前に担当者から「アキアカネの大発生についていろいろ聞きしたい」と相談を受け、その一環で上記写真の提供もしていました。

相談の中で私が噛み砕いて説明したことは、アキアカネの赤化の成熟・性別との関連およびその適応的意義についてです。

一方、関東地方南部でのアキアカネの季節移動の時期や気象との関連については、地元で長年観察しておられる、より適任な方を紹介するに留めました。

ところで、私が見るに、パネルに並べられた7枚のトンボ生態写真のうち2枚はウスバキトンボの群れ、1枚は単独のミヤマアカネで、残りも1枚を除いてはアキアカネとは言い切れないものでした。

番組の担当スタッフが伝えたかったのは、トンボの大量発生が起きていること(その中にはウスバキトンボの例も含まれていることは承知している)と、その原因の一つが、梅雨空のもと平年気温を下回る低温が続いているために、羽化したアキアカネが平地に大量に残存していることにある、という見方だっとのことです。

ところで、今年のこの低温続きの梅雨期の影響で、実際にアキアカネの山岳への移動が抑制されているのかどうかは、気になるところです。

ブログの読者や、別途私が交流しているSNS(フェイスブック・ツィッター)の仲間の皆さん、いかがでしょうか?


引用文献

高橋 宏 @sanpei99155(2019)初めて見た!!トンボのなる木(笑)(笑) #しまね花の郷)
http://picdeer.com/sanpei99155

TV asahi (2019)報道ステーション。2019.7.11.放送。


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2019-07-02 (Tue)
6月下旬の好天の日、関東山地の東縁にある小規模な谷戸*へトンボ探訪に出かけました。

シリーズ初回の前回記事では、アサヒナカワトンボ の交尾について詳細に報告しましたが、今回は、より華々しく飛び回っていたハラビロトンボ Lyriothemis pachygastra (Selys, 1878) 、そしてシオヤトンボ Orthetrum japonicum (Uhler, 1858)オオシオカラトンボ Orthetrum melania (Selys, 1883)ヤマサナエ Asiagomphus melaenops (Selys, 1854)について、時系列順に報告します。

(*注:「谷戸とは何か」については、前回記事の文末で紹介しています)

目 次:
◆観察スタート
◆オオシオカラトンボ♂は元気にとまり替え
◆シオヤトンボ♂、白いね~
◆ハラビロトンボ♂、黒いね~
◆弱肉強食を目の当たりに
◆オオシオカラトンボ♂:モデル?
◆水辺から舞い上がってとまったのはヤマサナエ
◆ハラビロトンボ♀、しとやか
◆次回記事予告
◆ハッシュタグ


観察スタート

午前9時20分から午後2時過ぎまで、私としては初訪問となる、水田跡が抽水植物や湿性植物で覆われている谷戸でトンボの姿を追いました。

最初に出会ったのは、棚田跡の脇にある幅70cmほどの細流畔の葉上にとまっていた、アサヒナカワトンボの透明翅型♂でした。

棚田跡沿いの通路を更に上流方向へ歩き、これより上流になると単なる沢地となるポイントに到着。

細く浅い沢を横切って、最上部の旧棚田の縁を巡ってみると、ここにもアサヒナカワトンボ透明翅型♂がいました(前回記事の写真1)。


オオシオカラトンボ♂は元気にとまり替え

この最上部の棚田跡の湿地には、オオシオカラトンボ♂も1頭いて、活発に飛び立ったり、とまったりしていました。

そのオオシオカラトンボ♂がよくとまった場所は、伸び盛りのヨシの群落から突き出た枯れヨシの、曲がり傾いた茎の先端近くでした。

そのポイントから元来た道を戻る途中には、別のオオシオカラトンボ♂が、蔓植物の斜めに垂れた茎(水平に対して30度の部位)に、ツルの先端に向って水平にとまっていました(10時10分)。


シオヤトンボ♂、白いね~

下流側の棚田跡に戻った時には、その湿地のヨシの枯葉の上にシオヤトンボ♂がとまっていました。(写真1)(10時13分)。

シオヤトンボ♂
写真1 シオヤトンボ Orthetrum japonicum (写真はクリックで拡大します)

シオヤトンボ♂は、成熟すると日本産シオカラトンボ属の種の中でも一番純白に近い白粉が腹部全体(そして胸部前面にも)吹く、ちょっと気品のあるトンボです。

 ※ 関連記事:「シオヤトンボ:男たちの厚化粧

この後、アサヒナカワトンボの交尾を観察したのは前回記事に詳しく報告した通りです。


ハラビロトンボ♂、黒いね~

アサヒナカワトンボの交尾を観終わってから10分経過した10時39分に、棚田跡のヨシが繁茂した湿地のヨシの葉に、ハラビロトンボ♂の姿がありました(写真2)。

ハラビロトンボ♂
写真2 ハラビロトンボ Lyriothemis pachygastra 

ハラビロトンボ♂は、シオヤトンボやオオシオカラトンボとは別属になりますが、こちらは頭部、胸部、腹端部の黒さが大変目立ちます。

ハラビロトンボ♂とシオヤトンボ♂が空中戦をしたならば、どちらが強いか白黒決着をつけることになるかもしれません。

「最初からハラビロトンボ♂が黒星でしょ?!」ですって(笑)?



弱肉強食を目の当たりに

冗談はさておき、このハラビロトンボ♂がいたのと同じ湿地の別のポイントにも、別のハラビロトンボ♂がいて、飛んだりとまったりしていました。

そのハラビロトンボ♂が水面上40cmくらいでホバリングしていたところ、少し上空を通りかかったヤンマ(おそらくサラサヤンマ)が、同種♀をつかまえるときのように、ハラビロトンボ♂に後方背面から掴みかかりました(10時50分頃)。

ヤンマはこのハラビロトンボ♂を瞬時に捕獲し、脚で(と多分、口でも)抱えながら急上昇し、湿地のすぐ脇に生えている大きな広葉樹の枝葉(高さ8~10m程度)にとまりました。

ヤンマ同定のための証拠写真撮影がてら、カメラで食事の様子を撮ろうと、カメラファインダーの望遠機能を使いながら、この捕食者の姿を樹枝の中に探しましたが、果たせませんでした。

このところ、私は野帳にメモるかわりに、コンパクト・デジカメの動画撮影モードで観察内容を録音するようにしていますので、その録音をベースに少し詳しく文章報告をしてみました。


オオシオカラトンボ♂:モデル?

この捕食事件の少し後(10時53分)には、同じ湿地の突き出た枯れ枝の先にとまるオオシオカラトンボ♂を、じっくりと撮影することができました(写真3)。

オオシオカラトンボ♂
写真3 オオシオカラトンボ Orthetrum melania 

この日、オオシオカラトンボはこの谷戸の中の異なるポイントで既に二度撮影していましたが、三度目の正直でなんとかピントの合った写真が撮れました。

これができたのも、一段高いところにとまり、惜しげもなく全身のファッションをカメラマン(私)の前で振りまいてくれたこの個体のお蔭です。

 ※ 関連記事:「オオシオカラトンボ 交尾


水辺から舞い上がってとまったのはヤマサナエ

11時42分に、私はアサヒナカワトンボの交尾(前回記事参照)が見られた細い沢に再び近づきました。

すると、水辺近くからやや大きいサナエトンボが飛び立ち、沢の向こう岸の木の枝先の葉に、あちら向きにとまりました(写真4)。

ヤマサナエ♂
写真4 ヤマサナエ Asiagomphus melaenops 

その場では種までは判定がつかなかったのですが、帰宅後拡大画面で特徴を調べたところ、ヤマサナエの♂であったことがわかりました。


このあと、別のオオシオカラトンボ♂を撮影した後、この谷戸での午前中の観察を打ち切りました。

12時くらいにこの谷戸を離れ、別の生息地(人工池)でトンボ探索がてら、昼食をとりました。


ハラビロトンボ♀、しとやか

人工池一帯のトンボ探索は不発に終わり、午後1時半には再びこの谷戸に戻りました。

戻った直後、ヨシ類が茂った湿地のほとりを見ると、ハラビロトンボ♀がおしとやかに抽水植物の茎にとまっていました(写真5~7)。

ハラビロトンボ♀
写真5 ハラビロトンボ Lyriothemis pachygastra ♀ (EOS7D)

ハラビロトンボ♀ (TG-5)
写真6 ハラビロトンボ Lyriothemis pachygastra ♀、同一個体 (TG-5)

写真5は、私が昆虫(トンボ)撮影で愛用しているEOS7Dによる撮影、写真6は(サブ機として景観写真と昆虫や植物の接写を中心に使用している)TG-5による撮影です(いずれも、輝度・コントラストは撮影後、微調整)。

撮影データは以下の通りです。

写真5 EOS7D(手動焦点、絞り優先オート)
f/5.6
1/640s
iso=200
焦点距離 250mm

写真6 TG-5(フルオート)
f/4.9
1/400s
iso=640
焦点距離 18mm

写真7は、このトンボの翅端や腹端が画面からはみ出す距離まで接近して顕微鏡モードで撮影したものを更にトリミングしています。

ここまで拡大すると、複眼を構成する個眼が解像されます。

ハラビロトンボ♀、同一個体、近接 (TG-5)
写真7 ハラビロトンボ Lyriothemis pachygastra ♀、同一個体、近接 (TG-5;顕微鏡モード)

 ※ 関連記事(ハラビロトンボの未熟♀の写真あり):「トンボ王国訪問記(1):多彩なトンボ達に迎えられ

この後、森林際のため薄暗い湿地際の水草の葉にとまっている、アサヒナカワトンボ透明型♂の写真を撮ったのを最後に、この日のこの谷戸での観察を切り上げ、帰途につきました(2時30分)。

以上で、トンボ達を主役にした舞台であった、この谷戸からの報告を終えます。


次回記事予告:

次回記事では、関東地方平野部で私としては初めて観察した種、オオモノサシトンボを取り上げる予定です。


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2019-06-27 (Thu)
今日(6月27日)午前11時少し前に、さいたま市西縁の荒川土手(写真5)沿いを車で通りかかった際に、ウスバキトンボ Pantala flavescens (Fabricius, 1798) の小さな群飛に遭遇しました。

SNSではすでに6月22日に九州南部での群飛の観察例が紹介されていましたが、それから1週間もしないうちに私の目の前に小さいながら群れで出現するとは予想外でした。

目 次:
◆飛び回るトンボをカメラで追い回した結果は?
◆撮影モードにミスあるも、決定的瞬間撮
◆群飛の証拠はこれだけ?
◆ウスバキトンボのプチ群飛が見られたポイントの景観
◆ウスバキトンボの初見時期(2018年の場合)
◆当ブログのウスバキトンボ関連記事
◆FC2ブログランキング(月間首位2連覇達成か?)
◆引用文献
◆ハッシュタグ


飛び回るトンボをカメラで追い回した結果は?

自宅に愛用のカメラ(キヤノンEOS7DおよびオリンパスTG5)を取りに行き、現場に戻ると、若干数は減ったものの群飛はまだ続いていました。

例によって、カメラのISOを高目にとることでシャッター速度を稼ぎ、マニュアルフォーカスを適当に前後にずらして、バチバチとシャッターを押すことで、なんとかピントのあった1枚を狙いました。

11時53分からの約3分間の撮影で80枚に達した写真の大部分は、ぼんやりトンボの陰が写っている程度、ひどいものは空だけが写っただけでしたが、かろうじて写真1,2を含む数枚がゴミ箱行きを免れました。(写真はクリックで拡大します)

ウスバキトンボ♂
写真1 ウスバキトンボ Pantala flavescens ♂(トリミング)(写真はクリックで拡大します)

ウスバキトンボ♀
写真2 ウスバキトンボ Pantala flavescens ♂(トリミング)


撮影モードにミスあるも、決定的瞬間撮

実は、上記の80枚を撮る前に、設定ミスにより、大幅露出オーバーの写真を数十枚撮っていて(モードダイヤルが、いつもの「絞り優先オート」でなく「マニュアル」になっていた)、それらのほぼ全部ゴミ箱行となりました。

ただ、その中の一枚は、珍しく飛行方向を急転換している様子を(撮影時には気づかず)捉えていたものだったので、大幅に輝度を調整して掲載することにしました(写真3)。

ウスバキトンボ、方向転換飛行
写真3 ウスバキトンボ Pantala flavescens、飛行方向の急転換(輝度調整、トリミング)

このトンボ、頭部の左右の傾きは殆どなくほぼ水平ですが、胸部、腹部は進行方向右側に80度くらいは傾いています。

これにより、推進力を前方から右前方へシフトし、飛行方向の急速な右転回を作り出すというわけです。


群飛の証拠はこれだけ?

さて、上の3枚の写真はいずれも1個体ずつですので、群飛していたことの証拠にはなりません。

というわけで、あまりよい写真ではありませんが、2頭(そのうち1頭は大幅ピンボケ)が写っていた写真を掲げておきます(写真4)。これぞ証拠写真といったところでしょうか。。。

ウスバキトンボのプチ群飛
写真4 ウスバキトンボ Pantala flavescens のプチ群飛

写真1~4撮影時にこの一帯で同時に飛んでいたウスバキトンボの数は、正確に数えたわけではありませんが、少なくとも20頭は越える規模でした。

飛翔高度は、地上1mから10m程度で、飛行経路は一定のところを巡回するといったものではなく、一定の範囲を自由自在に飛び回る感じでした。

ウスバキトンボのこの群れには写真からもわかるように、♂♀が混ざっていましたが、個体同士が高いに接近しても干渉することはありませんでした。

しかしながら、お互いに距離を置きながらも、ゆるい群れを形成していた可能性、つまり、同種個体が集まっているところに引き寄せられて、近づきすぎず、離れずというスタンスをとっている可能性は指摘できそうです。


ウスバキトンボのプチ群飛が見られたポイントの景観

写真5がこのプチ群飛が見られた荒川の土手です。

ウスバキトンボのプチ群飛が見られた堤防土手斜面
写真5 ウスバキトンボのプチ群飛が見られた堤防土手斜面

この土手は延々と続いていますが、群飛が見られたのは堤防沿いにざっと100~100mの範囲を見渡してみても、ここ(30~40m)だけでした。

何の変哲もない土手ですが、湿地林の小さな木立が割合接近していたのが、堤防沿いの他の場所と異なる点で、ウスバキトンボにとって餌となる小昆虫の飛翔量が多めなことが期待されたのかもしれません。


ウスバキトンボの初見時期(2018年の場合)

ウスバキトンボが埼玉県で初めて観察される時期は、新井裕さんによる呼びかけで全国から集まった情報が集約され、その結果が報告されています(2018年の結果は、特定非営利活動法人 ノア〔2019〕)。

2018 年のウスバキトンボの初見日は、特定非営利活動法人 ノア(2019)によれば、以下のようになっています。

日本列島初見:石垣市 2月26日
九州本土初見:鹿児島県肝属郡錦江町 4月12日
関東地方初見:千葉県流山市5月1日
埼玉県初見:北本市 5月13日

この報告書にはウスバキトンボだけでなく、アキアカネについてもその出現時期の集約や個体数減少の原因の考察がなされており、たいへん読み応えのある文献となっています。
ご一読をお薦めします。


当ブログのウスバキトンボ関連記事

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引用文献

特定非営利活動法人 ノア(2019)アキアカネとウスバキトンボの調査報告書(最終報告)。


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2019-06-24 (Mon)
ネアカヨシヤンマ Aeschnophlebia anisoptera Selys, 1883は、宮城・新潟両県以南に分布するヤンマ科の種で、分布も割合限られています。

北海道でトンボに目覚め、定年退職するまでそこに住んでいた私にとっては、一度は観てみたいトンボの種の一つでした。

数年前に埼玉県への転居以後も、その機会がないまま時が流れていましたが、東京在住のトンボ研究家、夏目英隆さんの後押しのお蔭で、昨年の今日(2018年6月24日)ネアカヨシヤンマ(黄昏飛翔)初観察することができました(写真1)。

ネアカヨシヤンマ♂、黄昏飛翔中を一時捕獲
写真1 ネアカヨシヤンマ Aeschnophlebia anisoptera ♂、黄昏飛翔中を一時捕獲し、撮影後リリースしたもの。(写真はクリックで拡大します)


目 次:
◆ネアカヨシヤンマとの出会い
◆ヤンマの黄昏飛翔とその目的
◆同じ空間でツバメも乱舞
◆ツバメ乱舞があってからのヤンマたち
◆キャッチ&リリースで手持ち写真
◆謝 辞
◆引用文献
◆ハッシュタグ


ネアカヨシヤンマとの出会い

夏目さんからの生息地や習性についての情報を参考に、夕日が地平線近くの雲に隠れつつあった午後7時少し前、林に囲まれた人工池の岸辺に私は足を運びました。

岸沿いにコシアキトンボの♂がパトロール飛行をしていましたが、ヤンマの姿は見当たりません。

しかし、2分もしないうちに、上空を横切るヤンマが出現しました。

午後5時55分からの3分間に、5~6例のヤンマの同様の飛行が確認でき、55回カメラのシャッターを切りました。

そのうちの2枚が写真2A,Bで、いずれもネアカヨシヤンマ♂です。

ネアカヨシヤンマ、黄昏飛翔
写真2 ネアカヨシヤンマ Aeschnophlebia anisoptera 黄昏飛翔(A,B,Cとも♂)

写真2Aの個体は、撮影時点で前脚を前方に開いていました。
大き目の虫でも見つけたのでしょうか?

他の多くの写真では、写真2Bの♂のように各脚を折り畳んで、空気抵抗を軽減させていました。


ヤンマの黄昏飛翔とその目的

今回の観察のこの場所、この時間帯でのヤンマの飛び方は、ヒトの身長の2倍程度(約3m)から、広葉樹の樹冠の高さくらい(約10m)の高度で、”ランダム折り返し3D図形”(そんなのある?)を描くように、高さや方向を随時変えながら飛び回るものです。

同種の同性・異性個体と接近しても、ほとんど干渉せず、若干進路がブレる程度で擦れ違います。

このことから、この黄昏飛翔は、日中見られる♂の探雌飛行や♀の産卵場所探索飛行とは全く別の目的、すなわち採餌のための飛行であることに間違いありません。

ほんとうにそうか確かめたいところですが、実際にヤンマたちが飛び交うこの池の水面上空に、餌となる小昆虫がこの時間帯に多く飛んでいるのかどうかは、私の視力では確認することはできません*。

(*注:長い竿で細かい目の捕虫網を一定回数振り回して、入った小昆虫の数量を、比較対象地域〔裸地の上空とか〕と比較する方法はありますので、中学校の理科部などでやれそうです。)

しかし、結果から原因を推理するならば、これだけのヤンマが活発に飛び回っていたということは、現にそこに餌となる小昆虫が多かったか、あるいは同様の条件下で餌昆虫が豊富であるということを個体が学習していたからか、さらにはそもそも遺伝子にそのように行動する傾向が刻まれている、のいずれか一つあるいは複数であることは確かであると思います**。

(*注:これは循環論法にみえますが、生物的自然界を支配している法則の一つである自然選択(自然淘汰)は、報酬が得られる行動を自らとった個体に報酬(高い生存率 and/or 次世代生産数)を与えることで、”勝ち組”にその行動を定着させています。)


同じ空間でツバメも乱舞

ヤンマの撮影が一段落したところで、ツバメ Hirundo rustica (帰宅後、写真から同定)がこのヤンマたちの飛び回る空間を素晴らしい速度で自在に飛び回る様子が見られました(写真3A,B)。

ツバメ(ネアカヨシヤンマも黄昏飛翔中)
写真3 ツバメ Hirundo rustica (ネアカヨシヤンマの黄昏飛翔空間を舞う)

ツバメ科の鳥は、鳥の中でもトンボ類を好んで捕食するようで、ムラサキツバメ Progne subis (蝶でなく、アメリカ大陸の鳥)の或る個体群に至っては一年中トンボを主食にしているといいます(コーベット〔椿・生方・上田・東 監訳〕2012)。

ツバメの食性についてネット検索したところ、山崎(2010)による次のようなまとめが見つかりました(千葉県のツバメの雛の糞分析結果に基づくもの)。

糞分析から考えるツバメの昆虫食事情
・特に雛用として餌を集めていない。
・全て飛翔中の昆虫である。飛翔筋(タンパク質)の発達した、トンボ・ハチ・ハエが餌として効率的か。
・丸食いなので、消化できる部分は全て吸収しつくす。(体節をつなぐ膜、筋肉、内臓、体液など)
<中略>
・捕食虫の大きさ
シオカラトンボ(50~55mm)
<中略>
アカアシノミゾウムシ(2.8~3.1mm)
<中略>
・採餌場(飛翔昆虫の多い所)へ行く:同一昆虫がある・・・学習能力有
<中略>
・水辺上空で採餌する・・・水辺は昆虫が多い」

以上のリストには、シオカラトンボが最大級の餌昆虫として挙げられています。

ネアカヨシヤンマはシオカラトンボよりも体長が25~30mmほど大きい(1.5倍)ので、ツバメには食べにくいかもしれません。

しかし、ツバメよりも体長が3cほど大きい(1.2倍)ムラサキツバメ(鳥)は、ヤンマ科のトンボも捕まえて食べるそうです(コーベット〔椿・生方・上田・東 監訳〕2012)。

このことから、ヤンマにとってもツバメは恐るべき存在とみてよいのではないでしょうか?


ツバメ乱舞があってからのヤンマたち

このツバメを恐れたためかどうか分かりませんが、ツバメが飛び回るようになってからヤンマの飛行頻度が減ってきていました。

そこで、この池から歩いて2,3分の位置にある別の池(一回り大きい)の様子を見に行ってみました。

午後6時11分から2分間、その池の岸で空を見上げていましたが、ヤンマは姿を現しません。

そこで、また元の池に戻りました。
そこでは、まだツバメたちが飛び回っていました。

6時半になって、ようやくヤンマが1頭現れました。

その後、薄暗くなるにつれて、ヤンマの数が増え(写真2D)、7時直前には一度に10頭ほどのヤンマたちが私の眼の前の池の上空を乱舞しました。

私は、7時02分までの約30分間に200枚ほどその飛ぶ姿をカメラに収めました(写真2C,写真4;いずれもネアカヨシヤンマ)。

ネアカヨシヤンマ♀、たそがれ飛翔
写真4 ネアカヨシヤンマ Aeschnophlebia anisoptera ♀、たそがれ飛翔

写真4が私がこの日撮った黄昏飛翔個体の中のベストショットですが、ISO=6400で撮ったものを大幅トリミングしているため、なんとか証拠写真として使えるというレベルにすぎません。

それでも私にとっては、この初めての観察を形あるものとして残すことができたことに、一定の満足を覚えました。


キャッチ&リリースで手持ち写真

あたりが薄暗さを増してくる中、これ以上の飛翔写真は無理と判断し、キャッチ&リリース方式で成虫の手持ち写真を撮ることにしました。

リュックサックの中から、普段は埃をかぶっていた捕虫網をとりだし、テレスコープタイプの棹を最大まで伸ばしたものの先に装着し、池の岸上を横切るように通りすぎるヤンマに狙いをつけました。

数回の失敗を経て、とうとう1頭のネアカヨシヤンマ♂をネットに入れることができました。

翅を左手の指でつまみ上げると、腹を前後に強く揺さぶり、「放しなさい!」と叫んでいるかのように抵抗しました。

それをなんとか、なだめすかして(笑)、オリンパスTG-5の顕微鏡モードで近接写真をとりました。

よく写ったのは、やはりストロボを発光させたものでした(写真1、再掲)。

ネアカヨシヤンマ♂、黄昏飛翔中を一時捕獲
写真1(再掲) ネアカヨシヤンマ Aeschnophlebia anisoptera ♂、黄昏飛翔中を一時捕獲し、リリースしたもの

まるで真夜中に撮ったような写り方ですが、まだ懐中電灯をつけなくとも林沿いの道を歩ける明度でした。

撮影後、このヤンマ♂をそっと近くの低木の枝葉にとまらせてリリースすると、ヤンマはしばらくそこで休んでから、おもむろに舞い上がり、林の上空へ消えていきました。

残された私は、もう少しこの場で観察を続けることにしました。

7時10分には再び、10頭前後のヤンマの乱舞が見られました。

7時18分には一番星が西の空で輝きを増していて、7時23分には、最後の1頭のヤンマが樹冠の中に消え、あたりにトンボの姿は見当たらなくなりました。

それを機に、私も懐中電灯のスイッチを入れて、充実感に浸りながら、車を置いた駐車場に向かいました。

謝 辞:
本種の生息状況についての貴重なアドバイスをいただいた夏目英隆さんに感謝いたします。


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引用文献

コーベット, P.S. (1999著)、椿宜高・生方秀紀・上田哲行・東和敬、監訳(2007)『トンボ博物学―行動と生態の多様性ー』。海游舎。

山崎秀雄 (2010)ツバメはヒナに何を食べさせているか-糞からわかる昆虫食事情- 。自然観察大学室内講習会(通算16回)


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