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2018-11-22 (Thu)
今年(2018年)10月下旬、関東地方の山間部の池で、キトンボ Sympetrum croceolum (Selys, 1883) ほか数種の赤とんぼ類とオオアオイトトンボ Lestes temporalis Selys, 1883 を観察する機会を持ちました。

その時の記録を、「キトンボの舞う秋」と題したシリーズ記事として、報告しています(記事一覧はこちら)。

第3報(最終回)の今回は、キトンボを含め5種の赤いトンボたちを一斉に紹介します。

刺身のつまのような扱いになりますが、渋い緑色の衣装に身を包みひっそりととまる、オオアオイトトンボにも加わってもらいます。

このトンボ生息地に到着後、私が最初にカメラに収めたトンボは、マユタテアカネ Sympetrum eroticum (Selys, 1883) ♂でした(写真1)。

マユタテアカネ♂ 
写真1 マユタテアカネネ Sympetrum eroticum ♂ (写真はクリックで拡大します)

このマユタテアカネ♂、腹部の赤さが並みの赤とんぼの赤さを超えています。

次に登場したのは、ミヤマアカネ Sympetrum pedemontanum (Müller, 1766)  写真2)です。

ミヤマアカネ♂ 
写真2 ミヤマアカネ Sympetrum pedemontanum ♂

顔面が白いマユタテアカネに対抗するかのように、こちらのミヤマアカネの顔は猩々のように赤らんでいます。

※ ミヤマアカネの交尾・産卵をとりあげた過去記事はこちら


お次は、アキアカネ Sympetrum frequens (Selys, 1883) ♀写真3)です。

アキアカネ♀ 
写真3 アキアカネ Sympetrum frequens 

♀だけに(?)、地味です。
上から目線で私が立っている地面を見下ろしています。

※ アキアカネの関連記事一覧はこちら
 (産卵動作、生活史、羽化場所、静止姿勢などを取り上げています)


さてさて、ここで、前々回記事の主役、キトンボ♂の再登場です(写真4)。

紅葉とキトンボ♂ 
写真4 紅葉した低木にとまるキトンボ Sympetrum croceolum ♂前々回記事から再掲)

ここまで、アカネ属 Sympetrum の4種。色合いだけでも、それぞれ個性的です。

赤いトンボ顔見世興行、しんがりに控えしは・・・・ショウジョウトンボ Crocothemis servilia (Drury, 1773) ♂です(写真5)。

ショウジョウトンボ♂ 
写真5 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia ♂

ショウジョウトンボは、お分かりのとおり、アカネ属には属しません。

この所属の違いを意識してショウジョウトンボ♂を見直すと、腹部の色は赤は赤でも紅色に近く、脚までが紅色に染まっていて、確かに雰囲気が異なります。

ショウジョウトンボ♂をじっくり見つめていると、「俺はあいつ等とは違うぞ」と主張しているかのようです。

このショウジョウトンボ♂は、前々回記事で紹介したキトンボ♂が なわばり行動を続けていた池の端の部分の岸辺にとまっていた個体です(当該記事にも軽く登場していました)。

※ ショウジョウトンボの過去記事の中からお勧めの2編:


最後は、赤とんぼ とはトンボ目の中でもっとも縁遠いグループ(アオイトトンボ科 Lestidae)に属する、オオアオイトトンボ(♂)です(写真6)。

オオアオイトトンボ♂ 
写真6 オオアオイトトンボ Lestes temporalis ♂

このオオアオイトトンボ♂も、前々回記事で紹介したキトンボ♂が なわばり にしていた岸辺に、そのキトンボ♂の不在中にとまっていた個体です(当該記事にも登場)。

※ オオアオイトトンボの過去記事はこちら:


以上が、この日、この場所(山間部の小池群)で、午前10時から12時までの2時間の間に見られたトンボの種のすべてです。


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2018-11-21 (Wed)
キトンボ Sympetrum croceolum (Selys, 1883)写真1)は、赤トンボ(アカネ属)の中でも、翅の半分を鮮やかな黄色に染め、翅胸や脚も黄褐色を装った、中々ファッショナブルなトンボです。

キトンボ、連結産卵 
写真1 キトンボ Sympetrum croceolum 連結産卵(写真はクリックで拡大します)

私の前住地の北海道では秋の湿原で本種との付き合いがありましたが、関東地方に移住してからは、今年(2018年)になってようやく圏内の山間部の池で再会を果たしました(10月下旬)。

その時に観察できたキトンボほか二・三の種のトンボの様子を、キトンボの舞う秋と題したシリーズ記事として、報告していますが(記事一覧はこちら)、第2報の今回は、キトンボの産卵行動について動画つきで報告します。


目 次
 ◆キトンボ生息地の景観
 ◆産卵行動中の♂♀の動作
 ◆単独産卵を動画に収録
 ◆単独産卵の動画から読み取る
 ◆警護♂の行動
 ◆動画収録中に♀は産卵完了


キトンボ生息地の景観

写真2は、今回キトンボの なわばり行動が観察された池(前回記事参照)の岸の一部です。

キトンボの生息地の池 
写真2 キトンボ生息地の池(今回、産卵行動が観察された池と隣接)

産卵行動が観察されたのは、この池ではありませんが、岸辺の植生の景観は互いによく似ています。

どちらも、浅い水辺に丈の低いイネ科などの植物が叢生した岸が連なっています。

快晴のこの日、一つの池で11時10分頃までキトンボの なわばり行動ほかを観察し、新たなシーンを求めて隣接の池に移動しました。

移動先のその小さい池は長径30mくらい、最大幅3~4m、最大深度30~50cmで、底には泥土が堆積し、岸にはアシカキ Leersia japonica と思われるイネ科植物などが密生していました。

11時27分、その移動先の池の岸辺に近づくと、キトンボの連結産卵が始まっていました(写真3)。

キトンボ、連結産卵 
写真3 キトンボ Sympetrum croceolum 連結産卵

1ペアの♂♀が連結で、その池の草のある岸沿いのあちこちに産卵しながら、岸沿いを辿るように飛翔移動していました。

紡錘形の池の端まで行ったところで折り返し、再び岸づたいに戻りながら、同様の産卵飛行を続けました。

最後に、私の足下の岸辺にそのカップルがやってきて、その場にとどまり、産卵行動を継続しました。

観察・撮影の絶好のチャンス到来です。


産卵行動中の♂♀の動作

そのカップルは、雌雄連結したまま、息ピッタリにリズミカルに♀の腹端の打水*、それに続く♀の腹の前振りによる放卵*と振り戻した後のホバリング、以上の3動作を繰り返しています。

(*打水と放卵の動作はいずれも飛行高度の急降下とその直後の急上昇をともなう、類似の動作であるため、初心者には区別困難です。私も、この記事の後半で取り上げる動画のスロー再生を何度か視聴することによって、打水と放卵の動作を明確に区別できるようになりました。)

写真3では、♀の腹部は♂の体軸の延長にほぼ沿うように、真っ直ぐ後方に伸びていて、腹端が反りかえって、数個の卵粒を含んだ水滴を保持しているので、放卵直前であることがわかります。

※ 以下、すべて同一カップルによる産卵についての観察記録です。

写真4では、♀の腹が♂の体軸に対して「へ」の字形に前に振れているので、卵塊を振り飛ばす動作を始めた直後とみられます。

キトンボ、連結産卵 
写真4 キトンボ Sympetrum croceolum 連結産卵(同一カップル)

写真4では、卵粒入りの水滴が前方に少し飛び始めているようにも見えます。

写真1(再掲)では、写真3同様に、♀の腹端が反りかえって水滴を保持しているので、打水と放卵の中間の段階であることがわかります。

キトンボ、連結産卵 
写真1(再掲)キトンボ Sympetrum croceolum 連結産卵(同一カップル

写真5では、写真4同様、♀の腹がほぼ鉛直になるくらいまで前に振れているので、卵塊を振り飛ばす動作の最中とみられます。

キトンボ、連結産卵 
写真5 キトンボ Sympetrum croceolum 連結産卵(同一カップル)

♂も、淀みなく♀の放卵動作をサポートしている様子が伝わって来ます。

打水の瞬間や、放卵の瞬間は、突然の被写体の降下の直後であるため、素人カメラマンにとってフォローは困難で、トンボの前半身が写ればよいほうで、草の茂みの上端が写っただけだったり、せっかく写ってもピンボケになったりと、さんざんな結果となりました。

とはいえ、連結で打水あるいは放卵している写真を不掲載とするのも癪ですので、組写真(写真6)の中の1カット()として証拠写真を掲げておくことにします。

キトンボ、連結産卵 
写真6a、b キトンボ Sympetrum croceolum 連結産卵(同一カップル)‏‎

写真6aは、写真1と同様に、♀の反りかえった腹端が水滴を保持していて、打水と放卵の中間の段階であることがわかります。

写真6には、このカップルの♀の腹端が岸の草に直近の水面を叩いている様子が写っています。

岸の草との位置関係から見て、腹端に水を補給するための打水ではなく、放卵のために♀の腹全体を前振りした結果、腹端が水面を叩いたものと思われます。

写真6a、bは、それぞれ11時28分16秒、11時28分00秒に撮影したものです。
写真の並び順と時間の前後関係は逆ですが、この間を含め、ほぼ同じ位置で産卵を続けていたことがわかります。

さて、11時28分42秒には、♂と♀は連結を解き、♂は少し上方に舞い上がって♀の上方でホバリングをまじえた小範囲の飛行(産卵ガード or 産卵警護)を開始しました(写真7a、b)。

キトンボ単独産卵の♀とガードする♂ 
写真7a、b キトンボ Sympetrum croceolum 単独産卵の♀とガードする♂(同一カップル)

写真7a、とも、左下の個体が産卵♀、右上方がガードする♂です。

写真7aでは、岸の草に接する位置で♀の腹部がだいぶ下前方に振り下ろされていますので、放卵の直前と思われます。

写真8は、写真7bと同様に、♂のガードのもとで単独産卵を続ける♀です。

キトンボ単独産卵 
写真8 キトンボ Sympetrum croceolum 単独産卵(同一個体)

腹端が反りかえり、水滴がこの角度からも見えています。

つまり、打水を終え、これから斜め下前方に突進しながら腹を振り下ろして放卵しようという段階です。

視線の先には、これから卵塊を投げ込もうとしている的(まと)、あるいはその候補が見えていることでしょう。


単独産卵を動画に収録

11時29分、♂にガードされたこの単独産卵の静止画の撮影をいったん打ち切り、同じカメラ(EOS7D)で動画撮影を試みました。

11時30分44秒から、♂にガードされたこの単独産卵を39秒間収録したものが動画1https://www.youtube.com/watch?v=QHRfl6TeWfU)です。


動画1 キトンボ Sympetrum croceolum 単独産卵(ガード付き)(同一カップル)

まずは、この動画をご覧下さい。

以下には、私が動画から読み取った、キトンボの単独産卵(ガード付き)の特徴を時系列的に記述します。


単独産卵の動画から読み取る

39秒間の録画時間のうち、最初の14秒間は、ほぼ連続してリズミカルな産卵動作を繰り返していました。

カウントしてみると、その14秒間に9回、産卵動作のセット(ルーティン)を繰り返していました。

1セット(ルーティン)は腹振り(放卵)1回と、その直後の打水1回、そして放卵前のホバリング(水滴への卵の補充と放卵箇所の見定め)です。

この1セットを、スロー再生で見てみましょう。

写真9は、スロー再生動画から特徴的な動作3シーンを切り取った(再生一時停止中の画面をコンデジTG-5で撮影)ものです(いずれも証拠写真レベル)。

キトンボ単独産卵、動画からの3カット 
写真9a、b、c キトンボ Sympetrum croceolum 単独産卵(同一カップル)、動画からの3カット

放卵直後に瞬時に行われる打水(写真9a)で、腹端(第8節腹面後端の産卵弁の内側から第10節後端の突起[尾毛]にかけて)に水が貯えられます。

打水の直後には、後上方にバック飛行して戻り、そこで次の放卵場所を品定めするように凝視しつつ、ホバリングします(写真9b)。

このホバリングの間に、数個の卵が生殖孔から絞り出され(卵の集積)、それを含んだ腹端の水滴は大きくなり、垂れ下がります。

そして、意を決したように、前方(岸方向)に斜め下方向にダイブするように飛び降りながら、腹部を下前方に大きく振り下ろします。

このとき胸部も含めて体軸の前方が起き上がります。

この腹振りに際して、岸近くの細い草の茎や葉に腹の腹面(下面)が触れると制動を受け、その結果、腹端の卵粒が入った水滴が前方に飛ばされ、あるいは草に付着し(放卵)、こうして1回分の産卵が成就します。

時には、この腹振りで腹端が水面を叩くこともあります(写真9c)。
この場合には、そこの水中に卵は放たれることになるでしょう。

腹振りが終ると、すぐに後方上方に少しバック飛行し、すぐに打水し、そしてホバリングに移るという次のセット(ルーティン)が始まることになります。

打水後のバック飛行のほうが、放卵後のバック飛行よりも距離スケールが大きく、それゆえ高度もより高くなっています。

ホバリング時間は、放卵と打水の間よりも、打水と放卵の間のほうが明らかに長くなっています。

それもそのはず、放卵後、打水までは待つ必要はありませんが、打水後は放卵までの間には、水滴の中での卵の集積と次の放卵場所の見定めという、重要業務が組み込まれているからです。


警護♂の行動

この間、連結産卵の相方であった♂は、ほぼ真上(より正確には、真上よりもやや沖寄り)で、ホバリングを含めた警護飛行を行っています。

警護飛行は、単に♀のほうを見つめてホバリングするのではなく、時々向きを変えてくるりと小さく一・二周飛んで、また♀の近くで見守るというルーティンを繰り返しています。


動画収録中に♀は産卵完了

動画を撮影中、突然、♀は産卵動作をやめて、急上昇で空へ舞い上がりました。

警護していた♂も、撮影していた私のカメラのレンズも、この♀を追いかけます(動画1)。

♂も急上昇しましたが、再連結することなく、上空で互いに離れ離れになり、♀は視界から消えました。

※ 次回記事では、このキトンボ生息地で見られた他種トンボ(オオアオイトトンボ、ショウジョウトンボ)について報告する予定です。


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2018-11-14 (Wed)
日本は21種のアカネ属 Sympetrum Newman, 1833 の種が記録されている(尾園ほか、2012)「赤とんぼ大国」です。

その大部分の種では、秋が近づくにつれて成虫(とくに♂)が体を赤く染め、大挙して青空の下で子作りにいそしむシーンを展開し、私達の目を和ませます。

その中でも、キトンボ Sympetrum croceolum (Selys, 1883)写真1)は翅の半分が鮮やかな黄色に染まり、翅胸や脚でも黄褐色部が黒色部を押しやるなど、名実ともに黄色をチームカラーにした種です。

なわばり飛行中のキトンボ♂、拡大 
写真1 なわばり飛行中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂ (写真はクリックで拡大します)

私が北海道東部に在住していた当時は、晩秋まで湿原池沼のほとりで活発に活動している様子を目にしていましたが、数年前に埼玉県に移住してからは、見る機会に恵まれませんでした。

今年(2018年)10月下旬、ようやく、関東地方の山間部の池でキトンボに再会することができ、しばし観察を楽しみました。

その時に観察できたキトンボほか二・三の種のトンボの様子を、キトンボの舞う秋と題したシリーズ記事として、数回に分けて報告したいと思います。

第1報の今回は、キトンボの なわばり行動について取り上げます。


目 次
 ◆今回の観察地の景観
 ◆キトンボとの再会
 ◆キトンボ♂の なわばり場所選択
 ◆なわばりの一時的移動
 ◆池の中央で なわばり争い生起
 ◆キトンボ♂がマユタテアカネ♂のなわばりに侵入
 ◆種間のなわばり争いに影響する要因(考察)
 ◆他種トンボやキトンボの連結産卵・単独(ガードつき)産卵も観察
  (詳細は次回記事)
 ◆紅葉の中のキトンボ♂
 ◆引用文献:


今回の観察地の景観

写真2が、今回キトンボの なわばり行動を観察した池です。

キトンボの なわばり行動が見られた池 
写真2 キトンボ♂の なわばり行動が観察された池

長径30m、最大幅7~8m、最大水深1m程度の小さな池で、周囲は広葉樹や草地となっています。


キトンボとの再会

快晴のもと、この池に到着すると(午前10時35分)、すでに一目でそれとわかるキトンボの♂が活動していました。

その♂は、写真2の左手前の岸づたいの、アシカキ Leersia japonica と思われるイネ科植物がまばらに生えた水面上30~50cmあたりを、ホバリングを交えながら飛行していました(写真3)。

なわばり飛行中のキトンボ♂ 
写真3 なわばり飛行中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂ (同一個体)

写真1(再掲)は、写真3を部分拡大したものです。

なわばり飛行中のキトンボ♂、拡大 
写真1(再掲) なわばり飛行中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂(同一個体)(写真3を部分拡大)

この♂は、体軸を少し前傾させてホバリングし、婚活の対象である同種♀、あるいはライバルである同種♂の接近に目を光らせています。

時々、写真4のように、岸近くの水面から突き出した枯草の先などにとまりますが、やはりキリっと前方を凝視しています。

もちろん、トンボの大きい複眼ですから、前方だけでなく、真後ろを除く広い視野全体に注意を払っているに違いありません。

なわばり内の草頂に静止するキトンボ♂ 
写真4 なわばり内の草頂に静止するキトンボ Sympetrum croceolum ♂(同一個体)

この一角で観察中にこの♂の前に同種他個体は現れませんでしたが、この行動は多くのトンボの種の♂に見られる なわばり行動 territorial behavior のうちの、なわばり占有行動です。


キトンボ♂の なわばり場所選択

写真5は、このキトンボ♂が なわばり として選択した水辺を、斜め上方から撮ったものです。

キトンボのなわばりエリアの水中・水底の様子 
写真5 観察されたキトンボ♂のなわばりエリアの水中・水底の様子

水深は浅く、水は澄んでいて、底にたまった軟泥、アシカキ(?)の匍匐茎、糸のように細い藻(アオミドロ?)がよく見えます。

このように、汚染もなく、適度に植物が生育している水辺に卵が産み付けられれば、それから孵化した小さな幼虫たちが餌動物にこと欠くことはないでしょう。

また、この池には捕食者の姿もあまり目立ちませんし(ただし、体長15cm程度の小魚1匹がこの池の中を泳ぐのは見かけました)、隠れ場所となる水生植物もそれなりに用意されています。

キトンボ♂が、♀と交尾し、産卵する場所として選定するのに、この場所は悪くはなさそうです。


なわばりの一時的移動

このキトンボ♂は、10時40分ころから池の中央部の開放水面上に移動し、そこで、1分間ほど開放水面上1~2mの高さを、ホバリングを交えながら飛び回りました(写真6,7)。

池の中央をパトロール中のキトンボ♂ 
写真6 池の中央をパトロール中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂(同一個体)

写真7は同じ個体が体を左に傾けて、左にカーブを切っているところです。

池の中央をパトロール中のキトンボ♂、左ターン 
写真7 池の中央をパトロール中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂、左ターン(同一個体)

この♂は、その後、写真4の場所に戻り、もとのように枯草の先にとまりました。


池の中央で なわばり争い生起

この♂は、10時47分にも、再び池の中央部上空で同じような飛行を始めました。

注意深く観察すると、ただホバリングと曲線的な水平飛行を繰り返すだけでなく、木の枝先付近を覗き込むような仕草も見せていたので、採餌の狙いもあるようです。

そうこしているうちに、その♂の所へ、もう1頭のキトンボ♂が接近してきました。

両者の♂は互いに追い合い、くるくると螺旋状の飛跡を描きました。

その螺旋の直径は20~30cm程度で、元の水面上1.5m位の高さから、更に0.8mくらい上昇したところで、両者はあっさりと別れました。

片方の♂(たぶん、元からいた♂)が残り、また元と同様の飛行を続けました。


キトンボ♂がマユタテアカネ♂の なわばり に侵入

池の中央を飛び回っていた、このキトンボ♂は、10時56分頃、写真2の右に見える岸を右手前方向に延長したところの水辺へと、移動してきました。

その水辺の、水面を見張りやすいところに突き出したオギ Miscanthus sacchariflorus と思われるイネ科植物の茎(写真9)にとまろうとするかのように、キトンボ♂が飛び進むと、そのオギ(?)の穂を見下ろす位置にある少し岸寄りの枯れヨシ(オギ?)の先にとまっていたマユタテアカネ Sympetrum eroticum (Selys, 1883) ♂写真)が、このキトンボ♂を迎え撃ちました。

キトンボ♂を迎え撃つ体制のマユタテアカネ♂ 
写真8 キトンボ♂を迎え撃つ体制のマユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂

キトンボ♂は、このマユタテアカネ♂にただ追われるのではなく、強気に反撃(追い返し)もしていました。

一、二回、このような追い合いをした後、ちゃっかりとマユタテアカネのとまり場所の眼下にあるそのオギ(?)の穂先近くの茎に、このキトンボ♂がとまったケースもありました(写真)。

マユタテアカネの防空識別圏内のヨシにとまるキトンボ♂ 
写真9 マユタテアカネの防空識別圏内のオギ(?)の茎にとまるキトンボ Sympetrum croceolum ♂(同一個体)

しかしここからキトンボが飛び立つと、またそのマユタテアカネに追い立てられました。

数度の追い立てに嫌気がさしたのか、当のキトンボ♂はこのマユタテアカネ♂が睨みを利かせたエリアから飛び去っていきました。


種間のなわばり争いに影響する要因(考察)

キトンボとマユタテアカネの攻撃力に、それほど大きな差があるようには見えません。

それなのに、キトンボがマユタテアカネに対して追われる立場であったのはなぜでしょうか?

同種の♂同士でも「先住効果the effect of prior residence により、なわばりを先に占有していた個体のほうが相手を退ける確率が高いことが、トンボ目を含め、どの動物でも一般的ですが、今回観察された種間のなわばり争いにおいては、それに加えて、特定の場所への執着度の相違が効いていたように思います。

すなわち、今回観察したキトンボ♂個体のほうが池をパトロール場所として広く利用しているのに対し、マユタテアカネのこの♂個体は水辺の直径2m程度の範囲にこだわるように なわばり を維持していたので、その狭いエリアの防衛への動機付けが、より高かったものと思われます。


他種トンボやキトンボの連結産卵・単独(ガードつき)産卵も観察(詳細は次回記事)

この後、この池でオオアオイトトンボショウジョウトンボのそれぞれ♂を1個体ずつ観察・撮影し(次回以降の記事で紹介予定)、11時10分過頃、近くの別の池に向いました。

11時27分、別の池で、キトンボの連結産卵に遭遇し、その様子と分離後の単独産卵(♂のガード飛行つき)を1分間ほど観察・撮影することができました(詳細は次回記事にて)。


紅葉の中のキトンボ♂

キトンボの産卵行動の観察で、その日の「運」を使い果たしたと観念し(笑)、駐車場に戻ることにしました。

その途中にも小さな池があり、そこでは紅葉下低木の葉にとまるキトンボ♂(写真10)、樹陰をバックに陽光を浴びるキトンボ♂(写真11)を見ることができました。

紅葉とキトンボ♂ 
写真10 紅葉した低木にとまるキトンボ Sympetrum croceolum ♂(別個体)(時刻:‏‎11:41:24)

樹陰をバックに陽光を浴びるキトンボ♂ 
写真11 樹陰をバックに陽光を浴びるキトンボ Sympetrum croceolum ♂(別個体)(時刻:‏‎11:45:56)

いずれも池のほとりですので、婚活中の♂にちがいありません。

特に写真11の♂は、水面上0.6~0・8mの高さの枯草の折れた茎に池の真ん中を向いて(上向き目線ではありますが)とまっていたので、それは確かです。

一方、写真10の♂は、水面上1.5mはある低木の枝葉の上に(下から見れば)隠れるかのように、体軸をやや後傾させてとまっていたので、若干休息モードに入っていたのかもしれません。

次回は、キトンボの連結産卵・単独(ガードつき)産卵について、動画つきで報告する予定です。

お楽しみに。


引用文献:
尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』。 文一総合出版。


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2018-10-11 (Thu)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征では、オオキトンボ、ナニワトンボといった初対面の種を含む多くのトンボとの出会いがありました。

その印象記はシリーズ物として、前回までに10編の記事にしています(記事一覧はこちら)。

第11報の今回は、オオキトンボ、ナニワトンボも観察された溜池Aから歩いて移動可能な、近隣の溜池で観察された、トンボ5種、すなわちベニイトトンボ Ceriagrion nipponicum Asahina, 1967 、アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis (Rambur, 1842) 、ハネビロトンボ Tramea virginia (Rambur, 1842)、ノシメトンボ Sympetrum infuscatum (Selys,1883)、リスアカネ Sympetrum risi Bartenev, 1914 を取り上げます。

目 次:
 ◆陽射しを浴びるリスアカネ
 ◆溜池狭しと飛び回るハネビロトンボ♂
 ◆浮遊植物の繁茂する溜池で水生昆虫を探る
 ◆ベニイトトンボの交尾
 ◆アオモンイトトンボの体清掃
 ◆ノシメトンボが連結打空産卵中
 ◆地元研究者による地道な水生昆虫調査活動
 ◆ハネビロトンボを下から撮る
 ◆真っ赤なリスアカネ
 ◆体色の種内変異?
 ◆謝辞


陽射しを浴びるリスアカネ

「松山探虫団」(仮称)の面々のご案内のもと、前回記事で紹介したオニヤンマの交尾を観察・撮影したポイントを通り過ぎ、すぐ近くの農道づたいに歩いて、次の目的地(溜池C)に向いました。

その途中、枯れ枝の先にはリスアカネ♂がとまっていました(写真1)。

リスアカネ♂ 
写真1 リスアカネ Sympetrum risi ♂ (写真はクリックで拡大します)

翅が被っていますが、リスアカネの特徴となる胸部第一側縫線上の黒紋の形状(途中でカットされている)が確認できます。


溜池狭しと飛び回るハネビロトンボ♂

途中、小規模な溜池(溜池B)があり、その水面上をハネビロトンボ♂がパトロール飛行していました。(13時40分38秒)

何枚か写真をとった内の1枚が、写真2です。

ハネビロトンボ♂ 
写真2 ハネビロトンボTramea virginia ♂ 

右に進行方向を変えるため、胸部・腹部を右に大きく傾けていますが、頭部はほぼ水平位です。

ただし、頸を右前方に向けていて、進行方向を先に視認していることが伺えます。


浮遊植物の繁茂する溜池で水生昆虫を探る

農道を更に歩み進むと、水面がびっしりと浮遊植物(ホテイアオイなど)に覆われた、林地に囲まれた別の溜池(溜池C)に到着しました(写真3)。

水生植物に被われた溜池 
写真3 水生植物に被われた溜池(溜池C)


ベニイトトンボの交尾

その岸辺の植物の葉にぶらさがって、ベニイトトンボが交尾していました(13時46分08秒~13時50分42秒まで撮影)(写真4、5)。

ベニイトトンボ交尾 
写真4 ベニイトトンボ Ceriagrion nipponicum 交尾

写真4は♂にピント、写真5は♀にピントを合わせています。

ベニイトトンボ交尾 
写真5 ベニイトトンボ Ceriagrion nipponicum 交尾 (同一カップル)

ベニイトトンボの交尾の全体がわかる写真は、当ブログ初掲載です。

ただし、当時はアングルファインダー入手前だったこともあり、♂♀同時にピントが合った写真を撮ることはできませんでした。

写真6は、2分後にその近くで撮影したベニイトトンボの単独♂です。

ベニイトトンボ♂ 
写真6 ベニイトトンボ Ceriagrion nipponicum の単独♂

浮遊植物(ミズヒナゲシ属 Hydrocleys と思われる)の葉の縁にとまってじっと何かを待っているようです。

おそらく、♀の姿が視界に入るのを待っているのでしょう。

うまくいけば、先ほどのカップルのように、婚活が成就するというわけです。


アオモンイトトンボの体清掃

すぐ近くには、アオモンイトトンボ♂もとまっていました(写真7)。‏‎(13時52分24秒)

 アオモンイトトンボ♂
写真7 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂

写真7の♂、後脚が大きく持ち上がっていて、どこか不安定です。

それもそのはず、現在体清掃行動をしている真っ最中でした。

この2秒後には、腹部を背方に強く曲げ、それを両翅で挟んで擦ります。

いったん腹を後方に真っ直ぐ伸ばし、ふたたび背方へ曲げ始めます。

そして写真8のように最大限腹基部を背方にそらせて翅とこすり合わせました。(13時52分30秒)

アオモンイトトンボ♂- 
写真8 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂ (同一個体)

写真9では、またいったん腹部を真っ直ぐに伸ばしています。(13時52分32秒)

アオモンイトトンボ♂ 
写真9 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂ (同一個体)

すると今度は、腹を胸部との境目付近で強く下に曲げ始めました(写真10)。(13時52分34秒)

アオモンイトトンボ♂- 
写真10 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂ (同一個体)

続けて、中脚までも足場から浮かせて、腹を腹部第2~4節付近で折り曲げながら、さらに下方にカーブさせています(写真11)。(13時52分34秒)

アオモンイトトンボ♂- 
写真11 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂ (同一個体)

この時、腹部と胸部との境目付近の曲げ角は、少し開くほうに緩んでいます。

その4秒後には、腹部を第4~6節付近で強く曲げ、腹端(腹部第10節付近)を両後脚の跗節を左右からあてがうようにしています(写真12)。(‏‎13時52分38秒)

アオモンイトトンボ♂ 
写真12 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂ (同一個体)

こうして、跗節に列生した刺毛をブラシのように使い、腹端部に付着した塵を払い落しているものと思われます。

そして、また腹部を真っ直ぐに戻しました(写真13)。(13時52分38秒)

アオモンイトトンボ♂ 
写真13 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂ (同一個体)

その2秒後、この♂は飛び立ちました。

※均翅亜目(イトトンボ類、カワトンボ類など)の体清掃行動については、以下の過去記事でも写真入りで詳しく取り扱っています。



ノシメトンボが連結打空産卵中

その近くでは、ノシメトンボのカップルも連結態で水草上の低い所を、ホバリングを交えつつ飛んでいました(写真14)。

ノシメトンボ連結産卵 
写真14 ノシメトンボ  Sympetrum infuscatum 連結打空産卵

写真14では、雌の腹部第10節付近下面に、白っぽい粒状のものがと思われるものが、垂れ下がるように付着しています。

ノシメトンボは連結打空産卵することが知られていますので、この白い粒は卵粒と見てよいでしょう。


地元研究者による地道な水生昆虫調査活動

溜池Cでは、松山探虫団のメンバーのお一人で「愛媛のトンボ図鑑」の共著者でもある、武智礼央さんは、もっぱら水棲網で水生昆虫を掬い、生息状況の調査にあたっていました。

写真15は採集された水生昆虫サンプルにカメラを向ける武智さん(左端)ほか探虫団の面々です。

溜池の水棲昆虫を調査中のメンバー 
写真15 溜池Cで武智さんが採集した水生昆虫サンプルを囲む探虫団員

決まり過ぎている?

ばれましたね。
カメラマン(私)のリクエストに応えたポーズでした。

この後、私は団員とともに溜池Cでの観察を切り上げ、溜池Bの横を通って、探虫団の面々の車を停めていた場所に向いました。


ハネビロトンボを下から撮る

車に戻る途中、溜池Bの上空を、またもやハネビロトンボ♂が飛び回っていました(写真16)。(‏‎14時08分12秒)

ハネビロトンボ♂ 
写真16 ハネビロトンボTramea virginia ♂

写真16は、大きくトリミングしたため粒子が粗いのですが、少し高いところを飛ぶハネビロトンボを斜め後下方から撮影した、ちょっと珍しいアングルからのものでしたので、掲げることにしました。

写真16写真2の♂が同一個体かどうかを、翅の汚れの位置や形が一致するかどうかで判定しようと試みてみました。

その結果、右前翅先端近くの後縁にクモの糸が付着したような汚れがあり、形や位置が類似していると判断できました。

もし同一個体だっとすれば、28分間以上にわたって同じ溜池上を(途中、一時的退出や休息があったにせよ)パトロールしていたことになります。


真っ赤なリスアカネ

車に戻る途中で、草にとまる真っ赤なリスアカネ♂を見付けました(写真17)。

リスアカネ♂ 
写真17 リスアカネ Sympetrum risi ♂

リスアカネ♂ 
写真1(再掲) リスアカネ Sympetrum risi ♂

リスアカネ連結産卵 
写真18 溜池Aで撮影されたリスアカネ Sympetrum risi 連結ペア。過去記事からの再掲)

写真17のリスアカネ♂は、写真1(再掲)のリスアカネ♂(別個体)に比べて腹部の赤化が著しい個体です。

これは、写真17の♂のほうが写真1(再掲)の♂よりも、ずっと成熟が進んでいるためだろう、ということがまず考えられます。

写真18過去記事から再掲)は、この日、溜池Aで撮影したリスアカネの連結カップルです。

採光や背景色の影響もあるかもしれませんが、写真17の♂は写真18の♂よりも、少しばかり赤味が強い感じを受けます。


体色の種内変異?

赤とんぼ の体色の赤さにも種内変異はあるでしょうから、写真1写真17、18の赤さの違いは、成熟度の差というよりも、ひょっとすると、その種内変異に収まっているものなのかもしれません。

このことを確かめるには、色々な時期に色々な赤さの程度の♂個体を採集し、赤色の彩度レベルを客観的に計測・記録するとともに、生殖腺を解剖して成熟度を判定・記録するなどの計画的な調査・研究が必要になるでしょう。

さて、本シリーズの次回記事では、四国秋のトンボ巡礼の第2日目の観察の第1報として、同じ県内でも方面が少々異なるところにある溜池で観察されたトンボを取り上げる予定です。


謝辞
現地に案内して下さった飯田貢さん、生息地の解説をされた高橋士朗さんと武智礼央さん、観察の楽しみを共有された山本桂子さん、高橋賢悟さんに謝意を表したいと思います。


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2018-10-10 (Wed)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征では、オオキトンボ、ナニワトンボといった初対面の種を含む多くのトンボとの出会いがありました。

その印象記はシリーズ物として、今春までに9編の記事にしています(記事一覧はこちら)。

このたび、遠征時とほぼ同じ季節を迎えましたので、中断していたシリーズ記事の掲載を再開したいと思います。

第10報の今回は、オオキトンボ、ナニワトンボも観察された溜池Aから少し降りたところで確認された、2つの大型種、カトリヤンマ Gynacantha japonica Bartenev, 1910 オニヤンマ Anotogaster sieboldii (Selys, 1854)について取り上げます。


目 次:
 ◆カトリヤンマの眼はヒマワリ畑
 ◆オニヤンマの交尾
 ◆謝辞


カトリヤンマの眼はヒマワリ畑

私が溜池Aについてまもなくの時間帯(午前10時の少し前)、オオキトンボの撮影に没頭していた時のことです。

この日の「松山探虫団」のメンバーの一人、高橋賢悟さんが1頭のヤンマを手づかみにして、この溜池への登り道を上がってきました。

そのヤンマを、撮りやすい位置に釣り下げてもらい、セカンド・カメラ(オリンパスTG-5)に収めることができました(写真1)。

カトリヤンマ♂ 
写真1 カトリヤンマ Gynacantha japonica ♂。持っているのは高橋賢悟さん(この後、リリース)。(写真はクリックで拡大します)

一見してそれとわかる、カトリヤンマの♂です。

賢悟さんのお話によれば、この溜池への登り道の傍らの涸れた溝を横切るように張られたクモの網がいくつかあり、そのうちの一つの網にこのカトリヤンマが引っ掛かったとのこと。

その直後、このヤンマにクモが襲い掛かる直前に、賢悟さんが命を救ったとのこと。

賢悟さんの話は続きます。
「たぶんジョロウグモの巣だと思います。恐らく、隣は山の駆け上がりでしたので、カトリヤンマが行き来していたのでしょう。採集した後も引っ掛かっていましたが、どれも自力で脱出していました。」

かなりスペクタキュラーな、パニック映画の世界。

「どれどれ」と、その現場まで少し歩み降りて、クモとカトリヤンマの攻防をつぶさに見てみたい気持ちも起こりましたが、池の水辺でも初対面のオオキトンボが私を誘惑していましたし、ナニワトンボがいつ現れるかという期待感も強くありましたので、その攻防を観戦することは断念しました。

同じ写真でヤンマの頭部、胸部のところを拡大したのが写真2です。

カトリヤンマ♂、頭部、胸部拡大 
写真2 カトリヤンマ Gynacantha japonica ♂(同一個体) (写真1の頭部・胸部を拡大)

中からヒマワリ畑が透けているかのように見える、透明感のある複眼が印象的です。

おでこ(前額)や頭楯、翅胸を覆う微毛はちょっとユーモラスです。

翅をつままれて脚が宙に浮いているせいでしょうか、飛翔時にそうするように、前脚を立てて頭部後方に格納しているのも注目です。


オニヤンマの交尾

さて、この日の溜池Aでの2時間半の観察を切り上げて、この溜池への登り道を下りる途中のことです。

賢悟さんが、今度は、小径に沿った斜面に生える竹の枝にぶら下がって交尾しているオニヤンマを、目ざとく見つけました(写真3;12時21分)。

オニヤンマ交尾 
写真3 オニヤンマ Anotogaster sieboldii 交尾。

その交尾カップルをズームインして撮影したものが写真4です。

オニヤンマ交尾 
写真4 オニヤンマ Anotogaster sieboldii 交尾(同一カップル) 

♂は太い脚でしっかりと竹の枝を掴んで、2頭分の体重を支えています。
♀は♂の腹部に脚をかけて、交尾態の維持に貢献しています。

写真5は、撮影者(私)がトンボに向って左方向に少し回り込んで撮影したものです。

オニヤンマ交尾 
写真5 オニヤンマ Anotogaster sieboldii 交尾(同一カップル)

写真6は、連結した♀の頭部付近を拡大したものです。

オニヤンマ交尾、♀の頭部拡大 
写真6 オニヤンマ Anotogaster sieboldii 交尾(同一カップル)

♂の尾部付属器が、ガッチリと♀の頭部中央部を前後から挟みつけて、掴んでいることがわかります。

写真7は、♂の体前部の拡大で、♂の副交尾器と♀の生殖口がしっかりと合体している状況がわかります。

オニヤンマ交尾、♂の頭部、胸部拡大 
写真7 オニヤンマ Anotogaster sieboldii 交尾(同一カップル)(頭部、胸部拡大)

オニヤンマの♀は、長い産卵管を流れの底の土砂に突き立てて産卵しますが、その長い産卵管はこの角度からは見えません。

写真8は、同じ交尾カップルを背面側から写したものです。

オニヤンマ交尾 
写真8 オニヤンマ Anotogaster sieboldii 交尾(同一カップル)

静かに時がすぎていきます。

12時29分、交尾はまだ続いていましたが、この交尾カップルの観察を切り上げ、探虫団の面々と、次の観察ポイントに向いました。

今回の主役の1人、オニヤンマは写真としては、当ブログ初登場となりました。

オニヤンマについては、関東地方で撮影した単独♂個体の写真の手持ちがあり、いずれ記事化しようと思っていましたが、遠征先のオニヤンマに先を越されました。

でも、いいでしょう。

遠征先のオニヤンマはハート型のリングで自ら飾り立て、ゴールインしているのですから!


謝辞
現地に案内して下さった飯田貢さん、生息地の解説をされた高橋士朗さん、カトリヤンマ、オニヤンマの観察の機会を与えられた高橋賢悟さんに謝意を表したいと思います。


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