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2017-08-11 (Fri)
今年6月前半の東海地方での、グンバイトンボ Platycnemis foliacea Selys, 1886 の観察記録は、今回の記事が最後となります。

前回までの関連記事が少し長すぎるきらいがありましたので、今回は短く締めたいと思います。

前日に交尾や産卵が見られた同じ場所(小さな小川でヨシ類が茂っている場所)で、私は単独♂が単独♀に対して求愛行動をしているのを観察・撮影する機会を狙って、ゆっくりと歩を進めていました。

しかし、なかなか、というか最後まで、その機会に恵まれませんでした。

そのかわりに、そのヨシ類の茂みの隙間を縫うように飛び回る単独♂が、中・後脚をスラリと伸ばして軍配を目立たせながら飛び回る姿を頻繁に目撃することができました。

10日、11時50分から約10分間の単独♂飛行の観察で、約60回シャッターを押しましたが、その大部分がこのように軍配誇示飛行となっていました。

ピンボケ写真の山を築いた60カットの中で、なんとか見せられるレベルに撮れたもの2カットを写真1,2に掲げます。

グンバイトンボ♂、軍配誇示飛行(1)
写真1 グンバイトンボPlatycnemis foliacea ♂、軍配誇示飛行(1)(写真はクリックで拡大)

写真1のシーンでは、中・後脚を斜め後ろ方向に真っ直ぐ伸ばすだけでなく、左右にも若干拡げていて、ムササビ類が飛膜を拡げて滑空している様子、あるいはスキーのジャンプ選手の手足を左右に半開した空中姿勢を彷彿とさせます。

グンバイトンボ♂、軍配誇示飛行(2)
写真2 グンバイトンボ P. foliacea ♂、軍配誇示飛行(2

写真2も同様の姿勢ですが、左右への拡げ方には若干の抑制が働いているようです。

とりわけ写真1のように綺麗に軍配を見せびらかされると、♀のほうもグッと惹きつけられるのではないでしょうか?

私は、今まで、♂は♀を発見してから軍配を誇示するのだろうと思っていましたが、もしかすると♂は♀のいそうな場所では常にこのように自らの美しく立派な軍配をひけらかすように飛び回り、♀がリアクションを起こすのを狙っているのかもしれません。

軍配の誇示は、♂同士の威嚇にも使われます。
というより、♂同士の威嚇には間違いなく使われています。

以下は私の以前の記事「グンバイトンボの軍配は何のため?」(昨年の四国での観察)からの関連部分の抜粋です。

「(グンバイトンボの♂は)相手の♂の接近に対して立ち向かっていくときに、脚を6本とも下方に垂らし、白い軍配状の脛節が(観察者から見て)大変目立った」

「♂が相手を追いかけ、別れて、戻る時に(も)、軍配面を後方に向け、軍配を「誇示」した」

「杉村ほか(1999)の『原色・日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』の「グンバイトンボ」の項に、次のような記述がありました。『成熟雄は<中略>縄張りを保持<中略>ほかの♂にであうと軍配状の真っ白い肢をいっぱいに広げてホバリングしながらにらみあい、体を上下にゆさぶっては徐々に上方へ移行し、頃あいをはかって別れる。♀に対しても、まず肢を思い切り拡げて自己顕示を行う。』」

「ヨーロッパに生息するPlatycnemis latipes Rambur, 1842Platycnemis acutipennis Selys, 1841の♂の中脚、後脚も日本のグンバイトンボよりも少し劣りますが、広がった脛節をもちます(参考サイト:Hyde, 2016)。」

「しかし、これら2種の♂は(少なくともフランスの当該観察地では)求愛の際に拡がった脛節を用いず、飛行中に同種♂を威嚇する際に用いるとのことです(Hyde, 2016)」

この四国での観察でも軍配誇示飛行の撮影も狙ったのですが、ピンボケばかりでした。

以上で、昨年・今年の四国・東海を股にかけてのグンバイトンボ観察の報告を終わりにします。

私が一番強い関心を抱いていた、グンバイトンボ♂が♀に出会った時にどう軍配を見せつけるのかということについては、この目で確かめるのは来年以降に持ち越されることになりました。


下記の関連記事(横綱級の軍配とか世界軍配番付)もお見逃しなく。。。。


引用文献:

Hyde, Bruce  2016 Featherleg Differences.  http://www.ipernity.com/blog/bruce.hyde/4392388

杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司 (1999) 原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑。北海道大学図書刊行会。


関連記事:
  1. 横綱級の軍配を持つトンボPlatycnemis phasmovolansは何に見えたか?

    前回の記事「世界のグンバイトンボ類、軍配サイズ番付」で公表した「世界のグンバイトンボ類、軍配サイズ番付」では、ラオス産のグンバイトンボ属の種、PlatycnemisphasmovolansHämäläinen,2003(図1、2;再掲)が見事、東の正横綱の地位を確保しました。
  2. Platycnemis phasmovolans _ photo taken by Dr Matti Hamalainen 
    図1(再掲).Platycnemis phasmovolans, photo taken by Dr. Matti Hämäläinen. 
       (Platycnemis phasmovolans♂の標本写真。Dr. Matti Hämäläinen提供)
      (写真はクリックで拡大します)

    Platycnemis phasmovolans, teneral male _ photo taken by Dr Matti Hamalainen
    図2(再掲).Platycnemis phasmovolans teneral male, photo taken by Dr. Matti Hämäläinen.
      (Platycnemis phasmovolans未熟♂の貴重な生態写真(Dr. Matti Hämäläinen提供)。 
    dranathis.blog.fc2.com/blog-entry-441.html

  3. 世界のグンバイトンボ類、軍配サイズ番付

    (この記事の正しい公開日は、2017-04-08(Sat)です。)前回の記事「グンバイトンボの軍配は何のため?」では、日本産のグンバイトンボPlatycnemisfoliaceaSelys,1886の♂の中脚、後脚の脛節が軍配のように扁平に拡がっていることに注目し、若干の考察をしました。属の学名Pl
    dranathis.blog.fc2.com/blog-entry-437.html

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2017-08-10 (Thu)
今年6月前半の東海地方での、グンバイトンボ Platycnemis foliacea Selys, 1886 の観察の続きです。

前回記事で取り上げた交尾に引き続き、今回は産卵活動中の♂♀カップルの行動のうち、興味深い行動要素について、時系列順に取り上げます。

晴れた日の午前11時半、この日初めての産卵行動が観察されました。
私にとって、本種の産卵行動観察は初の機会になりますので、カメラを握る手に思わず力が入ります。

今回は、連結♂が直立する連結産卵の真上方向からの撮影となりましたので、♂♀の両者に同時にピントを合わせることができませんでしたが、仕方ありません。

言い訳はこのくらいにして、まずは♀にピントがあった写真から(写真1)。

グンバイトンボ産卵開始(1) 
写真1 グンバイトンボ Platycnemis foliacea 産卵開始(1)(写真はクリックで拡大)

♂も♀も翅をわずかに開いた状態です。
♀は産卵管を産卵基質(水に浸った古い枯れヨシの茎)につきたてています。

写真2は同じカップルで、♂の体前部にピントが合ったものです。

グンバイトンボ産卵開始(2) 
写真2 グンバイトンボ P. foliacea 産卵開始(2) 

♂は腹部を真っ直ぐに直立させ(ただし、この写真では、腹部第6,7節の間を若干腹方行に屈曲させていますが)、脚は完全に折りたたんで胸部腹面に密着させています。

均翅亜目トンボの連結産卵中の♂に特有のこの姿勢は「歩哨姿勢」(城門等で見張りをする兵士の立ち姿の意味)と呼ばれます。

写真3では、歩哨姿勢が若干くずれて♂は脚を少し延ばしています。

グンバイトンボ産卵、♂は歩哨姿勢
写真3 グンバイトンボ Pfoliacea 産卵。♂は歩哨姿勢 

何かの拍子に、若干バランスを崩して、少し慌てたのかもしれません。

写真4は連結産卵中の♀の頭部、胸部付近のクローズアップです。

グンバイトンボ産卵、タンデム結合
写真4 グンバイトンボ Pfoliacea 産卵。タンデム結合部拡大

♂の尾部付属器がしっかりと♀の前胸背板をホールドして、しっかりとタンデム(連結)の態勢を維持していることがわかります。

不均翅亜目やムカシトンボ亜目と違って、♀頭部への♂尾部付属器の連結ではありませんので、♀の頭部は♀の意思どおり自由自在に動かすことができますし、首が千切れる危険性も大幅に軽減されています。

以上は、同一カップルのほぼ同一地点での2分間前後の連続観察から拾い上げたシーンです。

以下は、4分ほど後からの、別カップルについての観察です。

写真5は、水面に倒れかかったヨシ類の葉にとまったカップルの♀が、その重みで水面下になった葉の表面に産卵動作をとっているところです。

グンバイトンボ、ヨシ類の葉への産卵動作 
写真5 グンバイトンボ Pfoliacea ヨシ類の葉への産卵動作

♀は産卵管を葉の表面に突き刺していますが、♀の腹部が第5~7節付近で(体前方から見て)反時計回り方向に捻じれています。

もしかすると、産卵管を突き刺したものの、葉の裏側に突き抜けたため、実質のあるところを求めて産卵管の先を捻じるように45度ほど回転させて、組織内(実際は葉を突き抜けた水中)を探ったのかもしれません。

というのも、写真5の1コマ前(2秒前)の写真(不掲載)では、♀の腹部は捻じれない状態で葉の表面に産卵管をつきたているからです。

もう一つ、「おやっ?」と思うのは、写真5の♀の腹部先端付近と水面との関係です。
水面が腹部先端付近の胴体に吸いつくように引き寄せられ、吊り上げられて富士山の裾野のような形に盛り上がっているように見えます。

水道水と爪楊枝で実験してみても、水はこのようにはっきりとは盛り上がりませんので、この葉の上の水に、何か粘性を生じさせる成分が含まれていたのかもしれません。

下の写真6は、産卵中の2カップルが向かい合って産卵しているところです。 

グンバイトンボ2ペア対面産卵
写真6 グンバイトンボ Pfoliacea 2カップルの対面産卵

ピントが今一つなのは、ファインダーを覗かずに、カメラを水面近くまで下ろし、山勘を頼りに方向や焦点距離を少しずつ変えながらバシャバシャとシャッターを押したうちの、よりマシな1枚だからです。

私がこんな写真を撮影していた前後の時期にフェイスブック上で、ある方がグンバイトンボの2カップルが歩哨姿勢の♂同士が左右対称に向い合うような位置取りで産卵していて、更に水面にもこのカップルが映っているという、素晴らしい作品を披露していました。

このようなローアングルでの撮影には、最低限アングルファインダーは必要だということを痛感させることとなった作品間の大きな落差でした。

下の、写真7は、産卵活動の合間に静止中の連結カップルに、別の連結カップルが左後方から接近した瞬間です。

グンバイトンボ産卵ペアに別ペア接近、歩哨♂が軍配誇示 
写真7 グンバイトンボ Pfoliacea 産卵カップルに別カップル接近

静止中のカップルの♂は歩哨姿勢をとっていましたが、この瞬間、両後脚を左右に広げて、後方から接近する別カップルに対して軍配を誇示しているようにも見えます。

静止カップルの♂は4枚の翅も広げて振動させていて、その点は他の均翅亜目が示すことが多い警告行動と同様ですが、軍配を拡げて警告の効果をアップさせているのは、さすがグンバイトンボといったところです。

下の写真8は、接近カップルが通過し去った後の、静止カップルの様子です。 

グンバイトンボ産卵ペア、別ペア通り過ぎると軍配おろす
写真8 グンバイトンボ Pfoliacea 産卵カップル、別カップル通過直後

♂が脚を折り曲げて、本来の歩哨姿勢に近い状態に戻りつつあることが見てとれます。

下の写真9では、産卵中のカップルに、別カップルがやはり左後方から接近しています。

グンバイトンボ産卵ペアに別ペア接近、先いた♂は翅ブルブル、接近♂は軍配誇示か
写真9 グンバイトンボ Pfoliacea 産卵カップルに別カップル接近(事例2)

産卵カップルの♂は、翅を開いてブルブル振動させて警告していますが、脚はしっかり閉じています。

逆に接近中のカップルの♂が中脚・後脚をだらりと下げて軍配を誇示し「いやなら、どいて」と言うかのようにプレッシャーをかけているように見えます。

そういえば、この一帯では、産卵カップルが目立つ割には、適当な産卵スポットが不足していると言えなくもありません。

もし、産卵スポットが不足していたとしたなら、産卵カップル間で、産卵ポイントを巡って、一種の干渉型競争が起こりうる可能性が出てきます。

そして、このような「産卵場所を巡っての相互排斥行動にも軍配誇示が利用されことがある」という仮説を立てることができるでしょう。

下の写真10は、前述の接近カップルが通過して行く瞬間のカットです。

グンバイトンボ産卵ペア、別ペア通り過ぎるたが、軍配上げている
写真10 グンバイトンボ Pfoliacea 産卵カップル、別カップル通過直後(事例2)

通過したカップルの♂の軍配はこの時点では「収納」されていますが、逆に産卵カップルの♂は後脚を若干延ばし、軍配を若干目立たせています。

下の写真11は、ほんの少し離れた場所で2つの連結カップルが、水面上に出ている枯れたヨシ類の茎に、向かい合うように静止しているところです。

グンバイトンボ、2ペア近接産卵中。 互いに緊張
写真11 グンバイトンボ Pfoliacea 2カップル近接産卵中。 互いに緊張

互いの♂が前に倒れ込めば、ぶつかり合い、絡み合う距離です。
そのためか、こちら向きの♂の左後脚が延び気味となるなど、若干の緊張感が漂っています。

まもなく、この2カップルのいるポイントにもう1カップルが左後方からやってきました(写真12)。

グンバイトンボ産卵。3ペア目がやってきた
写真12 グンバイトンボ Pfoliacea 産卵。3ペア目がやってきた

こちら向きの♂は、更に緊張して、両方の中・後脚を半延ばしして身構えています。

すぐに、この狭い産卵スポットの真ん中に、その第三のカップルが割り込むようにとまりました(写真13)。

グンバイトンボ産卵、3ペア目が割り込む
写真13 グンバイトンボ P foliacea 産卵、3ペア目が割り込む

これは窮屈です。

真ん中のカップルがこのまま、上から見て反時計回りに向きを変えようものなら、そのカップルの♀の腹部の先端が、あちら向きのカップルの♀の頭部、あるいは♂の腹部先端付近にぶつかりかねません。

これに嫌気がさしたのか、元からいた2カップルのうち、あちら向きだったカップルは飛び立って移動していきました。

残ったカップルもしばらくそこに留まりましたが、硬くて産卵に適さないのでしょう、両カップルとも相前後して移動していきました。

最後の1枚(写真14)は、産卵活動の間の静止中のカップルの♂が、眼の前に着き出した草の葉先につかまっているところです。

グンバイトンボ産卵、連結♂が草につかまる
写真14 グンバイトンボ P. foliacea産卵、連結♂が草につかまる

「歩哨姿勢も結構つらいぜ」といったところでしょうか。

もっとも、これほど格好のつかまり場所は滅多にありませんので、この後はまた頑張ってもらうしかありません。

この♀は、♂が葉につかまった状態の時にも産卵姿勢をとりました。
しかし、ご覧のとおり、この枯れ茎は硬くて産卵管が刺さりそうもありません。

まもなく、カップルはすぐ隣にある、水面上に倒れかかったヨシ類の葉にとまり替え、そこで産卵姿勢をとりました。

今回のグンバイトンボの産卵行動の観察記録(20分間)はここまでです。


産卵の際の♀の産卵器の挙動

均翅亜目のトンボの産卵の際の♀の産卵器の動きについては、文献を引用しながら、下記記事で紹介しましたので、あわせてご笑覧ください。


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2017-06-19 (Mon)
前回記事では、木陰で薄暗い湿地上で♀を探索するサラサヤンマ Sarasaeschna pryeri (Martin, 1909) ♂との出会いをとりあげました。

同じ6月上旬、県外に脚を延ばしての取材旅行での立ち寄り地点で、陽光の中を飛び回るサラサヤンマ♂に遭遇し、観察・撮影することができましたので、写真を添えて紹介します。

現地で、正午を少し過ぎた頃、湿地のある沢沿いの廃林道上を低く飛ぶ小型ヤンマを発見しました(写真1~3)。

サラサヤンマ♂(明所、1) 
写真1 サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri ♂(1)。(写真はクリックで拡大します)

サラサヤンマ♂(明所、6)
写真2 サラサヤンマ♂(2)

サラサヤンマ♂(明所、2)
写真3 サラサヤンマ♂(3)

現地でも、体サイズ、外形、斑紋パターンなどからサラサヤンマと直感しましたが、帰宅後画像と図鑑を見比べて、同定に正確を期しました。

前回記事のサラサヤンマ♂のケースでは、うす暗い所を飛んでいましたので、ISO感度を最大の6400、5.6に設定した絞り優先オートにして撮影しましたが、今回は木陰のない所での飛行でしたので、ISO感度を1600、1600分の1秒に設定したシャッター速度優先オートにして撮影しました(オートの結果としての絞りは、写真1、3の場合、それぞれ10、14)。

やはり明るい所での撮影だけあって、薄暗い場所での場合とくらべてくっきりと写すことができました。
それでもまだピントは今ひとつですね(汗)。

苦し紛れとなりますが、写真3の一つ前のカット(写真4)は「尻切れトンボ」ながら、今回のベスト・ピント賞でしたのでアップロードしておきます。

サラサヤンマ♂(明所、3)
写真4 サラサヤンマ♂(4)

このサラサヤンマ♂は、地面から10cmくらいから1mくらいまでの、割合低い高度を曲線的に飛び、ときどきホバリングをはさんでいました。

また、写真5のように、道端の草や低木の枝葉と地面との間を覗き込むようにホバリングする行動も繰り返していたことから、摂食というよりも、交尾相手としての♀の探索が目的の飛行(探雌飛行)だったと考えられます。

サラサヤンマ♂(明所、5)
写真5 サラサヤンマ♂(5)

もし摂食が目的であれば、飛び回っている小昆虫を探すのですから、より広くより高い範囲を飛び回ればよいわけですが、今回のこの♂は低いところ、それも廃林道上の同じ場所(道に沿って2,30mくらいの範囲内)にこだわって飛んでいたからです。

それにしても、前回記事の同種♂にくらべて、なぜこんなに明るい場所で、そして水面も湿った泥もない地面のすぐ上で♀探しをするのでしょうか?

写真1に写っている地面に、落葉や土砂のほかにコケのような植物があることが、そのヒントになりそうです。
今年の本州の6月上旬は空梅雨で渇水気味となっていましたので、この場所はしっかり乾いていますが、もしかすると梅雨で路面が湿っている時期には、サラサヤンマの♀が産卵場所を求めてこのあたりをうろうろしたり、産卵を試みることもあるのかもしれません。

この想像が妥当なものかどうかは、今後の自分自身による観察、あるいは他の方のブログ記事あるいは昆虫関係誌への報告によって検証したいところです。

さて、この後は、余談になります。

下の写真6は、同じ場所でこの♂が水平から少し上昇しかけたシーンです。

サラサヤンマ♂(明所、4)
写真6 サラサヤンマ(6)

ピントが甘いので本来は没にすべき写りでしたが、複眼の部分を拡大したところ、楽しくなってしまいました(写真7)。

サラサヤンマ♂(明所、4、部分拡大) 
写真7 サラサヤンマ♂(7)。(写真6の部分拡大)

そこにいたのは、トンボに変身したアンパンマンでした。


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2017-06-18 (Sun)
6月上旬の好天の日、耕作放棄された棚田をかかえる谷戸の最上部のため池にトンボ探しに行きました。
目的地に近づくにつれて、ヨシの群生にクズ(葛)のツルが巻き付くブッシュが行く手をはばむようになりました。手には軍手、頭には帽子とゴーグルを装い、一歩一歩進んで行きます。

一番奥の、池があった場所がヨシ原に埋め尽くされた猫の額のような湿草原で、その草原が谷斜面とぶつかる所は、泥に埋まった細い流れになっています(写真1)。

サラサヤンマ♂の♀探索行動がみられた湿地
写真1 サラサヤンマ♂の♀探索行動がみられた湿地 (写真はクリックで拡大します)

この湿地に足を踏み入れると、小型の黒っぽいヤンマが通りかかりました。

息を止めてカメラを用意している間も、このヤンマは泥面から30~50cmの高さをゆっくり飛行しながら、時々ホバリングしています。

それを高ISO、高速シャッターでがむしゃらに撮影した中のベストショットが写真2と写真3です。

サラサヤンマ♂(1) 
写真2 サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri ♂(1)(トリミング)

サラサヤンマ♂(2)
写真3 サラサヤンマ♂(2)(トリミング)

体サイズ、色調、ロケーションから判断してサラサヤンマ Sarasaeschna pryeri (Martin, 1909) の♂に違いないとその場で判断しました。
帰宅後、図鑑で正解だったことが確認できました。

サラサヤンマとは私が北海道在住時に観察した経験がありますが、その頃は銀塩フィルムの一眼レフの時代で、このような空振り山積みの撮影をすることは考えもしませんでした。

写真2,3とも、トリミングしていますが、ストロボ発光も画像調整もしていないものです。

♂は、このように湿地上の低いところを飛び回りながら、明らかに♀、とくに産卵中の♀を探しているに違いありません。

そして、思いのほか、頻繁に、その飛び回り範囲内の草や木の垂直に近い茎や幹・枝にとまります(写真4)。
その高さは泥面から30~50cmでした。

サラサヤンマ♂(3)
写真4 サラサヤンマ♂(3)(トリミングなし)

写真4と、その直前にクローズアップして撮影した写真5は、いずれも内蔵ストロボを発光させたもので、その分、色調が鮮やかに写っています。

サラサヤンマ♂(4)
写真5 サラサヤンマ♂(4)(大幅トリミング)

写真5のオリジナル画像では複眼を構成する個眼がおりなす網目をとらえることができます。
私としては上出来な写りとなりました。

ついでながら、この個体、複眼に凹み傷がありますね。
しかし複眼の背面部の小さい傷ですので、♀や♂を認識したり追尾する上では問題なさそうです。

探索飛翔の間のとまった回数は、午後2時半の観察開始から3時15分の観察切り上げまでの45分間に丁度10回でした。
とまるたびにシャッターを押しましたので、回数は正確です(笑)。

薄暗い中での飛翔個体の撮影が主体でしたので、この間のシャッターを押した回数は170回となりました。

ストロボ発光で静止個体の写真撮影成功に味を占めて、飛翔個体もストロボでねらいましたが、そのうちこの個体がどこかへ行ってしまったので、ベストショットはなんと「葉隠れ」を彷彿とさせる写真6となってしまいました。

サラサヤンマ♂(5)
写真6 サラサヤンマ♂(5)(トリミング)

写真6は作品としては不合格ですが、サラサヤンマの生態を知る上では、なかなかの舞台づくりになっているといえるでしょう。
つまり、ヨシが疎生している薄暗い湿地の低いところを縫うように飛ぶ本種♂の習性を見てとることができるというわけです。

最後は言い訳じみてしまいました。

冒頭のタイトルを「出会いの場での振舞い(前編)」とした理由は、もちろん、このような場所で見事♂が♀を見つけて交尾に成功するところまで見届けたら「後編」をブログにアップするつもりがあるからです。

この湿地もいずれ乾燥化して生息不適になりそうな予感があり、いつ後編が書けるかのあてはありませんが、今後の楽しみの一つとしておきます。


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2017-06-17 (Sat)
6月上旬の好天の日の昼過ぎに、山間部のダム湖にトンボの様子を見にいきました。

すり鉢状に深いダムですが、渇水のため、水位が下がり、上流側では本来湖底である部分の土砂が広い範囲で露出していました。

そのせいかどうかわかりませんが、湖の水面上や岸辺にはトンボの姿ありませんでした。

それでも、ダムに流入する渓流を少し遡ると、アサヒナカワトンボミヤマカワトンボのそれぞれ1♀が、渓流沿いの木の葉にとまっていました。

湖畔の駐車場に回ると、駐車場と湖の間に根を張った広葉樹の樹冠の下部の広々とした空間を、コシアキトンボ Pseudothemis zonata (Burmeister, 1839) の未熟な♂が自在な曲線を描きながら飛び回っていました(写真1,2,3)。(写真はクリックで拡大します)

コシアキトンボ未熟♂摂食飛翔(1) 
写真 コシアキトンボ Pseudothemis zonata の未熟な♂(1)(写真はクリックで拡大します)

なかなかピントのあう写真が撮れませんでしたので、トンボそのものよりも、トンボが飛んでいる場所の雰囲気がわかる写真ということでご紹介することにしました。

とはいえ、トンボの様子についても一言書きたくなります。

一般に、池の水面で なわばりパトロールをするコシアキトンボ♂を撮る場合は、斜め上方か、せいぜい横からになりますが、今回の写真1は、コシアキトンボを少し下方から撮ったかたちになりました。

撮影のアングルが、木の根元よりも一段高くなった駐車場からであったためです。
そのため、腰の黄色い帯が腹側(下側)でもしっかりつながって、まさに帯状になっていることがわかります。

今回、真横からの写真も撮れました(写真2)。

コシアキトンボ未熟♂摂食飛翔(2)
写真2 コシアキトンボの未熟な♂(2)

写真2では、胸部・腹部の淡色斑紋の黄色味が強いという、未熟♂の特徴が見えています。

一方、成熟した♂では腹部の淡色斑紋は白色になり、胸部側面の淡色斑紋も少し黒ずんできます(参照:当ブログの過去記事)。

♀は♂に比べて黄色味が成熟しても残りますので(参照:当ブログの過去記事)、その点、観察者にとっても、同種のトンボにとっても、腰の帯びの色調は成熟個体の場合の性別の判定に使えるはずです。

全身を右に少し傾けた状態のシーンも撮れました(写真3)。

コシアキトンボ未熟♂摂食飛翔(3)
写真3 コシアキトンボの未熟な♂(3)

どなたでもお分かりのとおり、このシーンは、このトンボが進行方向を右方向にターンしているところです。

人間が発明した飛行機の飛び方もこの飛行テクニックを採用していますね。

このテクニックは、水平飛行の場合に翅にぶつかる空気によって生じる揚力の一部を、体軸を傾けることによって生じる傾けた方向への圧力に換えることで、前進しようとする力と横向きに働く力を合成した方向に飛行体がターンしていくという、力学プロセスを利用しています。

トンボたちは、その祖先が登場した、今から約3憶年前以来、この力学プロセスを巧みに採用していたということになります。

このように、自在に上下左右に飛行方向を替えながら、このコシアキトンボはこの樹冠の下の空間を飛び回っていました。

あらためて説明するまでもなく、この一連の飛翔行動の役割は摂食飛翔です。

つまり適当なサイズの昆虫を見つけたら捕まえ、それを食べて、栄養にすることを目的とした行動。
生殖腺が成熟するまでのこの時期「前生殖期」のトンボは、異性には興味を示さず、食べることだけに専念します。

このように飛び回っていると、少しは疲れますね。
そう、彼らも休みます(写真4)。

コシアキトンボ未熟♂摂食飛翔(4)
写真4 コシアキトンボの未熟な♂(4)

写真4は、飛び回っていたのと同じ個体です。
私の観察中に、2,3度、このように、木の枝で「休憩」していました。

※今回の写真はすべてトリミングし、明暗、シャープネスを調整したものです。


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