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10≪ 2018/11 ≫12
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2018-11-14 (Wed)
日本は21種のアカネ属 Sympetrum Newman, 1833 の種が記録されている(尾園ほか、2012)「赤とんぼ大国」です。

その大部分の種では、秋が近づくにつれて成虫(とくに♂)が体を赤く染め、大挙して青空の下で子作りにいそしむシーンを展開し、私達の目を和ませます。

その中でも、キトンボ Sympetrum croceolum (Selys, 1883)写真1)は翅の半分が鮮やかな黄色に染まり、翅胸や脚でも黄褐色部が黒色部を押しやるなど、名実ともに黄色をチームカラーにした種です。

なわばり飛行中のキトンボ♂、拡大 
写真1 なわばり飛行中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂ (写真はクリックで拡大します)

私が北海道東部に在住していた当時は、晩秋まで湿原池沼のほとりで活発に活動している様子を目にしていましたが、数年前に埼玉県に移住してからは、見る機会に恵まれませんでした。

今年(2018年)10月下旬、ようやく、関東地方の山間部の池でキトンボに再会することができ、しばし観察を楽しみました。

その時に観察できたキトンボほか二・三の種のトンボの様子を、キトンボの舞う秋と題したシリーズ記事として、数回に分けて報告したいと思います。

第1報の今回は、キトンボの なわばり行動について取り上げます。


目 次
 ◆今回の観察地の景観
 ◆キトンボとの再会
 ◆キトンボ♂の なわばり場所選択
 ◆なわばりの一時的移動
 ◆池の中央で なわばり争い生起
 ◆キトンボ♂がマユタテアカネ♂のなわばりに侵入
 ◆種間のなわばり争いに影響する要因(考察)
 ◆他種トンボやキトンボの連結産卵・単独(ガードつき)産卵も観察
  (詳細は次回記事)
 ◆紅葉の中のキトンボ♂
 ◆引用文献:


今回の観察地の景観

写真2が、今回キトンボの なわばり行動を観察した池です。

キトンボの なわばり行動が見られた池 
写真2 キトンボ♂の なわばり行動が観察された池

長径30m、最大幅7~8m、最大水深1m程度の小さな池で、周囲は広葉樹や草地となっています。


キトンボとの再会

快晴のもと、この池に到着すると(午前10時35分)、すでに一目でそれとわかるキトンボの♂が活動していました。

その♂は、写真2の左手前の岸づたいの、アシカキ Leersia japonica と思われるイネ科植物がまばらに生えた水面上30~50cmあたりを、ホバリングを交えながら飛行していました(写真3)。

なわばり飛行中のキトンボ♂ 
写真3 なわばり飛行中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂ (同一個体)

写真1(再掲)は、写真3を部分拡大したものです。

なわばり飛行中のキトンボ♂、拡大 
写真1(再掲) なわばり飛行中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂(同一個体)(写真3を部分拡大)

この♂は、体軸を少し前傾させてホバリングし、婚活の対象である同種♀、あるいはライバルである同種♂の接近に目を光らせています。

時々、写真4のように、岸近くの水面から突き出した枯草の先などにとまりますが、やはりキリっと前方を凝視しています。

もちろん、トンボの大きい複眼ですから、前方だけでなく、真後ろを除く広い視野全体に注意を払っているに違いありません。

なわばり内の草頂に静止するキトンボ♂ 
写真4 なわばり内の草頂に静止するキトンボ Sympetrum croceolum ♂(同一個体)

この一角で観察中にこの♂の前に同種他個体は現れませんでしたが、この行動は多くのトンボの種の♂に見られる なわばり行動 territorial behavior のうちの、なわばり占有行動です。


キトンボ♂の なわばり場所選択

写真5は、このキトンボ♂が なわばり として選択した水辺を、斜め上方から撮ったものです。

キトンボのなわばりエリアの水中・水底の様子 
写真5 観察されたキトンボ♂のなわばりエリアの水中・水底の様子

水深は浅く、水は澄んでいて、底にたまった軟泥、アシカキ(?)の匍匐茎、糸のように細い藻(アオミドロ?)がよく見えます。

このように、汚染もなく、適度に植物が生育している水辺に卵が産み付けられれば、それから孵化した小さな幼虫たちが餌動物にこと欠くことはないでしょう。

また、この池には捕食者の姿もあまり目立ちませんし(ただし、体長15cm程度の小魚1匹がこの池の中を泳ぐのは見かけました)、隠れ場所となる水生植物もそれなりに用意されています。

キトンボ♂が、♀と交尾し、産卵する場所として選定するのに、この場所は悪くはなさそうです。


なわばりの一時的移動

このキトンボ♂は、10時40分ころから池の中央部の開放水面上に移動し、そこで、1分間ほど開放水面上1~2mの高さを、ホバリングを交えながら飛び回りました(写真6,7)。

池の中央をパトロール中のキトンボ♂ 
写真6 池の中央をパトロール中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂(同一個体)

写真7は同じ個体が体を左に傾けて、左にカーブを切っているところです。

池の中央をパトロール中のキトンボ♂、左ターン 
写真7 池の中央をパトロール中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂、左ターン(同一個体)

この♂は、その後、写真4の場所に戻り、もとのように枯草の先にとまりました。


池の中央で なわばり争い生起

この♂は、10時47分にも、再び池の中央部上空で同じような飛行を始めました。

注意深く観察すると、ただホバリングと曲線的な水平飛行を繰り返すだけでなく、木の枝先付近を覗き込むような仕草も見せていたので、採餌の狙いもあるようです。

そうこしているうちに、その♂の所へ、もう1頭のキトンボ♂が接近してきました。

両者の♂は互いに追い合い、くるくると螺旋状の飛跡を描きました。

その螺旋の直径は20~30cm程度で、元の水面上1.5m位の高さから、更に0.8mくらい上昇したところで、両者はあっさりと別れました。

片方の♂(たぶん、元からいた♂)が残り、また元と同様の飛行を続けました。


キトンボ♂がマユタテアカネ♂の なわばり に侵入

池の中央を飛び回っていた、このキトンボ♂は、10時56分頃、写真2の右に見える岸を右手前方向に延長したところの水辺へと、移動してきました。

その水辺の、水面を見張りやすいところに突き出したオギ Miscanthus sacchariflorus と思われるイネ科植物の茎(写真9)にとまろうとするかのように、キトンボ♂が飛び進むと、そのオギ(?)の穂を見下ろす位置にある少し岸寄りの枯れヨシ(オギ?)の先にとまっていたマユタテアカネ Sympetrum eroticum (Selys, 1883) ♂写真)が、このキトンボ♂を迎え撃ちました。

キトンボ♂を迎え撃つ体制のマユタテアカネ♂ 
写真8 キトンボ♂を迎え撃つ体制のマユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂

キトンボ♂は、このマユタテアカネ♂にただ追われるのではなく、強気に反撃(追い返し)もしていました。

一、二回、このような追い合いをした後、ちゃっかりとマユタテアカネのとまり場所の眼下にあるそのオギ(?)の穂先近くの茎に、このキトンボ♂がとまったケースもありました(写真)。

マユタテアカネの防空識別圏内のヨシにとまるキトンボ♂ 
写真9 マユタテアカネの防空識別圏内のオギ(?)の茎にとまるキトンボ Sympetrum croceolum ♂(同一個体)

しかしここからキトンボが飛び立つと、またそのマユタテアカネに追い立てられました。

数度の追い立てに嫌気がさしたのか、当のキトンボ♂はこのマユタテアカネ♂が睨みを利かせたエリアから飛び去っていきました。


種間のなわばり争いに影響する要因(考察)

キトンボとマユタテアカネの攻撃力に、それほど大きな差があるようには見えません。

それなのに、キトンボがマユタテアカネに対して追われる立場であったのはなぜでしょうか?

同種の♂同士でも「先住効果the effect of prior residence により、なわばりを先に占有していた個体のほうが相手を退ける確率が高いことが、トンボ目を含め、どの動物でも一般的ですが、今回観察された種間のなわばり争いにおいては、それに加えて、特定の場所への執着度の相違が効いていたように思います。

すなわち、今回観察したキトンボ♂個体のほうが池をパトロール場所として広く利用しているのに対し、マユタテアカネのこの♂個体は水辺の直径2m程度の範囲にこだわるように なわばり を維持していたので、その狭いエリアの防衛への動機付けが、より高かったものと思われます。


他種トンボやキトンボの連結産卵・単独(ガードつき)産卵も観察(詳細は次回記事)

この後、この池でオオアオイトトンボショウジョウトンボのそれぞれ♂を1個体ずつ観察・撮影し(次回以降の記事で紹介予定)、11時10分過頃、近くの別の池に向いました。

11時27分、別の池で、キトンボの連結産卵に遭遇し、その様子と分離後の単独産卵(♂のガード飛行つき)を1分間ほど観察・撮影することができました(詳細は次回記事にて)。


紅葉の中のキトンボ♂

キトンボの産卵行動の観察で、その日の「運」を使い果たしたと観念し(笑)、駐車場に戻ることにしました。

その途中にも小さな池があり、そこでは紅葉下低木の葉にとまるキトンボ♂(写真10)、樹陰をバックに陽光を浴びるキトンボ♂(写真11)を見ることができました。

紅葉とキトンボ♂ 
写真10 紅葉した低木にとまるキトンボ Sympetrum croceolum ♂(別個体)(時刻:‏‎11:41:24)

樹陰をバックに陽光を浴びるキトンボ♂ 
写真11 樹陰をバックに陽光を浴びるキトンボ Sympetrum croceolum ♂(別個体)(時刻:‏‎11:45:56)

いずれも池のほとりですので、婚活中の♂にちがいありません。

特に写真11の♂は、水面上0.6~0・8mの高さの枯草の折れた茎に池の真ん中を向いて(上向き目線ではありますが)とまっていたので、それは確かです。

一方、写真10の♂は、水面上1.5mはある低木の枝葉の上に(下から見れば)隠れるかのように、体軸をやや後傾させてとまっていたので、若干休息モードに入っていたのかもしれません。

次回は、キトンボの連結産卵・単独(ガードつき)産卵について、動画つきで報告する予定です。

お楽しみに。


引用文献:
尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』。 文一総合出版。


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2018-10-11 (Thu)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征では、オオキトンボ、ナニワトンボといった初対面の種を含む多くのトンボとの出会いがありました。

その印象記はシリーズ物として、前回までに10編の記事にしています(記事一覧はこちら)。

第11報の今回は、オオキトンボ、ナニワトンボも観察された溜池Aから歩いて移動可能な、近隣の溜池で観察された、トンボ5種、すなわちベニイトトンボ Ceriagrion nipponicum Asahina, 1967 、アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis (Rambur, 1842) 、ハネビロトンボ Tramea virginia (Rambur, 1842)、ノシメトンボ Sympetrum infuscatum (Selys,1883)、リスアカネ Sympetrum risi Bartenev, 1914 を取り上げます。

目 次:
 ◆陽射しを浴びるリスアカネ
 ◆溜池狭しと飛び回るハネビロトンボ♂
 ◆浮遊植物の繁茂する溜池で水生昆虫を探る
 ◆ベニイトトンボの交尾
 ◆アオモンイトトンボの体清掃
 ◆ノシメトンボが連結打空産卵中
 ◆地元研究者による地道な水生昆虫調査活動
 ◆ハネビロトンボを下から撮る
 ◆真っ赤なリスアカネ
 ◆体色の種内変異?
 ◆謝辞


陽射しを浴びるリスアカネ

「松山探虫団」(仮称)の面々のご案内のもと、前回記事で紹介したオニヤンマの交尾を観察・撮影したポイントを通り過ぎ、すぐ近くの農道づたいに歩いて、次の目的地(溜池C)に向いました。

その途中、枯れ枝の先にはリスアカネ♂がとまっていました(写真1)。

リスアカネ♂ 
写真1 リスアカネ Sympetrum risi ♂ (写真はクリックで拡大します)

翅が被っていますが、リスアカネの特徴となる胸部第一側縫線上の黒紋の形状(途中でカットされている)が確認できます。


溜池狭しと飛び回るハネビロトンボ♂

途中、小規模な溜池(溜池B)があり、その水面上をハネビロトンボ♂がパトロール飛行していました。(13時40分38秒)

何枚か写真をとった内の1枚が、写真2です。

ハネビロトンボ♂ 
写真2 ハネビロトンボTramea virginia ♂ 

右に進行方向を変えるため、胸部・腹部を右に大きく傾けていますが、頭部はほぼ水平位です。

ただし、頸を右前方に向けていて、進行方向を先に視認していることが伺えます。


浮遊植物の繁茂する溜池で水生昆虫を探る

農道を更に歩み進むと、水面がびっしりと浮遊植物(ホテイアオイなど)に覆われた、林地に囲まれた別の溜池(溜池C)に到着しました(写真3)。

水生植物に被われた溜池 
写真3 水生植物に被われた溜池(溜池C)


ベニイトトンボの交尾

その岸辺の植物の葉にぶらさがって、ベニイトトンボが交尾していました(13時46分08秒~13時50分42秒まで撮影)(写真4、5)。

ベニイトトンボ交尾 
写真4 ベニイトトンボ Ceriagrion nipponicum 交尾

写真4は♂にピント、写真5は♀にピントを合わせています。

ベニイトトンボ交尾 
写真5 ベニイトトンボ Ceriagrion nipponicum 交尾 (同一カップル)

ベニイトトンボの交尾の全体がわかる写真は、当ブログ初掲載です。

ただし、当時はアングルファインダー入手前だったこともあり、♂♀同時にピントが合った写真を撮ることはできませんでした。

写真6は、2分後にその近くで撮影したベニイトトンボの単独♂です。

ベニイトトンボ♂ 
写真6 ベニイトトンボ Ceriagrion nipponicum の単独♂

浮遊植物(ミズヒナゲシ属 Hydrocleys と思われる)の葉の縁にとまってじっと何かを待っているようです。

おそらく、♀の姿が視界に入るのを待っているのでしょう。

うまくいけば、先ほどのカップルのように、婚活が成就するというわけです。


アオモンイトトンボの体清掃

すぐ近くには、アオモンイトトンボ♂もとまっていました(写真7)。‏‎(13時52分24秒)

 アオモンイトトンボ♂
写真7 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂

写真7の♂、後脚が大きく持ち上がっていて、どこか不安定です。

それもそのはず、現在体清掃行動をしている真っ最中でした。

この2秒後には、腹部を背方に強く曲げ、それを両翅で挟んで擦ります。

いったん腹を後方に真っ直ぐ伸ばし、ふたたび背方へ曲げ始めます。

そして写真8のように最大限腹基部を背方にそらせて翅とこすり合わせました。(13時52分30秒)

アオモンイトトンボ♂- 
写真8 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂ (同一個体)

写真9では、またいったん腹部を真っ直ぐに伸ばしています。(13時52分32秒)

アオモンイトトンボ♂ 
写真9 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂ (同一個体)

すると今度は、腹を胸部との境目付近で強く下に曲げ始めました(写真10)。(13時52分34秒)

アオモンイトトンボ♂- 
写真10 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂ (同一個体)

続けて、中脚までも足場から浮かせて、腹を腹部第2~4節付近で折り曲げながら、さらに下方にカーブさせています(写真11)。(13時52分34秒)

アオモンイトトンボ♂- 
写真11 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂ (同一個体)

この時、腹部と胸部との境目付近の曲げ角は、少し開くほうに緩んでいます。

その4秒後には、腹部を第4~6節付近で強く曲げ、腹端(腹部第10節付近)を両後脚の跗節を左右からあてがうようにしています(写真12)。(‏‎13時52分38秒)

アオモンイトトンボ♂ 
写真12 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂ (同一個体)

こうして、跗節に列生した刺毛をブラシのように使い、腹端部に付着した塵を払い落しているものと思われます。

そして、また腹部を真っ直ぐに戻しました(写真13)。(13時52分38秒)

アオモンイトトンボ♂ 
写真13 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis ♂ (同一個体)

その2秒後、この♂は飛び立ちました。

※均翅亜目(イトトンボ類、カワトンボ類など)の体清掃行動については、以下の過去記事でも写真入りで詳しく取り扱っています。



ノシメトンボが連結打空産卵中

その近くでは、ノシメトンボのカップルも連結態で水草上の低い所を、ホバリングを交えつつ飛んでいました(写真14)。

ノシメトンボ連結産卵 
写真14 ノシメトンボ  Sympetrum infuscatum 連結打空産卵

写真14では、雌の腹部第10節付近下面に、白っぽい粒状のものがと思われるものが、垂れ下がるように付着しています。

ノシメトンボは連結打空産卵することが知られていますので、この白い粒は卵粒と見てよいでしょう。


地元研究者による地道な水生昆虫調査活動

溜池Cでは、松山探虫団のメンバーのお一人で「愛媛のトンボ図鑑」の共著者でもある、武智礼央さんは、もっぱら水棲網で水生昆虫を掬い、生息状況の調査にあたっていました。

写真15は採集された水生昆虫サンプルにカメラを向ける武智さん(左端)ほか探虫団の面々です。

溜池の水棲昆虫を調査中のメンバー 
写真15 溜池Cで武智さんが採集した水生昆虫サンプルを囲む探虫団員

決まり過ぎている?

ばれましたね。
カメラマン(私)のリクエストに応えたポーズでした。

この後、私は団員とともに溜池Cでの観察を切り上げ、溜池Bの横を通って、探虫団の面々の車を停めていた場所に向いました。


ハネビロトンボを下から撮る

車に戻る途中、溜池Bの上空を、またもやハネビロトンボ♂が飛び回っていました(写真16)。(‏‎14時08分12秒)

ハネビロトンボ♂ 
写真16 ハネビロトンボTramea virginia ♂

写真16は、大きくトリミングしたため粒子が粗いのですが、少し高いところを飛ぶハネビロトンボを斜め後下方から撮影した、ちょっと珍しいアングルからのものでしたので、掲げることにしました。

写真16写真2の♂が同一個体かどうかを、翅の汚れの位置や形が一致するかどうかで判定しようと試みてみました。

その結果、右前翅先端近くの後縁にクモの糸が付着したような汚れがあり、形や位置が類似していると判断できました。

もし同一個体だっとすれば、28分間以上にわたって同じ溜池上を(途中、一時的退出や休息があったにせよ)パトロールしていたことになります。


真っ赤なリスアカネ

車に戻る途中で、草にとまる真っ赤なリスアカネ♂を見付けました(写真17)。

リスアカネ♂ 
写真17 リスアカネ Sympetrum risi ♂

リスアカネ♂ 
写真1(再掲) リスアカネ Sympetrum risi ♂

リスアカネ連結産卵 
写真18 溜池Aで撮影されたリスアカネ Sympetrum risi 連結ペア。過去記事からの再掲)

写真17のリスアカネ♂は、写真1(再掲)のリスアカネ♂(別個体)に比べて腹部の赤化が著しい個体です。

これは、写真17の♂のほうが写真1(再掲)の♂よりも、ずっと成熟が進んでいるためだろう、ということがまず考えられます。

写真18過去記事から再掲)は、この日、溜池Aで撮影したリスアカネの連結カップルです。

採光や背景色の影響もあるかもしれませんが、写真17の♂は写真18の♂よりも、少しばかり赤味が強い感じを受けます。


体色の種内変異?

赤とんぼ の体色の赤さにも種内変異はあるでしょうから、写真1写真17、18の赤さの違いは、成熟度の差というよりも、ひょっとすると、その種内変異に収まっているものなのかもしれません。

このことを確かめるには、色々な時期に色々な赤さの程度の♂個体を採集し、赤色の彩度レベルを客観的に計測・記録するとともに、生殖腺を解剖して成熟度を判定・記録するなどの計画的な調査・研究が必要になるでしょう。

さて、本シリーズの次回記事では、四国秋のトンボ巡礼の第2日目の観察の第1報として、同じ県内でも方面が少々異なるところにある溜池で観察されたトンボを取り上げる予定です。


謝辞
現地に案内して下さった飯田貢さん、生息地の解説をされた高橋士朗さんと武智礼央さん、観察の楽しみを共有された山本桂子さん、高橋賢悟さんに謝意を表したいと思います。


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2018-10-10 (Wed)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征では、オオキトンボ、ナニワトンボといった初対面の種を含む多くのトンボとの出会いがありました。

その印象記はシリーズ物として、今春までに9編の記事にしています(記事一覧はこちら)。

このたび、遠征時とほぼ同じ季節を迎えましたので、中断していたシリーズ記事の掲載を再開したいと思います。

第10報の今回は、オオキトンボ、ナニワトンボも観察された溜池Aから少し降りたところで確認された、2つの大型種、カトリヤンマ Gynacantha japonica Bartenev, 1910 オニヤンマ Anotogaster sieboldii (Selys, 1854)について取り上げます。


目 次:
 ◆カトリヤンマの眼はヒマワリ畑
 ◆オニヤンマの交尾
 ◆謝辞


カトリヤンマの眼はヒマワリ畑

私が溜池Aについてまもなくの時間帯(午前10時の少し前)、オオキトンボの撮影に没頭していた時のことです。

この日の「松山探虫団」のメンバーの一人、高橋賢悟さんが1頭のヤンマを手づかみにして、この溜池への登り道を上がってきました。

そのヤンマを、撮りやすい位置に釣り下げてもらい、セカンド・カメラ(オリンパスTG-5)に収めることができました(写真1)。

カトリヤンマ♂ 
写真1 カトリヤンマ Gynacantha japonica ♂。持っているのは高橋賢悟さん(この後、リリース)。(写真はクリックで拡大します)

一見してそれとわかる、カトリヤンマの♂です。

賢悟さんのお話によれば、この溜池への登り道の傍らの涸れた溝を横切るように張られたクモの網がいくつかあり、そのうちの一つの網にこのカトリヤンマが引っ掛かったとのこと。

その直後、このヤンマにクモが襲い掛かる直前に、賢悟さんが命を救ったとのこと。

賢悟さんの話は続きます。
「たぶんジョロウグモの巣だと思います。恐らく、隣は山の駆け上がりでしたので、カトリヤンマが行き来していたのでしょう。採集した後も引っ掛かっていましたが、どれも自力で脱出していました。」

かなりスペクタキュラーな、パニック映画の世界。

「どれどれ」と、その現場まで少し歩み降りて、クモとカトリヤンマの攻防をつぶさに見てみたい気持ちも起こりましたが、池の水辺でも初対面のオオキトンボが私を誘惑していましたし、ナニワトンボがいつ現れるかという期待感も強くありましたので、その攻防を観戦することは断念しました。

同じ写真でヤンマの頭部、胸部のところを拡大したのが写真2です。

カトリヤンマ♂、頭部、胸部拡大 
写真2 カトリヤンマ Gynacantha japonica ♂(同一個体) (写真1の頭部・胸部を拡大)

中からヒマワリ畑が透けているかのように見える、透明感のある複眼が印象的です。

おでこ(前額)や頭楯、翅胸を覆う微毛はちょっとユーモラスです。

翅をつままれて脚が宙に浮いているせいでしょうか、飛翔時にそうするように、前脚を立てて頭部後方に格納しているのも注目です。


オニヤンマの交尾

さて、この日の溜池Aでの2時間半の観察を切り上げて、この溜池への登り道を下りる途中のことです。

賢悟さんが、今度は、小径に沿った斜面に生える竹の枝にぶら下がって交尾しているオニヤンマを、目ざとく見つけました(写真3;12時21分)。

オニヤンマ交尾 
写真3 オニヤンマ Anotogaster sieboldii 交尾。

その交尾カップルをズームインして撮影したものが写真4です。

オニヤンマ交尾 
写真4 オニヤンマ Anotogaster sieboldii 交尾(同一カップル) 

♂は太い脚でしっかりと竹の枝を掴んで、2頭分の体重を支えています。
♀は♂の腹部に脚をかけて、交尾態の維持に貢献しています。

写真5は、撮影者(私)がトンボに向って左方向に少し回り込んで撮影したものです。

オニヤンマ交尾 
写真5 オニヤンマ Anotogaster sieboldii 交尾(同一カップル)

写真6は、連結した♀の頭部付近を拡大したものです。

オニヤンマ交尾、♀の頭部拡大 
写真6 オニヤンマ Anotogaster sieboldii 交尾(同一カップル)

♂の尾部付属器が、ガッチリと♀の頭部中央部を前後から挟みつけて、掴んでいることがわかります。

写真7は、♂の体前部の拡大で、♂の副交尾器と♀の生殖口がしっかりと合体している状況がわかります。

オニヤンマ交尾、♂の頭部、胸部拡大 
写真7 オニヤンマ Anotogaster sieboldii 交尾(同一カップル)(頭部、胸部拡大)

オニヤンマの♀は、長い産卵管を流れの底の土砂に突き立てて産卵しますが、その長い産卵管はこの角度からは見えません。

写真8は、同じ交尾カップルを背面側から写したものです。

オニヤンマ交尾 
写真8 オニヤンマ Anotogaster sieboldii 交尾(同一カップル)

静かに時がすぎていきます。

12時29分、交尾はまだ続いていましたが、この交尾カップルの観察を切り上げ、探虫団の面々と、次の観察ポイントに向いました。

今回の主役の1人、オニヤンマは写真としては、当ブログ初登場となりました。

オニヤンマについては、関東地方で撮影した単独♂個体の写真の手持ちがあり、いずれ記事化しようと思っていましたが、遠征先のオニヤンマに先を越されました。

でも、いいでしょう。

遠征先のオニヤンマはハート型のリングで自ら飾り立て、ゴールインしているのですから!


謝辞
現地に案内して下さった飯田貢さん、生息地の解説をされた高橋士朗さん、カトリヤンマ、オニヤンマの観察の機会を与えられた高橋賢悟さんに謝意を表したいと思います。


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2018-10-08 (Mon)
今年9月下旬に長野県の生息地(写真2)を訪れ、マダラヤンマ Aeshna mixta Latreille, 1805 成虫の交尾・産卵を含めた観察ならびに初撮影をすることができました。

シリーズ記事第3回の今回は、当日観察されたマダラヤンマの産卵行動写真1)について報告し、若干の考察を行います。

マダラヤンマ産卵 
写真1 マダラヤンマ Aeshna mixta、産卵(写真はクリックで拡大します)

目 次
 ◆今回観察を行った繁殖場所の景観(再掲)
 ◆最初の産卵観察は、連結いやいやをした♀
 ◆単独♀が飛来して産卵中
 ◆交尾分離後の♀は産卵場所へ戻る
 ◆単独飛来♀の産卵がもう一件
 ◆マダラヤンマの産卵行動のまとめと考察
 ◆文献情報を参照しての考察
 ◆謝辞
 ◆引用文献
 ◆曽根原本の著者割引特別頒布のお知らせ


今回観察を行った繁殖場所の景観(再掲)

今回観察を行った繁殖場所(幼虫生息地)の景観がわかる写真を前々回記事から再掲しておきます(写真2)。

マダラヤンマの生息地の一つ 
写真2 マダラヤンマの繁殖行動が観察された池(長野県)(再掲)

池の岸辺のほぼ半周にわたってヨシやガマなどの抽水植物が繁茂し、それよりも池の中央よりの水面はヒシの浮葉で被われています。

観察・撮影は、ガマが優占する抽水植物帯に接した岸の上から行いました。


最初の産卵観察は、連結いやいやをした♀

前々回記事に書いたように、好天の日の午前10時少し前から観察を開始すると、散発的に単独♂が現れ、抽水植物帯の内外を飛び回ります。

そんな中、私が産卵♀を初めて目撃したのは、10時55分から始まった一つのイベントの直後でした。

そのイベントについては、前回記事に詳しく書きましたが、あらましは以下の通りです。

枯れたガマの株の水面近くの葉に、♀と連結した♂がとまり、その♀は翅をばたつかせて、♂との協調を拒んでいる様子でした(10時55分20秒)。

しばらく♀のジタバタが収まっていましたが、18秒後にはまた♀がバタつき、そのため♀の体が体軸を中心に80度くらい左回転した状態になりました(写真3前回記事から再掲)。

マダラヤンマ、連結中(3) 
写真3 マダラヤンマ Aeshna mixta連結中のカップル(3)(同一カップル)(前回記事の写真5)

この直後、♂は連結を解き、どこかへ飛び去って行きました。

そして、その場に残った♀は、すぐ近くの枯れて倒れたガマの枯れ葉にとまり、その組織に産卵管を挿入する産卵動作をスタートさせました(写真4)(10時56分04秒)。

マダラヤンマ産卵(連結分離直後)
写真4 マダラヤンマ Aeshna mixta産卵(連結分離直後)(同一個体)(前回記事の写真6)

34秒後にも、その♀は、同じガマ枯れ葉の少し前方にとまりかえて、産卵を続けていました(写真5)。

マダラヤンマ産卵(連結分離直後,、2) 
写真5 マダラヤンマ Aeshna mixta、産卵(連結分離直後、2)(同一個体)

写真5を部分拡大したものが写真6ですが、産卵管をこの枯れガマの組織に突き刺している状態が(ピンボケながら)見てとれます。

マダラヤンマ産卵(連結分離直後、2)部分拡大 
写真6(写真5の部分拡大) マダラヤンマ Aeshna mixta、産卵(連結分離直後、2)(同一個体)


単独♀が飛来して産卵中

11時27分には、別のマダラヤンマ♀が、枯れたガマの株の先にとまって産卵していました(写真7)。

マダラヤンマ産卵 
写真7 マダラヤンマ Aeshna mixta、産卵 (写真6とは別個体)


交尾分離後の♀は産卵場所へ戻る

前回記事に書いたように、11時31分から、ガマ群落でマダラヤンマの交尾が観察されました。

そのカップルは交尾態のまま少し飛んで、リンゴの枝にぶら下がって交尾を続けました(写真8;11時42分20秒)。

マダラヤンマ、交尾(B1) 
写真8 マダラヤンマ Aeshna mixta交尾 (♀は、写真7の♀とは別個体)(前回記事の写真10)

この交尾カップルは、一度別の枝にとまり替えた後、交尾を解除して、連結態になりました(写真9;11時43分34秒)。

マダラヤンマ、交尾(B2)
写真9 マダラヤンマ Aeshna mixta交尾分離直後 (写真8と同一カップル)(前回記事の写真11)

まもなく連結が解除されると、♀はガマ群落に飛び戻り、産卵場所を探す様子で、株間の水面近くを飛び回りました(写真10)。

マダラヤンマ♀、交尾分離直後産卵場所に移動 
写真10 マダラヤンマ Aeshna mixta、♀(写真8と同一♀)、交尾分離直後産卵場所に移動(画面左の葉陰)(証拠写真)

その際、交尾相手だった♂も、付き添うように♀の少し上を飛ぶ行動を示しましたが、じきにどこかへ飛び去りました。

この後、この♀を植生の中で見失ってしまい、産卵動作の写真を撮ることはできませんでした。


単独飛来♀の産卵がもう一件

これとは別に、12時03分から04分にかけて、ガマの倒れた枯れ葉に産卵するマダラヤンマを見つけ、撮影しました(写真1、下に再掲)。

マダラヤンマ産卵 
写真1(再掲) マダラヤンマ Aeshna mixta、産卵 (写真10とは別個体)


マダラヤンマの産卵行動のまとめと考察

今回の観察で3例の産卵が観察され、いずれも単独♀により、抽水植物の植物組織(今回は、枯れて倒れたか、倒れかかっている、水面に半分浸ったガマの葉)に、産卵管をつき刺して、卵を産みつけるものでした。

直前に交尾のあった♀が産卵場所探しをした事例(写真8~10)と、そうではなく、単独♀が抽水植物帯に飛来して、スタートした産卵(写真1,7)とがありました。

その、産卵直前の交尾は、池の抽水植物帯で成立し、交尾態は少し離れたリンゴの枝に移って続けられたものですが、後尾終了直後、♀は抽水植物帯に戻り産卵場所を探しました。

この産卵場所探しの際に、交尾相手だった♂が最初だけ付き添うことがあることがわかりました。

これとは別に、抽水植物帯の産卵適所(水面近く)で、連結態を振り切った♀が産卵を開始する事例(写真3~4)が見られたことから、交尾直後の♂が連結のまま産卵場所に♀を連れて行く行動が存在する可能性(B説)が浮上しました。

二者択一となるもう一つの可能性は、♂が交尾しようと連結したにもかかわらず、相手の♀の産卵衝動が強く交尾態形成に応じないために、♂が交尾を断念した結果、その♀は産卵の目的を達成できたというものです(A説)。

いずれの説も前回記事で、すでに提起したものです。

どちらが正しいかの判断は、今後の観察に委ねたいと思います。


文献情報を参照しての考察

前々回記事前回記事同様に、今回も、マダラヤンマの生態・生活史についての、まとまった記述・考察がなされている文献である、曽根原今人(1982)八ヶ岳オオトラフトンボの生活史の第三部「マダラヤンマの生活史」を参照し、比較考察します。

曽根原(1982)のこの本では、マダラヤンマの産卵行動の要点が、6行分の分量に凝縮されて記述されています。

すなわち、
・交尾を解いた♀は、直ちに近くの産卵場所を探して飛翔する。
・♀は(産卵場所の)フトイ(抽水植物)の地下茎近くにとまって産卵する。
・産卵は、翅を微動させながら、前進・後退したりして行う。
・枯れ残って泥土上の堆積した、前年のフトイの茎が産卵によく選ばれる。

以上の曽根原(1982)による産卵行動のまとめと、私の今回の2時間余りの中の短い観察から得られた産卵の特徴はよく一致します。

産卵植物は、曽根原(1982)の場合はフトイ、今回はガマでした。

いずれにせよ、しっかりとした植物体組織を持ち、枯死した翌年も朽ち果てることなく、水面や泥土上に枯れ茎や厚めの枯れ葉が堆積することになる抽水植物が、産卵に用いられるようです。

交尾分離直後、単独で♀が産卵をするのは、曽根原(1982)が多数の観察を背景に記述していることから、通例といってよいでしょう。

今回の写真1、7のように、直前の交尾なしに単独飛来した♀が産卵することは、曽根原も観察していたはずで、上記の一般化は交尾行動と連続してみた場合の産卵への移行について述べたもの、と解釈することが可能と思います。

また、交尾分離後必ず♀が産卵に移行するかといえば、例外もあるだろうと思います。

今回、曽根原(1982)の本で言及されていない、以下の2つの行動イベントが観察されました。

(1)交尾分離後、交尾相手だった♂が、♀の産卵場所探しに短期的に付き添う行動。
(2)♂♀連結態で産卵場所に低くとまっていた別のカップルで、♀は連結に抵抗して分離後は産卵へ移行し、♂はとくに交尾しやすい所へ飛び上がってとまり替える様子も示さなかった、というイベント。

果たして、このような、産卵場所選択への♂の関与と思われる行動が、どの程度、種個体群の中に行動選択肢として存在しているのかは、今後の観察での一つのポイントになると思います。

※ 前々回記事前回記事の末尾にも書きましたが、曽根原(1982)のこの本は、20年以上にわたる、それまでの研究生活の中で、オオトラフトンボ、トラフトンボ、マダラヤンマ、ムツアカネの4種の卵期・幼虫期・成虫期のすべてを粘り強く観察して得られた研究成果を網羅した、渾身の書であり、トンボの生態・生活史に関心のある研究者・愛好家に一読をお薦めしたい1冊です(著者割引あり、下記参照)。

今回記事を含めシリーズの3回の記事を通して、今回観察されたマダラヤンマの生殖期における、繁殖場所(幼虫生息地)での行動を一通り報告することができました。

次回記事では、この池で観察されたマダラヤンマ♀の色彩変異について取り上げる予定です。


謝 辞
観察地についての情報を提供された布川洋之さん、ならびに現地でマダラヤンマの被写体を快くシェアさせてくださった撮影者の方々に感謝の意を表します。


引用文献
曽根原今人(1982)『八ヶ岳オオトラフトンボの生活史』。信濃教育会出版部。



曽根原本の著者割引特別頒布のお知らせ

曽根原今人(1982)『八ヶ岳オオトラフトンボの生活史』(未使用、新品、在庫20冊以上あり)を、著者割引価格で頒布することにしました。

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 → 宛先 info.idnh★gmail.com (★をアットマークに置き換え)

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2018-10-05 (Fri)
今年9月下旬に長野県の生息地(写真2)を訪れ、マダラヤンマ Aeshna mixta Latreille, 1805 (写真1)成虫の交尾・産卵を含めた観察ならびに初撮影をすることができました。

シリーズ記事第2回の今回は、当日観察されたマダラヤンマの連結および交尾行動について報告します。

マダラヤンマ、交尾(2)
写真1 マダラヤンマ Aeshna mixta、交尾(写真はクリックで拡大します)

目 次
 ◆今回観察を行った繁殖場所の景観(再掲)
 ◆マダラヤンマ連結カップル現る
 ◆マダラヤンマの交尾をじっくり撮影
 ◆マダラヤンマの連結・交尾行動のまとめと考察
 ◆文献情報を参照しての考察
 ◆謝辞
 ◆引用文献
 ◆曽根原本の著者割引特別頒布のお知らせ


今回観察を行った繁殖場所の景観(再掲)

今回観察を行った繁殖場所(幼虫生息地)の景観がわかる写真を再掲しておきます(写真2)。

マダラヤンマの生息地の一つ 
写真2 マダラヤンマの繁殖行動が観察された池(長野県)(再掲)

池の岸辺のほぼ半周にわたってヨシやガマなどの抽水植物が繁茂し、それよりも池の中央よりの水面はヒシの浮葉で被われています。

観察・撮影は、ガマが優占する抽水植物帯に接した岸の上から行いました。


マダラヤンマ連結カップル現る

前回記事に書いたように、好天の日の午前10時少し前から観察を開始すると、散発的に単独♂が現れ、抽水植物帯の内外を飛び回ります。

そんな中、私が初めて♀の姿を確認したのは、10時55分に起きた一つのイベントでした。

枯れたガマの株の水面近くの葉に♀と連結した♂がとまっているのを、居合わせた撮影者の1人が発見しました。

私がそっと近づいた時、その♀は仲良く一緒にとまろうとするどころか、自分の翅をばたつかせて、まるでイヤイヤをしているかのような振舞いを見せていました(写真3)(10時55分20秒)。

マダラヤンマ、連結中(1) 
写真3 マダラヤンマ Aeshna mixta連結中のカップル(1)

♂もそう簡単に♀の不同意(?)を受け入れないため、♂の腹部は強いS字状に曲がっています。

1秒ほどで♀の翅のばたつきは弱まりましたが、♀は腹を後に伸ばしたまま、♂に応じようとしないスタンスを維持しました。

写真4は、その状況が続いたままの10時55分26秒に撮影したシーンです。

マダラヤンマ、連結中(2) 
写真4 マダラヤンマ Aeshna mixta連結中のカップル(2)同一カップル

観念したかのように、体を硬直させているように見えます。

10時55分26秒にも、写真4とほぼ同様の状況が続いていました。

10時55分38秒には、♀の抵抗が強まり、そのため♀の体が体軸を中心に80度くらい左回転した状態になりました(写真5)。

マダラヤンマ、連結中(3) 
写真5 マダラヤンマ Aeshna mixta連結中のカップル(3)同一カップル

この直後、♂は連結を解き、どこかへ飛び去って行きました。

そして、その場に残った♀は、すぐ近くの枯れて倒れたガマの枯れ葉にとまり、その組織に産卵管を挿入する産卵動作をスタートさせました(写真6)(10時56分04秒)。

マダラヤンマ産卵(連結分離直後)
写真6 マダラヤンマ Aeshna mixta産卵(連結分離直後) 同一個体

この♀は、その後も40秒以上にわたって産卵を継続しました(次回記事で詳報)。


マダラヤンマの交尾をじっくり撮影

11時31分、ガマ群落で交尾カップルが成立し、ガマの葉の中間くらいの高さのところにとまりました(写真9)。

このイベントも、発見者は居合わせた撮影者のお一人ですが、その方は快く、私を含む2・3人の同好者がこのカップルにカメラレンズを向けるのを受け容れてくれました。

写真7は、ほぼ真横から撮影した1枚です(11時32分14秒)。

マダラヤンマ、交尾(1) 
写真7 マダラヤンマ Aeshna mixta交尾(1) 別カップル

写真7のカップルは、写真3~5の別カップルとは大違いで、息ぴったり。静かにガマの葉につかまってぶら下がっています。

撮影していると、撮影者の向って右方向から時々風が吹き、翅を横に開いているカップルはその風に煽られて、画面左方向になびきます(写真8;11時34分22秒)。

マダラヤンマ、交尾(2) 
写真8 マダラヤンマ Aeshna mixta交尾(2) 写真7と同一カップル


写真8の丁度1分前に、同じ被写体を同じカメラの動画モードで撮影したクリップ、をYoutubeにアップロードしておきました。
 → こちら(https://youtu.be/xi0aV3IpAl0)をクリックしてご覧ください。

動画からは、風を受けてカップルが靡く様子のほか、♂が副交尾器のある腹部第2・3節のあたりをクネクネ動かせている様子も見てとれます。

このクネクネに伴い、♂の副交尾器のうちのペニスが♀の交尾嚢・受精嚢の中でピストン運動することになり、この♀が以前別の♂と交尾した際に受け取った精子を、この♂が掻き出す(あるいは押し込む)効果(精子置換)がもたらされていると考えられます(こちらの過去記事を参照)。

写真1(再掲)は、11時36分08秒に同一カップルを、やや背面側の角度から撮影したものです。

マダラヤンマ、交尾(2)
写真1(再掲)マダラヤンマ Aeshna mixta交尾(3)写真7と同一カップル

写真9は、同一カップルをズームアウトして撮ったもので、ガマ植生のどのあたりにぶら下がっているかが分かります(11時39分57秒;この写真9写真2のみ、オリンパスTG-5で撮影。他はキヤノンEOS7D)。
 
マダラヤンマ、交尾(★)
写真9 マダラヤンマ Aeshna mixta交尾(4)写真7と同一カップル

写真9を撮影した少し後に、カップルは交尾態のまま飛び立ち、数メートル離れたリンゴの木の枝に、交尾態でぶら下がりました(11時40分40秒)。

写真10は11時42分20秒に撮影した、そのカップルです。

マダラヤンマ、交尾(B1) 
写真10 マダラヤンマ Aeshna mixta交尾(5) 写真7と同一カップル

写真10は、ヤンマの位置が日陰だったため、内蔵ストロボを発光させて撮ったものです。

♂はリンゴの枝と葉柄に脚の爪をかけてとまって2個体分の体重を支え、♀の脚は♂の腹を抱えて、おそらく頸部にかかる張力を分散させています。

11時43分26秒、カップルは交尾態のまま飛び立ち、隣のリンゴの株の枝に交尾態でとまりました。

そして、11時43分34秒、カップルは交尾を解き、連結態になりました(写真11)。

マダラヤンマ、交尾(B2)
写真11 マダラヤンマ Aeshna mixta交尾分離直後 写真7と同一カップル

この時点で、交尾観察開始から12分が経過していました。

リンゴの枝から枝へのとまり替えや、交尾態の分離の直前のタイミングに、カメラのフラッシュ発光がありましたので、もしかするとその影響があったかもしれません。

このあと、連結も解除して♂♀は分離しました。

すぐに♀はガマ群落に飛び戻り、産卵場所を探す様子で、株間の水面近くを飛び回りました。

その際、交尾相手だった♂も、付き添うように♀の少し上を飛ぶ行動を示しました(次回記事でもう少し詳しく記述します)。


マダラヤンマの連結・交尾行動のまとめと考察

ここで、この日に観察したマダラヤンマの連結・交尾行動をここでまとめておくことにします。

マダラヤンマの成熟♂は、この池にやってくると、抽水植物群落の周囲のみならず、群落そのものにも飛びながら入り込み、株の間を縫うように曲線的に飛びまわり、♀を探します(前回記事参照)。

そのような状況が続く中、ガマ群落の中で交尾が成立しました。

カップルは、ガマの葉にぶら下がって10分間ほど交尾を継続し、更に交尾態のまま近くの樹枝にとまり替えて交尾を続け、交尾成立後12分ほどで交尾を解きました(写真1、7~11)。

交尾分離後、雌はガマ群落に戻り、株間の水面地くをホバリングしながら産卵場所を選定します。
その際、交尾相手だった♂がしばらく付き添うことがあることもわかりました。

このイベントの36分前には、ガマ群落の株間の水面近くに連結態の♂がとまり、♀のほうはジタバタするという、息が合わないカップル観察されました(写真3~6)。

この連結はどういう意味合いを持ったものなのか、二つ可能性があるように思います。

・♂が単独♀をつかまえて、これから交尾しようとしていたのか(A説)、それとも、
・交尾が終ったカップルが連結のまま産卵場所である抽水植物の水面付近にやってきてとまったのか(B説)?

私は、B説のほうが、よりありそうなことだと思います。

というのも、もしA説の通りであったとしたなら、♂はこのように交尾しにくい場所にとまるよりも、連結した♀を吊り上げて飛び立ち、交尾態を形成しやすい、もっと背後や下方に空間のあるとまり場所にとまろうとするはずだからです。

その一方で、B説の場合も若干疑問が残ります。

♂が産卵に適した場所を自分で選び、そこに♀を連れてきたのであれば、いつまでも連結したままとまっているのではなく、さっさと♀を自由にさせて、産卵に移行させたらよいのではないか、と思うからです。

ということで、私はB説を支持しつつも、♂のこの連結継続への執着の理由が分かるまでは、少々納得がいかないままですので、今後私自身に観察機会があれば、この点に注意して観察してみたいと思います。


文献情報を参照しての考察

前回記事同様に、マダラヤンマの生態・生活史についての、まとまった記述・考察がなされている文献である、曽根原今人(1982)八ヶ岳オオトラフトンボの生活史の第三部「マダラヤンマの生活史」を参照します。

曽根原(1982)のこの本では、マダラヤンマの交尾行動の要点が、2頁の分量で記述されています。

すなわち、
・♀は岸近くのフトイ(抽水植物)などの茎にとまって♀の飛来を待つ。
・♂は♀を発見すると追尾してつかまえ、空中で連結し、交尾態に移行する。
・♂がなわばり飛翔中に♀が飛来して交尾が成立する例もある。
・交尾態になると、池の植物の茎などにとまる(とまらないで飛び去る例もある)。
・交尾持続時間は約20分。♀が翅を振動させた直後に分離する。
・交尾後、雌は近くに産卵場所を探し、産卵を開始する。

(※ 曽根原(1982)は、この本の中でトンボ類の交尾態を「ドッキング」と呼称することを提案し、本の全編を通してドッキングの語を使用しています。理由は、他の昆虫のように♂♀が尾を合わせるかたちでの交尾ではないからです。筆者(生方)は、このユニークな提案には賛同しかねますので、交尾態の語に置き換えて引用しています。)

以上の曽根原(1982)による行動のまとめと、私の今回の2時間余りの中の短い観察を比べると、曽根原の長年の観察に基づくまとめが、本種の交尾成立から解除までのプロセス全体を網羅したものであり、他種の同様の行動との比較にも耐えるものであることがわかります。

私は、曽根原(1982)による行動のまとめをわずか6行にまとめましたが、この本には2頁分にびっしり書かれた文章にはもっと詳細かつ数量的な記述が盛り込まれており、本種について詳しく知りたい場合には、あらためて直接参照する価値があります。

さて、そんな中、私の観察の中で、曽根原(1982)の本の内容に収まらなかったことがらは、交尾分離直後の♂の行動です。

私の観察では、リンゴの枝で交尾分離後、♂は産卵場所を探す♀にしばし付き添い、産卵開始を見届けるかのような行動を、示しました。

ただし、たった1例の観察に過ぎませんので、このような♂の行動がどの程度通常に行われているのかは、今後の観察で確認する必要はあります。

また、私の観察した、ガマの水面近くで連結態のまま♀がバタついくという事例は、曽根原(1982)の本の中には見当たりません。

果たして、交尾後、連結態の♂が産卵場所選択に関与することがあるのか(B説)、あるいは、果たして交尾前連結の状態の♂が、あのように低い位置にとまり、最後には♀をリリースしてしまうということがあるのか(A説)、これは宿題です。

※ 前回記事の末尾にも書きましたが、曽根原(1982)のこの本は、20年以上にわたる、それまでの研究生活の中で、オオトラフトンボ、トラフトンボ、マダラヤンマ、ムツアカネの4種の卵期・幼虫期・成虫期のすべてを粘り強く観察して得られた研究成果を網羅した、渾身の書であり、トンボの生態・生活史に関心のある研究者・愛好家に一読をお薦めしたい1冊です(著者割引あり、下記参照)。

さてさて、次回記事では、マダラヤンマの産卵について取り上げる予定です。


謝 辞
観察地についての情報を提供された布川洋之さん、ならびに現地でマダラヤンマの被写体を快くシェアさせてくださった撮影者の方々に感謝の意を表します。


引用文献
曽根原今人(1982)『八ヶ岳オオトラフトンボの生活史』。信濃教育会出版部。



曽根原本の著者割引特別頒布のお知らせ

曽根原今人(1982)『八ヶ岳オオトラフトンボの生活史』(未使用、新品、在庫20冊以上あり)を、著者割引価格で頒布することにしました。

→ 定価1200円のところ、送料込み(税込み)1冊1000円で頒布いたします。

 「曽根原本、著者割引購入希望」と明記したメールに氏名、電話番号を添えて、下記アドレスに送信されれば、詳しい連絡先、送金方法についてお知らせします。

 → 宛先 info.idnh★gmail.com (★をアットマークに置き換え)

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