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2014-10-30 (Thu)
トンボの中でも、成虫としては一番長生きをする、「冬の貴婦人」(オツネントンボ)。
冬の前後には野山で草木の間を渡り歩き、身に着けているコートやショールもさぞかしホコリをかぶるのでは?

そんな想いでオツネントンボを眺めていると、おやおや、見るも鮮やかにコートのブラッシングをしているではありませんか。

オツネントンボ♀の身づくろい
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舞台は前回の記事「オツネントンボ♀:冬の貴婦人」と同じ、信州・安曇野の小さな池のほとりです*。

1匹のオツネントンボ♀が、細い枯れ木の枝にとまり、腹部をウネウネと上下(背腹)方向に動かし、翅とこすりあわせていたかと思うと、腹を曲げ、その腹を後ろ脚でこすり、その後は脚同士をこすり合わせています。

上の写真は、2分間に約90回シャッターを押した中から、これはというものを6枚選んで時系列に配列たものです(下右のみ、時間的に一番前)。

写真上左:6本の脚でしっかり体を支え、腹部を背方に反らせ、右後翅の(背方から見て)裏側の先端付近をこすっています。この後、更に腹をそらせますので、右後翅裏面の前縁をなぞるように翅の付け根近くまで腹部の背面(背板という丈夫なパーツ)でこすることになります。

写真上中:同じように、左後翅裏面をこすり上げようとしているところです。ふだん、とまる時にはぴたっと閉じている各翅が微妙にスペースを空けて半開きになっているのは、各翅の打ちおろし筋と振り上げ筋の両方が収縮して、力んだ状態にあることを示します。そうしないと、腹部でこすったときに十分摩擦力を発生せず、翅についているチリや汚れをぬぐいとることができないでしょう。

写真上右:今度は、左右の前翅の間に腹部を入れ、両前翅の前縁部を一度にこすっています。翅の付け根まで腹部が割り込んでいますから、こすり終えたところです。リズミカルに腹部を曲げ伸ばししますから、腹を伸ばす(真っ直ぐに戻す)ときにも、翅こすりの働きは維持されているようです。

写真下左&中:何回か翅こすりをした後、おもむろに腹部を腹側(下方)に強く曲げます。それと同時に左右の後脚を腹部背面に回して腹背を脚の先端の、踵(かかと)の節で(ヒトで言えば、手のひらでなぞるように)腹部の第5節から8節あたりまで、こすります。これは、翅掃除で少し汚れた腹背からそれらの汚れを、固い毛の生えた踵の節の内側(前側)でこすり取るための動作に違いありません。

写真下右:腹部から後脚を離し(腹部はゆっくりと真っ直ぐ後方へ展ばされます)た後、体を前脚、中脚で支えたまま、左右の後ろ肢の踵の節同士をこすり合わせます。これにより、踵の節の内側(前側)に付着したゴミをどちらか一方(写真の場合、右)の脚の踵にまとめられるようです。写真をよく見ると、右中脚と右前足の踵の節同士もこすり合わせています。器用ですね。この瞬間は体を左前脚、左中脚と右側からこすり合わせ中の両後脚で支えていることになります。ふつうは、同じサイドの後脚と中脚をこすり合わせた後、中脚と前脚をこすり合わせるのですが、この♀は少しせっかちのようです。
他の均翅亜目での観察では、この後、前脚を自分の口に持っていき、踵の節についたゴミを口でくわえ取るのを見ていますが、今回の短い観察ではそれは見られませんでした。

ちょっと写真説明が長くなってしまいました。

私は、今日、いつもの、さいたま市内の園地にカメラをぶら下げて行ってきましたが、池の周りの草むらを歩いただけで、ズボンやシャツの袖に沢山の草の種がひっついてしまい、とるのに一苦労でした。

イトトンボも草むらの中や森の中を飛んだりとまったりしている間に、クモの糸や、草木の汁、ホコリなどが翅や体にくっつきます。時には外部寄生虫が取りついたりもするでしょう。そういう付着物をそのままにしておくと、翅が重くなったり、バランスが悪くなったり、あるいは腹や脚の関節が曲がりにくくなったりし、トンボの餌取り行動や交尾・産卵行動をスムースに実行する上で不利になるに違いありません。

トンボの身づくろい(体清掃行動)は、このような不利を取り除く機能があることから、常に自然淘汰にさらされることで、より洗練され、能率的なものへと進化してきたと言えます。

私たちも、一日の仕事を終えて家に帰って一風呂浴びるときに、トンボたちも健気に「摩擦浴」をしていることに思いをはせてみるのも一興ではないでしょうか。

注:
*観察の時間は前後して、前回のオツネントンボ♀の記事の観察の前日(10月24日)の午後3時過ぎです。天候は両日とも快晴でした。


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2014-10-29 (Wed)
トンボは春から夏に幼虫から成虫へと羽化し、1週間程度の成熟期間を置いて、交尾や産卵といった繁殖活動を行い、羽化してから長くとも1、2カ月でその生涯を終えます。

もちろん、トンボにも6000種ほどいますから、中には例外もあります。

今回ご紹介する「オツネントンボ*」は、その名のとおり、年を越す、つまり北半球温帯以北**の冬を「成虫」のステージで越します。
同様の2種を除き、残りのすべての日本産トンボは卵または幼虫のステージで冬を越します。

オツネントンボ ♀
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上の写真は、今月25日の午前10時過ぎに、長野県の安曇野の小さな池の周りの植え込みで撮影したものです。
これから長野県の厳しい冬を迎え、来年の5月、6月には再び池に現れて繁殖活動を行うはずの個体です。
越冬前の熊と同様、たっぷり腹ごしらえをして長い冬に備えなければなりません。

これまでの私のブログでは、すべて♂は派手な色彩でおしゃれする一方で、♀はより目立たない色彩に甘んじていることをお話してきました。
オツネントンボの場合、色彩における性的二型についても例外となり、♂も♀もほぼ同じ色調、模様をとり、それも枯れ木、枯れ草にそっくりな、冬枯れの迷彩色をしています。

それというのも、成虫として活動する時期も、樹皮の裏や枯草の下などで隠れる時期も、野山は枯れ、葉の色も緑から茶褐色へと変貌し、落葉していきますから、夏から秋に飛ぶトンボの青や赤や緑の体色では目立ってしまい、鳥の格好の餌食になってしまうからです。

上の写真では、緑の葉にとまっていますので、若干目立っていますが、今回、同じ日に同じ場所で撮った写真では、枯草や、木の枝にとまっていて、色彩的には目立たない場合の方が多くありました。
ただ、時々飛び立ったり、腹をウネウネ動かしたりと、動作はやや目立つように感じました。

ぐんと気温が下がって餌となる小虫も飛ばなくなるころ、オツネントンボたちは樹皮の裏側や落ち葉の下側などに身を隠し、じっと春を待ちます。

冬の最中にたまに訪れる暖かい日にトンボが家の中に飛び込むのが見つかったなどとローカルニュースに取り上げられることがありますが、たいていの場合はこのオツネントンボです。

突然の温暖な気候を春先と勘違いして、隠れ家から飛び出した、あわてん坊さん!

冬に見られるイトトンボ(均翅亜目)ですので、ヨーロッパではwinter damsel(冬の貴婦人)という英名が用いられています。

さて、本格的な春になると長い眠りから覚め、再び、餌取りを開始します。
そして、婚活グラウンドである池に現れるときには、♂の胸部背面、すなわち翅の付け根の間は、ライトブルーに輝きます。

プロポーズする者としてのオシャレを決して忘れないと言わんかのようです。

注:
*オツネントンボの学名はSympecma paedisca。属名の意味は、ギリシャ語の σνμ(合わせる)と πικνοσ (密接に)で、4枚の翅を背上でピタリと合わせる、この属のトンボの特徴を表しているようです。本属は、アオイトトンボ科に属しますが、アオイトトンボ科の多数を占めるアオイトトンボ属(Lestes)は翅を半開きにしてとまります(アオイトトンボ♂の記事を参照)。種小名は、ギリシャ語のπαῖς(子供)にΙσκος(形容詞化の語尾)の女性形のついたもので、浜田・井上両氏の『日本産トンボ大図鑑』によれば、属のタイプ種であるSympecma fuscaよりも一回り小さいことに由来するそうとです。

**オツネントンボは、ヨーロッパ、ロシア、中国、朝鮮半島、そして日本(四国・九州の北部、本州、北海道)に分布しています。


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2014-10-28 (Tue)
エゾイトトンボたちの婚活会場は、沼の岸辺の抽水植物が水面から顔を出しているところです。

今日は、いい天気。
朝日で体が温まったイトトンボたちは、いそいそと会場へ向かいます。
水辺につきました。
そこには、柔らかそうな赤い絨毯。
「気持ちよさそうな絨毯。少し休んでみようか。」

エゾイトトンボ:モウセンゴケに捕えられる
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「しまった!」
「足が絨毯から離れないぞ。」
「羽根もくっついてしまった!」
「もう駄目だ。」

可愛そうに!
モウセンゴケの粘液に捕えられてしまったのです。
まだ若いトンボたちなのに気の毒ですね。
3匹の♂が同じ株のモウセンゴケの餌食となっています*。

トンボの天敵は、第一に鳥、第二に大型のトンボ、第三にクモといったところでしょう(参考:トンボ博物学)。
鳥や大型のトンボは動き回りますから、イトトンボにとっても注意のしようがあります。
ヒトが車にひかれないように注意するのと同じですね。

ですが、まったく動かない「食虫植物」は昆虫にとって危険な落とし穴。

トンボの世界に親からの生活の知恵の伝授や学校がもしあったら、
「赤い毛のはえた緑の絨毯には気をつけなさい」
と教えてくれたでしょう。

しかし、トンボは生まれたときから、親も兄弟も知らずに、一人(1匹)で生きてきました。
「あの赤い絨毯はあぶないぞ」と仲間同士で教え合う手段もありません。

頼りになるのは、遺伝子に刻み込まれた先人(先虫?)の智慧だけです。

もし、モウセンゴケがどこにでもあり、モウセンゴケがエゾイトトンボにとって主要な死亡要因であり続けたならば、水辺にある赤い毛が密生したウチワ状のものに対して忌避行動を起こさせる遺伝子が集団の中に運よく突然変異で生じた場合、その遺伝子を持つ個体の比率は急速に増大していったでしょう。

しかし、実際にエゾイトトンボの生息地で大量のエゾイトトンボがモウセンゴケにとらえられているケースは知られていません。
集団の中の数パーセントにも満たない個体が運悪くモウセンゴケで命を落とす程度の淘汰圧**では、忌避行動を進化させるのに十分でなかったものと思われます。

モウセンゴケが多く生育する高層湿原に専ら生息するカオジロトンボやカラカネイトトンボなどでは、もしかするとモウセンゴケを忌避する行動が見られるかもしれません。
尾瀬ケ原や北海道の湿原の木道でトンボを観察する機会がありましたら、このことを思い出して観察してみてください。

★視点を転じて、モウセンゴケ側から見てみましょう。

高層湿原は外部からの栄養供給の少ない立地に成立するため、窒素、リン、カリウムなどの栄養塩類の欠乏状態にあります。
そんな中で芽生え、葉を広げ、花を咲かせ、実をつける上で、葉にとまった虫たちを毛の先の粘液で捕え、更には消化して吸収してそれを栄養にしてしまうモウセンゴケは、湿原生態系にとっても貴重な存在です。
花に蜜を求めて集まり、受粉を助けてくれる虫たちが粘着トラップにかからないよう、花の茎はスーッと上に伸びています。
花粉媒介者たちは、もしかすると赤い毛の絨毯には気をつけよ、という指令が遺伝子から受け取っているのかもしれません。

注:
*この写真は7年前の7月上旬に北海道東部の沼の、浮島のように浮いた岸辺で撮影しました。

**淘汰圧(選択圧)とは、ある形質を持った個体が環境によって消し去られる(あるいは選び、残される)強さのことです。トゲの硬いウニとトゲの柔らかいウニがあったとしたら、ウニの殻を割って食べる魚や海獣の捕食の淘汰圧が強く働くでしょう。


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2014-10-23 (Thu)
前回の記事で、ルリイトトンボを代表に立てて、均翅亜目(ダムゼル・フライ)を不均翅亜目(ドラゴン・フライ)と比較し、前者を貴婦人、後者を武闘派(むしろ武人といったほうが対比になりますね)と形容しました。

ドラゴン・フライ、とくにギンヤンマは、私のブログの論調では男の子の憧れということにしておきました。

それでは、ダムゼル・フライは女の子の憧れになっているでしょうか?
少なくとも、ペンダントやブローチといったアクセサリーでトンボをモチーフにしたものは、翅が根元ですぼまって、腹は細く、途中で横にカーブしているなど、ダムゼル・フライを思わせるものが多いように、私は感じています。

さて、下の写真はエゾイトトンボ♂*。3年前の7月中旬に北海道の釧路湿原周辺の池で撮影したものです。

エゾイトトンボ♂
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前回のルリイトトンボによく似ていますね。
エゾイトトンボは、♂の腹部各節後半の黒紋がルリイトトンボよりも前後に長いこと、尾部下付属器がルリイトトンボのように牛の角状に長くとがっていないころなどで、ルリイトトンボと区別できます。
エゾイトトンボと同属で、北海道では同所的に分布することが多いキタイトトンボとの区別点については、後者の記事で触れておきました。

さて、同じ池の上空をドラゴン・フライが飛び回っている、その下側にダムゼル・フライの世界が広がっています。
もちろん、上空と下界に境界はありませんから、運の悪いダムゼル・フライはドラゴン・フライの餌食になることもあります。

しかし、基本的にトンボの社会は、この下界での同種個体間の社会関係であり、トンボの成虫は同種間の利害の中で利益を最大化するように振舞っています。

すなわち、「貴婦人」と呼ばれようが、どう思われようが、イトトンボたちも同種の社会の中で、戦うべきときは戦い、求愛すべきときは求愛して、虫の生涯の中で最大の勝負(いかに自分の子孫を残すか)に賭けた毎日を送っています。

エゾイトトンボ♂は、池の岸辺でとくに一定の空間を防衛するでもなく、とまったり、飛び進んだり、戻ったりしながら、目の前に♀を見つけたら、連結し、交尾し、そして産卵へと♀をリードしながら、自らに課した任務を遂行していきます。
♂同士で出会った場合、若干の干渉はありますが、深追いはせずにすれ違うことが多いことから、シオカラトンボコシアキトンボなどとは異なり、縄ばりのない社会を形成しています。

このように全力で任務についていると、おなかも空きますし、一服したくなるのはトンボたちも、私たちヒトも同様です。

上の写真をよく見ると、このイトトンボの頭の先に淡褐色のゴミのようなものが写っていますね。
これは、このシーンのほんの1,2分前に、このトンボが飛び立って、口にくわえて捕まえた小さな昆虫です。

トンボの口は左右に開く大アゴと小アゴ、上下に挟む上唇と下唇の4パーツからできていますが、これらのパーツを器用に動かし、餌となった小虫をムシャムシャと噛み砕き、肉汁や体表(クチクラといます)の小さな破片を飲み込みます**。

トンボは、池や川から離れた野山や道端では、休息や餌とりに専念しますが、上で見たように、池や川での婚活中にも機会があれば栄養補給をするというわけです。

どこか、背広を肩に、自販機の前で栄養ドリンクを飲みほしているサラリーマンにも似た、リフレッシュした雰囲気が見てとれませんか?

注:
*エゾイトトンボの学名は、Coenagrion lanceolatum。種小名の接頭辞lance(o)-は槍を、接尾後のlatumはfero(携える)の過去分詞latumを意味していると解釈できます。このトンボの腹部第2節背面のスペード型の黒紋を槍に見立てて命名したもののようです(latumの解釈を除いては、浜田・井上著『日本産トンボ大図鑑」[講談社1985]に既出)。
エゾイトトンボの分布域は、東シベリア、朝鮮半島、中国東北、サハリン、日本(北海道、東北、北信越)であり、エゾイトトンボ属Coenagrion全体がそうですが、北方系の種です。

**飲み込まれた有機物は、ほぼまっすぐに尾の先まで貫通している消化管の中を後方へ送られる中で、消化され、トンボのエネルギー源になっていきます。
もちろんん、消化吸収されない物質は、体内からの排泄物とともに、肛門から糞として落とされます。


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2014-10-22 (Wed)
シオカラトンボの2回目記事の中で、トンボを「武闘派」呼ばわりしましたが、同じトンボでもイトトンボになると、スレンダーなボディーに華奢な肩。どちらかといえば、貴婦人とでも呼びたくなる雰囲気を醸し出します。

下の写真はルリイトトンボ♂*。3年前の7月末に北海道十勝川の川沿いの池で撮影したものです。

ルリイトトンボ ♂
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英語では、トンボ科やヤンマ科など太い体の不均翅亜目のトンボをdragonflyと、イトトンボ科やカワトンボ科などのほっそりした体のトンボをdamselflyと呼びます。

dragonは竜。まさに武闘派のシンボルといえるでしょう。flyは翅のある昆虫一般に用いられる語幹です。

それに対してdamselは、女の子、身分のある生まれの女性、という意味を持ちますから、武闘よりも舞踏こそが似つかわしいです。

昔のイギリス人も、トンボの醸し出す雰囲気を敏感に感じ取ってネーミングしたことがわかります。

というわけで、同じ池で少し上空をトンボ科、ヤンマ科、エゾトンボ科などの「ドラゴン・フライ」たちがブンブン飛び回っているその下を、スーイ、スーイと静かに飛んだり、とまったりしている「ダムゼル・フライ」たちは、戦闘機が飛び交っているすぐ下を飛んでいるグライダーのような、危なっかしい境遇のもとで生きていることになります。

戦火のもとで逃げ惑う貴婦人の無事を祈らずにはいられない、と思いがちですが、ダムゼルたちも思いの他、したたかです。

それについては、次回以降の記事で見ていきたいと思います。

注:
*ルリイトトンボの学名は、Enallagma circulatum。属名Enallagmaの語源(ギリシャ語)の解釈は諸説に分かれていています。すなわち、「(腹部背面の模様のような)賞盃をもったもの」** 、「(腹部背面の着色における)断片の交替」***、「(イトトンボ科の他の属との)混乱、取り違え」****、「(イトトンボ科の他の属と)異なっている」*****。
enには「中に」、 allagmaには、「交換によって得たもの」という意味がありますので、私は2番目の説***に1票投じておくことにします。
種小名circulatumの意味は「環状の、循環する」ですが、これは各腹節後端が黒紋でリングのようになっていることをさすものと思われます。
ルリイトトンボの分布域は、ロシア、朝鮮半島、日本(北海道、東北、北関東・北信越の高地)であり、北方系の種です。属の分布******をみると、ユーラシア・アフリカ・中南米にも広がっていますが、特に北米では多数の種に分化しています。

注:
** 浜田康, 井上清(1985)『日本産トンボ大図鑑』講談社。

***Nelson, B., Thompson, R. & Morrow, C., (2000). Etymology of latin and greek names[In] DragonflyIreland http://www.ulstermuseum.org.uk/dragonflyireland/

****Romay, C. D., A. Cordero-Rivera, A. Romeo, M. Cabana, D. X. Cabana, M. Á. Fernández-Martínez (2011) Nomes galegos para as libélulas (orde Odonata) da Península Ibérica. Revista Chioglossa, A Coruña, 3: 21-36.

***** Paulson, D. R. and S. W. Dunkle (2012) A Checklist of North American Odonata Including English Name, Etymology, Type Locality, and Distribution. http://www.odonatacentral.org/docs/NA_Odonata_Checklist_2012.pdf

******津田滋(2000) 『世界のトンボ分布目録2000』個人出版。


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2014-10-21 (Tue)
トンボの♂にとって、「交尾したら、その♀とはバイバイし、また別の♀の尻を追いかける」というのは、永久の理想かもしれません*。

オオシオカラトンボの産卵警護の記事でも、ギンヤンマアキアカネの連結産卵の記事でもお話したとおり、♂はなかなかそうはいかず、交尾した後は、その♀に付き添います。

すでにお話したように、他の♂に言い寄られないうちに少しでも多くの卵をうませようという魂胆からです。交尾直後の♀は♂にとって自分の精子で受精した卵を産む確率が非常に高いからです。
他の♂と交尾してしまうと、自分の精子は他の♂の交尾器(ペニス)によって、その♀の交尾嚢や受精嚢から掻き出されるか、奥へ押し込まれるかするので、そうはさせまいと他の♂から♀をガードするというわけです。

キタイトトンボの産卵
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上の写真**のキタイトトンボ***の♂も、イトトンボ科の大多数の種と同様に、連結産卵をします。

♂は、池で♀を見つけると連結し、草にとまった状態で交尾します。
交尾を解いた後、カップルは連結(タンデム:直列の状態)で水面上を飛び回り、産卵できそうな植物を見つけると、それにとまります。
とまったらすぐに、♀は腹部を上げ下げして、腹端で植物表面を探り****、産卵できそうなら産卵し、そうでない場合は翅をばたつかせたりして♂に移動を促します。

上の写真の♂は、♀が腰を落ち着けて産卵をしている際のものです。
このとき、♀には足場があるのに♂には足場がない場合は、♂は写真のように♀と連結したまま、体を直立させ、じっとこらえる姿勢*****をとります。

腹部の各節の背筋と腹筋(正確には、それぞれに縦走筋)をすべて収縮させないと、筋肉のゆるんだところで体が重力によって下側に曲がりますから、力が入ります。
普段から「筋トレ」をしていないとできないのではないでしょうか!

トンボの世界からも、「男はつらいよ!」という声が聞こえてきそうです。

注:
*この理想を実現して、ハーレムのように数匹の♀と次々に交尾し、まとめて警護するトンボの種があります。これについては、近いうちに記事にしたいと思います。

**北海道の釧路湿原周辺の湿地の池で、7年前の6月中旬に撮影しました。

***キタイトトンボの学名はCoenagrion ecornutumですが、属名の語幹のagrion は開けた野外に住むものという意味で、。接頭辞のcoen(o)-は共通の、普通の、を意味します。本種は、ロシア、北朝鮮、日本(北海道のみ)に分布します。北海道では、よく同種のエゾイトトンボと同じところでも見つかりますが、本種のほうがやや小型で細身、そして胸が黄緑がかっているのがパッと見での区別点です。

****産卵する際に植物組織の中に差し込む産卵管の位置は、体の後端近く、そして腹側(背側でなく)にありますから、トンボの視野がいくら広いからといっても、ほぼ死角に入り、産もうとしている♀自身からはほとんど見えていないでしょう。
したがって、産卵管が産卵に適した材質の丁度よい位置に押し当てられているかどうかは、触覚がたよりです。
トンボの産卵器の記事で説明したように、産卵弁側片の先端には尖突起があります。その突起の先には感覚毛も生えていて******、そこにあたっている植物体の表面の硬さや組織全体の弾力性、そして凹凸などを感じ取るに違いありません。

*****この♂の姿勢を「歩哨姿勢」といい、♂のための足場のない場所のほかに、他のペアで込み合って足場がとれない産卵場所で産卵できるなどの利点があります(コーベット著『トンボ博物学』、29頁参照)。
中には、歩哨姿勢をとっている最中に、何者かに胸から上を食いちぎられて即死してしまう♂もあります。それでも♂の尾部付属器はガッチリと♀の胸をつかんだままで、♀は夫の死に気づかずに産卵を続けることすらあります。

******Matushkina N. A., Lambret P.H. (2011) Ovipositor morphology and egg laying behaviour in the dragonfly Lestes macrostigma (Zygoptera: Lestidae). International Journal of Odonatology. 14: 69–82


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2014-10-19 (Sun)
北海道十勝支庁管内の河川沿いの池で3年前の7月末に撮影した写真です。

マンシュウイトトンボの交尾
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マンシュウイトトンボ*がヨシの茎にとまって交尾しているところですが、逆光気味で背景がぼやけて、なかなか幻想的なシーンになっている、私の撮ったものとしては芸術的ではないかと自賛している1枚です。

♂の色彩パターンはどこにでもいそうな、普通のイトトンボのものですが、♀(写真では下側)の胸部側面から腹部第1節にかけてのピンクがかった薄紫色は、幻想的な雰囲気を一層盛り立てています。

翅胸(しきょう)前面の肩黒条(前脚と中脚の付け根の間から前翅の付け根とをつなぐ黒い帯状の紋)は、♂にはありますが、この♀にはありません。

トンボでは(ヒトと逆、トリとは一緒で)♂のほうがオシャレですが、このマンシュウイトトンボの♀は、ヒトの♀に負けていないと思いませんか。

面白いのは、「男装」する♀が、このマンシュウイトトンボにもいて、その♀は肩黒条も黒々と立派なものを持っていますし、胸部側面も腹端も鮮やかなブルーです(外部リンク画像阿波蜻蛉さんのサイト)。男装といっても、生まれつきですが。

つまり、♂と♀の間の色彩パターンの違い(性的二型)に加えて、♀の表現型に♂色彩型(同色型)と♀独自の色彩型(異色型)の二型があるということになります。

♀の二型は、マンシュウイトトンボの専売特許ではなく、トンボに広く見られます。これまでのこのブログでとりあげたシオカラトンボギンヤンマ、それに同属のアオモンイトトンボも♀の二型を持ちます。

アオモンイトトンボ属(参考記事)の♀の多型は遺伝解析を交えながらヨーロッパ***でかなり研究されています。興味深い研究ですので、その概要をこのブログでも機会をみてご紹介したいと思います。

注:
*マンシュウイトトンボ(Ischnura elegans)の種小名**は前回記事のオオヤマトンボのものととまったく同じです(エレガントな、という意味)。オオヤマトンボよりもマンシュウイトトンボのほうがエレガントだと思いますが、人によって感じ方が違いますし、同じ属の他種とくらべて種小名がつけられますから、目くじらを立てても仕方ないですね。

**属名は、動物(脊椎動物、無脊椎動物すべて)の記載分類ですでに使われているものは、新しい属の名称として使用できません(もし使用すると、判明した時点で無効となります)。それに対して、種小名は同じ属の中で使われていなければ、問題なく新種の命名に使えます。

***マンシュウイトトンボは、ヨーロッパから極東までユーラシア大陸に広く分布していて、日本で見つかる前に満州(中国東北部)から記録されたためにこのような和名がつけられていましたが、その後、北海道東部、北部のごく限られた場所からも発見され、正真正銘の日本産の種となりました。北海道の既知産地で個体群絶滅が起きる一方で、新産地も少しずつ追加され、最近では青森県からも発見されています。


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2014-10-18 (Sat)
9月21日に、さいたま市の樹林のある園地の大き目の池で撮影したものです。

オオヤマトンボ ♂
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あまり写りはよくないのですが、「トンボ目の系統樹」の記事から外部リンクしている写真を、1枚でも多く自前のものに替えたいこともあり、とりあげました。

オオヤマトンボ*は、黒地に黄色い横縞模様のあるトンボですが、胸部の地色は金属光沢のある緑色となっています。複眼は内部からギラギラした緑色を反射させていて、美しいです。

本種の♂は、ギンヤンマ♂と同じように、大き目の池の岸沿いに、池をほぼ全周する形で飛び続け、♀を見つけたら交尾を試みる「飛行屋:フライヤー」です。

前回の記事のシオカラトンボの♂のように、岸にとまっていて(静止屋:パーチャー)、♂が来たら追い払い、♀が来たら交尾するという「省エネ」タイプの婚活行動ではありません。

したがって、飛行屋(フライヤー)の婚活行動はエネルギーは使いますから、池に滞在している時間は相対的に短くなります。
そのかわり、♀を探索する範囲が広くなりますから、(♀の出現確率が池のどこでも均等で、♀の滞在時間がある程度長ければ)単位時間あたりの♀に出会う確率は高くなります**。

私が若いころ研究したカラカネトンボもオオヤマトンボと同じタイプ(飛行屋型)の縄ばり行動を示しますが、占有範囲はぐっと狭くなります。ただし、カラカネトンボは池の同種♂個体数がうんと少ないときはオオヤマトンボと同じように広い範囲を往復します。
このへんの詳細は論文としては公表していますが***、このブログでも、近いうちにご紹介していきたいと思います。

さて、大きい池を、たとえば時計回りに何度も回りながら、そこを自分の縄ばりのつもりでパトロール飛行しているオオヤマトンボですが、その池のほぼ対岸あたりを同じ時計回りでパトロール飛行している別の♂がいたとしたらどうなるでしょう?

池に来たばかりの♂は、別の先着個体がすでに縄ばりを確立していて、その先住個体に追い立てをくらうことになりますが、池を2周、3周して他の個体に出会わなければ、「ここは俺の縄ばりだ」と意識するようになり、別の個体を見つけたら、「俺のなわばりから出ていけ」と突進していくでしょう。

池の反対岸にそって2匹が同方向にパトロールを続けたら、意図せずして2匹は同じ縄張りを時間差で共有していることになります。

私が長く住んでいた北海道にはオオヤマトンボは稀なため、私自身は、実際にそういう状況を見たことはありませんが、本州の方のトンボの本にはそのような例が述べられています。

しかし、そこに別の♂がやってきたりすると、♂同士の追い合いが発生し、時間差共有していたはずの♂同士が出くわす状況も出てくるでしょう。その場合はどちらも強気で自分のなわばりを守ろうとするでしょうから、追い合いの時間も長引き、攻撃(突進)の技も荒々しいものになるのではと思います。

あるいは、オオヤマトンボは縄ばりをもたずに、真の意味で他の♂とその婚活グラウンドを共有しているのかもしれません。

どれが正解なのか、あるいはもっと別の婚活社会となっているのか、それを明らかにするためには、私がカラカネトンボでそうしたように、トンボの翅に個体識別のマークをつけて、行動の連続観察を積み重ねることから始める必要があるでしょう。

注:
*オオヤマトンボ(Epophthalmia elegans)はヤマトンボ科に属します。エゾトンボ科とともに、トンボ科と近縁です。したがって、トンボ目の進化系統の中では比較的新しい時代に現れたグループの一員です。学名のうち、属名には「眼球が突出した」という意味があるようですが、私にはピンときません。種小名はそのものずばりで、「エレガントな」です。
ヤマトンボ科は池上空でのライバルであるヤンマ科よりも色彩が地味で、そこが逆にマニアにはたまらないという面があるようです。いわば、いぶし銀の魅力ということなのでしょう。

**Ubukata, H. (1986). A model of mate searching and territorial behaviour for “flier” type dragonflies. Journal of Ethology, 4(2), 105-112.

***Ubukata、H.(1975); Life history and behavior of a corduliid dragonfly, Cordulia aenia amurensis Selys. II. Reproductive period with special reference to territoriality. J. Fac. Sci. Hokkaido Univ. Ser. 6, Zool., 19 (1975), pp. 812–833


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2014-10-17 (Fri)
トンボの生態写真は真横の少し斜め上からの角度からのものが好まれます*。

というのも、頭のてっぺんから尻尾の先までしっかりピントが合い、体の各部のプロポーションが一目瞭然となり、種の形態的特徴が見分けやすいからです。
そして、できれば頭が左方向、尾が右方向になるように、写真をそろえるたほうが、互いに比較しやすいのでベターです**。

そのようなわけで、このブログのこれまでの生態写真入りの記事は、それぞれの種が初出ということもあり、横向きトンボのオンパレードでした。

これまでのこのブログに目をとおしてこられた方の目には、今日のこの写真(シオカラトンボ♂***)は、その意味でちょっと新鮮に映るのではないでしょうか。

シオカラトンボ ♂、正面
 ↑クリックで拡大します。

いつもの、さいたま市の園地の池の、コンクリート製擁壁の天面(こういう場所を本種は好みます)にとまって、こちらをじっと見ています(8月30日撮影)。
というよりも、私が岸沿いに回り込んで、このシオカラトンボが真正面に見える位置に移動し、そこからカメラの望遠ズームレンズを向けたというのが実際のところです。

トンボを見慣れたはずの私ですが、正直にいって、このトンボの顔(とくに目の表情)に、今流行りの「ゆるキャラ」たち、あるいは仮面ライダーを思い起こさせるような、ユーモラスな愛らしささを感じました。

なにが、そう感じさせるのでしょうか**** 。
ヘルメット兼用の、青くて丸い大きななゴーグル越しに大きな黒目をのぞかせたところ。
口から顎を覆う白くて大きくしっかりしたマスク。
ゴーグルやマスクの輪郭は、漫画のキャラクターのように、黒線で縁どられています。
こんなところでしょうか。

さて、その一方で、シオカラトンボの頭、胸、脚をよく見ると、一変して、いかつい逞しさを兼ね備えていることに気づきます。

ゴーグルの頬のあたりには、ちょっと怖そうにダルマの髭のような隈取り。
マスクのすぐ上には、リベットで留めつけたような、黒光りのした額飾り。
いからせた背も、ヨロイの胴のように鈍く光ります。
そして、腕を覆う籠手(こて)に相当する部分には、触ればバリバリいいそうな棘が列生しています。

仮面ライダーの原作者が、トンボやバッタの顔をモデルにした気持ちがよくわかります。
というのも、トンボの前半身は、正面の敵と丁々発止と渡り合うのに、なんの不足もない、立派な鎧兜(よろいかぶと)を装っているといえるからです。

日本の兜は、それでも顔の一部が露出していますので、ハードな部材で完全におおわれたトンボの顔・頭は西洋中世の騎士のかぶるヘルメットにより近いといえるでしょう。

このように、トンボの体を、武装したサムライや西洋の騎士に例えることができるのも、昆虫の中でトンボは他の昆虫を襲うどう猛な肉食者であり、種内個体間でも縄ばり争いで正面衝突も辞さないほどの「武闘派」だからといえるでしょう。
鎧の完成度では、カブトムシやクワガタムシには叶いませんが、トンボも、このようなところが、昔ならチャンバラごっこ(死語?)、今なら電子ゲームのストリートファイターに血を沸かす男の子達の、あこがれの1つになった理由なのではないでしょうか。

それに対して、ひ弱く、人の手でつかめば潰れてしまうような、カゲロウやユスリカたちは、平和主義者、非暴力無抵抗主義の生き方をしているのかもしれません。
そういう生き方をしているにもかかわらず、数億年の時を経て現代にまで生き続けてくることができた、これらの虫たちの存在は、戦争や暴力で物事を解決しようとする今の人類に、何かを教えてくれるかもしれません。

注:
*あくまでも、たった1枚の写真でその種を代表させる場合のことです(標本的写真)。多数提示できる場合は、さまざまな角度からさまざまな焦点距離で、トンボが示すいろいろな姿勢・動作を写したほうが全体として表現を豊にすることができます(言わずもがなですが)。

**しかし、実際は右向きにとまった写真しか撮れないことも多く、真横の位置を撮れない場合もままあります。

***シオカラトンボについては9月15日の記事に基本的なことを書いておきました。

****この文章以下10行分の文章は文芸的表現であり、解剖学的事実とは異なります。実際は、「ゴーグル」全体が複眼で、黒目のように見えるのは、複眼の中の微細構造によって屈折した反射光が、観察する角度によってそのように見えるためです。マスクの下半分はトンボの口そのもの(上唇と大顎)ですし、上半分は前額という板です。また、マスクの上の黒い部分を「額飾り」と表現しましたが、それは頭盾とよばれる板で、そこには1対の小さな触角と三つの単眼があります。頭盾を三角形に見立てると、底角の位置に触角(柄の部分が写っています)が、その三角形に内接する逆三角形の各頂点の位置に、単眼(反射光でを発しているビーズ状の膨らみ)があります。これらの各パーツの機能については、後日機会をとらえてもう少し詳しく述べたいと思います。


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2014-10-16 (Thu)
トンボのシーズンもそろそろ終わりに近づいてきました。

トンボの産卵。なんの変哲もないようですが、実はこの日のために、トンボは1個の小さな卵として母親から離れて以来、1年も2年も、たった1匹で生き続けてきたのです。
その間に、一緒に生まれた兄弟姉妹たちの99%以上は、被食(捕食者に食べられること)や病気、事故で命を落としていますから、その分まで頑張らなければならない立場にあるといっても過言ではないでしょう。

それだけに、一つでも多くの卵を、少しでもよい場所に産もうと、どのトンボも文字通り一生懸命です。

コシアキトンボの産卵(1)

コシアキトンボの産卵(2)
 ↑クリックで拡大します。

上の写真は今年の7月23日に、さいたま市の樹林のある園地の池で撮影したコシアキトンボ*♀の産卵の、ほぼ連続した3シーンずつを2枚の写真に合成したものです。

9月7日の記事「コシアキトンボ♀」と同じ日、同じ池で写したものですが、それとは別個体です(腰の部分の白帯の色調からもわかります。この個体は黄色味が弱いです)。

本種も、♂の警護のもとで産卵するのがよく見られます。産卵の警護とは、「オオシオカラトンボの産卵と警護」の記事でお話したように、縄ばりを占有している♂と交尾すると♀は、その縄ばりの中の産卵場所で産卵をし、交尾したその♂がすぐ上空をホバリングし、接近する♂を追い払う行動です。

写真の♀は、最初は♂の警護のもとで産卵していましたが、その♂が別の侵入♂を追って離れた場所まで行ったまま戻って来ないなかで、何事もなかったように単独でせっせと産卵を続けていたときのものです。

上段の写真を左から順に見ると、(1)卵を産み付ける水草の塊をジッと見据えて、適切な卵の産み付けポイントの見当をつける。(2)勢いよく体を押し下げ、同時に腹先を折り曲げ、腹先をそのポイントに打ち付けようとしている。(3)卵を水草に押し付けるように産み付けているところ。

以前の記事「アキアカネの連結産卵」と「アキアカネの単独産卵」で見たような、水面(打水)や泥の表面(打泥)を腹端でたたくのではなく(つまり、打水)打泥産卵ではなく) 、水面よりも明らかに上の植物体の表面をたたいています。水面に波紋が見られないことからもそれは証明されます。「打草産卵」とでもいえる産卵方式になっています。

下段の写真も同じ個体です。同じ植物の塊に、別の方向から産卵しているところです。左と中は、上段の左と右にそれぞれ相当する場面です。
下段右は、その打草行動のリズミカルな連続の中で勢い余って「空振り」をしたタイミングをとらえているようです。
サッカーでいえば、フリーキックを思いっきり空振りした珍プレーに相当するかもしれません。

でも笑ってはいけませんね。とっても難しい技なんですから。
人間に翼をつけても真似できません、飛びながらの打草産卵なんて。

さて、コシアキトンボは水面上だけでなく、水面につかず離れずのように沈んでいる植物体にも卵を産み付けます。しかし、何もそのようなものがなく、打水したら水底深く沈んでしまうような状況での産卵は、私は今のところ見ていません。
おそらく、植物体表面に付着した卵から孵化した小さな幼虫は、その植物の表面をはい歩きながら、微小な無脊椎動物を捕食するという生活をするのではないでしょうか。

一方、割合深いところの水面を打水するトンボの種もありますので、そういう種では孵化した幼虫が池の底で生活できる能力を身につけているにちがいありません。
それがどのような能力なのかは、興味がもたれます。

注:
*本種の学名(Pseudothemis zonata)の由来や、腰の部分の白色模様の適応的意義については「コシアキトンボ♂」の記事で触れておきました。


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