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2014-11-30 (Sun)
11月15日~16日に開催された、2014年度日本トンボ学会大会での研究発表の中から、特に印象にのこったものを、いくつかの記事としてブログにアップしてきましたが、それら以外の発表(下記リストに要約)の中にも、目的を明確に持った上での調査研究を通した、興味深い結果を報告したものが少なくありませんでした。

・トンボ相の長期変化に関する発表:2件
・トンボ相にもとずく環境指数に関する発表:1件
・トンボ群集のモニタリングについての発表:1件 (←私の発表です)
・特定のトンボの種の生物季節に関する発表:1件
・種内多型の個体群内の出現頻度に関する発表:1件
・東南アジア産トンボの分類学的検討に関する発表:2件

トンボ相の長期変化に関する発表が重なったのは偶然ではないでしょう。
日本全体で「トンボ相に異変あり」という状況が、放置できない段階にまで来つつある現状を物語っていると思えてなりません。

トンボ相の長期変化一般と、私の発表で取り扱ったトンボ群集のモニタリングとは、互いに関連のあるテーマです。

一言でいえば、トンボ相はトンボ群集のサンプリングの結果としての種のリストです。それに対して、群集モニタリングは、種のリストよりも群集を構成する種ごとの個体数の量的把握に主眼を置いています。

この両者の関連性を探るといくつか興味深いことがらも出てくるように思います。
それについては、この後の私の発表についての記事を受けるかたちで検討してみたいと思います。

今年のトンボ学会大会は、初日の自然保護委員会(会員に公開)と懇親会、そして二日目の研究発表とそれを受けての質疑応答・意見交流とも充実していて、有意義なものでした。

来年は新潟県での開催が予定されています。そこでのトンボ研究仲間との再会・出会いが、今から楽しみです。


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| トンボ:多様性・保全 | COM(0) | | TB(-) |
2014-11-29 (Sat)
昨日(11月28日)、ネットでニュースを閲覧していたところ、
ジャポニカ学習帳から昆虫が消えた 教師ら「不快」→苦渋の決断
 (↑外部リンク:クリックで写真付き記事)
という記事が目につきました。

私の子供が小学生だった頃(1980年代後半から90年代前半)トリバネアゲハやモルフォ蝶、それにラフレシアなどが表紙一杯にカラー印刷された、このブランド(ジャポニカ学習帳)のノートを使っていました。
昨年の自宅の引っ越しの際に押入れの奥から教科書やワークブックと一緒に沢山「出土」したので、昆虫の表紙写真の脳裏への焼き付けも復元されています。

学校教育の昆虫離れがここまで来たか、というのが私の率直な感想です。

どのノートを買うかには親(とりわけ母親)の判断が入りがちです。学用品店にずらりと並ぶ学習ノートの中で、上記学習帳は強烈に視覚に訴え、私が小学生だったころのような文字と罫線だけの無機的な表紙を背景にまで押しやることでしょう。
虫嫌いの母親であれば、虫の写真のない別の(たとえば、草花の写真の)ノートを選ぶことができるはずです。

それに対して、児童から授業後ノートを集め、添削する教師にとってはノートを選ぶことはできず、否応なしに各ノートの表紙とにらめっこさせられることになります。
昆虫が超苦手な何人かの若手教師(おそらく女性の比率が高いでしょう)には、この有象無象の昆虫との出会いがとても耐えられないという事態が生じたのでしょう。そして、中には、この学習帳の出版社に改善を求めるメールか手紙を出す教師も現れるに至ったものと思われます。

そういうクレームを寄せた若い教師も小学生の頃、友人たちが使用していた昆虫の学習帳を目にすることがあったと思われます。しかし、結果から考えて、昆虫の学習帳の流行は虫好きを増やす効果があった反面、虫嫌いをなくす効果は薄かったといえるかもしれません。

私は昨春まで教員養成系の学部の教員をし、主として小学校教員の養成にタッチしていました。そのうちの1つの専攻の入学者にはほぼ必修のかたちで、昆虫の観察・採集・図鑑による同定・レポートの作成を組み込んだ実習を履修してもらっていました。

自然好きという動機を持って入学した学生たちでしたが、子供のころ昆虫採集体験をほとんどしていない、あるいは昆虫に触ったことがない、気持ち悪くて触れない、という学生の割合は少なくありませんでした。

幸い、釧路湿原の周辺部で実施した上記実習(←外部リンク:筆者作成記事、写真つきpdfを終えた学生の感想には、昆虫に触れるようになった、昆虫の命に触れて感じることが多かった、教師になったら子供たちと昆虫の授業をしてみたいなどの記述がみられ、このささやかな実践が「教師の卵」の昆虫に対する好感度をアップさせる上で多少なりとも効果があったのではと思っています。

全国の大学の教員養成課程の授業でこのような昆虫体験を授業に組み入れることにより、虫好き(=自然好き)な子供(ひいては、大人)を増やすことができるのではないでしょうか。

さらには、PTAの会合に虫好きの父親が参加して、子供たちにもっと(昆虫を含めた)自然体験をさせてほしい、と要望を出すなどすることも、同様の効果を持つかもしれません。


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| 理科教育/科学教育 | COM(0) | | TB(-) |
2014-11-28 (Fri)
11月15日~16日に開催された、2014年度日本トンボ学会大会で、大きくうなずかされたのは、分布記録の証拠としての標本の価値でした。

それは宮崎俊行氏の「平山コレクションの千葉県産『マダラヤンマ』について」*の発表を聞いたときのことです。

マダラヤンマAeshna mixta soneharaiは日本では分布が限られている種ですが、第二次大戦以前には東京でも採集された記録があります。これは、当時の東京の自然環境がまだまだ健全な部分を残していたことを物語るものです。

そんな状況下で、千葉県からのマダラヤンマの記録は、それを報告した平山修次郎氏が参照した日本昆蟲図鑑におけるマダラヤンマの説明図がマルタンヤンマAnaciaeschna martiniだったことなどから、平成の世のトンボ研究者の一部からは誤同定の可能性を指摘されていました。

宮崎氏は、この千葉県のマダラヤンマ標本の保管先を突き止め、実際に標本およびラベルを精査した結果、平山氏の同定は正しかったこと、したがって千葉県に少なくとも過去においてマダラヤンマが生息していたこと、を明らかにしました。

 <以上、宮崎氏の発表からのご紹介です。>

このことは、分布の証拠としての標本にきちんとラベルをつけて、信頼のおける場所(研究者のコレクション、そのリタイア後は博物館等)に保管されていることが、貴重な過去の分布記録の妥当性を担保するという一般論の再確認となりました。

プロ・アマチュアのいかんを問わず、研究のために収集した膨大な昆虫標本は、その研究者が亡くなったり介護を受けるようになった場合、多くの場合、家族によって粗大ゴミ同然の扱いを受けがちで、最悪の場合は本当に廃棄物として処理されてしまいます。

現在、多くの博物館で貴重なコレクションの受け入れの必要性を認識し、実際に受け入れているところが多く存在します。
もちろん、所蔵スペースや管理人員に制限がありますので、一筋縄にはいきませんが。

宮崎氏の発表では、戦前の昆虫図鑑や図譜には上記の例のほかにも誤った図(別種の図など)の使用例が紹介されました。それゆえ、それらの図鑑の記述を根拠に同定し、その結果を報告した昆虫関係雑誌上の記事にはしばしば疑問符をつけざるをえないということになります。

幸い、現在市販されているトンボ関係の図鑑で使用している標本写真・図には、そのような誤りはなくなっています。それはひとえに、日本のトンボ学の父と称される朝比奈正二郎先生の日本産トンボの分類の総整理と全国のトンボ研究者(プロ・アマを問わず)への熱心な指導の賜物といえます。

とはいえ、現在図鑑等で1種とされていたものが、実際は2種以上からなっていたことが後日判明することや、国内産の種に酷似する飛来種を国内産の種と誤認して記録するケースなどは今後も起こりえます。

そこで、私を含め、昆虫分布調査をしている人のモットーに加えるべき(あるいは再確認すべき)点をリストしておきます。
 「その生息地で最初に確認した種については標本を残そう。」
 「もしかすると別種かなと思ったら標本にしよう。」
 「標本にはきちんとラベルをつけよう。」
 「虫に食われないよう保管しよう」、そして
 「リタイアするときは博物館に相談しよう。」

注:
*宮崎俊行 2014. 2014年度日本トンボ学会大会講演要旨集、所収。


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| トンボ:系統と分類 | COM(0) | | TB(-) |
2014-11-26 (Wed)
11月15日~16日に開催された、2014年度日本トンボ学会大会で私に強い印象を与えたもう一つの研究発表は、二橋亮氏(産業技術総合研究所)による「トンボの遺伝子解析の新たな手法*」でした。

ワトソン&クリックによるDNAの二重らせん構造の発見以来の分子生物学の飛躍的発展により、DNAの塩基配列情報の解析はヒトゲノムの完全解読を成し遂げ、親子関係確認や犯罪捜査などでのDNA利用は茶の間の話題になるまで一般化しています。

分子生物学時代以前の伝統的な動物分類学は、主に外部形態の比較に立脚し、これにせいぜい比較発生や生物地理学を加味する程度のものでしたが、DNAを用いることで主観を排除し、同じ手法を用いれば誰もが同じ結論(この場合、系統樹)が得られるところまできています。

この手法は素晴らしい成果を上げており、従来、クジラ目と偶蹄目はそれぞれ独立の分類群として(比較形態学の見地から)取り扱われていましたが、DNAの解析により、クジラ類とカバ類がそれ以外の偶蹄目(例、ブタ)よりも近縁であることが明確になり、クジラ類は「偶蹄目」の中の一つの系統群へと飲み込まれたこと**など、思わず唾を飲むような動きが出ています。

トンボ目でも同様の系統分類の改善がなされていることを、私のブログの記事「トンボ目の系統樹」でも紹介しています。

さて、このあたりまでは、私の頭の中にあったのですが、昨今の「次世代シークエンサー」(大規模かつ効率的なDNA情報の解析手法)の活発な開発の中でRNAの塩基配列を解析する方法(RNA-Seq)が登場していることを、二橋氏の発表から知るところとなりました。

mRNAを生きたトンボの特定部位から取り出すため、実際に当該の組織・器官の細胞で発現している遺伝子を比較対象とし、その塩基配列の暗号1文字の違いも判別しての解析結果が得られるため、従来のDNAの特定領域だけで行われた系統解析(系統樹作成)の結果に変更を迫るものも出つつあるとのことです。

二橋氏は、トンボの特定器官のもつ特定機能にかかわる遺伝子の科や属の間での分化を見事に図示していて、RNA-Seqの威力を見せ付けてくれました。これから、より多くの科からサンプルを得て、このテーマでの研究を完成させる予定とのことで、最終的な成果の発表が楽しみです。

注:
*二橋亮 2014. トンボの遺伝子解析の新たな手法。2014年度日本トンボ学会大会講演要旨集。

**Nikaido, M., A.P. Rooney and N. Okada 1999. Phylogenetic relationships among cetaritodactyls based on insertions of short and long interspersed elements: Hippopotamuses are the closest extant relatives of whales. Proc. Natl. Acad. Sci. 96: 10261-10266.


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| 昆虫:発生・生理 | COM(0) | | TB(-) |
2014-11-22 (Sat)
11月15日~16日に開催された、2014年度日本トンボ学会大会の口頭発表の中で最もショッキングな内容であったのは、苅部治紀氏らによるアメリカザリガニの個体群爆発によるベッコウトンボ個体群の絶滅についての発表でした*。

ベッコウトンボLibellula angelina)[写真、外部リンク]は、環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠA類(CR)に指定され、種の保存法に基づく国内希少野生動植物種でもある、存続基盤がぜい弱な種です。 

かつては宮城以南(日本海側を除く**)、鹿児島までの平野部に分布していたのが、現在では十指にも満たない数の生息地に細々と生き残っている状態にまで追いつめられています。

これが、2009年に浜松市南区の工場跡の湿地にまとまった数で見つかり、同時に侵略的外来種であるアメリカザリガニも生息していたことから、発表者のグループはベッコウトンボのモニタリングとアメリカザリガニの駆除に取り組みました。

ところが、2013年にアメリカザリガニが大発生し、同グループのメンバーが緊急捕獲作戦を実行し2万匹の駆除を行ったにもかかわらず水生生物の回復に至らず、2014年シーズには1匹のベッコウトンボも見ることができなかったそうです。

2013年夏は雨不足による渇水の影響もあったそうですが、アメリカザリガニは水生植物を食い荒らし、底の泥をかきまわして多くの水生生物にとっての池の環境を大幅に劣化させる存在であることを改めて浮き彫りにさせる報告でした。

アメリカザリガニは子供にも扱いやすい身近な生き物として理科や生活科で扱われてきましたが、このように外来種として侵入した場所では生態系を大きく劣化させ、生物多様性を崩壊させるギャングとなることを、今後の理科教育の中に浸透させていく必要があるでしょう。

注:
*苅部治紀・油井雅樹・福井順治・吉田正澄・神奈川トンボ調査・保全ネットワーク(2014):静岡県浜松市におけるアメリカザリガニの個体群爆発をおもとするベッコウトンボの絶滅。2014年度日本トンボ学会大会講演要旨集。

**新潟県には過去の記録があります。


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| トンボ:多様性・保全 | COM(0) | | TB(-) |
2014-11-21 (Fri)
2014年度日本トンボ学会大会に参加したついでに、会場の兵庫県立人と自然の博物館の展示物も見学させていただきました。

テーマをはっきりさせ、興味深い展示物を効果的に配列していて、社会教育施設として完成度が高いという感想を持ちました。

特別展示の「江田 茂氏コレクション-世界からやってきた美麗な昆虫たち」では、世界の美麗な蝶類、巨大なヘラクレスオオカブト、奇妙な形のナナフシ類など、図鑑や写真集でしかなかなか見る機会のない昆虫の標本に対面することができました。

スタッフから写真撮影およびブログへのアップをご快諾いただいたので、持ち合わせのコンパクトデジカメで標本箱のガラス越しに、インパクトの強い種の標本を撮影しました。

その中から、比較的写りのよいもの2点をご紹介します。


ゴライアストリバネアゲハ♂ Ornithoptera goliath

ゴライアストリバネアゲハ ♂
  ↑クリックで拡大します。

開帳28cmになり、世界で二番目に大きい蝶とされます。
♂はこのようにエメラルドグリーンと黄色と黒の3色の大胆なコントラストを見せていますが、♀では、前翅は黒地に白斑、後翅は黒、白、黄色に染まっていて地味です。
そのため、捕食者(鳥)に目立つ♂は翅を閉じてとまり、♀は開いていることが多いようです。
ニューギニアの熱帯雨林に生息し、樹冠を突き抜けて飛び回ります。
(以上、Wikipedia英語版、日本語版を参考)


サカダチコノハナナフシ♀ Heteropteryx dilatata

サカダチコノハナナフシ ♀
  ↑クリックで拡大します。

「ずいぶん、ごっつい虫だな」とカメラを向けました。
今売り出し中の新関脇逸ノ城を彷彿とさせます(失礼!)。
マレーシア、インドネシア、タイにかけて分布し、♀は体長17cm、体重70gにもなり、最も重い昆虫の1つだそうです。
卵も昆虫のものとしては最大(長径9mm、重さ70mg)で、土中に1個ずつ産みつけられます。
卵が孵化するのに8~18か月かかります。
♂はもっと小型で細身、そしてより長い翅をもちます。
(以上、Wikipediaドイツ語版、フランス語版を参考)


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| 昆虫:多様性・保全 | COM(0) | | TB(-) |
2014-11-21 (Fri)
11月15日~16日に、兵庫県三田市の兵庫県立人と自然の博物館で開催された、2014年度日本トンボ学会大会に参加してきました。

9件の口頭発表、2件のポスター発表があり、その中にはトンボの遺伝子解析の新たな手法の紹介(二橋亮氏)や、アメリカザリガニの個体群爆発によるベッコウトンボ個体群の絶滅事例の紹介(苅部治紀氏ほか)などもあり、大変刺激的でした。

私も、トンボ群集のモニタリングを持続可能にするためのプロトコールについて(倉内洋平氏と共同で)発表しました。

次回以降の記事で、強く印象に残った発表および私自身の発表の要点をご紹介したいと思います。

※大会実行委員会の皆様、会場のスタッフの方々にはお世話になりました。


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| トンボ:イベント | COM(0) | | TB(-) |
2014-11-10 (Mon)
本日、「トンボ自然史研究所」のホームページを以下の通り移転しました。

(旧)http://www.ne.jp/asahi/dragon/fly/index.html

(新)http://dranathis.web.fc2.com/index.htmll

新しいURLで、引き続き当研究所のホームページを情報源、コンサルティング先としてご利用ください。

なお、旧URLもしばらく運用し、検索サイト等からのアクセスに対応する予定です。


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| トンボ自然史研究所 | COM(0) | | TB(-) |
2014-11-07 (Fri)
今日(11月7日)、好天の中、さいたま市西部の樹林のある園地にトンボを見に行きました。

さすがに、めっきりとトンボの数は減りましたが、このオオアオイトトンボ*(下の写真)はまだ現役で活躍していました**。

オオアオイトトンボ ♀
 ↑クリックで拡大します。

♀のオオアオイトトンボは写真右下***のように、腹部第9節が(アオイトトンボ♀とくらべて)肥大化していて、横から見るとポパイの二の腕の力こぶのように盛り上がっています(写真左下の白矢印で指示した部分)。

それもそのはず、オオアオイトトンボは、他のイトトンボが草の茎や葉、朽木に産卵するのに対し、硬い樹皮で覆われた生きている樹枝に産卵するからです。

このブログの以前の記事「アジアイトトンボの産卵」の中で、イトトンボは「腹部第9節の中にある丈夫な二つの筋肉を動かすことで、産卵弁内片が腹端方向に突き出したり戻ったりします。産卵弁腹片もそれに引きずられて一緒に前後に動き」、産卵弁の集まりである産卵管が植物組織の中に突き刺さり、その直後に卵が産み付けられることを書きました。

硬い樹皮やその下の樹木の組織に産卵管を突き刺すには、それに応じて強大な筋肉が必要になります。

漫画のポパイは、筋トレによって強靭な筋肉を身につけたに違いありません。この場合、筋肉の強靭さは後天的に身につけたものです。
一方、オオアオイトトンボの産卵のための筋肉とそれを支える隆々たる外骨格は、親から受け継いだDNAの中にすでに刻まれている、先天的なものです。

したがって、オオアオイトトンボ♀は、スポ根漫画「巨人の星」の主人公のように無茶なトレーニングを強制されることなく、普通に食事をしているだけで太い筋肉が出来上がってくれるに違いありません。

もし、勉強もDNAだけでできてしまうなら、学習塾も受験勉強もいらなくなり、遊んでいても一流大学に入れてしまうでしょう。
おっと、それでは全員が一流大学に入学してしまいますね。

お後がよろしいようで。。。

注:
*オオアオイトトンボ(学名:Lestes temporalis)の種小名temporalisには「時間の」、「一時的な」、「現世の」という意味もありますが、どれも今一つピンときません。もうひとつ「側頭筋」という意味もあることから、♀の肥大化した(産卵のための)筋肉から、このヒトの頭蓋骨の側面を覆う巨大な咀嚼筋を連想して、Edmond de Sélys Longchampsが命名したのかもしれません。分布は、日本とロシア、朝鮮半島となっています。
属名Lestesは、古代ギリシャ語のλῃστήςの音訳で、意味は「盗賊」、あるいは「山賊」と、あまり芳しくありません。背景に紛れる緑の衣装をつけて、ピタっととまっていることが多いからでしょうか。それでしたら、「忍者」のほうがピッタリですが!? 属の命名者William Elford Leachが忍者のことを知っていたとしたらら、もしかしすると属名はNinjaに??

**今日は、ほかにアキアカネも見かけましたが、こちらのほうは高さ1メートルほどの木の枝にとまって日向ぼっこしながら、時たまオヤツになる小虫を見て飛び立っていました。

***同一個体が別の植物にとまり替えたところをほぼ真横から撮影したものをトリミングしたものです。


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| トンボ:生態写真 | COM(0) | | TB(-) |
2014-11-05 (Wed)
オツネントンボが、トンボ目の中で例外的に成虫で越冬することは、以前の記事でお話しました。

オツネントンボ ♂
 ↑オツネントンボ♂(生方撮影:クリックで拡大します)

同じように成虫越冬する種は昆虫の他の目にも散見されます。

それらのうち、クジャクチョウ、ケブカスズメバチ、ヒメバチの一種(Chasmias sp.)、オオルリオサムシなどでは体内にグリセリン(グリセロール)がかなりの量で蓄積され、これが細胞の凍結(それは多くの場合、虫の死に直結する)を防止することが知られています*。

越冬前に、昆虫の体内組織である脂肪体で、主としてグリコーゲンからグリセリンが生合成されます*。
それが血液を通して体の各部に行きわたることで、外気温がマイナス20~25度Cくらいまでは、細胞が過冷却の状態を維持し、凍結を免れる、という分子の物理化学的性質を使いこなした適応を、これらの昆虫では獲得しています*。

グリセリン**のほかにソルビトール、トレハロースなども凍結防御物質であることが知られています*。
私たちが乗るガソリン車のラジエーターの冷却液も北国では凍結防止のためにエチレングリコールが水に加えられていますね。
昆虫が遺伝子に刻み込んでいる自然淘汰の智慧と、人間の発明とが、同じ原理(圧倒的な分子量****により、氷結に必要な水分子の相互作用に干渉する***)の恩恵にあずかっていることになります。

凍結防御には、これ以外にも次のような対処の仕方があります***:
―細胞に氷が触れると細胞が凍結を開始しやすいので、触れないように隠れる。
―体表のクチクラは水をはじくようにワックス成分で覆う。
―消化管内の食物破片、バクテリアなども氷結核になりやすいので、秋のうちに食べるのをやめて消化管を空にする。
―不凍たんぱく質(antifreeze Protein)を合成し、この分子が顕微鏡的サイズの氷の結晶に結合してそれ以上の氷の成長を妨げる(その場合、アミノ酸とくにシステインの側鎖が氷の結晶中の水分子の並びと寄り添うことで作用する)。

オツネントンボをはじめ、越冬するトンボがどこまで、これら物理化学的適応戦略のうちのどれを採用しているかは今のところ不明ですが、冬の貴婦人(オツネントンボの英名の直訳)たちは、どうやらコートやストールといったファッションではなく、体を内部から体質改善し、寒さに備えるという、見かけではわからないオシャレをしているようです。

注:
*朝比奈英三(1991):『虫たちの越冬戦略』北海道大学図書刊行会。・・・著者はトンボ学者、朝比奈正二郎先生の弟で、幼少時からご一緒に昆虫採集をされた由。私(生方)の修士論文発表会の際ににこやかに質問して下さったことが昨日のことのように思い出されます。

**グリセリンは耐凍性のみならず、虫体の乾燥防止の機能ももっているようです***。

*** Storey, K. B. & Storey, J. M.: Animal cold hardiness. http://http-server.carleton.ca/~kbstorey/pdf/559.pdf. Retrieved on November 5, 2014.

**** ヒメハマキガの一種Epiblema scudderianaでグリセリンが体重の20-25%にまで増加して耐凍性を担保していることが知られています***。


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