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2015-01-26 (Mon)
ハナダカトンボ科の1種Heliocypha perforataの「卵胎生」については、5回連続の記事で語りつくしましたが、Dayananda氏が撮影しネット上で公開している下記ビデオを見ている内に、トンボが示した、ある動作に新鮮な驚きを感ましたので、書いておきたいと思います。

卵胎生的豆娘?三斑犀蟌Heliocypha perforata,蜻蜓目的第一例
http://www.guokr.com/post/657428/focus/0124320743/

それは何かといいますと、一連の産卵行動の中で、適切な産み付け場所を「触診」のように探る際の、雌の腹端の動きです。

私は、今まで、イトトンボ類♀の腹の先端に左右1対で突き出ている突起(尾毛)にどのような機能があるのか考える機会がありませんでした。

しかし、この動画を見ると、この尾毛がピクピクと動き、産卵基質(朽木)の表面を検知器のように触診しているではありませんか。

これに加えて、産卵弁側片*(産卵管としての機能上の本体である産卵弁腹片*と産卵弁内片*を収納する鞘の機能をもつ)の先端の尖突起も同様の触診をしています(これについては、このブログの以前の記事**にも書きましたが、概念的な知識にすぎませんでした)。

更に、腹部末端の2節(第9節、第10節)を巧みに動かして、産卵基質上を軽くたたいたりなぞったりする動きをつくりだし、触診場所を流れるように選定しています。
まるで葉の上にたかっている芋虫が、頭部を少しもたげては葉の表面に顔を近づけて触角・小顎髭・下唇髭などを接触させ、表面の硬さや肌理を探っているかのようです。

また、このトンボの腹端の2つの節の体表の殻(クチクラ)は、これまで私が思っていたよりも、しなやかで、その点でも芋虫を連想させました。

ハナダカトンボ科のこの♀の腹端は、現代科学を応用した超先端の触診器具並のスマートな動作性能を持っているといえないでしょうか?

ハナダカトンボ科の別の種ではトンボの♀が生涯に産む卵の数は約600***と推定されています。
トンボ目の中で決して大きい数ではありません。

雌が不適切な場所に卵を産みつけるなら、貴重な子孫を1回につき400分の1ずつ失っていくことになります。
したがって、産卵基質のうちの適切な部位(硬すぎない、柔らかすぎない、乾きすぎない、薄すぎない、しっかりしている[流出したりしない]、など)を、触感で見極めることは母親にとって大切な仕事になります。

Heliocypha perforataの、そしておそらく均翅亜目全体の、産卵基質触診行動とそれを支える外部形態、筋肉・神経系、脳内コマンド体系は、大量の不適格産卵の淘汰の中で、より高性能な触診行動が生き残ることで進化したに違いありません。

注:

*均翅亜目の♀の腹端にある産卵器の構造を再掲しておきます。(詳細についてはは以前の この記事を参照してください)

均翅亜目の産卵管(Tillyard 1917)
 drawn by R. J. Tillyard, R. J. (1917)

図のキャプションの訳【補訳】:Synlestes weyersi Selys ♀【ミナミアオイトトンボ科】の産卵器【広義の産卵管】。ap:前方突起【産卵弁腹片】;mp: 中央突起【産卵弁内片】; st: 尖突起;v: 産卵弁【産卵弁側片】。原図。キチン質のプレパラート。

** 当ブログの過去記事「トンボの産卵器の構造:植物組織内産卵用

***Orr, A.G. (2009): Reproductive behaviour of Libellago semiopaca on a Bornean rainforest stream (Odonata: Chlorocyphidae). International Journal of Odonatology, 12: 157-180.


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| トンボ:形態と機能 | COM(0) | | TB(-) |
2015-01-25 (Sun)
「トンボ目に卵胎生?」のタイトルで連続5回アップした記事で引用したHeliocypha perforataの論文の著者名を、誤って紹介していたことに気づきましたので、お詫びして訂正します。

(誤): Salindra, H. G. , Dayanandaa K.  & Kitchingab R. L. 2014

(正): Dayananda, H. G. S. K. & Kitching, R. L. 2014

Salindraは苗字(family name)ではなく、third nameでした。
また、Kitchingのあとのabは所属を示すための上付文字でした。

この訂正記事は、標記の連続記事を既に閲覧された方に向けてのものです。
関連記事(1)~(5)の中の著者名の誤りはすでに訂正しました。


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| 昆虫:発生・生理 | COM(0) | | TB(-) |
2015-01-24 (Sat)
前回まで4回連続の記事でご紹介している、ハナダカトンボ科の1種Heliocypha perforataの雌が幼虫を産み出つけるシーンの動画がインターネット上で公開されています(下記)。

一見の価値あり、です。

卵胎生的豆娘?三斑犀蟌Heliocypha perforata,蜻蜓目的第一例
http://www.guokr.com/post/657428/focus/0124320743/

さて、私のこの目でこの動画を見て思ったことは、この事例をもってHeliocypha perforataが卵胎生をしていると判断するのは少々厳しいのでは、ということです。

この雌は、この動画に写った時間の範囲内で、10回以上産卵動作(産卵管を深々と産卵基質内に差し込む動作)を行っていますが、前幼虫らしきものが産卵孔から泳ぎだすように出てきたのは2回だけです。
それも、通常の産卵孔ではなく、多くの雌に何度も産卵管でつつかれたためか、スリ鉢状に口径の広がった孔(水がたまった「プール」のようになっている)の中から、前幼虫らしきものが泳ぎ出ています。
その直前の産卵動作も少し短時間であるように感じました。

産卵基質(朽木)の量が限られている状況のもとでは、いかにも良質な朽木のある縄ばりに多くの雌が産卵に訪れ(縄ばり主の雄と交尾した後)、次から次へと卵を産み付けるでしょう。
そうなると、朽木の産卵孔の中で(胚の発生を完了し)通常どおり卵から孵化して出た前幼虫が、その孔(とくに、スリバチ状に大きくなった孔)の中にしばらく留まる(というか泳ぎ出るチャンスがなく足止めを食っている)ということは起こり得るでしょう。

この動画の前幼虫は、そのような数日前に産み付けられた(多分、別の雌の)卵から孵化して、そこに留まっていたものだった可能性があるように思います。

もうひとつ、(本種のように、産卵管をもつトンボにとって)卵胎生が厳しいと思われる点は、産卵動作中の産卵管の内部構造が、卵にはOKであっても、前幼虫に対しては破壊的に働く恐れがなきにしもあらず、という点です。
植物組織内産卵をする(つまり産卵管をもつ)トンボの、幼虫の卵は、硬い殻に覆われ、またその全形はたいてい(飲み薬のカプセルのような)細長い球体になっていますので、押しつぶしにも(産卵のための産卵管内部の)摩擦動作にも耐えやすくできています。
それに対して、前幼虫や幼虫は体節があったり、付属肢が出ていたりしています。そのため、前幼虫が、狭い、そして(卵を管の先に送るために)硬い毛の密生した産卵管*の中を通り抜けるのは至難の業かもしれません。

更に、雌の体(交尾嚢)の中で卵が受精してから孵化するまでには、通常1週間以上の日数が必要ですので、雌は交尾嚢の中かそこから産卵管の先端までの間のどこかに少なくとも1週間、受精卵を滞留させておかなければ、あるいは何等かの事故により滞留するということがなければ、産卵動作の時点で前幼虫を産みつけることはできないことになります。

この「妊娠中」にこの成虫雌が事故死でもすれば、せっかくの子どもも無駄になってしまいます。
受精して産卵可能になった卵をなぜすぐに産まないのでしょう?

卵として産み出されるよりも、前幼虫として産み出されたほうが適応的なのは、卵の状態だと(捕食等による)死亡率が非常に高いような特殊な条件の下に限られるだろうと思います。

Heliocypha perforataのこの特異な行動の報告者であるDayananda & Kitching (2014)**も、卵胎生ではない可能性も考察の中で指摘していますので、大胆に卵胎生の可能性を指摘することで、トンボ学の研究者にトンボが産み付けた卵の詳しい状態をより詳細に観察する必要性について注意を喚起するという効果は大きかったと思います。

トンボの卵胎生。初夢としては、なかなかインパクトがありました。

注:
*産卵管の構造・機能については当ブログの以前の記事「アジアイトトンボの産卵」および「トンボの産卵器の構造:植物組織内産卵用」を参照してください。

**Dayananda, H. G. S. K. & Kitching, R. L. 2014: Ovo-viviparity in the Odonata? The case of Heliocypha perforata (Zygoptera: Chlorocyphidae) . International Journal of Odonatology, 17: 181-185.


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2015-01-23 (Fri)
前回の記事の続きです。

Dayananda & Kitching (2014)* が、自分たちが報告したハナダカトンボ科のHeliocypha perforataの単独雌による、前幼虫の産み付けという驚嘆すべき行動について考察した内容の紹介の続きです(青文字部分)。

次の問題は、この卵胎生が種、個体群、個体の各レベルで、どの程度の拡がりをもつかである。
卵胎生は、産み付け間隔が広がるので生涯産仔数の面で卵生よりも明らかに不利である。
アザミウマ目の1種Elaphrothrips tuberculatusでは、雌個体が条件に応じて胎生の仔と卵生の仔を産み分けるが、胎生の仔は数は少ないが、出生後の生存率が高い(Crespi 1989**)。
もしかすると、Heliocypha perforataもこのような条件に応じた産み分けに該当するかもしれない。

今回の卵胎生の観察は1雌の1回きりのものである。
もっとも補助仮説の少ない仮説は卵胎生である。
しかし、別の仮説も成り立つ。
すなわち、(産卵基質の中に)すでに存在していた前幼虫が、産卵動作中のこの雌の腹端にかかずりあったというもの。
もう一つの仮説は、雌が産卵場所に戻り、脱皮中の前幼虫を手伝うというもの。
他にも(もっともらしさは低下するが)仮説はいろいろ考えられる。

いずれにせよ、このような行動の再確認、生殖器官の解剖、親子の遺伝子型の比較(単為生殖の有無)、個体群生態の精査が今後求められる。


トンボの卵胎生を示唆する観察についてDayananda & Kitchingの論文の紹介は以上です。

トンボの卵胎生が確実なものとして報告されたのではなく、その可能性のある行動が観察されたというのが実際のところだといえます。

注:
*Dayananda, H. G. S. K. & Kitching, R. L. 2014: Ovo-viviparity in the Odonata? The case of Heliocypha perforata (Zygoptera: Chlorocyphidae) . International Journal of Odonatology, 17: 181-185.

**Crespi, B. J. 1989. Facultative viviparity in a thrips. Nature 337: 357-358.


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2015-01-22 (Thu)
前々回前回の記事の続きです。

Dayananda & Kitching (2014)* が、自分たちが報告したハナダカトンボ科のHeliocypha perforataの単独雌による、前幼虫の産み付けという驚嘆すべき行動について考察した内容からの紹介です(青文字部分)。

◆昆虫の胎生は三つの形をとる(Gullan & Cranston 2010**):
◇胎盤様の構造から卵が栄養を受け取る(アブラムシ(アリマキ)類、ハサミムシ目の一部、チャタテムシ目の一部、コウモリヤドリバエ科( Polyctenidae))
◇卵は雌の体内で孵化し、雌の生殖管の中で腺に由来する構造物を食する(シラミバエ科(Hippoboscidae))。
◇幼虫は親個体の血液中に孵化し、その栄養で大きく育ち老熟幼虫として(タマバエ科では親を食い尽くして)母体外に現れる(ネジレバネ目、タマバエ科(Cecidomyiidae))

◆昆虫の卵胎生では、卵の状態で母体中に維持され、産卵直前または産卵と同時に幼虫が孵化する(コウチュウ目、ハエ目、アザミウマ目、それぞれの一部)。

トンボの場合、栄養を供給する特殊な構造を欠くので、胎生は該当しない。
したがって、卵胎生のいずれかである。

ここでトンボ目の卵の受精は、産卵直前に未授精卵が交尾嚢を通り抜けるときに生ずることを押えた上で考えると、今回の観察結果は、以下の二つのケースのいずれかに起因するだろう。
1)交尾嚢で受精した卵が雌の体内に残存し産み付けられる前に孵化直前まで発生が進む。
2)単為生殖で、つまり受精なしに、卵が(雌の生殖管の中で)発生を開始し、孵化直前まで進む。

以上の諸形式のうち、単為生殖は、アゾレス諸島のIschnura hastataで実際知られているが、Heliocypha perforataでは次の理由で該当しない。雄が存在していること。雌が卵を産む際には雄の縄ばりの中の産卵基質にアクセスしなければならないこと。


Dayananda & Kitching (2014)の考察はまだ続きますが、残りは次回以降の記事で紹介します。

前回の記事で、動物界全体を見渡した胎生から卵胎生までの間の諸タイプを紹介しましたが、今回記事のものと照らし合わせると、Ischnura hastataは、Ovolarviparity(卵幼虫生【仮訳】)に相当するようです。

また、(一部のタマバエ科昆虫のように)親を内部から食い尽くして母体外に現れるケースは、Histotrophic viviparity(組織栄養性胎生【仮訳】)の高じたもので(兄弟食どころか)「母体食」という、究極の親不孝な生まれ方で、恐るべき進化のいたずらです。
しかし、これも子が母を裏切って母を殺すわけではなく、遺伝子の利己性の原理に忠実に、そのような生まれ方(英語では「生まれる」を、(母親が)産むという動詞の受動態で表現しますが、自分から母親の皮膚を破って出てくる生まれ方は能動態です)を発現する遺伝子(群)が、母親に産み落とされて受動的に生を享けるしかたを発現する遺伝子(群)よりも、適応度が高かったということの中で進化したもの考えられます。
したがって、このように生まれ出る子供たちは母親殺しの罪を背負う必要はないことになります。
あくまでも一部のタマバエ科昆虫の話ですが、進化は平和のもとで暮らしている人々から見てしばしば残酷です。

注:
*Dayananda, H. G. S. K. & Kitching, R. L. 2014: Ovo-viviparity in the Odonata? The case of Heliocypha perforata (Zygoptera: Chlorocyphidae) . International Journal of Odonatology, 17: 181-185.

**Gullan, P.J. & Cranston, P.S. 2010: The Insects: An Outline of Entomology, 5th Edition. Wiley-Blackwell, Oxford.


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2015-01-21 (Wed)
前回記事(ハナダカトンボ科のHeliocypha perforataで観察された、前幼虫の産み付けについての論文*内容の紹介)の続きです。

一口で卵胎生といっても、いろいろなタイプがあり、その卵生あるいは胎生との境界にはグレーゾーンがあるようです。

卵生から胎生までの様々な様態は、動物界全体を見渡して、以下の5つの様式(プラス下位様式2つ)に分類されています**。

Ovuliparity(排卵生【仮訳】): 受精は体外でなされる。もちろん卵生の1様式。 【例:硬骨魚類】
Oviparity(卵生): 体内受精だが、卵黄を有する卵として産み出される。卵生の1様式。【例:鳥類】
Ovo-viviparity(卵胎生):受精卵が母親または父親の体内に温存されるが親からの栄養供給はない。広い意味の卵生に属する。【例:タツノオトシゴ】
 ◇Ovolarviparity(卵幼虫生【仮訳】): 輸卵管中で卵の中の胚は
   第1齢幼虫にまで発達していて、産卵後まもなく、しばしば直後
   に孵化してすぐに幼虫は採餌を開始する***。 【例:ヤドリバエ科の一部】
 ◇Larviparity(幼虫生【仮訳】): 第1齢幼虫は産卵の前に孵化し、
   それが母親によって産み付けられる***。
Histotrophic viviparity(組織栄養性胎生【仮訳】): 接合体(受精卵、幼生など)は母親の輸卵管中で発育するが、その栄養は食卵oophagyまたは“兄弟食” adelphophagyから得る。【例:サンショウウオの1種(Salamandra atra)の子宮内共食い】
Hemotrophic viviparity(血栄養性胎生【仮訳】): 栄養は胎盤。【例:哺乳類、トカゲの1種(Pseudomoia pagenstecheri )】あるいはこの機能に特化した鰓。【例:カエルの1種(Gastrotheca ovifera)】を通して、母親から提供される。

以上が動物界における卵生~胎生のスペクトラムの分類です。

Heliocypha perforataの、今回観察が報告された産み方*は、上の分類のうちの、Ovo-viviparity(そのうちのLarviparity)、Histotrophic viviparityのいずれかが該当しそうです。

著者らはどのように考察しているでしょうか?

それは次回記事で取り上げたいと思います(今回、総論に触れたため、予告よりも1回遅くなりますが)。

注:
*Dayananda, H. G. S. K. & Kitching, R. L. 2014: Ovo-viviparity in the Odonata? The case of Heliocypha perforata (Zygoptera: Chlorocyphidae) . International Journal of Odonatology, 17: 181-185

**Thierry Lodé (2001): Les stratégies de reproduction des animaux (reproduction strategies in animal kingdom). Eds Dunod Sciences, Paris.(requoted from: 'Ovoviviparity' in Wikipedia (English)).(ただし、下位様式の追加は下記2つの論文による)

***Capinera, John L. (2008): Tachinid Flies (Diptera: Tachinidae). Encyclopedia of entomology (2nd ed.). Dordrecht: Springer. pp. 3678–3679.(requoted from: 'Ovoviviparity' in Wikipedia (English))

**** Wiman, N.G. & Jones, V.P. (2012): Influence of oviposition strategy of Nemorilla pyste and Nilea erecta (Diptera: Tachinidae) on parasitoid fertility and host mortality. Biological Control, 64 : 195–202.



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2015-01-20 (Tue)
これまで知られている全てのトンボ目の産卵行動において、メスは幼虫ではなく卵を産み付けます(もしくは産み放します)*【卵生】。

それに対して、アブラムシ(アリマキ)類、ハサミムシ目の一部、チャタテムシ目の一部、コウモリヤドリバエ科( Polyctenidae)およびシラミバエ科(Hippoboscidae)では母体の中で栄養を補給された幼虫が産み付けられる方式【胎生】や、コウチュウ目、ハエ目、アザミウマ目などいくつかの目の中で見られるような、産み付けられる直前または産卵と同時に幼虫が卵から孵化する方式【卵胎生】が昆虫綱の中で知られています*。

ところが、昨年末に驚くべき報告が世界トンボ協会(Worldwide Dragonfly Association 「WDA])の学会誌であるInternational Journal of Odonatologyに発表されました。

それ(Dayananda & Kitching 2014)* によると、ハナダカトンボ科に属するHeliocypha perforata参考画像:外部リンク)の単独♀が、中国のメコン川上流の岸辺の突き出た朽木にとまり、その表面に前幼虫**を産卵管から産み付けました。著者の一人はその状況をビデオに撮影しています。それによると、朽木の表面に産み付けられた前幼虫は最初、泥屑にからまったが、それから離れて水面に向かって這いずっていったということです。

著者たちは、このトンボの産み方「卵胎生」について、興味深い考察をしています。
次回の記事で簡単にご紹介したいと思います。

注:
*Dayananda, H. G. S. K. & Kitching, R. L. 2014: Ovo-viviparity in the Odonata? The case of Heliocypha perforata (Zygoptera: Chlorocyphidae) . International Journal of Odonatology, 17: 181-185.

**前幼虫(prolarva)は、どのトンボの種でも孵化直後の幼虫はヤゴの形というよりもエビのような形をしており、そうして孵化した直後に(あるいは、前幼虫がピンピン跳ねて水中に到着するやいなや)通常のヤゴの形をした第2齢幼虫へと脱皮します。日本のトンボの文献では前幼虫から脱皮したヤゴを第1齢とするのが伝統的でしたが、国際的には前幼虫を第1齢として扱うようになっています。


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2015-01-19 (Mon)
当ブログの記事については、索引を2通り作っています。適宜ご利用ください。

ブログ索引(事項索引)

ブログ索引(トンボ分類順) 

※今後、1,2か月に一度程度のペースで索引の内容を更新する予定です。


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2015-01-15 (Thu)
リュウキュウルリモントンボ*の連結産卵の写真です。

リュウキュウルリモントンボ 連結産卵
 ↑クリックで拡大します。

前回記事の本種♂同様、2010年の5月に沖縄本島北部の渓流で撮影しました。

左の写真は、連結産卵中のペアで、♂(青味の強いほう)は直立不動(といっても、腹部が若干「への字」に曲がっているのが、なんとも健気です)の姿勢(歩哨姿勢)をとって、少し前に自分と交尾したばかりの♀の産卵をガードしています。

この姿勢では、♂は尾部上付属器と尾部下付属器(合わせて4つの「指状」突起をもつ)によって、♀の前胸の背板をがっちり掴んで、その支えだけで、体全体が倒れないようにしています。
♂の尾部付属器をグリップさせる随意筋につながる運動神経では脳からの指令としてのインパルスが流れ続けていると思いたくなります。ちょうど、体操選手が鉄棒を握って逆立ちをしている時のように。

しかし、他のイトトンボで、♀の前胸背板に、胸から前方がちぎれて**どこかにいってしまった♂の腹部がガッチリとくっついたままのものが極く稀ですが見つかることがあります***。

この事実から推理すれば、脳からの指令なしに、尾部付属器は♀の前胸をグリップし続けることができる(場合がある)、という、ちょっと優れたトンボの適応が透けて見えます。
もちろん、グリップを解除する際は♂が脳から指令を発することになります。

右の写真は産卵中の♀のクローズアップです。
考えてみれが、♀は、自分とほぼ同じ体重の♂を自分の首根っこに載せたまま、せっせと卵を産まなければならない状況です。
♀が、かよわい6本の脚で2匹分の体重を支えているというのは、人間でいえば、お姫様だっこの逆(王子様だっこ?)に相当する、いやそれ以上のことですから、ちょっと信じられないほどです。

以前、キタイトトンボの同様の産卵行動を紹介するときに、私は「男はつらいよ」という比喩を使いましたが、ごめんなさい、「女はもっとつらいよ」というべきかもしれません。

アオイトトンボ♀の腹部第9節が樹皮に差し込む産卵管を動かす筋肉を収容しているために肥大化している(母さんの力こぶ)ように、リュウキュウルリモントンボのように、♂が歩哨姿勢をとるトンボの♀の脚の太さ(失礼!)は♂の脚の上を行っているかもしれません。

注:
*本種の形態、♀の二型、分布、系統、学名の由来などについては、前回記事を参照してください。

**ちぎれた原因は九分九厘、捕食者による捕食でしょう。いずれにせよ、ちぎれて半分になった♂は命を落とすことになりますが、♀の前胸は「貞操帯」(死語かな?)的機能(別の♂との交尾を機械的方式で阻止する機能)のある自分の後半身を固着させたままになりますから、生き残ったこの♀が今後産む卵は、ちぎれた♂の精子だけ(もしあれば、それよりも前に交尾した別の精子も)が使われますから、♂は自分の子孫を残すという目的を、見た感じとは比べるべくないほど大きく、達成することになるでしょう。

***私も大学院でトンボの研究を始めたばかりの年に、札幌市南郊の沼でイトトンボ(たしか、エゾイトトンボ)の同様の♀を採集したことがあります。採集した時点では、胸の前方背部からもう1本の腹部が「生えて」いる、つまり双頭ならぬ双腹の個体かと、驚きました。これは、その後、実体顕微鏡で仔細に観察することで、タンデム連結した♂の腹がちぎれて残っているだけだということで一件落着しました。


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| トンボ:生態写真 | COM(0) | | TB(-) |
2015-01-09 (Fri)
私のお気に入りのトンボの一つ、リュウキュウルリモントンボCoeliccia ryukyuensis*の♂です。

リュウキュウルリモントンボ ♂
  ↑クリックで拡大します。

2010年5月、前回記事と同じ、沖縄本島北部の山地(やんばる)への短期調査旅行の際に、西海岸に注ぐ小さな川の上流部の、岩の多い谷斜面の浅い水たまりの近くで撮影したものです。

この時は、交尾・産卵も観察することができ、夢中でシャッターを押しました。

樹陰のサンスポットの中で、リュウキュウルリモントンボ♂の複眼は、サファイアのような輝きを放っていました。

腹部は漆黒の背面と腹端部(腹部第9、10節)のオレンジ色が鮮やかなコントラストを作り出しています。
また、♂の胸部(翅胸**)前面は黒の地色の中に、青い楕円形のスポット斑紋が対をなしていて、愛らし感じがします。

♀の色は、ふつう胸部側面が♂のように鮮やかな青色ではなく、黄色味が強く、腹部の色彩のコントラストも不鮮明で、他の多くのトンボの種同様、♂の引き立て役に徹しています。

ただし、♂と同様の色彩をした♀の型も存在していることが知られています(♀の二型)。

すでに交尾を済ませていて体内(交尾嚢、受精嚢)に十分な精子を保有している♀にとって、自分の体の色を♂と同じ色彩をすることによって***、それを見た♂が性識別を誤り、その結果♂による交尾の試みが減少することが期待できます。
これにより、産卵や摂食のための貴重な時間を削がれることが軽減されるでしょう。

その一方で、鳥や大型トンボなどの捕食者に目立ちやすくなることから死亡率が高くなることも十分考えられます。
それ以外にも、他の♂から♂として扱われ、恋敵として、♀がやってきそうな場所(産卵場所)から追い払われるおそれもあります。

このハムレット的な状況「男装すべきか、せずべきか、それが問題だ」から抜け出す鍵となり、個体群の中での♀型♀と♂型♀の個体数の比率を決めているのは、その生息地の環境だと思われます。

捕食者が多い場所、捕食者に目立ちやすい場所では♀型♀が多く、そうでない場所では♂型♀が多いというのが、もっともらしい仮説といえます。
実際はどうなのでしょう?
♀の二型が見られる個体群で、捕食者密度やこのトンボの産卵場所、摂食場所の覆いを実験的に操作して、♂型♀、♀型♀それぞれの産卵時間、被食頻度などのデータを採って比較・解析すればわかるかもしれません。

東南アジア、東アジアの熱帯林、亜熱帯林を中心に分布するルリモントンボ属の中にはレッドリストに掲載されている種も少なくなく、森林伐採や渓流の破壊で絶滅していくおそれがあります。
生物多様性、生息地保全の取り組みをサポートしていかなければ、このような自然史の謎を解いていくことも叶わなくなりかねません。

     *         *

本種が属する、モノサシトンボ科は、鉄アレイのような形をした頭部が左右にさらに伸びて、複眼間の距離が長いのが一つの特徴です。本科に属する、モノサシトンボ(後日、記事にします)では、腹部の節の後端近くに淡色の斑紋があるところが、物差しに似ていることから、この和名が付けられました。

モノサシトンボ科は、系統分類的にはイトトンボ科ともっとも近縁で、均翅亜目の中では進化史の中で比較的新しい系統に属します
(以前の記事「トンボ目の系統樹」を参照)。

注:
*リュウキュウルリモントンボは日本固有種で、沖縄本島とその付属島、そして奄美諸島に分布します。奄美諸島のものは別亜種として記載されています。
従来、別亜種には別の和名が付けられていましたが、最新のトンボ図鑑『日本のトンボ』(尾園、川島、二橋:文一総合出版)では亜種和名を採用していません。
そうすることで、一つの和名は一つの種を表すことが徹底されますので、私もそれに準拠することにしています。
属名Coelicciaの語源についてですが、ラテン語のcoelicus (caelicus) には「天上の」「神の」という意味がありますので、この属のトンボ成虫がもつ神々しい輝きに魅せられたWilliam Forsell Kirbyがこの学名をつけたのかもしれません。
種小名、ryukyuensisは「琉球の」という意味です。ラテン語の接尾語 ensis は地域名につけると「~の」、「~からの」という形容詞になります(中性名詞を形容する場合は-ense)。

**トンボの胸部は(昆虫の基本通り)前胸、中胸、後胸の3節から成っていますが、前脚のついている前胸は極端に縮小しています。それぞれ一対の翅と脚がついている中胸、後胸は合体して大きな「翅胸」を形成しています。

***この文章では、♀個体が自分の意思で、ある目的を持って、自分の体色を変更するような書き方をしていますが、実際は突然変異でそのような体色の変異が生じ、その変異した遺伝子を持っている個体が次世代を多く残すことにより、(広い意味の)自然淘汰を受け、その形質が個体群の中で広がっていくプロセスのことを(目的を予測し、意図的に行動を選択する、種ヒト)の個体に模して表現したものです。


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