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2016-06-23 (Thu)
今年の5月中旬に静岡県磐田市の鶴ケ池を訪れ、トンボの生息地としての現況の一端を見てきました。

少し前の記事「ベッコウトンボ、桶ケ谷沼に在り:保全活動に守られて(1)」では、同じ磐田市にある桶ケ谷沼とそこで見られたトンボを取り上げました。
今回記事の鶴ケ池と桶ケ谷沼とは馬の背状の丘一つで隔てられただけの位置にあり、形も大きさもよく似た、いわば姉妹沼の関係にあります。

鶴ケ池の南東角の岸辺には、大きな案内看板(下の写真)があり、大きく描かれたマップから池の水面の配置や観察路の様子を知ることができます。

鶴ケ池(1)
(写真は、クリックで拡大します)

観察路のうち、南西角の部分は水面を上から見おろすことができる小橋状になっていて、睡蓮などの浮葉植物の群落やそこにいる虫たちの姿を楽しむことができます(下の写真)。

鶴ケ池(2)

桶ケ谷沼のビジターセンターの展示資料には、鶴ケ池のこのあたりではベッコウトンボがよく観察できたことを示すマップがありましたので、今回、私も大いに期待したのですが、ベッコウトンボの姿はありませんでした。

観察路をさらに進むと森林地帯へ入っていきますが、ほとんどいつも右手には鶴が池が見えていて、いつベッコウトンボが視線をかすめるかという期待感を持たせ続けてくれます(下の写真)。

鶴ケ池(3)

(それに対して、桶ケ谷沼では、池を巡る一般利用者用の観察路は途中から林の中にはいり、沼そのもの、とくに開放水面を観察しやすい場所はかなり限られています。観察路にはフェンスやロープが設置され、許可なく立ち入ることは禁止されています。)

鶴ケ池の北東岸からはビッシリと茂ったイグサ類の群落がひろがっています(下の写真)。

鶴ケ池(4)

下の写真は、池をほぼ一周した、東岸の南端部付近からの水面です。

鶴ケ池(5)

結局、池を一周する間に、クロイトトンボ、クロスジギンヤンマ、ヨツボシトンボはカメラに収めることができましたが、ベッコウトンボは最後まで姿をあらわしませんでした。

下の写真は、もっとも個体数の多かったクロイトトンボParacercion calamorum (Ris, 1916)です。連結態がコウホネの葉の上で休んでいるところです。産卵のための場所移動の途中なのでしょう。

クロイトトンボ、鶴ケ池

ある筋からの情報では、今年も鶴ケ池でベッコウトンボは観察例があるとのことで、タイミングさえよければ桶ケ谷沼よりも好条件で生態写真が撮影できる環境であるといえそうです。

鶴ケ池には、興味深い伝説が語り継がれています。トンボとは直接関係のない内容ですが、近いうちに取り上げたいと思います。

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2016-06-22 (Wed)
四国、高知県の四万十トンボ王国を視察してきました。

近日中に、王国内および四国西部で撮影したトンボ写真を添えて、視察レポートをアップします。

なお、速報として、「トンボ自然史研究所」のフェイスブックで写真8枚を掲載しています。
フェイスブック・アカウントをお持ちの方ならどなたでもご覧いただけます。

当ブログではトンボの生態・行動・進化・保全などについての300件近くの記事をご覧いただけます。

過去記事については、左欄の「最新記事」あるいは「カテゴリー」をクリックされるか、検索欄にトンボの種名あるいは用語を入力して関心のある記事をお探しください。


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2016-06-01 (Wed)
A review on the life history of Sympetrum frequens in Hokkaido, Japan, written by me appeared in the current issue of the Journal of the Japanese Society for Odonatology, "Tombo".

The review was written in Japanese but English translation of the summary, the captions of the figures and appendix was added.


TOMBO, 58: 1-26. 20 May, 2016

Life history of Sympetrum frequens (Selys, 1883) in Hokkaido:
are migration and reproductive diapause involved?

Hidenori Ubukata


Summary:
Life history events and spatio-temporal distribution of the imagines of Sympetrum frequens (Selys, 1883) in Hokkaido were reviewed and the possibilities of adopting (1) migration between lowland larval habitats and cooler mountainous areas and (2) reproductive diapause were discussed for Hokkaido population.

Emergence began in late June in the district where air temperature sometimes exceeded 30°C even in May (i.e., Abashiri District) or in early August in the district with a cool spring (Nemuro District).

Precocious adults showed reproductive behavior as early as late July (estimated to be ca. 20 days after emergence), and mass engagements in tandem flight began from late August until early September (estimated to be 40–50 days after emergence) in Ishikari and nearby districts.

Individuals performing such a synchronous reproductive behavior 20 days or more after the dates of the earliest reproductive behavior might have undergone reproductive diapause, which could afford a safeguard for avoiding loss from part of their eggs hatching before winter.

Many imagines, mostly immature adults, were observed at 400–2,100 m alt. on Mt. Daisetsu during July and early August.

They were likely to be those which had emerged from paddy fields, ponds, etc. on the Kamikawa Basin and had flown toward the upper reaches of the mountainous area because the ponds at 1,300–1,700 m alt. were in a condition just after the snow thaws, which should have prevented the larvae from growing and becoming imagines before early August.

Actually, no larva of this species was captured during surveys made at various ponds at 1,300–1,700 m alt. in July.

Most of the populations emerged on the plains in central Hokkaido was likely to migrate or to move toward mountainous areas and then to fly further toward the upper reaches.

But the portion of the Hokkaido population that remained on the plains without migrating to mountains were likely to be much higher than those of the central Honshu populations.

As Uéda (1995) predicted, the altitudinal zones utilized by the Hokkaido populations during hot summers were much lower than those of central Honshu, having had no altitudinal gap with the subpopulations remaining on the lowlands.

Nevertheless, part of the Hokkaido population is likely to migrate as a habit, if the following observations by Wataji et al. (1997b) in Sapporo city are taken into consideration: at least some imagines of S. frequens tended to perch high in the tree canopy around the emergence site on the lowland during the first few days after emergence and then fly rather steadily towards distant mountainous areas.

This habit is likely to be an adaptation for long distance (e.g., 10 km) migration across the plain towards mountain areas.

Actually Wataji et al. caught several individuals out of several thousands that had been marked at an emergence site, in the middle of the Ishikari Plain.

Finally, genetic traits of reproductive diapause and migration were discussed in the context of adjustments responding to climate and seasonality, followed by speculation on the evolutionary processes of these traits in Hokkaido.




PDF reprint is available upon request.
Please contact:
info.idnh [[at]] gmail.com




同じ内容の日本語の記事はこちらです。


| トンボ:生態と行動 | COM(0) | | TB(-) |
2016-06-01 (Wed)
このたび、私の執筆したアキアカネの生活史に関する総説が日本トンボ学会の会誌「TOMBO」に掲載されました。

以下に、その表題と要旨をご紹介します。



TOMBO, 58: 1-26. 20 May, 2016

北海道におけるアキアカネの生活史
 −長距離移動と生殖休眠はあるか?−

        生方 秀紀


Life history of Sympetrum frequens (Selys, 1883) in Hokkaido:
are migration and reproductive diapause involved?

Hidenori Ubukata



摘要:
 北海道におけるアキアカネSympetrum frequens (Selys, 1883)の生活史の地域間の比較および長距離移動・生殖休眠の存否の 検討を目的に,成虫の羽化から没姿までの生活史イベントについての文献記録および未発表の調査データを収集・整理し,分析・ 考察を行った。

平地における羽化開始期はオホーツク沿海部(網走支庁)で6月下旬,道央で7月中旬,道東太平洋沿海部で8月上旬であり,春先の気温に対応した地域差が見られた。羽化最盛期は,道央で7月中~下旬,道東内陸で8月上旬であった。

生殖行動の初見日は7月下旬(道央:札幌)~8月下旬(道東:釧路地方)であり,多数の連結個体が観察される時期は8月下旬~9月上旬(道央:石狩・空知),10月上旬(道東:釧路)であった。石狩・空知で,7月下旬に産卵するのは前生殖期が20日前後の早熟個体,8月下旬以降大挙して産卵するのは前生殖期が40~50日の遅熟個体であると考えられる。

札幌産のアキアカネの卵の孵化日数の頻度分布(Takashima & Nakamura, 2014)と水田地帯の水温の推移データとを照合すると,空知で8月 初めに産卵した場合はその一部が冬前に孵化する危険性が浮上する。このことから,この地域で大多数を占める遅熟個体は8月の盛夏期に生殖休眠をしている可能性がある。

大雪山の山岳地帯(標高400~2,100 m)で,7月には前生殖期の段階にある成虫が多数観察され,8月にはそれらに交尾・産卵をする個体も混じって観察される。6~7月の高地の沼地周辺での残雪の状況,およびそこで幼虫・羽化殻・羽化直後個体が採集されていない事実に着目すれば,観察された成虫の大部分は平地で羽化した個体が移動してきたものである可能性が高い。

これらとは別に,9月中旬以降に高地で羽化する個体も確認されており,高所個体群が別途成立している可能性も残される。

石狩・空知地方では,8月上旬から下旬にかけて成虫の観察例が平地で激減する一方で, 丘陵地~山岳地帯で数多く観察されるようになる。ただしこの期間中に平地で成虫が観察される事例も少なくない。

上田(1995)が予測した通り,北海道では山地に登っている個体と平地や丘陵地に残留している個体の分布に標高上のギャップは見出されなかった。

綿路ら(1997b)は,札幌北部の沼で16,000頭余の羽化成虫にマークをつけて放し,それらのうちの数個体を10 kmほど離れた丘陵地・低山地の麓で再発見している。綿路らは,この移動の際,アキアカネが羽化地点の近くの樹林で静止高度を上げて方向を定め,平野の彼方にある山地方向を目指して一気に飛び立つのも観察している。

これらの観察から,北海道でも夏の最高気温が高い空知・石狩中北部・上川では,長距離移動が習性として成立している可能性を指摘できる。

最後に,生殖休眠と長距離移動の遺伝的性質や気候・季節に応じた調節について,またこれらの特性の北海道における進化について考察を加える。

Key words: アキアカネ,Sympetrum frequens,生活史,長距離移動,休眠,北海道



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