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2016-08-23 (Tue)
今年5月中旬、岐阜県の丘陵地帯でのトンボ探訪では、ムカシヤンマ、アサヒナカワトンボ、タベサナエ、アオサナエと豪華メンバーと初対面が続き(前回までのシリーズ記事参照)、私の運も使い果たしたのではと思い出した矢先、見たことのないサナエトンボが目にとまりました。

小川の湿った河原の苔むした石の上に中型のサナエトンボがとまっています。

カメラを構え、撮ってはそーっと近づきを繰りかえしながら画面一杯ちかくになるまで歩み寄ります。
その中のベストショットが写真1です。

ヤマサナエ♀(1)160513
写真1.ヤマサナエAsiagomphus melaenops (Selys, 1854)♀、(1)。 (クリックで拡大)

翅胸部の黄色と黒の縞模様が印象的です。

帰宅後、拡大画像と図鑑を照合した結果、この♀個体は、翅胸側面の黒色紋が2本あり、翅胸前面の黄色のL字型斑紋が中太の状態で折れていること、産卵弁が短いため腹部を側面から見た場合に見えないことから、ヤマサナエAsiagomphus melaenops *(Selys, 1854)であることが判明しました。

(*属の学名Asiagomphusは、「アジアのサナエトンボ」、種小名のmelaeno「黒い」+ops「眼」を意味します。しかし、その割に生体の眼は黒くありません。標本の眼であれば、黒っぽくなってもおかしくありませんので、命名者のSelysがその色からつけたとも考えられますが、それもあまり考えにくいです。浜田・井上(1985)ではopsを頭部を意味するとしています。私にはこれもしっくり来ませんので宿題とします。)

  → 追記(2016年9月18日):この宿題は片付けました。こちらの記事参照。結論を言えば、opsには「眼」という意味に加えて「顔」という意味があることが分かりました。したがって、ヤマサナエの学名の種小名の意味は「黒い顔」となります。

同属種の中ではキイロサナエAsiagomphus pryeri (Selys, 1883)によく似ていますが、キイロサナエでは翅胸前面の黄色のL字型斑紋がくびれた状態で折れていること、♀の産卵弁が長いため腹部側面からもよく見えると、図鑑(尾園、2012)に書かれています。

近縁の別な属の一員であるミヤマサナエAnisogomphus maacki (Selys, 1872)は、和名も似ていますが、ヤマサナエと形態も似ています。ただし、ミヤマサナエの後脚には小さい棘のような毛が列生し、腹部第8節背板側面には多きな黄色斑紋があります(ヤマサナエではそうなっていない)。

写真2は、同じ個体を写真1を撮る少し前に撮ったものですが、頭部が前方斜め左上を向いていていてユーモラスな雰囲気が出ていますので掲載しました。

ヤマサナエ♀(2)160513
写真2.ヤマサナエAsiagomphus melaenops ♀、(2)。 (クリックで拡大)

おそらく、その方向に小さな虫でも通りかかったのでしょう。
この頭部の位置取りは、胸部・腹部にくらべて頭部がバランス的に小さいことが強調されるだけでなく、顎が大きい割に、頭部上半分が前後に圧平された形であることを気づかせてくれます。

頭部上半分は脊椎動物でいえば大脳にあたる中枢神経が収められている場所ですから、このトンボの行動統御機能はよほど高機能な神経ネットワークで担われているか、それとも行動そのものがシンプルになっていて、特に高機能化していなくとも処理しきれているかのいずれかではないか、などと私は想像をたくましくしてしまいます。

おそらく後者ではないか、と考えてしまう私はサナエトンボに偏見を持っているのかもしれません。
今後の神経機能のと行動能力を結び付けた研究の進展に審判をゆだねたいと思います。

この♀を観察・撮影した場所から移動した、池のようになっている場所の草の上で、今度はヤマサナエの♂を発見し、撮影しました(写真3)。

ヤマサナエ♂160513
写真3.ヤマサナエAsiagomphus melaenops ♂。 (クリックで拡大)

これも帰宅後、図鑑と照合し、確実に同定することができました。

翅胸前面の黄色のL字型斑紋の折れ曲がり部分の形状および、尾部上付属器が下付属器とほぼ同長(キイロサナエ♂では尾部上付属器が下付属器よりも短い)である点が決め手になりました。

この♂、腹部の第4~6節とその前後がバットの握りのように絞れていてスマートです。
しかし、草の葉の上に体をあずけるように体軸を後方に傾けた状態でとまっていて、精悍さがあまり感じられません。

それもそのはず、この♂はまだ未熟だったのです。
というのも、複眼の色が一部茶色がかった灰色で、輝きがあまりありません。
成熟した個体の複眼は緑色を帯びて、生き生きとした輝きをはなっていまる(生態図鑑等の写真参照)。

この♂が沢山餌をたべて「成人」の体になり、軽快に婚活に精を出している姿を見たいものですが、埼玉県の自宅からここまで再訪するとなると大事です。
来年以降も、各地でトンボの観察を予定していますので、どこか別の所で再会できることを楽しみにしています。

引用文献:
浜田 康・井上 清 (1985) 日本産トンボ大図鑑。講談社。
尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012 )日本のトンボ。 文一総合出版。

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2016-08-22 (Mon)
今年5月中旬、岐阜県の丘陵地帯でのトンボ探訪では、アオサナエNihonogomphus viridis Oguma, 1926を見ることもできました。

前回記事でご紹介したハラビロトンボを観察した後、シオヤトンボ、タベサナエ(いずれも数回前の記事で紹介済み)など2・3種のトンボの観察・撮影を挟み、オープンな環境の中を流れる小川でアオサナエを見つけました(写真1)。

アオサナエ♂(3)160513
写真1.アオサナエNihonogomphus viridis

少し大きな岩のてっぺんにとまり、4,50センチメートル下の水面付近をじっと睨みつけるような姿勢をとっています。

以前の記事にも書いたように、数年前まで北海道に住んでいた私は2、3種を除いてサナエトンボ科の種を直接観察する機会があまりありませんでした。

その私の眼には、大型で黒地に緑がかった黄色斑紋が浮き立つ、このアオサナエの姿(写真2)はとても新鮮に映りました。

アオサナエ♂(2)160513
写真2.アオサナエNihonogomphus viridis

この日は陽射しが強かったので、この♂は太陽に向かって腹部挙上姿勢をとり、体温のオーバーヒートを避ける、いわゆるオベリスク姿勢*をとっているようにも見えました。

(*オベリスク姿勢につては過去記事:「炎天の猛暑日、チョウトンボの対処法」、「アキアカネ♂」、「リスアカネ♂」に他種の例を写真付きで紹介しています。)

しかしながら、上にも述べたように、数十センチメートル下の水面上に現れる同種♂・♀を発見し、飛び立って対処するためには、この角度で見下ろすことが必要であることに気付きました。

写真3をご覧下さい。
この個体が頭部を背面方向(上方)に向けて、少し窮屈な姿勢をとっています。
少しユーモラスですね。思わず笑ってしまいそうです。

アオサナエ♂(1)160513
写真3.アオサナエNihonogomphus viridis

どうやら、斜め上方から見おろすようにこのトンボを撮影していた私が気になって、こちらの様子を伺っているようです。

このトンボの腹部挙上の角度は写真2のよりも写真3のほうが少し低くなっていることが、石の表面にできた影の先端の位置で判定できるますので、腹部挙上して頭部が下がるため、頭部と岩の表面の接触をさけるために頭部を持ち上げたのではなさそうです。

話は変わりますが、私がアオサナエで気にいった点がほかにもあります。

それは、腹部先端近くが棍棒のように左右に拡がっていることと、尾部上付属器が大きく、またその先が直角に曲がっていて、左右の上付属器と組んできれいな長方形を形作るところです。

腹部先端近くが棍棒のように先太りなるのはサナエトンボ科の種にしばしば見られる特徴で、英語でこの科のトンボがclubtail dragonfliesと呼ばれる由縁です。

♂同士の比較において、アオサナエは、メガネサナエ属3種(オオサカサナエStylurus annulatus (Djakonov, 1926)、メガネサナエS. oculatus (Asahina, 1949)、ナゴヤサナエS. nagoyanus Asahina, 1951)を別格として、ミヤマサナエAnisogomphus maacki (Selys, 1872)に続く立派さの棍棒型の腹部を持っているといえます。

さて、アオサナエの学名のうち、属名Nihonogomphusは、Nihono「日本の」+gomphus「ノブ状の先を持つ棒、ヘラ(サナエトンボの基本的属名」を意味します。種小名のviridisは、「緑」を意味します。

アオサナエの場合、アオといっても、ブルーではなく、グリーン。道路の信号のアオと一緒です。
ついでに言えば、アオイトトンボのアオもグリーンです。
そんなわけで、日本の場合ブルーのイトトンボを見て「アオイトトンボだ」と口に出すと、ブザーがなりかねません(笑)。
「ルリイトトンボだ」といえば、正解になる確率があります。

話を戻します。Nihonogomphusは、後に北海道帝国大学の教授となる小熊 捍(おぐま まもる、1886年8月24日 - 1971年9月10日)が1926年アオサナエの新種記載をする際に新属・新種として扱い、属の記載も行ったものです。

90年後の現在でも独立属として認められていますので(World List of Odonata)、その後細胞学・遺伝学の分野で大きな業績を上げ、国立遺伝学研究所長まで務めたこの学者の昆虫分類学者としての眼力も鋭かったことになります。

ちなみに、私が北大理学部で動物学を専攻した際の教授陣の中には、理学部創立時に農学部から移動した小熊教授のもとで助教授を務められ、薫陶を受けられた定年直前牧野佐二郎先生もおられ、元気なお声での講義を聞かせていただきました。

「小熊捍」と入力してネット検索すると、Wikipediaのほかに、「旧小熊邸」の写真がヒットしました(下の写真)。

旧小熊邸-Wikimedia
旧小熊邸(出典:禁樹なずな - https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/14/Lloyd%27s_Coffee_Former_Oguma%27s_House.JPG/800px-Lloyd%27s_Coffee_Former_Oguma%27s_House.JPG

旧小熊邸は、移築されたものですが、帝国ホテルを設計したフランク・ロイド・ライトの弟子であった田上義也が1929年(昭和4年)に設計したとされ(Wikipedia:「小熊捍」)、大きな5角形の欄間窓や暖炉もあると思われる集合煙突、屋根の意匠、豪雪地帯に対応した基礎回りなどが印象的です。

今度札幌に行く機会があったら、この邸宅の内外をじっくりと見てみたいものです。

最後はちょっと横道に反れてしまいました。

次回も引き続き、トンボ探訪記からの紹介記事となります。


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2016-08-21 (Sun)
今年5月中旬、岐阜県の丘陵地帯でのトンボ探訪では、ハラビロトンボLyriothemis pachygastra (Selys, 1878)を見ることもできました。

ハラビロトンボは、以前、私が住んでいた北海道では絶滅危惧種に指定されているほどに稀少な種であったこともあり、これまでの私にはあまりなじみのない種でした。

本州での出張調査時に、休耕田のような場所で見かけたことはありましたが、生態写真を撮る機会はありませんでした。

今回、アサヒナカワトンボを観察したその足で、少し離れた小さな池や小川のほとりを通った際に、そこに繁茂する抽水植物の葉にとまったり飛び立ったりしていた、ハラビロトンボの小ささと黒づくめのスタイルを目にした時には(写真1)、自分がおとぎの国に来たかのような錯覚に襲われました(ちょっと大げさ?)。

ハラビロトンボ♂(1)160513
写真1.ハラビロトンボLyriothemis pachygastra

名前が名前だけに、腹部は横幅が大きく*、平べったい形をしていて、どこか愛らしい雰囲気を醸し出しています。

(*ハラビロトンボの学名の種小名pachygastraのpachyは厚い、太いを、gastraは腹、胴、胃を意味しています。ついでに言えば、属名LyriothemisのLyrioは竪琴、themisはギリシア神話の法・掟の女神テミスを意味しています。)

また、小型(平均体長でシオカラトンボよりも1.5センチメートルほど小さい)であるだけに、翅の網目(翅脈)の横脈数が全般に少なく、シンプルになっています。

写真2は同じ個体(♂)を横から見たところですが、腹部の横幅の割には背腹の厚さがないことがわかります。

よく見ると脚は2対しか草に着けておらず、前肢は折り畳んで、頭部と翅胸部の間のすきまの位置に立てられています。

ものにとまる時はいつでもそうしているかといえば、そうではなく、写真1では前脚も下方(背腹でいえば腹側)に伸ばしていて、左前肢は草の葉に爪をたてています。

ハラビロトンボ♂(2)160513
写真2.ハラビロトンボLyriothemis pachygastra

写真3は、写真1,2のすぐ近くで撮った別の♂個体です。

ハラビロトンボ♂(3)160513
写真3.ハラビロトンボLyriothemis pachygastra

写真1,2の♂の腹部が黒っぽいのに対して、写真3の♂では腹部に成熟のシンボルとなる、青白い「白粉*」が吹いていることがわかります。

(*トンボの成熟に伴う「白粉」の成分とその生態学的意義については、このブログの「シオヤトンボ:男たちの厚化粧」と題した記事で簡単にご紹介しています。)

実は、写真1の♂のように「白粉」が吹く前のこの黒っぽい色の腹部も、この♂がすでにかなり成熟していることを示しています。

なぜかといえば、羽化後間もない未熟な♂の腹部、翅胸部は、黄褐色の地に黒い斑紋があるだけで、写真1の♂とは色彩的には似ても似つきません。

♀は成熟しても、未熟な♂同様、黄色系に黒斑というファッションのままです。
その点、シオカラトンボの♀の俗称である「ムギワラトンボ」とスタンスがよく似ています。

黄色に黒斑の♂、♀は今回は撮影できませんでしたので、後日、機会があればご紹介したいと思います。


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2016-08-20 (Sat)
シリーズでご紹介している、今年5月中旬、岐阜県の丘陵地帯でのアサヒナカワトンボMnais pruinosa Selys 1853の姿と振舞いについての観察記、最終回の今回は産卵警護行動です。

2回前の記事でも書いたように、アサヒナカワトンボを初めて見た落葉広葉樹林の小さな谷の幅1メートル程度の細流沿いでの観察・撮影を終え、平坦で日当たりのよい細流に戻ると、そこには、お互いに追い合いをしたりしているアサヒナカワトンボの無色透明翅型♂数頭を目にしました。

アサヒナカワトンボの無色透明翅型♂は同じゾーンでなわばり占有をしようとしているニホンカワトンボの橙色翅型♂に対して対等に、時には対等以上に、占有権を主張する空中戦で争っていました。

このように、なわばり争いたけなわな、このゾーンで産卵中の♀を、近くの石の上にとまって見守るアサヒナカワトンボの♂を見つけました(写真1)。

アサヒナカワトンボ産卵警護(1)
写真1.アサヒナカワトンボMnais pruinosa、産卵警護(1) (クリックで拡大)

♀は流水中の石の間から伸びている細いイグサの類の根元近くの植物質の中に卵を産もうとしているように見えます。
♂は、その数センチメートル上流の石の表面にとまり、♀を上から目線で見守っています。
♂のとまってる部分は水面すれすれで、中脚と前肢は浅く水に浸っています。

この見守りは典型的な産卵警護行動で、なわばり内にやってきた♀をなわばり占有♂が捕捉して交尾し、そのなわばり内の産卵基質に産卵するその♀を他の♂による連れ去りを防ぐ機能を持ちます。

もし、警護をしないと、別の♂に♀を連れ去られ、その別の♂が交尾して、その♀の受精嚢・交尾嚢中の精子を大部分入れ替えられてしまいます。
そうなると、せっかく交尾したのに、♀が産む卵の大部分は別の♂の精子で受精したものになってしまいます。

さて、写真1のシーンに戻ります。

まもなく、この♀がちょっと飛び立って、少し場所を替えました。
すると、この♂が飛び立って上空でホバリングしながら♀の様子を伺う様子を見せました(写真2)。

アサヒナカワトンボ産卵警護(2)
写真2.アサヒナカワトンボMnais pruinosa 産卵警護(2) (クリックで拡大)

♀は、ふたたび飛び立って、少し川下側に移動し、同じ種の植物の別の叢生にとまり、そこで産卵動作を始めました(写真3)。

アサヒナカワトンボ産卵警護(3)
写真3.アサヒナカワトンボMnais pruinosa 産卵警護(3) (クリックで拡大)

もちろん、♂も追随し、その産卵スポットを見下ろせる位置に倒れかかっている草の先にとまりました(写真3)。

ですが、その草先という足場が不安定だったと見えて、すぐにその場を離れ、♀の産卵スポットのすぐ横にある石の上にとまりました(写真4)。

アサヒナカワトンボ産卵警護(4)
写真4.アサヒナカワトンボMnais pruinosa 産卵警護(4) (クリックで拡大)

なんと、産卵♀が自分の斜め後ろになるような位置・体の向きでとまりました。
もしこのトンボが私なら、まっすぐこの♀のほうを向き、他の♂にこの♀が連れ去られないように監視したでしょうが。。

おそらく、この♂の視界には♀の姿ははいっているでしょうし、真後ろから水面すれすれに近づかない限り、他の♂が上空から接近するのは見えているだろうと思いますので、監視のミッションはこの位置取り・体の向きでも果たせるのかもしれません。

そして、なわばり♂には、交尾した♀の警護だけでなく、第二、第三の♀がやってきたら彼女らと交尾し、産卵させる(生方、1977)というミッションがありますし、多方面からやってくる♂を追い払うことはルーティンの仕事ともなっています。

それを考えると、♀を横目に川下方向を向いて監視しているのも、あながち下手なやり方ではないのかもしれません。

このペアのこの後の行動も気になるところですが、今回は他にも観察したいトンボがまだまだありましたので、このなわばり地帯を後にして、再び探索モードになって、歩を前に進めるのでした。

次回以降も、引き続き、この調査場所で出会ったトンボについての記事を書く予定です。

引用文献:
生方秀紀(1977) なわばりあらそい。アニマ 1977年7月号: 24-29。

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2016-08-19 (Fri)
前々回の記事に書いたように、今年5月中旬、岐阜県の丘陵地帯でアサヒナカワトンボに初めて出会いました。

落葉広葉樹林の小さな谷の幅1メートル程度の細流沿いを歩いていると、低木の地上1、2メートル程度の高さの枝葉にとまったり、そこから飛び立つ、無色透明の翅をしたカワトンボ属の姿が目にはいりました(写真1、再掲)。

アサヒナカワトンボMnais pruinosa Selys 1853の♂です。

アサヒナカワトンボ♂(1)160513
写真1.アサヒナカワトンボMnais pruinosa (再掲) (クリックで拡大)

木漏れ日を浴びながら低木の葉の上にとまり、ピンと伸ばした腹部や「中腰」の姿勢を産み出す脚部の構えは「いつでも飛び立てるぞ」とつぶやいているかのようです。

実際、この樹林内の細流沿いの高さ1~2メートルあたりで、アサヒナカワトンボ無色透明翅型♂同士の追い合いを目にしました(午前9時38分)。

この追い合いは、なわばり防衛のためではなさそうです。
というのも、なわばり防衛のためであれば、追い合いをした後、水面近くのとまり場(すぐ近くに産卵に適したポイントがある)に戻るのが通例ですので。

通常、このような場所では採餌行動が行われることが多いのですが、トンボの姿を求めて歩き続けた私の視界の中では採餌行動(この場合、飛び立って小昆虫を捕えて戻り、葉にとまる)は確認できませんでした。

その代わりといってはなんですが(笑)、低木の葉の上にとまっているアサヒナカワトンボ♂の身づくろい行動を観察・撮影することができました(写真2~9)。

写真2~9は同一個体ですが、写真1とは別個体です。

トンボの身づくろい行動については、オツネントンボについて、「オツネントンボ♀(2):貴婦人の身づくろい」という記事ですでに取り上げていますが、何度見ても飽きさせない、どことなくユーモラスな動作からなりたっています。

まず写真2をご覧ください。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、連続1
写真2.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(1) (クリックで拡大)

写真2:
撮影時刻順に配列していますが、カットとカットの間に腹部の上下動が何回か行われていたケースもあります。以下同様。

左上:身づくろいをした♂です。この時点ではただとまっているだけです。

左中:腹部をカーブさせながら上下させ、翅と腹部のこすりあわせを開始しました。この時点で翅が互いに少しずつ離れて、腹部とのこすりあわせに備えていることがわかります。

左下:腹部上下運動で、腹部が一番下まで下がった瞬間です。

右上:腹部上下運動です。このカットでは、腹部が観察者から見てすべての翅の手前にきていますので、左後翅の下面と腹部がこすりあわされています。

右下:腹部が高く上がった瞬間です。腹部は背側(上方)に強く反っています。
それに対して、右上のカットでは、腹部先端が少し腹側(下方)に少しカーブしていますので、腹部を少し下げ始めた瞬間と考えられます。

左下のカットで腹端部が下に少しカーブしているのは、腹部全体を下げた直後だからでしょう。

下の写真3は写真2のシリーズ写真に続くものです。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、連続2
写真3.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(2) (クリックで拡大)

写真3

左上:左後翅の下面と腹部のこすりあわせの続き。

左中、左下、右上、右中:右前翅と左前翅の間に腹部を入れての両前翅上面とのこすりあわせ。

右下:翅こすり合わせが終って一息。

特に変わった動作はありませんが、脚の構えはどっしりとしていて、翅と腹のこすりあわせによる身づくろいが彼らにとって手慣れたルーティンであることがうかがえます。

写真2の最初から写真3の最後まで、1分以内に収まっています。

下の写真4は写真3のシリーズ写真に続くものです。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、連続3
写真4.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(3) (クリックで拡大)

写真4

上左から1番目:おもむろに腹部の第3~6節の間の関節を腹側(下方)に折り曲げています。

上左から2番目:曲げて近づいた腹部後半部に後脚の附節をあてがい、腹を更に強く曲げることで腹部表面についた塵をこすり取っている様子です。

上左から3番目と4番目:腹部を足でこするのをいったん止め、腹部の曲がりがいったんゆるみます。

下左から1番目:再び、後脚で腹部(今度は先端の2、3節)をこすっています。

下左から2番目:こすり終わって、腹部を真っ直ぐに伸ばす途中です。

下左から3番目:腹部や脚部の筋肉を使うこすりあわせが終り、一息ついている様子です。脚部のふんばりがやや弱まって、這いつくばりに近い姿勢になっているように見えます。

均翅亜目のトンボでは、ふつう、これに続いて、脚の附節同士をこすりあわせて、前肢の附節に塵を集め、その後、前足の附節を口器で軽く噛んでこすり、その塵を払い落すか舐め取るような動作をとることがよく見られます(以前の記事参照;参照記事中の「踵の節」は附節のこと)。

しかし、今回はその動作は確認できませんでした。

その代わりではありませんが、下の写真5~9(写真4のシリーズ写真の続き)のように、前肢の脛節で左右の複眼をこする動作が観察・撮影できました。

もちろんこれは、複眼についた塵を脛節(弾力性のある剛毛が列生する)で、自動車のワイパーのようにこすり落とす機能をもち、身づくろいの一つのパターンです。

これは腹部と翅とのこすりあわせに付随して行われるとは限らず、静止中に単独でおこなわれることも多いです。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、4
写真5.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(4) (クリックで拡大)

上の写真5では、頭部を少し右に回して、右前肢の脛節で複眼をワイプしています。

下の写真6はその拡大です。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、4、拡大
写真6.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(4)の拡大 (クリックで拡大)

右の触角にも右脚が触れていますが、さすが触角が損傷を受けたりしないように、触角が風になびくかのように脚の動きの方向に折れています。

下の写真7,8では、左頭部(特に複眼)を同様にワイプしています。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、5
写真7.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(5) (クリックで拡大)

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、6
写真8.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂♂の身づくろい行動(6) (クリックで拡大)

このようにして、このトンボの朝のおめかしは無事終了です(写真9)。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、7
写真9.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(7) (クリックで拡大)

この後、この♂も、なわばりにやってくる♀へのプロポーズや、ライバル♂たちとの凌ぎを削る追い合いが繰り広げられる、オープンな水面へと向かうことになります。

なわばり地帯でのアサヒナカワトンボの行動は次回記事でご紹介します。

お楽しみに。


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2016-08-18 (Thu)
前回記事で書いたように、今年5月中旬の岐阜県の丘陵地帯への初遠征で、アサヒナカワトンボMnais pruinosa Selys 1853に初めて会うことができました。

二ホンカワトンボMnais costalis Selys, 1869とアサヒナカワトンボが同所分布するこの地域の個体を、生態写真の画像を拡大して見ながら同定する上で、事前情報(両種の同所分布の有無、形態的「型」(橙色翅型、[無色]透明翅型、など)の組み合わせ)は大きな助けとなりました。

それに加えて、翅脈の形態(とりわけ、結節後横脈の数)が決定的な役割を果たしうること(Suzuki and Metoki 1983)を追認することができました。

5月中旬の現地での観察では、ラッキーなことにニホンカワトンボの♂(写真4)、♀も観察・撮影することができましたので、特に♀個体の結節後横脈数を前回記事のアサヒナカワトンボ♀と比較したいと思います。

ニホンカワトンボ橙色翅型♂160513
写真4.ニホンカワトンボMnais costalis 橙色翅型♂。 (クリックで拡大)

私が当日、アサヒナカワトンボを初めて見た落葉広葉樹林の小さな谷の幅1メートル程度の細流沿いでの観察・撮影を終え、前々回の記事で取り上げたタベサナエTrigomphus citimus (Needham, 1931)を見た、平坦で日当たりのよい細流に戻りました。

岸辺に沿って、ゆっくり歩いていると、お互いに追い合いをしたりしているアサヒナカワトンボの無色透明翅型♂数頭に続いて、岸辺のシダの葉先にとまっている1頭の橙色翅型の♂が目に入りました(もちろん「証拠写真」を撮りながらの探査です)。

(上の写真4は、その証拠写真ではなく、2時間後に少し離れた場所で撮影したベストショットです。)

写真4の♂は、橙色翅型♂の定番ともいえる、腹部、翅胸部、そして脚の表面に吹く白粉をフルに装い、凛々しいポーズをとっています。

事前情報「この地域のアサヒナカワトンボ♂はすべて(無色)透明型であるのに対し ニホンカワトンボの♂はすべて橙色翅型である(尾園ほか、2012)」から、この橙色翅型の♂はニホンカワトンボであると確信することができました。

その後も、この細流沿いを中心に、アサヒナカワトンボたちと入り混じった形で、両手の指で数えるほどの、橙色翅型のニホンカワトンボ♂を観察することができました。

印象に残ったのは、橙色翅型のニホンカワトンボ♂と無色透明翅型のアサヒナカワトンボ♂が、川面上のなわばりの占有権をめぐって対等に争っていた(つまり、追ったり追われたりしていた)ことです。

私が以前住んでいた北海道では、ニホンカワトンボの橙色翅型♂が川面上になわばりを長期にわたって占有し、そこにやってくる♀と交尾し、そこで産卵させるのに対し、無色透明翅型♂はなわばりの周辺に滞在し(サテライト戦略)、そこを通る♀と交尾、あるいはなわばり内にこっそり侵入(スニーキンング戦略)してそこにいた♀(産卵中の場合が多い)を連れ去り、交尾するという、橙色翅型♂とは明らかに異なる配偶戦略を採用しています(生方、1979)。

そして、北海道の無色透明翅型♂は橙色翅型♂と真っ向から争うことは稀で、前者は後者に対して「逃げるが勝ち」とでもいうように、背中を見せて逃げたり、隠れたり(つまり、木の枝などにとまる)します(生方、1979)。

そういう行動をする個体群の観察経験しか持っていなかった私にとって、対等、時には対等以上に(種は違うとはいえ)、無色透明翅型♂が橙色翅型♂になわばり占有権を主張するかのように争っていたシーンは新鮮そのものでした。

その後、しばらくアサヒナカワトンボのなわばり争いや産卵警護行動(次回記事で詳報の予定です)を観察し、更に岸沿いに移動すると、水辺近くの草の上にとまっている、ちょっと違和感のあるカワトンボ属の♀が目にとまりました(写真5)。

ニホンカワトンボ淡橙色翅型♀160513
写真5.ニホンカワトンボMnais costalis 淡橙色翅型♀。 (クリックで拡大)

近づいて観察・撮影し、それが淡橙色翅型の♀、すなわちニホンカワトンボのこの地域に固有な型の♀であることがわかりました。

翅全体がうすらと琥珀色に染まってレトロ感が漂い、上品な奥方といった印象を受けました。

淡橙色翅型♀との出会いも私にとって、はるばるこの地まで観察に訪れた甲斐があったと感激させてくれた1シーンでした。

アサヒナカワトンボには淡橙色翅型♀は現れませんので、この時点でこの個体がニホンカワトンボであることは確実なのですが、もしこの♀が無色透明翅型であったとしたら、アサヒナカワトンボとの区別に悩むことになりかねません。

前回記事のアサヒナカワトンボ無色透明翅型♀の場合はその悩みを解決するために、結節後横脈数をカウントしました。

そこで、今回は、参考までに、上記のニホンカワトンボ淡橙色翅型♀の結節後横脈数を調べてみることにします。

写真6は、この淡橙色翅型♀の翅の部分をトリミングしたものです。

ニホンカワトンボ淡橙色翅型♀、翅拡大160513
写真6.ニホンカワトンボMnais costalis 淡橙色翅型♀、翅の拡大。 (クリックで拡大)

Y字型の横脈を1.5本と数える方針(Suzuki and Metoki 1983)を採用してカウントすると、この♀の結節後横脈数(写真6で、赤矢印から黄色矢印までの間の横脈数)は、35本となりました。

前回記事に書いたように、この2種が同所的に分布する場合は、前翅の結節後横脈数はアサヒナカワトンボでは25~37本、ニホンカワトンボでは29~45本と、前者の方がかなり少なくなっています(Suzuki and Metoki 1983)。

前翅の結節後横脈数を数えて、28本以下ならアサヒナカワトンボ、38本以上ならニホンカワトンボであるとほぼ断定できます。
30本から35本をグレーゾーンとして、30本以下、35本以上でかなり高い確度で判定してよいと思います。

今回の淡橙色翅型♀の35本は、結節後横脈数だけで判断したとしても、ニホンカワトンボであることにかなりの確信を与えてくれると言えそうです。

前回記事の「写真3.アサヒナカワトンボ♀、翅の拡大」(画像はこちら)と比べられれば(そちらのアサヒナカワトン無色透明翅型♀では、23本)、同所性2種の♀間の結節後横脈数の大きな相違を実感していただけると思います。

次回記事では、アサヒナカワトンボの現地での観察から少し面白い行動を写真を添えてご紹介します。

お楽しみに。


引用文献:
1)二橋 亮(2007)カワトンボ属の最新の分類学的知見。昆虫と自然、42(9):4-7。
2)尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012 )日本のトンボ。 文一総合出版。
3)Suzuki, K. and Metoki, N. (1983) Morphometrical Analysis of Three Closely Related Mnais Species in Japan (Odonata, Calopterygidae) I : Variation of Crossvein Number. J. Coll. Lib. Art. Toyama Univ. (Nat. Sci.), 16(2): 113-171.
4)生方秀紀(1979)ヒガシカワトンボの交尾戦略 (予報).。昆虫と自然、14(6): 41-46。【注記:この場合のヒガシカワトンボは現在の分類におけるニホンカワトンボに相当する】

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2016-08-17 (Wed)
以前の記事に書いたように、カワトンボ科(Calopterygidae)のカワトンボ属(Mnais)の種の分類は、従来1種3亜種説、、2種説、3種説、4種説などの諸説が唱えられ、混乱していましたが、DNA解析の導入により、二ホンカワトンボMnais costalis Selys, 1869とアサヒナカワトンボM. pruinosa Selys 1853の2種に分けられることが判明し(二橋、2007)、決着されるに至っています。

私自身、二ホンカワトンボ1種のみが分布する北海道に長年住んでいましたので、アサヒナカワトンボは乾燥標本あるいは映像で見たことがあるだけで、生きている実物を野外で見ることは長年の課題でした。

今年5月中旬の岐阜県の丘陵地帯への初遠征で、憧れのムカシヤンマに対面できたことは前回記事に書いた通りですが、当日、そのムカシヤンマとの出会いに続けて、アサヒナカワトンボとも出会うことができました。

前回記事で、上記の場所でムカシヤンマ♂に遇った場所から少し移動したところにある、落葉広葉樹林の小さな谷の幅1メートル程度の細流沿いを歩いていると、低木の地上1、2メートル程度の高さの枝葉にとまったり、そこから飛び立つ、無色透明の翅をしたカワトンボ属の姿が目にはいりました。

そのうちの1♂を撮ったのが写真1です。

アサヒナカワトンボ♂(1)160513
写真1.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂。 (クリックで拡大)

拡大画像を見ると、木漏れ日を浴びて、頭部・胸部の繊毛が輝いています。

翅胸や腹部に吹く白粉の量は少なく、薄化粧という表現がピッタリ。
その点、北海道のニホンカワトンボの(無色)透明型によく似ています。
ですので、この写真だけ見てアサヒナカワトンボかニホンカワトンボかを言い当てられる人は、かなりのベテランということになります。

こういう場合の種の判別には事前知識が役に立ちます。

岐阜県のこの地域を含むエリアは、アサヒナカワトンボとニホンカワトンボが同所的に分布しています。
そのため、種の判別には相当慎重にならなければいけないはずです。

ですが、この地域のアサヒナカワトンボ♂はすべて(無色)透明型であるのに対し ニホンカワトンボの♂はすべて橙色翅型である(尾園ほか、2012)ため、たいへん判別しやすくなっています。

というわけで、写真1の個体は、アサヒナカワトンボ♂であると判定されます。

♀はどうでしょう。
写真2をご覧ください。

アサヒナカワトンボ♀(1)160513
写真2.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♀。 (クリックで拡大)

同じ観察地の少し下流側の地点で、3時間ほど後に撮影した透明翅型♀です。

尾園ほか(2012)によれば、岐阜県のこの地域では、アサヒナカワトンボの♀がすべて(無色)透明型であるのに対し、ニホンカワトンボの♀は淡橙色翅型*と(無色)透明型の両タイプが出現します。

(*私は淡橙色翅型の♀と実際に今回の観察地で実際に遭遇し、撮影もできています。淡橙色翅型♀を含め、この地域で観察したニホンカワトンボについては、次回の記事でご紹介する予定です。)

したがって、この地域で透明型♀を撮影した場合には上述の型の組み合わせによる事前情報だけでは種の判別ができません。

その時に役に立つのが翅の横脈数の比較です。

この2種が同所的に分布する場合は、前翅の結節後横脈数はアサヒナカワトンボでは25~37本、ニホンカワトンボでは29~45本と、前者の方がかなり少なくなっています(Suzuki and Metoki 1983)。

前翅の結節後横脈数を数えて、28本以下ならアサヒナカワトンボ、38本以上ならニホンカワトンボであるとほぼ断定できます。
30本から35本をグレーゾーンとして、30本以下、35本以上でかなり高い確度で判定してよいと思います。

写真3は同じ個体の翅の部分を拡大したものです。

アサヒナカワトンボ♀(2)翅の拡大160513
写真3.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♀、翅の拡大。 (クリックで拡大)

画面の一番上に写っている翅(左前翅)で、黄色矢印の位置に「結節」があり、ピンク色矢印の位置より先に「縁紋」があります。

結節から縁紋までの間の横脈(トンボの翅の基部から先端に向かう縦脈に対してほぼ直角に配列される、縦脈間をハシゴ段のようにつないでいる脈)の数を数えると、この地域のカワトンボ2種のうちのどちらの♀かを判定できます。

この♀の場合も、結節後横脈数は23本となり、アサヒナカワトンボであることがわかります。

この、結節後横脈数による判別は、この地域のように2種が共存し、種間の形態差が拡がるような小進化過程(「形質置換」)が働いている場合には有効ですが、たとえば関東地方などのように2種のうちの一方のみが分布する場合には種間の形態差が不明瞭になり、必ずしも切れ味よく適用することができません。

私の以前の記事で透明翅型の♀をニホンカワトンボとして扱ったのは、同時に同所で観察した♂がニホンカワトンボの特徴を有していたことに基づいて推定したにすぎません。

次回の記事ではこの観察地で観察・撮影したニホンカワトンボについて、アサヒナカワトンボと比較しながら、ご紹介します。

また、2回後の記事では、アサヒナカワトンボの生殖行動についての、ちょっと面白い観察について、写真を添えてご紹介する予定です。
お楽しみに。


引用文献:

二橋 亮(2007)カワトンボ属の最新の分類学的知見。昆虫と自然、,42(9):4-7。

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012 )日本のトンボ。 文一総合出版。

Suzuki, K. and Metoki, N. (1983) Morphometrical Analysis of Three Closely Related Mnais Species in Japan (Odonata, Calopterygidae) I : Variation of Crossvein Number. J. Coll. Lib. Art. Toyama Univ. (Nat. Sci.), 16(2): 113-171.


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2016-08-15 (Mon)
日本には、均翅亜目7科、ムカシトンボ亜目1科、不均翅亜目9科の、計17科のトンボが分布しています(過去記事「トンボ目の系統樹」。

下の図はその系統樹です(生方、作図:根拠については上掲の過去記事参照)。

トンボ目の系統樹(日本産の科に限定)
日本産トンボ目の科の系統樹(生方、作図;再掲)  (クリックで拡大します)

トンボ目の系統分類において、ムカシトンボ亜目を不均翅亜目に含める見解もありますが(尾園ほか著『日本のトンボ』など)、World List of Odonataでは伝統的な見解同様、ムカシトンボ亜目を独立させています。

日本産の不均翅亜目(ムカシトンボ科を含まない)の中で、最も早く系統分岐した現存の科はヤンマ科であることがDNA分析からも裏付けられています(その運動能力、視覚機能の高さからは意外ですが、形態的には均翅亜目同様の産卵管を「遺産」として保有していることから納得できます)。

その次に分岐したのがムカシヤンマ科*で、日本にはムカシヤンマTanypteryx pryeri (Selys, 1889)ただ1種が分布しています。

オリンピックには種目別に日本代表が出場できますから、ムカシヤンマは代表当確といえるかもしれません。

(*この科の学名の由来や世界的に著名な種については過去記事で紹介してあります。)

私は、1970年以来、トンボの研究に携わっていますが、最近まで北海道に居住していたこともあり、ムカシヤンマ科の生きた姿を観る機会がありませんでした。

今春から県内、県外にトンボ観察・撮影を目的に遠征を繰り返すようになった動機の一つは、日本産の科の中でまだ見たことがない極く少数の科の一つであるムカシヤンマ科を、つまりムカシヤンマを、この眼でつぶさに観察し、機会があれば撮影をしたいということでした(この動機に関連した過去記事参照)。

今年5月中旬、岐阜県の丘陵地帯への遠征に際して、幸運なことにムカシヤンマの♂をしばしの間、観察・撮影することができました。

前回記事でご紹介したタベサナエTrigomphus citimus (Needham, 1931)との出会いのシーンに引き続いての出来事でした。

タベサナエがいた細流の土手の上を歩いていると、眼の前を伸び伸びと飛ぶ大型のトンボがいました。
少し飛んでは、木の幹などに懸垂*するかたちでとまります。

(*浜田・井上『日本産トンボ大図鑑』によれば、石や植物の上に水平にとまることも多いようです)。

一度は私のズボンにとまり、「おいおい、それでは撮影できないだろう!」と思わず苦笑い。

下の写真は、そのような場面中、樹皮に懸垂してとまるムカシヤンマ♂で、シチュエーションがわかるように、大きめにトリミングしたものです。

ムカシヤンマ♂(1)160513
ムカシヤンマTanypteryx pryeri ♂、その1 (クリックで拡大)

同じ個体を少しずつ角度や焦点距離を替えて写した写真のうちのもう1枚が下記の写真です。

ムカシヤンマ♂(2)160513
ムカシヤンマTanypteryx pryeri ♂、その2 (クリックで拡大)

やはりトリミングしてはいますが、一回り大きく写り、角度も尾部上付属器が見えやすい位置からになっています。

その尾部上付属器ですが、上下に扁平なぺタル(葉あるいは花弁)状を呈していて、この科の学名Petaluridae(ギリシャ語のpetalon葉+ourá尾の合成語)通りの特徴を備えています。

ムカシヤンマは一見して大型のサナエトンボ科の種のように見えますが、以下の点で簡単に区別できます。

・翅の縁紋がとても長く、中間部が膨らむことがない(科の特徴)。
・複眼が褐色系で、サナエトンボ科のように緑色系とならない。
・翅胸前面の色が黒色系に縁どられた広範囲の褐色系で、サナエトンボ科のように黒色系の中に黄色系の小斑紋が配置されるのとは異なる。

飛び方もゆったりと曲線を描き、どこか人懐こい(より正確には警戒心が弱い)振舞いをしていて、親しみが湧きます。

下の写真も同じ個体ですが、別の木の幹にとまり替えたところを真横から写したものです。

ムカシヤンマ♂(3)160513
ムカシヤンマTanypteryx pryeri 別♂ (クリックで拡大)

これもトリミングしていて、ピントも甘いのですが、翅胸側面の黒色条や黄色斑の形がよくわかり、図鑑との絵合わせの際に本種であることの確信を与えてくれました。

次回記事も引き続き、岐阜遠征記として、主役も交代します。
お楽しみに。

「生きている化石、ムカシヤンマ科」シリーズの次回記事はまた日を改めてということにいたします。

引用文献:
浜田 康・井上 清 (1985) 日本産トンボ大図鑑。講談社。
尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012 )日本のトンボ。 文一総合出版。

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2016-08-14 (Sun)
好天に恵まれた5月の中旬、岐阜県の丘陵地帯まで遠征しトンボの姿を追い求めました。

同県内で前泊したこともあり、朝から水辺沿いを散策し、やってくるトンボを今や遅しと待ち構えました。

最初に現れたのはシオカラトンボ (Selys, 1848)♂です。

少し歩いた先の斜面では、シオヤトンボOrthetrum japonicum (Uhler, 1858)♂がカワゲラのような虫を口に加えて低木の枝にとまりました。

この2種のトンボは私とは旧知の間柄ですので、写真を撮ったら、また別のトンボはいないか歩を先に進めました。

まもなく、水辺近くのミズゴケの叢に小さなサナエトンボの♂がとまっているのに気づきました。

そーっと近づいて数回シャッターを押しました(写真1)。

タベサナエ♂(1)160513
写真1.タベサナエTrigomphus citimus ♂、その1。 (クリックで拡大)

上の写真をクリックして拡大ボタンを押してご笑覧ください。
にこやかに微笑んでいるように見えませんか?
長旅の疲れが少し残っていた私にとって、いやされる思いでした(といいたいところですが、帰宅してパソコン画面で拡大して気づいたのでした)

(なお、トンボ自身は餌がいたらとびかかろう、♀が来たら言い寄ろう、天敵が近づいたら飛び去ろうと、緊張しているはずですので、誤解のなきよう。)

さて、このトンボ、私が北海道在住中に沼の岸でよく見かけたコサナエTrigomphus melampus (Selys, 1869)に大きさも色形もよく似ています。
自宅に帰ってから撮影した画像と図鑑を見比べて、それがコサナエと同属のタベサナエTrigomphus citimus (Needham, 1931)であることがわかりました。

和名のタベサナエはこの種の幼虫を初めて採集し、成虫標本とともにトンボ学者であり学友である朝比奈正二郎博士に提供した田部正親氏に由来します(浜田・井上、1985)。

日本産亜種の学名(Trigomphus citimus tabei Asahina, 1949)にも田部氏の名前が刻まれています。
しかし、尾園・川島・二橋(2012)の「日本のトンボ」では亜種には和名を充てない方針をとっていて、私もその方針に賛成の立場から、タベサナエの和名とTrigomphus citimusを対応させる方式を今回採用しました。

World List of Odonata ではtabeiはシノニムにもリストされていません。)

さて、その場から少し歩くとまた別のタベサナエ♂がとまっていました(写真2)。

タベサナエ♂(3)160513
写真2.タベサナエTrigomphus citimus ♂、その2。 (クリックで拡大)

今度は、黒と白のマダラ模様の大きな石の表面にとまっていて、背景にうまく溶け込んでいます。
いつもこういう色の組合わせの岩や石の上にとまれば、捕食者に目立たなくなり、生存率の向上が望めます。
しかし、ものの本によれば、岸の植物の上などにもよくとまるようですので、とくに隠蔽的擬態をしているわけではないようです。

この写真(クリックで拡大!)では、尾部上付属器の背面が白く、カタカナのハの字状に開いている日本産本属♂の特徴の一つがよくあらわれています。

下の写真3は、2時間ほど後に、同じ細流の少し離れた地点の岩にとまっていた別のタベサナエですが、岩の色が少し白っぽく、その上逆光であるため、今度はトンボの姿が識別しやすくなっています。

タベサナエ♂(2)160513
写真3.タベサナエTrigomphus citimus ♂、その3。 (クリックで拡大)

この写真は、逆光で見にくいのですが、横から写す格好になっていますので、副交尾器の外形を確認することができます。
本種♂の副交尾器は横から見ると異様に大きいのが特徴で、これが種の同定の際に(標本採取なしに)写真画像だけで確信をもって結論を出す上でよい根拠となりました。

トンボの生態写真を撮る場合、「絵」になるように、複眼にピントを合わせることが多いですが、後に画像で種の同定をする際の助けとなるよう、胸部側面、腹基部(副交尾器)、腹端部(尾部付属器、産卵管)、翅脈(三角室、四角室、結節、縁紋)などにピントを合わせた写真を含めて撮るように心がけています。

引用文献:
浜田 康・井上 清 (1985) 日本産トンボ大図鑑。講談社。
尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012 )日本のトンボ。 文一総合出版。

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2016-08-10 (Wed)
シオカラトンボOrthetrum albistylum (Selys, 1848)は日本で最も馴染み深いトンボの一つですが、同属(シオカラトンボ属、Orthetrum)の種がほかに8種日本に生息していることをご存知でしょうか?

全9種とも地色は黄色系で、成熟とともに紅色に染まるコフキショウジョウトンボ*Orthetrum neglectum (Rambur, 1842)および若干緑色を増すハラボソトンボOrthetrum sabina (Drury, 1770)を除いて、成熟♂は多かれ少なかれ、白色から青色の粉を腹部背面を中心に装います。

*コフキショウジョウトンボの学名は以前、Orthetrum pruinosum neglectum (Rambur, 1842) が用いられていましたが、最新のWorld List of Odonata ではO. pruinosumとは別種として扱われていますのでそれに準じました。)

今回の記事の主役である、シオヤトンボOrthetrum japonicum (Uhler, 1858)(写真1)もたっぷり「厚化粧」する、少し小柄なトンボです。

シオヤトンボ未熟♂160507
写真1. シオヤトンボOrthetrum japonicum (Uhler, 1858)(クリックで拡大)

私の前住地である北海道でも、丘陵地や低山地の湧水が供給される湿地などで本種を見かけることがありましたが、埼玉県内での私の行動圏を拡げた今年は、すでに何回か出会うことができました。

多くのとんぼの中で、シオヤトンボは春から出現するため、トンボシーズンの到来を告げるメッセンジャーの一員の役割を果たしています。

写真1は、前回記事(クロイトトンボ)、前々回記事(ヨツボシトンボ)の主人公を観察したのと同じ日(5月上旬)に、もう一回り大きなため池のほとりで撮影したシオヤトンボの未熟な♂です。

この♂の腹部は基部と先端を除いて、まだうっすら白粉がふきはじめているに過ぎません。
さしずめ、薄化粧といったところでしょうか。

複眼の色も、透明感の低い薄紫色で、羽化後あまり時間がたっていないことをうかがわせます。

翅を見ると、老化した個体の翅に見られるカサカサした感じ(曇りが生じて透明度が低下し、弾力性も低下した様子)がなく、破れはもちろん、汚れやゴミもほとんど見当たりません。

これらが、私が(他の多くのトンボ研究者も)この個体が未熟、あるいは羽化まもないと判断した根拠です。

さて、シオヤトンボ♂も、成熟が進むと「厚化粧」と言われても返す言葉がないほどに、体表に白粉を装います(写真2)。

シオヤトンボ交尾160513
写真2.シオヤトンボOrthetrum japonicumの交尾。 (クリックで拡大)

写真2は、産卵場所で「なわばり」を占有していた♂が、そこにやってきた♀と交尾をしているシーンです。
これは、写真1を撮影した約1週間後に、岐阜県で撮影したものです。

個体はもちろん、場所も違いますので、1週間でここまで成熟して交尾をできるようになると結論するのは早計ですが、羽化後1,2週間で成熟して交尾・産卵するのは(すなわち「前生殖期」が1・2週間であるのは)トンボ目の中では一般的ですので、当たらずとも遠からずかもしれません。

この交尾写真で、白っぽい体をしている個体がもちろん♂で、黄色と黒のマダラ模様をした個体が♀です。

この♂は、写真1の♂にくらべて、これ以上厚塗りできないほどに白粉をとくに腹部第3節以降の背面に吹いています。翅胸(中胸と後胸が癒合したもの)の前面もそれに近いくらいに白粉が吹いています。

人間の化粧は、自然素材や人工合成した物質を塗りつけるか、まぶすかして行うものですが、トンボの場合は細胞で合成された物質が分泌され体表に付着することで生じます。

Gorb et al. (2009)によれば、この物質はワックス(蝋)で、昆虫のクチクラの表面上に、ミクロン単位あるいはそれ以下のサイズの棒状、板状、細糸状の結晶となり、これが白粉となるのだそうです。そして、白や青い色は、光の分散による構造色だということです。

多くの種のトンボで成熟♂で白粉が吹き、未熟♂や未熟・成熟♀では吹かないことから、この白粉が♂の性的役割に結び付いて進化したであろうことは明白です。

最初に考えられることは、白い色が強い♂ほど♀に対して魅力的なため、より多くの♀と交尾し、多くの子孫を残すことで進化した可能性です。

もう一つは、なわばり占有を廻る♂同士の争いで、白い色の強い♂ほど、相手に対する威嚇効果があり、その結果、なわばり争いの決着が早くつき、なわばりを維持し、そこに来る♀と交尾してより多くの子孫を残せるため進化したという可能性です。

ただし、そのような白い色の強い♂の比率が世代ごとに増える結果となり、なわばり争いの決着が早くつくとは必ずしもいえなくなりそうです。

とはいえ、そうなるまでは、白い♂が有利であり、白くなる方向に進化することになります。

まだほかにも白粉が吹くように進化する要因は考えられますが、今回はこのへんにしておきます。

さて、シオヤトンボの交尾は数分もしない間に終了し、♂♀分離後まもなく、♀はその場で産卵行動を開始し(写真3)、交尾相手の♂は♀の上空を飛び回ります。

シオヤトンボ産卵(1)160513
写真3.シオヤトンボOrthetrum japonicumの産卵、その1。 (クリックで拡大)

そこに別の♂が来れば、追い払い、また♀の近くに戻ります。
これを産卵警護行動といいますが、今回は警護や追い払い行動をしている瞬間の♂の写真はうまく撮れませんでした。

写真3から、産卵中の♀は、浅い水面上数センチメートルの高さを飛び、視線を前方の少し下方に向け、6本の脚をしっかりと折りたたんで胸部表面に密着させていることがわかります。

脚の格納状態から飛行に専念していることが、視線からは、好適な産卵ポイントを探していることが見て取れます。

そして、時々、飛行高度を瞬間的に下げながら、腹を下方にカーブさせ、腹端で浅い水面を叩き(打水動作)、卵を産み落とします。

打水の瞬間の写真も撮りましたが、160分の1秒のシャッター速度ではブレが大きく、人に見せられる画像が得られませんでした。

同じ個体の別の瞬間を写した写真4をご覧ください。

シオヤトンボ産卵(2)160513
写真4.シオヤトンボOrthetrum japonicumの産卵、その2。 (クリックで拡大)

体がよじれていませんか?
そうです。
腹部は明らかに右側(トンボにとって左側)に少し傾いています。
しかし、頭部(顔)はほとんど水平のまま(より正確に言えば、左右の複眼の中心を結ぶ線がほぼ水平のまま)です。
胸部は、この角度のズレをなんとかつなぎとめようとするかのように、微妙な中間的な角度の傾きを示しています。

ギンヤンマなどで、水平面を飛びながら急カーブを描く際に、胸部・腹部はカーブの内側に傾くのに対し、頭部は水平を維持していることが知られています(私も撮影しています)。

ヤンマにくらべると、シオヤトンボのこの姿勢はややぎこちないですが、水面上にまばらに草が突き出すように生えている間を、スキーのスラロームのように器用に避けながら飛ぶ上では、このしなやかな体のこなし方はうまくフィットしているように思えます。

シオヤトンボたちが産んだ卵の多くが無事孵り、幼虫たちの中からまた両親と同じように元気に飛び回り、世代をつないでいくことを祈りつつ、(私は)その場を後にしました。

シオヤトンボに限らず、トンボの多様性の維持のためには、各生息地が保全され、気候の急変や地域絶滅に無頓着な採集行為がないように、注意を払い、行動していくことが必要です。


追記:

コーベット著トンボ博物学271-272頁には白粉に関して生物学的な観点から多くの事実や考察が記述されています。

引用文献:

Stanislav N. Gorb, Katja Tynkkynen & Janne S. Kotiaho (2009): Crystalline wax coverage of the imaginal cuticle in Calopteryx splendens (Odonata: Calopterygidae). International Journal of Odonatology 12: 205-221.

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