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2017-07-25 (Tue)
今年6月前半の東海地方への取材旅行で、グンバイトンボPlatycnemis foliacea Selys, 1886を観察・撮影する機会がありました。

昨年6月の四国での本種との初対面で果たせなかった、交尾や産卵についても観察・撮影できましたが、それについては次回記事で扱うことにし、今回は単独♂の観察を通して気付いたことを取り上げます。

それは、
・斑紋パターンの場所間比較
・「軍配」の「汚れ」
・採食
についてです。

このうち、採食以外は、撮影したトンボの画像を自宅のパソコンで拡大し、じっくり観察した結果、その存在が判明したものです。

最初に、今回、東海地方の生息地(A地点とします)で撮影したグンバイトンボ♂3個体の静止写真を掲げます(写真1,2a,2b,3a,3b)。

グンバイトンボ♂、東海 
写真1 グンバイトンボPlatycnemis foliacea ♂、東海A地点 (写真はクリックで拡大)

グンバイトンボ♂、東海(3)
写真2a グンバイトンボPlatycnemis foliacea 別の♂、東海A地点

グンバイトンボ♂、東海(3)、拡大
写真2b グンバイトンボPlatycnemis foliacea ♂、東海A地点(写真2aの拡大)

グンバイトンボ♂、東海(2)
写真3a グンバイトンボPlatycnemis foliacea さらに別の♂、東海A地点

グンバイトンボ♂、東海(2)拡大
写真3b グンバイトンボPlatycnemis foliacea ♂、東海A地点写真3aの拡大)

なぜ、似たような写真を3点掲げたかというと、四国の同種個体と比較して、写真でわかる範囲の形態差がみられた場合に、それが地域差(つまり地理的変異)を代表しているのか、それとも個体群内の個体変異の幅が大きいための相違に過ぎないのかを、ファースト・アプローチとして判定するためです。

次に、東海地方(A地点)の本種と比較するために、昨年四国(B地点とします)で撮影した同種♂の写真を、以前の記事「グンバイトンボの軍配は何のため?」から1♂を再掲(写真4a,b)し、加えて、同じ機会に撮影した別の♂の写真を掲げます(写真5)。

グンバイトンボ♂
 写真4a グンバイトンボPlatycnemis foliacea ♂。四国B地点、2016年6月。(再掲)

グンバイトンボ♂体前部拡大 
 写真4b グンバイトンボPlatycnemis foliacea ♂。四国B地点、2016年6月。(再掲)

グンバイトンボ♂、四国(2) 
 写真5 グンバイトンボPlatycnemis foliacea 別♂。四国B地点、2016年6月。

最初に写真1(東海A地点)と写真4a(四国B地点)をざっと見比べた際には、形態も斑紋パターンもよく似ていて、「さすが同種。何千年、何万年もの長い間、離れ離れの場所で世代を紡いでいても、形態をコントロールするゲノムというのは変わらないものだな~」と、まずは感心しました。

しかし、「でも、何かわずかな違いはあるのではないかな?」と疑って、それらの写真をあらためてじっくりと見比べたところ、次のように、いくつか違いが見つかりました。

1)「軍配」(中脚、後脚の脛節が扁平に拡張したもの)の中軸の基部付近は、四国B地点の♂では、はっきりと黒い(写真4、5; 未掲載の写真IMG_5638も同様)のに対し、東海A地点では基軸全体に白い(写真1)あるいは基部近くのごく短い部分だけが黒い(写真2、)。
ちなみに、脚の体軸寄り(内側)の面の軍配の軸は東海A地点でも基部付近は黒い(写真2b)。

2)東海A地点では、翅胸前面の上端に左右方向の黄斑がある(写真1、2、)。
四国B地点の♂には、そのような黄斑はない(写真4、、未掲載の写真IMG_5638、IMG_5731)。

3)東海A地点では、翅胸の肩黒条の上端近くの中の黄斑が連続したL字形をなす(写真1)か、あるいはその黄斑が途切れる(写真2、)。
それに対して、四国B地点では黄色が途中で途切れて分断され、横方向に黄班が延長しないため、L字形にもならない(写真4、5、未掲載の写真IMG_5638、5731)。

4)四国B地点では、腹部第2節側面の黄色斑部分の中の黒班がはっきり出ている(写真4、5、未掲載の写真IMG_5638、5731
一方、東海A地点の写真1の♂では薄いが、写真2,3の♂では、もう少し濃く、四国B地点とそれほど差がはっきりしなくなる。

5)東海A地点の写真1、2の♂は、相対的に翅が長く、それぞれ腹部第6節の70%、90%程度に達する。ただし、写真3では60%とやや短い。
それに対して、四国B地点の写真4、未掲載の写真IMG_5638の2♂では50%と短い。ただし、四国B地点の写真5、未掲載の写真IMG_5731の2♂は80%と長い。
ということで、相対的な翅の長さの平均値は東海Aのほうが高い可能性はあるが、個体群内での翅の相対的な長さの変動範囲は大幅に重なっていることがわかる。

以上をまとめると、東海A地点のグンバイトンボ♂は、四国B地点のそれにくらべて、指摘した部位の黒班の縮小傾向あるいは薄れ傾向、言い換えれば黄斑の拡大傾向を示し、その変異幅にギャップがありそうに思われます。

ただし、(4)の腹部第2節側面の黄色斑部分の中の黒班の濃さには連続的な変異が認められ、この点についての両地点間の変異幅は連続すると考えられます。
また、(5)で、東海A地点の♂では翅の相対的な長さが四国B地点よりも若干長い傾向がありますが変動幅が明らかに重なていますので大きな相違とはいえないようです。

以上は、わずか1地点のたった1日の観察に基づき、ほんの数個体同士を比較しただけなものですので、今後、両地区の幅広い地域で多数(注*)の個体を観察するならば、それぞれの変異幅の重なりは当然、より大きくなりますし、ギャップがあるように見えた部位についても重なってくることは十分考えられます。

その一方で平均値の地理的差異が統計的に有意であることは、より検出されやすくもなるでしょう。

ところで、このような地理的変異が認められる場合、それは何を意味するでしょうか?

それは、生物の進化において主要な経路をなすところの、「地理的種分化」のプロセスの1断面を垣間見ることを意味するといえるでしょう。

この話をすると長くなりますので、今回はこのへんで。

最後に、今回かかげた写真から読み取れる、生態的な知見を簡単にチェックしておきます。

写真2bをご覧ください。
4枚の「軍配」のうち3枚がそれぞれ部分的に、褐色に着色しています。

これは遺伝子が作った色ではなく、皆さんもお気づきと思いますが、外的な原因による汚れですね。
ただ、軍配はグンバイトンボ♂にとって大切な「看板」ですので、♂同士で互いに相手を追い払おうとしたときに、相手にバカにされそうですね(笑)。
そういう意味で、若干ドジを踏んだ個体といえるかもしれません。

次に、写真3bをご覧ください。
口に何か咥えています。
もちろん餌です。
小さな昆虫を口器の中で器用に回しながら食べつくしていく途中のシーンです(つまり、採食)。

♂の♀への求愛、♂同士の威嚇しあいが行われている修羅場のすぐ近くでのシーンです。
腹が減っては戦ができぬ、といったところでしょうか。

人間で言えば、サラリーマンが外勤途中でコンビニで栄養ドリンクを購入してグーッと飲むシーンを想起してしまいます。

ご苦労様です。


注*:
以前はこのような形態の地理的変異の研究のために、大量の標本採集が行われていましたが、そのような大量採取はいかに科学的研究が目的であるとしても、個体群の存続基盤を損ねるおそれがあるので、可能な限り標本の持ち帰りは自制し、写真撮影のみによる調査、あるいは採取したとしても計測または撮影後、現地で再放逐することが望ましいと考えます(大量に生息する普通種の場合を除く)。


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2017-07-22 (Sat)
今年6月前半の県外に脚を延ばしての取材旅行先で、各種のトンボとともにコオニヤンマSieboldius albardae Selys, 1886と出会うことができました(写真1)。

コオニヤンマ♂ 
写真1 コオニヤンマSieboldius albardae ♂ (写真はクリックで拡大します)。

丘陵地の小川沿いに歩いていた私の眼の前のコンクリート擁壁の上端縁に、1頭の大型トンボがとまりました。

シャッタ―をばバシャバシャ押しながら近づくと、飛び立って、少し先の鉄製の土管の上端にとまりました(写真2)。

コオニヤンマ♂(2)
写真2 コオニヤンマSieboldius albardae ♂(同一個体)

オニヤンマを連想させるしっかりした黒い腹部に黄色い帯状斑紋、胸部とくらべて異様に小さい頭部、前・中脚とくらべてこれまた異様に長い後脚。

このアンバランスな小頭・長脚は、コオニヤンマのユニークな特徴です。

コオニヤンマとは、私が北海道に住んでいた際に出会ったことがありますので、初対面ではありませんが、デジタル一眼に収めることができ、パソコン画面でじっくり対面するためのよい機会となりました。

今シーズン、フェイスブックで誰かがコオニヤンマの写真をアップしたときに、ある方が「格好いいです♡」とコメントしたことがありました。

私は「え~?」と一瞬驚きましたが、人間界のファッションモデルに当てはめるなら、小頭・長脚はまさに「グッド・ルッキング」のベースになているな、と妙に納得したものです。

それはさておき、なぜこんなアンバランスな体形をしているのでしょう?

まずは同じ属の別の種が同様の形をしているのかが気になります。

同属の種の成虫の外形をGoogleで画像検索してみました。
以下がその結果です。

小頭・長脚派:
   コオニヤンマSieboldius albardae Selys, 1886
  検索不要
   Sieboldius alexanderi (Chao, 1955)
         by Bergman
   Sieboldius deflexus (Chao, 1955)
         by Keven_Lin

中頭・長脚派:
   Sieboldius japponicus Selys, 1854
         by Naturalis Biodiversity Center (dry specimen)
         by Dragonchaser

中頭・短脚派:
   Sieboldius nigricolor (Fraser, 1924)
         By Dennis Farrell  
         By Faz

所属不明(現在のところ):
   Sieboldius gigas (Martin, 1904)
   Sieboldius herculeus Needham, 1930
   Sieboldius maai Chao, 1990

以上のように、小頭・長脚派が少なくとも3種あり、主流派のように見えます。

その一方で、Sieboldius nigricolor のように、中頭・短脚派の同属種もいるのは驚きです。

また、「中間派」のSieboldius japponicus が中頭・長脚派であることから脚が短くなる前に頭が少し大きくなる傾向があるのかもしれません。

なぜこういう書き方をしたかと言えば、コオニヤンマ属Sieboldius とともにコオニヤンマ亜科Hageniinaeを構成するHagenius brevistylus Selys, 1854は、明らかに小頭・長脚派に属するからです(下記外部リンク参照)。

Greg Lasley: Hagenius brevistylus

つまり、現行のSieboldiusHageniusの分類が正しい(つまりそれぞれが単系統、より正確には完系統)ということを前提とすれば、SieboldiusHageniusの共通祖先は小頭・長脚派だったと推定されます(小頭長脚祖先形質説)。

ただし、SieboldiusHageniusの共通祖先は中頭・短脚派で、小頭・長脚派はそれぞれの属へと分化していく道筋の中で「平行進化」した(小頭長脚平行進化説)という可能性もゼロではありません。

とはいえ、このようなアンバランスな体形への進化がそう頻繁に起こるとは考えにくいので、私は今のところ、小頭長脚祖先形質説を支持しています。 

この二つの説の名称は私が今回の記事作成中に勝手につけたものですが、すでに他の方が同様の議論をしていいて、結論じみたものも提出されているかもしれません。
もしご存知の方がおられましたら、コメント欄等でご教示ください。

さて、小頭長脚には何らかの適応度を高める要素があるのでしょうか?

一つ考えられるのは、成虫が石、枝、葉などにとまった時に、後半身を重力に逆らって支えるために、長くて丈夫な後脚を備えるに至ったのかもしれません。

とりわけ、腹部に卵がいっぱい詰まった♀と交尾し、交尾態(リング状)のまま物にとまる際は、♂が2頭分の体重をささえることになり、とりわけ後脚に重い負担がかかるはずです。

ただし、これは他の大型トンボにもあてはまることなので、なぜコオニヤンマ類に限ってそうなのか、という疑問は残ります。

胸部とくらべて相対的に小さい頭部が進化した理由はなんでしょうか?

他の方がフェイスブックにアップしたコオニヤンマの写真へのコメント欄でも、本種が結構獰猛で自分より大型のヤンマ類を捕食した例などが紹介されていました。

この「猛虫」ぶりを見ると、視覚能力、脳での瞬間判断能力なども決して他の「中頭」、「大頭」のトンボのそれに引けをとらないように思われます。

ということは、コオニヤンマ亜科の系統進化の過程で、これらのハンターとしての感覚・情報処理能力を損なうことなく、複眼サイズを含む頭部の小型化を「達成」し、低コスト化(同化した栄養を体内の他の部位に振り向けることができる)も同時に手にいれたということが考えられます。

このように考えると、今までコオニヤンマのアンバランスな体形を見下すかのように見ていたことを、恥じなければいけないかもしれません。

ここでコオニヤンマの幼虫虫の形態についてご紹介し、若干検討してみましょう。。

本種の幼は、サナエトンボ科の中でも風変りで、腹部はコインのように扁平で丸く、脚(とくに後脚)は長くて丈夫です(Hagenius brevistylusの場合も同様)。

私も北海道東部の遠浅の砂礫底をもつ清冽な湖で本種の幼虫を水面上から直接視認し、更に網ですくって確認したことがありますが、写真の手持ちがないため、下記の外部リンク先の幼虫写真をご紹介しておきます。

外部リンク:
 Kazuya Hiramatsu:コオニヤンマ:コオニヤンマ幼虫(ヤゴ)

幼虫のこの、コインのような腹部を支えるには、確かに、このように大きくてガッチリした脚が必要と思われます。

こう考えると、成虫の長い後脚は幼虫の立派な後脚を持ち越しているという可能性が浮上します。

同じコオニヤンマ亜科に属するHagenius brevistylus の幼虫も同様の形態をしています(下記外部リンク参照)。
Jasonさんのサイトの写真からは、コインのように薄い腹部であることもよくわかります。

外部リンク:
  Tom Murray: Dragonhunter naiad - Hagenius brevistylus 

  Jason Neuswanger: Hagenius brevistylus Dragonfly Nymph Pictures


ここまで見てきたように、コオニヤンマは、妙に私の興味をそそるトンボの一つです。

これからも1ファンとして追い続けてみようと思います。


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2017-07-21 (Fri)
昨年6月18日、「四万十市トンボ自然公園」(別名「トンボ王国」)を初訪問し、園地内でわずか1時間そこそこで4科14種のトンボを観察・撮影することができました(3回前の記事「トンボ王国訪問記(1):多彩なトンボ達に迎えられ」参照)。

それに続いて、同行の飯田貢さん、山本桂子さん(ともにアマチュア昆虫写真家)とともに、杉村光俊氏(トンボ王国に併設の「四万十川学遊館」の館長)のご案内のもと、園地外の貴重な生息地2地点に移動しました。
そこでは、シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi Yamamoto, 1955カラスヤンマChlorogomphus brunneus Oguma, 1926(四国を含む本土産のものは以前は亜種和名ミナミヤンマが使われていた)、ヒメサナエSinogomphus flavolimbatus (Matsumura in Oguma, 1926)などの生息環境と成虫の行動の一端を垣間見ることができました(前々回記事「トンボ王国訪問記(2):ヒメサナエと小さな虫たち」参照)。
シコクトゲオトンボの撮影では空振り三振に終わりましたので、リベンジを誓ったことでした。

その翌日(6月19日)の午前中は、梅雨空のもと、「四万十市トンボ自然公園」の園地内での2回目の観察・撮影を行い、ハグロトンボAtrocalopteryx atrata (Selys, 1853)を撮影できたことで、2日間で5科15種のトンボ撮影を達成できました(前回記事「トンボ王国訪問記(3):梅雨時の草間にトンボ見え隠れ」参照)。

さて、今回の記事は、19日の午後の園地外の生息地2カ所へのトンボ探訪記です。

午後の最初のポイントは、杉村館長にご教示いただいたグンバイトンボPlatycnemis foliacea Selys, 1886の生息地です。
そこでのグンバイトンボの観察、撮影についてはすでに以前の記事「グンバイトンボの軍配は何のため?」に報告済みですので、ここでは写真2枚(写真1,2)を再掲するにとどめておきます。

グンバイトンボ♂
 写真1 グンバイトンボPlatycnemis foliacea♂。四国、2016年6月。(再掲)(写真はクリックで拡大)

グンバイトンボ♀
写真2 グンバイトンボ♀。四国。2016年6月。(再掲)

グンバイトンボのポイントでは、ハグロトンボ(写真3,4)も観察・撮影できました。

ハグロトンボ♂、四国
写真3 ハグロトンボAtrocalopteryx atrata

 ハグロトンボ♀、四国
写真4 ハグロトンボAtrocalopteryx atrata

そのほか、ウスバキトンボ Pantala flavescens (Fabricius, 1798)が川岸の上をスクランブルしているところも観察できました(写真5、再掲)。

ウスバキトンボの群飛、四国、6月中旬 
写真5.ウスバキトンボ Pantala flavescensの群飛 (コントラスト調整後)(再掲)

この写真は以前の記事「ウスバキトンボ、今年の初見日はいつ?」中に掲載済みです。

1・2時間でこのポイントでの観察を切り上げ、飯田さん、山本さんと共に、前日も訪れたシコクトゲオトンボのポイントに向いました。

前々回の記事に書いたように、そこは山林の中に谷川の支流の源流部が入り込んだような場所です。
樹陰で薄暗い中に歩を進めると、シコクトゲオトンボがこの日も出迎えてくれました。

まずは、赤い細枝にひっそりととまる♂です(写真6)。

シコクトゲオトンボ♂(1) 
写真6 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 

なんとか、人に見せられる写真を撮らせてくれました。
翅を開いています。
薄暗い林内に、漆黒の胸部や腹部がうまく紛れ込んでいます。

写真7は、同じ♂を横から撮ったものです。

シコクトゲオトンボ♂(2)
写真7 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 同一 

胸部の肩のあたりと側面に黄白色の斑紋があり、黒っぽい体の中でアクセントとなっています。
脚はオレンジ色系で、頭部胸部腹部の漆黒とは好対照になっています。

少し歩くと、今度は♀が木の葉の上にとまっています(写真8)。

シコクトゲオトンボ♀(1)
写真8 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 未熟 

羽化からそれほど時間が経っていないのでしょう、写真6,7の♂と比べても、腹部の黒化があまり進んでいません。翅も閉じています。
脚の色はどちらかといえば薄い茶褐色で、上の♂のオレンジ色の脚とは大違いです。

写真9は、同じ♀を反対側から写したものです。

シコクトゲオトンボ♀(2)
写真9 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 同一未熟 

腹部の基部(第2節)が少し凹んでいます。
羽化後時間経過が短い段階でその部分が何かにぶつかったか、腹部全体が左から右に風圧などで押されたのかもしれません。

別の♂が、枯れかけた細枝の先にとまっています(写真10)。

シコクトゲオトンボ♂(3)
写真10 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 別 

左前脚の脛節前縁で顔面をこすっているところです。
複眼になにか小さなゴミでもついていたのでしょうか。
脛節前縁のこの部分には剛毛が列生していて、ブラシと同じ作りになっていますので、ワイパーとしての機能は十分でしょう。

写真11は別の♀です。

シコクトゲオトンボ♀(3)
写真11 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 別 

腹部はかなり黒化していますので、写真8,9の♀よりも成熟が進んでいることがわかります。
翅も大きく開いています。
脚も幾分赤味が表れていますが、♂のオレンジ色と比べれば赤茶色にしか見えません。

尾園ほか著の『日本のトンボ』(文一総合出版)に掲載の生態写真を見ても、成熟♀の脚はオレンジ色というより、くすんだ赤茶色に近いことから、♂♀の間で色彩2型があるようです。

同属他種でも同様の色彩2型があるかどうか気になったので、『日本のトンボ』に掲載の写真を比べ見たところ、ヤンバルトゲオトンボRhipidolestes shozoi Ishida, 2005アマミトゲオトンボRhipidolestes amamiensis Ishida, 2005では、♀も脚に鮮やかな紅色が現れており、♂とそれほど色彩差が見られません。
一方ヤクシマトゲオトンボRhipidolestes yakusimensis Asahina, 1951では色彩差がシコクトゲオトンボ並み、残り3種ではその中間的な差といった印象を受けました。

属全体で見るとはっきりとした性的2型にはなっていないものの、脚以外の黒っぽい体色と脚の赤から赤褐色の鮮やかな色とのコントラストは、同種間の性的アピール、あるいは♂間の威嚇誇示の機能を高めている可能性が考えられます。

個体間の行動で、この脚を誇示しているかどうかが、この仮説のテストになるでしょう。
今度観察機会があれば、このあたりに注目したいところです。

話を戻します。

写真11では、トンボの右前方に小さなカメムシのようなものが写っています。

何だろうと思い、拡大してみましたが、踏ん張っているはずの脚が見えず、触角も見当たりません。
背面も泥と木くずが乾いて固まったような感じで翅や前胸が見えていません。
何かの破片か鳥獣の排泄物の一部だろうと思われます。

撮影者の動きを気にしたのか、この♀は少し飛んで今度はシダの葉にとまりました(写真12)。

シコクトゲオトンボ♀(4)
写真12 シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi 写真11と同一♀

この日のシコクトゲオトンボ撮影は、こうして、なんとか前日の空振り三振からのリベンジに成功することができましたので、彼らに付きまとうのはこのくらいにし、彼らを再び安穏とした日常に返してあげることにしました。

前日のこの場所でのシコクトゲオトンボの撮影に失敗した主な原因が光量不足であったことに、ホテルの自室でその日の撮影画像をカメラの小さな液晶画面で見直すことで、気づきました。

私が常用している望遠ズームレンズは絞り開放でも5.6にしかならない、入門者用です(中級者なら2.8を使用するところ)。
なので、ズームアップを最大にしてこのトンボをとらえた場合、画角が狭くなるため、内蔵ストロボを発光させただけでは光量が足りなかったというわけです。

そこで、ズームアップを抑え気味にし、カメラをトンボにより近づけて撮影することにしました。
ISO感度やシャッター速度も変えてみましたが、前日の撮影データと比較すると、やはり被写体との距離を縮め、画角を少しでも広くすることが最大の改善ポイントだったことが、後日のパソコン画面での比較検討で分かりました。

リベンジに成功したのを、自分の反省と気づきが奏功した結果であるような書き方をしましたが、2日間とも現地で一緒に撮影した飯田さん、山本さんの撮影テクニックを見習ったり、どのような工夫をしているかの話を聞かせてもらったことも、大いに参考になりました。

名人でなければ撮影不可能な飛翔中のカラスヤンマ(ミナミヤンマ)を除けば、今回のトンボ王国トンボ撮影行は私にとって大変満足のいったものとなりました。

続編、「トンボ王国訪問記(5)」では学遊館の展示の印象や、「トンボと自然を考える会」の活動内容を紹介する予定ですが、それはトンボシーズンが終わってからゆっくりと書くことにしています。

今回の記事を終えるにあたり、現地での貴重な観察の機会を与えられた杉村館長、現地への移動や各種情報の提供などでお世話になった飯田さん、山本さんに改めて感謝の意を表したいと思います。


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2017-07-11 (Tue)
昨年6月18日、「四万十市トンボ自然公園」(別名「トンボ王国」)を初訪問し、園地内でわずか1時間そこそこで4科14種のトンボを観察・撮影することができました(前々回記事「トンボ王国訪問記(1):多彩なトンボ達に迎えられ」参照)。

それに続いて、同行の飯田貢さん、山本桂子さん(ともにアマチュア昆虫写真家)とともに、杉村光俊氏(トンボ王国に併設の「四万十川学遊館」の館長)のご案内のもと、園地外の貴重な生息地に移動し、シコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi Yamamoto, 1955カラスヤンマChlorogomphus brunneus Oguma, 1926(四国を含む本土産のものは以前は亜種和名ミナミヤンマが使われていた)、ヒメサナエSinogomphus flavolimbatus (Matsumura in Oguma, 1926)などの観察・撮影を楽しみました(前回記事「トンボ王国訪問記(2):ヒメサナエと小さな虫たち」参照)。

今回の記事は、その翌日(6月19日)の四万十市トンボ自然公園」の園地内での2回目のトンボの観察・撮影の記録です。

この日は、あいにく雨が降ったりやんだりで、さすがに池の面を活発に飛び回るトンボの姿はありません。

池の岸に沿った園路をゆっくり歩みながら岸辺の草の茂みに目を凝らすと、いました。
チョウトンボRhyothemis fuliginosa Selys, 1883 ♂です(写真1)。

チョウトンボ♂ 
写真1 チョウトンボRhyothemis fuliginosa  ♂ (写真はクリックで拡大します)

じっととまって、雨が上がるのを待っているかのようです。

少し歩くと、今度はキイトトンボCeriagrion melanurum Selys, 1876の♂が草の葉裏につかまり、ほぼ鉛直にぶら下がっています(写真2)。

キイトトンボ♂未熟
写真2 キイトトンボCeriagrion melanurum 未熟♂

トレードマークの腹部の黄色はまだ薄く、翅胸背面も緑系が発色する前の薄い藤色と、まだ未熟な個体であることがわかります。

次に見つかったのはハラビロトンボLyriothemis pachygastra (Selys, 1878)♀です(写真3)。

ハラビトンボ♀
写真3 ハラビロトンボLyriothemis pachygastra ♀

こちらは全体に黒っぽさが出ていて、翅の汚れも見られることから成熟個体と判断できます。

雨が強くなってきました。
睡蓮が満開の水面がリズムを刻みます(写真4)。

雨のトンボ王国、睡蓮 
写真4 トンボ王国、園地内の睡蓮に雨は降る

私は雨よけのポンチョを着用していましたが、雨宿りのために、池の反対側の山斜面が迫っていて木が茂っているところに移動しました。

そこには、先客がいました。
ハグロトンボAtrocalopteryx atrata (Selys, 1853)♂です(写真5)。

ハグロトンボ♂、下から
写真5 ハグロトンボAtrocalopteryx atrata 

あまりよい写りではないのですが、腹面を斜め後ろ下方からという、ちょっと変わった角度から撮ることになり、ちょっと珍しいということで掲げることにしました。

少し移動すると、雨水の粒が先端から落ちそうになっている木の葉の先端にモノサシトンボ♂がぶら下がるようにとまっていました(写真省略)。
どこかしっとりとした雰囲気です。

更に少し移動すると、木の下草の葉にキイトトンボ♀のやはり未熟な個体がとまっていました(写真6)。

キイトトンボ♀未熟
写真6 キイトトンボCeriagrion melanurum 未熟♀

2,30分間、観察・撮影したところで、雨が強まり、私達は園地内にある東屋に走り込みました。

さすが梅雨シーズンです、簡単にはやみません。
雨と霧粒でかすむ園地を眺めながら、飯田さん、山本さんと私の3人でトンボ談義に花を咲かせました。

少し小降りになったところで、雨具をまとい、園地内を歩きましたが、これはといったトンボの姿はなく、かわりに地面を歩く大きなミミズを見つけただけでした。

その後も、雨は降り続けましたので、「四万十川学遊館」の開館を待って、入館しお昼前までの2,3時間に、館内の豊富なトンボを中心とした昆虫関連展示物や、アクアリウムで飼育されている多種多様な魚類などを見学しました。

館内の展示の様子やそれを見学した私の印象や感想については、後日このブログで紹介させていただく予定です。

結局、2日間にわたる園地内でのトンボ観察で私が撮影したトンボの種類数は、2日目のハグロトンボが加わったことで、5科15種という区切りのよい数に達しました。

この日の午後は、杉村館長にご教示をいただいたグンバイトンボの生息地を私達3人だけで向うことにしました。
館のスタッフにお礼の挨拶をした後、館の玄関での記念撮影もそこそこに、期待に胸を膨らませながら、車に乗り込みました。

そのグンバイトンボの生息地での同種の観察、撮影についてはすでに以前の記事「グンバイトンボの軍配は何のため?」に報告済みですので、ご笑覧ください。

今回の記事を終えるにあたり、現地への案内ならびにトンボ各種の生態についての解説をして下さった杉村館長、現地への移動等でお世話になった飯田さんに改めて感謝の意を表します。


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2017-07-06 (Thu)
                             【7月7日、一部修正】

昨年6月18日、「四万十市トンボ自然公園」(別名「トンボ王国」)での初日の観察を1時間そこそこで切り上げ、杉村光俊氏(トンボ王国に併設の「四万十川学遊館」の館長)のご案内のもと、飯田貢さん、山本桂子さん(ともにアマチュア昆虫写真家)と私はシコクトゲオトンボRhipidolestes hiraoi Yamamoto, 1955、カラスヤンマChlorogomphus brunneus Oguma, 1926(四国を含む本土産のものは以前は亜種和名ミナミヤンマが使われていた)が生息する谷の上流部に向いました。

午後3時過ぎ、私達は目的地に到着しました。
うっそうとした山林が迫る細い谷川と棚田に挟まれた農道上で、杉本館長のカラスヤンマの習性や出現時期の解説が始まりました。

例年であれば、その棚田の上空をカラスヤンマの1頭や2頭が横切ってもおかしくないポイント、時期でしたが、なかなか現れません。

前の年の大雨で谷の環境が変わったことや、飛翔活動に適した温度や湿度の条件が影響していると考えられるとの館長のお話でした。

トンボの飛翔活動に湿度が大きく関係しているということは、館長の他の場面での別の種のトンボの話でも出ていました。

気温や日照、そして風や雨などの気象条件については私も自分の研究で考察したことが幾度かありましたが、湿度については虚を突かれる思いがし、大変勉強になりました。

私達はその場から移動し、今度はシコクトゲオトンボが見られるポイントに案内していただきました。
山林の中に谷川の支流の源流部が入り込んだような場所に、一歩一歩踏み入れます。

いました。
シコクトゲオトンボです。

もちろん、館長はもとより、同行の飯田さん、山本さんも相前後して見つけ出しています。
館長の解説を聞き流しそうになりながら、夢中でカメラレンズを向け、シャッターを押します。

樹陰で薄暗い中に、これまたくすんだ色の小さなイトトンボ(正確には、イトトンボ科とはまったく別のヤマイトトンボ科)がひっそりと止まっているものですから、露出不足だったり、ピンボケだったりの写真しか撮れず、空振り三振でした。
これはリベンジしかありません(明日があるさ!)。

訪問者3名が一通り、撮影し終わったところで、館長に導かれてもう一カ所のカラスヤンマの活動がよく見られる場所に移動しました(写真1)。

ヒメサナエが見られた川、高知県 
写真1 カラスヤンマ、ヒメサナエ等の観察地点 (写真はクリックで拡大します)

そこは、谷というよりも、小さな川の中流部から上流部への移行ゾーンのような景観で、砂礫で埋まった砂防ダム上を清冽な瀬がサラサラと音をたてているところでした。

川と並走する砂利道の脇のイタドリのような植物の葉の上に小さなサナエトンボが止まっていました(写真2)。

ヒメサナエ♂、葉上、右から 
写真2 ヒメサナエSinogomphus flavolimbatus 

ヒメサナエSinogomphus flavolimbatus (Matsumura in Oguma, 1926)♂です。
その場で、杉村館長からすぐ「ヒメサナエ」についての解説が入りましたので、このトンボとは初対面の割にすぐ仲良しになった感じでした。

しばらくすると、私達の頭上をかすめるようにカラスヤンマが通りかかりました。
カメラを構える間もなく、スイーっと視界のかなたに消えてゆきます

その後も、時おり、「ほら来た、こっちからそっちだ・・」と館長の指示がとびます。
高いところを曲線的に自由に飛び回り、ホバリングも交えませんので、私のカメラは空振りどころか、スイングさえほとんどできませんでした(大型のトンボとだけわかる写真が1枚のみ)。

このリベンジは、私の腕が数段、いや十数段も上達しないかぎり、簡単には出来そうもありません。
翌年以降に持ち越しです。

カラスヤンマの撮影こそできませんでしたが、その生態の一端を館長の貴重な解説つきで直接見ることができたのが本種について今回の唯一の収穫でした。

そのよう私の意欲の不完全燃焼から救ってくれたのは、小さなトンボ達でした。

川面に降りると、川中の大石の上にも、2,3頭のヒメサナエ♂が飛んだりとまったりしていました(写真3)。

ヒメサナエ、石上、左から 
写真3 ヒメサナエSinogomphus flavolimbatus 

そのうちの1頭にそっと近づき、正面から撮影したのが写真5です。

ヒメサナエ♂、正面 
写真4 ヒメサナエSinogomphus flavolimbatus 

写真4を部分拡大したのが写真5です。

ヒメサナエ♂とメミズムシ
写真5 ヒメサナエ♂とメミズムシSinogomphus flavolimbatus and Ochterus sp.

大きい黒目をクリクリさせ、いたずらっぽく口を開いた幼児を連想させる顔です。

そして、右手前(トンボから見て左下)には小さな虫がいて、じっとこのヒメアカネを見つめているようです。

この小さな虫をさらに拡大したものが写真6です。

メミズムシ 
写真6 ミズギワゴミムシの仲間(7月7日、訂正)

前翅の基部寄りの部分が革質化していることからカメムシ目、カメムシ亜目に属する昆虫であろうというところまではこの拡大写真から判断できます。
それにしても、複眼がクリクリと大きく、カメムシ類としては異様な形をしています。

種はなんでしょうか?
手元の昆虫図鑑で調べても出ていません。
そこで、「大きい目」「カメムシ」でGoogle検索したところ、酷似画像(外部リンク*)を掲載したサイト(シロさんの「自然観察雑記帳」*)が見つかり、種名や和名の由来も添えられていました。

【以下、★印まで、7月7日に書き換えました】

「メミズムシ(眼水虫)。半翅目(カメムシ目)カメムシ亜目(異翅亜目)メミズムシ科。学名 Ochterus marginatus。」(出典:シロさん:「自然観察雑記帳」)

というわけで、ヒメサナエと睨めっこしていたのは、メミズムシOchterus marginatus (Latreille, 1804)か、その近縁種であると判断し、いったんこのブログ記事にそのむね記述しました。

しかし、それをご覧になった、昆虫全般にお詳しい伊藤智さんから「写真の半翅は、触覚が長いことから、ミズギワカメムシの仲間かと思います。」とのご指摘がありました。

たしかに触角の長さがメミズムシとは全然ちがっています。ミズギワカメムシも確かに眼が大きく、触角は短いです。ということでメミズムシと私が判定したのは早計でした。
ここにメミズムシではなくミズギワゴミムシの仲間に訂正いたします。
伊藤さんにこの場を借りて感謝します。 
 ★

前後して撮影した別のヒメサナエ♂の写真を拡大すると(写真7)、小さな虫をムシャムシャとむさぼっていました。

ヒメサナエ♂、小昆虫を捕食中 
写真7 ヒメサナエSinogomphus flavolimbatus 

食べられているほうの小さな昆虫は透明でシンプルな翅脈をもつことからメミズムシでないことは確かです。
翅も腹も柔らかそうで、ヒメサナエは器用に口器をコントロールして、見る見る平らげていきました。

川面に突き出す大石の上にはヒメサナエのほかに、シオヤトンボOrthetrum japonicum (Uhler, 1858)の♀もとまりました(写真8)。

シオヤトンボ♀、高知県 
写真8 シオヤトンボOrthetrum japonicum ♀

かなり老熟した印象の個体です。
こちらは、食事をしていませんね。
腹の先が濡れていませんので、産卵動作をした後の休息でもなさそうです。

私達が観察・撮影を切り上げ、川面から川沿いの砂利道に戻ったところに、人懐こいノシメトンボSympetrum infuscatum (Selys, 1883)♂がやってきて、同行の飯田さんの手のひらにとまり(写真9)、そしてその後、ストローハットにもとまりました。

ノシメトンボ♂、高知県 
写真9 ノシメトンボSympetrum infuscatum ♂ (シオヤトンボと誤記したのを訂正、7月7日)

こちらは、秋が繁殖シーズンということで、6月のこの頃はまだうら若く、翅も艶々(つやつや)しています。

このポイントで、館長に入っていただき記念写真を撮り合い、この日の(拡大)トンボ王国の探訪を締めくくりました。

今回の記事を終えるにあたり、現地への案内ならびにトンボ各種の生態についての解説をして下さった杉村館長、現地への移動等でお世話になった飯田さんに改めて感謝の意を表します。


*外部リンク出典:
シロ:「自然観察雑記帳」: > 動物 > 昆虫・半翅目(カメムシ目) >メミズムシ


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2017-07-03 (Mon)
「トンボの楽園」という言葉は時々耳にしますが、楽園中の楽園は、やはり高知県四万十市(旧中村市)にある「四万十市トンボ自然公園」(別名「トンボ王国」)でしょう。

「トンボ王国」は、公益社団法人「トンボと自然を考える会」が里山であった池田谷の水田や畑地等の一部(約6.8ha)を取得し、あるいは借り受け、トンボの保護区を整備し、管理運営している(出典:トンボと自然を考える会のWebSite)、世界的に見てもトンボ保護のためのナショナルトラストの先駆けです。

そしてこの「トンボ王国」を含む池田谷のトンボ類は2008年現在で76種に達していて、同規模面積でのトンボ記録種数日本一を誇るとのことです(出典:トンボと自然を考える会のWebSite)。

1993年に大阪市で開催された第12回国際トンボ学シンポジウムの参加者を対象としたポスト・シンポジウム・ツアーの訪問先にもなったことがあり、海外からの大勢のトンボ研究者・愛好家を含む参加者を、トンボと自然を考える会の実質的な代表者である杉村光俊氏以下、トンボ王国の「住民」たちが「おもてなし」し、喜ばれたと伺っています。

私も大阪のシンポジウムには参加したのですが、その直後に釧路で開催された「国際シンポジウムートンボの生息環境とその保護」の準備と運営にあたらなくてはいけなかったため、トンボ王国へのツアーには参加せずじまいでした。

昨年6月、23年振りに、私がトンボ王国を訪ねる機会が巡って来ました。

それは、昨年春、フェイスブック上で愛媛県在住のアクティブなアマチュア昆虫写真家の飯田貢さんと「友達」になり、私がトンボ王国への訪問を考えていることを伝えたところ、ぜひ一緒にということで、トントン拍子に旅行計画ができあがったのが発端です。

もちろん、トンボ王国の杉村氏(トンボ王国に併設の「四万十川学遊館」の館長)にも、メールで連絡をとり、対応して下さるとのご返事をいただくことができ、旅行の手配をスタートと相成りました。

6月18日の昼過ぎ、飯田さん、同じくFB仲間でアマチュア昆虫写真家の山本桂子さんのお二人に案内いただき、私はトンボ王国の園地に到着しました。

学遊館の事務室への到着の挨拶もそこそこに、私たちはカメラを首に掛けて園地内の遊歩道に歩み入りました(写真1)。

四万十市トンボ自然公園の様子 
写真1 四万十市トンボ自然公園の遊歩道から学遊館方面を望む (写真はクリックで拡大)

当日のアメダス気温は28℃台、日照時間は7~8割と、梅雨時にもかかわらず、格好のトンボ日和となりました(私、晴れ男です、笑)。

早速、池の岸の草の丸い葉にとまる真っ赤な衣装のベニイトトンボCeriagrion nipponicum Asahina, 1967♂がお出迎えです。

続いて、胸部、頭部前面、脚の腿節にビッシリ粉を吹いたコフキヒメイトトンボAgriocnemis femina (Brauer, 1868)♂の登場です(写真2)。

コフキヒメイトトンボ♂ 
写真2 コフキヒメイトトンボAgriocnemis femina

私にとっては、10年ほど前に沖縄本島で出会い、写真も撮っていますので、それ以来の再会です。

コフキヒメイトトンボは、本州ではかつて山口県で記録されていただけで、本土では九州中南部と四国南部に限定されています(尾園ほか、「日本のトンボ」)。

次に姿を見せたのは、セスジイトトンボParacercion hieroglyphicum (Brauer, 1865)♂です(写真3)。

セスジイトトンボ♂ 
写真3 セスジイトトンボParacercion hieroglyphicum

遊歩道の澄んだ水が流れる浅い側溝の水面に突き出した枯草の細い茎に水平にとまっていました。
同属種も多いクロイトトンボ属のトンボで、一見しての区別は難しいですが、拡大すると肩黒条に淡色の細条が走っているのが見えて判別できます。

セスジイトトンボは私がトンボの研究を始めたばかりのウン十年前に北海道東部の湖畔で未熟な1個体を採集し、朝比奈正二郎先生のもとにお送りして同定していただき、初めて活字の報告にした思い出の種です。
生態写真の撮影は今回が初めてとなりました。

お次に控えしは、サナエトンボです(写真4)。

キイロサナエ♂ 
写真4 キイロサナエAsiagomphus pryeri

池につきだしたイネ科植物の葉にとまっています。
よく見ると、右前脚の付け根に、オレンジ色のミズダニがとりついています。

撮影した写真を帰宅後、図鑑と照らし合わせた結果、このトンボはキイロサナエAsiagomphus pryeri (Selys, 1883)♂と判定できました。
サナエトンボ科が貧弱な北海道に長く住んでいた私

相前後して、セリ科と思われる小さな草の葉にとまっているキイロサナエ♂も撮影できました。

少し移動したところの水辺の草には、モノサシトンボPseudocopera annulata (Selys, 1863)♀もとまっていました(写真5)。

モノサシトンボ♀ 
写真5 モノサシトンボPseudocopera annulata

左右にグーンと伸びた頭部の複眼際の頭頂部の黒と薄緑色が作り出す斑紋が印象的です。

水辺に立っている細い草の葉にとまり、体はぶらさがるのではなく鉛直に対して70度くらいになるように6本の脚でしっかりと支えられています。

コウホネがビッシリ繁茂する池では、水面から数十センチメートルの高さを飛び回るチョウトンボRhyothemis fuliginosa Selys, 1883を目撃しました。
望遠レンズの焦点距離が足りず、トンボのスピードも速いことから、証拠写真を残すのがやっとでした。

別の池では、大型のスゲ類の垂直の茎に、ハラビロトンボLyriothemis pachygastra (Selys, 1878)♂が鉛直にぶらさがっていました。
写真から、体は黒化し、青白い粉もかなり吹いてることが見てとれ、ほぼ成熟している個体と判断できました。

少し移動すると、池の水辺の水面すれすれの倒れた枯草の茎に体を預けるように、イトトンボが水平にとまっていました(写真6)。

アオモンイトトンボ♂型♀ 
写真6 アオモンイトトンボIschnura senegalensis の♂型♀

帰宅後、図鑑やウエブ情報と照らし合わせて、アオモンイトトンボIschnura senegalensis (Rambur, 1842)♂型(同色型)♀と同定しました。

かなりの時間を要しましたが、謎解きと共通するものがあり、時間を自由に使える者にとっては愉しい時間でもありました。

同じアオモンイトトンボ♀でも多数派である異色型♀は、♂とは全く異なる色彩をしており、その理由とかその比率とかは、同属他種の同様の現象と併せて、現在も国内外の研究者の研究対象となっています。

アオモンイトトンボ属の♀の二型の維持機構については、いずれ異色型♀の写真と併せて、項を改めて取り上げたいと思います。

さて、トンボ王国の遊歩道に戻ります。

池の水面に浮いた草の葉には、ユーモラスな姿勢をとったキイトトンボCeriagrion melanurum Selys, 1876の連結カップルが産卵中でした(写真7)。

キイトトンボ連結産卵
写真7 産卵中のキイトトンボCeriagrion melanurum の連結カップル

この連結カップルの♀は、産卵中も静止中も翅を100度から120度くらいまで開いていました。
気になってGoogleで画像検索したところ、先頭からのざっと10例ほどの画像のいずれにおいても、♀は翅を開いていました。
どうもこれがキイトトンボの一つのスタイルのようです。

後述のように、今回観察・撮影した同属種であるベニイトトンボの連結産卵でも、♀は翅を開いていました。
Google画像検索でお、連結産卵中のベニイトトンボ♀は翅を開いている画像がほとんどでした。

ちなみに属の異なるクロイトトンボParacercion calamorum (Ris, 1916)の検索では、大部分の画像で、連結産卵中の♀の翅は閉じ気味でした。

さて、次です。

まだここで撮影していない種を求めて、池から池へと歩を進めると、折れたスゲの葉にとまる、しっかり白粉を吹いたハラビロトンボの成熟♂が見つかり、撮影しました。

少し移動すると、花の芽の先端にコフキトンボDeielia phaon (Selys, 1883)♀がとまっていました(写真8)。

コフキトンボ♀ 
写真8 コフキトンボDeielia phaon

なにか、ちょっと腰が引けているというか、不安定な姿勢です。
よく見ると腹部の先端から何か、はみ出しています。
どうやら、フンのようです。
道理で(?)、この姿勢。。

この個体は♀ですが、若干白粉を吹いています。
腹部が真っ白になる♂ほどではありませんが。。。

コフキトンボ♀には白粉を吹く♂型♀と、白粉を吹かず翅に茶褐色の斑紋を持つ「オビトンボ型」♀の2型の存在が知られています。
私も別の機会に埼玉県内でオビトンボ型♀を撮影していますので、いずれこの2型について紹介したいと思います。

さて、トンボ王国の遊歩道を歩むと、浮揚植物が少なく開放水面が拡がる、大き目な池の真ん中に突き出ている棒の先にウチワヤンマSinictinogomphus clavatus (Fabricius, 1775)の♂がとまっていました(証拠写真のみ)。

少し移動した池の岸のイネ科の頂端の葉に、変わった色彩のイトトンボがとまっています(写真9)。

コフキヒメイトトンボ♂ 
写真9 コフキヒメイトトンボAgriocnemis femina 

腹部先端のオレンジ色が印象的です。
これも、帰宅後、図鑑と照らした結果、コフキヒメイトトンボ♂の成熟途中の個体と判定できました。

その後、いずれも岸辺の枯草の茎にとまっている、チョウトンボ♂ショウジョウトンボCrocothemis servilia (Drury, 1770)♂シオカラトンボOrthetrum albistylum (Selys, 1848)♂が目にはいりました(証拠写真)。

そのうち、ショウジョウトンボとシオカラトンボは同じ茎にとまっていて、シオカラトンボがショウジョウトンボの後方にショウジョウトンボ3頭分の身長と同じ距離を置いて、同方向を向いていました。
どちらもなわばり個体なので、一方が飛び上がれば干渉する関係ですが、どちらの種の個体もこのとまり場所がよほど気にいっているようです。

少し移動すると、スイレンの葉の縁近くにクロイトトンボの♂がとまっていました。
クロイト君は、今回も脇役をしっかり務めてくれています。

別の大きめのスイレンの葉の上では、ベニイトトンボが交尾していました(写真10)。

ベニイトトンボ交尾 
写真10 ベニイトトンボCeriagrion nipponicum の交尾

♀の体の一部が隠れていて、作品としては不完全なのですが、当ブログでは交尾の写真を未収録でしたので、ここに掲げておきます。

この後、別のペアの連結産卵も複数みられました(写真11)。

ベニイトトンボ連結産卵 
写真11 ベニイトトンボCeriagrion nipponicum 連結産卵

今回記事のキイトトンボのところでも触れたように、連結産卵中のこのベニイトトンボ♀も翅を開いています。
♂はキイトトンボの♂と同様、「歩哨姿勢」(連結した♂が直立不動でいる状態)をとり、翅は閉じています。

他に何かいないかな、と見て歩くと、今度は岸の枯草の水平な茎に水平にとまっているハラビロトンボを見つけました(写真12)。

ハラビロトンボ♂未熟 
写真12 ハラビロトンボLyriothemis pachygastra ♂、未熟個体

帰宅して拡大すると、それは♂の未熟個体だということが分かりました。
腹部は黒化しておらず、ましてや白粉はまったく吹いておらず、一見しただけでは♀との区別が困難なほどです。

園地での続きです。
ほどなく、ちょっと雰囲気の違うハラビロトンボがいました(写真13)

ハラビロトンボ♀
写真13 ハラビロトンボLyriothemis pachygastra ♀、未熟個体

画像を拡大すると尾の先端の形態から♀であることが、複眼の色彩が薄いところから未熟個体であることがわかります。

その後、チョウトンボ♂を撮影したところで、園内の観察・撮影は切り上げて、この日のトンボ王国での材を終了しました。

たった1時間そこそこの取材で、4科14種のトンボを観察・撮影することができました。
中でも、キイロサナエと初めて対面することもできましたし、2,3のトンボの種の成熟にともなう体色変化の一端を垣間見ることができました。

この後、杉村館長のご案内を頂くかたちで、私達3人はトンボ王国外のトンボ生息地へ向いました。

さすが、杉村館長、私にとってすばらしい成果を得る機会を用意していただくことができました。
その成果については次回の記事で取り上げます。

今回の記事を終えるにあたり、貴重な観察の機会を与えられた杉村館長、トンボ王国への移動や現地情報の提供などでお世話になった飯田さん、山本さんに改めて感謝の意を表したいと思います。


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