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2017-09-08 (Fri)
昨年7月下旬、埼玉県行田市の「古代蓮の里」(写真1)を訪問しました。

「花よりトンボ」が嗜好の私ですが、家族連れだったこともあり、多種多様な蓮の花を愛でるのが主目的でした。

それでも、普通種とはいえ、3種のトンボを撮影することもでき、印象に残る一日となりました。

行田市の古代蓮の里、園内の様子 
写真1 行田市の古代蓮の里、園内の様子(写真はクリックで拡大します)

多様な品種のハス Nelumbo nucifera Gaertn. (ヤマモガシ目、ハス科)の花と、そのすぐ横に設置された写真入りの説明版を交互に撮ったので、品種の同定に苦労しなくてすむのは大助かりです。

こうして撮影した品種の数は、ここに生育する42品種12万株(参考:行田市:「古代蓮の里」)といわれる花蓮のうちの約半数の23品種(+スイレン科2種+オモダカ科1種)に達しました。

以下に、それらの写真の中から、比較的花の形が整っていたものを、撮影順にご紹介します。

まずは舞妃蓮(まいひれん)です(写真2)。

舞妃蓮
写真2 ハス Nelumbo nucifera、品種:妃蓮(まいひれん)<Maihiren>

舞妃蓮は、赤沼・宮川(2010)「水の妖精 睡蓮と蓮の世界」によれば、大型爪紅(黄紅)一重咲種で、黄花種系の王子蓮と大賀ハスとの交配で誕生した品種とのこと。また、屈光性のため、花弁がややねじれるように展開する特徴を持つとのことです。

御坊市役所 さんの「御坊市の観光」の中の「舞妃蓮(まいひれん)」によれば、舞妃蓮は、昭和41年[1966年]に御坊市の阪本祐二氏が、アメリカの黄花ハス「王子蓮」と日本の「大賀蓮」を交配して作り出したもので、花の開閉があたかも女性の舞い姿のようであることから、阪本祐二氏によって『舞妃蓮』と名付けられたものだそうです。

確かに、この花の姿には純白のドレスを身にまとい舞い踊る妃のイメージと重なるものがあります。

次は碧台蓮(へきだいれん)です(写真3)。

碧台蓮
写真3 ハス N. nucifera、品種:碧台蓮(へきだいれん)<Hekidairen>

碧台蓮は、ikiiki-zaidanさんの「42種類の花蓮」によれば、白蓮系統、八重の品種で、花弁は100枚~120枚、江戸時代から伝わるものとのことです。

品種名に碧がつくだけあって、白い花弁の先端付近がうっすらと緑色を帯びています。
開ききっていないこともありますが、清楚な雰囲気の漂う花です。

写真4は、この園地の主役、行田蓮(古代蓮)(ぎょうだはす)です。

行田蓮 
写真4 ハス N. nucifera、品種:行田蓮(古代蓮)(ぎょうだはす)<Gyodahasu>

京都 花蓮研究会さんの「主な花蓮品種」によれば、行田蓮(古代蓮)は、一重・大型・無条で、花色は桃色、弁先に濃い桃色が入るとされています。

私が見るに、大輪の花で、色も艶やか、古代蓮の里の主役たる資質を備えて余りあります。

行田市役所の「行田市勢要覧2016」によれば、行田蓮(古代蓮)は、昭和46(1971)年、公共施設の建設現場で偶然出土した蓮の種子が自然発芽し、掘削によってできた水たまりで2年後に開花したもので、出土した縄文土器と古代蓮として知られている「大賀蓮」を参考に、種子は2千500年から3千年前のころのものと推定したもの。昭和50(1975)年にアイソトープで年代測定した結果、1千400年前と推定された経緯があるとのことです。

古代蓮の里園地内の古代蓮池には約10万株の行田蓮(ikiiki-zaidanさんの「42種類の花蓮」参照)が繁茂しているとのことです。

写真5は、小舞妃蓮(しょうまいひれん)です。

小舞妃蓮
写真5 ハス N. nucifera、品種:小舞妃蓮(しょうまいひれん)<Shoumaihiren>

宮川花園さんの「品種名、小舞妃(しょうまいひ)」によれば、小舞妃(しょうまいひ)は、小型・一重咲きの中国蓮系品種で、花弁元にわずかに黄色が入り、花弁先には紅がかすれるように入るとのことです。

花弁の先の紫色が強いアクセントになっていて、洗練された美を体現している感じです。

写真6は、中国古代蓮(ちゅうごくこだいはす)です。

中国古代蓮
写真6 ハス N. nucifera、品種:中国古代蓮(ちゅうごくこだいはす)<Chugokukodaihasu>

京都 花蓮研究会さんの「主な花蓮品種」によれば、中国古代蓮は、一重、大型、花色は桃色であるが大賀蓮よりうすい紫紅色の品種とのことです。

円形に近い花弁が大きく開き、はしゃぎまわる屈託のない子供を連想させます。

蓮文化研究会さんの「蓮 の Q&A」の中の「002 古代蓮というのは?」によれば、中国古代蓮の名の由来は、「蓮の研究に尽力された大賀一郎氏が、戦前、中国・大連市近郊の普蘭店で発掘した、約1000年前の古蓮の実を開花させ、その蓮の花をフランテン蓮、別名を中国古代蓮と呼んだ」ことにあるとのことです。

写真7は、原始蓮(げんしはす)です。

原始蓮
写真7 ハス N. nucifera、品種:原始蓮(げんしはす)<Genshihasu>

京都 花蓮研究会さんの「主な花蓮品種」によれば、原始蓮 (げんしばす)は、紅一重大型有条の品種で、花弁は幅が広く、色はやや濃い桃色、条線は鮮明であるとされます。

ピンク色の花弁の先端が紅色に染まる、ひときわ艶やかな花です。

石田精華園さんの「原始蓮:天然記念物指定品種」には、原始蓮(げんしはす)は東大阪市善根寺に保存されていた地蓮が大賀一郎博士によって原始的な蓮として1936年に命名されたとあります。

東大阪市役所さんの「季節の花」のうちの「原始ハス」には、「原始ハスは、『古事記』のなかで歌人・引田部赤猪子が『日下江の入江のハチス花ハチス 身の盛り人羨しきろかも』と詠んだハスと言われ、約1600年前の5世紀ごろから咲き誇っていたとされています」とあります。

写真8は、明光蓮(めいこうれん)です。

明光蓮 
写真8 ハス N. nucifera、品種:明光蓮(めいこうれん)<Meikouren>

明光蓮は、ikiiki-zaidanさんの「42種類の花蓮」によれば、紅蓮系統に属する一重の品種で、蜀紅蓮と舞妃蓮の交雑品種とのことです。

明光蓮の親品種の一つである舞妃蓮は、写真2のように花色は淡い黄白色にわずかに淡紅色が入るだけですが、明光蓮では紅色がはっきりと出ています。

これは、もう一つの親品種である蜀紅蓮の遺伝子がなせる業でしょう。

というのも、宮川花園さんの「蜀紅(江)蓮 (しょっこうれん)」(画像もあり)の説明文の中に、蜀紅蓮は、「日本のハスの中では最も紅が濃い品種と言われ、盛夏には赤黒い花を目にする事もあります」とあるからです。

以上、ハスの7品種の写真をそれぞれの品種についての情報を添えながらご紹介しました。


古代蓮の里のスイレン科の植物(1)

以下は、古代蓮の里に植栽されていて、花の雰囲気もハスと似ていますが、分類学上は大きく離れているスイレン科の植物のを撮ったものです。

最初に、スイレン(温帯性スイレン) Nymphaea sp. です(写真9)。

スイレン
写真9 スイレン(温帯性スイレン) Nymphaea sp.

スイレンの花を見ると、多くの方がそうだと思いますが、私も、有名なクロード・モネ(Claude Monet)の一連の名画「睡蓮」( Les Nymphéas)を思い出します。

モネの睡蓮の池にあったのも温帯性スイレンと言われていますので、それもそのはずです。

温帯性スイレンは複数種よりなり、かつ多数の品種が存在しているようですので、今回、種の判定は保留としました。

日本に自生するスイレン属の唯一の種はヒツジグサ Nymphaea tetragona Georgi で、私が大学院生時代にトンボの生態を調査していた札幌市郊外の山中の沼に生育していました。

ヒツジグサは、花弁が10枚ほどの白い花を咲かせる、どちらかといえば地味な種で、ヨーロッパでは北部に分布が限られているようです。

(※以前の記事「奥の蜻蛉道(4):アマゴイルリトンボとの出会い」中に登場したヒツジグサはスイレンに訂正しました)。


スイレンとハスの分類学的関係

スイレンハスは生態学的地位が酷似しており、花や葉の形もよく似た面がありますので、以前は分類学的にも近い扱いを受けていました。

すなわち、少し古い体系である「新エングラー分類体系」(参照:http://hosho.ees.hokudai.ac.jp/~tsuyu/top/plt/engler-j.html#engler)では、スイレンハスキンポウゲ目スイレン科に所属していました(参考:www.geocities.jp/smsnishio/green/ENG.pdfhttp://lab.agr.hokudai.ac.jp/cbg/code/cbg_code3001.html)。

しかし、APG III(2009)による、最近のDNA分析による系統分類の見直しに基づく系統分類体系(APG III体系)においては、ハス(ハス科)は、スイレンとは系統的に大きく隔たった、ヤマモガシ目の中におかれています。

そして、スイレンスイレン目の中に置かれています。

スイレン目は、見かけによらず、現存するすべての被子植物の中で2番目に古い時期に系統が分岐したグループであるとされています(画像:外部リンク;画像リンク先:吉村泰幸さんの「C4植物のきほん」)。

一方、ヤマモガシ目は、スイレン目が分岐した後の被子植物の大きな進化の中で、モクレン類、単子葉植物、マツモ目、キンポウゲ目が次々と分岐したあとの「幹」が、バラ目を含むマメ類、アブラナ目を含むアオイ類、ナス目を含むシソ類、キク目を含むキキョウ類など多様な群に分化する少し前に分岐した、比較的新しい系統とされています。

久保ほか(2015)は、国内の代表的花蓮品種を含む220系統のハスについて、「ハスSimple Sequence Repeat(SSR)マーカー」25遺伝子座の遺伝的変異に基づいて解析し、5つの大きなグループに分類しています(系統樹画像:外部リンク)。

分類のほうに話が大きく脱線してしまいました。


古代蓮の里のスイレン科の植物(2)

古代蓮の里での私の撮影写真に戻ります。

写真10は、コウホネ Nuphar japonica DC. です。

コウホネ
写真10 コウホネ Nuphar japonica

以前の記事「奥の蜻蛉道(4):アマゴイルリトンボとの出会い」には、山地のトンボの住む沼に生育している同属種オオゼコウホネ Nuphar pumilum var. ozeense が登場しています。

コウホネは、スイレン目、スイレン科に属しており、これもAPG分類によってハスとは縁遠い存在となった一員です。


「古代蓮の里」のトンボ達

お待たせしました。

最後になりましたが、今回はわき役に回ったトンボ達をご紹介します。

まずは、チョウトンボ Rhyothemis fuliginosa Selys, 1883 ♀です(写真11)。

チョウトンボ♀ 
写真11 チョウトンボ Rhyothemis fuliginosa ♀

ピントが超甘ですが、これまでこのブログに♂の写真は何度も登場していますが、♀は登場していませんでしたので、今回、ちょい役ながら出てもらうことにしました。

♀の翅色は、♂(下の写真)にくらべて黒褐色系でたいへん地味です。

写真12チョウトンボ です。

チョウトンボ♂(1) 
写真12 チョウトンボ R. fuliginosa  ♂

後翅の基部が大きく広がっていますので、トンボの中では確かに蝶に形が似ています。

♂はそれに加えて、翅の色が青紫色で太陽光線の跳ね返り方によって虹色の輝きが現れます。
写真12でも後翅基部後半分あたりで、赤紫から始まる虹色のスペクトルを見せつけています。

写真13は同じ個体ですが、頭の向きが微妙に異なっています。

チョウトンボ♂(2)
写真13 チョウトンボ R. fuliginosa  ♂(写真12と同一個体)

視界の中を通り過ぎる他の昆虫をしっかり観察していることが伺えます。

 ※チョウトンボが主役となった過去記事を以下にご紹介します。

写真14クロイトトンボ Paracercion calamorum (Ris, 1916) ♂です。

クロイトトンボ♂ 
写真14 クロイトトンボ Paracercion calamorum (Ris, 1916) ♂

いつも脇役のクロイト君ですが、今回のこの♂は、思わず主役にしたくなるような黒さ。
本当に黒いです。

写真15シオカラトンボ Orthetrum albistylum (Selys, 1848) ♂です。

シオカラトンボ♂(1) 
写真15 シオカラトンボ Orthetrum albistylum

ピントが甘いですが、早い時点でカメラの前に登場してくれた個体ですので、アップしました。

写真16は、近くにとまった別のシオカラトンボ♂です。

シオカラトンボ♂(2)
写真16 シオカラトンボ O. albistylum ♂

錆びた鉄パイプにとまるところが、いかにもシオカラ君らしいです。

シオカラトンボも過去記事に時々登場します。

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引用文献:
-赤沼敏春, 宮川浩一 2010 水の妖精 睡蓮と蓮の世界。エムピージェー。
-APG III. 2009. An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG III. Botanical Journal of the Linnean Society  161: 105–121.
-久保中央, 金子明雄, 山本和喜 (2015) SSRマーカーに基づく巨椋池系品種群を含む日本国内花蓮品種の分類. 育種学研究 17: 45-54.



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