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2018-03-28 (Wed)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征では、初対面の種を含む多くのトンボとの出会いがありました(関連記事はこちら)。

最初に訪れた生息地(溜池A写真13)で観察されたトンボのキャスト紹介もいよいよ大詰め、第七報の今回は、ムスジイトトンボ Paracercion melanotum (Selys, 1876) と、同じイトトンボ科の混住者アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis (Rambur, 1842) アジアイトトンボ Ischnura asiatica (Brauer, 1865) を取り上げます。


目 次:
 ◆ムスジイトトンボとの出会い
 ◆ムスジイトトンボの交尾カップル
 ◆アオモンイトトンボ、大石にとまる
 ◆花を抱くアジアイトトンボ
 ◆アジアイトトンボ♀の身づくろい
 ◆最初の訪問地で見られた均翅亜目のまとめ
 ◆ムスジイトトンボの、類似種との区別点
 ◆謝辞
 ◆引用文献


ムスジイトトンボとの出会い

午前10時の少し前、岸近くの浮葉・沈水植物帯では、オオキトンボ連結ペアの、産卵するでもなく、交尾するでもない動きがありました(こちらの過去記事の写真4,5を参照)。

その現場から視線を少し左にずらしたところ、スラリとしたボディーを鮮やかなブルーと黒でコーディネートしたイトトンボが目に入りました(午前9時58分)。

ムスジイトトンボと私との初めての出会いです(写真1)。

ムスジイトトンボ♂ 
写真1 ムスジイトトンボ Paracercion melanotum ♂(写真はクリックで拡大します)

そのムスジイトトンボの♂は、ヒルムシロ属 Potamogeton の水に半分以上浸かった花穂にとまっていました。

このあたりの水草に産卵しにやってくる♀を、待ち受けているに違いありません。

ムスジイトトンボの、類似種(四国地方で分布が重なるクロイトトンボ属 Paracercion アオモンイトトンボ属 Ischnura の種)との区別点については、この記事の末尾の「ムスジイトトンボの類似種との区別点」の項で一括記述します。

他にもこのトンボはいないかと、沈水植物帯上で視線をスライドさせると、案の定、いました(写真2)。

ムスジイトトンボ♂ 
写真2 ムスジイトトンボ Paracercion melanotum  (別個体)

こちらは沈水植物(タヌキモ属 Utricularia?)の、水面ひたひたの葉にとまっています。

つま先から踵(かかと)あたりまで水びたしですが、へっちゃらのようです。

拡大して見ると、顔面や翅胸前面などに長毛が生えていて、少々驚かされます。

右中脚基部と右後脚基部の中間に、ミズダニと思われる茶色の半球状の物が付着しています。

おや、後脚を延ばして、体全体を前傾させました(写真3)。

ムスジイトトンボ♂ 
写真3 ムスジイトトンボ Paracercion melanotum ♂ (写真2と同一個体)

何かに反応したのでしょう、すぐにでも飛び立てるかのような姿勢です。

しかし、すぐに体を水平に戻しました。

そして、水に浸った水草の上を横方向に少し歩いて、体軸をやや左向きに変えました(写真4)。

ムスジイトトンボ♂ 
写真4 ムスジイトトンボ Paracercion melanotum ♂(同一個体)

こちらのほうが足場がよりしっかりしていそうです。

写真5は、他のトンボを観察した後の11時37分頃、沈水植物(タヌキモ属 Utricularia?)の花茎の先端にとまっていたムスジイトトンボ♂です。

ムシジイトトンボ♂ 
写真5 ムスジイトトンボ Paracercion melanotum ♂ 別個体

花にはピントが合っていますが、顔や複眼がぼやけて撮れたのは少々残念です。

それでも、種の同定に援用できる前頭部の黒斑はしっかり写っていました(詳細は文末の「ムスジイトトンボの類似種との区別点」の項で)。


ムスジイトトンボの交尾カップル

10時34分頃、岸上の草にとまって交尾していたオオキトンボの観察を切り上げて、浮葉・沈水植物体に目を向けると、少し離れたヒシ属 Trapa の浮葉の上で、ムスジイトトンボが交尾しています(写真6)。

ムスジイトトンボ交尾 
写真6 ムスジイトトンボ Paracercion melanotum 交尾ペアと単独♂

同じ株から広がった別の浮葉上には、2頭の同種♂がとまっていて、更にもう1♂がやって来てとまろうとしています。

しかし、交尾中のカップルを邪魔するでもなく、じっとしています。

このカップルが離別するのを待っているのでしょうか(笑)?

カップルのほうは、落ち着かないのでしょうか、何度か軽く飛び上がってはとまり替えています(写真7)。

ムスジイトトンボ交尾 
写真7 ムスジイトトンボ Paracercion melanotum 交尾ペア(同一)と単独♂

隣の独身者が少々気になりますが、交尾は続きます(写真8)。

ムスジイトトンボ交尾 
写真8 ムスジイトトンボ Paracercion melanotum 交尾ペア(同一)と単独♂

おっと、今度はパートナー♂が♀を吊り上げています(写真9)。

ムスジイトトンボ交尾 
写真9 ムスジイトトンボ Paracercion melanotum 交尾ペア(同一)と単独♂(同一)

しばらくすると、また少し飛び上がりました(写真10)。

ムスジイトトンボ交尾 
写真10 ムスジイトトンボ Paracercion melanotum 交尾ペア(同一)と単独♂

この溜池には次から次へといろいろなトンボが現れるので、ムスジイトトンボの観察はこのくらいにして、堤体側の岸上に視線を向けました。

※シリーズ記事の第四報で取り上げた、リスアカネの打空産卵(関連過去記事はこちら)を観察したのは、このタイミングでした。


アオモンイトトンボ、大石にとまる

更に岸上で視線を降ると、大きな石の上に、低木の影に隠れるようにイトトンボがとまっています(写真11)。

アオモンイトトンボ♂ 
写真11 アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis 

アオモンイトトンボ♂です。

このトンボが石の上というのは、ちょっと珍しい。

※アオモンイトトンボについての過去記事一覧はこちらです。


花を抱くアジアイトトンボ

ふたたび沈水植物体に視線を向けると、おや、また別のイトトンボがいます(写真12)。

アジアイトトンボ♂ 
写真12 アジアイトトンボ Ischnura asiatica

今度は、アジアイトトンボの♂です。

沈水植物(タヌキモ属 Utricularia?)の水面上に突き出した花茎の先端にとまっています。


アジアイトトンボ♀の身づくろい

振り返って、岸上を見渡すと、大石をバックに、横倒しの草の茎に水平にイトトンボがとまっています(写真13)。

アジアイトトンボ♀ 
写真13 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♀

こちらも、アジアイトトンボ、ただしです。

腹部上下運動(abdominal bobbing)をしています。

翅や腹部についた塵などをこすり落とす機能をもつ動作です。

このシーンでは、前後翅を大きく前後(上下)にずらし、腹部を2枚の後翅ではさんでこすっています。

同じ個体を、少し後でズームインして写したのが、写真14です。

アジアイトトンボ♀ 
写真14 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♀ (同一個体)

青と黒のコントラストを売りにしている成熟♂に比べて、成熟♀は目立たない色合いです。

写真15も同じ個体です。

アジアイトトンボ♀ 
写真15 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♀ (同一個体)

この写真の前後2,3枚も同様の姿勢だったことから、腹部上下運動は終っていて、通常の静止状態であることがわかります。

腹が少し曲がったままのところからは、リラックスした感じが伝わって来ます。

※アジアイトトンボについての過去記事一覧はこちらです。


最初の訪問地で見られた均翅亜目のまとめ

最初の訪問地である溜池A写真16)で見られたイトトンボ科は、ムスジイトトンボ、アオモンイトトンボ、アジアイトトンボの3種です。

均翅亜目のカウントには、前回記事(こちら)で取り上げたアオイトトンボ Lestes sponsa (Hansemann, 1823)が加わり、4種となりました。

溜池その1 
写真16 最初の観察地(溜池A)(再掲)。

溜池Aのトンボ生息地としての特徴については、本シリーズ第一報で簡単に紹介しています。

本シリーズ、次回記事では、カトリヤンマとオニヤンマを取り上げる予定です。


ムスジイトトンボの、類似種との区別点

ムスジイトトンボは、宮城県以西の低地で分布が重なる、同属(クロイトトンボ属 Paracercion)のオオイトトンボセスジイトトンボクロイトトンボと形態がよく似ていますし、見る角度によっては別属(アオモンイトトンボ属Ischnura)のアオモンイトトンボアジアイトトンボと紛らわしい場合もありますので、慎重に同定する必要があります。

以下、浜田・井上(1985)、杉村ほか(1999)および尾園ほか(2012)を参考に、成熟♂における、本種と上記の類似種との区別点を整理しておきます。

文中で、各トンボの和名をクリックすると、当ブログのアルバムから選ばれた成熟成虫写真表示されます。

頭部:
オオイトトンボセスジイトトンボ複眼が若干緑がかった青色、クロイトトンボの複眼が背面が黒色、下(腹)面が緑がかった灰褐色なのに対し、ムスジイトトンボの複眼は緑味のない青色です。

オオイトトンボセスジイトトンボ眼後紋(後頭部に左右1対ある淡色斑)は大きな太めの三角形ですが、ムスジイトトンボの眼後紋は細くて横長、あるいはクロイトトンボのように小さくなっています。

オオイトトンボセスジイトトンボには後頭条(後頭部後縁にあり、左右の眼後紋をつなぐ淡色紋)がありますが、ムスジイトトンボクロイトトンボにはないのが普通です。

写真5のムスジイトトンボを拡大して見ると、青色の頭頂部の前縁中央に横長の小黒斑が見えます。この小黒斑は、同属のセスジイトトンボやオオセスジイトトンボには存在しますが、クロイトトンボやオオイトトンボには見られません。

胸部など:
クロイトトンボのでは胸部や腹基部、脚などに青白い粉が吹きますが、ムスジイトトンボオオイトトンボセスジイトトンボでは、そのようなことはありません。

腹部:
クロイトトンボでは腹部第10節が黒く、青色の第8、9節背面に目立つ黒斑があるのに対し、ムスジイトトンボでは腹部第8、9、10節は青一色です(ただし、10節背面に小黒斑が見られる個体もあり)。

オオイトトンボでは腹部8、10節背面に小黒斑があり、セスジイトトンボでも8、10節背面に小黒斑があったりなかったりですが、いずれも第9節に黒斑はありません。

アオモンイトトンボ属の類似種とムスジイトトンボとは、腹部第8、9、10節の黒斑の現れ方で容易に区別できます。

すなわち、アオモンイトトンボでは腹部第9、10節背面に大きな黒斑があるため第8節背面のみが青く見え、アジアイトトンボでは腹部第8、10節背面が黒色のため、第9節背面のみが青く見えます。

以上、いずれも成熟♂についての区別点ですので、♀や未成熟の♂には、当てはまりません。


謝辞:
現地で案内して下さった飯田貢さん、高橋士朗さん、他の皆さんに謝意を表したいと思います。


引用文献:

浜田 康・井上 清 (1985) 日本産トンボ大図鑑。講談社。

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司 (1999) 『原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』。北海道大学図書刊行会。


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2018-03-21 (Wed)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征では、初対面の種を含む多くのトンボとの出会いがありました(関連記事はこちら)。

第六報の今回は、最初に訪れた生息地(溜池A:写真13)で観察された、タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax (Hagen in Selys, 1854)(サナエトンボ科)をとりあげます。

脇役として、 アオイトトンボ Lestes sponsa (Hansemann, 1823)(アオイトトンボ科)にも登場してもらいます。


目 次:
 ◆タイワンウチワヤンマとの再会
 ◆「ちょっと邪魔だネ、アオイトトンボさん」
 ◆私とタイワンウチワヤンマ
 ◆タイワンウチワヤンマの北上・東進
 ◆アオイトトンボをじっくり眺める
 ◆最初の訪問地の景観
 ◆謝辞
 ◆引用文献


タイワンウチワヤンマとの再会

本シリーズ第三報で取り上げた、ノシメトンボの連結打空産卵の撮影を一通り終えた後(午前10時51分)、岸辺に目をやると、折れた草の上にタイワンウチワヤンマ♂がとまりました(写真1)。

タイワンウチワヤンマ♂ 
写真1 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax  ♂。輝度調整後(以下同様)。(写真はクリックで拡大します)

きちんと畳んだ前脚を複眼の後に立てるように格納し、中脚と後脚でガマ属 Typha と思われる草の葉の折れ目にとりすがっています。

少し違った角度からの撮影を狙って、私が被写体に向って少し右に移動してから撮ったのが、写真2です。

 タイワンウチワヤンマ♂
写真2 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax  同一個体)。(撮影者の位置を向って右に移動後)。

引き続きカメラを向けていると、おやおや、この♂はとまったまま、体軸の向きを少しずつ変えました(写真3~5)。

タイワンウチワヤンマ♂ 
写真3 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 同一個体)

タイワンウチワヤンマ♂ 
写真4 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 同一個体)

最終的に、写真2の位置から(上から見て時計回りに)約135度回転するように、向きを替えました(写真5)。

タイワンウチワヤンマ♂ 
写真5 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 同一個体)

この♂は、結果として、ファッションショーでのモデルのように、あらゆる角度からの姿を、観察者(たち)に見せてくれたことになります。

トンボにとってのこの回転の目的は、この狭くやや不安定なとまり場所で、少しでも座り心地のよい態勢をとろうとしたためではないでしょうか。


「ちょっと邪魔だネ、アオイトトンボさん」

ようやく落ち着いたのも束の間、こんどはすぐ横にアオイトトンボの連結ペアがとまりました(写真6)。

タイワンウチワヤンマ♂&アオイトトンボ連結ペア 
写真6 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 同一個体)アオイトトンボ Lestes sponsa 連結ペア

このときの、トンボのバタつきで、トンボたちが載っている葉がフワフワと揺れたであろうことが、タイワンウチワヤンマの乗っている葉の、折れ目部分の開き具合の違い(写真6写真7)などから伺われます

タイワンウチワヤンマ♂&アオイトトンボ連結ペア 
写真7 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 同一個体)アオイトトンボ Lestes sponsa 連結ペア同一ペア)

この予期せぬ同席は、アオイトトンボ連結ペアにとっても、かなり居心地が悪そうに見えます。
ペアにとっても、この場所に留まる理由はあまりなさそうです。

写真8は同じ池の岸ですが、枯れかけた植物の茎の折れた先端分にバランスよくとまるタイワンウチワヤンマ♂です(11時22分)。

タイワンウチワヤンマ♂ 
写真8 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 同一個体)

写真8の撮影時点は、写真7の30分後ですが、右前翅の破損状態が一致したので、どちらも同じ個体であることが判明しました。

もしかすると、アオイトトンボトンボ連結ペアよりも先に、このタイワンウチワヤンマ♂のほうが写真7までのとまり場所から移動したのかもしれません。


私とタイワンウチワヤンマ

今回記事の最初の小見出しを「タイワンウチワヤンマとの再会」とした理由は、私が27年前の本場台湾での海外調査の際に、台北県の内双渓で初めて対面し、標本も採集していたからです(7月下旬;数日後に日月潭でも採集;生方ほか 1992)。

この台湾調査では、前回のブログ記事で取り上げたハネビロトンボも記録しています(ただし、標本は調査団長であった東和敬博士が採集)。


タイワンウチワヤンマの北上・東進

タイワンウチワヤンマは、日本列島で北上を続けているトンボの種の一つとして、よく知られています。

私は、地球温暖化が国際問題化しはじめた当時、『温暖化に追われる生き物たち―生物多様性からの視点』(堂本・岩槻編)という本で、一つの章「地球温暖化の昆虫へのインパクト」(生方 1997)の執筆を担当しました。

その中で蝶やトンボを中心に国内外での昆虫分布への温暖化の影響の事例を取り上げましたが、タイワンウチワヤンマはその中で日本において北上する南方系トンボの顕著な例として取扱いました。

その中で、本種が1970年代に四国から瀬戸内海を越えて岡山県や紀伊半島に分布を拡げ、1990年代前半には大阪平野を越えて琵琶湖まで到達していることを、主に青木典司氏の論文(Aoki 1997)に依拠して、紹介しました。

本種は、その後も北上を続けており、『日本のトンボ』(尾園ほか 2012)の分布地図では、瀬戸内海沿岸、紀伊半島沿岸、伊豆半島以西のの東海地方沿岸、島根県以西の日本海沿岸まで分布が拡大していることがわかります。

互井賢二氏の報文(互井、2018)によれば、神奈川県や東京都ではすでに本種の生息が確認されていて、千葉県でも今年(2018年)中に確認される可能性があるとのことです。

青木氏のブログ記事(青木 2017)に掲載されている、本種の10年単位の分布域の拡大のgifアニメ(図1)を見ると、瀬戸内海を越えてからの本種の分布拡大は、北上というより、むしろ東進と表現したほうがピッタリな変化となっています。

上記ブログ記事(青木 2017)では、本種の分布拡大の原因として、以下の5つの対立仮説を並列させ、それぞれについてデータと照らして検討しています(仮説に番号をつけたのは引用者)。

(1)開発により、広大な開水面を持つ止水域が誕生することで分布が拡大した。
(2)(北上しつつある個体群が)より気温の低い地域に適応できるように変化した。
(3)種間競争など,別の分布を制限する要因の障壁がなくなって分布拡大が可能になった。
(4)(本種は)開けた平地を好む種であることから、(海岸線づたいに)分布拡大した。
(5)分布拡大は温暖化によって引き起こされた。

その結果、青木氏は、過去100年の気温変動による等温線の北上や、現在の等温線と本種の分布境界の一致などから、温暖化原因説(つまり対立仮説5)が妥当であると結論しています。

そして、全国的に,本種の分布の最前線(日本における北限)に一致する(1993年~1994年の)冬期の等温線は、約5.7℃の線であったとのことです(青木 2017)。

幼虫の温度耐性や成長速度、成長可能期間の長さなどのについても検討を加えた青木氏のこの論考は、なんでもすぐに温暖化のせいにするのではなく、科学的で冷静な観点に照らすことの必要性を見事に示しています。

それはそれとして、温暖化が環境破壊、環境汚染とともに生物多様性を大きく損なう要因になっている現実に対して、目を反らすことなく、その原因を抑制していく方向で努力し続けることも大切だと私は思います(自戒をこめて)。


アオイトトンボをじっくり眺める

今回記事の写真6,7アオイトトンボが登場しましたので、この日、この池(溜池A)で撮影した他のアオイトトンボについても描写しておこうと思います。

まずは、沈水植物帯の水面に突き出した枯れ枝の先にとまる、独身のアオイトトンボ♂です(写真9)。

アオイトトンボ♂ 
写真9 アオイトトンボ Lestes sponsa ♂ 別個体(輝度調整後、以下同様)

水面上、それほど高くない位置の枯れ枝の先にほぼ水平にとまっています(10時44分)。

露出オーバーとなってしまった写真の、輝度を調整した写真ですので、コントラストが不自然にきつくなっています(ご容赦を)。
 
同じ個体を別の角度から撮影したものをトリミングしてみました(写真10)。

アオイトトンボ♂ 
写真10 アオイトトンボ Lestes sponsa ♂ (写真9と同一個体、トリミング)

6本の脚の棘の生えた跗節でしっかりと細枝をつかんでとまっています。

前脚、中脚は細枝を左右から挟むように、後足は枝の下面に押し当てるようにして、体の水平位を保たせています。

このアオイトトンボをしばし眺めていると、前胸背板の前後幅の大きさに、やや違和感を覚えます。
まるで長い首を大袈裟な詰襟で被っているかのようです。

この違和感は、私が、これまでの一連のシリーズ記事の制作過程で、不均翅亜目のトンボの写真ばかりを眺めていたせいではあるのですが。

♀の前胸背板は均翅亜目(イトトンボ、カワトンボなどの仲間)が雌雄連結する際に、♂が尾部付属器で左右から挟んで掴む箇所ともなっています。

異常連結の場合は、♂のこの前胸背板が、別の♂の尾部付属器で掴まれることもあります。

写真11は、岸のヨシか何かの枯れ茎にとまる、アオイトトンボ連結ペアです(10時28分)。

アオイトトンボ連結ペア 
写真11 アオイトトンボ Lestes sponsa 連結ペア (写真10とは別個体)

この連結ペアの♀の、頭部・胸部をトリミングしたのが、写真12です。

アオイトトンボ連結部分拡大
写真12 アオイトトンボ Lestes sponsa 連結ペア(写真11をトリミング)

♂の尾部付属器と♀の前胸背板の、がっちりした結合状態が見てとれます。

現生のトンボの祖先が、このような結合を、少なくとも2億5千万年前から行っていたことに思いを巡らせると、これらの生き物を高々数千年の経済活動の結果、滅亡させつつある人類の愚かさに気づかされます。


最初の訪問地の景観

最後になりましたが、毎回掲載している最初の訪問地である溜池Aの写真を、今回も文末に掲げます(写真13
)。

溜池その1 
写真13 最初の観察地(溜池A)(再掲)。

溜池Aのトンボ生息地としての特徴については、本シリーズ第一報で簡単に紹介しています。

本シリーズ、次回記事では、ムスジイトトンボを取り上げる予定です。


謝辞:
現地で案内して下さった飯田貢さん、高橋士朗さん、他の皆さんに謝意を表したいと思います。


引用文献:

Aoki, T.(青木典司)(1997) Northward expansion of Ictinogomphus pertinax (Selys) in eastern Shikoku and western Kinki Districts, Japan (Anisoptera: Gomphidae). Odonatologica 26, 121--33. 

青木典司(2017)温暖化? 北上するタイワンウチワヤンマ。神戸のトンボ(ブログ)。http://www.odonata.jp/04topics/Ictinogomphus_pertinax/index.html (更新:2017.01.03 12:00)

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

互井賢二(2018)ベニトンボの北上のこと.ト ン ボ 通 信, (138):1-5.房総トンボ研究所。

生方秀紀(1997)「地球温暖化の昆虫へのインパクト」堂本・岩槻編『温暖化に追われる生き物たち―生物多様性からの視点』。築地書館。273-307.

生方秀紀、東 和敬、野間口真太郎、朱 耀沂(1992 )台湾の北部・中部の森林生態系におけるトンボ類の生態分布(I) 1990年度のトンボ目採集記録。Tombo, 35:57-61。


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2018-03-15 (Thu)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征では、初対面の種を含む多くのトンボとの出会いがありました(関連記事はこちら)。

第五報の今回は、最初に訪れた生息地(溜池A:写真15)で観察された、ハネビロトンボ Tramea virginia (Rambur, 1842)ギンヤンマ Anax parthenope (Selys, 1839) をとりあげます。

どちらも、成熟♂が水面上を勇壮に飛び回る種ですので、見応えがあります。

それを裏返せば、くっきりとした写真を撮るのが困難で、初心者泣かせな種でもあります。

今回はISO感度5000、シャッター速度1/2000 sec、手動焦点でチャレンジしてみました。


ハネビロトンボ

11時25分、ハネビロトンボ♂が池の水面上をパトロールしはじめました。
それから30分間、私はカメラレンズをこのトンボに向け続けました。

なんとか見られる写真(写真1)が撮れたのは、約70回シャッターを押した後で、20分が経過していました。

ハネビロトンボ♂ 
写真1 ハネビロトンボ Tramea virginia (写真はクリックで拡大します)

高ISOでの撮影の上に、大幅にトリミングしていますので、ざらついた画になっています。

この♂は、沈水植物の花穂が突き出た水面上を、体を少し左に傾けながら飛んでいます。
そのため、しっかり折り畳んだ両後脚、左前翅下面が覗いています。

それにもかかわらず、頭部は左傾せず、トンボにとって左右が水平の視界を維持しているように見えます。

以下、時系列を乱さずに、写真をいつくかピックアップして掲げます。

写真2では、体が左右に傾いていませんので、前方に向って直進していることがわかります。

ハネビロトンボ♂ 
写真2 ハネビロトンボ Tramea virginia  同一個体

ハネビロトンボの特徴である、幅が広がった後翅基部の赤褐色斑紋や、腹端部の黒斑を確認することができます。

写真3は、極度に体を右傾していて、急速に右ターンしようとしていることが伺えます。

ハネビロトンボ♂ 
写真3 ハネビロトンボ Tramea virginia  同一個体

ピントが甘く、見えにくいのですが、頭部は水平位を保っています。

このように、飛行中ターンをする際に、頭部は水平位のままl胸部・腹部を回転方向に大きく傾ける動作は、ヤンマの類でよく見られる行動です。
同じ動作が、トンボ科のハネビロトンボで確認できるとは思っていませんでした。

写真4では、逆回りに水面上をパトロールしているギンヤンマ♂とすれ違っています。

ハネビロトンボ♂&ギンヤンマ♂ 
写真4 ハネビロトンボ Tramea virginia ♂ とギンヤンマ Anax parthenope 

どちらも、相手を意に介していないように見えます。

恋敵と誤認するには、色彩もサイズも大きく違いすぎるからでしょうか。

写真5では、体が前傾していますので、少し下向きに飛行しているのでしょう。

ハネビロトンボ♂ 
写真5 ハネビロトンボ Tramea virginia  同一個体

写真6は、斜め後ろからの姿です。

ハネビロトンボ♂ 
写真6 ハネビロトンボ Tramea virginia  同一個体

写真7では、かなり水面に近い低空を飛んでいます。

ハネビロトンボ♂ 
写真7 ハネビロトンボ Tramea virginia  同一個体

ライバル♂を遠ざけるとともに、交尾相手となる同種♀の姿を探すのが目的のこのパトロール飛行です。

浮揚植物や沈水植物の豊富な水面では期待感が高まり、より丁寧に水面を複眼でスキャンしているのかもしれません。

写真8では、高度を下げる飛行中に、右ターンをしようとしている様子が伺えます。

ハネビロトンボ♂ 
写真8 ハネビロトンボ Tramea virginia ♂ 同一個体

頭部が水平位であることも見てとれます。

写真1から写真8までいずれも同一個体、経過時間は7分間でした。

この♂は、この後、♀と出会うことなく、池から飛び去りました。


ギンヤンマ

ギンヤンマはどこにでもいる種ですので、カメラレンズで追い回すモチベーションは低かったのですが、それでも眼の前を通り過ぎると、半ば反射的にシャッターを押してしまいます。

午前10時を少し過ぎた頃、水面上を悠然とパトロールするギンヤンマ♂が目の前を通過しました。

たくさんシャッターを押した中で、最初にピントが会った写真は、なんと、真後ろからの姿となりました(写真9)

ギンヤンマ♂ 
写真9 ギンヤンマ Anax parthenope

前翅と後翅の振り上げの角度が大きく異なるのは、前後翅で位相をずらして羽ばたいているからです。

また、右前翅の後縁と右後翅の後縁に、強い歪みがあります。
おそらく、羽化直後の翅の柔らかい時期に、何か硬いものに接触したために損傷したのでしょう。


写真10は、1時間半ほど後に現れた、別個体のギンヤンマ♂です。

ギンヤンマ♂ 
写真10 ギンヤンマ Anax parthenope ♂ 別個体

おやおや、後足の脛節以下が垂れています。

この時だけ、脚を動かしていたのでしょうか?

写真11は、8分後に同一個体が、斜め前方からのよい角度でカメラに収まってくれたものです。

ギンヤンマ♂ 
写真11 ギンヤンマ Anax parthenope ♂ 写真10と同一個体

私のこれまでのギンヤンマ写真の中ではベストショットになりました。

写真11写真10のいずれの場合も、右後脚の脛節以下が垂れ下がっています。
したがって、この脚の仕草は一時的なものではなく、筋肉の損傷か何かの理由により折り畳むことができないことによるものかもしれません。

11時半には、ギンヤンマの連結産卵が見られました(写真12,13)。

ギンヤンマ連結産卵 
写真12 ギンヤンマ Anax parthenope ♂連結産卵

ギンヤンマ連結産卵 
写真13 ギンヤンマ  Anax parthenope 連結産卵。同一ペア

写真14は、産卵途中の連結ペアが場所移動をしているところです。

ギンヤンマ連結ペア 
写真14 ギンヤンマ  Anax parthenope 連結飛翔。

写真13の28分後の撮影ですから、別のペアかもしれません。

最後になりましたが、毎回掲載している生息地(溜池A)の写真を、今回も文末に掲げます(写真15)。

溜池その1 
写真15 最初の観察地(溜池A)(再掲)。

溜池Aのトンボ生息地としての特徴については、本シリーズ第一報で簡単に紹介しています。

本シリーズ、次回記事では、タイワンウチワヤンマを取り上げる予定です。


謝辞:
現地で案内して下さった飯田貢さん、高橋士朗さん、他の皆さんに謝意を表したいと思います。


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2018-03-12 (Mon)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征では、初対面の種を含む多くのトンボとの出会いがありました(関連記事はこちら)。

第四報の今回は、最初に訪れた生息地(溜池A:写真7)の「赤とんぼシリーズ」の締めくくりとして、アカネ属2種と、別属の赤とんぼであるショウジョウトンボをとりあげます。

溜池Aのトンボ生息地としての特徴については、本シリーズ第一報で簡単に紹介しています。

本シリーズ、これまでに、ナニワトンボオオキトンボノシメトンボアカネ属 Sympetrum のトンボが続きました。

アカネ属、顔見世興行。しんがりに控えしは、、、。

リスアカネ Sympetrum risi Bartenev, 1914 です。

といって、もこの1枚だけですが(写真1)。

リスアカネ連結産卵 
写真1 リスアカネ Sympetrum risi 連結ペア。(写真はクリックで拡大します)
 
岸の草間を縫うように飛びながらの打空産卵です。

2,3回シャッターを押した中のベストショットがこの写真。
残念ながら、トンボの翅の先は尾部が枠をはみ出しています。

今回、1カ所(一つの池の岸辺)で、ナニワトンボ、ノシメトンボ、リスアカネの3種の連結打空産卵のシーンをゲットできたことになります。
かなりラッキー!

当ブログ、リスアカネについての過去記事としては、「リスアカネ♂」があります。

そして、しんがりにはもう1人、役者が控えていました。
それも上から目線のところに。

低木の枯れ枝の先端にとまるネキトンボ Sympetrum speciosum Oguma, 1915 ♂です(写真2)。

ネキトンボ♂ 
写真2 ネキトンボ Sympetrum speciosum 

よく似たショウジョウトンボとの区別点として、前胸背面に長毛があること、翅基部がオレンジ色でより広域であること、尾部付属器がより短いこと、脚が黒いこと、腹部に扁平感がないことなどが確認できます。

おやおや、しばらく別のトンボを観ていて、再び枯れ枝の先に目をやると、このネキトンボ♂がオベリスク姿勢をとっています(写真3)。

ネキトンボ♂オベリスク 
写真3 ネキトンボ Sympetrum speciosum ♂(同一個体)

この時間帯(正午前後)の直近のアメダス気温は25℃前後で、それほど暑くはありませんでした。
とはいえ、よく晴れていたので直射日光で体温が上がったのだろうと思います。

オベリスク姿勢をとることで、体が受ける受光量を大幅カットすることができるので、これはよい体温調節効果をもたらします。

ネキトンボについての過去記事「赤とんぼ探訪記(3):溜池群、秋のトンボ達」では、連結打水産卵および♂の静止シーンを紹介しています。

溜池Aの赤とんぼ、最後は別属のショウジョウトンボ Crocothemis servilia (Drury, 1773)です(写真4~6)。

ショウジョウトンボ♂ 
写真4 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia ♂

写真4は堤体沿いの岸の大きな白い石の上にとまるショウジョウトンボ♂です。

私が以前住んでいた北海道東部にはショウジョウトンボは生息していなかったので、5年前に関東に移住してから近くの公園の池でショウジョウトンボを見た時には、その体全体を覆う焼けるような色調に南国の匂いを感じたことでした。

そのショウジョウトンボが、北海道ではどんどん分布域を北東方向に広げていることが、北海道トンボ研究会の最近の会報記事から伺えます。

分布の拡大でトンボ相が豊かになることを素直に喜びたいところですが、この拡大の主要因が地球温暖化であり、その裏側で北方系の種の衰退も引き起こしている(生方 1997)ことを考えると、立ち止まって考える必要がありそうです。

写真4は別のタイミングに撮影した、堤のたもとのヨシ原の傾いた枯れヨシの先にとまるショウジョウトンボ♂です。

ショウジョウトンボ♂ 
写真5 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia ♂(別個体)

「あれ?、どこかで見たような、、、」と思った方がおられるかもしれません。

それもそのはず、このショウジョウトンボ♂は本シリーズ第一報にナニワトンボの引き立て役として登場していました(写真6に再掲)。

ショウジョウトンボ♂とナニワトンボ♂ 
写真6 右、ショウジョウトンボ Crocothemis servilia ♂(写真5と同一個体)。左はナニワトンボ♂。(再掲)

この写真の同じ茎にはトンボの羽化殻も写っています。

ヤンマ科のものには間違いないのですが、この殻も現場にありのままに残してきましたので、種の判定はできません。

最後になりましたが、毎回掲載している生息地の写真を今回は文末に掲げます(写真7)。


溜池その1 
写真7 最初の観察地(溜池A)(再掲)。

本シリーズ、次回記事ではハネビロトンボを取り上げる予定です。


謝辞:
現地に案内して下さった飯田貢さん、生息地の解説をされた高橋士朗さんに謝意を表したいと思います。


引用文献:
生方秀紀(1997)「地球温暖化の昆虫へのインパクト」。堂本暁子・岩槻邦男共編『温暖化に追われる生き物たち-生物多様性の視点から』築地書館、p.273-307。


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2018-03-11 (Sun)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征では、初対面の種を含む多くのトンボとの出会いがありました(関連記事はこちら)。

第三報の今回は、赤とんぼシリーズの続きとして、北海道から九州まで普通に見られるノシメトンボ Sympetrum infuscatum (Selys, 1883)をとりあげます。

というのも、連結打空産卵という、少々ソフィストケートされた産卵行動をカメラに収めることができたからです。

ノシメトンボについては、これまでに10件超の過去記事で取り上げていますが(記事一覧はこちら)、産卵をじっくり観察できたのは今回が初めてでした。

観察地は、前回、前々回記事と同じで、最初に訪れた、やや大きめの溜池(溜池A)(写真1)です。

溜池その1 
写真1 最初の観察地(溜池A)(再掲)。(写真はクリックで拡大します)

この池のトンボ生息地としての特徴については、前々回記事で簡単に紹介しています。

この池の堤体沿いの岸で、私が他のトンボの観察をしていた時(10時40分過ぎ)のことでした。

沈水植物が繁茂した遠浅の水面上空を、ノシメトンボの連結ペア1組(写真2)がリズミカルに体を上下に振りながらホバリングしています。

ノシメトンボ連結産卵
写真2 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア

写真2を拡大してみると、♀(写真の向って左)の右前翅と右後翅の間の先端近くに白い点が写っています(写真3)。

ノシメトンボ連結産卵、拡大 
写真3 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(写真2の拡大)

そうです。
白い点は、この♀が産み落とした卵です。

以下、時系列を乱すことなく、特記すべきシーンの写真を掲げます。

次の写真4では、♀の腹端部下面に白い粒が写っています。

ノシメトンボ連結産卵 
写真4 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

この白い粒も卵です。
♀の生殖孔周辺からまさに振り落とされようとしています。

この写真では、♀は体ごと下前方に振り出していて、更に腹部先端も下前方にカーブ気味です。

このように、体後端を強く下向きに振ることで、卵を粘着力の拘束から振り切らせ、水面に向って飛ばすことを、より確実にするのでしょう。 

このとき、♀は全身の下前振りを翅の打ち方で、腹部のカーブは腹節間の縦走筋で、コントロールしているはずです。

※打空の際の♂の役割については、本記事後半に掲載する動画1の分析に基づく文章をご覧ください。

写真5は、打空と打空の間のペアで、♀の体軸がより水平に戻っています。

ノシメトンボ連結産卵 
写真5 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

この後も打空を繰りかえしていて、写真6は打空と打空の間の1カットですが、♂♀とも体軸がほぼ水平になっています。

ノシメトンボ連結産卵 
写真6 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

写真7では、♂♀とも写真4よりも顕著に体軸を後傾し、♀は腹端をカーブさせ、打空しています。

ノシメトンボ連結産卵 
写真7 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

♀の腹端が打空の瞬間だけ下前方にカーブするのは、野球のピッチャーが球を離す直前にスナップをきかせて球速を付け加えるのと似ています。

このように、確実に1個1個の卵をバラバラ撒きながら産むのは、落下先での卵の空間的集中を避けることで捕食のリスクを分散し、トータルの生存率を上げるという適応価を持つからだと思われます。

スナップを効かせる動作についても、筋収縮のためのエネルギーを消費することになりますから、そのコストを上回るベネフィット(利益)が得られたからこそ、この動作が進化したと考えられます。

写真8はまた別の打空を撮ったものですが、写真7とほぼ同一のステージが写っています。

ノシメトンボ連結産卵 
写真8 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

というより、写真8のほうが写真7よりも更に体軸が後傾していて、打空動作のマキシマムにより近いことを示しています。

撮影データから、写真2から写真8までの間に6秒(不掲載の写真データを含めると8秒)が経過していることがわかりました。

背景の水草がずーっと同一の枝であることから、少なくとも8秒もの間、この連結ペアが空中のほぼ一点でホバリングしながら、打空を繰り返していたことがわかります。

もちろん、この大きな池で空中の一点だけで産卵して終わりというわけではありません。
しばらくすると少し移動してまた同様の打空を繰り返します。

写真9はペアが少し体軸の向きを変えています。

ノシメトンボ連結産卵 
写真9 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

写真2~8の位置から、そろそろ場所を替えようとしているのかもしれません。

♀の腹先には卵が見えていますので、打空産卵しながら向きを変えていることになります。

写真10は、私から少し遠ざかった水面上で打空している当該ペアです。

ノシメトンボ連結産卵、別ペア 
写真10 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

写真2~9を眼下で撮影していた際のISO(2000)と絞り(f=5.6)の設定のままで撮影したため、池の面がより広く写った写真10では、大幅な露出オーバーになってしまいました。

それをパソコン上で極端な輝度調整を行った画像であるため、背景の水草や水面の色はやや不自然になっています。

ですが、写真2~9と比べて、横からの姿を捉えている1枚なので敢えて掲載します。

結局、この連結ペアを約6分間カメラレンズで追い続けた後、しばらくは別の種のトンボを観察しました。


産卵行動の動画も撮影

12時10分から1・2分の間、別のノシメトンボ連結ペアの産卵が同様に観察されました。
その様子を動画に撮影したものをYoutubeにアップしました(動画1)。

動画1の説明:Mirror image on the pond surface of tandem oviposition into the air by Sympetrum infuscatume. ノシメトンボの連結打空産卵(水面の鏡像)。

残念ながらというか、写っていたのは池の水面の鏡像で、ノシメトンボそのものを直接捕えた動画ではありません。

それでも、産卵のリズムや動作を捉えることは可能なレベルに何とかとどまっています。

この動画を再生し、打空リズムを調べてみると、8秒間に11回打空していることがわかります。
また、打空の際に♂が体軸を後傾させることで♀が体ごと下方に振られること、♀も積極的に体軸を後傾させ、腹端部を下方へにカーブさせる動作を加えていることが見てとれます。

この動画からは、♂の翅の振動が、♀のそれよりも小刻み(つまり振動数が高い)であることもわかり、ペアの空中での動きや姿勢を♂がより強くコントロールしていることを示唆しています。

産卵リズムのテンポの同属種間比較、そのテンポの持つ意味については、前回記事(オオキトンボ)で取り上げ、比較しています。


何思う単独♂

ノシメトンボの連結打空産卵の観察・撮影を終えた後は、次から次へと登場するこの池の多様なトンボたちの姿に目を奪われました。

そんな中、ふと岸辺の草むらに目をやると、枯草の折れた茎の頂点にノシメトンボ♂がとまっていました(写真11)。

ノシメトンボ♂、後ろ姿 
写真11 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum ♂ (別個体)

向こう向きにとまっていて、特徴がわかりにくいのですが、腹部の赤い色の色調や黒斑のパターンからノシメトンボ♂であると判定できます。

とまっているトンボの後ろ姿を見ると、「何を思っているの?」と声をかけたくなります。

溜池Aでのノシメトンボの観察はこうして、終了しました。

次回記事では、溜池Aで見られた残りの赤とんぼの種を取り上げます。


謝辞:
現地に案内して下さった飯田さん、生息地の解説をされた高橋さんに謝意を表したいと思います。


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2018-03-07 (Wed)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征では、地元在住のアマチュア昆虫写真家である飯田貢さん、高橋士朗さんらの御案内のお蔭で、ナニワトンボ Sympetrum gracile Oguma, 1915 (前回記事)を始め、関東地方では見られない数種のトンボたちとの出会いが実現しました。

今回の第二報では、オオキトンボ Sympetrum uniforme (Selys, 1883) との出会いをご紹介します。

目 次:
 ◆オオキトンボの生息地
 ◆オオキトンボとの出会い
 ◆ある連結ペアの不協和音
 ◆産卵行動
 ◆交尾行動


オオキトンボの生息地

オオキトンボとの出会いは、最初の観察地である、やや大きめの溜池(溜池A)(写真1)で、ナニワトンボと知り合いになった直後のことでした。

溜池その1 
写真1 最初の観察地(溜池A)(再掲)。(写真はクリックで拡大します)

この池のトンボ生息地としての特徴については、前回記事で簡単に紹介していますので、興味のある方はご覧ください。


オオキトンボとの出会い

最初に出会ったオオキトンボは、池のヨシ原になっている岸の枯れヨシの茎の折れた部分にとまっていた♂です(写真2)。

オオキトンボ♂ 
写真2 オオキトンボ Sympetrum uniforme 

他の多くのアカネ属 Sympetrum の種と異なり、脚を含め、体全体が黄色から橙色に染まり、黒い斑紋が見当たらないことが、オオキトンボの特徴です(日本産では他にキトンボ Sympetrum croceolum (Selys, 1883) も同様)。

オオキトンボの翅は、(キトンボやネキトンボ Sympetrum speciosum Oguma, 1915のように)基部付近が濃い黄色に染まるということはなく、全体、とくに前縁沿いが薄い黄橙色になります。

オオキトンボと色・形がよく似たトンボとして、ショウジョウトンボ Crocothemis servilia (Drury, 1773) の♀と未熟♂があります。

ショウジョウトンボの♀と未熟♂は体全体が黄色っぽく、たしかに一見オオキトンボのようにも見えます。

ですが、ショウジョウトンボは腹部がより扁平で前胸背板に長毛がないことで区別できます(参考:尾園ほか 2012)。

写真2の個体は、腹部に扁平感がないですし、複眼のすぐ後ろに襟巻のように長毛の列(前胸背板の長毛)が見えます(写真3:同じ個体が向きを変えてとまったところを斜め前から写したもの)ので、ショウジョウトンボではなく、オオキトンボであることがわかります。

オオキトンボ♂、部分拡大 
写真3 オオキトンボ Sympetrum uniforme 、同一個体

硬い話はこのくらいにしましょう。

写真3のこの個体、少し下側に開いた口元は、私達一行をにこやかに出迎えているかのような表情にも見えます。

実際のところは、交尾相手となる同種♀、あるいはライバルである同種♂、さらには餌になりそうな小昆虫が眼の前を横切るのを、じっと待ち構えているのでしょうが。


ある連結ペアの不協和音

さて、この後、堤体の岸にそった沈水・浮葉植物ゾーンに移動してみると、オオキトンボの連結ペアがヒルムシロ属 Potamogeton の沈水植物の植物体上で、バタバタと不協和音を発していました(写真4)。

オオキトンボ、水草上で連結 
写真4 オオキトンボ Sympetrum uniforme、連結ペア

とても、正常な連結産卵行動にも、交尾行動にも見えません。

タンデム(連結)中のこの♂は、脚で水草の茎や葉柄をつかんで体を支え、♀の頭部を掴んだ腹端部をやや挙上しています。

♀は、脚を水草にも水面にも触れることなく、翅をばたつかせています。

♂はこの場で交尾態をとろうとしているように見えますが、♀は腹部を下前方に曲げるなどの協力的な姿勢を見せることなく、むしろ飛び上がろうとしているようにも見えました(写真5)。

オオキトンボ、水草上で連結(2) 
写真5 オオキトンボ Sympetrum uniforme、連結ペア(同上)

20秒以上このような事態が続いた後(撮影データから判明)、ペアは連結のまま飛び立って遠ざかりました(反省点:その後を結末まで見届けておくべきでした)。


産卵行動

その後、近くの沈水植物帯のヒルムシロ属の茎・葉にとまっていたムスジイトトンボ Paracercion melanotum (Selys, 1876)(次回以降ブログにアップ予定)をしばらく観察・撮影していると、目の前をオオキトンボのタンデム・ペアが通りすぎました(写真6)。

オオキトンボ連結産卵、打水後の水平飛行 
写真6 オオキトンボ Sympetrum uniforme、産卵中の連結ペア

タヌキモ属 Utricularia などの沈水植物帯の水面上を飛びながらの、連結打水産卵が始まりました。

同一ペアによる一連の産卵行動を撮影した画像をセレクトし、以下に掲げます。
ただし、産卵動作の特徴をステージ別にとらえるために、時系列は若干入れ替わっています。

写真7は、連結での打水の少し前のものですが、♀が背方に少し反らせた腹部を振り上げ気味にしていることから、この直後の打水動作に備えた動作であると解釈できます。

オオキトンボ連結産卵、打水後の水平飛行 
写真7 オオキトンボ Sympetrum uniforme、産卵中の連結ペア(同上)

写真8は、♂が、♀と連結した腹部を下方に振り下ろして、♀に打水させようという瞬間です。

オオキトンボ連結産卵、打水直前 
写真8 オオキトンボ Sympetrum uniforme、産卵中の連結ペア(同上)

打水直後に飛び上がる動作ではないことは、この写真をトリミングする前の水面に波紋が見当たらないことから確認できました。

写真9は、まさに打水の瞬間です(ピントは甘いですが)。

オオキトンボ連結産卵、打水の瞬間 
写真9 オオキトンボ Sympetrum uniforme、産卵中の連結ペア(同上)
打水の瞬間。

この時、♀の生殖孔から産み出された卵が水中に遊離するはずです。

写真10は、まさに打水直後で、♂は上手に♀を吊り上げながら少し上昇しています。

オオキトンボ打水直後、水滴 
写真10 オオキトンボ Sympetrum uniforme、産卵中の連結ペア(同上)

打水動作の勢いで、♀の腹部は少し腹方向に振り下ろされ(写真では進行方向に振られ)、打水によって水面から千切れた水滴が、♀の腹がスイングした方向に飛び散っています。

写真11も打水の瞬間ですが、♀の腹端はタヌキモ属の茎に当たっています。

オオキトンボ連結産卵、打水の瞬間、水草狙い 
写真11 オオキトンボ Sympetrum uniforme、産卵中の連結ペア(同上)

これは、狙って水草を叩いているのではなく、水面を叩いている際にたまたま水草にあたったものでしょう。
なぜなら、他のほとんどの打水動作では水面を叩いていたからです。

写真12は、おやおや、打水するはずが空振りしたようです。

オオキトンボ連結産卵、空振り 
写真12 オオキトンボ Sympetrum uniforme、産卵中の連結ペア(同上)

そのためでしょう、♂の後半身はほぼ垂直の態勢になるまで下前方に振られ、♀にいたっては、ブランコに乗った子供のように腹部の腹面が前方の少し上向きになるまでに振れています。

写真13は、打水と打水の間の水平飛行です。

オオキトンボ連結産卵、打水後の水平飛行 
写真13 オオキトンボ Sympetrum uniforme、産卵中の連結ペア(同上)

ペアの一心同体感が伝わって来ます。
水面には直前の打水でできた波紋が広がっています。

写真14も同様です。

オオキトンボ連結産卵、打水後の水平飛行 
写真14 オオキトンボ Sympetrum uniforme、産卵中の連結ペア(同上)

♀の腹部がすこし上方に反っていますので、次の打水の準備にはいっているようです。

写真15は、打水と打水の間の水平飛行を斜め前方から写しています。

オオキトンボ連結産卵、打水直後の水平飛行、波紋あり 
写真15 オオキトンボ  Sympetrum uniforme、産卵中の連結ペア(同上)

協調して羽ばたいている様子が伺えます。
このタンデム・ペアが打水してできた波紋も見えています。

以上、写真6~15に掲げたオオキトンボの連結打水産卵は、撮影データから、午前10時過ぎの9分間に観察されたものです。

写真16は、その1時間後に同じ池のほぼ同じ沈水植物帯で撮影した別の産卵ペアです。

オオキトンボ連結産卵(別カップル) 
写真16 オオキトンボ Sympetrum uniforme、産卵中の連結ペア(別のペア)

比較的ピントがあっていたので、掲げておきます。

打水と打水の間の水平飛行中ですが、♂が視線を少し進行右方向に向けています。
適切な打水ポイントを見定めているのかもしれません。


交尾行動

写真15までの産卵ペアの観察を打ち切り、堤体の大石にとまるショウジョウトンボを見つけてカメラに収め、ふたたび池の水面上に目をやると、オオキトンボの♂と♀が連結して飛び回り、交尾態を形成しようとしていました(写真17)。

オオキトンボ。交尾しようとしている 
写真17 オオキトンボ Sympetrum uniforme、交尾しようとしている連結ペア(別のペア)

低速シャッターで撮ったピントはずれのものをトリミングしているため、お目汚しですが、池の上空を飛びながら交尾態を形成しようとする行動の証拠写真として掲げておきます。
次に撮影機会があれば、もう少しマシな画像を得るべくリベンジしたいところです。

その19分後に、幸運にも、池の岸の草の穂にとまって交尾しているオオキトンボのペアに遭遇しました(写真18)。

オオキトンボ交尾 
写真18 オオキトンボ Sympetrum uniforme、交尾中のペア(多分別のペア)

撮影時刻のずれから判断して、写真17のペアとは別のペアでしょう。

そっと近づいて、じっくりカメラを構えて撮影したのが写真19です。

オオキトンボ交尾 
写真19 オオキトンボ Sympetrum uniforme、交尾中のペア(同上)

逆光気味のアングルからの撮影となりましたので、オオキトンボらしさがあまり出ていませんが、それでも気宇壮大なトンボと表現したくなる、端整で落ち着いた振舞いのカップルでした。

撮影データから、少なくとも3分間この状態を保っていたことがわかります。

以上が、今回の四国トンボ巡礼で出会ったオオキトンボの振舞いのすべてです。

次回記事では、同じ赤とんぼでも脇役になりがちなノシメトンボ Sympetrum infuscatum (Selys, 1883) の産卵行動を取り上げます。

お楽しみに。


謝辞:
現地に案内して下さった飯田さん、生息地の解説をされた高橋さん、お目当ての被写体を見つけて手招きしてくれた山本桂子さんほかの皆さんに謝意を表したいと思います。

参考文献:
角野康郎(2014)『日本の水草』文一総合出版。
尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。


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