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2018-04-30 (Mon)
本シリーズの過去3回の記事では、ホソミイトトンボ Aciagrion migratum (Selys, 1876)の単独♂による探雌行動、♂♀のカップルによる交尾、産卵行動のそれぞれについて報告しました(シリーズ記事一覧はこちら)。

今回の第4報では、たくましく生きるホソミイトトンボの越冬明けの♂について報告します。


春先の林縁にひっそりと1♂が

ホソミイトトンボの繁殖場所(つまり池の岸辺)での活動は、本種の賑やかな春の到来を告げるに余りあるものでしたので、シリーズ記事では真っ先に取り上げましたが、実はこの日(4月12日)、それに先立って、林縁の草地にひっそりと佇む1頭の♂が観察されていました。

繁殖が見られた溜池から数百メートルの距離にある砂防ダムの直下の沢斜面で、雑木林が迫る草むら(写真3)の幼木(多分)の葉の縁にしがみつくように、その♂はとまっていました(午前10時26分)。

とりあえず数枚撮影して、撮影角度を変えるために私が動いたところ、すぐ近くの草の葉にとまり替えました(写真1)。

ホソミイトトンボ♂、腹部変形 
写真1 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 越冬明けの♂。(写真はクリックで拡大します)

体の淡色部の色彩は、まだブルーの発色が不完全でくすんだ灰色味のある薄い青紫です。

体の黒色部分の黒味も若干不足している感じです。

ホソミイトトンボは成虫で越冬し、春先に淡褐色だった体色が青色に変化することが知られていますので、写真1の個体は越冬明けで青色の発色が開始していますが、まだ完了していない段階であるということになります。


腹部が曲がってるけれど

そして、すでにお気づきのように、腹部第4節と5節の間が「へ」の字形に折れ曲がっています。

そしてその前後の節との間は、それを取り返すかのように反対方向に少しずつ折れ曲がっています。

私が若干角度を変えて撮った写真2でも、同様に曲がっています。

ホソミイトトンボ♂、腹部変形
写真2 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 越冬明けの♂(同一個体)。 

5分30秒間この個体を見続け、約40枚の写真を撮りましたが、腹は折れ曲がったままでしたので、一時的な屈曲によるものではなく、この曲がったままであると判断できます。

曲がった原因は、羽化直後の体が十分固まっていない時期に、なんらかの物体との物理的接触があったことが考えられます。

それによって変形した腹部が、ほぼそのままの形で硬化してしまったのでしょう。

とはいえ、昨秋羽化してその後、半年ほどの期間を、このハンディキャップをものともせず1人で(1頭で)生き抜いてきた頑張り屋さんです。

この後の婚活、そして交尾、産卵のエスコートもやり遂げて、次世代へ祖先からの遺伝子遺産を引渡してくれるのだろうと思います。


越冬明けの♂が見られたポイント

前述したように、この♂は、砂防ダムの直下の沢斜面で、雑木林が迫る草むらにとまっていました(写真3)。

越冬明けのホソミイトトンボの観察ポイント 
写真3 越冬明けのホソミイトトンボが観察されたポイント

この♂は、この後、林野にあって適宜餌昆虫を摂食し、筋力や持続力、そして生殖腺の成熟度を高める生活を続けるのでしょう。

そして、十分成熟した後は、同種の♀がやってきそうな水辺を求めて谷あいをさまようのだと思われます。


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2018-04-26 (Thu)
本シリーズの過去2回の記事では、ホソミイトトンボ Aciagrion migratum (Selys, 1876)の単独♂の探雌行動(こちら)と、1カップルが見せてくれた交尾の一部始終(こちら)について報告しました。

今回の第3報では、ホソミイトトンボの産卵行動について報告します。


目 次
◆交尾直後の連結カップルの行動(再掲)
◆連結産卵をじっくり見る
◆ちょっとお邪魔します(?)
◆♀はなぜ腹を強く曲げる?
◆ちゃっかり翅先につかまる♂
◆連結産卵の動画
◆産卵中のちょっとした出来事
◆産卵場所の環境


交尾直後の連結カップルの行動(再掲)

前回記事で観察した交尾カップルは、精子置換と新たな精子注入がうまくいったのでしょう、突然、交尾リングを解き、すぐに飛び立って連結態のまま、すぐ近くの水辺へと飛んでいき、水辺の枯草にとまりました(再掲)(写真1)。

ホソミイトトンボの交尾後の連結1 
写真1 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum、交尾を終えて移動し、水辺にとまる。(再掲)(写真はクリックで拡大します)

♀は一応産卵姿勢をとっていますが、「こんなに乾いて硬いところに産みたくないヨ」という声が聞こえてきそうです(既報)。

案の定、♀の産卵器はツルリと滑ってこの枯草の茎からそれてしまいました(再掲)(写真2)。

ホソミイトトンボの交尾後の連結2 
写真2 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum交尾を終えて移動し、水辺にとまる。(再掲)

このカップルの観察はこの少し後で打ち切りましたが(既報)、その後、適切な産卵基質を見出して♂・♀が力を合わせて卵をその中に産み付けたはずです。


連結産卵をじっくり見る

前述の交尾直後カップルの行動観察を打ち切り、別のカップルでよいから実際に産卵しているホソミイトトンボはいないかと、水辺を見て歩きました。

11時49分には、その水辺で、本種の産卵行動を観察・撮影することができました。

交尾が観察されたカップルなのか、それとも別のカップルなのかは定かではありません。

2組のカップルの近接状態での産卵が見られましたので、その2組のうちの1組は交尾観察の対象となったカップルかもしれません。

以下、産卵行動中の様ざまな動きから、「これは」というシーンを抜き出してご紹介します。

写真3は、カップルが、水面に浮いた細い枯れ枝に密着して浮いている小さな枯葉に、産卵している(しようとしている)ところです。

ホソミイトトンボ連結産卵 
写真3 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 連結産卵

♂は、体を真っ直ぐに伸ばして直立し、バランスをとるためか、翅をわずかに震わせています。

この後、この小さな枯葉はカップルを乗せたまま、画面右方向に少し漂いますが、産卵は続いています(写真4)。

ホソミイトトンボ連結産卵
写真4 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 連結産卵

それでも、この小さく不安定な薄い葉への産卵は難儀だったのか、カップル(カップルAとします)は飛び立ちました(写真5)。

ホソミイトトンボ:産卵基質間を移動飛行中のペア 
写真5 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 産卵基質間を移動飛行中のカップル

カップルAは、今度は少し大き目な浮き枯れ枝(写真6の右)にとまり、そこで早速産卵を開始しました。

ホソミイトトンボ連結産卵 
写真6 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 連結産卵

すぐ隣(向って左)の浮き枯れ枝でも別カップル(カップルB)が産卵中です。


ちょっとお邪魔します(?)

10秒ほどすると、カップルBが飛び立ち、カップルA(右)に急接近しました(写真7)。

ホソミイトトンボ連結産卵 
写真7 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 連結産卵

カップルAも、たまらず飛び立ちました。

直後に、2カップルともまた同じ浮き枯れ枝にとまり(写真8)、後方のカップル(カップルB)から先に産卵を開始しました。

ホソミイトトンボ連結産卵 
写真8 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 連結産卵

少し前方に押しやられた形のカップルAも産卵を再開し、2組同時進行の産卵シーンとなりました(写真9)。

ホソミイトトンボ連結産卵 
写真9 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 連結産卵

カップルA(画面右側)の雌の腹部は極端に折り曲げられて、胸部の直下に近いところで産卵管を突き刺しています。


♀はなぜ腹を強く曲げる?

ここまで書いていて、ふと疑問が生じました。

なぜ、♀は腹端と胸元がちかづくまでに、こんなに強く腹を曲げる必要があるのでしょう?

(1)このように強く曲げたほうが、産卵管を硬い産卵基質に突き刺す力が強まるからでしょうか?。

バネも強く曲げることで、バネが真っ直ぐに戻ろうとする力がより強まりますので、少なくとも曲がる度合いにおいてはホソミイトトンボのケースも該当します。

ただし、トンボの場合は、バネが戻る力ではなく、前後の腹節の間にまたがって体軸方向に配置された縦走筋群を収縮させることで生じる力が腹端をはじき返す力を生むと考えらえます。

(2)あるいは、産卵基質が限られていて、多くの産卵カップルが狭い範囲に密集するために、カップル間の接触を避けるために産卵♀が腹を強く曲げるのでしょうか?

(3)はたまた、♀が腹を強く曲げたほうが、直立した配偶者♂のバランスをとりやすいのか?

以上(1)~(3)のどれが当たっているのか、それとも全部はずれなのかは、今後の注意深い観察で絞られていくのではと思います。


ちゃっかり翅先につかまる♂

話は換わりますが、写真9で、手前(右)のカップルの♂に注目すると、なんと雌の左前後翅の先端に脚を伸ばしてちゃっかり掴まっています。

それでバランスがとれているためなのでしょう、♂の翅のバタつきが写っていません。

それでは話が出来すぎ。もう1組のカップルの♂はつかまっていないのに、それでも翅に動きがありません。

それはともかく、このように♀の翅先に掴まることができるのも、腹を強く曲げた産卵♀が、頭部・胸部を人間の逆立ちの場合と同じくらい倒立させているからこそです。

今後も、このようなときに、♂が脚でよく掴まるのか(他種を含めて)注目したいと思います。

いったん、このカップルの行動から目を離し、他に何か変わった出来事はないかと、水辺を見まわすと、大量のオタマジャクシの塊が目に入り、撮影しました(写真16)。


連結産卵の動画

その後、同じ水辺の別の浮き枯れ枝に産卵中のホソミイトトンボのカップル(カップルA,Bとの異同は不明)に注目し、静止画に加えて、動画も撮影しました(11時53分)(動画1Youtubeにアップロードしたファイルにリンク)。

この動画から、以下のような行動の特性が読み取れます。

◆♀は産卵器のある腹部末端2節を産卵基質に押しあてながら、産卵管を突き刺すのに適した部位を探る。
◆♀は背中に♂を肩車のように乗せながら、脚を動かして胸部を前後に移動させ、腹端部の動きに連携させる。
◆♂は、そんな♀の必死の作業の助けになるように、自分の腹部の曲げ伸ばしを調節したり、翅を震わせて重心のバランスをとっているようにうかがえる。


産卵中のちょっとした出来事

この後も、ホソミイトトンボの連結産卵にカメラを向け続けました。
その中から5点、写真を掲げておきます(写真10~14)。

まずは、産卵基質として選択した浮き枯葉に着陸(着水)の直前のカップルです(11時54分)(写真10)。

ホソミイトトンボ:産卵基質に着陸(着水)の直前 
写真10 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 産卵基質に着陸(着水)の直前のカップル

その浮き枯葉で産卵を開始しました(写真11)。

ホソミイトトンボ連結産卵 
写真11 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 連結産卵

この♀も極端に腹部を曲げています。

今度は浮き枯れ枝に比べて産卵基質としてそれほど硬くなさそうですので、産卵管に力を入れるために強く曲げるという仮説には若干不利な事実を提示しています

柔らかい基質で腹を強く曲げてはいけないということにはなりませんので、この観察だけで仮説が棄却されることにはならないでしょう。

それに、この枯葉も樹皮ほどではなくとも、その表皮はまだまだ硬い部類に属するのかもしれません。

いずれにせよ、いずれかの仮説に確証を与えるためには、多くの対立仮説の上での観察の積み重ね、更には検証実験が必要となるでしょう。

それはともかく、話を戻すと、この浮き枯葉での産卵は長続きせず、カップルは飛び立ちました(写真12)。

ホソミイトトンボ:産卵基質を飛び立ったペア 
写真12 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 産卵基質を飛び立ったカップル

今度は、浮いた枯草の茎のようなものの先端にとまって産卵です(写真13)。

ホソミイトトンボ連結産卵 
写真13 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 連結産卵

そこにアメンボの交尾カップルが漕ぎ寄ったので、ホソミイトトンボのカップルは危険を避けるかのように飛び立ちました。

ホソミイトトンボ連結産卵 
写真14 アメンボの接近に飛び立つホソミイトトンボ Aciagrion migratum 連結カップル

このシーンをドラマの結末とするかのように、私のこの池でのホソミイトトンボの観察を打ち切りました(11時55分)。


産卵場所の環境

本種の成虫の雌雄の出会い、そして交尾や産卵の活動が見られた水辺の、水面や岸の草の状況を写真15として再掲しておきます。

ホソミイトトンボの交尾産卵が見られた溜池の水辺 
写真15 ホソミイトトンボ 成虫の活動が見られた水辺

前述のように、この堤体から手の届く距離に、大量のオタマジャクシが群れていました(写真16)。

トンボ産卵場所のオタマジャクシ 
写真16 ホソミイトトンボの産卵場所のオタマジャクシ

半透明のゼリー状の粒の塊の中には孵化していない黒い小さな幼生も見えていますので、カエルの卵塊にこの大量のオタマジャクシがまだ執着している状態であることが伺えます。

どの種類のカエルの幼生なのかは、現時点では確認できていません。

堤体のコーナー部分には大きな鯉の姿もありました(写真17)。

トンボ産卵場所の鯉 
写真17 ホソミイトトンボの産卵場所の鯉

ホソミイトトンボは産卵していますが(そして昨春にはホソミオツネントンボ Indolestes peregrinus (Ris, 1916)  の産卵[当該記事はこちら]も見られましたが)、これらトンボの孵化した幼虫が羽化して出るまでの間に、このような鯉や貪欲な外来動物の餌食になることから免れることができるのか、楽観は許されません。

次回記事では、越冬明けの1頭のホソミイトトンボへの応援メッセージを取り上げます。


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2018-04-20 (Fri)
本シリーズの前回記事(こちら)では、交尾相手を求めるホソミイトトンボ Aciagrion migratum (Selys, 1876)の♂たちの行動について取り上げました。

今回の第2報では、最初から最後まで継続観察することができた、ホソミイトトンボの交尾について詳しく報告します。

※ ホソミイトトンボの交尾については一昨年、別の生息地で断片的に観察していて、その際、♂が翅を少し開いたままにしていることに着目してブログ記事(こちら)にしています。

前回記事で単独♂の体清掃行動を取り上げましたが、その行動の観察を終えた2分後、少し離れたところの草に、連結した♂・♀のカップルがぶら下がっていました。

これから交尾をしてくれることを期待してカメラを構えると、動きがありました(写真1)(11時20分42秒)。

ホソミイトトンボ、交尾直前1 
写真1 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾試行(1)(写真はクリックで拡大)

♂が少し腹をカーブさせて、♀の体をリフトし始めていて、♀はそれに呼応するかのように、自分の腹部を大きく曲げて、腹先を前上方に挙げようとしています。

カップルは連結したまま飛び立ち、少し移動して別の草(スギナ)にとまり替えました(11時20分54秒)。

カップルは再び交尾を試み、一度は外見上交尾リングが形成されました(交尾器がうまく結合されていない仮リングと思われます)(11時21分10秒)。

この仮リングはすぐに分離しましたが、カップルはまたも交尾を試みます(写真2)(11時21分12秒)。

ホソミイトトンボ、交尾直前2 
写真2 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾試行(2)

♂は、写真1の瞬間よりも高く♀を吊り上げ、♀は腹部第3節と4節の間を強く折り曲げ、腹先を前ぐっと上に挙げています。

♂は更に強く腹を曲げて♀を吊り上げて、交尾リング形成を狙います(写真3)(11時21分14秒)。

ホソミイトトンボ、交尾直前3 
写真3 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾試行(3)

そのすぐ後に、2回目の仮リング形成がありました(写真4)(11時21分14秒)。

ホソミイトトンボの交尾直前、2回目の仮リング 
写真4 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾試行(4)

ただし、写真4の仮リングは、♀の腹端(したがって生殖口も)の右側面が、♂の腹基部の左側面に軽く接している状態ですので、的が外れています。残念ながら。

そこへ他の単独♂が画面左方向から接近してきました(写真5)(11時21分16秒)。

ホソミイトトンボの交尾直前、2回目の仮リングが離れる 
写真5 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾試行(5)

そのせいでしょうか、仮リングが少し分離してしまいました。

カップルは、これに懲りずに交尾の試みを再開し、3回目の仮リングが形成されました(写真6)(11時21分20秒)。

ホソミイトトンボの交尾直前、3回目の仮リング 
写真6 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾試行(6)

その仮リングもまた分離してしまいました(写真7)(11時21分22秒)。

ホソミイトトンボの交尾直前、3回目の仮リングが離れる 
写真7 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾試行(7)

♂が疲れたのか、♀を吊り上げていた腹の筋肉をいったん少し緩めました(写真8)(11時21分26秒)。

ホソミイトトンボの交尾直前、3回目の仮リングの直後 
写真8 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾試行(8)

♂・♀とも、気を取り直したのでしょう、また仮リングを成立させました(写真9)(11時21分30秒)。

ホソミイトトンボの交尾成功直前 
写真9 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾試行(9)

この仮リングでも、♀の腹端は♂の腹基部の側面に接しています。

その後の♀による腹部押し当て位置の「調整」が功を奏して、ようやく交尾リングが成立しました(写真10)(11時21分44秒)。

ホソミイトトンボの交尾成功直後 
写真10 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾試行(10)

この交尾リングは順調に持続し、その間も♂は翅を半開きにしたままですが、♀の翅はとじられています。

※交尾中のホソミイトトンボ♂の翅の半開きの意味については、こちらの過去記事で若干の考察を加えています。

写真10の時点以降も観察を継続しました。
その間、単独♂の接近と通過などもありました。

交尾中のトンボ、とりわけ均翅亜目では、♂が腹基部をリズミカルに上下させる動きを見せることが多いことが知られています。

そろそろそのリズミカルな動きが見られるのではないかとの期待のもと、この交尾中のカップルの様子を動画に収めました(動画1:Youtubeにアップロードしたファイルにリンク)(11時24分40秒~25分04秒)。


わずかな腹の動きはありますが、リズミカルな動きは録画中には確認できませんでした。

それとは別に、動画の最後のほうでは、左から風が吹いて、とまっていたスギナもホソミイトトンボ♂の腹部から後が♀の体ともどもあおられている様子が見て取れます。

写真11も同様に風が吹いて、このカップルがあおられています(写真11)(11時25分22秒)。

ホソミイトトンボの交尾中、風にあおられる 
写真11 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾

写真11では、たまたま、単独♂が右から接近していましたが、とくに掴みかかるでもなく通り過ぎました。

ここで再びカメラを動画モードに切り替えて撮影したところ、録画開始直後に突然交尾が分離して、連結姿勢でぶらさがる形になりました(動画2:Youtubeにアップロードしたファイルにリンク)(11時31分41秒~31分46秒)。

写真12は、その、ぶらさがった状態のままの連結ペアです(11時32分18秒)。

ホソミイトトンボの交尾中断 
写真12 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾中断

これで交尾は終わりかと思って見ていると、なんと再度交尾しようと、♂・♀とも腹を曲げ始めました(写真13)(11時32分20秒)。

ホソミイトトンボの交尾中断後の動作 
写真13 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾中断後の動作

そして、割合スムースに再度交尾リングが成立しました(11時32分32秒)。

写真14は交尾リング再成立から1分48秒後のカップルです。

ホソミイトトンボの再交尾 
写真14 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の再交尾(1)

ここにきて、ようやく♂は腹基部のリズミカルな動きを見せてくれました。

写真15写真14の42秒後のカップルです。

ホソミイトトンボの再交尾中の動作1 
写真15 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の再交尾(2)

写真14写真15を見比べると、腹基部のリズミカルな動きを作り出すように、♂の腹部第3節が大きく背腹方向(上下方向)に動いていることがわかります。

このリズミカルな動きのテンポ(繰り返しの頻度)は、測ってはいませんが、1~2秒に1回程度のものです。

※ このリズミカルな♂の腰の動きは、♂の副交尾器(ペニス)の♀の生殖器(膣)の中でのピストン様運動をもたらし、それにより、♀の膣の最奥部にある交尾嚢、さらにはそれに付随する受精嚢の中にある、以前の交尾で注入された他の♂の精子をペニスの先端の鈎状構造を利かして掻き出す機能(精子置換)を持ちます(詳しくは、こちらの過去記事を参照)(更に詳しくは、Corbet 1999の日本語版[椿ほか監訳、2007]を参照)。

約20分間にわたり連続観察の対象になっていたこのカップルは、突然、交尾リングを解き(11時39分38秒)、すぐに飛び立って連結態のまま、すぐ近くの水辺へと飛んでいきました。

写真16は、水辺の枯草にとまったそのカップルです(11時40分48秒)。

ホソミイトトンボの交尾後の連結1 
写真16 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾後連結

♀は一応産卵姿勢をとっていますが、「こんなに乾いて硬いところに産みたくないヨ」という声が聞こえてきそうです。

案の定、♀の産卵器はツルリと滑ってこの枯草の茎からそれてしまいました(写真17)(11時40分50秒)。

ホソミイトトンボの交尾後の連結2 
写真17 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum の交尾後連結(2)

このカップルが適切な産卵基質にたどりつくのを見届けないまま、私は11時42分にこのカップルの観察を打ち切りました。

その打ち切り前の最後のショットには、前回記事で紹介した「単独♂のこのカップルの♂の腹部への一時的掴みかかり」というアクシデントがありました(写真18)(11時42分)。

ホソミイトトンボ単独♂が連結♂に一瞬つかみかかる 
写真18 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 単独♂が連結♂に一瞬つかみかかる(再掲) (この写真のみ、クリック拡大なし)

このあと、11時49分からは、同じ水辺でホソミイトトンボの(おそらく別カップルによる)産卵行動を観察・撮影することができました。

それについては、次回記事でご紹介します。


引用文献:

Corbet, P.S. (コーベット, P.S. )(1999著)、椿宜高・生方秀紀・上田哲行・東和敬、監訳(2007)『トンボ博物学―行動と生態の多様性ー』。海游舎。


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2018-04-18 (Wed)
今年(2018年)の私にとってのトンボシーズンは、4月4日の「蜻春スタート!:アジアイトトンボ♂のオシャレはこれから」が幕開けでした。

そのほぼ1週間後(4月12日)、少し遠征して、昨年5月にホソミオツネントンボ Indolestes peregrinus (Ris, 1916) ホソミイトトンボ Aciagrion migratum (Selys, 1876)が同時に観察された(当該記事はこちら)生息地(写真10)を訪れて見ました。

※ どちらもトンボ目の中では稀な成虫越冬種(他にオツネントンボ Sympecma paedisca  (Brauer, 1877) のみ)です。

出迎えてくれたのはホソミイトトンボだけでしたが、青白い衣装でスリムな身を包んだ彼ら・彼女らの振舞いで、私の春の一時を堪能させてくれました。

今回、ホソミイトトンボの交尾を最初から最後まで継続観察することができましたので、♂が交尾相手を探す行動および産卵行動の特徴と合わせて、シリーズ記事で紹介することにします。

今回記事(第1報)では、交尾相手を求めるホソミイトトンボの♂たちの行動について報告し、交尾・産卵については次回以降の記事で詳しく紹介することにします。


目 次
◆水面上は出会いの場
◆配偶システムのタイプ
◆単独♂の静止シーン
◆体清掃行動と不思議な白い糸
◆♂♀出会いの時間帯
◆成虫の活動が見られた水辺


水面上は出会いの場

この日、他の2つの生息地を見て回った後、午前11時少し前に、この小さな溜池に到着しました。

水面に水草はまだ展葉しておらず、倒れかかった枯草や枯れ枝、浮いた落葉や落枝などが岸から1,2mの範囲に散在している状態でした(写真9)。

そういった浮遊物のある水面一帯低くを、ブルー系の細身のイトトンボが2、3頭飛び回っていました(写真1)。

水面で探雌飛翔中のホソミイトトンボ♂  
写真1 水面で探雌飛翔中のホソミイトトンボ Aciagrion migratum の(写真はクリックで拡大します)

ホソミイトトンボ♂です。

※ 飛び回るトンボを撮る際の常套手段として、高感度(ISO=5000)、高速(1/6400 sec) でシャッターを押しまくりましたが、私の熟練不足、執念不足に加えて手動焦点ということもあり、このような証拠写真程度のものを得るのがやっとでした。

被写体としてベターな、岸の草にとまっているトンボはいないかと、岸沿いをゆっくりと歩いてみました。

すると、スギナの葉にとまる連結ペア1組を見つけ、写真に収めることができましたが(次回記事で掲載)、とまっている単独♂は見当たりません。

単独♂たちは、水面上を縦横に飛び回り、♂同士が出会うと、軽く相手のほうに向きを変える程度で、またすぐに飛行を継続します。

ときには、は岸の草むらの上も縫うように飛び、何か居ないかと、草の間を見て回ります。


配偶システムのタイプ

このような単独♂たちの行動は、交尾相手となる単独♀を探すことを目的とした探雌飛行です。

時には、連結中や交尾中のカップルに遭遇して軽く接近することもありますが、しつこくそのカップルに接近を繰り返したり、つかみかかる行動は稀でした(ただし1回だけ、単独♂が連結♂の腹部に一瞬軽くつかみかかった例がありました(写真2)。

ホソミイトトンボ単独♂が連結♂に一瞬つかみかかる 
写真2 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 単独♂が連結♂に一瞬つかみかかる (この写真のみ、クリック拡大なし)

※ ピンボケ写真でしたが、珍しいシーンでしたので、切り出して輝度、コントラスト、シャープネスを調整して掲げました。

水面上では、そんな単独♂たちに交じって、1,2の連結ペアが水面上を飛び回るのも見かけましたが(次回記事で掲載)、活発に飛び回る単独♂に干渉されて、落ち着いて産卵場所を探せないようでした。

いずれにせよ、ホソミイトトンボの♂同士はそれぞれが個別の なわばり を占有して防衛するのではなく、互いの行動圏が大幅に重なり合った、典型的なスクランブル競争型の配偶システム(mating system)を採用していること、そして配偶者獲得に関して「早い者勝ち」のルールを遵守し、互いに深追いや掴みかかりを殆どしない、比較的紳士的な個体間関係を示していることがわかります。


単独♂の静止シーン

そんな中、岸辺の草にとまる単独♂も見つかりました(写真3)。

ホソミイトトンボ♂ 
写真3 探雌飛行の合間にとまるホソミイトトンボ Aciagrion migratum 

翅をぴたっと閉じて、斜めにぶらさがるように、とまっています。


体清掃行動と不思議な白い糸

そんな単独♂のうちの1♂が、体清掃をはじめました(写真4)(午前11時17分)。

ホソミイトトンボ♂体清掃 
写真4 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum ♂の体清掃

枯草のほぼ鉛直の茎にとまり、腹部をクネクネ背方に曲げたり延ばしたりしながら、右前翅右面(下面)と腹部左側面とをこすりあわせています。

※大部分ピンボケですが、腹部末端はくっきり見えます。

これから連結されようという時の♀の視野には、この♂の腹端(ピンセット付き)が後方から迫っているのかもしれません。

写真5は、同じ個体の、体清掃の中休みの瞬間です。

ホソミイトトンボ♂体清掃の途中 
写真5 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum ♂。体清掃の途中

そのせいか、翅が中途半端に開いたままです。

この♂はいったん飛び立ち(写真6)、また同じとまり場に戻りました。

とまり場から飛び立ったホソミイトトンボ♂ 
写真6 とまり場から飛び立ったホソミイトトンボ Aciagrion migratum 

この♂は、とまり場に戻ると、腹部清掃を再開しました(写真7)。

ホソミイトトンボ♂体清掃 
写真7 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum ♂の体清掃

今度は、腹先を植物の茎にこすりつけているように見えます。

写真7を拡大してみたところ、おやおや、♂の腹端から画面右上方向に向って、何か細い糸のような線が延びていました(写真8)。

腹端から液体を飛ばしているホソミイトトンボ♂ 
写真8 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum ♂の腹端から細い糸が (写真7の部分拡大)

まるで腹先を前方に向けて、水鉄砲のように液体を噴射しているかのようです。

しかもこの♂の左右の後ろ脚は、とまり場を掴むのではなく、腹端をかかえています。

まるで消防士が消火用ホースの放水口を炎の方向に向けているかのようです。

肛門から糞を勢いよく飛ばしているのでしょうか?

それとも、腹の先端の表皮(クチクラ)に針で開けたような小さな穴があって、そこから体液が噴出したのでしょうか?

あるいは、クモの糸がたまたまその位置にあっただけなのか。。

クモの糸は別として、噴出系の選択肢はいずれも、あまり起こりそうもないことですので、もう一度写真8を拡大して、よく見ることにしました。

するとどうでしょう、腹端部背面(写真では下面)と、とまっている枯れ草の節とをつなぐように、同じような細い白い線が確認できました。

これで、脱糞の選択肢は弾き飛ばされました。

また、この角度は、トンボの体から液体が噴き出したと見るにも不自然な角度です。

どうやら、腹先から真っ直ぐ延びた細い糸は、トンボの体内から噴出した液体ではなく、元々あったクモの糸(とまっている枯れ草と隣の草との間に張られていたもの)にこの♂の腹端部が触れて、その糸を画面左斜め上方向につま弾く瞬間だったようです。

そこで、写真7=写真8)の直後に撮影した、同一♂と、そのとまり場所を拡大したものを、写真9として掲げます。

ホソミイトトンボのとまり場にクモの糸 
写真9 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum ♂のとまり場にクモの糸

この写真では、♂は腹を後に真っ直ぐ伸ばしていましたが、糸はあいかわらず、とまり場から画面右上方向にピンと張られたままです。

しかも、トンボの腹先があったあたりで糸がY字形に分枝しています。

というわけで、問題の細い糸は、疑いなく、クモの糸であることがわかりました。


♂♀出会いの時間帯

午前11時前から午後0時40分頃までは、♂の探雌活動が水面上低空で活発に行われていましたが(そしてその結果として連結ペアもそれなりに成立していましたが)、私が他の生息地を見て戻った後の午後2時05分には、天候に大きな変化はなかったにもかかわらず、水面上・岸上を含めわずか1頭の♂しか見られませんでした。

おそらく、交尾可能な♀の出現時刻が午前11時前後をピークとして正午ちょっと過ぎくらいまでの時間帯にほぼ限られるという特性があり、♂もそれに合わせて、その時間帯には水面上や岸の草むらを精力的に探索するということではないでしょうか。

そして、その時間帯以外は水辺を離れて休息や採餌活動をする傾向た強まるということだろうと思います。


成虫の活動が見られた水辺

本種の成虫の活動が見られた水辺の水面や岸の草の状況を、写真10として掲げておきます。

ホソミイトトンボの交尾産卵が見られた溜池の水辺 
写真10 ホソミイトトンボ Aciagrion migratum 成虫の活動が見られた水辺

♂の探雌飛行と♂♀連結による産卵活動は、枯葉や枯草が浮いた水面上の低空で、新たに連結したカップルがとまって交尾する場所は、草がまとまって生えているフェンス際の草むらでした。

次回記事では、ホソミイトトンボの交尾の一部始終を取り上げます。


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2018-04-11 (Wed)
前々回記事「四国トンボ巡礼(8): タイワンウチワヤンマ、トラフトンボなどヤゴ3種」の中で、「タイワンウチワヤンマ幼虫に不思議な穴!」との見出しをつけ、タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax (Hagen in Selys, 1854)幼虫写真4)の腹端近くの腹節に大きな穴(写真6、7)があるが、どうやって開いた穴だろうかと問題提起をしました。


目 次
◆昆虫エキスパートの眼力は、「穴」を「コミズムシ類」へ、更に「マルミズムシ」へと進化させる
◆ヒメマルミズムシに似ているけれど
◆小さな虫だからといって侮るべからず
◆マルミズムシ類の、タイコウチ下目の中での系統的位置
◆引用ウェブ頁
◆謝辞


タイワンウチワヤンマ幼虫 
写真4(再掲) タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫

タイワンウチワヤンマ幼虫の腹端部(穴が開いている) 
写真6(再掲) タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫(写真4の部分拡大)

タイワンウチワヤンマ幼虫の腹端部(穴が開いている) 
写真7(再掲) タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫(別個体ではなく同一個体の部分拡大)


昆虫エキスパートの眼力は、「穴」を「コミズムシ類」へ、更に「マルミズムシ」へと進化させる

そのブログ記事をフェイスブックで告知したところ、その日のうちに、松山探虫団の飯田貢さんから、
「タイワンウチワヤンマの腹部の穴ですが、拡大してみるとコミズムシ類の頭部に見えますね。写真6では脚が見えています。」
とのコメントがありました。

飯田さんと私との間の、コメント欄でのその後のやりとりの要点を、以下に紹介します。

私:「何かが付着しているという線もブログ記事作成中に念頭にありましたが、写真5、写真7では穴の向こうにたも網の繊維が見えているようにも解釈できたのですが。写真6では、ヤゴの表皮(クチクラ)の穴の縁が修復によって丸く縁取りされているようにも見えます。」

飯田さん:「『穴の縁』がどの部分を指すのか分かりません。コミズムシの複眼に白い反射(キャッチ光)があるのは、球面体でヤゴの背中面より手前にあるからだと思います。そして撮影角度での光の移動からも立体物にしか見えません。」

私:「問題のタイワンウチワヤンマ幼虫(写真4写真6))で、穴の縁と思われるところ(コミズムシで隠れている斜め左下の部分にも)に、青い点線を引いてみました(写真A)。いかがでしょう?」

タイワンウチワヤンマ幼虫の穴?それとも 
写真A タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫(写真6の部分拡大)

飯田さん:「私の眼には穴が開いてるようには見えません。ただ何度もみてるうちに複眼の形や色からマルミズムシではないかと思い始めました。水生植物が多い開けた池という生息環境も一致します。」

私:「青い点線に囲まれた卵円形(白っぽい)の部分(写真A、左)は飯田さんから見ると何になりますか?ミズムシの体部?、水滴?、それとも。。」

飯田さん:「マルミズムシの右側面に見えます、右斜め上を向いていて赤茶色委部分が複眼、左下側にオールのような後脚がみえています。」

私:「マルミズムシでしたか! 確かに下記リンクを見ると腹面は白くて丸いし、縁もそれらしいです。貴重なご指摘を有難うございました。

私:「マルミズムシで画像を検索してみました。ヒメマルミズムシ Paraplea indistinguenda(体長:1.5~1.8mm)が一番似ているでしょうか?」

私:「下のリンク(ヒメマルミズムシ Paraplea indistinguenda についての韓国語の解説記事)の上から7番目の写真と、私のブログのタイワンウチワヤンマ幼虫の『穴』を見比べると、見れば見るほど穴には見えなくなり、この小さなマルミズムシの眼と口器と脚が生き生きと浮き上がりました。

私「他にも、以下のようなヒメマルミズムシ関連リンクがありました。




フェイスブックでの飯田さんと私との間の、本件についてのコメントのやりとりは以上です。


ヒメマルミズムシに似ているけれど

その後、私の方で、改めてリンク1~5のマルミズムシ類の画像と、タイワンウチワヤンマに付着した小昆虫の像とを見比べてみたところ、以下のことが確認できました。

リンク2(ヒメマルミズムシ)の、横から見た個体で、右複眼、口器、頭部が乳白色であること、および後脚の形状が、写真6の付着小昆虫のそれらと一致する。

・ただし、写真6の小昆虫では、肩から後方の腹面、側面も柔らかそうな乳白色だが、リンク2(ヒメマルミズムシ)では硬化した茶褐色である。

・この違いの原因は、写真6の小昆虫では、このマルミズムシが捕食を受けて肉質部が露出しているためかもしれない。

リンク3(ヒメマルミズムシ)は、背面全体(翅の背面を含む)も灰白色であり、写真6、7の小昆虫と一致する。

リンク4(ヒメマルミズムシ)は背、面全体(翅の背面を含む)も灰白色であること、および体が非常に小さいことも、写真6、7の小昆虫と一致する。

以上のように、ヒメマルミズムシに似ていますので、それだと断定したいところですが、同属の別種マルミズムシ Paraplea japonica の特徴との、あるいは同じ科の別の種があったとしてその種の特徴との照合がほとんどできていませんので、ここでは、タイワンウチワヤンマに付着していた水生カメムシマルミズムシ属の1種 Paraplea sp.であった、とするに留めておきます。


小さな虫だからといって侮るべからず

マルミズムシは体長1.5~1.8mm、マルミズムシは体長2.3~2.6mmといずれも小さく(レッドデータブックとちぎのウエブサイト)、といずれも非常に小型で、ミズムシ科のミズムシHesperocorixa distanti(体長11mm前後)を見慣れた私にとって見破るのは至難の業といいたいところです。

今回の私の判定ミスからの教訓は、「先入観、思い込みによって、観察がゆがめられることが大いにある。」ということです。

この教訓は、「ある現象や出来事の原因を、自分がこだわっている何か一つの特定の考えだけに求めるのではなく、同じような現象や出来事を生じうる、あらゆる可能な原因をしらみつぶしするように調べ、事実や実験結果で検証する姿勢が大切である」という科学者の基本姿勢にも共通しているように思います。


マルミズムシ類の、タイコウチ下目の中での系統的位置

以上の結論が得られたところで、コミズムシ類マルミズムシ、更にミズムシは、水生カメムシ目の中でどのような系統的位置(=分岐分類における位置)を占めているのかが気になりましたので、ネット検索により調べてみました。


それによれば、マルミズムシ類ミズムシ科 Corixidae ではなくマルミズムシ科 Pleidae (下の写真)に属していました。

Plea minutissima photo by Didier Descouens 
マルミズムシ科Pleidaeに属する、Plea minutissima (再掲)(Photo by Didier Decouens; Source, Wikipedia)

マルミズムシ科は、タイコウチ科 Nepidae やコオイムシ科 Belostomatidae よりはミズムシ科に近縁(時代的により後に系統ば分岐した)ですが、マツモムシ科 Notonectidae により近縁であるという意外な系統関係があることを知りました。

それ以外に、扁平な、コバンムシ科 Naucoridae  やナベプタムシ科 Aphelocheiridae なども、ミズムシ科よりはマルミズムシ科に近縁とされているのも、意外性があります。


引用ウェブ頁:

源五郎:辺の生き物彩々
http://gengoroh.seesaa.net/article/379954673.html 【リンク1

ヒメマルミズムシ、韓国語WebPage 
https://m.blog.naver.com/PostView.nhn?blogId=nstdaily&logNo=150046483138&proxyReferer=https%3A%2F%2Fwww.google.co.jp%2F 【リンク2

イッケー:日本産淡水魚の世界へようこそ:ヒメマルミズムシ
http://www.geocities.jp/tansuigyo_ofi_kke/KonntyuuHimemarumizumusi.html【リンク3

魚部@西表島本おもろそう!:ヒメマルミズムシ(左・福岡県産)とホシマルミズムシ(右・沖縄県産)
https://twitter.com/gyoburou1998/status/911949503518740485 【リンク4

レッドデータブックとちぎ:ヒメマルミズムシ
http://www.pref.tochigi.lg.jp/shizen/sonota/rdb/detail/18/0154.html

uni2:淡路島の生き物たち3:池・川 昆虫(2)
 http://uni2008.web.fc2.com/htm/ike.kontyuu2.html 【リンク5


謝辞

タイワンウチワヤンマの表皮に見られた異質な部分はマルミズムシ類であるということをご指摘いただいた飯田貢さんに、謝意を表したいと思います。


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2018-04-09 (Mon)
当ブログの前回記事タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax の幼虫の腹部表面に小さなミズムシ類が付着していたことが、私の友人、飯田貢さんの指摘を受けて判明しました。

そこで、ミズムシ類を含む水生カメムシ類の系統関係はどのようなものであるか、ネット検索したところ、Hebsgaard et al. (2004)による、形態学と分子配列データで系統関係を分析した論文がヒットしました。

以下、その概要をご紹介するとともに、各科を代表する種の成虫の画像を転載(著作権許諾済)またはリンクして、今後の参考に供することにします。

タイコウチ下目 Nepomorpha の系統樹

Hebsgaard et al. (2004)の論文は、カメムシ目-異翅亜目に属する、タイコウチ下目 Nepomorphaを、形態学と分子配列データ(16S + 28S rDNA)のセットを、直接最適化direct optimization を用いて分析したものです。

具体的には、タイコウチ下目 Nepomorphaの40種、およびアウトグループ(アメンボ下目Gerromorpha および ミズギワカメムシ下目 Leptopodomorpha)に属する2種から、形態の65形質と、ミトコンドリア遺伝子16S由来の約960bpおよび全42種の末端分類群の核遺伝子28Sを含む分子データを、分析に供したものです(分析の詳細はオリジナル論文を参照)。

得られた系統樹は、それまでの形態分析による系統分類体系(Mahner, 1993) と大筋では一致していましたが、それと異なる結果の一つとして、 ナベブタムシ科 Aphelocheiridae とPotamocoridae(和名なし)の両科が姉妹群関係が明白であることから、コバンムシ上科Naucoroideaから独立した、新しいナベブタムシ上科Aphelocheiroideaを構成することを挙げています。

下の図は、Hebsgaard et al. (2004)のFigure 7を模写したものです(一部省略し、和名を付記)。

Nepomorphaの系統樹(Hebsgaard et al 2004.) 

図1 Phylogeny of Nepomorpha タイコウチ下目  (by M. B. Hebsgaard et al. 2004)(図はクリックで拡大します)

上の図で、和名は、日本分類学会連合(2018)および太田(2018)を参考にしました。


代表的な種の成虫の画像

以下、それぞれの科について、代表的な種の成虫の画像を転載(著作権許諾済)またはリンクします。


NEPOIDEA タイコウチ上科

Belostomatidae コオイムシ科

Abedus herberti, Photo by Greg Hume 
Abedus herberti (Photo by Greg Hume; Source, Wikipedia)


Nepidae タイコウチ科

Nepa cinerea by Jeffdelonge Vantoux et Longevelle 
Nepa cinerea (Photo from Jeffdelonge Vantoux et Longevelle; Source, Wikipedia)


CORIXOIDEAミズムシ上科

Corixidae ミズムシ科

Hesperocorixa castanea photo by James K Lindsey 
Hesperocorixa castanea (Photo by James K. Lindsey; Source, Wikipedia)


OCHTEROIDEAメミズムシ上科

Ochteridae メミズムシ科

Velvety Shore Bug - Ochterus - photo by Graham Montgomery
Velvety Shore Bug - Ochterus   (reproduced by courtesy of Mr Graham Montgomery, from BugGuide: Velvety Shore Bug - Ochterus.)


Gelastocoridae アシブトメミズムシ科

Gelastocoridae photo by Justinlei 
Gelastocoridae アシブトメミズムシ科の1種 (Photo by Justinleif; Source, Wikipedia)


ナベブタムシ上科 APHELOCHEIROIDEA

Potamocoridae 和名なしの科

HERRERA & SPRINGER (2012)の論文Fig.1Potamocoris beckeri の成虫♀の画像が掲載。


Aphelocheiridae ナベブタムシ科
Aphelocheirus aestivalis photo by Marianne Müller 

Aphelocheirus aestivalis (Photo byMarianne Muller; Source, Wikipedia)


コバンムシ上科 NAUCOROIDEA

Naucoridae コバンムシ科

Ilyocoris cimicoides photo by Siga 
Ilyocoris cimicoides (Photo by Siga; Source, Wikipedia)


NOTONECTOIDEAマツモムシ上科

Notonectidae マツモムシ科

Notonecta maculata photo by Didier Descouens 
Notonecta maculata (Photo by Didier Decouens; Source, Wikipedia)


Helotrephidae タマミズムシ科

Idiotrephes chinaiの画像が、下記サイトで閲覧可能。必見! 
Lee Kong Chian Natural History Museum: THE BIODIVERSITY OF SINGAPORE: A Digital Reference Collection for Singapore's Biodiversity: Idiotrephes chinaiLundblad, 1933.

エグリタマミズムシ Heterotrephes admorsusの、色々な角度からの画像が、下記サイトで閲覧可能。


PLEOIDEAマルミズムシ上科

Pleidae マルミズムシ科

Plea minutissima photo by Didier Descouens 
Plea minutissima (Photo by Didier Decouens; Source, Wikipedia)


日本産水生カメムシ類の画像一覧サイト

下記サイトには、水生カメムシ類各種の綺麗な標本の画像が整理されています。


引用文献

系統樹:
Hebsgaard MB, Andersen NM, Damgaard J (2004) Phylogeny of the true waterbugs (Nepomorpha: Hemiptera-Heteroptera) based on 16S and 28S rDNA and morphology. Syst Entomol 29:488–508. 

 Mahner, M. 1993. Systema Cryptoceratorum Phylogeneticum (Insecta, Heteroptera). Zoologica 143: 1-302. (Hebsgaard et al. [2004]から間接引用)


和名参考サイト:
日本分類学会連合(2018):異翅亜目 Heteroptera  - 日本産生物種数調査 -

太田透(2018):おさかなマガジン:昆虫の分類(淡水棲昆虫類中心) 


画像リンクサイト:
BugGuide: Velvety Shore Bug - Ochterus.

HERRERA, F. & SPRINGER, M. (2012)First Record of the Family Potamocoridae (Hemiptera: Heteroptera) in Costa Rica and of Coleopterocoris Hungerford, 1942 in Central America. Zootaxa 3333: 66–68   


Lee Kong Chian Natural History MuseumTHE BIODIVERSITY OF SINGAPORE: A Digital Reference Collection for Singapore's Biodiversity: Idiotrephes chinaiLundblad, 1933.



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2018-04-07 (Sat)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征で、最初に訪れた生息地(溜池A写真12)では、本シリーズ(関連記事はこちら)第七報までに列挙したように、5科13種のトンボの成虫(そのうち初対面3種;文末リスト参照)に出会うことができました。

第八報の今回は、溜池Aから掬い上げられたトンボ目の幼虫(ヤゴ)3種を取り上げます。


目 次:
 ◆トンボ目生息調査と採集・撮影
 ◆溜池Aにはどんなヤゴが?
 ◆タイワンウチワヤンマの幼虫
 ◆タイワンウチワヤンマ幼虫に不思議な穴!? → 正解は小型のミズムシ類
 ◆トラフトンボの幼虫
 ◆ショウジョウトンボの幼虫
 ◆今回の幼虫同定の根拠
 ◆生活史の中の幼虫
 ◆最初の訪問地溜池A
 ◆溜池Aで今回の訪問で観察されたトンボ目のリスト(学名省略)
 ◆引用文献
 ◆謝辞
 ◆引用文献


トンボ目生息調査と採集・撮影

一般的にいって、トンボ目を含むどの生物に関しても、生態や生息状況の観察には、種の正確な同定が大切です。

かつては、カメラの性能も不十分でしたし、フィルム代がかさみますので、種の同定のためには、(見慣れた種を除いては)サンプル個体を採集して、標本用に持ち帰ることが不可欠でした。

しかし最近では、トンボの成虫については、ネットを使わずとも、性能のよいデジタルカメラ(+望遠・マクロレンズ)で撮影すれば、定評あるトンボ図鑑(浜田・井上 1985、杉村ほか 1999、尾園ほか 2012)と照らし合わせることで、画像によりほとんどの種の同定が可能になっています。

ですので、(成虫の場合には)新記録種あるいは新奇な形態変異に遭遇した場合等を除いては、種個体群の維持の観点から、不必要な採集は自制することが推奨されます。

一方、幼虫の生息調査のためには、水中カメラを駆使しない限り、たも網等で掬い上げることが不可欠ですし、その上で、標本用に持ち帰るか、または生きたままの姿をいくつかの角度からカメラで接写する必要があります。


溜池Aにはどんなヤゴが?

今回の私の遠征は、地元の熱心な昆虫研究者・愛好家のグループ(ここでは「松山探虫団」(仮称)と呼ばせてもらいます)による、溜池のトンボ生息状況調査にゲスト参加させてもらうことで実現したものです。

この日の「松山探虫団」メンバーの1人、武智礼央さん(昆虫研究者;『愛媛のトンボ図鑑』[かわうそ復活プロジェクト、2013]の共著者)は、溜池A で、他のメンバーがデジカメ&肉眼で観察する中、たも網による水生昆虫生息状況調査に没頭しておられました。

おやおや、何かの生き物が採れたらしく、団員が集まっています(写真1)。

溜池で水生昆虫を調査中のメンバー 
写真1 掬った幼虫をチェック中の武智さんほか探虫団メンバ―。(写真はクリックで拡大します)

「どれどれ」と、私も覗きにいきました。

写真2からわかるように、手前から大、中、小3種類、各1個体のヤゴが、一緒に掬われた落葉屑、水草屑の中から掻き出されていました。

溜池で調査メンバーが掬ったトンボ幼虫
写真2 武智さんがこの時に掬い上げた溜池Aのトンボ幼虫

その場で武智さんの許可を得て、網の中で運命の時(?)を待つヤゴたちの写真を数枚撮影させてもらいました(写真2~8)(写真の当ブログへの掲載も快諾されました)。


タイワンウチワヤンマの幼虫

これらヤゴ3個体の中で、一番大きいヤゴが、写真3~4です。

タイワンウチワヤンマ幼虫 
写真3 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫

主に杉村ほか(1999)の図鑑を参照して、写真3、4のヤゴを、タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax (Hagen in Selys, 1854)と同定しました。

同定の根拠については、本記事の後半の「今回の幼虫同定の根拠」のところで記述します。

写真3から判断できることを、以下に列挙してみます。
・全体に厚くて丈夫そうなクチクラに覆われている。
・触角は鞭状ではなく、棍棒状。
・ただし、先端の節がヘラ状に幅広く広がってはいない。
・後頭部は前後幅があり、後ろに向ってあまりすぼまらず、側面後端が角張っている(ただし、角は丸みがある)。
・脚はそれほど長くなく、第7腹節の中間くらいまでの長さ。
・腹部は幅広く、背面から見て楕円形をしていて、第8腹節の側棘が判別できる。
・背棘の有無は判別困難。

写真4も同じ個体です。

タイワンウチワヤンマ幼虫 
写真4 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫(同一個体)

写真4では、背棘は少なくとも4~7節の後縁中央に存在するように見えます。

また、側棘は7~9節の後側端にあるように見えます。


タイワンウチワヤンマ幼虫に不思議な穴!? → 正解は小型のミズムシ類

 注記:この部分は4月8日および9日に記事初版から一部書き換えました。小見出しも末尾に「? → 正解は小型のミズムシ類」を加筆しています。

すでにお気づきの方もおられるかもしれませんが、このタイワンウチワヤンマ幼虫の腹部第8節
から第9節の前端にかけての中央やや左に、ヤゴの表皮(クチクラ)、さらには体の内部まで、円形にくり抜かれているように見えます(写真5~6)。

タイワンウチワヤンマ幼虫の腹端部(穴が開いている) 
写真5 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫写真3の部分拡大)

写真5では、その円い「穴」を通して、背景のたも網のメッシュが覗いているようにも見えます。

タイワンウチワヤンマ幼虫の腹端部(穴が開いている) 
写真6 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫写真4の部分拡大)

写真6では、少し後方からの撮影のためか、円形の「穴」の内側に、ヤゴの体内の白っぽい肉質部が覗いているように見えます。

写真7は、同じタイワンウチワヤンマ幼虫ですが、「穴」の位置からみて別個体であることがわかります。

タイワンウチワヤンマ幼虫の腹端部(穴が開いている) 
写真7 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫別個体の部分拡大)【付記:穴ではなく付着したマルミズムシということになれば、それはスライド可能なので、タイワンウチワヤンマは同一個体となる】

こちらは、腹端部の右側に、やはり、背から腹に貫通する「穴」が開いてるように見えます。

この解釈のもとで、当記事をいったん公開し、フェイスブックやツィッターで告知したところ、当シリーズ記事の取材でお世話下さった飯田貢さんから、「穴ではなく、マルミズムシ類(カメムシ目)が付着しているようだ」とのご指摘がありました。

フェイスブックでの飯田さんの追加の説明と、私がネットで調べた情報を総合した結果から、私の「穴説」は崩れ去り、飯田さんのご指摘どおり、マルミズムシの仲間に間違いないという結論になりました。

穴という先入観を捨て、ミマルズムシ類に該当するかどうかを判定するスタンスで、写真5~7をもう一度じっくり見直すと、「マルミズムシ類以外ではありえない」という確信が湧いてくる結果となりました。

穴説を打ち出す前に、「何かが付着している」という選択肢も頭を横切りましたが、写真5で穴を通してたも網のメッシュが覗いている、という先入観に影響された判断で先入観が補強されてしまっていました。

飯田さんが、この付着したマルミズムシ類を見破ることができたのは、昆虫全般への強い関心と、この溜池を含む、身近な生息地における昆虫についての豊富な観察体験があったからこそと思います。

マルミズムシ類については、次回記事で簡単に取り上げたいと思います。

 注記:一部書き換えはここまでです。


トラフトンボの幼虫

ヤゴ3個体の中で、中間サイズのヤゴが、写真8です。

トラフトンボ幼虫 
写真8 トラフトンボ Epitheca marginata 幼虫 

写真8のヤゴを、トラフトンボ Epitheca marginata (Selys, 1883)と同定しました(本記事の後半の「今回の幼虫同定の根拠」参照)。

写真8から判断できることを以下に列挙してみます。
・触角はよく見えないが、特に太短かったり、短棒状だったら判別できるはずなので、細い糸状(鞭状)の触角を持っているはず。
・複眼は小さいが、頭部前側面に突出する。
・頭部前面の複眼間に黒褐色の帯状斑がある。
・後頭部は背面から見て逆台形で、背面に起伏がある。
・脚が長い。
・脚に腕章状の褐色斑がある。
・腹部に小さい側棘があることは分かるが、背棘の有無の判別は困難。
・腹部の黒褐色斑がよく見える。


ショウジョウトンボの幼虫

ヤゴ3個体の中で、一番小さいヤゴが、写真9~11です。

ショウジョウトンボ幼虫 
写真9 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia 幼虫

写真9~11のヤゴを、ショウジョウトンボ Crocothemis servilia (Drury, 1773)と同定しました(本記事の後半の「今回の幼虫同定の根拠」参照)。

写真9から判断できることを以下に列挙してみます。
・複眼は大きく丸く、前方にも突出する。
・側棘が腹部8,9節に認められる。
・側棘は尖って意外と長い。
・背棘は見えない。

ショウジョウトンボ幼虫 
写真10 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia 幼虫(同一個体)

写真10から判断できることを以下に列挙してみます。
・頭部前面がよく見えているが、銀杏の葉のような形の下唇側片が左右からしっかりとかみ合わさっている。
・複眼は丸く大きく、頭部側面に突出する。
・脚の腿節には腕章状の褐色斑がある。

ショウジョウトンボ幼虫 
写真11 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia 幼虫(同一個体)

写真11からは以下のことがわかります。
・背棘がない。
・側棘も目立たない。


今回の幼虫同定の根拠

主に杉村ほか(1999)(必要に応じて尾園ほか(2012))を参考に、写真から判断できた特徴を検討・総合して、今回の3個体の幼虫(ヤゴ)の種の同定を、以下のように行いました(比較対象は日本産の種)。

タイワンウチワヤンマ同定の根拠:
・日本産トンボ目不均翅亜目幼虫で、写真3~4のように腹部が縦にくらべて横に広がるのは、サナエトンボ科のコオニヤンマ Sieboldius albardae Selys, 1886 とタイワンウチワヤンマ、それにヤマトンボ科のオオヤマトンボ属 Epophthalmia、コヤマトンボ属 Macromia くらいである。
・コオニヤンマでは、触角は団扇状に幅広く扁平に広がり、第7,8腹節側棘が目立って大きい。それに対してタイワンウチワヤンマの触角は鈍頭で短い円柱状で、第7,8腹節側棘は特に目立って大きくはない。
・オオヤマトンボ属およびコヤマトンボ属の幼虫では、触角は鞭状で、脚が長い(後脚腿節が腹部第8節後端付近まで届く)。

トラフトンボ同定の根拠:
写真8の個体は、触角が糸状で細長く(鞭状で)、腹部が短いことから、トンボ科かエゾトンボ科・ヤマトンボ科に属する。
・ヤマトンボ科では頭部を背面から見た場合、左右に丸く膨らむが、写真8の個体は台形を逆さまにした形なので、トンボ科かエゾトンボ科に該当する。
・エゾトンボ科幼虫はトンボ科よりも脚が長く、後脚腿節の長さが頭幅以上となるのが多い。写真8の個体はこれに該当する。
・エゾトンボ科の中で、写真8の個体のように左右の複眼をつなぐような帯状の黒褐色斑があるのはトラフトンボとオオトラフトンボである。
・オオトラフトンボの第9節の側棘は長く、あきらかに先端が肛上片の先端を越えるが、トラフトンボの第9節の側棘の先端は肛上片の先端を越えない。
・それに、そもそも、オオトラフトンボは四国には分布しない。

ショウジョウトンボ同定の根拠:
写真10の個体は、触角が糸状、下唇側片が銀杏の葉状であること、下唇腮側片の歯の刻みが弱いことからトンボ科とわかる。
・トンボ科の中で、背棘がなく(写真11)、複眼は大きく(写真9)、頭部の前側方にあり(側方であったり、前側方だが前にも突出したりはしない)(写真9)、第8,9側棘がはっきり突出する(写真9)のは、ショウジョウトンボである。


生活史の中の幼虫

今回採集された幼虫は、いずれも腹長に対する翅芽サイズの比率が、終齢の場合にくらべて若干低いように見えることから、亜終齢かその一つ前の齢のものと思われます。

タイワンウチワヤンマ:
・高知県では、タイワンウチワヤンマの1回目の羽化は5月末から7月中旬にかけて行われ、ごく少数が9月上旬にこの年2回目の羽化を示す(青木2017の図7;元データは松本[2001])。
・このことから、今回採集されたタイワンウチワヤンマの幼虫は、この年には羽化せず、幼虫のまま越冬して、翌年の6月頃羽化する個体と考えられる。


トラフトンボ:
・トラフトンボは、高知県では4月上旬から6月中旬にかけて出現する(杉村ほか1999)。
・トラフトンボは幼虫期間が長く、春季羽化の年1化(1世代)の生活史をとっている(尾園ほか2012)。
・したがって、今回採集されたトラフトンボの幼虫は、この年(2017年)に羽化することはなく、翌年(つまり2018年)の4~6月に羽化すると考えられる。

ショウジョウトンボ:
・ショウジョウトンボは、高知県では4月中旬から12月上旬にかけて出現する(杉村ほか1999)。
・ショウジョウトンボの卵期間は最短5日、幼虫期間は最短2カ月と短く、年に2回以上羽化する(尾園ほか2012)。
・したがって、今回採集されたショウジョウトンボの幼虫は、残り1カ月以内に終齢への脱皮、幼虫の皮の中での成虫への変態を経て、年内に羽化する可能性と、冬を越して翌春羽化する可能性を共に持つ。


最初の訪問地、溜池A

今回記事で取り上げた幼虫(ヤゴ)の採集地点である、最初の訪問地(溜池A)の景観を再掲しておきます(写真12)。

溜池その1 
写真9 最初の観察地(溜池A)(再掲)。

溜池Aのトンボ生息地としての特徴については、本シリーズ第一報で簡単に紹介しています。


溜池Aで今回の訪問で観察されたトンボ目のリスト(学名省略)

今回の記事までの8件のシリーズ記事で、溜池Aで観察されたトンボ(幼虫を含む)の、すべての種を取り上げましたので、以下にリストアップしておきます。

アオイトトンボ科:
 アオイトトンボ
イトトンボ科:
 ムスジイトトンボ(初対面)
 アオモンイトトンボ
 アジアイトトンボ
ヤンマ科:
 ギンヤンマ
サナエトンボ科:
 タイワンウチワヤンマ(幼虫も)
エゾトンボ科
 トラフトンボ(幼虫のみ)(初対面)
トンボ科:
 ショウジョウトンボ(幼虫も)
 ハネビロトンボ
 ナニワトンボ(以下、アカネ属 Sympetrum)(初対面)
 オオキトンボ(初対面)
 ノシメトンボ
 リスアカネ 
 ネキトンボ

以上、6科14種のトンボを確認することができました。
そのうち4種とは初対面でしたので、満足のいく結果となりました。

たった2時間半程度の滞在でこれだけの種に会えたということは、この池がトンボ生息地として大変好条件を備えていることの証でしょう。

大規模な溜池で使用権者による維持管理も大変でしょうが、トンボを始めとした在来の水生生物の多様性をいつまでも保全していくために、管理者と自然観察者やその団体、それに調査研究者との連携の向上が望まれます。

本シリーズ、次回記事では、カトリヤンマオニヤンマ(いずれも成虫の話題)を取り上げる予定です。


引用文献:

青木典司(2017)温暖化? 北上するタイワンウチワヤンマ。神戸のトンボ(ブログ)。http://www.odonata.jp/04topics/Ictinogomphus_pertinax/index.html (更新:2017.01.03 12:00)

浜田 康・井上 清 (1985) 日本産トンボ大図鑑。講談社。

松本導男(2001)高知県南国市のタイワンウチワヤンマ羽化記録。Gracile (63):11-15。(青木2017から間接引用)。

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司 (1999) 『原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』。北海道大学図書刊行会。


謝辞
トンボ幼虫の撮影とブログ掲載を快諾された武智礼央さん、現地をご案内いただいた高橋士朗さん、飯田貢さん他の皆さんに謝意を表したいと思います。【付記:飯田さんにはマルミズムシ類についてもご指摘いただきました、改めて感謝いたします。】


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2018-04-04 (Wed)
夏日が予想された今日の昼前、快晴のもと、さいたま市内の公園2カ所を回りトンボ探しをしました(トンボ撮影時点でのアメダス気温は24℃前後(この日の最高気温は15~16時台に26℃越え)。

比較的広い園地内のいくつかの池を一通り巡り、終点にしていた真夏にはガマ属の植物が生い茂る浅い池(写真1)を半分回り、「まだトンボは出ていないか・・・」と半ばあきらめかけた時、足元から小さなイトトンボがフルフルと舞い上がりました。

アジアイトトンボを観察した公園の池 
写真1 今シーズン最初のトンボが観察された池(さいたま市の公園内)(写真はクリックで拡大します)

羽化してまだ日が浅いテネラル成虫独特の飛び方です。

見失うことなく、岸にほど近い枯草にとまるところを確認することができました。

カメラを構えそーっと近づきました。

そこにいたのは、私にはすっかりお馴染みの種となった、アジアイトトンボ Ischnura asiatica (Brauer, 1865) の♂です(写真2)。

アジアイトトンボ♂未熟個体 
写真2 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♂

上の写真が、焦点リングを微妙に動かしながら50回シャッターを押した中の、ベストショットです(ISO=640、1/200、f=13、FL=250mm)。

下の写真は、同じ個体を少し前方から撮ったものです(撮影時点はこちらが先)。

アジアイトトンボ♂未熟個体 
写真3 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♂、同一個体

黒い鼻の下に黒いチョビ髭の顔と、対面です。

おや、足もとに何か、小さな虫が・・・・。

拡大すると。。

アジアイトトンボ♂未熟個体とゾウムシ 
写真4 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♂(同一個体)の足下のゾウムシ

どうやらゾウムシの一種のようです。

このトンボを、もっと接近して短焦点マクロで撮影しようと近づいたところ、飛び立って空高く舞い上がってしまいました。


成熟に伴う色彩変化(異なる時期間の比較)

さて、一見して未成熟な色彩や硬化度を見せていたこの個体ですが、成熟個体とどう違うのでしょうか?

トンボ図鑑やトンボ専門ブログには、成熟に伴う色彩変化が述べられていることが多いですが、この際、自分がこれまでに撮影した写真同士を比較して、その違いをこの眼で確かめたくなりました。

まずは、今回撮影したアジアイトトンボ♂(羽化後、日の浅い個体)の写真2を下に再掲します。

アジアイトトンボ♂未熟個体 
写真2 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♂(再掲)さいたま市、4

比較対象は今回の個体に加えて、以下の2個体です。

(1)埼玉県上尾市で6月に撮影したアジアイトトンボ♂(ある程度成熟が進んだ個体)(写真5)(登場ブログ記事はこちら

アジアイトトンボ ♂
写真5 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♂ (再掲) 上尾市、6月 

(2)関東北部で9月に撮影したアジアイトトンボ♂(かなり成熟が進んだ個体)(写真6)(登場ブログ記事はこちら

アジアイトトンボ♂
写真6 アジアイトトンボ Ischnura asiatica ♂ (再掲) 関東北部、9月

複眼の色彩:
複眼の背面は、さいたま市4月の個体では、乳濁した茶紫色;上尾市6月の個体では、透明感茶紫色;関東北部9月の個体では、焦げ茶色。

複眼の側面は、さいたま市4月の個体では、乳濁した紫;上尾市6月の個体では、やや透明な白っぽい薄紫;関東北部9月の個体では、薄い黄緑色。

胸部の色彩:
胸部淡色部の地色は、さいたま市4月の個体では、紫がかった水色;上尾市6月の個体では、薄い水色;関東北部9月の個体では、薄い黄緑色。

脚の腿節背面の黒斑は、さいたま市4月の個体では、まだ薄い;上尾市6月の個体では、はっきり黒化、ただし小斑(地理変異?);関東北部9月の個体では、はっきりとした黒色。

翅の色彩:
翅脈は、さいたま市4月の個体では、淡褐色;上尾市6月の個体では、黒色;関東北部9月の個体では、黒色、ただし前縁脈などは淡褐色。

縁紋は、さいたま市4月の個体では、灰色;上尾市6月の個体では、黒色だが周辺が少し灰色、ただし後翅の縁紋は灰色で中央が黒い;関東北部9月の個体では、黒色。

腹部の色彩:
腹部第9節背面は、さいたま市4月の個体では、灰色がっかった薄青紫;上尾市6月の個体では、ややくすんんだ薄紫味のある白色;関東北部9月の個体では、澄んだ水色。


成熟に伴う色彩変化のまとめ

以上の比較結果をまとめる前に、押さえておくことがあります。

アジアイトトンボは年に2化以上することが分かっていますので(尾園ほか、2012)、4月、6月、9月の出現順は、必ずしも羽化後の経過日数が短い順とは限りません。

また、同じ関東地方とはいえ、撮影場所が異なりますので、体色に関して地域変異が存在する可能性があります。

更に同じ撮影場所、つまり同一個体群内に、色彩の異なる遺伝子型が複数存在することがありえます。

実際、黄緑色が普通のアジアイトトンボ♂の中に、青色型も存在することが知られています(杉村ほか、1999)

カメラは同じカメラを用いましたが、撮影条件、現像条件、パソコン画面の性能の差などによっても、色彩は微妙に異なりえます。

さて、本論に戻ります。

複眼の色彩を見ると、どの種でも未成熟個体に見られる傾向である、乳濁感が4月→6月→9月の順に消失していきますので、この順に成熟度が進んでいることが強く示唆されます。

したがって、複眼背面の濃褐色、側面の黄緑色は、成熟が進むことによって発現してくるようです。

胸部淡色部の地色は、薄い水色だったものが、成熟が進むことによって薄い黄緑色へと変化するようです。

翅脈は、淡褐色だったものが、成熟が進むことによって黒色になっていきます(これは多くのトンボの種に共通)

縁紋は、灰色だったものが、成熟が進むことによって黒色になっていきます(これも多くのトンボの種に共通)

腹部第9節背面は、灰色がっかった薄青紫ったものが、成熟が進むことによって、澄んだ水色になっていくようです。

このことは、アジアイトトンボ♂が成熟すると、複眼側面や胸部側面が黄緑色になるのに対し、腹部第9節背面は澄んだ水色になるという、目立つ色をコーディネートさせる形で「変身」することがわかります。


引用文献

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司 (1999) 『原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』。北海道大学図書刊行会。


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