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2018-07-31 (Tue)
今年6月上旬に月井栄三郎さんのご案内のもと栃木県の小湿地で観察したハッチョウトンボ Nannophya pygmaea Rambur, 1842 についてのシリーズ記事の最終回、8回目の今回は「コミュニティーの『隣人たち』」と題して、同じ小湿地を利用する他種トンボを取り上げます(シリーズ記事一覧はこちら)。

目 次
 ◆はじめに
 ◆ハッチョウトンボの「隣人」たち
 ◆ハッチョウトンボと「隣人」たちの居住地
 ◆共同体の「隣人」間の一般的関係
 ◆同種個体群内の「隣人」関係(進化論的考察)
 ◆謝辞
 ◆引用文献


はじめに

生態学では同じ地域に生息する生物の集まりを生物群集(英語表記 biotic community の直訳は生物共同体)と呼びます。

その際、すべての生物を対象としてしまうと、その実態把握のための調査は膨大なものになり、特別な予算と調査人員を投入しない限り、実現不可能となります。

ですので、通常は鳥類群集とか歩行性甲虫群集といったように、共通または類似の資源を競合しつつも一定程度 分け合って利用している、特定の分類群によって構成される生物種のセットが、調査・研究対象になります。

というわけで、この小湿地でハッチョウトンボと資源を分け合う、あるいは競い合うトンボが、今回の話題の対象となります。

本当のところ、ある生息地のトンボ群集について定量分析をからめて論議するためには、少なくとも春一番のトンボ成虫の出現から、最後のトンボ成虫が確認できた冬の初めまで、少なくとも毎月2回の調査(それも、種ごとに個体数を数え、記録する)が必要と考えます(過去記事「身近なトンボ生息地のモニタリング」参照)。

私は、大学院生時代には札幌市近郊の沼で(Ubukata 1974)、大学で教員をしていた時には釧路湿原のいくつかの生息地で(生方・倉内 2007)、そして退職後はさいたま市内の園地の池(生方 2014)で、そのような定量的分析に堪えるデータを収集する調査・研究を行いました。

したがって、今回のような、6月のわずか2日間(それも連続)、かつ午前中だけの定性的なデータ収集に過ぎない観察機会から得られるものは、この小湿地のトンボ群集のほんの一端を垣間見るにすぎません。

しかしながら、たとえわずかな記録であっても、初夏のこの時期のこの時空間を切り口とした、この小湿地のトンボ群集の特徴を、うっすらと描き出してくれるように感じます。


ハッチョウトンボの「隣人」たち

前置きが長くなりました。

ハッチョウトンボを多産するこの小湿地(写真4)で今回観察されたトンボたちを順に紹介します。

まずはヨツボシトンボ Libellula quadrimaculata Linnaeus, 1758 です(写真1)。

ヨツボシトンボ 
写真1 ヨツボシトンボ Libellula quadrimaculata  (写真はクリックで拡大します)  

ヨツボシトンボは、ハッチョウトンボと同じくトンボ科に属しますが、躯体はずっと大きく、とまる位置も写真のように、ぐっと高い(といっても1m程度)です。

ヨツボシトンボは、ふつう、もう少し水面が広く、深い池沼で繁殖しますので、今回のこの小湿地では、ハッチョウトンボと同じ共同体の「隣人」というよりも、「来訪者」という扱いのほうが実態に近いと思われます。

※ ヨツボシトンボについては、過去記事「睡蓮をバックにヨツボシトンボは鎧を見せつける」で主役として取り上げています。

次は、アジアイトトンボ Ischnura asiatica (Brauer, 1865) です(写真2)。

アジアイトトンボ♂ 
写真2 アジアイトトンボ Ischnura asiatica 

写真2アジアイトトンボは、ハッチョウトンボ成虫がよく利用するトクサ属植物に、高さや体軸の水平面に対する傾きまで同じように、とまっています。

しかし、この日の観察時間中に見かけたのはこの個体だけで、ハッチョウトンボと勢力を争うほどの集団を形成してはいない様子でした。

アジアイトトンボも、ヨツボシトンボ同様、より水面が開けた池の岸近くでよく見られる種類ですので、今回のこの小湿地をメインの生息地としてではなく、いくつかの利用可能な生息地タイプのうちの一つとして利用しているのだろうと思います。

アジアイトトンボについては、これまでに何回も過去記事(一覧はこちら)で取り上げていて、主役級でも数回登場しています。

最後は、シオヤトンボ Orthetrum japonicum (Uhler, 1858) ♂です(写真3)。

シオヤトンボ♂ 
写真3 シオヤトンボ Orthetrum japonicum ♂

写真3シオヤトンボは、この小湿地の中でも水面が比較的大き目に広がっている(といっても、せいぜい長径1m程度)窪みに接した、平たい石の上にとまっていました。

過去記事(一覧はこちら)からも伺えるように、シオヤトンボは、浅くて清冽な水が緩やかに流れる小規模な湿地を好んでいます。

その意味で、ちょっとトクサ属植物の繁茂が気になりますが、ハッチョウトンボの多産するこの小湿地は、シオヤトンボにとっても大切な生息地の一つになっているものと思われます。


ハッチョウトンボと「隣人」たちの居住地

以上、ほんの2日間弱の期間に見かけた、ハッチョウトンボの「隣人」たち(訪問者を含む)3種をご紹介しました。

その居住地の大半が写っている写真を、過去記事(シリーズ記事第1報)から再掲しておきます(写真4)。

ハッチョウトンボが生息する小湿地 
写真4 ハッチョウトンボが生息する小湿地 (シリーズ記事第1報の写真1を再掲)

画面奥の方に、ヨツボシトンボがとまっていた枯れヨシ、シオヤトンボがとまっていた大き目の水面が、それぞれ写っています。

アジアイトトンボがいたところは、写真4の撮影者の真後ろに広がる小湿地の、割合に足元近くでした。


共同体の「隣人」間の一般的関係

同じ生息地で、ハッチョウトンボと資源を巡って争うこともありうる、さらには捕食者にもなりかねない、トンボの他種をハッチョウトンボの「隣人」と表現した理由を、以下に一般論として述べておきたいと思います。

「隣人」はもちろん擬人化した表現です。

人間社会においては、「隣人」は、同じ種、国、民族、集落の一員同士という関係の中から生まれる、ある種の連帯感、仲間意識を連想させる用語です。

中にはご近所トラブルを起こす隣人や、隣は何をする人ぞと互いに無関心な隣人も、少なくはありませんが。

トンボ群集を含め、あらゆる生物群集において、種間関係は、人間の隣人関係のような共通の利益のために互いに協力しあうことがある関係ではありません。

むしろ、生物の種間関係は、資源を巡って直接・間接に争ったり、「双利共生」に見えても互いに利用しあうという、本来互いに油断のできない関係であるといえます。

それなのに、なぜ「隣人」という言葉を用いたのかといえば、長い進化の歴史の中で、資源を巡る種間の争いの帰結として、ニッチ(生態学的地位: ecological niche)の分化が成立し、同じ生息地内に類似の異種でも共存が可能となるということが、ごく普通に起きているとみられるからです。

実際、どの沼、池、川でもそれぞれのトンボの種が利用する空間は、重なることはあっても、その軸足の位置は少しずつずれていますし、利用する餌の種類やサイズ、成虫が出現する時期(Ubukata 1974)、活動する時間帯なども、わずかずつであっても互いにずれています。

このようなニッチ分化が、同一生息地内の複数種のトンボの共存を可能にし、その結果、種間にもかかわらず無駄な争いは緩和され、観察者の我々から見ても、そこそこ長閑なトンボたちの共同体があちこちに成立することになります。


同種個体群内の「隣人」関係(進化論的考察)

もちろん、同種のハッチョウトンボの同種個体群内の「隣人」関係も存在します。

そしてそれ(同種個体関係)こそ、彼らにとって本物の「隣人」関係なのですが、それは種間関係よりも、むしろ苛烈な関係になりえます。

なぜかといえば、同種内で自分が持つ遺伝子を次世代に伝えた個体のみが、その血統内での存在価値を持つように、自然選択(自然淘汰)、性選択(性淘汰)の原理が出来上がっているからです。

たとえば、1頭の成虫♂がいたとして、目の前に1頭の成熟♀が現れたとしましょう。

そのとき、横から来た同種の別♂に「どうぞ、あなたが交尾してよいですよ」と眼の前の♀を譲る行動を(遺伝子の命令として)したとしたら、その遺伝子を持つ個体は(したがって、その遺伝子も)その同種集団から消えていく運命にあります。

1970年代中葉までの日本の生態学研究者の間で有力だった進化論(今西進化論)では、生物個体を種の社会を持続させていくこと―すなわち個体維持種族維持とを全うしてゆく存在(今西 1951)としていました。

種族維持」(種の存続)のために、生物個体は行動しているということが真実であるならば、上のような同種個体間の譲歩行動(利他的行動 altruism)は、まったく問題ありません。

しかし、実際には、縁もゆかりもない相手に対して利他的行動をする生き物は存在しません。

利他的行動が見られるこ場合は、次のいずれかに限られます。
(1)血縁個体に対して譲っている(それであれば、譲った個体の持つ遺伝子に近縁度を掛けた数の遺伝子を次世代に残せる:血縁選択 Kin selection[Hamilton  1964])に過ぎない場合か、
(2)顔見知り社会が高じてお互いに裏切らない相互契約社会(人類では成立しやすい)が成立している中での、利他行動の「貸借」(互恵的利他行動 Reciprocal altruism[Trivers 1971])の一場面に過ぎない場合、
に限られるでしょう。

すなわち、「種の維持のために個体は生き、行動している」という説は間違った考えです(ドーキンス 1976;筆者による日本生態学史の一断面のスケッチは、→ 生方 2017)。

ですので、本シリーズの過去記事でも見てきたような、あの小さなハッチョウトンボでさえも、成熟♂同士が なわばり占有権をめぐって執拗に空中戦を展開したり(ただし、互いに相手に怪我をさせない:これも適応的)、また交尾直後の♀が つつがなく産卵に移行するように、伴侶♂はおせっかいに産卵場所へといざなったり、と非常にソフィストケートされた、しかし自己中心的な種内競争のかたちを見せることは、トンボ同種社会の「隣人関係」として、ごく当然のことと言えます。

実際に、私の共著書(東・生方・椿 1987)では、全編を通して、繁殖地でのトンボの行動を個体の生涯繁殖成功のための戦略という視点で記述し、分析し、解説しています。

最後はちょっと理屈っぽくなりました。

今回記事をもって、8回にわたってレポートしたハッチョウトンボ関連シリーズ記事を閉じることとします。

次回は、ハッチョウトンボの生息地に続けて月井さんにご案内いただいた、溜池群で観察したトンボについてレポートします。


謝 辞
現地をご案内くださった月井栄三郎さんに、心よりの感謝の意を表します。


引用文献
Dawkins, Richard  1976: The Selfish Gene. Oxford University Press.(リチャード・ドーキンス 1991『利己的な遺伝子』。 紀伊國屋書店)。

Hamilton, W. D.  1964: The Genetical Evolution of Social Behaviour. Journal of Theoretical Biology, 7 (1): 1–16.

東 和敬・生方秀紀・椿 宜高 1987:『トンボの繁殖システムと社会構造』。東海大学出版会。

今西錦司 1951:『人間以前の社会』。岩波新書。

Trivers, R.L. 1971: The evolution of reciprocal altruism. Quarterly Review of Biology. 46: 35–57. 

UBUKATA, Hidenori 1974: Relative Abundance and Phenology of Adult Dragonflies at a Dystrophic Pond in Usubetsu, near Sapporo. JOURNAL OF THE FACULTY OF SCIENCE HOKKAIDO UNIVERSITY Series VI. ZOOLOGY, 19(3):758-776.

生方秀紀 2014: トンボ多様性の変化を追う-トンボ成虫群集モニタリングのプロトコール-。昆虫と自然」、49 (10):11-15.

生方秀紀 2017:「北国から見た「種社会学」から社会生物学へのパラダイム・シフト」、辻 和希編『もっとも基礎的なことがもっとも役に立つ 生態学者・伊藤嘉昭伝』所収。海游舎。

生方秀紀・倉内洋平 2007:  トンボ成虫群集による湖沼の自然環境の評価―釧路湿原達古武沼を例に―。陸水学雑誌、68 巻(1 ): 131-144。


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2018-07-25 (Wed)
今年6月上旬に月井栄三郎さんのご案内のもと、栃木県の小湿地で観察したハッチョウトンボ Nannophya pygmaea Rambur, 1842 についてのシリーズ記事、7回目の今回は「羽化殻にみる幼虫最後の行動」と題して、フィールドで撮った羽化殻をじっくり観察します(シリーズ記事一覧はこちら)。


目 次
 ◆はじめに
 ◆幼虫最後の仕事としての羽化殻の格好を観る
 ◆ハッチョウトンボ終齢幼虫の定位術
 ◆謝辞


はじめに

ハッチョウトンボの羽化については、既に本シリーズ記事第1報「ハッチョウトンボ:(1)羽化直後の成虫を観る」で、羽化殻から脱出した成虫の体色変化を中心にレポートしました。

トンボたちが つつがなく成虫に変身できた(つまり無事羽化できた)ことの蔭には、彼らが幼虫時代最後の仕事として行う、羽化支持物(通常、草の茎・葉や細い木の幹や枝)への、しっかりとした定位があります。

羽化殻は、そうして定位した幼虫の抜け殻にすぎませんが、下記のような視点でじっくり観察すると、何か新しい発見があるような予感がします。

1)定位場所としてどんな素材、高さ、部位を選んだのか?

2)体軸を、重力方向に対してどんな角度におさめたのか?

3)天敵や突然の気象変化に対する備えはあるか?

4)幼虫の胸部背面の正中線が裂開して、そこから少し硬くなりかけた成虫が脱出し、まだ柔らかい翅や腹部を伸張させた時に、定位場所の周辺の植物等に触れて損傷を受けることのない、十分な広さの空間を確保しているか?

5)6本の脚は、幼虫の体、さらにはその脱殻にぶら下がる成虫の体重をささえるために、どのように支持物を抱え込み、爪を立てているのか?


幼虫最後の仕事としての羽化殻の格好を観る

さて、6月2日と3日の午前中、数個体の羽化個体を観察・撮影することができました。

いずれも羽化殻に、あるいはそのすぐ近くの支持物にぶらさがっていました。

それらの中から、羽化殻が比較的よく写っている写真をピックアップし、終齢幼虫が定位した際の、ハッチョウトンボ各個体の意思決定の跡を探ってみることにします。

写真1は、ピントは甘いですが、定位したハッチョウトンボ幼虫(第1報の写真2~4と同一個体)を真横から捉えています(8時49分)。

ハッチョウトンボ羽化殻 
写真1 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の羽化殻 (写真はクリックで拡大します) 

トクサ属植物の茎の先端から1cm未満の位置にしがみついていますが、両前脚が茎から外れています。

それでも、脱殻の頭部、胸部、腹部に脚をかけた成虫の体重を支えています。

これを可能にしているのは、脱殻の左右の後脚がしっかりと支持物を抱きかかえるように折り曲げている、定位幼虫のぬかりの無さであると言えます。

この折り曲げが維持されるためには、羽化殻になってからの脚の関節が、クチクラの乾燥により、固まっていなければなりません。

よくできているなと、唸らされます。

写真2も同一個体ですが、1時間50分経過しており(‏‎10時38分)、成虫は足場を羽化殻から定位植物そのものに移し、すでに翅を開いています。

成虫の体色も少し濃くなり始めています。

ハッチョウトンボ羽化殻 
写真2 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の羽化殻 (写真1と同一個体)

写真2では、羽化殻の左後脚の跗節末端の爪がしっかりと支持物(トクサ属植物)の茎に食い込んでいて、このことにより、終齢幼虫時の自らの体重、そして脱出した成虫の体重を支えていたことがわかります。

左右の複眼が側方に突き出し、ピラミッドのように突き出している口器(下唇)は、きちんと折り畳まれています。

胸部背面中線の裂け目からは、幼虫の白く丈夫な気管の表皮が4本ほどはみ出しています。

この白い管が抜けた後の成虫の体内に続く空洞は、そのまま成虫の気管の主幹を構成することになります。

写真3は、月井さんが採取し、私に撮影素材として提供して下さった、別個体の羽化殻です(背景は人工物)。

ハッチョウトンボ羽化殻 
写真3 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の羽化殻 (別個体;背景は人工物)

写真3は、ピントはあまりよくありませんが、以下の事柄が見てとれます。
・複眼の部分に透明感があること
・翅芽(成虫の翅が収まっていた鞘状の部位)が「ハ」の字形に左右に開いていること
・後脚と中脚で支持物を抱きかかえて体を支えているが、左右の前脚も草の主茎と枝茎に爪をかけて体重保持にいくらか貢献していること。
・植物の分枝部につかまって、上体を鉛直よりも少し背方に反りかえらせていること

写真4,5写真1、2のものとは別個体(第1報の写真5、6と同一個体)を、異なる角度から撮ったものです。 (6月3日:それぞれ、‏‎8時58分および‏‎9時07分に撮影)

ハッチョウトンボ羽化殻 
写真4 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の羽化殻 (第1報の写真5、6と同一個体)

ハッチョウトンボ羽化殻 
写真5 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の羽化殻 (写真4と同一個体

写真4、5では、羽化殻の体前半の斜め下からの側面がよく見えます。

写真4では、羽化殻はまだ大部分濡れていますが、脚はすでに乾いており、体重を支えるのを助けています。

写真4、5では、この脱殻も、前脚は支持物から完全に引き離されていますが、広角のⅤ字形に折り曲げられた左後脚がしっかりと体重を支えています(爪はかかっていないが)。
右後脚は支持物を抱えてはいませんが、爪が食い込んでいて、その上から左後脚の跗節で支持物に押し付けられています。

左中脚も支持物を抱えてはいませんが、爪を食い込ませています。

羽化成虫は、両後脚を伸ばして、羽化殻ではなく、直接支持物をつかんで、体重の一部を支えています。

また、羽化成虫の左前脚は羽化殻の左複眼に爪を立てて支え、右前足は羽化殻下唇に、右中脚も羽化殻の胸部に爪を立てています。

写真6は、これまでとは別個体の羽化です(6月3日:‏‎8時52分)

ハッチョウトンボ羽化殻 
写真6 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の羽化殻 (別個体)

羽化殻は、両後脚、左中脚、そして両前脚もかろうじて支持物を抱えるか、爪を立てています。

羽化成虫は、前脚が羽化殻の頭部に、中脚が胸部に爪をかけてしがみつき、左後脚は支持物にあてて踏ん張るかたちで体重を支え、また体のバランスをとっています。

羽化殻はまだ濡れている感がありますが、前脚の脛節から順に乾き始めています。


ハッチョウトンボ終齢幼虫の定位術

「はじめに」のところで列挙した、観察のポイントに立ち返って、今回の羽化殻の取りつき場所(=終齢幼虫の定位場所)はどうだったかを、チェックしてみます。

1)定位場所としてどんな素材、高さ、部位を選んだのか?  
 → 写真7~10をご覧ください。いずれの定位個体も、素材としてはトクサ属植物、高さとしては茎の先端近く(すなわち、水面からは十分高さをとっている)、部位としてはトクサ属植物の茎(時に、茎の分岐部:写真3)を選んでいました。

ハッチョウトンボ羽化(幼虫の定位) 
写真7 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の羽場所選択(写真1と同一個体)

ハッチョウトンボ羽化(幼虫の定位) 
写真8 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の羽場所選択 (写真4と同一個体)

ハッチョウトンボ羽化(幼虫の定位) 
写真9 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の羽場所選択 (写真6と同一個体)

ハッチョウトンボ羽化(幼虫の定位) 
写真10 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の羽場所選択(写真4,5と同一個体)

2)体軸を、重力方向に対してどんな角度におさめたのか?
  → 体軸は、鉛直線(重力方向)に対して30~40度、背方に傾いているケースがほとんどです(写真7~10)。定位に用いた支持物そのものが5~15度程度鉛直線に対して傾いていることが多く、この傾きと羽化殻自体の支持物との角度を合わせた、定位幼虫の傾きが30~40度になっているということになります。

3)天敵や突然の気象変化に対する備えはあるか?
  → 定位に用いた支持物は、水に浸った湿地の中央部から生えているトクサ属植物であるため、アリやクモなどの歩行性の捕食性節足動物によって、幼虫そのもの、あるいは羽化途上の成虫が捕食攻撃を受ける機会を大幅に減少させているでしょう。もっとも、飛翔性の捕食者や歩行性でも脊椎動物の捕食者、造網性のクモなどによる捕食は免れませんが、これは湿地の周縁や外縁で羽化するトンボにとっても同じことです。したがって、湿地の真上の空間で羽化をするハッチョウトンボの利点はそのまま残されます。
  → 突然の気象変化といえば、大雨や強風になります。トンボの幼虫も羽化の定位をしようとした際にあまりにも悪天候であれば、その日の羽化を見合わせることぐらいはしています。慎重に羽化決行日を決めて、すでに羽化を開始した後の気象急変に際しては運を天に任せるしかありませんが、羽化成虫がぶらさがっても外れないほどの「しっかり」さで支持物にしがみついていますので、ある程度までは悪天候をやりすごすことができるでしょう。

4)幼虫の胸部背面の正中線が裂開して、そこから少し硬くなりかけた成虫が脱出し、翅や腹を伸張させた時に、定位場所の周辺の植物等に触れて損傷を受けることのない、十分な広さの空間を確保しているか?
  → 写真7~10を見てすぐわかるように、いずれの場合も、定位幼虫の周囲の空間には翅を伸ばした成虫が体をばたつかせても、そして処女飛行に飛び立つ上でも邪魔になるような物体(植物など)は見当たりません。私は直接確認していませんが、トンボの幼虫が定位した後、体を動かして周囲に邪魔な構造物がないかどうかをチェックしているような動きをすることが知られています。ハッチョウトンボの場合、小型な幼虫ですので、そのような動きにはあまり期待できないかもしれません。むしろ終齢幼虫の複眼でしっかりと支持物の周囲を画像としてとらえ、「これだけ空間にゆとりがあれば大丈夫」位の判断はした上で、定位位置の自己決定をしているものと思われます。

5)6本の脚は、幼虫の体、さらにはその脱殻にぶら下がる成虫の体重をささえるために、どのように支持物を抱え込み、爪を立てているのか?
  → 写真1から6と、それを基にした考察でおわかりのように、定位時点では支持物である植物の茎につかまっていた(あるいは爪をたてていた)であろう前脚はしばしば、中脚も時には、支持物から離れることがあるものの、後脚だけはしっかりと最後まで支持物を抱え、羽化成虫の重みを縁の下の力持ちのように支えていました。特に中脚は支持物に爪をたてることで、外れるのを免れているケースが散見されました。逆に、羽化殻が支持物から外れてしまっために羽化成虫が地面(水面)に落下したケースは、私が見た限りありませんでした(もちろん、多数の観察がなされれば、そのようなケースも起こりうるとは思いますが)。

以上で、生態写真の読み解いての、ハッチョウトンボの羽化から交尾産卵までの行動・生態的な特徴のシリーズ記事は簡潔しました。

次回の最終回記事では、「付録」として、ハッチョウトンボの多産するこの小湿地で見られた、他種のトンボを取り上げます。


謝 辞
現地をご案内くださった月井栄三郎さんに、心よりの感謝の意を表します。


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2018-07-21 (Sat)
6月上旬に栃木県の小湿地で観察したハッチョウトンボ Nannophya pygmaea Rambur, 1842 についてのシリーズ記事、6回目の今回は産卵♂による産卵エスコートとりあげます(シリーズ記事一覧はこちら)。

目 次
 ◆交尾直後の♂、♀の振舞い
 ◆産卵とエスコート
 ◆おせっかい? エスコート♂の行動
 ◆引用文献:
 ◆謝辞


交尾直後の♂、♀の振舞い

写真1は、前回記事で写真付きで紹介した交尾カップルのうちの一組です(6月2日、11時05分12秒に撮影)。

ハッチョウトンボの交尾 

写真1 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の交尾。(前回記事の写真5を再掲)(写真はクリックで拡大します)  


このカップルは、11時05分14秒には交尾を解きました(写真2a)。

ハッチョウトンボ交尾直後の♂♀ 
写真2 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の交尾直後の♂♀(写真1と同一カップル)

写真2a) 分離直後の♀は交尾態でとまっていた枝先のすぐ近くでホバリングしています。
♂は分離して舞い上がった後、すぐに向き直り、♀を見守るようにホバリングしています。

写真2b) その10秒後のカップルですが、♀は交尾態でとまっていたのと同じ枝先にとまっています。
♂は、♀の真向いの位置のトクサ属植物の先にとまり、じっと♀を見ています。

写真2bの1分12秒後には、この直下の浅い水面で♀が産卵を開始しました。


産卵とエスコート

写真3は、♀が産卵している最中を写した中での、この日のベストショットです。

ハッチョウトンボの産卵 
写真3 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea のの産卵 (写真1、2とは別個体)

この日に見た最初の交尾カップルの分離(10時18分44秒)の後、18分58秒には産卵が始まっていました。

写真3はその時の♀ですが、草に囲まれた浅い水たまりのすぐ上でホバリングしながら、腹端の打水を繰り返していました(10時19分10秒撮影)。

けっこう疲れる仕事なのか、産卵途中ですぐ近くの草にとまるのが、よく見られました(写真4)。

ハッチョウトンボ、産卵♀の休息 
写真4 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の産卵♀の休息(写真3と同一個体)

写真4は、産卵開始後最初の休息です(10時19分00秒撮影)。

この♀の産卵も、先ほどまで交尾相手だった♂のエスコート下で行われていました(写真5)。

ハッチョウトンボ、産卵♀とエスコート♂ 
写真5 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の産卵♀とエスコート♂ (写真3と同じ♀個体とその伴侶♂)

写真5a) ♀は同じ場所で、体の水平面での向きを少し替えて、打水を続けています(10時19分10秒)。

写真5b) 2回目の産卵休止中の♀のすぐ上では、相方の♂が見守っています(10時19分32秒)。

10時19分34秒には、♂も♀も、とまり場を離れ、♀は産卵を再開しました。

写真5c) 産卵♀が体軸を前傾させている瞬間です(10時19分42秒)。

写真5d) 打水動作の1カットです。こちらは、腹部が水平よりも下がっています。(10時19分44秒)。

残念ながら、打水の瞬間の写真はシャッター速度が遅すぎたこともあり、使えるものは得られませんでした。

♀は、このあと3回目の産卵休止にはいりました(10時19分46秒から20分02秒まで)。

産卵休止は、この後も、10時20分10秒、21分10秒、21分52秒にそれぞれありました。

10時18分58秒から22分22秒までの3分24秒の間、都合6回の産卵休止を挟みながら、根気よく産卵が行われたことになります。

最後の産卵休止のときも、♂は写真5aと同じような高さの別の草にとまり、しっかりとエスコートしていました。

♀が、小湿地内のほんの小さなスポット(直径10cm弱)の浅い水面に打水を限定していましたが、これは「亭主」である なわばり占有個体の庇護(エスコート)を受けて、安心して産卵に専念することができるということも、一つの要因になっているものと思われます。

♂が、交尾後、雌をエスコート、更にはガードするのは、他の♂との再交尾を防ぎ、1個でも多い、自らの精子を受精した卵を産ませることで、自らの生涯繁殖成功度を高めることになるからということはすでに一般化された理解です(コーベット『トンボ博物学』参照)。

伴侶♂によるガードは、♀にとっても、交尾をしかけようとする他の♂の接近、つかみかかり、更には(不要な)交尾を防いでくれる、とても有難いパートナーシップ行動であるに違いありません(この点についても『トンボ博物学』は触れています)。

もし、ガードされてなければ、産卵のための貴重な時間やエネルギーが無駄に費やされるだけでなく、それが繰り返されるというつらい状況に置かれてしまいます。

トンボの なわばり防衛その後の産卵エスコート(ガードもする)は、とてもよくできたシステムに見えてきました。


おせっかい? エスコート♂の行動

産卵がつつがなく終れば、♀は1日の仕事は終わり、あとは休んだり、餌をとったりしながら、ゆったりと過ごすことになるでしょう。

一方の♂は、この後も♀がやってきたら精力の続く限り交尾と産卵エスコートを繰り返し、なわばりを奪おうとする♂が来たら追い払おうとするに違いありません。

実際、この後も(私たちが他のトンボ生息地へ移動する時点まで)、それぞれ別個体ではありますが、交尾や産卵が繰りかえし行われていました(交尾の観察時刻の一覧は前回記事参照)。

そんなカップルの中で、交尾後、なかなか産卵を始めない♀に盛んにちょっかいをかける、伴侶♂が観察・撮影できましたので、以下にご紹介します(写真6~8)。

写真6は、そのカップルが交尾を解く直前のものです(10時42分56秒)。

ハッチョウトンボ交尾、この後エスコート 
写真6 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の交尾、(別カップル)

写真7a~d、8e~hは、そのカップルのその後の行動です(時系列順)。

ハッチョウトンボ、交尾直後の♂♀、1 
写真7 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の交尾直後の♂♀(写真6と同一個体)

写真7a) 交尾分離直後、伴侶の♂♀は向かい合ってホバリングしています(10時43分02秒)。
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写真7b) ♂は腹背を少し反らした格好で、飛ぶ♀の側面下方に回りこんでいます(10時43分02秒)。
♀の写真に向って右方向への移動を促しているようにも見えます。

写真7c) ♀はbの少し下方のトクサ属植物にとまりました。
♂は、しつこく♀に超接近しています(10時43分02秒)。
この周りで卵を産めということでしょうか。

写真7d) ♀はとまる向きを変えています。
♂はその♀の視線の方向に回り込み、腹部を少し挙上しながらホバリングしています(10時43分02)。
あいかわらず、しつこいです。

ハッチョウトンボ、交尾直後の♂♀、2 
写真8 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の交尾直後の♂♀(写真6、7と同一個体)

写真8e)  ♂は、同じ所にとまっている♀の上方でホバリングしていますが、視線は♀のほうには向けていません(10時43分04秒)。
侵入♂への警戒も怠らないということなのでしょう。
  
写真8f) ♀の上方でホバリングしていますが、向きを変えています(10時43分06秒)。
あらゆる方向への警戒をぬかりなく行おう、ということなのかもしれません。

写真8g) ♂は、また写真eと同じ方向を向いてホバリングしています(10時43分06秒)。

写真8h) ♂は♀の近くにとまりましたが、視線は♀の方向とはなっていません(10時43分18秒)。
ここまでくると、♀への産卵口説きよりも、警戒がメインになるのかもしれません。

写真は以上です。

この後、この♀が産卵を始めたかどうかは、写真も記録も残っていません。

仮に、この♀が卵未成熟等の理由で産卵しないままであったとしても、交尾後の♂がこのように♀をエスコート(+ガード)することを習性にしていることは、♂にとって決して無駄なことではなく、自己の遺伝子を次世代により多く残していく上での優れた戦略であることに違いありません。

次回の最終回記事では、ハッチョウトンボの羽化殻と、この小湿地で見られた他のトンボを取り上げます。

引用文献:
コーベット, P.S. (1999著)、椿・生方・上田・東、監訳(2007)『トンボ博物学―行動と生態の多様性ー』。海游舎。

謝 辞
現地をご案内くださった月井栄三郎さんに、心よりの感謝の意を表します。


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2018-07-16 (Mon)
今年6月上旬に月井栄三郎さんのご案内のもと栃木県の小湿地で観察したハッチョウトンボ Nannophya pygmaea Rambur, 1842 についてのシリーズ記事、5回目の今回は交尾行動をとりあげます(シリーズ記事一覧はこちら)。

今回の観察地の特徴、ハッチョウトンボ♂が なわばりを構える場所の要点については、過去記事(こちらこちら)を参照ください。

なわばり内にとまって監視している、本種の成熟♂の視野に成熟♀が現れると、♂はその♀に接近し、交尾態(リング)を形成して、なわばり内の草にとまります(写真1)。

ハッチョウトンボの交尾 

写真1 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea 交尾。(写真はクリックで拡大します)


観察初日の朝8時過ぎからこの小湿地でハッチョウトンボの観察を開始し、羽化直後個体や成熟途上から完全成熟までの単独静止個体の撮影を一通り終えた、午前10時18分のことでした。


月井さんに「ほら、交尾してますよ」と指し示されて、あわててカメラを向けたのが、私にとっての本種交尾の初撮影となりました。


その後も視野を広くとりながら観察を続けたところ、交尾態のリングで草にとまるところや、ぶら下がって交尾を続けている状態を、次々とカメラに収めることができました。

その中で、1回だけですが、交尾態形成のプロセスの一部始終を目撃することもできました。

すなわち、なわばりを占有していた単独♂が、単独♀を視野に認めて、即座に飛びかかり、瞬時に交尾態を形成して、近くの草にとまるところまでのシーンを、連続的に私の脳裏に焼き付けました。

動画として撮影できなかったのが悔やまれますが、撮影初心者の私にそれを望むのは無理というものです。

それはそれとして、10時18分の交尾の後にも、私たちがこの生息地での観察・撮影を切り上げた11時18分までに、私は全部で10件の交尾態(それぞれ別カップル)を発見し、撮影することができました(ベテランの月井さんはもっと多く確認されたことでしょう)。

気付いた交尾カップルは漏らさず撮影しましたので、全ての交尾イベントの初撮時刻をデータとして残しておくことにします(以下の通り)。

10時18分、10時22分、10時24分、10時27分、10時39分、10時42分、10時44分、10時46分、11時02分(2件)、11時08分。

以下、撮影した交尾写真から4,5点をピックアップして、ハッチョウトンボの交尾行動の特徴を見ていきます。

写真2は、写真1とは別カップルの交尾です(10時39分)。

ハッチョウトンボの交尾

写真2 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea 交尾。 (別カップル)


写真2の♂は6本の脚で踏ん張って、自分と同じくらいの体重の♀を腹端と腹基部の2箇所で吊り上げた自分の腹部を、しっかりと持ちあげています。


♀も、ただ身を任せるのではなく、自分の脚で♂の腹部を抱えるようにして、自分の体重を支える位置を分散しています。


写真3は、また別のカップルの交尾です(10時57分)。


ハッチョウトンボの交尾 

写真3 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea 交尾。 (別カップル)


写真3を掲げたのは、交尾行動というより、♂の体色で「おやっ」と思ったからです。


腹部背面の色が茶色から赤に変わる途中で、腹基部近くには淡色の横縞が明瞭に残っています(完熟では消える)。


ただし、複眼は真っ赤で、完熟個体と変わりありません。

(本種♂・♀の成熟に伴う体色変化については、こちらの過去記事で写真つきでスケッチしています)。


というわけで、写真3の♂はかなり早熟(?)な個体であると言えます。

もしかすると、ドンファンになる資質を持っているかもしれません(笑)。


写真4は、更に別のカップルの交尾です(11時02分)。


ハッチョウトンボの交尾 

写真4 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea 交尾。 (別カップル)


写真4の♂は、全身真っ赤で、成熟度は十分です。


この写真を掲げた理由は、♀が植物の葉の上に体重を乗せかける位置に、このカップルがとまっているという、ちょっと例外感のあるシーンだからです。


この態勢であれば、♂は頑張って♀の体を自分の腹部で吊り上げる必要が薄れ、エネルギー的にはお得ということになります。


であれば、他のカップルもこのような、小さな低木の水平の葉の上にとまればよさそうなものです。

しかし、実際のところ、写真1~3のような、ぶら下がるとまり方が大勢を占めています。


実際、写真4のカップルも、3分後には、同じ低木のすぐ隣の枝先のほぼ鉛直に垂れた枯葉にとまりかえました(写真5)。


ハッチョウトンボの交尾 

写真5 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea 交尾。 (写真4と同一カップル)


今度は♀はぶら下がり、♂は多少なりとも♀をリフトしています。


なぜ、♀がぶら下がりになるように、とまりかえたのか?


それは♂の副交尾器のうちのペニスの抜き差しの動き(これは精子置換に必要)が、写真4のような態勢ではやりにくいからではないかと私は考えます。


というのも、♀がぶら下がった状態であれば、♂の上述の動きは、いつでも同じ程度の力加減で行うことができると思われるのに対し、写真4のように、いわば「ベッド」の上で♂の上述の動きをしようとした場合、「ベッド」たる葉の弾性や振り子運動の特性などの(1枚1枚の葉の間の)微妙な違いに対応しなければならなくなると考えられるからです。


これは考え過ぎかもしれません。


しかし、3億年のトンボの進化の歴史の中で、気の遠くなるような数のモデルチェンジ(進化)を繰り返して現在のトンボの行動があるわけですから、私の考え過ぎどころか、もっとすごい(私の想像が及ばない)適応があっても不思議ではありません。


このカップルの交尾は、途中とまり替えもありましたが、11時02分02秒から11時05分13秒まで、3分11秒間続きました。


この日、最後に撮影したハッチョウトンボの交尾(11時08分)が、実は写真1です(下に再掲します)。


ハッチョウトンボの交尾 

写真1(再掲) ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea 交尾。


写真1の♂も、6本の脚でしっかり2頭分の体重を支えています。

♀の6本の脚も信頼しきったかのように、♂の腹部にからみついています。


♂の腹基部には部分的に淡色(黄色)部が残り、これから更に男盛りになっていくことを予想させます。


このように、仲睦まじく子づくりに励んだ後には、産卵とそのエスコート(産卵警護)が、同じ なわばり内で行われることになります。


次回記事では、ハッチョウトンボのこの産卵行動と♂による産卵警護行動を取り上げます。


お楽しみに。


謝 辞
現地をご案内くださった月井栄三郎さんに、心よりの感謝の意を表します。


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