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2018-11-14 (Wed)
日本は21種のアカネ属 Sympetrum Newman, 1833 の種が記録されている(尾園ほか、2012)「赤とんぼ大国」です。

その大部分の種では、秋が近づくにつれて成虫(とくに♂)が体を赤く染め、大挙して青空の下で子作りにいそしむシーンを展開し、私達の目を和ませます。

その中でも、キトンボ Sympetrum croceolum (Selys, 1883)写真1)は翅の半分が鮮やかな黄色に染まり、翅胸や脚でも黄褐色部が黒色部を押しやるなど、名実ともに黄色をチームカラーにした種です。

なわばり飛行中のキトンボ♂、拡大 
写真1 なわばり飛行中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂ (写真はクリックで拡大します)

私が北海道東部に在住していた当時は、晩秋まで湿原池沼のほとりで活発に活動している様子を目にしていましたが、数年前に埼玉県に移住してからは、見る機会に恵まれませんでした。

今年(2018年)10月下旬、ようやく、関東地方の山間部の池でキトンボに再会することができ、しばし観察を楽しみました。

その時に観察できたキトンボほか二・三の種のトンボの様子を、キトンボの舞う秋と題したシリーズ記事として、数回に分けて報告したいと思います。

第1報の今回は、キトンボの なわばり行動について取り上げます。


目 次
 ◆今回の観察地の景観
 ◆キトンボとの再会
 ◆キトンボ♂の なわばり場所選択
 ◆なわばりの一時的移動
 ◆池の中央で なわばり争い生起
 ◆キトンボ♂がマユタテアカネ♂のなわばりに侵入
 ◆種間のなわばり争いに影響する要因(考察)
 ◆他種トンボやキトンボの連結産卵・単独(ガードつき)産卵も観察
  (詳細は次回記事)
 ◆紅葉の中のキトンボ♂
 ◆引用文献:


今回の観察地の景観

写真2が、今回キトンボの なわばり行動を観察した池です。

キトンボの なわばり行動が見られた池 
写真2 キトンボ♂の なわばり行動が観察された池

長径30m、最大幅7~8m、最大水深1m程度の小さな池で、周囲は広葉樹や草地となっています。


キトンボとの再会

快晴のもと、この池に到着すると(午前10時35分)、すでに一目でそれとわかるキトンボの♂が活動していました。

その♂は、写真2の左手前の岸づたいの、アシカキ Leersia japonica と思われるイネ科植物がまばらに生えた水面上30~50cmあたりを、ホバリングを交えながら飛行していました(写真3)。

なわばり飛行中のキトンボ♂ 
写真3 なわばり飛行中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂ (同一個体)

写真1(再掲)は、写真3を部分拡大したものです。

なわばり飛行中のキトンボ♂、拡大 
写真1(再掲) なわばり飛行中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂(同一個体)(写真3を部分拡大)

この♂は、体軸を少し前傾させてホバリングし、婚活の対象である同種♀、あるいはライバルである同種♂の接近に目を光らせています。

時々、写真4のように、岸近くの水面から突き出した枯草の先などにとまりますが、やはりキリっと前方を凝視しています。

もちろん、トンボの大きい複眼ですから、前方だけでなく、真後ろを除く広い視野全体に注意を払っているに違いありません。

なわばり内の草頂に静止するキトンボ♂ 
写真4 なわばり内の草頂に静止するキトンボ Sympetrum croceolum ♂(同一個体)

この一角で観察中にこの♂の前に同種他個体は現れませんでしたが、この行動は多くのトンボの種の♂に見られる なわばり行動 territorial behavior のうちの、なわばり占有行動です。


キトンボ♂の なわばり場所選択

写真5は、このキトンボ♂が なわばり として選択した水辺を、斜め上方から撮ったものです。

キトンボのなわばりエリアの水中・水底の様子 
写真5 観察されたキトンボ♂のなわばりエリアの水中・水底の様子

水深は浅く、水は澄んでいて、底にたまった軟泥、アシカキ(?)の匍匐茎、糸のように細い藻(アオミドロ?)がよく見えます。

このように、汚染もなく、適度に植物が生育している水辺に卵が産み付けられれば、それから孵化した小さな幼虫たちが餌動物にこと欠くことはないでしょう。

また、この池には捕食者の姿もあまり目立ちませんし(ただし、体長15cm程度の小魚1匹がこの池の中を泳ぐのは見かけました)、隠れ場所となる水生植物もそれなりに用意されています。

キトンボ♂が、♀と交尾し、産卵する場所として選定するのに、この場所は悪くはなさそうです。


なわばりの一時的移動

このキトンボ♂は、10時40分ころから池の中央部の開放水面上に移動し、そこで、1分間ほど開放水面上1~2mの高さを、ホバリングを交えながら飛び回りました(写真6,7)。

池の中央をパトロール中のキトンボ♂ 
写真6 池の中央をパトロール中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂(同一個体)

写真7は同じ個体が体を左に傾けて、左にカーブを切っているところです。

池の中央をパトロール中のキトンボ♂、左ターン 
写真7 池の中央をパトロール中のキトンボ Sympetrum croceolum ♂、左ターン(同一個体)

この♂は、その後、写真4の場所に戻り、もとのように枯草の先にとまりました。


池の中央で なわばり争い生起

この♂は、10時47分にも、再び池の中央部上空で同じような飛行を始めました。

注意深く観察すると、ただホバリングと曲線的な水平飛行を繰り返すだけでなく、木の枝先付近を覗き込むような仕草も見せていたので、採餌の狙いもあるようです。

そうこしているうちに、その♂の所へ、もう1頭のキトンボ♂が接近してきました。

両者の♂は互いに追い合い、くるくると螺旋状の飛跡を描きました。

その螺旋の直径は20~30cm程度で、元の水面上1.5m位の高さから、更に0.8mくらい上昇したところで、両者はあっさりと別れました。

片方の♂(たぶん、元からいた♂)が残り、また元と同様の飛行を続けました。


キトンボ♂がマユタテアカネ♂の なわばり に侵入

池の中央を飛び回っていた、このキトンボ♂は、10時56分頃、写真2の右に見える岸を右手前方向に延長したところの水辺へと、移動してきました。

その水辺の、水面を見張りやすいところに突き出したオギ Miscanthus sacchariflorus と思われるイネ科植物の茎(写真9)にとまろうとするかのように、キトンボ♂が飛び進むと、そのオギ(?)の穂を見下ろす位置にある少し岸寄りの枯れヨシ(オギ?)の先にとまっていたマユタテアカネ Sympetrum eroticum (Selys, 1883) ♂写真)が、このキトンボ♂を迎え撃ちました。

キトンボ♂を迎え撃つ体制のマユタテアカネ♂ 
写真8 キトンボ♂を迎え撃つ体制のマユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂

キトンボ♂は、このマユタテアカネ♂にただ追われるのではなく、強気に反撃(追い返し)もしていました。

一、二回、このような追い合いをした後、ちゃっかりとマユタテアカネのとまり場所の眼下にあるそのオギ(?)の穂先近くの茎に、このキトンボ♂がとまったケースもありました(写真)。

マユタテアカネの防空識別圏内のヨシにとまるキトンボ♂ 
写真9 マユタテアカネの防空識別圏内のオギ(?)の茎にとまるキトンボ Sympetrum croceolum ♂(同一個体)

しかしここからキトンボが飛び立つと、またそのマユタテアカネに追い立てられました。

数度の追い立てに嫌気がさしたのか、当のキトンボ♂はこのマユタテアカネ♂が睨みを利かせたエリアから飛び去っていきました。


種間のなわばり争いに影響する要因(考察)

キトンボとマユタテアカネの攻撃力に、それほど大きな差があるようには見えません。

それなのに、キトンボがマユタテアカネに対して追われる立場であったのはなぜでしょうか?

同種の♂同士でも「先住効果the effect of prior residence により、なわばりを先に占有していた個体のほうが相手を退ける確率が高いことが、トンボ目を含め、どの動物でも一般的ですが、今回観察された種間のなわばり争いにおいては、それに加えて、特定の場所への執着度の相違が効いていたように思います。

すなわち、今回観察したキトンボ♂個体のほうが池をパトロール場所として広く利用しているのに対し、マユタテアカネのこの♂個体は水辺の直径2m程度の範囲にこだわるように なわばり を維持していたので、その狭いエリアの防衛への動機付けが、より高かったものと思われます。


他種トンボやキトンボの連結産卵・単独(ガードつき)産卵も観察(詳細は次回記事)

この後、この池でオオアオイトトンボショウジョウトンボのそれぞれ♂を1個体ずつ観察・撮影し(次回以降の記事で紹介予定)、11時10分過頃、近くの別の池に向いました。

11時27分、別の池で、キトンボの連結産卵に遭遇し、その様子と分離後の単独産卵(♂のガード飛行つき)を1分間ほど観察・撮影することができました(詳細は次回記事にて)。


紅葉の中のキトンボ♂

キトンボの産卵行動の観察で、その日の「運」を使い果たしたと観念し(笑)、駐車場に戻ることにしました。

その途中にも小さな池があり、そこでは紅葉下低木の葉にとまるキトンボ♂(写真10)、樹陰をバックに陽光を浴びるキトンボ♂(写真11)を見ることができました。

紅葉とキトンボ♂ 
写真10 紅葉した低木にとまるキトンボ Sympetrum croceolum ♂(別個体)(時刻:‏‎11:41:24)

樹陰をバックに陽光を浴びるキトンボ♂ 
写真11 樹陰をバックに陽光を浴びるキトンボ Sympetrum croceolum ♂(別個体)(時刻:‏‎11:45:56)

いずれも池のほとりですので、婚活中の♂にちがいありません。

特に写真11の♂は、水面上0.6~0・8mの高さの枯草の折れた茎に池の真ん中を向いて(上向き目線ではありますが)とまっていたので、それは確かです。

一方、写真10の♂は、水面上1.5mはある低木の枝葉の上に(下から見れば)隠れるかのように、体軸をやや後傾させてとまっていたので、若干休息モードに入っていたのかもしれません。

次回は、キトンボの連結産卵・単独(ガードつき)産卵について、動画つきで報告する予定です。

お楽しみに。


引用文献:
尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』。 文一総合出版。


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2018-11-01 (Thu)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征*の2日目は、地元の昆虫研究家、飯田貢さんらのご案内のもと、1日目とは方面の異なる地域の4カ所を順に訪れ、南国のトンボ、ベニトンボを含む多様な虫達との出会いを経験することができました。

(* この四国でのトンボ探訪記は、シリーズ物として、これまでに16編の記事にしています[記事一覧はこちら])。

第17報の今回は、この日3番目の訪問地である、低山地の溜池でベニトンボとともに見られたマユタテアカネ Sympetrum eroticum (Selys, 1883) 写真1)とヤマトシリアゲ Panorpa japonica  (Thunberg,1784) 写真7)について取り上げます。

マユタテアカネ♂ 
写真1(再掲) マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂ (同一個体)(写真はクリックで拡大します)


第三の訪問地:低山地の溜池

写真2が、ベニトンボ、マユタテアカネを観察したその溜池です。

広葉樹主体の森林に囲まれ、静かなたたずまいをしていました。

ベニトンボが生息する溜池 
写真2 ベニトンボ、マユタテアカネが見られた溜池

溜池の堤体の土手(写真2、左下)には雑草が生い茂っており、多くのベニトンボ成虫(羽化後間もない個体から十分成熟した個体までの♂♀)が滞在していました(前々回記事参照)。

写真2の堤体に沿って目を右方向に転じると、ゆるやかな土砂の斜面があり、今回のマユタテアカネは、その土砂が作り出した浅い水辺で活動していました(写真3)。

ベニトンボ、マユタテアカネの見られた溜池 
写真3 マユタテアカネの活動が見られた溜池の一角

写真3の左の建造物のコンクリート円柱は、前回記事で報告したベニトンボの羽化殻が取り付いていた場所です。

マユタテアカネは、コンクリート堤体と土砂岸の境界部に注ぐ細流(観察当日は流量なし)の「河口部」で見られました。

写真4,5は、その浅瀬の水際で連結打水産卵をしているマユタテアカネのカップルです。‏‎(時刻:11:49:12~11:49:50)

マユタテアカネ連結産卵 
写真4 マユタテアカネ Sympetrum eroticum 連結産卵

マユタテアカネ連結産卵 
写真5 マユタテアカネ Sympetrum eroticum 連結産卵 (同一カップル)

ひたひたに水につかった砂礫の水面をリ、ズミカルに、繰りかえし打水していました。

マユタテアカネの産卵は、当ブログ初登場となりました。

岸沿いに少し移動すると、単独♂の なわばり占有も見られました(写真6,1再掲)。‏‎(時刻:11:51:04‏‎~11:51:40)

マユタテアカネ♂ 
写真6 マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂ (別個体)

写真6写真1(再掲)とほぼ同じ態勢ですが、一瞬、頭部を少し上向きにしたシーンです。

マユタテアカネ♂ 
写真1(再掲) マユタテアカネ Sympetrum eroticum ♂ (同一個体)

マユタテアカネの単独の成熟♂の静止写真は、これまでも何度か、当ブログに登場しています(こちらに関連記事一覧)。

以上で、この溜池で見たトンボについての紹介は全て終わりました。

以下は付け足しになりますが、実は、これが溜池付近で最初に見かけた昆虫でした。


ヤマトシリアゲ、これもインパクトあり

この池への入り口近くの路肩に駐車して、踏み分け道を登りかけた時に出迎えてくれたのは、トンボではなく、シリアゲムシ目(長翅目)の昆虫でした(写真7)。

ヤマトシリアゲ 
写真7 ヤマトシリアゲ Panorpa japonica

※帰宅後ネット上の、Tsukijiさんの「むしなび」Kawabeさんの「昆虫エクスプローラ」、ほかのサイトを参考にして検討した結果、写真7の昆虫は、ヤマトシリアゲ Panorpa japonica と同定できました。

翅の模様の独特なパターンが判定の決め手となりました。

腹部の黄褐色から赤褐色と黒色の横縞模様と、鋭く尖った腹先はハチ目の昆虫と紛らわしいほどです。

腹部が背方に反り気味なのも、近づく動物に殺気を感じさせるのではないでしょうか。

このあたり、構想中の、擬態をテーマにした記事の中で再度取り上げたいと思います。

今回の記事を以て、2日目の第三の訪問地での観察報告は全て終了しました。

本シリーズの次回記事では、2日目の最後、第四の訪問地で見た昆虫達を取り上げる予定です。


謝 辞
現地に案内して下さった飯田貢さんに謝意を表したいと思います。


引用文献:

Takuro Tsukiji:むしなび:「シリアゲムシ目」
Retrieved on 30 October 2018.

Toru Kawabe:昆虫エクスプローラ:「虫の写真図鑑 Cyber昆虫図鑑 シリアゲムシ目(長翅目)[シリアゲムシ図鑑]」
Retrieved on 30 October 2018.


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