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2019-05-20 (Mon)
5月17日、好天に誘われて、豊かな自然に囲まれた河川中流部トンボ探訪に出かけました。

午前11時に行動開始。石がゴロゴロした河原の岸沿いを歩くと、突然、小型のサナエトンボと思われる昆虫が水辺付近から斜め上空に舞い上がり、対岸の樹林の中に吸い込まれるように姿を消しました。

足下の河原の水辺に羽化殻が残されていないか目を凝らしてみましたが、見当たりません。

サナエトンボの羽化殻の有無や数量の調査が目的なら、しつこく探すところでしたが、この日はトンボの成虫の姿を早く、そしてじっくりと見るのが目的でしたので、更に岸沿いに歩を進めました。


目 次:
◆今期初トンボはミヤマカワトンボ♂
◆石の河原にヤマサナエ・アオサナエの姿も
◆おやおや、小砂利の河原にアオハダトンボ♂
◆傍流の石上にはアオハダトンボ♀
◆ひっそりたたずむミヤマカワトンボ♀
◆ミヤマカワトンボの♂たちは、ここでも なわばり争い
◆次回記事予定
◆ハッシュタグ


今期初トンボはミヤマカワトンボ♂

すると、すぐに現れました。

カワトンボ科としては大き目で、茶系統の翅をヒラヒラさせながら羽ばたくのですぐにわかる、ミヤマカワトンボ Calopteryx cornelia Selys, 1853 ♂です(写真1)。

ミヤマカワトンボ♂
写真1 ミヤマカワトンボ Calopteryx cornelia ♂ (写真はクリックで拡大します)

これが私にとって今期初トンボとなりました。写真1は、水面上をパタパタと飛び回った後、岸の中くらいのサイズの石の上に、水面方向を向いてとまったときのものです。

4~5m先に他の♂が来たのを見つけると、この♂は飛び立って突進し、互いにクルクル追い合ったりもしながら追い回しました。

なわばり♂がとまっていた場所から10~15m離れた河原上で、相手が飛び去るのを確認すると一方の♂がほぼ元の地点に戻ってとまりました。

先にその場を占有していた♂個体が、後から侵入してきた♂を追い払って戻る なわばり防衛行動です。

カワトンボ科の♂には、このように明瞭ななわばり行動を示すものが多いことが知られています。


石の河原にヤマサナエ・アオサナエの姿も

この個体の撮影を終えて岸沿いを歩くと、河原にヤマサナエやアオサナエの姿もありました。

この2種については一括して次回記事で取り上げます。


おやおや、小砂利の河原にアオハダトンボ♂

それらサナエたちと触れ合った後、今度は河原の小砂利の上にミヤマカワトンボよりも一回り小さく、金属光沢のある藍色の翅を持つアオハダトンボ Calopteryx japonica Selys, 1869 ♂ がとまりました(写真2)。

アオハダトンボ♂
写真2 アオハダトンボ Calopteryx japonica (証拠写真)


傍流の石上にはアオハダトンボ♀

更に岸沿いを歩き、コンクリート護岸沿いに川の浅い傍流が接しているポイント(写真3)を通りかかると、水辺(写真3の中央の石列の写真右端に近いところ)の中サイズの石の上に今度はアオハダトンボがとまっていました(写真4)。

アオハダトンボのいたポイント
写真3 アオハダトンボ C. japonica ミヤマカワトンボ C. cornelia のいたポイント (写真左側が下流方向)

アオハダトンボ♀
写真4 アオハダトンボ Calopteryx japonica (証拠写真)

♀が水辺のこの位置にとまるというのは、同種♂の求愛を期待してのものと考えてよいでしょう。

ただし、産卵に適した水草がほとんど見当たらないことから、アオハダトンボにとって なわばり占有場所としても産卵場所としても、あまり好適であるようには見えません。

アオハダトンボ♀は、翅の色が茶系統であるため、ミヤマカワトンボに色彩的には接近しますが、ミヤマカワトンボのように後翅に帯状の濃色斑(写真5参照)がないことから容易に区別できます。

どちらの種の♀も、翅の先端付近の前縁に白色の偽縁紋があることから、♂と区別できます。


ひっそりたたずむミヤマカワトンボ♀

対岸の護岸の中段のあたり(写真3の中段左)にも色の濃いカワトンボ科昆虫の姿が見られたので、望遠ズームで引き寄せ一眼レフカメラのファインダ―を覗くと、それはミヤマカワトンボ♀でした(写真5)。

ミヤマカワトンボ♀
写真5 護岸の中段にとまっていたミヤマカワトンボ Calopteryx cornelia ♀(証拠写真)

写真5ミヤマカワトンボ♀は、水面とは高度差のある、ゆるく傾いたコンクリート面にとまって何をしていたのでしょう?

♂のプロポーズを受けるには、あまりにも潤いのない場所です。

近くに草も生えていますので、そこを行き交う小さな虫を捕食するのが狙いだったのかもしれません。


ミヤマカワトンボの♂たちは、ここでも なわばり争い

写真3の向ってすぐ左(下流側)は岩壁がそそり立つ淵になっていて、その水面上1,2mではミヤマカワトンボの♂同士の追い合いが繰り返されていました。

写真6は、そんな追い合いの合間に岸辺の石上にとまったミヤマカワトンボ♂写真1の♂とはもちろん別個体)です。

ミヤマカワトンボ♂
写真6 ミヤマカワトンボ Calopteryx cornelia ♂(別個体)

この淵のあたりも水草がなく、ミヤマカワトンボの産卵には適しません。

そのようなこともあって、写真5の♀は元気に追い合いをしている♂たちの目にとまる場所に入り込むのを差し控えているのかもしれません。


次回記事予定

次回記事では今回記事の観察経路で見られたサナエトンボ科2種(ヤマサナエ、アオサナエ)について、写真を添えて報告する予定です。

また、次々回記事ではこの川に流れ込む農業用水路で見られたオオイトトンボ、アサヒナカワトンボほかを取り上げることにしています。


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2019-05-15 (Wed)
好天の4月23日、秩父市羊山公園で芝桜とマルハナバチを見、市街地の蕎麦店で手打ちそばに舌鼓を打った後は、越冬明けのトンボが期待できる低山地の溜池へと向かいました。

残念ながら、そこにトンボの姿はありませんでしたが、外来種ホソオチョウと初めて遭遇し、交尾成立前後の♂・♀の行動経過を写真に収めることができました(動画1~2写真1~8)。

以下、その時の写真をもとに、行動経過の細部の記述と、他の方の観察結果との比較を行い、若干の考察を加えます。

目 次
◆ホソオチョウとの出会い
◆都合よく、♀も目の前に登場
◆おっと、その♀に♂が交尾を仕掛けた(GIFアニメあり)
◆交尾中の♂♀の動作・姿勢の変遷の詳細
◆交尾成立前後の行動のまとめ
◆本種の交尾についての既存の報告との比較
 1)ホソオチョウの交尾ペア形成時の動画
 2)「しょちゃんの雑記帳」による連続観察との比較
 3)ホソオチョウの交尾ペアが対面した状態で交尾中の例
 4)ホソオチョウの交尾ペアで対面で交尾した後、♀が♂を逆さまにぶら下げてとまる例
 5)ホソオチョウの♀が♂を逆さまにぶらさげた状態でとまって交尾中の例
◆ホソオチョウ♀の交尾拒否と翅でのあしらい
◆ホソオチョウのアゲハチョウ科の中での位置付け
◆次回予告
◆引用文献


ホソオチョウとの出会い

その溜池の堤(天面の草が刈りこまれている)に足を踏み入れると、白っぽい蝶が刈り込まれた草の上をヒラヒラと飛んでいました。

刈りこまれた草にとまったその姿にレンズを近づけます。

初めて見た種類ですが、昔から保有していた蝶の図鑑では見た覚えのない小型のアゲハチョウであることから、ニュースで話題となったことのある外来種の蝶ではないかなと思いながらシャッターを押しました(写真1)。

帰宅後、比較的新しい図鑑やネット画像で調べた結果、ホソオチョウ Sericinus montela Gray, 1852 の♂(アゲハチョウ科)と同定できました。

ホソオチョウ♂ 
写真1 ホソオチョウ Sericinus montela ♂ (写真はクリックで拡大します)

そう言われて写真を見直すと、確かに後翅から後方に突き出した突起は超細長いです。
枯草に紛れてわかりにくいですが。


都合よく、♀も目の前に登場

その後、溜池の岸辺にトンボはいないかと一通り見て歩きましたが、その姿はなく、ふたたび土手の草むらに目をやると、今度はサイズ、形はよく似ていますが、色が黒っぽい蝶が飛んでいて同じように草むらにとまりました(写真2;ピンボケ御免)。

これは、ホソオチョウの♀と帰宅後確認されましたが、撮影の時点では、翅の色彩パターンがギフチョウを連想連想させました。

それもそのはず、この両種は属こそ違え、割合近い関係にあることがわかりました(後述)。

ホソオチョウ♀ 
写真2 ホソオチョウ Sericinus montela 

おっと、その♀に♂が交尾を仕掛けた(GIFアニメあり)

写真2の♀の撮影を開始するとすぐに、1頭の♂がやってきて♀の翅の先にとまり、しつこく♀の体幹にまとわりつき、ついには交尾にいたりました(動画1)。

動画1(Youtubeに筆者がアップしたものにリンク)は、写真2から始まって、交尾に至るまでとその後の♂♀の動作姿勢を捉えた写真(静止画)を、GIFアニメ風の動画に構成したものです。

その最後のカットはまだ交尾中でしたが1分以上同じ姿勢をとり、ほとんど動きがなくなったので撮影を取りやめた時のものです。


動画 ホソオチョウの交尾(GIFアニメ)。Copulation of Sericinus montela (GIF animation: 103 frames during 336 seconds) . Youtubeに筆者がアップしたものにリンク。

このGIFアニメは、336秒(5分36秒)間の連続観察を103コマの静止画に収めたもので、撮影インターバルは最短1秒未満から最長1分12秒までと一定していないので、閲覧の際は再生速度が大幅に変動していることにご留意ください。

それでも、相対的に時間が経過するとともに、♂♀が互いにどう姿勢や動作を替えていったかが、手に取るようにわかると思います。


交尾中の♂♀の動作・姿勢の変遷の詳細

以下に、上の動画1(GIFアニメ)をコマ送りしながら、交尾中のホソオチョウ♂♀の動作・姿勢の変遷の要点をメモしたものを時系列で示します(末尾の数字は時刻:時、分、秒)

  • ◆♀が草にとまった(写真2)。13:52:00
  • ◆♂がやってきて、♀の半開きの左前翅の前縁に乗りかかる。‏‎13:52:22
  • ◆♂(右)の腹はもう下前方にカーブさせている(写真3)。‏‎13:52:24

ホソオチョウ交尾前の動作・姿勢1 
写真3  ホソオチョウ Sericinus montela 交尾前の動作・姿勢 1

  • ◆♂は翅をたぐって♀(左)の胸部の左側面に接近する。♀は腹先を少し曲げて♂の腹先に近づけようとしているようにみえる(写真4A)。13:52:28
  • ◆♂は更に♀の胸部に近づき、腹を曲げて♀の腹端にちかづける(写真4B)。13:52:30

ホソオチョウ交尾前の動作・姿勢2 
写真4A,B  ホソオチョウ Sericinus montela 交尾前の動作・姿勢 2&3

  • ◆♂♀とも向きを変えて、互いに向かい合う体勢となる。13:52:38
  • ◆♂は腹端を強く曲げて♀の腹に近づける。‏‎♀の腹も接近を受け入れるように、同じ位置に留めて同調的。13:52:40
  • ◆交尾までもう少し。だがまだ腹端同士が直列結合するには程遠い。♂の腹端が♀の腹端にほぼ真横から当てがっている。ここまで、♀は翅を閉じていたが、♂は開き気味でバタバタを継続。‏‎13:52:48
  • ◆【オリジナル動画】互いに向かい合って、♀は翅を閉じた体勢。♂は翅をバタバタしていたが途中で♀と同じように閉じた。♂が腹端を♀の腹の先端近くに盛んに押し付けているが、交尾には至っていない様子(動画2:Youtubeに筆者がアップしたものにリンク)。‏‎13:52:59~13:53:18

※ この動画の撮影時刻はGIFアニメで使用した一連の静止画の撮影時間帯の中(ほぼ中央)に収まっている


動画2 ホソオチョウの交尾直前の行動(実写動画)。Behavior just before copulation in Sericinus montela. Youtubeに筆者がアップしたものにリンク。

  • ◆共に立位で、向かい合って抱擁し(♀の一部の脚は草にとまる)翅を閉じた体勢をとる。この体勢の間に交尾結合が成立したと考えられる(写真5)。13:53:24 

ホソオチョウ交尾1 
写真5  ホソオチョウ Sericinus montela 交尾中 1

  • ◆♀が♂に背を向けるように向きを変える。♂は♀と対面した態勢だったのが、♀に振り回される形で、左方向にやや横倒しとなっている 13:54:42
  • ◆♂の腹端は強く曲がって、♀の腹端と密着(結合)している。13:54:44
  • ◆♀は翅をばたつかせ始める。♂は閉じたままで受け身。13:54:46
  • ◆♀は脚を離してとまり場から離れ、♀から見て右横の枯草を右各脚でつかむ。そのため♀の翅はカメラの光軸と平行だったのが垂直になった。また、これにより、♂と♀の上体間の距離が少し開いた。♂も元のとまり場の草の一つ向こうの別の葉をつかむ(写真6A)。13:54:48

ホソオチョウ交尾2 
写真6A,B  ホソオチョウ Sericinus montela 交尾中 2&3

  • ◆♀は更に向きを回転させて向こう側を向く。それに振り回されるように♂は♀の左後方に回転させられた。‏‎13:54:52
  • ◆♀のはばたき(開き方)が極端になる。♀が羽ばたいて左右に向きをかえて、♂は振り回されるも、♂♀の結合が離れていない(写真6B)。‏‎13:55:00 
  • ◆♀は翅を開いて腹を上に反らす。♂は腹端をつりあげられ、横倒しから仰向けになりつつある。13:55:02
  • ◆確実に交尾結合しているようだ。♂は斜め逆さま状態(写真6B)。13:55:10
  • ◆♂は起き上がりを開始。13:55:12
  • ◆♀はバタバタしているが、♂は更に右回りに起き上がろうとしている(写真7)。13:55:14 
  • ◆まだ交尾している。♂は少し起き上がろうとしている(写真7)。13:55:18

ホソオチョウ交尾3 
写真7  ホソオチョウ Sericinus montela 交尾中 4

  • ◆♀が地面(枯草)に着地し、♂は起き上がるのに成功した。13:55:30
  • ◆♂は♀の腹部先端近くの背面にしがみついている。腹端は♀の腹端と結合している。‏‎13:55:46
  • ◆♀が翅を閉じ、♂は翅にはさまれているが。腹端結合はそのまま。♂の脚は♀の腹端近くにあるが、つかんでいない。つまり翅をとじられるのと、♂の翅が地面の枯草に触れていることで、体が支えられている。13:56:14
  • ◆♂は♀の翅に挟み込まれているが交尾したまま。なんと♀が翅で♂の翅をはさんで、♂の体重を支えているようだ。♂の腹の捻じれがよくわかる(写真8)。13:56:20

ホソオチョウ交尾4 
写真8  ホソオチョウ Sericinus montela 交尾中 5

  • ◆最後、同上。1分20秒間ほぼ同じ態勢なので、写真撮影をやめた。‏‎13:57:36


交尾成立前後の行動のまとめ

以上に、交尾に至るまでと、交尾に入って安定姿勢にはいるまでを、箇条書きにしてみました。
ただし、ちょっと煩雑になりましたので、以下に簡潔に要点をまとめておきます。

1)交尾ペア成立の初期段階では♂が積極的に♀を探索して、発見次第、♀の翅につかみかかる。
2)交尾の結合を達成するために、♂は♀の翅をたぐって、自身の腹端を♀の腹端に近づける。
3)交尾受け入れ態勢にある♀は、♂のこの動きを忌避することなく、腹部もまっすぐ後方に伸ばしたままにする。その際、♀は時には自分の腹端を♂の腹端のほうに向けることもある。
4)交尾をしやすくするために、♂♀とも向きを変えて、互いに向かい合う体勢をとる。
5)この向かい合った体勢で、♂は腹端を強く曲げて♀の腹の先端近くに盛んに押し付け、最終的に交尾結合が成立する。
6)交尾成立後、♀が体勢の撮り方で積極性を発揮し、♂を振り回しながら草につかまり体を通常のとまり方にしていく。
7)♂は♀のこの動きで受動的に仰向けにまでなる。
8)しかし、♂は腹部が捻じれるのも気にせず、上体を起き上がらせ、♀の背後に寄り添う(♀の両翅の間に挟まれる)。


本種の交尾についての既存の報告との比較

ホソオチョウの交尾の様子は、以下のように、ネット検索でもかなり見つかります。


1)ホソオチョウの交尾ペア形成時の動画

ホソオチョウの交尾ペア形成時の動画がYoutubeで見つかりました。
韓国語タイトルのついた、niermovie (2012)による動画です。
・♂はとまっている♀の翅の外縁にとまり、翅の側面をたぐって♀の横から交尾しようとしています。
・(動画はそこで幼虫のシーンに切り替わる)。

この♂の♀の体の上での取り付き、移動の手順は、筆者の観察したケースと基本的に一致しています。


2)「しょちゃんの雑記帳」による連続観察との比較

筆者同様に、ホソオチョウの交尾ペア形成から交尾の安定ステージまでを時系列に沿って数枚の写真を添えて紹介しているものとして、しょちゃんの雑記帳(2015)によるものがあります。

以下、その様子を紹介します(「鈎括弧」の中は直接引用)。

・「オスがやってきて空中でもつれ合い、メスはたまらず茂みとまります。」

・♂は♀の背面から♀の半開きの翅につかみかかる。翅の縁というより、縁寄りの表面(翅脈)に爪で取り付いている。

・その後、翅づたいに右翅の「裏面に回り込み」、♀の胴体右側面にとりつく。「スの胸部を抱き込みながら、生殖器を探し」、「交尾が成立」。

・交尾成立時、♂♀は向かい合っていて(♀は草の茎に垂直にとまり、♂は♀の胸や腹部前半にしがみつき、腹端を大きく腹側前方にカーブさせ、♀の腹端と結合している。

・「オスは安心したのか、メスをつかんでいた足を放しぶら下がり状態です」

・「カメラのレンズが気に障ったのか近くの桜の枝に移動します。メスが羽ばたきオスはぶら下がったまま。オスは交尾さえしてしまえば何もしないつもりのようです。」

以上のように、筆者の観察と比べて、♂が♀の翅に背方からとまるのは共通していますが、必ずしも翅の縁を挟むのではなく、翅の表面にとりつくこともあるのは驚きです。

その後、翅の裏面をたぐって♀の胴体に近づき、その後は♂が積極的に雌と腹端を結合させようとする点は共通しています。

その後、♀が♂をさかさまに吊り下げるように草の茎に鉛直にとまるところは、筆者の観察と異なっています。

※ ホソオチョウの交尾中の一場面を捉えた写真・動画は比較的多く見つかりますので、以下にそれらと比較してみます。


3)ホソオチョウの交尾ペアが対面した状態で交尾中の例

ホソオチョウの交尾ペアが対面した状態で交尾中の例として、星谷 仁(2013)およびdandara2 (2018)による観察があります。


4)ホソオチョウの交尾ペアで対面で交尾した後、♀が♂を逆さまにぶら下げてとまる例

ホソオチョウの交尾ペアで対面で交尾した後、♀が♂を逆さまにぶら下げてとまる例として、星谷 仁(2013)の記事があります。

この観察は、しょちゃんの雑記帳(2015)の観察と一致します。


5)ホソオチョウの♀が♂を逆さまにぶらさげた状態でとまって交尾中の例

ホソオチョウの♀が♂を逆さまにぶらさげた状態で、とまって交尾中の写真の報告例は、多くあります。

ホソオチョウの交尾ペアで、♀が支持物(小枝、葉裏など)に垂直にとまり、♂がさかさまにぶら下がる例の静止画としては、マイキー(2012)海野和男(2012)居眠り蛸の自然観察(2017)maximiechan(2019)など、多くあります。

ホソオチョウの♀が♂を逆さまにぶらさげた状態でとまって交尾中の動画としては、1つに、やまのぼりCOLOR(2017)の記事中のもの「ホソオチョウ(ホソオアゲハ)交尾/Nakanomata」があります。

・そのケースでは、少なくとも55秒間、♀が♂をぶらさげたまま鉛直にとまっています。
・前半22秒間では♀が翅を開いたままで、その後、♂が腹を動かしたタイミングで♀が翅を閉じ、そのまま閉じていました。
 
もう一つの動画(Getty images, 2019 access) では、♀が逆さまの♂をぶらさげて、少なくとも25秒間葉に水平にとまり、交尾を継続しています。

このように、稀には♀が水平にとまって♂をぶら下げることがあるようです。

いずれにせよ、上に引用したいずれの場合でも、♀が♂を吊り下げる形で支え続けていることがわかります。
したがって、ホソオチョウではこの♀による♂の吊り下げが常態化(※)していると考えられます。

♀のこの頑張りは、♂が♀を尾部付属器と副交尾器で把持して吊り下げるのが普通であるトンボの観察をメインにしてきた筆者にとってはちょっとした驚きです。

そして、なぜこのように吊り下げる必要があるのでしょうか?
興味は尽きません。

※ ただし、筆者の今回のホソオチョウの観察(撮影)では、♂が空中にぶら下げられるのではなく、自力で這い上がって交尾結合をしたまま♀の背面にとりついていました。

この背面とりつき型の交尾姿勢は、♂の腹部も180度捻じれていますし、ホソオチョウにとって例外的な出来事であると言えるでしょう。

これはおそらく、♀がよじのぼった草丈が低かったのが原因で、♂を完全に吊り下げられなかったため、♂が背中に這い上がるのを可能にしたのではないでしょうか?

ただし、なぜ♂が♀の背中に這い上がったのかは、今のところ謎です。


ホソオチョウ♀の交尾拒否と翅でのあしらい

kensan(2014)は、ホソオチョウ♀のの交尾拒否を観察・撮影し、写真に添えて「交尾行動をするホソオチョウ。♀は交尾済みなので♂は拒絶されあきらめた。」と書いています。

筆者(生方)がその写真から読み取れることは、♂が♀の背面から交尾を試みていますが、♀は翅を150度くらい開いていて、そのため♂は翅をたぐって♀の胴体の側面にたどりつくのが困難になっているように見えます。


ホソオチョウのアゲハチョウ科の中での位置付け

ホソオチョウの♀の翅の模様を、ギフチョウと比べるとどちらも黒味が強く、とくに前翅の黒と黄色の縞模様が似ています(ホソオチョウの♂は翅の黄白色の部分が拡がり、ギフチョウとの類似度は低下します)。

この翅のパターンの類似は偶然の一致なのか、それとも同じ祖先からそのパターンの遺伝子群を共に受け継いだ相同形質なのかが気になるところです。

Ji et al.(2012)は、アゲハチョウ科の8つの属を代表する種を用いたミトコンドリア・ゲノムの分子系統解析に基づき、ギフチョウ属 Luehdorfia ホソオチョウ属 Sericinus タイスアゲハ族 Zerynthini を構成し、ウスバアゲハ族 Parnassiinii とともにウスバアゲハ亜科Parnassiinaeを構成するのが妥当としています。

翅のパターンの遺伝子の解析によるものではありませんが、分子系統分析の一つの試みの結果、ギフチョウ属 Luehdorfia ホソオチョウ属 Sericinus の類縁の近さが強く推定されることから、翅のパターンの相同であることの可能性も高いといえるでしょう。


次回予告

次回記事では、今回出会ったホソオチョウの翅の派手で目立つ色彩パターンも持つ意味について若干の考察を行うとともに、外来種としての本種の日本での発生状況などについて情報の整理を試みる予定です。


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引用文献

dandara2 (2018)小畔川日記:ホソオチョウの交尾(2018/4/4)
https://dandara2.exblog.jp/29717743/

Getty images (2019 access) 
View of two Sericinus montela Gray (Kind of butterfly) mating on a leaf living in Daemosan mountain.
https://www.gettyimages.de/detail/video/view-of-two-sericinus-montela-gray-mating-on-a-stock-videomaterial/837989784

星谷 仁(2013)星谷 仁のブログ:ホソオチョウ/狭山丘陵東京都側でも確認
https://blogs.yahoo.co.jp/ho4ta214/33423518.html

居眠り蛸の自然観察(2017)美しい外来種 ホソオチョウ
http://blog.livedoor.jp/inemuri_tako/archives/28360390.html

JI Liu-Wei, HAO Jia-Sheng, WANG Ying, HUANG Dun-Yuan, ZHAO Jin-Liang,ZHU Chao-Dong (2012) The complete mitochondrial genome of the dragon swallowtail,Sericinus montela Gray ( Lepidoptera: Papilionidae)and its phylogenetic implication.
Acta Entomologica Sinica,January 2012,55( 1) : 91 - 100.

kensan(2014)好奇心京都:木津川の蝶観察・・・気になる木津川のホソオチョウ生息状況
https://s.webry.info/sp/kioto-syokai.at.webry.info/201405/article_32.html

マイキー(2012)ミステリーハンター:ホソオチョウとジャコウアゲハ
http://t-maekawa1108.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-35fb.html

maximiechan(2019)風任せ自由人:ホソオチョウ交尾ペア
https://minorin861.exblog.jp/30533526/

niermovie (2012)꼬리명주나비_Sericinus montela_국립환경과학원.
https://www.youtube.com/watch?v=TMtct0CuSIw

しょちゃんの雑記帳 2015 ホソオチョウ
http://shouchan19.blog.fc2.com/blog-category-226.html

海野和男(2012)海野和男のデジタル昆虫記:ホソオチョウの交尾 - 
https://www.goo.ne.jp/green/life/unno/diary/201404/1398586202.html

やまのぼりCOLOR(2017)ホソオチョウ(ホソオアゲハ)交尾
http://urajirosorbus.blog.fc2.com/blog-entry-192.html


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2019-05-10 (Fri)

私事ですが、昨5月9日をもってWorldwide Dragonfly Association 世界トンボ協会(WDA)日本グループ代表職を退任いたしました(任期満了)。

本日就任された、笹本彰彦新代表に無事バトンを渡すことができ、ほっとしています。

トンボ自然史研究所代表 生方秀紀


関連ウェブサイト


(1)WDA日本グループのホームページ

https://wda.odonata.jp/


(2)は同HPでの私の挨拶文(昨年6月)

(3)WDAのホームページ



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