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2023-11-20 (Mon)
一昨日・昨日(11月18~19日)、 国立科学博物館(上野本館)で2023年度日本トンボ学会東京大会が開催されました。

新型コロナウイルス感染症が2類感染症相当から季節性インフルエンザと同等の5類感染症に移行後、初の大会ということで私も久しぶりに参加し、研究発表も行いました。

以下、プログラムを引用のかたちで紹介し、その後で私の感想を記します。



プログラム(大会講演要旨集より抜粋・引用)

 口頭発表

生方秀紀・宮崎俊行
日本列島におけるムカシトンボ幼虫分布地点の緯度・標高および夏季の水温・気温の限界値

横井直人
福島県におけるマダラヤンマ♂の時期別飛翔と性成熟

北山 拓
気象データを用いた大陸産アカトンボの飛来事例の解析

牛島釈広
企業におけるトンボの保全 ヨツボシトンボ保全活動の事例紹介
 
八木 愛
井の頭池におけるかいぼり後のトンボ類生息状況の変化 

苅部治紀
北海道のトンボに何が起こっているのか?
-増加する絶滅危惧種と気象危機の影響の検討-

松沢孝晋
三重県における希少トンボ類の状況

二橋 亮
コフキトンボの紫外線反射とメス多型

清 拓哉
ミャンマーのトンボ相調査

宮崎俊行
「日本の博物館の父」 田中芳男 のトンボに関する足跡


 ポスター発表 

保崎有香・福井順治・西尾公兵・太田 充
「桶ヶ谷沼におけるベッコウトンボ保護増殖の紹介」

福井順治
 「磐田市桶ヶ谷沼のトンボ群集の変遷」

梶谷正行・池田智哉・相澤汰成・林 花名・後藤瑞生・根本悠希・手塚爽流・吉田 龍
 「宇都宮市豊郷地区のカワトンボは小型のニホンカワトンボ」

河村 優
 「ヤゴの実験から分かるヤゴの特徴『僕のヤゴリンピック』」


公開シンポジウム 
「東京都のトンボ 現在・過去・未来」
  (シンポジウムのホームページはこちら

プログラム

清 拓哉・秋篠宮悠仁・飯島健・喜多英人・須田真一 (※口頭発表者は清拓哉となります)
「皇居のトンボ相」

深谷 航
「関東地方のカワトンボ 
~アサヒナカワトンボにみられる翅形態の地理変異~」

喜多英人・須田真一・内山 香・多賀洋輝
「未来に向けての東京におけるトンボ関連の取り組み」



一参加者としての感想

 口頭発表

生方秀紀・宮崎俊行
日本列島におけるムカシトンボ幼虫分布地点の緯度・標高および夏季の水温・気温の限界値
 → 私が今年3月からパソコンとにらめっこしながら半年以上にわたって取り組んできたテーマについての、2,3カ月後に参画してくれた強力な助っ人、宮崎俊行氏との共同研究の成果を、私がマイクを握るかたちで発表しました。文献調査のみならず補完的な現地調査を担当された宮崎氏が質問への回答場面で分担してくれたのは心強かったです。専門的な質問がお二人から出され、有意義な研究交流の場となりました。

横井直人
福島県におけるマダラヤンマ♂の時期別飛翔と性成熟
 →成虫の行動の定量調査結果と個体の生殖器官の内部解剖の結果を関連づけた興味深い発表でした。

北山 拓
気象データを用いた大陸産アカトンボの飛来事例の解析
 →大陸産アカトンボ(Sympetrum属)が海を越えて日本に風に乗ってたどりつくことはよく知られていますが、どこからどのように飛んでくるかは謎に包まれていたと思います。北山氏は気象庁職員の専門性を活かして風の流れを分析し、大陸のどのあたりからいつ舞い上がった個体が日本の当該調査地点にたどり着いたかを探りました。北西からの風が強い日に日本海沿岸に立った人は目を凝らしてトンボが流されてきていないか注目しませんか? 私はPhilip Corbet博士(『トンボ博物学:行動と生態の多様性』(海游舎)の著者)がニュージーランドの海岸で大洋を超えてきたウスバキトンボを目の当たりにした、という話を伝え聞いたことがあります。

牛島釈広
企業におけるトンボの保全 ヨツボシトンボ保全活動の事例紹介
  →滋賀県の工場の敷地にビオトープを整備・維持管理し、ヨツボシトンボほかのトンボが定着したことの報告でした。企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility; CSR)を生物多様性保全の一助になるかたちで展開している好例といえるでしょう。多くの企業がCSRとしてSDGsの目的にもなっている生物多様性保全に力を入れて欲しいと思います。

八木 愛
井の頭池におけるかいぼり後のトンボ類生息状況の変化 
 →肉食性外来魚の増加などで生態環境が悪化した井の頭池の掻掘(かいぼり)を繰り返し行ったことで、水質や水生植物が回復し、トンボの種数や個体数も向上したことの報告でした。ボランティアの果たした役割も大きいという印象を受けました。 

苅部治紀
北海道のトンボに何が起こっているのか?
-増加する絶滅危惧種と気象危機の影響の検討-
 →10年前まで私(生方秀紀)が住んでいた北海道ですが、気候変動(温暖化)の影響は一層深刻となり、道東・道北に分布が限られていた絶滅危惧種の生息環境の劣化と個体数や生息地点が減少していることが報告されました。昨年私が釧路を久しぶりに訪れて釧路湿原内および周辺のトンボ生息地の視認調査を行った際にもトンボの生息する池や池塘の干上がり(こちらに写真)や泥地化が確認されています(土屋・生方・高橋、2023)。

松沢孝晋
三重県における希少トンボ類の状況
 →県内の生息地を丁寧に調査した結果の報告となっていました。

二橋 亮
コフキトンボの紫外線反射とメス多型
 →最初に5つの超難問のクイズ(日本産トンボの分類関連)があり、全国から集まったトンボ学の強者が苦戦していました。本題は短時間の間に超専門的な研究成果の一端が披歴されました。二橋氏は産業技術総合研究所所属ですので、研究成果は産業経済活動に応用されることが期待されています。

清 拓哉
ミャンマーのトンボ相調査
 →ミャンマーはトンボ相が長い間調べられていない空白地域ですが、そこでのトンボの調査は、アウンサンスーチーが拘束される結果となった2021年ミャンマークーデター後、内戦状態が繰り返されている困難な状況の中、安全が確保されている州で慎重に行われた様子が伝わる報告でした。東南アジア(ベトナム、カンボジアなど)でトンボ調査経験のある友人たちは今にも涎をたらしそうに聞いている様子でした。

宮崎俊行
「日本の博物館の父」 田中芳男 のトンボに関する足跡
 →トンボの現地調査に飛び回っているかと思えば、じっくりと科学史上の文献を読み漁って一編のストーリーにしあげるのですから、私だけでなく会場の多くの方はその守備範囲の広さに目を見張ったのではないでしょうか。田中芳男のWikipediaはこちらです。


 ポスター発表 

ポスター発表の時間帯に私はマスクをどこかに置き忘れて着用できなかったため、発表者による説明や質疑応答を聞いていませんので、感想の書き込みは差し控えます。


保崎有香・福井順治・西尾公兵・太田 充
「桶ヶ谷沼におけるベッコウトンボ保護増殖の紹介」

福井順治
 「磐田市桶ヶ谷沼のトンボ群集の変遷」

梶谷正行・池田智哉・相澤汰成・林 花名・後藤瑞生・根本悠希・手塚爽流・吉田 龍
 「宇都宮市豊郷地区のカワトンボは小型のニホンカワトンボ」

河村 優
 「ヤゴの実験から分かるヤゴの特徴『僕のヤゴリンピック』」
 →小学校6年生の男子の自由研究の成果。さまざまな工夫を凝らしていました。


公開シンポジウム 
「東京都のトンボ 現在・過去・未来」
  (シンポジウムのホームページはこちら

プログラム

清 拓哉・秋篠宮悠仁・飯島健・喜多英人・須田真一 (※口頭発表者は清拓哉となります)
「皇居のトンボ相」
 →皇居の敷地は東京23区内最大の緑地で水辺も維持されていることから、こんなトンボがいたの、と驚嘆するくらいの意外な種(ヤンマ科、サナエトンボ科、オニヤンマ科ほか)が確認されていました。

深谷 航
「関東地方のカワトンボ 
~アサヒナカワトンボにみられる翅形態の地理変異~」
 →関東地方には二ホンカワトンボ、アサヒナカワトンボ、伊豆個体群のMnais属の系統群が異所的に分布していることが知られていますが、形態的区別の困難性もよく知られています。これらの相違を翅脈の特徴の多変量解析によって炙り出した結果が報告されました。今後の一層の進展に期待しています。


喜多英人・須田真一・内山 香・多賀洋輝
「未来に向けての東京におけるトンボ関連の取り組み」
 →東京は(都道府県単位で)全国2位108種のトンボが記録されているが絶滅種の割合は全国1位なのだそうです。その一方でトンボのアマチュア研究者数や問題意識ではトップレベルであることがこの現状からの巻き返しの力強さに反映しているという印象を受けました。具体的にはトンボの生息環境の長期変化を発掘し、自然再生や生息地回復のための人的組織化、制度化、更にはAIを活用したスマホアプリでトンボの分布の現状把握の細密化などは、他道府県でも大いに参考になると感じました。


引用文献:

2023年度日本トンボ学会大会(東京大会)実行委員会(2023) 2023年度日本トンボ学会大会(東京大会)研究発表要旨集。

土屋慶丞、生方秀紀、高橋優花(2023)標茶町二ツ山の昆虫相への森林管理変遷の影響(1)―蜻蛉目・鱗翅類(チョウ類)―。標茶町博物館紀要第4号。


謝辞

大会を準備された実行委員会各位に謝意を表します。



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著者について:
生方秀紀(うぶかた ひでのり):北海道教育大学名誉教授、トンボ自然史研究所代表、理学博士(北海道大学);専門は昆虫生態学、自然環境教育;著書:『トンボの繁殖システムと社会構造』(共著)東海大学出版会;『坂上昭一の昆虫比較社会学』(共編著)海游舎、『ESDをつくる―地域でひらく未来への教育』(共編著)ミネルヴァ書房、『環境教育』(共編著)教育出版、他(こちらにリスト);訳書:コーベットトンボ博物学-行動と生態の多様性-(共監訳;2007)海游舎。

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