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2015-02-02 (Mon)
前回記事まで6回にわたって、中国のメコン川上流部のハナダカトンボ科の1種Heliocypha perforataの産卵行動について話題に取り上げました。

実は、私もハナダカトンボ科のトンボとのお付き合いがありました。

最初は、1980年代の沖縄県西表島でのヤエヤマハナダカトンボRhinocypha uenoi*との遭遇、もう一つは最近になっての小笠原諸島でのハナダカトンボRhinocypha ogasawarensis **との出会いです。

下の写真は、そのときに私が撮影したハナダカトンボ♂です。

ハナダカトンボ♂
   (↑クリックで拡大します。)
 ハナダカトンボRhinocypha ogasawarensis ♂。小笠原諸島で撮影。**

名前のとおり、鼻(にあたる部位)が高いですね。
そして、翅が細く長い割に腹部が短く、均翅亜目全体の中でも標準的なものとくらべてバランスが大きく偏っています。
これも、この科全体に見られる特徴です。

この翅長と腹長のアンバランスは想像主のいたずらではなく、この科の先祖であった種における個体と環境との関係の中でなんらかの適応的な価値があったからこそ出来上がったものと考えられます。

この謎を解くのも面白そうですが、今日は現代世界における環境問題の中でハナダカトンボの置かれた状況をご紹介したいと思います。

上のような写真を私でも簡単に写せるのですから、小笠原諸島にもハナダカトンボはたくさんいると思われるかもしれません。

40年前の1970年代ならそうだったでしょう。

実際に、私の指導教員であった坂上昭一先生は1970年代前半に、二・三の共同研究者とともに小笠原諸島に昆虫類の調査に訪れ、ご専門のハナバチ調査の合間にトンボ成虫の行動の観察もされました。
その時の観察対象には父島のハナダカトンボも含まれていました*。

しかし、実際に私が父島を始めて訪れた2009年6月中旬には、この島にハナダカトンボどころかトンボの影ひとつ見当たりませんでした。
トンボをめぐる環境に大きな変化が起きていたのです。
そのことについては、後日の記事で取り上げたいと思います。

というわけで、上の写真のハナダカトンボは父島や母島といった本島ではなく、属島で撮影したものです。
小笠原諸島で、トンボを含む昆虫類の調査と保全に尽力しておられる苅部治紀氏の調査に同行させていただいた機会があり、その時に幸運にも小観察と写真撮影をすることができました。

ハナダカトンボ科のトンボは日本では上記の2種しかいません。
いずれも南の小さな島にひっそりと生き残っているという状況です。

本土から遠く離れた小さな島では、生物相がよりシンプルで、捕食者や競争者の多様性も低いので、本土あるいは他の島から新入りの種が一度侵入して個体数が一定レベルまで増加すれば、種間競争が弱いだけに、何千年、何万年も生き長らえる可能性があります。

その間、大陸や、それに近接する大きな島などには次々と生存競争に勝ち抜いた種が勢力を拡げてきて、型の古い、競争能力の低い種は大陸の縁や山の上に押し出されるように勢力を失い、最後には絶滅することが多かったでしょう。

実は、ムカシトンボ亜目(最近では均翅亜目に含める研究者も多いです)を現生生物では唯一構成するムカシトンボも、ヒマラヤ山脈と極東の島国である日本の山地だけに分布が限られていて、上の種間競争を免れて生き残っている生き物の好例といえます。

ハナダカトンボや他の島嶼の固有種にはそのような生き物が多く含まれていると思われます。

そのような、島の固有種はなぜ最近絶滅の危機に瀕しているのでしょうか?

それは、低い競争能力のため、侵入する外来種(それらは本土で厳しい種間競争に勝ち残ってきたはずです)による捕食あるいは、資源の争奪における敗北ということが関わっていることが分かってきています。

小さな島の小さな生き物、ハナダカトンボ。

彼らに生き延びてもらうためには何が必要なのでしょうか。

このブログでも、絶滅危機の原因の究明や、保全のための取り組みを紹介しつつ、考えていきたいと思います。

注:
*ヤエヤマハナダカトンボRhinocypha uenoiは日本固有種で西表島だけから記録されている。
属名の接頭語 rhino- はギリシャ語起源の「鼻」を、属名の語幹 cypha の男性形名詞 cyphus は「鉢、椀、カップ、ゴブレット」を意味します。和名は「鼻高」と、天狗をイメージした語句が使われていますが、ラテン語では、「鼻のようなカップ」という表現でハナダカトンボ特有の頭部前方(後頭楯)が前方に突出している形態的特徴を表しています。これは科全体の特徴でもあります。種小名の uenoi は昆虫学者上野俊一博士にちなみ、朝比奈正二郎博士が命名したものです。

**ハナダカトンボRhinocypha ogasawarensis も日本固有種で小笠原諸島だけから記録されています。以前には本島である父島、母島にも生息していたが絶滅し、現在はごく少数の属島のみに細々と生息しています(尾園・川島・二橋 2012『日本のトンボ』)。種小名ogasawarensisは「小笠原の」を意味し、松村松年・小熊捍両博士により命名されたものです。ラテン語で、-ensisは地名について形容詞化します。

***これらのトンボの観察データは坂上先生を主著者とする共著論文****として公表されましたが、論文作成に際して弟子の中で唯一トンボを専門としていた私が勧誘されたいきさつがあります。当時、小笠原の土を一度も踏んでいなかった私ですが、坂上先生の鋭い観察眼と洗練された文書記録術がいかんなく発揮されたフィールドノートを繰り返し読み込むことで、観察されたそれぞれの種の行動の特性を描き出すことはそれほど難しくありませんでした。その論文で私は、トンボ関係の論文の渉猟と読み込み、考察の内容をおもに担当しました。

****Sakagami, S. F.. Ubukata, H., Iga, M. & Toda. M. J. (1974). Observations on the behavior of some Odonata in the Bonin Islands, with considerations on the evolution of reproductive behavior in Libellulidae. J. Fac. Sci., Hokkaido Univ., Ser. VI. Zoology, 19 722-757.


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