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2016-05-28 (Sat)
ベッコウトンボLibellula angelina Selys, 1883 (下の写真)は、宮城・新潟から四国・九州までの平地や丘陵地の池・沼から記録されていました。

ベッコウトンボ♂160512a
桶ケ谷沼のベッコウトンボLibellula angelina Selys, 1883; ♂。生方秀紀撮影。(クリックで拡大)

私が現在住んでいる埼玉県でも1964年までは採集記録がありましたが、関東各県同様に現在は全く姿が見られません。

同様の地域絶滅は全国的に進行していて、現在では、わずかに静岡県、山口県と九州の3県(福岡・大分・鹿児島)のいくつかの生息地で辛うじて個体群が維持されている状況です(日本トンボ学会自然保護委員会、2016)。

比較的産地が多く残されていた九州でも、長崎・佐賀県・宮崎県では確認されなくなっていて(日本トンボ学会自然保護委員会、2016)、トキ同様、日本における国内絶滅種のリストに加えられる惧れは大きくなる一方です。

そんな中で、静岡県磐田市の桶ケ谷沼では、地元の研究者、学校生徒、住民、NPO、自治体の協力のもと、ベッコウトンボの保全活動が熱心に行われてきています。
それが功を奏して、一時、地域絶滅の一歩手前まで追いつめられた同沼の個体群が回復し、現在も毎年コンスタントに本種の羽化が観察されている(日本トンボ学会自然保護委員会、2016)ことは、心強い限りです。

さて、長年北海道に住んでいた私にとって、ベッコウトンボを見にいくことは遠くにあるものへの憧れのままでいました。
今年は関東に移住してから身辺が落ち着き、少し遠方へのトンボ探訪に出る時間的ゆとりが出てきました。

というわけで、この5月中旬、ベッコウトンボの姿と、保全活動の一端をこの眼で確かめるべく、桶ケ谷沼をめざして車を走らせました。

現地では、穏やかな好天に恵まれ、ベッコウトンボとの念願の対面を果たすことができました(冒頭の写真)。

今回の記事はシリーズの1回目として、桶ケ谷沼でのトンボ探訪録としてまとめました。

少し時間を戻します。
カーナビに案内されるまま東名高速道路を下りて、一般道を何度か折れ曲がりながら進むと、ビジターセンターが見えてきました。
駐車場に車を停め、センター内の展示物の見学もそこそこに、いざ沼へ出発。

センターの裏手の道を進むと、左側に桶ケ谷沼の下流側のヨシ原が広がり、その奥には左右から樹木が鬱蒼と茂る丘陵地が迫っています。
なかなか自然は豊かだなという印象を受けました。
まもなく、沼の南東隅の観察路起点に到着。そこには各種案内板が設置されています(下の写真)。

桶ケ谷沼 周回歩道起点

沼面にはビッシリとヨシの類が茂り、僅かに残された水面を縁取るようにキショウブが花盛りでした。
この一帯で、かつてはベッコウトンボも多く見られたことが、パンフレットに図示されていましたが、今回私が一通り歩いて見回した限りではその姿はありませんでした。

沼の対岸(北岸)方面へ向かう東岸側の観察路は、すぐに林の中への登り道となり、水辺から離れるため、トンボを見ることができません。
まもなく、丘陵地上の車道に出るので、その道を進むと、曲がりくねりながら次第に水辺へと下っていき、木々の間から沼の面が見えるようになります。
そこで写した、沼の開放水面のほぼ全景が下の写真です。

桶ケ谷沼 北東からの眺め

沼の水辺のレベルに到着しました。

観察路の沼側は、ヨシなどでびっしりと埋め尽くされ、その上、県の特別保護地区のため立ち入り禁止となっています。
このヨシ原内の観察路から見える位置に、ベッコウトンボの保護増殖用の人工池の縁板や管理用の木道があります。
管理用木道入り口のゲートは厳重に施錠されていて近づくことはできません。
保全活動の真剣さが伝わって来ます。

このゲートと観察路をはさんで向かい側(沼の北側)に、開放水面が大きく拡がった池が接しています。
これは地形から見て、はるか以前には沼の一部だったものが道路兼堤で分断されて残ったものと考えられます。

この池と観察路の間にはヨシなどの抽水植物がわずかな幅で生えているだけであるため、水際で活動するトンボを観察するにはもってこいの形をしています。

ベッコウトンボとの出会いに胸を膨らませながら、ゆっくりと視線をめぐらすと、これらの抽水植物の先にとまったり飛び立ったりしている、シオカラトンボ、ショウジョウトンボ、ヨツボシトンボに交じって、黒っぽいトンボの姿が目にはいりました。

ベッコウトンボです(冒頭の写真および下の写真)。

ベッコウトンボ♂160512b
ベッコウトンボLibellula angelina; ♂

チョコレートの色よりももっと黒い、見事なベッコウ色です。

複眼の黒光りも見ていてたまりません。
黒いということは、ほとんどの波長の可視光を吸収していることになりますから、「まぶしくないの?」と声をかけたくなります。
その一方で、もしかするとこれはサングラスなのかなという発想も生まれました。
その場合、きっと紫外線は一番奥の視細胞に届く前に吸収されるか、表面近くで反射しているのでしょう。
もしそうなら「凄い発明だね」とこのトンボを褒めてあげたいくらいです。

下の写真は同じ一帯で撮ったヨツボシトンボ♂です。
翅の位置が乱れているのは強い風にあおられているためです。

ヨツボシトンボ♂160512
ヨツボシトンボLibellula quadrimaculata Linnaeus, 1758; ♂

こちら(下)はショウジョウトンボ♀です。

ショウジョウトンボ♀160512
ショウジョウトンボCrocothemis servilia (Drury, 1770); ♀

真っ赤になる♂に比べて一目で同定するには少し熟練が必要ですが、よく似たウスバキトンボとくらべて、腹部先端の尾毛が短く、翅の縁紋が長いのがよい区別点になります。

ベッコウトンボに話を戻します。

♀の登場と交尾・産卵も観察・撮影できないかと期待し、2時間近くその場で粘りましたが、1匹の♀も現れませんでした。
しかし、その間、同種♂を追って戻る なわばり防衛行動や、飛び回る小さな昆虫を捕えて戻り、もぐもぐ食べる行動などを見ることはできました。

帰り際に、この観察路北側の池に樹林を伴う斜面が迫っている岸沿いを少し探ってみたところ、水辺のイグサに羽化直後の、岸の笹に羽化後間もない段階のアオイトトンボLestes sponsaがとまっているのを確認することができました(下の写真)。

アオイトトンボ♀160512
アオイトトンボLestes sponsa (Hansemann, 1823);♀

北海道でトンボを見ていた者にとって、アオイトトンボが5月中旬に出ているというのは、ちょっとした驚きでした(北海道の初見記録、6月22日:北海道トンボ研究会報、27巻、2016)。
まあ、気候の差を考えれば当然のことなのですが。

さて、以上のトンボを観察・撮影できた池ですが、水は泥質の濁りがあり、透明度はあまり高くありませんし、いかにも捕食性の外来種が居ついていそうな印象を受けました。実際私は、この池の南東にある小さい池ではアカミミガメに似たカメを目撃しています。

私が撮影したベッコウトンボも、観察路の反対側にある保護増殖用の人工池で羽化したものなのではないか、また、この池で卵を産んでも孵化した幼虫は捕食者に食い尽くされてしまうのではないかと想像していますが、実際はどうなのでしょう。
これについての確実な情報が手に入りましたら、またこのブログで触れることにしたいとおもいます。

この日は、この沼のビジターセンターおよび桶ケ谷沼の姉妹沼ともいえる鶴ケ池も訪れました。
それについては次回以降の記事でご紹介する予定です。

付記:
 今回から、トンボの学名には命名者と記載年(西暦)を併記することにしました。これには属の所属替えが起こった場合の混乱を防止する機能があります。この混乱は、種小名(ベッコウトンボの場合、angelina)は新種記載の際に、属が異なれば他の種と重複した名辞を用いても構わないことから起こり得ます。たとえば「japonia」という種小名などは日本で採集された新種を欧米人等が記載した際などに頻繁に用いられました(トンボ目だけでも6例あり:World Odonata List)。


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