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2016-06-01 (Wed)
このたび、私の執筆したアキアカネの生活史に関する総説が日本トンボ学会の会誌「TOMBO」に掲載されました。

以下に、その表題と要旨をご紹介します。



TOMBO, 58: 1-26. 20 May, 2016

北海道におけるアキアカネの生活史
 −長距離移動と生殖休眠はあるか?−

        生方 秀紀


Life history of Sympetrum frequens (Selys, 1883) in Hokkaido:
are migration and reproductive diapause involved?

Hidenori Ubukata



摘要:
 北海道におけるアキアカネSympetrum frequens (Selys, 1883)の生活史の地域間の比較および長距離移動・生殖休眠の存否の 検討を目的に,成虫の羽化から没姿までの生活史イベントについての文献記録および未発表の調査データを収集・整理し,分析・ 考察を行った。

平地における羽化開始期はオホーツク沿海部(網走支庁)で6月下旬,道央で7月中旬,道東太平洋沿海部で8月上旬であり,春先の気温に対応した地域差が見られた。羽化最盛期は,道央で7月中~下旬,道東内陸で8月上旬であった。

生殖行動の初見日は7月下旬(道央:札幌)~8月下旬(道東:釧路地方)であり,多数の連結個体が観察される時期は8月下旬~9月上旬(道央:石狩・空知),10月上旬(道東:釧路)であった。石狩・空知で,7月下旬に産卵するのは前生殖期が20日前後の早熟個体,8月下旬以降大挙して産卵するのは前生殖期が40~50日の遅熟個体であると考えられる。

札幌産のアキアカネの卵の孵化日数の頻度分布(Takashima & Nakamura, 2014)と水田地帯の水温の推移データとを照合すると,空知で8月 初めに産卵した場合はその一部が冬前に孵化する危険性が浮上する。このことから,この地域で大多数を占める遅熟個体は8月の盛夏期に生殖休眠をしている可能性がある。

大雪山の山岳地帯(標高400~2,100 m)で,7月には前生殖期の段階にある成虫が多数観察され,8月にはそれらに交尾・産卵をする個体も混じって観察される。6~7月の高地の沼地周辺での残雪の状況,およびそこで幼虫・羽化殻・羽化直後個体が採集されていない事実に着目すれば,観察された成虫の大部分は平地で羽化した個体が移動してきたものである可能性が高い。

これらとは別に,9月中旬以降に高地で羽化する個体も確認されており,高所個体群が別途成立している可能性も残される。

石狩・空知地方では,8月上旬から下旬にかけて成虫の観察例が平地で激減する一方で, 丘陵地~山岳地帯で数多く観察されるようになる。ただしこの期間中に平地で成虫が観察される事例も少なくない。

上田(1995)が予測した通り,北海道では山地に登っている個体と平地や丘陵地に残留している個体の分布に標高上のギャップは見出されなかった。

綿路ら(1997b)は,札幌北部の沼で16,000頭余の羽化成虫にマークをつけて放し,それらのうちの数個体を10 kmほど離れた丘陵地・低山地の麓で再発見している。綿路らは,この移動の際,アキアカネが羽化地点の近くの樹林で静止高度を上げて方向を定め,平野の彼方にある山地方向を目指して一気に飛び立つのも観察している。

これらの観察から,北海道でも夏の最高気温が高い空知・石狩中北部・上川では,長距離移動が習性として成立している可能性を指摘できる。

最後に,生殖休眠と長距離移動の遺伝的性質や気候・季節に応じた調節について,またこれらの特性の北海道における進化について考察を加える。

Key words: アキアカネ,Sympetrum frequens,生活史,長距離移動,休眠,北海道



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