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2016-07-25 (Mon)
ベッコウトンボLibellula angelina Selys, 1883 (下の写真、再掲)は、朝鮮半島および中国中部・北部にも分布する種で、日本では東北地方中部から九州南部まで不連続なパターンを示しながら分布していました(杉村ほか、1999)。

ベッコウトンボ♂160512a
桶ケ谷沼のベッコウトンボLibellula angelina ♂。生方秀紀撮影。(クリックで拡大)

ベッコウトンボが分布している都府県の数は、1970年代頃までは北限の宮城県や関東各県(東京都を含む)を含む28都府県でしたが(高橋ほか、2009)、2008年頃には、静岡、山口、福岡、佐賀、長崎、大分、鹿児島の7県に(高橋ほか、2009;日本トンボ学会自然保護委員会、2016)まで激減しました。

そして、2015年には長崎、佐賀、宮崎県でも確認できなくなり、4県(日本トンボ学会自然保護委員会、2016)のごく少数の生息地に個体群が残されるだけになっています。

そのような中で、静岡県磐田市の桶ケ谷沼(下の写真、再掲)では、地域ぐるみの保全活動が効を奏して、2016年現在もベッコウトンボの個体群が維持されています。
だれしもが認めるように、これは世界にも誇るべき素晴らしい取り組みです。

桶ケ谷沼 北東からの眺め
桶ケ谷沼。生方秀紀撮影。(クリックで拡大)

筆者は今年5月中旬、桶ケ谷沼とそれに隣接する鶴ケ池を訪れ、本種の生息状況の一端を観察・撮影することができました(前記事「ベッコウトンボ、桶ケ谷沼に在り:保全活動に守られて(1)」参照)。

今回と次回の記事では、地元で保全活動を行っている団体が共同で実施している桶ケ谷沼ベッコウトンボの長期にわたる個体数調査の結果を、第三者の視点で評価し、個体数の増減と保全活動のかかわりについて若干の考察を試みたいと思います。

この調査は、毎年4月29日と5月3日に、「桶ケ谷沼を考える会」と「野路会」が中心になって実施しているもので、桶ケ谷沼の随所でベッコウトンボ成虫の個体数を一斉に数え、記録するものです。

2016年度の場合は、2回の調査結果のうち、個体数の多かった5月3日のデータでその年度を代表させていますので、他の年も同様にデータを取り扱っているものと思われます。

1989年から現在までの28年間、毎年欠かさずに行われてきたこの調査の結果を見てみましょう。
下図は、磐田市桶ケ谷沼ビジターセンター(2016)が公表しえいるこの調査結果の数値を元に、筆者がグラフ化したものです。

桶ヶ谷沼のベッコウトンボ長期変動グラフ(引用データから作成)
桶ヶ谷沼のベッコウトンボ長期変動グラフ (データソース:磐田市桶ケ谷沼ビジターセンター)
(クリックで拡大)

このグラフからは、以下のような増減の傾向が読み取れます。

◇モニタリング開始当初(1989年)は400個体と比較的安泰な数であった。
◇91年には約140個体まで落ち込んだ。
◇92年には増加に転じて、94年には約900個体という18年間の中の最大値に達した。
◇翌95年には100個体台にまで激減して、その後2年間回復せず。
◇98年にいったん約450個体まで増加した。
◇しかし、99年には約50個体の最小値に落ち込んだ。
◇翌年には2,3年前のレベルまで回復し、その後は2004年までの5年間80~150個体の間を変動した。
◇06年から10年までの5年間は70~150個体の間を変動した。
◇11年から14年までは160~200個体の間で変動した。
◇15、16年の2年連続で250個体のレベルを達成した。

長期的に見ると、
◇1989年から1994年までは一時的な落ち込みはあるものの、300個体を上回ることができていた。
◇1999年以降、散発的に200個体を超える年や底を突きそうな年があるものの100個体前後を辛うじて維持していた。
◇2011年から150個体以上に底上げされ、15年からは約20年ぶりに2年連続200個体以上を達成している。

この調査では、調査エリア、調査月日、調査方法のいずれもほぼ一定であると考えられ、また同じ年にの2回(5日違い)の調査結果のうち個体数の多いほうでその年を代表させていることから、年度間の個体数比較に十分耐えられるクオリティーを有していると考えられます。

ただし、それでも、観察個体数における20%や30%程度の増減が実際の個体数の増減を忠実に反映しているとまでは言いきれません。
一方、3倍や4倍(あるいはその逆数)の増減が観察されれば、それは実際の個体数に増減があったと考えてよいと思います。
その中間の、1.5倍とか2倍(あるいはその逆数)の増減は考えどころですが、3~4年以上にわたってコンスタントに同様のレベルを達成しているのであれば、実際の個体数になんらかの底上げがあった(あるいは底下げ(?)があった)のではと考えたくなります。

上述の個体数変動経過の読み取りは、このような評価の視点の上に立ってのものです。

さて、これらの個体数増減が、沼の環境変化や保全活動の具体的な施行内容とどう関連したと考えられるでしょうか?
それについては次回の記事で取り上げる予定です。


引用文献:

日本トンボ学会自然保護委員会 (2016)Pterobosca (日本トンボ学会連絡誌)所収の報告。

磐田市桶ケ谷沼ビジターセンター(2016)ベッコウトンボについて。桶ケ谷沼ビジターセンター公式ウエブサイト所収。2016年7月24日アクセス。 http://www.city.iwata.shizuoka.jp/okegaya-vc/okegayanuma.htm

杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司 (1999) 原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑。北海道大学図書刊行会。

高橋純一・福井順治・椿 宜高(2009)静岡県桶ヶ谷沼地域における絶滅危惧種ベッコウトンボ(Libellula angelinaの遺伝的多様性。保全生態学研究、14:73−79。

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