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2016-08-08 (Mon)
イトトンボ科のクロイトトンボParacercion calamorum (Ris, 1916)は平地、丘陵地ので池や沼に生息する種で、浮葉植物の葉の表面に静止しているのをよく見かけます(写真1、再掲)。

クロイトトンボ、鶴ケ池
写真1.クロイトトンボ(2016年5月中旬、静岡県)(クリックで拡大)

翅胸背面および腹部背面の黒化が強く、その上、♂は成熟すると胸部に青白い粉を吹くという特徴がありますので、一目でそれとわかることが多いです。

さて、このような普通種でも、眺めていて「おやっ」と思ったら、たちどまり、じっくり観察すると、意外に面白い行動を見せてくれるものです。

今年の5月上旬の好天の日のことです。
埼玉県西部のため池(前回記事と同日、同所)にトンボ観察に出かけ、真っ先に目にはいったのはクロイトトンボの姿でした。

雌雄連結した状態(タンデム態)で飛んだり、とまったりしていますが、どこか落ち着きがありません。

それもそのはず、池のその一角には産卵に適した植物がわずかしかなく、そこに数ペアのクロイトトンボが好適な産卵のための足場を求めて互いに干渉しあっているのでした。

水面から突き出している水草の一つの枝の葉の房に、一つのペア(ペアA)のクロイトトンボがとまり、♀は産卵をしていました(写真2、左)。

クロイトトンボ、産卵場所での競り合い1
写真2.クロイトトンボ産卵ペア間の軋轢(1).(クリックで拡大)

そこへ別のペア(ペアB)が右方向からやってきました(写真2、右上)。
ペアAの♂(♂A)の脚は少し折り曲げられており、この♂が警戒して体をやや伏せたことがわかります。

ペアBを主導する♂(♂B)はすぐにその葉の房にとまるのではなく、ホバリングしながら次の行動をどうしようか考えているように見えます。
その間、ペアBの♀(♀B)は空中にありながらも腹端近くの産卵管を水草に押し当てるなど、産卵準備動作も示しています(写真2、右下)。

♂Aの翅は少し角度が開いて写っています。
これは♂Bに対して翅をばたつかせていたからです。

この動作は、おそらく、自己の存在をアピールし、「簡単には明け渡さないよ」という意思表示をする効果があるでしょう。

♂Bは意を決したかのように、再びこの葉の房によい足場はないかその上空から探りを入れます(写真3、上)。

クロイトトンボ、産卵場所での競り合い2
写真3.クロイトトンボ産卵ペア間の軋轢(2).(クリックで拡大)

次の瞬間です。
なんと♂Bは♂Aの頭部に前脚と中脚でつかみかかりました(写真3、下左)。
♂Bと♀Bの翅は羽ばたいていて、空中にいながらのアタックであることがわかります。

♂Aは、泡を食って自分の脚を伸ばして、とまっている場所から離れようとしましたが、♀はしっかりとまったまま産卵を続けている様子です(写真3、下右)。

結局、♂Aはとまり場を少し明け渡す結果となり、♀Bはさっそく産卵動作を開始し、♂Bもその葉の房に足場を確保しました(写真4、上左)。

クロイトトンボ、産卵場所での競り合い3
写真4.クロイトトンボ産卵ペア間の軋轢(3).(クリックで拡大)

♂Aは、いったん引き下がった格好になりましたが、♀Bは産卵を続けていますので、このまま横取りされては♀Aの「夫」としての沽券にかかわります。

おっと、沽券という言い方は擬人化しすぎました。
行動生態学的な観点から解釈すると以下のようになります。

♂Aはこの場所を明け渡したら、別の場所を探さなければなりませんから、その分、余計に時間とエネルギーを消費し、♀Aに自分の精子で受精した卵をより多く産んでもらう上で不利になります。

今度は、♂Aが、「ここは俺の場所だ。お前こそあっちへ行け」と言わんばかりに、♂Bを自分の前方(撮影者のいる方向)におしやる形でプレッシャーをかけました。

具体的には、♂Aは♂Bに頭突きを食らわせるように、♂Bの右少し上方から襲いかかっています(写真4、上右&下左)。
その際、♂Aの前足は、大相撲の力士が押し出しをする際の腕のように用い、♂Bの頭部を押しています(写真4、下左)。

こうして、押されたほうの♂Bは、足場を♂Aに少し明け渡す格好になり、その後、ちょっとの間、2つのペアは、窮屈に♂同士の頭が接近したままの状態で、同時に産卵をすることになりました(写真4、下右)。

ですが、この位置取りではさすがに産卵しにくいのか、ペアBは飛び立って、少し離れた別の葉の房に移動して、そこで産卵を開始しました(写真5)。

クロイトトンボ産卵、160507
写真5.クロイトトンボ産卵ペア間の軋轢(4).(クリックで拡大)

ただし、♀Bには足場がありましたが、♂Bにはそれがなく、♂Bは自分の全体重を、♀の前胸部をがっちりつかんだ尾部付属器で支えることになってしまいました。

ここまで、さまざまなことがありましたが、経過した時間はたった2分足らずでした。

この♂Bの行動を、こうして振り返ってみてみると、けっこう「カミさん」(つまり♀B)の意図を汲んで、献身的に振舞っているようにも見えてきました。

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