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2016-08-17 (Wed)
以前の記事に書いたように、カワトンボ科(Calopterygidae)のカワトンボ属(Mnais)の種の分類は、従来1種3亜種説、、2種説、3種説、4種説などの諸説が唱えられ、混乱していましたが、DNA解析の導入により、二ホンカワトンボMnais costalis Selys, 1869とアサヒナカワトンボM. pruinosa Selys 1853の2種に分けられることが判明し(二橋、2007)、決着されるに至っています。

私自身、二ホンカワトンボ1種のみが分布する北海道に長年住んでいましたので、アサヒナカワトンボは乾燥標本あるいは映像で見たことがあるだけで、生きている実物を野外で見ることは長年の課題でした。

今年5月中旬の岐阜県の丘陵地帯への初遠征で、憧れのムカシヤンマに対面できたことは前回記事に書いた通りですが、当日、そのムカシヤンマとの出会いに続けて、アサヒナカワトンボとも出会うことができました。

前回記事で、上記の場所でムカシヤンマ♂に遇った場所から少し移動したところにある、落葉広葉樹林の小さな谷の幅1メートル程度の細流沿いを歩いていると、低木の地上1、2メートル程度の高さの枝葉にとまったり、そこから飛び立つ、無色透明の翅をしたカワトンボ属の姿が目にはいりました。

そのうちの1♂を撮ったのが写真1です。

アサヒナカワトンボ♂(1)160513
写真1.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂。 (クリックで拡大)

拡大画像を見ると、木漏れ日を浴びて、頭部・胸部の繊毛が輝いています。

翅胸や腹部に吹く白粉の量は少なく、薄化粧という表現がピッタリ。
その点、北海道のニホンカワトンボの(無色)透明型によく似ています。
ですので、この写真だけ見てアサヒナカワトンボかニホンカワトンボかを言い当てられる人は、かなりのベテランということになります。

こういう場合の種の判別には事前知識が役に立ちます。

岐阜県のこの地域を含むエリアは、アサヒナカワトンボとニホンカワトンボが同所的に分布しています。
そのため、種の判別には相当慎重にならなければいけないはずです。

ですが、この地域のアサヒナカワトンボ♂はすべて(無色)透明型であるのに対し ニホンカワトンボの♂はすべて橙色翅型である(尾園ほか、2012)ため、たいへん判別しやすくなっています。

というわけで、写真1の個体は、アサヒナカワトンボ♂であると判定されます。

♀はどうでしょう。
写真2をご覧ください。

アサヒナカワトンボ♀(1)160513
写真2.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♀。 (クリックで拡大)

同じ観察地の少し下流側の地点で、3時間ほど後に撮影した透明翅型♀です。

尾園ほか(2012)によれば、岐阜県のこの地域では、アサヒナカワトンボの♀がすべて(無色)透明型であるのに対し、ニホンカワトンボの♀は淡橙色翅型*と(無色)透明型の両タイプが出現します。

(*私は淡橙色翅型の♀と実際に今回の観察地で実際に遭遇し、撮影もできています。淡橙色翅型♀を含め、この地域で観察したニホンカワトンボについては、次回の記事でご紹介する予定です。)

したがって、この地域で透明型♀を撮影した場合には上述の型の組み合わせによる事前情報だけでは種の判別ができません。

その時に役に立つのが翅の横脈数の比較です。

この2種が同所的に分布する場合は、前翅の結節後横脈数はアサヒナカワトンボでは25~37本、ニホンカワトンボでは29~45本と、前者の方がかなり少なくなっています(Suzuki and Metoki 1983)。

前翅の結節後横脈数を数えて、28本以下ならアサヒナカワトンボ、38本以上ならニホンカワトンボであるとほぼ断定できます。
30本から35本をグレーゾーンとして、30本以下、35本以上でかなり高い確度で判定してよいと思います。

写真3は同じ個体の翅の部分を拡大したものです。

アサヒナカワトンボ♀(2)翅の拡大160513
写真3.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♀、翅の拡大。 (クリックで拡大)

画面の一番上に写っている翅(左前翅)で、黄色矢印の位置に「結節」があり、ピンク色矢印の位置より先に「縁紋」があります。

結節から縁紋までの間の横脈(トンボの翅の基部から先端に向かう縦脈に対してほぼ直角に配列される、縦脈間をハシゴ段のようにつないでいる脈)の数を数えると、この地域のカワトンボ2種のうちのどちらの♀かを判定できます。

この♀の場合も、結節後横脈数は23本となり、アサヒナカワトンボであることがわかります。

この、結節後横脈数による判別は、この地域のように2種が共存し、種間の形態差が拡がるような小進化過程(「形質置換」)が働いている場合には有効ですが、たとえば関東地方などのように2種のうちの一方のみが分布する場合には種間の形態差が不明瞭になり、必ずしも切れ味よく適用することができません。

私の以前の記事で透明翅型の♀をニホンカワトンボとして扱ったのは、同時に同所で観察した♂がニホンカワトンボの特徴を有していたことに基づいて推定したにすぎません。

次回の記事ではこの観察地で観察・撮影したニホンカワトンボについて、アサヒナカワトンボと比較しながら、ご紹介します。

また、2回後の記事では、アサヒナカワトンボの生殖行動についての、ちょっと面白い観察について、写真を添えてご紹介する予定です。
お楽しみに。


引用文献:

二橋 亮(2007)カワトンボ属の最新の分類学的知見。昆虫と自然、,42(9):4-7。

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012 )日本のトンボ。 文一総合出版。

Suzuki, K. and Metoki, N. (1983) Morphometrical Analysis of Three Closely Related Mnais Species in Japan (Odonata, Calopterygidae) I : Variation of Crossvein Number. J. Coll. Lib. Art. Toyama Univ. (Nat. Sci.), 16(2): 113-171.


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