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2016-08-18 (Thu)
前回記事で書いたように、今年5月中旬の岐阜県の丘陵地帯への初遠征で、アサヒナカワトンボMnais pruinosa Selys 1853に初めて会うことができました。

二ホンカワトンボMnais costalis Selys, 1869とアサヒナカワトンボが同所分布するこの地域の個体を、生態写真の画像を拡大して見ながら同定する上で、事前情報(両種の同所分布の有無、形態的「型」(橙色翅型、[無色]透明翅型、など)の組み合わせ)は大きな助けとなりました。

それに加えて、翅脈の形態(とりわけ、結節後横脈の数)が決定的な役割を果たしうること(Suzuki and Metoki 1983)を追認することができました。

5月中旬の現地での観察では、ラッキーなことにニホンカワトンボの♂(写真4)、♀も観察・撮影することができましたので、特に♀個体の結節後横脈数を前回記事のアサヒナカワトンボ♀と比較したいと思います。

ニホンカワトンボ橙色翅型♂160513
写真4.ニホンカワトンボMnais costalis 橙色翅型♂。 (クリックで拡大)

私が当日、アサヒナカワトンボを初めて見た落葉広葉樹林の小さな谷の幅1メートル程度の細流沿いでの観察・撮影を終え、前々回の記事で取り上げたタベサナエTrigomphus citimus (Needham, 1931)を見た、平坦で日当たりのよい細流に戻りました。

岸辺に沿って、ゆっくり歩いていると、お互いに追い合いをしたりしているアサヒナカワトンボの無色透明翅型♂数頭に続いて、岸辺のシダの葉先にとまっている1頭の橙色翅型の♂が目に入りました(もちろん「証拠写真」を撮りながらの探査です)。

(上の写真4は、その証拠写真ではなく、2時間後に少し離れた場所で撮影したベストショットです。)

写真4の♂は、橙色翅型♂の定番ともいえる、腹部、翅胸部、そして脚の表面に吹く白粉をフルに装い、凛々しいポーズをとっています。

事前情報「この地域のアサヒナカワトンボ♂はすべて(無色)透明型であるのに対し ニホンカワトンボの♂はすべて橙色翅型である(尾園ほか、2012)」から、この橙色翅型の♂はニホンカワトンボであると確信することができました。

その後も、この細流沿いを中心に、アサヒナカワトンボたちと入り混じった形で、両手の指で数えるほどの、橙色翅型のニホンカワトンボ♂を観察することができました。

印象に残ったのは、橙色翅型のニホンカワトンボ♂と無色透明翅型のアサヒナカワトンボ♂が、川面上のなわばりの占有権をめぐって対等に争っていた(つまり、追ったり追われたりしていた)ことです。

私が以前住んでいた北海道では、ニホンカワトンボの橙色翅型♂が川面上になわばりを長期にわたって占有し、そこにやってくる♀と交尾し、そこで産卵させるのに対し、無色透明翅型♂はなわばりの周辺に滞在し(サテライト戦略)、そこを通る♀と交尾、あるいはなわばり内にこっそり侵入(スニーキンング戦略)してそこにいた♀(産卵中の場合が多い)を連れ去り、交尾するという、橙色翅型♂とは明らかに異なる配偶戦略を採用しています(生方、1979)。

そして、北海道の無色透明翅型♂は橙色翅型♂と真っ向から争うことは稀で、前者は後者に対して「逃げるが勝ち」とでもいうように、背中を見せて逃げたり、隠れたり(つまり、木の枝などにとまる)します(生方、1979)。

そういう行動をする個体群の観察経験しか持っていなかった私にとって、対等、時には対等以上に(種は違うとはいえ)、無色透明翅型♂が橙色翅型♂になわばり占有権を主張するかのように争っていたシーンは新鮮そのものでした。

その後、しばらくアサヒナカワトンボのなわばり争いや産卵警護行動(次回記事で詳報の予定です)を観察し、更に岸沿いに移動すると、水辺近くの草の上にとまっている、ちょっと違和感のあるカワトンボ属の♀が目にとまりました(写真5)。

ニホンカワトンボ淡橙色翅型♀160513
写真5.ニホンカワトンボMnais costalis 淡橙色翅型♀。 (クリックで拡大)

近づいて観察・撮影し、それが淡橙色翅型の♀、すなわちニホンカワトンボのこの地域に固有な型の♀であることがわかりました。

翅全体がうすらと琥珀色に染まってレトロ感が漂い、上品な奥方といった印象を受けました。

淡橙色翅型♀との出会いも私にとって、はるばるこの地まで観察に訪れた甲斐があったと感激させてくれた1シーンでした。

アサヒナカワトンボには淡橙色翅型♀は現れませんので、この時点でこの個体がニホンカワトンボであることは確実なのですが、もしこの♀が無色透明翅型であったとしたら、アサヒナカワトンボとの区別に悩むことになりかねません。

前回記事のアサヒナカワトンボ無色透明翅型♀の場合はその悩みを解決するために、結節後横脈数をカウントしました。

そこで、今回は、参考までに、上記のニホンカワトンボ淡橙色翅型♀の結節後横脈数を調べてみることにします。

写真6は、この淡橙色翅型♀の翅の部分をトリミングしたものです。

ニホンカワトンボ淡橙色翅型♀、翅拡大160513
写真6.ニホンカワトンボMnais costalis 淡橙色翅型♀、翅の拡大。 (クリックで拡大)

Y字型の横脈を1.5本と数える方針(Suzuki and Metoki 1983)を採用してカウントすると、この♀の結節後横脈数(写真6で、赤矢印から黄色矢印までの間の横脈数)は、35本となりました。

前回記事に書いたように、この2種が同所的に分布する場合は、前翅の結節後横脈数はアサヒナカワトンボでは25~37本、ニホンカワトンボでは29~45本と、前者の方がかなり少なくなっています(Suzuki and Metoki 1983)。

前翅の結節後横脈数を数えて、28本以下ならアサヒナカワトンボ、38本以上ならニホンカワトンボであるとほぼ断定できます。
30本から35本をグレーゾーンとして、30本以下、35本以上でかなり高い確度で判定してよいと思います。

今回の淡橙色翅型♀の35本は、結節後横脈数だけで判断したとしても、ニホンカワトンボであることにかなりの確信を与えてくれると言えそうです。

前回記事の「写真3.アサヒナカワトンボ♀、翅の拡大」(画像はこちら)と比べられれば(そちらのアサヒナカワトン無色透明翅型♀では、23本)、同所性2種の♀間の結節後横脈数の大きな相違を実感していただけると思います。

次回記事では、アサヒナカワトンボの現地での観察から少し面白い行動を写真を添えてご紹介します。

お楽しみに。


引用文献:
1)二橋 亮(2007)カワトンボ属の最新の分類学的知見。昆虫と自然、42(9):4-7。
2)尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012 )日本のトンボ。 文一総合出版。
3)Suzuki, K. and Metoki, N. (1983) Morphometrical Analysis of Three Closely Related Mnais Species in Japan (Odonata, Calopterygidae) I : Variation of Crossvein Number. J. Coll. Lib. Art. Toyama Univ. (Nat. Sci.), 16(2): 113-171.
4)生方秀紀(1979)ヒガシカワトンボの交尾戦略 (予報).。昆虫と自然、14(6): 41-46。【注記:この場合のヒガシカワトンボは現在の分類におけるニホンカワトンボに相当する】

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