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2016-08-19 (Fri)
前々回の記事に書いたように、今年5月中旬、岐阜県の丘陵地帯でアサヒナカワトンボに初めて出会いました。

落葉広葉樹林の小さな谷の幅1メートル程度の細流沿いを歩いていると、低木の地上1、2メートル程度の高さの枝葉にとまったり、そこから飛び立つ、無色透明の翅をしたカワトンボ属の姿が目にはいりました(写真1、再掲)。

アサヒナカワトンボMnais pruinosa Selys 1853の♂です。

アサヒナカワトンボ♂(1)160513
写真1.アサヒナカワトンボMnais pruinosa (再掲) (クリックで拡大)

木漏れ日を浴びながら低木の葉の上にとまり、ピンと伸ばした腹部や「中腰」の姿勢を産み出す脚部の構えは「いつでも飛び立てるぞ」とつぶやいているかのようです。

実際、この樹林内の細流沿いの高さ1~2メートルあたりで、アサヒナカワトンボ無色透明翅型♂同士の追い合いを目にしました(午前9時38分)。

この追い合いは、なわばり防衛のためではなさそうです。
というのも、なわばり防衛のためであれば、追い合いをした後、水面近くのとまり場(すぐ近くに産卵に適したポイントがある)に戻るのが通例ですので。

通常、このような場所では採餌行動が行われることが多いのですが、トンボの姿を求めて歩き続けた私の視界の中では採餌行動(この場合、飛び立って小昆虫を捕えて戻り、葉にとまる)は確認できませんでした。

その代わりといってはなんですが(笑)、低木の葉の上にとまっているアサヒナカワトンボ♂の身づくろい行動を観察・撮影することができました(写真2~9)。

写真2~9は同一個体ですが、写真1とは別個体です。

トンボの身づくろい行動については、オツネントンボについて、「オツネントンボ♀(2):貴婦人の身づくろい」という記事ですでに取り上げていますが、何度見ても飽きさせない、どことなくユーモラスな動作からなりたっています。

まず写真2をご覧ください。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、連続1
写真2.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(1) (クリックで拡大)

写真2:
撮影時刻順に配列していますが、カットとカットの間に腹部の上下動が何回か行われていたケースもあります。以下同様。

左上:身づくろいをした♂です。この時点ではただとまっているだけです。

左中:腹部をカーブさせながら上下させ、翅と腹部のこすりあわせを開始しました。この時点で翅が互いに少しずつ離れて、腹部とのこすりあわせに備えていることがわかります。

左下:腹部上下運動で、腹部が一番下まで下がった瞬間です。

右上:腹部上下運動です。このカットでは、腹部が観察者から見てすべての翅の手前にきていますので、左後翅の下面と腹部がこすりあわされています。

右下:腹部が高く上がった瞬間です。腹部は背側(上方)に強く反っています。
それに対して、右上のカットでは、腹部先端が少し腹側(下方)に少しカーブしていますので、腹部を少し下げ始めた瞬間と考えられます。

左下のカットで腹端部が下に少しカーブしているのは、腹部全体を下げた直後だからでしょう。

下の写真3は写真2のシリーズ写真に続くものです。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、連続2
写真3.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(2) (クリックで拡大)

写真3

左上:左後翅の下面と腹部のこすりあわせの続き。

左中、左下、右上、右中:右前翅と左前翅の間に腹部を入れての両前翅上面とのこすりあわせ。

右下:翅こすり合わせが終って一息。

特に変わった動作はありませんが、脚の構えはどっしりとしていて、翅と腹のこすりあわせによる身づくろいが彼らにとって手慣れたルーティンであることがうかがえます。

写真2の最初から写真3の最後まで、1分以内に収まっています。

下の写真4は写真3のシリーズ写真に続くものです。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、連続3
写真4.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(3) (クリックで拡大)

写真4

上左から1番目:おもむろに腹部の第3~6節の間の関節を腹側(下方)に折り曲げています。

上左から2番目:曲げて近づいた腹部後半部に後脚の附節をあてがい、腹を更に強く曲げることで腹部表面についた塵をこすり取っている様子です。

上左から3番目と4番目:腹部を足でこするのをいったん止め、腹部の曲がりがいったんゆるみます。

下左から1番目:再び、後脚で腹部(今度は先端の2、3節)をこすっています。

下左から2番目:こすり終わって、腹部を真っ直ぐに伸ばす途中です。

下左から3番目:腹部や脚部の筋肉を使うこすりあわせが終り、一息ついている様子です。脚部のふんばりがやや弱まって、這いつくばりに近い姿勢になっているように見えます。

均翅亜目のトンボでは、ふつう、これに続いて、脚の附節同士をこすりあわせて、前肢の附節に塵を集め、その後、前足の附節を口器で軽く噛んでこすり、その塵を払い落すか舐め取るような動作をとることがよく見られます(以前の記事参照;参照記事中の「踵の節」は附節のこと)。

しかし、今回はその動作は確認できませんでした。

その代わりではありませんが、下の写真5~9(写真4のシリーズ写真の続き)のように、前肢の脛節で左右の複眼をこする動作が観察・撮影できました。

もちろんこれは、複眼についた塵を脛節(弾力性のある剛毛が列生する)で、自動車のワイパーのようにこすり落とす機能をもち、身づくろいの一つのパターンです。

これは腹部と翅とのこすりあわせに付随して行われるとは限らず、静止中に単独でおこなわれることも多いです。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、4
写真5.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(4) (クリックで拡大)

上の写真5では、頭部を少し右に回して、右前肢の脛節で複眼をワイプしています。

下の写真6はその拡大です。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、4、拡大
写真6.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(4)の拡大 (クリックで拡大)

右の触角にも右脚が触れていますが、さすが触角が損傷を受けたりしないように、触角が風になびくかのように脚の動きの方向に折れています。

下の写真7,8では、左頭部(特に複眼)を同様にワイプしています。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、5
写真7.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(5) (クリックで拡大)

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、6
写真8.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂♂の身づくろい行動(6) (クリックで拡大)

このようにして、このトンボの朝のおめかしは無事終了です(写真9)。

アサヒナカワトンボ♂、身づくろい、7
写真9.アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♂の身づくろい行動(7) (クリックで拡大)

この後、この♂も、なわばりにやってくる♀へのプロポーズや、ライバル♂たちとの凌ぎを削る追い合いが繰り広げられる、オープンな水面へと向かうことになります。

なわばり地帯でのアサヒナカワトンボの行動は次回記事でご紹介します。

お楽しみに。


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