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2016-08-23 (Tue)
今年5月中旬、岐阜県の丘陵地帯でのトンボ探訪では、ムカシヤンマ、アサヒナカワトンボ、タベサナエ、アオサナエと豪華メンバーと初対面が続き(前回までのシリーズ記事参照)、私の運も使い果たしたのではと思い出した矢先、見たことのないサナエトンボが目にとまりました。

小川の湿った河原の苔むした石の上に中型のサナエトンボがとまっています。

カメラを構え、撮ってはそーっと近づきを繰りかえしながら画面一杯ちかくになるまで歩み寄ります。
その中のベストショットが写真1です。

ヤマサナエ♀(1)160513
写真1.ヤマサナエAsiagomphus melaenops (Selys, 1854)♀、(1)。 (クリックで拡大)

翅胸部の黄色と黒の縞模様が印象的です。

帰宅後、拡大画像と図鑑を照合した結果、この♀個体は、翅胸側面の黒色紋が2本あり、翅胸前面の黄色のL字型斑紋が中太の状態で折れていること、産卵弁が短いため腹部を側面から見た場合に見えないことから、ヤマサナエAsiagomphus melaenops *(Selys, 1854)であることが判明しました。

(*属の学名Asiagomphusは、「アジアのサナエトンボ」、種小名のmelaeno「黒い」+ops「眼」を意味します。しかし、その割に生体の眼は黒くありません。標本の眼であれば、黒っぽくなってもおかしくありませんので、命名者のSelysがその色からつけたとも考えられますが、それもあまり考えにくいです。浜田・井上(1985)ではopsを頭部を意味するとしています。私にはこれもしっくり来ませんので宿題とします。)

  → 追記(2016年9月18日):この宿題は片付けました。こちらの記事参照。結論を言えば、opsには「眼」という意味に加えて「顔」という意味があることが分かりました。したがって、ヤマサナエの学名の種小名の意味は「黒い顔」となります。

同属種の中ではキイロサナエAsiagomphus pryeri (Selys, 1883)によく似ていますが、キイロサナエでは翅胸前面の黄色のL字型斑紋がくびれた状態で折れていること、♀の産卵弁が長いため腹部側面からもよく見えると、図鑑(尾園、2012)に書かれています。

近縁の別な属の一員であるミヤマサナエAnisogomphus maacki (Selys, 1872)は、和名も似ていますが、ヤマサナエと形態も似ています。ただし、ミヤマサナエの後脚には小さい棘のような毛が列生し、腹部第8節背板側面には多きな黄色斑紋があります(ヤマサナエではそうなっていない)。

写真2は、同じ個体を写真1を撮る少し前に撮ったものですが、頭部が前方斜め左上を向いていていてユーモラスな雰囲気が出ていますので掲載しました。

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写真2.ヤマサナエAsiagomphus melaenops ♀、(2)。 (クリックで拡大)

おそらく、その方向に小さな虫でも通りかかったのでしょう。
この頭部の位置取りは、胸部・腹部にくらべて頭部がバランス的に小さいことが強調されるだけでなく、顎が大きい割に、頭部上半分が前後に圧平された形であることを気づかせてくれます。

頭部上半分は脊椎動物でいえば大脳にあたる中枢神経が収められている場所ですから、このトンボの行動統御機能はよほど高機能な神経ネットワークで担われているか、それとも行動そのものがシンプルになっていて、特に高機能化していなくとも処理しきれているかのいずれかではないか、などと私は想像をたくましくしてしまいます。

おそらく後者ではないか、と考えてしまう私はサナエトンボに偏見を持っているのかもしれません。
今後の神経機能のと行動能力を結び付けた研究の進展に審判をゆだねたいと思います。

この♀を観察・撮影した場所から移動した、池のようになっている場所の草の上で、今度はヤマサナエの♂を発見し、撮影しました(写真3)。

ヤマサナエ♂160513
写真3.ヤマサナエAsiagomphus melaenops ♂。 (クリックで拡大)

これも帰宅後、図鑑と照合し、確実に同定することができました。

翅胸前面の黄色のL字型斑紋の折れ曲がり部分の形状および、尾部上付属器が下付属器とほぼ同長(キイロサナエ♂では尾部上付属器が下付属器よりも短い)である点が決め手になりました。

この♂、腹部の第4~6節とその前後がバットの握りのように絞れていてスマートです。
しかし、草の葉の上に体をあずけるように体軸を後方に傾けた状態でとまっていて、精悍さがあまり感じられません。

それもそのはず、この♂はまだ未熟だったのです。
というのも、複眼の色が一部茶色がかった灰色で、輝きがあまりありません。
成熟した個体の複眼は緑色を帯びて、生き生きとした輝きをはなっていまる(生態図鑑等の写真参照)。

この♂が沢山餌をたべて「成人」の体になり、軽快に婚活に精を出している姿を見たいものですが、埼玉県の自宅からここまで再訪するとなると大事です。
来年以降も、各地でトンボの観察を予定していますので、どこか別の所で再会できることを楽しみにしています。

引用文献:
浜田 康・井上 清 (1985) 日本産トンボ大図鑑。講談社。
尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012 )日本のトンボ。 文一総合出版。

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