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2016-09-08 (Thu)
陸上男子400メートルリレーの銀メダルに日本中が沸いたリオデジャネイロのオリンピックの記憶も薄れ始めた9月上旬、今度はパラリンピックが開催されようとしています。

先日、今年の5月下旬に埼玉県内の公園内の池で撮影したトンボの写真を眺めていた時に、1頭のイトトンボの姿からパラリンピックを連想してしまいました。

カメラをぶらさげて池の周りをゆっくり歩いていると、スイレンの花が一面に咲く水面に岸から突き出すツツジの小さな枯れ枝の先にイトトンボがとまっていました(写真1)。

クロイトトンボ♂(1)160523
写真1.スイレン咲く岸辺にイトトンボ (クリックで拡大)

近づいて見ると、それはクロイトトンボParacercion calamorum (Ris, 1916)の♂でした(写真2)。

クロイトトンボ♂(2)160523
写真2.クロイトトンボParacercion calamorum (クリックで拡大)

写真で見ると、楽々とまるというよりも、しがみついている感じです。
とまっている場所がほぼ水平になっている枝の上面ではなく、カットされている先端であるため、そういう姿勢になってしまったようです。
しがみつくと表現しましたが、このとまり方では、棒の先を前肢と後脚で挟みつけるようにとまっていることがわかります。

イトトンボは体の前方に偏った3対の足で細長い体を支えているので、体をほぼ水平にささえるためには、テコの原理から、後脚には下向きに大きな力がかかるはずです。

水平にとまってる場合なら、後脚は単にとまり場所に対して踏ん張ればよいだけですが、写真2のように、棒の先を挟み付けるようにとまっている場合には、そうはいきません。

棒の上面に乗った前肢を支点に、体全体が下方に回転する方向に重力がかかりますので、それに逆らうためには後脚で逆方向の力を産み出さなければなりません。

写真2をよく見ると、脛節内側の剛毛列とつま先を棒の下面に押し付けるようにしながら後脚が棒を下側から挟みつけている様子がうかがえます。
このようにして、後脚が滑って体を回転するのを抑えているというわけです。

このとまり方をしているケースでは、後脚をテコの支点とみれば、前脚には上向きそしてうしろ向きの力がかかっていることがわかります。
したがって、前足を単に接地面に「置く」だけでは不足で、接地面を「つかむ」ことによって「引き離そうという力」に対抗しなければいけません。
実際、よく見ると、前足の爪をしっかりと樹皮に立てていて、前足の引きはがしや後方への滑りの力に抗していることがわかります。

と、ここまで、主に姿勢の維持について力学的な観点から考察してきましたが、何かが抜けていました。
そうです。中脚のことです。

この♂をよく見ると、左中脚が基節を残して欠損しています。
右中脚は正常で、写真2ではちゃんと棒の右側面をしっかりと抱えて、体のバランスの維持に一役買っています。

このように、左は前と後の2本の脚だけで体をささえているだけであるにもかかわらず、なんとその左前脚を持ち上げて足先を顔面にもっていきました(写真3)。

クロイトトンボ♂(3)160523
写真3.クロイトトンボParacercion calamorum (クリックで拡大)

複眼に小さなゴミがついたときなどに、トンボ達がよく行う仕草です。
左は後脚1本だけ棒をつかんで体を支えています。
パラリンピックの選手ではありませんが、思わず拍手を送りたくなります。

まもなく、この♂はちょっと飛び立ち、またすぐにとまりました(写真4)。

クロイトトンボ♂(4)160523
写真4.クロイトトンボParacercion calamorum (クリックで拡大)

ごく普通のとまり方で、後脚を含めすべての脚を枝の上面に置いて踏ん張っています。
もちろん細い枝なので、長い後脚は特に、枝の側面に向かって斜めになっている面につま先を置くことになりますので、その分、脚がすべらないように、しっかりと爪を立てて棒の左右から挟みつけていることでしょう。

しばらくしたら、また飛び立って、今度はまた写真2と同じ棒の先に、とまりました(写真5)。

クロイトトンボ♂(5)160523
写真5.クロイトトンボParacercion calamorum (クリックで拡大)

おどろいたことに、大相撲の水入り後の再開の時の体勢再現のように、写真2の時と脚の位置が寸分たがわず同じであったことには驚かされます。
よほどこのとまり方がこの個体にとって安定なのでしょう。

このイトトンボが親から受け継いだ遺伝子には、脚が1本、2本欠けてもちゃんととまれるような神経情報処理機構までが刻まれていたのではないでしょうか?

そんなことを考えつつ、次の写真(写真6)を見ると、同じとまり場所にとまったまま、今度は右前足で頭部の身づくろいをしています。

クロイトトンボ♂(6)160523
写真6.クロイトトンボParacercion calamorum (クリックで拡大)

片方だけで上向きの力で引きはがされる力に抗しているはずの左前足にはまだゆとりさえ感じられます。
さすがです。
右中脚は右前脚の分まで役割を引き受けるかたちで、棒の側面から挟みつけて体を支えていることでしょう。

これらの連続写真を撮り終えた後で、写したのが写真1です。
話の都合上、写真1のみ、時系列から逸脱させて掲載しました。

住宅地にほど近い公園の池のごくありふれたトンボでも、じっと観察あるいは撮影すれば生き物の持つ奥深い「生きる力」の様々な姿が見えてくるように思います。

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