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2016-09-18 (Sun)
以前の記事「ヤマサナエ:学名の謎」で、私が岐阜県で観察・撮影したヤマサナエAsiagomphus melaenops (Selys, 1854)(下の写真)の学名の謎についての続報です(解決篇)。

この学名のうちの種小名melaenopsの意味は「黒い眼」であるはずなのに、ヤマサナエそのものの眼は黒くない――これは謎である、として私の宿題としていました。

ヤマサナエ♀(1)160513
写真.ヤマサナエAsiagomphus melaenops (Selys, 1854)♀。 (生方秀紀撮影、再掲) (クリックで拡大)

その時の私の文章を再掲します。

「属の学名Asiagomphusは、「アジアのサナエトンボ」、種小名のmelaeno「黒い」+ops「眼」を意味します。しかし、その割に生体の眼は黒くありません。標本の眼であれば、黒っぽくなってもおかしくありませんので、命名者のSelysがその色からつけたとも考えられますが、それもあまり考えにくいです。浜田・井上(1985)ではopsを頭部を意味するとしています。私にはこれもしっくり来ませんので宿題とします。」

今回、Selys自身によるヤマサナエの形態記載の原文(Selys 1858; 388頁)を閲覧する機会がありましたので、そのうちの頭部についての記載の部分を抜き出してご紹介します。

Selysによるヤマサナエ頭部の形態記載(Monographie des Gomphinesより)
Selysによるヤマサナエ頭部の形態記載(Monographie des Gomphinesより  (クリックで拡大)

頭部の記載部分の本文(フランス語)は以下のとおりです。
♂adulte. Tête noire, excepté les yeux qui sont bruns, un point jaune à la base des mandibules, et une large bande jaune verdatre au front sur la partie plane du dessus, mais descendant légèrement sur le devant; la lame de l'occiput assez relevée, à cils noirâtres.

以下は、仮に和訳したものです。
♂成虫。茶色の複眼を除いて頭部は黒く、顎の基部に黄色のスポットがあり、また上部の平坦部の前面には緑がかった黄色の大きな帯があるが、前面は僅かに下がる。後頭部の縁は十分に隆起し、睫毛(触角のことか?)は黒っぽい。

このように、Selysが参照した標本も複眼は茶色(つまり黒くはない)だったことがわかります。
一方、頭部は黒いと記載していますので、melaenopsが浜田黒い頭を意味するという浜田・井上(1985)の解釈とは合致します。

どうやら、「opsに頭という意味がある」という先輩の教えに素直に向き合ったほうがよさそうです(反省)。

そこで、褌を締め直して、インターネット検索を繰りかえすことで、上でのギリシャ語opsの意味探しをやり直すことにしました。

あれこれ調べているうちに、opsのギリシャ語表記がὄψであることが確認できました。

引き続き「ὄψ + eye」で検索したところ、以下のサイトにたどり着きました。

Henry George Liddell, Robert Scott, A Greek-English Lexicon
http://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.04.0057%3Aentry%3Do)%2Fy2

そして、そこには、なんと、ὄψの訳語として、eye(眼), face(顔)の二つが並んでいるではありませんか(下記)。

ὄψ (B), ἡ, gen. ὀπός, (ὄψομαι)
A.= ὄψις, the eye, face, Emp.88, Antim.63.
Henry George Liddell. Robert Scott. A Greek-English Lexicon. revised and augmented throughout by. Sir Henry Stuart Jones. with the assistance of. Roderick McKenzie. Oxford. Clarendon Press. 1940.

これでようやく宿題が終りました。

ヤマサナエの学名のうちの種小名melaenopsの意味は「黒い顔」です。

確かに、当時の同属種の代表であるGomphus vulgatissimus (Linnaeus, 1758)の顔(写真:外部リンク)と比べれば、ヤマサナエの顔は(前額上部を除いては)黒いです(下の写真)。

ヤマサナエ♂顔アップ160513
写真.ヤマサナエAsiagomphus melaenops (Selys, 1854)♂の顔をアップ。 (生方秀紀撮影、初出)  (クリックで拡大)

この学名の件についても、最初の見込みを訂正する結果になりました。
当初の記事の末尾にも今回のこの記事をリンクして、誤解が拡散しないようにしたいと思います。
思い込みにあぐらをかいて独り相撲をとってしまったことに反省しきりです。

とはいえ、謎解きは私のブログ記事作成のモチベーションの一つですので、また同じようなことをやらかさないとも限りませんが、皆様におかれましては、眉に唾をつけながらこのブログの記事のご愛読を続けていただければと思います。

引用文献:
浜田 康・井上 清 (1985) 日本産トンボ大図鑑。講談社。
Sélys Longchamps, Edmond de, (1858): Monographie des Gomphines. Mémoires de la Société Royale des Sciences de Liège 9: 1-460, 23 pls.

写真外部リンク:
Josef Lubomir Hlasek: Gomphus vulgatissimus 2499. in: Photo Gallery Wildlife Pictures
http://www.hlasek.com/gomphus_vulgatissimus.html

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