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2016-10-08 (Sat)
昨日(10月8日)、当研究所から車で数分のところにある小規模な水辺に、カメラをぶら下げて出かけました。

トンボはいないかと、目を凝らしていると、アキアカネSympetrum frequens (Selys, 1883)の連結態が1ペア、心なしかふらふらと飛んできて、ヒメガマの茂みのはずれにある枯葉にとまりました(写真1)。

アキアカネに組みついたコモリグモの一種(1)
写真1.アキアカネSympetrum frequens の連結態(クモがとりついている) (クリックで拡大)

早速カメラを向け、ピントを合わせながら繰りかえしシャッターを押しました。
それと同時に、ファインダー越しに、♀の頭部・胸部付近にクモが1匹からんでいることにすぐ気づきました。

20回ほどシャッターを押したところで、♂に促されるように、このペア―はクモが取りついた状態のまま飛び上がり、どこかへ飛んでいきました(この間、1~2分経過)。

撮影中、その♀に元気がないことにも気づきましたが、ファインダー越しでは細かいところがよくわからず、♀がクモをかかえているのか、それとも逆に♀がクモにとりつかれているのかは、帰宅後の現像の際に確認することにしました。

帰路、同行者(家人)曰く、「クモの巣にかかった♀とつながったんじゃない?」。
私、 「そうかな?連結中に♀がクモを捕まえたのかもしれないよ。ま、翅にクモの糸がついてれば、そのとおりだな。」

というわけで、現像してみました。
冒頭の写真1は、撮影開始から4回目のシャッターでとらえたものです。
下の写真2は、その2回後のシャッターでとらえたほぼ同一のシーンをクロップしたものです。

 アキアカネに組みついたコモリグモの一種(2)
写真2.同じアキアカネ連結態で、クモがとりついている部分を拡大(観察初期) (クリックで拡大)

ご覧のように、クモは♀の頭部から翅にかけての背面にとりついています。
そして、♀の首が180℃ねじれている状態で連結している♂の腹部先端をもクモが左右の第1、第2脚でかかえています。

ですので、♀はねじられた首のまま、背面飛行をさせられる形で♂の連結飛行にお付き合いしていたことになります。
お付き合いといっても、♀はすでに意識不明のようで、断続的に撮影した最初から最後までの1,2分の間、♀の脚や翅の位置に変動はありませんでした。
このことは、写真2と、下の写真3(このペアが撮影場所から飛び立つ直前に撮影)を比べていただけると確認できるでしょう。

アキアカネに組みついたコモリグモの一種(3)
写真3.同じアキアカネ連結態(観察末期;写真2から1~2分経過) (クリックで拡大)

それに対してクモの脚は、よく見ると最初(写真2)と最後(写真3)とで以下のように微妙に動いていることがわかります。

写真2のクモの脚の位置
      → 写真3のクモの脚の位置
右第1脚が前方に伸びていて、見えている。
      → 右第1脚が左第2脚の反対側から♂の腹をはさむ。
左第1脚の先が♂の腹の右側面
      → 左第1脚の先が♂の腹の左背面
左第2脚がより折れ畳まれている
      → 左第3脚が♀の左中脚の脛節をかかえている。
左第3脚がより折れ畳まれている
      → 左第4脚の先は♀の左前翅の後縁にかかている。
右第4脚が浮いている
      → 右第4脚がトンボについている

このことから、♀は死んでいるか、それに近い状態であること、そしてクモは生きて活動的な状態であることがわかります。

したがって、現像前に想定した二つの選択肢
♀がクモをかかえているのか、
♀がクモにとりつかれているのか、
に関しては、後者であったことが確認できたことになります。

もう一つの対立点、すなわち、
クモの巣にかかった♀に♂が乗りかかって連結したのか、
すでに連結中の♀がクモを捕まえたのか、
については、後者はすでに棄却されていて、前者の可能性は残されます。

もし、♀の翅にクモの糸が付着していれば、前者の可能性がぐんと高くなるはずです。
そこで、写真2を見ると、なんとクモの糸のようなものが着いているではありませんか。

クモ類図鑑の手持ちがありませんので、ネット検索で似たクモを探したところ、タナグモ科の種と今回撮影したクモの雰囲気が似ていました。
タナグモ科は造網性ですので、この時点での私の暫定的な結論は、
「クモの巣にかかった♀(まだ生きていた)にこの♂が連結してゲットし、そのときに、クモがこの餌食は渡さないぞとしがみついた」
というものになりました。

この観察・現像の経緯と同じ写真3点を添えて、昆虫関係のフェイスブックに投稿したところ、「第三の予想」がコメントというかたちで提出されました。

愛媛県の飯田貢さん:
「脚の毛等を見ると徘徊性のクモのような気がします。私の考えるシナリオは交尾態のペアが葉に止まったところを背後からクモに襲われたのではないかと…雌は胸部と腹部の付け根辺りが葉に近い状態で止まるので葉の裏に隠れているクモはアタックし易いのではないか」

神奈川県の尾園暁さん:
「水田や湿地に多いコモリグモの一種に見えます。僕が観察した事例では、連結産卵中のメスにクモが地面から飛びつき、この写真と同じような状態になりました。」

尾園さんはその時の写真(すでに尾園さんのブログ「湘南むし日記」に報告済み)へのリンクも添えてくれました。
http://blog.livedoor.jp/photombo/archives/1585425.html

その写真は、クモが♀の胸部左側面からしがみついている点と、♀の首の捻じれが135℃程度なのを除けば、私が撮影したペアとほぼ同じ状況です。
しかも水田で産卵動作中のアキアカネペアへのクモのしがみつきという決定的な瞬間を捕えています。
さすがプロの昆虫写真家。脱帽です。

フェイスブックへの投稿と前後して、私が写したこのクモの種または属の名前を正確に知るために、『クモの巣と網の不思議―多様な網とクモの面白い生活』(夢工房より増補復刻版)の編著者である、池田博明氏に、写真を添えて判断を仰ぐメールを差し上げたところ、次のようなご回答とブログへの転載許可をいただきました。

「コモリグモ科のオオアシコモリグモ属Pardosaの一種で、本州産なら頭胸部の色彩と斑紋から普通種のキクヅキコモリグモと同定できます。」
「コモリグモは網を張らない徘徊性のクモなので連結しているペアの♀にクモが取り付いてかみつき、♀の麻痺が始まった状態であったと思います。」
「このクモではかみついた後で獲物を糸で巻くので糸はその作業で付いたものと思われます。クモにとっては自分が取り付いた♀に♂が連結していて飛行まですることは予想外だったのではないでしょうか。」

クモの専門家による的確な教示と、昆虫写真家による類似事例の紹介を得たことで、撮影・現像時に浮かんだ疑問や誤った推測がそのまま持ち越されることなく、たった2日間で完全整理し、クモの習性についての目から鱗の知見を得ることができました。

このとにより、友人(飯田さん、尾園さんとはトンボ研究・撮影の仲間、池田さんとは大学の学科の同窓)の有難さと、SNSをはじめとしたインターネットによる情報交換の普及の恩恵を再認識した次第です。

池田さんならびにSNSでコメントいただいた飯田さん、尾園さんほかの皆さんに、この場をお借りして感謝したいと思います。


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