09≪ 2017/10 ≫11
12345678910111213141516171819202122232425262728293031
2017-03-20 (Mon)
私も分担執筆した下記の伝記本:

辻 和希 編(2017):
  海游舎。A5判・上製本・432頁。定価(本体4,600円+税)
  ISBN978-4-905930-10-5

がこのたび(2017年3月)刊行された。

生態学者・伊藤嘉昭伝 
生態学者・伊藤嘉昭伝。(写真はクリックで拡大)

3月14日から東京の早稲田大学早稲田キャンパスで開催された、日本生態学会大会会場内の書籍展示コーナー(海游舎ブース)での展示即売では評判を呼んでいという。

書籍展示開始早々に、海游舎の本間さんから著者献本をしていただき、学会セッションの合間にパラパラと本文をめくり、帰宅後は各執筆者の文章に吸い込まれるように読みふけった。

昼は学会でのポスターセッションと口頭発表セッション、それに自由集会への参加、帰宅してのこの伝記本の耽読という生活リズムが3日間続いた末に読了した。

以下、目次の順に、印象に残った寄稿文を中心に感想を述べたい。

「第一部 農研時代」では、農業技術研究所時代の伊藤嘉昭博士(私を含め、知り合いは「伊藤さん」と呼んでいた)の、基礎研究を重視した個体群生態学の研究姿勢、同僚・後輩とのチーム形成などが語られている。その中で冨山清升さんの一文は伊藤さんのあまり知られていない面に当時の仲間との写真も添えて触れていていて印象に残る。

「第二部 沖縄県時代」では沖縄でのウリミバエ根絶を指揮した伊藤さんを、そのチーム員が生き生きと回想している。 藤崎憲治さんの一文は異色で、伊藤さんのこの成功伝説に隠れた負の側面、その後あらわれている問題点とその解決の方向までも論じていて興味深い。

「第三部 名古屋以降」では、名古屋大学農学部に助教授として任用され、そこで害虫管理ではなく、進化生態学、行動生態学の研究・教育を優れた若手研究者(院生、助手)とともに進めた伊藤さんを、当時の弟子たちが描き出す。
ここはやはり、辻 和希さん、粕谷 英一さんの書いた部分を読むと、伊藤さんの教育者・研究者としての評価の骨格が浮かび上がる。

「第四部 著作活動」では、伊藤さんが文字通り大量に上梓した生態学関連の書籍が日本の生態学に与えた影響について語られる。松本忠夫さんは、伊藤さんの出したすべての本について評価する。嶋田正和さんは伊藤さんの社会進化に関するとらえ方の変遷を厳正に審査している。私の一文もこの第四部に収録されているが、北海道大学で私を含む当時の若い院生に「種の社会学」がどう浸透していて、その後どう脱ぎ捨てられていったかのケース・ヒストリ―の形をとった。

「第五部 比較生態学とその周辺」では、比較形態学者の鈴木邦雄さんの仕事に伊藤さんの『比較生態学』が大きく影響していたことが語られ、意外性がある。

「第六部 ハチ研究」では、山根 爽一さんらによってカリバチの社会進化についての伊藤さんの新説とその問題点が伊藤さんの人間像とともに語られる。

「第七部 伊藤さんの思想」では、岸由二さんの一文が読み応えがある。行動生態学の日本への導入の立役者の一人だった岸さんがいつしか生態学会に出てこなくなったのかの謎も解き明かされる。いや、一人の研究者の動向というよりも、日本の生態学全体の大きな歴史的な転換があったのがこの時代(1975年頃~1990年頃 )であり、それが生々しく描きだされたということなのだろう。

この本の分担執筆者55名の中には、編者の辻さんをはじめ、生態学理論の不完全さを克服し、新しい理論を提案するなど世界のトップレベルで活躍している生態学者が少なとも数名含まれている。

このような人材を育んだ「苗床」をしつらえ、拡げていったのが伊藤さんであることは、本書から読み取ることができる。

伊藤さんは、観察した事実を記載し、帰納法的に見出した傾向に解釈を加え、それを日本語「論文」として発表するのが普通だった時代(1980年前後以前)に、「論文の骨組みをつくってからデータをとれ」「英語で世界的に通用する雑誌に論文を毎年1本以上投稿せよ」「毎日1本論文を読め」と、若い研究者を叱咤・激励したという。

まさに、この本の帯カバーに大書されているとおり、「この1冊で日本の生態学史がわかる」。
「生態学史の『すべて』がわかる」としていないところに、謙虚さも漂う。

巻末には、引用文献、事項索引、人名索引も添えられている。

生態学とは何か?と考えている人、これから生態学をやりたい人、あるいは科学と政治思想とのかかわりの事例に興味ある人には必読の1冊であろうと思う。

ついでに、誤植の報告:
48頁、1行目 開開催 → 開催
169頁、9行目 話し → 話
403頁、26行目 J. → J. Ethol.


出版社直接購入案内の情報:
 → こちらをクリックし、その頁の最下段に注目。


☆★☆ ブログランキング(↓):よろしければ両方ともクリックして応援してください。
| 生態学一般 | COM(0) | | TB(-) |
コメント







管理者にだけ表示を許可する