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2017-03-23 (Thu)
(この記事の正しい公開日は、2017-04-04 (Tue)です。)


グンバイトンボPlatycnemis foliacea Selys, 1886(*注1)
は、モノサシトンボ科に属する種で、日本と中国に分布しています(写真1)。

グンバイトンボ♂
 写真1 グンバイトンボPlatycnemis foliacea♂。四国、2016年6月。(写真はクリックで拡大)

このトンボは、♂の中脚、後脚の脛節が軍配のように扁平に拡がっているのが、大きな特徴です(写真2)。

グンバイトンボ♂体前部拡大 
写真2 グンバイトンボ♂の体前部。中脚、後脚の脛節が軍配のように扁平に拡がる。

一方、♀の脚の脛節にはそのような拡張がなく、モノサシトンボ科の他の種[例:モノサシトンボCopera annulata (Selys, 1863)(*注2)]の♀のそれと変わりがありません(写真3)。

グンバイトンボ♀
写真3 グンバイトンボ♀。四国。2016年6月。

このように同種♂♀の外部携帯に明瞭な形態の差異があることは「性的二型」と呼ばれますが、この二型が進化した原因はダーウィンが提起した性淘汰(性選択)であることが多いとされています。

というわけで、グンバイトンボ♂の軍配形の脛節はどのような適応上の利点があって進化してきたかは、トンボの行動を研究してきた者にとって大いに気になるところです。

筆者は、トンボの研究を開始した大学院入学時点以来43年間、北海道に住んでいたため、グンバイトンボを直接観察する機会が得られませんでしたが、定年退職して埼玉に移住したことで距離的にも投入時間的にもグンバイトンボ生息地へのアクセスがしやすくなりました。

そして、グンバイトンボとの対面は、2016年6月中旬、梅雨空を縫っての四国地方トンボ撮影行の中で実現しました。

生息地の情報や観察のコツは、トンボ王国・四万十学遊館(あきついお)館長の杉村光俊さんに伝授いただき、現地への移動では愛媛県在住のアマチュア昆虫写真家のお二人、飯田貢さん、山本桂子さんのお世話いただきました。

現地に着くと、ゆるやかに流れる川の草生した岸(写真4)の上を3人でじっくりと探し回ります。

グンバイトンボ観察地(四国)
写真4 グンバイトンボの生息地。四国、2016年6月。

じきに、「いたー!」、「いるよー!」と声があがりました。私の眼の前にも、モノサシトンボによく似たトンボの、飛んだりとまったりの姿が。
そしてついに、軍配そのものの脚をぶら下げて飛ぶグンバイトンボ♂の姿を確認しました。
あこがれのトンボとの対面です(写真1)。

うっとりと見つめていたいところでしたが、貴重な機会を失うわけにはいきませんので、一眼レフのファインダーを覗きながら、マニュアルフォーカスをいじりながらシャッターを連打しました。

残念ながら、♂が♀に求愛するシーン、連結し、交尾するシーン、産卵するシーンに出会う機会は得られませんでしたが、♂間の排他的行動を間近で観察することができました(写真5)。

グンバイトンボ♂間の排他行動
写真5 グンバイトンボ♂間の排他的行動。四国。2016年6月。

写真は人に見せるレベルのものが撮れなかったのですが、といいつつ見せていますが、観察していて印象的だったのは、相手の♂の接近に対して立ち向かっていくときに、脚を6本とも下方に垂らし、白い軍配状の脛節が(観察者から見て)大変目立ったことです。

写真5の(1)は、接近する相手に気づいて、とまっている草葉の上から飛び立ち、相手に向っていくところです。
(2)は、相手と睨み合うかのように向かい合っている瞬間です。
(3)は、相手を退けて、再び草葉にとまる直前です。
(4)は草葉にとまっている状態(これのみピントを合わせることができました)。

この観察中にもう一つ気づいたことがあります。
それは、♂が相手を追いかけ、別れて、戻る時に、軍配面を後方に向け、軍配を「誇示」したことです。

私は、グンバイトンボの軍配は、孔雀の♂の尾羽のように、♀に求愛する際のセックスアピールになるのだろうと予想していましたが、どうやら鹿の角のように、♂間で相手を威嚇する機能もあるように思えます。

ここまで考察したところで文献にあたってみたところ、杉村ほか(1999)の『原色・日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』の「グンバイトンボ」の項に、次のような記述がありました。

「成熟雄は<中略>縄張りを保持<中略>ほかの♂にであうと軍配状の真っ白い肢をいっぱいに広げてホバリングしながらにらみあい、体を上下にゆさぶっては徐々に上方へ移行し、頃あいをはかって別れる。♀に対しても、まず肢を思い切り拡げて自己顕示を行う。」

「体を上下にゆさぶっては徐々に上方へ移行し、頃あいをはかって別れる。」とありますが、私の観察でもたしかにその傾向はありました。

「♀に対しても、まず肢を思い切り拡げて自己顕示を行う。」との記述は、やはり軍配の白い面を相手に向けて誇示をすることを表現したものといえます。

ヨーロッパに生息するPlatycnemis latipes Rambur, 1842Platycnemis acutipennis Selys, 1841の♂の中脚、後脚も日本のグンバイトンボよりも少し劣りますが、広がった脛節をもちます(参考サイト:Hyde, 2016)。

しかし、これら2種の♂は(少なくともフランスの当該観察地では)求愛の際に拡がった脛節を用いず、飛行中に同種♂を威嚇する際に用いるとのことです(Hyde, 2016)。
下記にその部分の原文を抜粋しておきます。

"Males like to perch on low vegetation near a river bank, and search for prey and mates with a slow zig-zagging or bouncing flight. Their wide tibias are not used in courtship, but as threatening behaviour to other males of the same species in flight."(Hyde, 2016)

日本のグンバイトンボとフランスの同属種の間のこの行動の違い(♀に対する誇示の有無)が、種による違いなのか、それともどの種においても個体群による行動の差あるいは、同一個体群においても何等かの条件によって誇示をしたりしなかったりするのかは、興味のあるところです。

私も今度グンバイトンボを観察に行くときは、♂と♀の間の行動がふんだんにみられる季節、時間帯を狙いたいと思います。

さて、最後に、今回の観察中に見られた、雄の体清掃行動の写真をご覧いただきます(写真6)。

グンバイトンボ体清掃 
写真6 グンバイトンボ雄の体清掃行動。

写真6では、腹部を第2節と題節の間で背方に強く折り曲げ、全体に弓上に背方へ反らせています。腹部を上下に上げ下げする動作の最上点に達する直前のタイミングです。
このような腹部上下により翅の表面についた塵などが拭い去られる効果があると考えられます。

下の写真7は、体清掃が終り、すっきり、まったりとした感じのこの個体です。

グンバイトンボ体清掃後
写真7 グンバイトンボ雄。体清掃行動を終えて、まったりと。

このような、均翅亜目(イトトンボ、カワトンボなどを含む分類群)のトンボが腹部をリズミカルに上下に屈曲して翅と腹をこすりあわせる運動(体清掃行動)は、オツネントンボについて、すでにこのブログに書きました。
連続写真つきで長々と書きましたのでよろしければ御笑覧ください。

末筆になりましたが、この場を借りて、今回の観察でお世話になった、杉村さん、飯田さん、山本さんに感謝いたします。


*注1:Platycnemis Burmeister, 1839の語源は、platyが「扁平な」を、cnemis (κνημίς)が「(よろいの)すね当て」を意味する。

*注2:モノサシトンボが新種記載された時点では、Psilocnemis Selys, 1863のもとに置かれた。その後、Psilocnemis はコガネムシ科Scarabaeidae Latreille, 1806の中でPsilocnemis Burmeister, 1842として使われていることが判明し、本種にはCopera Kirby, 1890が充てられ、これが長い間使われてきている。
しかし、最近、DNA系統解析に基づき、Copera から旧北区以外の種をPseudocopera Fraser, 1922に移す提案がなされている(Dijkstra et al. 2014)。
それに従えば、モノサシトンボの学名は、Pseudocopera annulata (Selys, 1863)となる(World Odonata List参照)。
ちなみに、Psilocnemisの語源は、Psiloは「裸の、露出した」、cnemis は、前述のように「 すね当て」を意味する。


引用文献:
Dijkstra K-D.B., Kalkman V.J. , Dow R.A., Stokvis F.R., van Tol J. 2014: Redefining the damselfly families: a comprehensive molecular phylogeny of Zygoptera (Odonata). Systematic Entomology, 39: 68-96.

Hyde, Bruce  2016 Featherleg Differences.  http://www.ipernity.com/blog/bruce.hyde/4392388


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