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2017-07-03 (Mon)
「トンボの楽園」という言葉は時々耳にしますが、楽園中の楽園は、やはり高知県四万十市(旧中村市)にある「四万十市トンボ自然公園」(別名「トンボ王国」)でしょう。

「トンボ王国」は、公益社団法人「トンボと自然を考える会」が里山であった池田谷の水田や畑地等の一部(約6.8ha)を取得し、あるいは借り受け、トンボの保護区を整備し、管理運営している(出典:トンボと自然を考える会のWebSite)、世界的に見てもトンボ保護のためのナショナルトラストの先駆けです。

そしてこの「トンボ王国」を含む池田谷のトンボ類は2008年現在で76種に達していて、同規模面積でのトンボ記録種数日本一を誇るとのことです(出典:トンボと自然を考える会のWebSite)。

1993年に大阪市で開催された第12回国際トンボ学シンポジウムの参加者を対象としたポスト・シンポジウム・ツアーの訪問先にもなったことがあり、海外からの大勢のトンボ研究者・愛好家を含む参加者を、トンボと自然を考える会の実質的な代表者である杉村光俊氏以下、トンボ王国の「住民」たちが「おもてなし」し、喜ばれたと伺っています。

私も大阪のシンポジウムには参加したのですが、その直後に釧路で開催された「国際シンポジウムートンボの生息環境とその保護」の準備と運営にあたらなくてはいけなかったため、トンボ王国へのツアーには参加せずじまいでした。

昨年6月、23年振りに、私がトンボ王国を訪ねる機会が巡って来ました。

それは、昨年春、フェイスブック上で愛媛県在住のアクティブなアマチュア昆虫写真家の飯田貢さんと「友達」になり、私がトンボ王国への訪問を考えていることを伝えたところ、ぜひ一緒にということで、トントン拍子に旅行計画ができあがったのが発端です。

もちろん、トンボ王国の杉村氏(トンボ王国に併設の「四万十川学遊館」の館長)にも、メールで連絡をとり、対応して下さるとのご返事をいただくことができ、旅行の手配をスタートと相成りました。

6月18日の昼過ぎ、飯田さん、同じくFB仲間でアマチュア昆虫写真家の山本桂子さんのお二人に案内いただき、私はトンボ王国の園地に到着しました。

学遊館の事務室への到着の挨拶もそこそこに、私たちはカメラを首に掛けて園地内の遊歩道に歩み入りました(写真1)。

四万十市トンボ自然公園の様子 
写真1 四万十市トンボ自然公園の遊歩道から学遊館方面を望む (写真はクリックで拡大)

当日のアメダス気温は28℃台、日照時間は7~8割と、梅雨時にもかかわらず、格好のトンボ日和となりました(私、晴れ男です、笑)。

早速、池の岸の草の丸い葉にとまる真っ赤な衣装のベニイトトンボCeriagrion nipponicum Asahina, 1967♂がお出迎えです。

続いて、胸部、頭部前面、脚の腿節にビッシリ粉を吹いたコフキヒメイトトンボAgriocnemis femina (Brauer, 1868)♂の登場です(写真2)。

コフキヒメイトトンボ♂ 
写真2 コフキヒメイトトンボAgriocnemis femina

私にとっては、10年ほど前に沖縄本島で出会い、写真も撮っていますので、それ以来の再会です。

コフキヒメイトトンボは、本州ではかつて山口県で記録されていただけで、本土では九州中南部と四国南部に限定されています(尾園ほか、「日本のトンボ」)。

次に姿を見せたのは、セスジイトトンボParacercion hieroglyphicum (Brauer, 1865)♂です(写真3)。

セスジイトトンボ♂ 
写真3 セスジイトトンボParacercion hieroglyphicum

遊歩道の澄んだ水が流れる浅い側溝の水面に突き出した枯草の細い茎に水平にとまっていました。
同属種も多いクロイトトンボ属のトンボで、一見しての区別は難しいですが、拡大すると肩黒条に淡色の細条が走っているのが見えて判別できます。

セスジイトトンボは私がトンボの研究を始めたばかりのウン十年前に北海道東部の湖畔で未熟な1個体を採集し、朝比奈正二郎先生のもとにお送りして同定していただき、初めて活字の報告にした思い出の種です。
生態写真の撮影は今回が初めてとなりました。

お次に控えしは、サナエトンボです(写真4)。

キイロサナエ♂ 
写真4 キイロサナエAsiagomphus pryeri

池につきだしたイネ科植物の葉にとまっています。
よく見ると、右前脚の付け根に、オレンジ色のミズダニがとりついています。

撮影した写真を帰宅後、図鑑と照らし合わせた結果、このトンボはキイロサナエAsiagomphus pryeri (Selys, 1883)♂と判定できました。
サナエトンボ科が貧弱な北海道に長く住んでいた私

相前後して、セリ科と思われる小さな草の葉にとまっているキイロサナエ♂も撮影できました。

少し移動したところの水辺の草には、モノサシトンボPseudocopera annulata (Selys, 1863)♀もとまっていました(写真5)。

モノサシトンボ♀ 
写真5 モノサシトンボPseudocopera annulata

左右にグーンと伸びた頭部の複眼際の頭頂部の黒と薄緑色が作り出す斑紋が印象的です。

水辺に立っている細い草の葉にとまり、体はぶらさがるのではなく鉛直に対して70度くらいになるように6本の脚でしっかりと支えられています。

コウホネがビッシリ繁茂する池では、水面から数十センチメートルの高さを飛び回るチョウトンボRhyothemis fuliginosa Selys, 1883を目撃しました。
望遠レンズの焦点距離が足りず、トンボのスピードも速いことから、証拠写真を残すのがやっとでした。

別の池では、大型のスゲ類の垂直の茎に、ハラビロトンボLyriothemis pachygastra (Selys, 1878)♂が鉛直にぶらさがっていました。
写真から、体は黒化し、青白い粉もかなり吹いてることが見てとれ、ほぼ成熟している個体と判断できました。

少し移動すると、池の水辺の水面すれすれの倒れた枯草の茎に体を預けるように、イトトンボが水平にとまっていました(写真6)。

アオモンイトトンボ♂型♀ 
写真6 アオモンイトトンボIschnura senegalensis の♂型♀

帰宅後、図鑑やウエブ情報と照らし合わせて、アオモンイトトンボIschnura senegalensis (Rambur, 1842)♂型(同色型)♀と同定しました。

かなりの時間を要しましたが、謎解きと共通するものがあり、時間を自由に使える者にとっては愉しい時間でもありました。

同じアオモンイトトンボ♀でも多数派である異色型♀は、♂とは全く異なる色彩をしており、その理由とかその比率とかは、同属他種の同様の現象と併せて、現在も国内外の研究者の研究対象となっています。

アオモンイトトンボ属の♀の二型の維持機構については、いずれ異色型♀の写真と併せて、項を改めて取り上げたいと思います。

さて、トンボ王国の遊歩道に戻ります。

池の水面に浮いた草の葉には、ユーモラスな姿勢をとったキイトトンボCeriagrion melanurum Selys, 1876の連結カップルが産卵中でした(写真7)。

キイトトンボ連結産卵
写真7 産卵中のキイトトンボCeriagrion melanurum の連結カップル

この連結カップルの♀は、産卵中も静止中も翅を100度から120度くらいまで開いていました。
気になってGoogleで画像検索したところ、先頭からのざっと10例ほどの画像のいずれにおいても、♀は翅を開いていました。
どうもこれがキイトトンボの一つのスタイルのようです。

後述のように、今回観察・撮影した同属種であるベニイトトンボの連結産卵でも、♀は翅を開いていました。
Google画像検索でお、連結産卵中のベニイトトンボ♀は翅を開いている画像がほとんどでした。

ちなみに属の異なるクロイトトンボParacercion calamorum (Ris, 1916)の検索では、大部分の画像で、連結産卵中の♀の翅は閉じ気味でした。

さて、次です。

まだここで撮影していない種を求めて、池から池へと歩を進めると、折れたスゲの葉にとまる、しっかり白粉を吹いたハラビロトンボの成熟♂が見つかり、撮影しました。

少し移動すると、花の芽の先端にコフキトンボDeielia phaon (Selys, 1883)♀がとまっていました(写真8)。

コフキトンボ♀ 
写真8 コフキトンボDeielia phaon

なにか、ちょっと腰が引けているというか、不安定な姿勢です。
よく見ると腹部の先端から何か、はみ出しています。
どうやら、フンのようです。
道理で(?)、この姿勢。。

この個体は♀ですが、若干白粉を吹いています。
腹部が真っ白になる♂ほどではありませんが。。。

コフキトンボ♀には白粉を吹く♂型♀と、白粉を吹かず翅に茶褐色の斑紋を持つ「オビトンボ型」♀の2型の存在が知られています。
私も別の機会に埼玉県内でオビトンボ型♀を撮影していますので、いずれこの2型について紹介したいと思います。

さて、トンボ王国の遊歩道を歩むと、浮揚植物が少なく開放水面が拡がる、大き目な池の真ん中に突き出ている棒の先にウチワヤンマSinictinogomphus clavatus (Fabricius, 1775)の♂がとまっていました(証拠写真のみ)。

少し移動した池の岸のイネ科の頂端の葉に、変わった色彩のイトトンボがとまっています(写真9)。

コフキヒメイトトンボ♂ 
写真9 コフキヒメイトトンボAgriocnemis femina 

腹部先端のオレンジ色が印象的です。
これも、帰宅後、図鑑と照らした結果、コフキヒメイトトンボ♂の成熟途中の個体と判定できました。

その後、いずれも岸辺の枯草の茎にとまっている、チョウトンボ♂ショウジョウトンボCrocothemis servilia (Drury, 1770)♂シオカラトンボOrthetrum albistylum (Selys, 1848)♂が目にはいりました(証拠写真)。

そのうち、ショウジョウトンボとシオカラトンボは同じ茎にとまっていて、シオカラトンボがショウジョウトンボの後方にショウジョウトンボ3頭分の身長と同じ距離を置いて、同方向を向いていました。
どちらもなわばり個体なので、一方が飛び上がれば干渉する関係ですが、どちらの種の個体もこのとまり場所がよほど気にいっているようです。

少し移動すると、スイレンの葉の縁近くにクロイトトンボの♂がとまっていました。
クロイト君は、今回も脇役をしっかり務めてくれています。

別の大きめのスイレンの葉の上では、ベニイトトンボが交尾していました(写真10)。

ベニイトトンボ交尾 
写真10 ベニイトトンボCeriagrion nipponicum の交尾

♀の体の一部が隠れていて、作品としては不完全なのですが、当ブログでは交尾の写真を未収録でしたので、ここに掲げておきます。

この後、別のペアの連結産卵も複数みられました(写真11)。

ベニイトトンボ連結産卵 
写真11 ベニイトトンボCeriagrion nipponicum 連結産卵

今回記事のキイトトンボのところでも触れたように、連結産卵中のこのベニイトトンボ♀も翅を開いています。
♂はキイトトンボの♂と同様、「歩哨姿勢」(連結した♂が直立不動でいる状態)をとり、翅は閉じています。

他に何かいないかな、と見て歩くと、今度は岸の枯草の水平な茎に水平にとまっているハラビロトンボを見つけました(写真12)。

ハラビロトンボ♂未熟 
写真12 ハラビロトンボLyriothemis pachygastra ♂、未熟個体

帰宅して拡大すると、それは♂の未熟個体だということが分かりました。
腹部は黒化しておらず、ましてや白粉はまったく吹いておらず、一見しただけでは♀との区別が困難なほどです。

園地での続きです。
ほどなく、ちょっと雰囲気の違うハラビロトンボがいました(写真13)

ハラビロトンボ♀
写真13 ハラビロトンボLyriothemis pachygastra ♀、未熟個体

画像を拡大すると尾の先端の形態から♀であることが、複眼の色彩が薄いところから未熟個体であることがわかります。

その後、チョウトンボ♂を撮影したところで、園内の観察・撮影は切り上げて、この日のトンボ王国での材を終了しました。

たった1時間そこそこの取材で、4科14種のトンボを観察・撮影することができました。
中でも、キイロサナエと初めて対面することもできましたし、2,3のトンボの種の成熟にともなう体色変化の一端を垣間見ることができました。

この後、杉村館長のご案内を頂くかたちで、私達3人はトンボ王国外のトンボ生息地へ向いました。

さすが、杉村館長、私にとってすばらしい成果を得る機会を用意していただくことができました。
その成果については次回の記事で取り上げます。

今回の記事を終えるにあたり、貴重な観察の機会を与えられた杉村館長、トンボ王国への移動や現地情報の提供などでお世話になった飯田さん、山本さんに改めて感謝の意を表したいと思います。


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