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2017-07-25 (Tue)
今年6月前半の東海地方への取材旅行で、グンバイトンボPlatycnemis foliacea Selys, 1886を観察・撮影する機会がありました。

昨年6月の四国での本種との初対面で果たせなかった、交尾や産卵についても観察・撮影できましたが、それについては次回記事で扱うことにし、今回は単独♂の観察を通して気付いたことを取り上げます。

それは、
・斑紋パターンの場所間比較
・「軍配」の「汚れ」
・採食
についてです。

このうち、採食以外は、撮影したトンボの画像を自宅のパソコンで拡大し、じっくり観察した結果、その存在が判明したものです。

最初に、今回、東海地方の生息地(A地点とします)で撮影したグンバイトンボ♂3個体の静止写真を掲げます(写真1,2a,2b,3a,3b)。

グンバイトンボ♂、東海 
写真1 グンバイトンボPlatycnemis foliacea ♂、東海A地点 (写真はクリックで拡大)

グンバイトンボ♂、東海(3)
写真2a グンバイトンボPlatycnemis foliacea 別の♂、東海A地点

グンバイトンボ♂、東海(3)、拡大
写真2b グンバイトンボPlatycnemis foliacea ♂、東海A地点(写真2aの拡大)

グンバイトンボ♂、東海(2)
写真3a グンバイトンボPlatycnemis foliacea さらに別の♂、東海A地点

グンバイトンボ♂、東海(2)拡大
写真3b グンバイトンボPlatycnemis foliacea ♂、東海A地点写真3aの拡大)

なぜ、似たような写真を3点掲げたかというと、四国の同種個体と比較して、写真でわかる範囲の形態差がみられた場合に、それが地域差(つまり地理的変異)を代表しているのか、それとも個体群内の個体変異の幅が大きいための相違に過ぎないのかを、ファースト・アプローチとして判定するためです。

次に、東海地方(A地点)の本種と比較するために、昨年四国(B地点とします)で撮影した同種♂の写真を、以前の記事「グンバイトンボの軍配は何のため?」から1♂を再掲(写真4a,b)し、加えて、同じ機会に撮影した別の♂の写真を掲げます(写真5)。

グンバイトンボ♂
 写真4a グンバイトンボPlatycnemis foliacea ♂。四国B地点、2016年6月。(再掲)

グンバイトンボ♂体前部拡大 
 写真4b グンバイトンボPlatycnemis foliacea ♂。四国B地点、2016年6月。(再掲)

グンバイトンボ♂、四国(2) 
 写真5 グンバイトンボPlatycnemis foliacea 別♂。四国B地点、2016年6月。

最初に写真1(東海A地点)と写真4a(四国B地点)をざっと見比べた際には、形態も斑紋パターンもよく似ていて、「さすが同種。何千年、何万年もの長い間、離れ離れの場所で世代を紡いでいても、形態をコントロールするゲノムというのは変わらないものだな~」と、まずは感心しました。

しかし、「でも、何かわずかな違いはあるのではないかな?」と疑って、それらの写真をあらためてじっくりと見比べたところ、次のように、いくつか違いが見つかりました。

1)「軍配」(中脚、後脚の脛節が扁平に拡張したもの)の中軸の基部付近は、四国B地点の♂では、はっきりと黒い(写真4、5; 未掲載の写真IMG_5638も同様)のに対し、東海A地点では基軸全体に白い(写真1)あるいは基部近くのごく短い部分だけが黒い(写真2、)。
ちなみに、脚の体軸寄り(内側)の面の軍配の軸は東海A地点でも基部付近は黒い(写真2b)。

2)東海A地点では、翅胸前面の上端に左右方向の黄斑がある(写真1、2、)。
四国B地点の♂には、そのような黄斑はない(写真4、、未掲載の写真IMG_5638、IMG_5731)。

3)東海A地点では、翅胸の肩黒条の上端近くの中の黄斑が連続したL字形をなす(写真1)か、あるいはその黄斑が途切れる(写真2、)。
それに対して、四国B地点では黄色が途中で途切れて分断され、横方向に黄班が延長しないため、L字形にもならない(写真4、5、未掲載の写真IMG_5638、5731)。

4)四国B地点では、腹部第2節側面の黄色斑部分の中の黒班がはっきり出ている(写真4、5、未掲載の写真IMG_5638、5731
一方、東海A地点の写真1の♂では薄いが、写真2,3の♂では、もう少し濃く、四国B地点とそれほど差がはっきりしなくなる。

5)東海A地点の写真1、2の♂は、相対的に翅が長く、それぞれ腹部第6節の70%、90%程度に達する。ただし、写真3では60%とやや短い。
それに対して、四国B地点の写真4、未掲載の写真IMG_5638の2♂では50%と短い。ただし、四国B地点の写真5、未掲載の写真IMG_5731の2♂は80%と長い。
ということで、相対的な翅の長さの平均値は東海Aのほうが高い可能性はあるが、個体群内での翅の相対的な長さの変動範囲は大幅に重なっていることがわかる。

以上をまとめると、東海A地点のグンバイトンボ♂は、四国B地点のそれにくらべて、指摘した部位の黒班の縮小傾向あるいは薄れ傾向、言い換えれば黄斑の拡大傾向を示し、その変異幅にギャップがありそうに思われます。

ただし、(4)の腹部第2節側面の黄色斑部分の中の黒班の濃さには連続的な変異が認められ、この点についての両地点間の変異幅は連続すると考えられます。
また、(5)で、東海A地点の♂では翅の相対的な長さが四国B地点よりも若干長い傾向がありますが変動幅が明らかに重なていますので大きな相違とはいえないようです。

以上は、わずか1地点のたった1日の観察に基づき、ほんの数個体同士を比較しただけなものですので、今後、両地区の幅広い地域で多数(注*)の個体を観察するならば、それぞれの変異幅の重なりは当然、より大きくなりますし、ギャップがあるように見えた部位についても重なってくることは十分考えられます。

その一方で平均値の地理的差異が統計的に有意であることは、より検出されやすくもなるでしょう。

ところで、このような地理的変異が認められる場合、それは何を意味するでしょうか?

それは、生物の進化において主要な経路をなすところの、「地理的種分化」のプロセスの1断面を垣間見ることを意味するといえるでしょう。

この話をすると長くなりますので、今回はこのへんで。

最後に、今回かかげた写真から読み取れる、生態的な知見を簡単にチェックしておきます。

写真2bをご覧ください。
4枚の「軍配」のうち3枚がそれぞれ部分的に、褐色に着色しています。

これは遺伝子が作った色ではなく、皆さんもお気づきと思いますが、外的な原因による汚れですね。
ただ、軍配はグンバイトンボ♂にとって大切な「看板」ですので、♂同士で互いに相手を追い払おうとしたときに、相手にバカにされそうですね(笑)。
そういう意味で、若干ドジを踏んだ個体といえるかもしれません。

次に、写真3bをご覧ください。
口に何か咥えています。
もちろん餌です。
小さな昆虫を口器の中で器用に回しながら食べつくしていく途中のシーンです(つまり、採食)。

♂の♀への求愛、♂同士の威嚇しあいが行われている修羅場のすぐ近くでのシーンです。
腹が減っては戦ができぬ、といったところでしょうか。

人間で言えば、サラリーマンが外勤途中でコンビニで栄養ドリンクを購入してグーッと飲むシーンを想起してしまいます。

ご苦労様です。


注*:
以前はこのような形態の地理的変異の研究のために、大量の標本採集が行われていましたが、そのような大量採取はいかに科学的研究が目的であるとしても、個体群の存続基盤を損ねるおそれがあるので、可能な限り標本の持ち帰りは自制し、写真撮影のみによる調査、あるいは採取したとしても計測または撮影後、現地で再放逐することが望ましいと考えます(大量に生息する普通種の場合を除く)。


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