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2017-08-26 (Sat)
前回記事に続き、今年の7月上旬、関東地方から脱出した先にある、自然度の高い浅い沼一帯のトンボ観察からのエピソードをご紹介します。

この沼の上流側(つまり主たる流入河川がある側)は土砂だけでなく、泥炭も堆積して小規模なミズゴケ湿原写真1)が発達しています。

数種のトンボが見られたミズゴケ湿原 
写真1 数種のトンボが見られたミズゴケ湿原(写真はクリックで拡大します)

手前の黄緑色のスゲ類で茫々とした面がミズゴケ湿原、遠景の森の手前の若干緑の濃い平面が遠浅のミツガシワ帯となっています。

自然な生態遷移の進行上、やむをえないのですが、池塘は浅く狭くなっていき、樹木の侵入が起きていることが見てとれます。

ハイカーや自然愛好家による踏み付けも湿原環境の悪化原因になりますが、それを防ぐ手立てがとられているのが救いです。

このミズゴケ湿原には、モウセンゴケ Drosera rotundifolia Linnaeus写真2)、トキソウ Pogonia japonica Rchb.f.写真3)など、その立地に特有の植物も細々と生き残っています。

モウセンゴケ 
写真2 モウセンゴケ Drosera rotundifolia 

モウセンゴケの背景(水にひたった湿原面)には、たっぷり水を含んだミズゴケがぎっしりと茂っているのも見てとれます。

トキソウ
写真3 トキソウ Pogonia japonica

今回の記事は、そのミズゴケ湿原で観察されたトンボについてまとめています。

午前10時を少し回ったところで、そのミズゴケ湿原に到着しました。

出迎えてくれたのは、ワタスゲの穂の垂れ下がった枯れた花茎の先にとまる、アキアカネ Sympetrum frequens (Selys, 1883) 未熟♂でした(写真4)。

アキアカネ未熟♂ 
写真4 アキアカネ Sympetrum frequens 未熟♂

アキアカネの写真ばかりが続くことになりますが、写真4は、ちょっとした「絵」になっているかな、ということで採用しました。

小さな池塘のほとりのイグサ類の葉には、ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea Rambur, 1842 ♂が水平にとまっていました(写真5)。

ハッチョウトンボ♂ 
写真5 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♂

もし私が初めてこのトンボに出会ったとしたなら、大感激といったところですが、今年6月に東海地方の生息地で観察・撮影していますので、「や~、しばらく!」といった感じでの観察・撮影となりました。

ハッチョウトンボは、超小柄なですが、全身を真紅の衣装で着飾っていて、「ミズゴケ湿原の姫君」と形容したくなるトンボです。もっとも真紅なのは♂のほうですが。

私のハッチョウトンボへの恋心(?)はすでに3回、トップアイドル級の扱いで記事(下記3件)にしていることからバレバレかもしれません(笑)。


しばらく見ていると、ハッチョウトンボの♂同士のなわばり占有を巡る追い合いが始まりました。
上から見て直径1~2mの範囲内を目まぐるし速度で旋回しながらの追い合いです。

カメラにどう収めようかとまごまごしている間に、追い合いは決着し、再び池塘のまわりに静穏が戻りました。

これらの観察の後、いったんミズゴケ湿原を離れて沼への流入河川(細流)とその周辺の湿地へトンボを観に行きました。
そこで見たトンボは次回の記事でとりあげることとします。

午前10時30分を少し回ったところで、私はふたたび、このミズゴケ湿原に戻っていました。

今度は、そこのスゲ類の葉にオゼイトトンボ Coenagrion terue (Asahina, 1949) ♂がとまっているのを見つけました(写真、再掲)。

オゼイトトンボ♂ 
写真(再掲) オゼイトトンボ Coenagrion terue  ♂

実は、写真6は比較的よく写っていたので、前回記事で使っていました。

今度は、確かにこの場で撮れたオゼイトトンボの現場写真として再掲しています。

池塘のほとりのイグサには、先程のハッチョウトンボ♂があいかわらずとまっています。

少し離れたところには、イグサのような草の尖端近くにアキアカネ未熟♂がぶらさがっていました(写真7)。

アキアカネ未熟♂ 
写真7 アキアカネ Sympetrum frequens 未熟♂

多数のワタスゲの穂が競い合う一帯を写真に収めたあと、私はこの湿原から離れ、森林斜面とミツガシワ群落が接する岸沿いの小径をたどりながら元の小径を戻り、早目の昼食を兼ねた休憩をとりました。

昼食後、12時40分すぎに、このミズゴケ湿原に戻りました。

あわよくば、今年6月の東海地方でのトンボ探訪の際に果たせなかった、ハッチョウトンボの交尾・産卵シーンの観察・撮影をという魂胆です。

ここでの午後最初のトンボは、枯草の尖端にとまり、太陽の方向に腹部を挙上するオベリスク姿勢をとっているアキアカネ♂でした(写真8)。

アキアカネ♂ 
写真8 アキアカネ Sympetrum frequens ♂

この日は猛暑日にこそなりませんでしたが、直近のアメダスポイントの最高気温は30℃を越え、真上に近い角度からの直射日光でこのアキアカネの体温もかなり上がってしまったのでしょう。

 ※アキアカネのオベリスク姿勢についての過去記事があります。こちらです→「アキアカネ♂

私も、この時間帯は、暑さのため、観察時刻を短く切り上げて日陰に入りたいと体が悲鳴を上げそうになる中での観察・撮影となりました。

※今回の訪問地の沼・湿原で、アキアカネをそこここに見ることができましたが、そこがたとえ水辺であった場合でも、交尾や産卵といった生殖行動のためではなく、採食や休憩をしながら、秋の交尾・産卵シーズンに備えているだけのことです。

※アキアカネの生活史については北海道の事例に着目しながら私が分析し整理した総説が日本トンボ学会の会誌に掲載されています(過去記事「【総説】 北海道のアキアカネの生活史:トンボ学会誌に掲載」参照)。

さて、観察報告に戻ります。

そんな中、同じミズゴケ湿原の、イグサ類、スゲ類にそれぞれとまっているオゼイトトンボ各1♂は、平然といつも通りのとまり方を維持していました(写真9)。

オゼイトトンボ♂ 
写真9 オゼイトトンボ Coenagrion terue  ♂

不均翅亜目と違って均翅亜目のイトトンボ類は腹が細いので、太陽光に直角の場合でも受光面積が小さく、また体積にくらべて表面積が大きくなる分、体熱の空気中への発散の効率がよいことが、オベリスク姿勢を敢えてとらないことの理由かもしれません。

均翅亜目とオベリスク姿勢の関連は、今後、注目していきたいと思うテーマの一つになりました。

さて、次に見つけたのは、スゲ類の葉にほぼ水平にとまるハッチョウトンボ♀でした(写真10)。

ハッチョウトンボ♀ 
写真10 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♀

♂に「姫君」の称号を横取りされた♀ですが、地味な色彩ながら、茶・黒・白をさりげなく組み合わせた着こなしには、むしろ大人の気品さえ感じさせます。

実際のところは、他の多くのトンボ(たとえば、シオカラトンボ)と同じように、ハッチョウトンボでも、派手な色彩の♂が捕食圧を高める不利を交尾獲得の有利さで埋め合わせる中で、♀は背景にまぎれたこの迷彩色で捕食圧を少しでも下げているのでしょう。

繰りかえしの紹介になりますが、この着飾り方の雌雄差に関連した内容を過去記事「ハッチョウトンボ:恋のドレスアップ」に書いています。

さて、しばらくすると、その♀がオベリスク姿勢をとりました(写真11)。

ハッチョウトンボ♀、オベリスク姿勢
写真11 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♀

その少し後、まるで申し合わせたかのように、ハッチョウトンボ♂もオベリスク姿勢をとりました(写真12

ハッチョウトンボ♂、オベリスク姿勢
写真12 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea

更に、別のハッチョウトンボ♀(後翅の破れの有無で写真11の♀と区別がつきます)もオベリスク姿勢です(写真13)。

ハッチョウトンボ♀、オベリスク姿勢(2)
写真13 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♀

これではまるでオベリスク大会です。
オリンピックの体操競技で、2,3人の選手が同時に平均台の上で倒立しているシーンを彷彿とさせます。

たとえ話はこのくらいにしましょう。

季節的にも、時間帯的にも、♂♀が幼虫生息地(=産卵場所)である池塘周辺に出そろっていることからも、交尾行動の出現が期待されたのですが、このままカンカン照りの湿原で観察を続けると私が熱中症でダウンしかねない気象条件でした。

そんなわけで、後ろ髪をひかれる思いで、このミズゴケ湿原を後にし、日陰のある森林斜面に接する岸沿いの小径へと歩を進めました。

次回記事では、このミズゴケ湿原に近接する流入河川(細流)とその近くの湿性草原のトンボを採りあげる予定です。


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