FC2ブログ
10≪ 2018/11 ≫12
123456789101112131415161718192021222324252627282930
2017-11-19 (Sun)
トンボを含む絶滅危惧昆虫の個体群絶滅に及ぼす
採集圧の影響についての一考察(抜粋

生方 秀紀
(トンボ自然史研究所)

※この記事は、2017 年度日本トンボ学会大会(滋賀大会)で口頭発表した論考からの抜粋です。


問題設定

・日本産トンボ目のうち、天然記念物は4種、国内希少野生動植物種は4種(うち2種は天然記念物)である。

・これら6種を除く38種の絶滅危惧種は、国レベルの採集規制を受けていない。

・実際にトンボ目についても、研究に必要な量以上の採集や標本等の売買等が行われており、採集圧による絶滅危惧種の衰退が懸念される。

・しかしながら、採集圧が個体群に与える影響に関する説得力のある主張が存在しないことから、採集圧にストップがかかっていないのが現状である。

・そこで、採集圧がトンボを含む絶滅危惧昆虫の個体群絶滅の要因になるかについて、個体群生態学および保全生態学の知見をもとに考察する。

・また、個人レベルの採集行動が全体に及ぼす影響および、絶滅を回避するための行動規範の在り方について、社会心理学を援用して考察する。


採集圧問題の論点

・鈎カッコ内は、インターネット上などで散見される、採集擁護派の主張。
・矢印の右は生方の反問。

論点1 :  「昆虫は産卵数が多いので、個体数回復力が高い。」
     → どんなに個体数が減っても回復するか? 
     → “絶滅の渦” に思いを巡らせたことはあるか?

論点2:  「採集だけで採りつくすことはできない。」
     → 競争種の存在下では、採りつくされなくても
       残党は競争種に打ち負かされるのではないか?

論点3 : 「局所個体群が一時絶滅しても、離れた所にある別の
        個体群から再植民される。」
    → 再植民の確率が低い場合はどうなるか?
    → 生息地の分断化で再植民が絶望的にならないか?

論点4: 「一人での採集個体数は多寡が知れている。」
    → 社会心理学における社会的ジレンマを免れているか?
    → 問題解決を個人の自覚にだけ任せておいてよいか?


生態学からの分析

・採集圧等により、孤立した個体群のサイズがある閾値以下になると、 「絶滅の渦」に陥り、絶滅に向う(プリマック・小堀、1997)(図1)。(論点1

絶滅の渦(プリマック1997) 
図1.「絶滅の渦」の概念図(プリマック  1997)(図はクリックで拡大します)


・ロトカ・ヴォルテラの競争方程式におけるゼロ成長線への死亡率増加の分析結果から、強く競合する生態的同位種が存在する場合、連続的に採集圧がかかる希少種は「ライバル種との競り負け」をきたし、個体数を回復できず、絶滅に向うことが起こりうる。(論点2

・メタ個体群を想定した場合、破壊された生息地が増加すると、「分断化による再植民激減」がおこる結果、最後には(破壊されていない生息地が一部残っているにもかかわらず)、メタ個体群そのものが絶滅する(Bascompte & Sole, 1996)。(論点3


採集圧の社会心理学

・Hardin(1968)が提出した「共有地の悲劇 」の社会的ジレンマ同様、個々人の行動判は合理的であっても、社会的帰結においては破滅的状況をきたしうる。(論点4

・採集圧に若干の罪悪感を感じていたとしても、「少しぐらいならいいだろう」と考えてフリーライダー(杉浦、2016)が出現しやすい。(論点4

・命令的規範、いいかえれば法的規制が、「腐ったリンゴ効果」(大沼、2007) に基づく非環境的行動(絶滅の遠因となる乱獲等)の防止に不可欠(Cialdini et al. 1991)。(論点4

・したがって、個々の行動判断に任せるのではなく、全体を見通した管理システムが必要。(論点4


全体のまとめ

・採集圧は絶滅危惧種の局所個体群を「絶滅の渦」に引きずり込む一因となりうることに言及した。(論点1

・それに加えて、採集圧の結果「ライバル種との競り負け」を招き、絶滅に向う可能性が考えられた。(論点2

・局所絶滅した生息地の増加により「生息地の分断化」の効果が突然強く表れるようになり、メタ個体群そのものが絶滅するという理論に言及した。(論点3

・これらの絶滅プロセスをトンボにあてはめるならば、メタ個体群を構成する局所個体群において環境悪化や採集圧に誘導された種間競争や絶滅の渦により絶滅するケースが増加すると、そのメタ個体群が機能不全に陥り、当該の希少トンボ種の広域的な絶滅が起こりうる。(論点1~3

・個人の行動と社会的帰結の間に存在するジレンマに言及し、絶滅危惧種を採集圧から守るには、個々の行動判断に任せるのでは不十分であり、全体を見通した管理システムが必要であることを指摘した。(論点4


引用文献

・Bascompte, J., and R.V. Sole ( 1996 ). Habitat fragmentation and extinction thresholds in spatially explicit models. Journal of Animal Ecology,. 65:465-473.

・Cialdini, R. B., Kallgren, C. A., & Reno, R. R. (1991). A focus theory of normative conduct: A theoretical refinement and reevaluation of the role of norms in human behavior. Advances in Experimental Social Psychology, 24, 201-234.

・Hardin, G (1968). "The Tragedy of the Commons". Science. 162 (3859): 1243–1248.

・杉浦淳吉( 2016 ).環境。in: 北村英哉・内田由紀子編(2016)『社会心理学概論』、325-341頁。

・大沼 進( 2007 ). 『人はどのような環境問題解決を望むのかー社会的ジレンマからのアプローチ』。ナカニシヤ出版。

・プリマック, R.B. &小堀洋美( 1997;2008 ). 『保全生物学のすすめ』文一総合出版。


★この記事の著作権は著者に帰属します。


☆★☆ ブログランキング(↓):よろしければ両方ともクリックして応援してください。
| 昆虫:多様性・保全 | COM(0) | | TB(-) |
コメント







管理者にだけ表示を許可する