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2018-02-03 (Sat)
赤とんぼシーズン真っただ中の、昨年9月下旬、地元在住の昆虫研究者お二方、多和田潤治さん、松村 雄さん、の御案内のもと訪れた、関東地方の農業地域の水辺を回るトンボ歩き。

今回は、その第二報に続いて、第三の立ち寄り地「樹林沿いの溜池群」からのレポートです。

この立ち寄り地は、低い丘陵地上の樹林帯に接した溜池群で、その周辺に開かれた水田を涵養しています。

写真1はその溜池の一つで浮葉植物のジュンサイが繁茂しています。

溜池(第三の立ち寄り地) 
写真1 樹林に接し、ジュンサイが繁茂する溜池。(写真はクリックで拡大します)

ジュンサイは富栄養化した水域では衰退することが知られています(角野 2014)ので、この池は富栄養化があまり進んでおらず、トンボにとっても棲みやすい池といえそうです。

池の岸辺に生えた木の、葉のおちた水平な小枝の先にアキアカネ Sympetrum frequens (Selys, 1883)♀がとまっていました(写真2)。

アキアカネ♀ 
写真2 アキアカネ Sympetrum frequens ♀

腹部背面だけが綺麗に赤化しています。

ほかに何か変わったトンボはいないかと、少し離れた別の溜池に向って見ました。

私が足を止めたのは、樹林に接した、比較的水が澄んだ感じの溜池(写真3)で、岸近くの底からはハリイかホタルイの仲間と思われる沈水植物が繁茂しています。

ネキトンボの産卵が見られた溜池の一角 
写真3 ネキトンボの産卵が見られた溜め池の一角。

その少し沖合にはジュンサイの浮葉が散在していて、その上空を、翅の基部を鮮やかな黄色に染めた赤とんぼが雌雄連結で飛び回り、水面に♀の腹端を打ち付けています(写真4)。

ネキトンボ連結産卵 
写真4 ネキトンボ Sympetrum speciosum の連結打水産卵

ネキトンボ Sympetrum speciosum Oguma, 1915 の連結打水産卵です。

自由に、軽快に、水面上の直径10m程度の範囲内を飛びまわり、2頭の息ぴったりに繰りかえし下降し、的確な高さとタイミングで水面に♀の腹端を打ち付けます(写真5)。

ネキトンボ連結産卵
写真5 ネキトンボ Sympetrum speciosum の連結打水産卵、同一ペア

もちろん、この打水のタイミングに、♀の生殖口からは少数の受精卵が水中に放たれているはずです。

写真6は、打水直後のカップルで、水面には波紋が残っています。

ネキトンボ連結産卵 
写真6 ネキトンボ Sympetrum speciosum の連結打水産卵、同一ペア

写真7は、打水と打水の間の水平飛行で、このように低いところを飛びながら次の打水のタイミングをうかがっている様子が伺えます。

ネキトンボ連結産卵 
写真7 ネキトンボ Sympetrum speciosum の連結打水産卵、同一ペア

同じ池の水面上の広い範囲を、ギンヤンマ Anax parthenope (Selys, 1839)♂がパトロールしていました(写真8)。

ギンヤンマ♂ 
写真8 ギンヤンマ Anax parthenope ♂のパトロール

赤とんぼ達に目を奪われている私に、「俺のことを忘れるなよ~!」と注文をつけに来たのでしょうか(笑)。

ご心配なく。
そのようなことを口に出さなくとも十分な存在感を漂わす体格と力強い飛び方の持ち主です。

隣接の溜池に移動中、岸辺の枯れ木の先端にはノシメトンボ Sympetrum infuscatum (Selys, 1883) ♀がとまっていました(写真9)。

ノシメトンボ♀ 
写真9  ノシメトンボ Sympetrum infuscatum

少し離れた別の枯茎の先にはノシメトンボ♂がとまっています(写真10)。

ノシメトンボ♂ 
写真10 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum

写真9、10のいずれも、斜め後ろから、腹部にピントを合わせて撮影していますので、この部分における♂と♀の形態や色彩の比較が可能になっています。

♀の腹部第4~7節側面下方の黒斑には、♂のそれにはない淡色斑があることが見てとれます。

別の枯れ枝には、ネキトンボ♂がとまっていました(写真11)。

ネキトンボ♂ 
写真11 ネキトンボ Sympetrum speciosum

腹部や複眼上面の紅色と競い合うかのように、翅基部を濃い橙色に染めて、たいへん鮮やかな印象を与えています。

ネキトンボは私が長く住んでいた北海道には分布していない種ですので、関東に転居後はじめてこの種を観察・撮影した際にはその鮮やかに心を奪われたものです(ブログ未発表)。

少し離れた低木の複葉の垂直な1枚の先端には赤化したアキアカネ ♂がとまっています(写真12)。

アキアカネ♂ 
写真12 アキアカネ Sympetrum frequens

背後方からたっぷりと陽光を浴びて朱色のドレスを引き立たせています。

もう少し移動した先には、ミヤマアカネ Sympetrum pedemontanum (Müller, 1766)  ♂もいました(写真13

ミヤマアカネ♂ 
写真13 ミヤマアカネ Sympetrum pedemontanum

ミヤマアカネは、翅の濃褐色の帯がオシャレなアクセントとなっているだけでなく、翅脈や縁紋まで紅色になり、赤とんぼ村のファッションモデルの資格十分です。

おやおや、溜池の岸の踏み固められた草地の枯れ茎の断片の上にハグロトンボ Atrocalopteryx atrata (Selys, 1853)♀がとまりました(写真14)。

ハグロトンボ♀ 
写真14 ハグロトンボ Atrocalopteryx atrata ♀

華やかな赤とんぼ村の住人達の蔭で、なんという控えめで目立たない体色なのでしょう!

きらきら水が輝く水辺で草の緑を背景にすれば、それなりに存在感はアピールする種なのですが(過去記事「ハグロトンボ:翅打ち合わせ行動の意味は?」参照)。

このハグロトンボ、私がカメラを構えていると、ふわっと飛び上がり、またほぼ同じところにとまりました。
ピントはあっていませんが、飛び立った瞬間の翅がX字に大きく開いたところが撮れました(写真15)。

ハグロトンボ♀ 
写真15 ハグロトンボ Atrocalopteryx atrata ♀、同一個体

池の岸から少し離れた、溜め池の横を通る農道の砂利の上には、ショウジョウトンボ Crocothemis servilia (Drury, 1773) ♂がとまっていました(写真16)。

ショウジョウトンボ♂ 
写真16 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia ♂。

少し暑いのでしょうか、腹端をやや挙上しています。
この姿勢は、体表が受ける陽光の相対角度を減じることで体温調節の機能をもつとされています。

翅の基部が橙色で腹部が真っ赤な点はネキトンボに似ますが、ショウジョウトンボは複眼、胸部、顔面、さらには脚までが真っ赤です。

種の和名が猩々に例えられたのも納得がいくというものです(過去記事「ショウジョウトンボ♂」も参照)。

ショウジョウトンボは、広い意味の赤とんぼに含まれる種の一つですが、アカネ属(別名、アカトンボ属)Symperum ではなくショウジョウトンボ属 Crocothemis に属します。

そこから歩いて別の溜池の岸を見ると、枯草の折れた先端にアキアカネ♀がとまっていました(写真17)。

アキアカネ♀ 
写真17 アキアカネ Sympetrum frequens

今回の赤とんぼ探訪シリーズでは、繰りかえしアキアカネが登場し、いささか食傷気味ですが、この個体はとても色艶よく、凛とした姿で写っているので、敢えて掲載することにしました。

ひとつの溜池の浅い部分に密生した抽水植物(おそらくカンガレイSchoenoplectus triangulatus)の茎(棹)に爪をかけて、アジアイトトンボ Ischnura asiatica (Brauer, 1865) が交尾していました(写真18)。

アジアイトトンボ交尾 
写真18 アジアイトトンボ Ischnura asiatica 交尾。 

♂、♀とも、この抽水植物の葉の縁のギザギザのえぐれ(食痕と思われる)に脚の爪をかけて体を支えています。
えぐれのない縁とくらべて滑りにくいでしょうから、このとまり場所の選択は納得がいきます。

深度合成機能をもたないカメラでの斜め上方からの撮影のため、♂♀同時にピントを合わせることができませんでした。

というわけで、♀の頭部・胸部にピントのあった写真も掲げておきます(写真19)。

アジアイトトンボ交尾 
写真19 アジアイトトンボ Ischnura asiatica 交尾(同一ペア、♀にピント)。

同じ植物群落の見通しのよい水面近くにはアジアイトトンボの単独♂が2頭、互いに離れてとまっていました。
♀がやってきたら交尾しようと待ち構えているのに違いありません。

※アジアイトトンボについて、当ブログの過去記事には以下の関連記事があります。
 よろしければクリックしてご笑覧ください。

同じ植物群落の草の先端に、ノシメトンボ♀もとまっていました(写真19)。

ノシメトンボ♀ 
写真19 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum

今回の赤とんぼ探訪ではノシメトンボもやや食傷気味ですが、めずらしく頭部から腹端までピントが合っていて、腹部正中線が黒色を呈していることもよくわかりますので掲載しておきます。

溜池巡りをもう少し続けていると、円弧状に曲がりながら水面に突き出した枯草の茎にアキアカネ♀がとまり、沖合を眺めていました(写真20)。

アキアカネ♀ 
写真20 アキアカネ Sympetrum frequens ♀

この♀は、写真2、写真17のアキアカネ♀と比べて、腹部背面もほとんど赤化していません。
色彩の個体差の実例として掲げておきます。

溜池の岸の草にはモノサシトンボ Pseudocopera annulata (Selys, 1863) ♂がとまっていました(写真21)。

モノサシトンボ♂ 
写真21 モノサシトンボ Pseudocopera annulata ♂

モノサシトンボは、当ブログの過去記事に2,3回、準主役で登場していて、「奥の蜻蛉道(4):アマゴイルリトンボとの出会い」では、♂、♀それぞれの写真を掲載しています。

このあたりで、多和田さんから「そろそろ次の観察地へ移動しましょうか」との声がかかりました。

この第三の立ち寄り地での赤とんぼ探訪は、ギンヤンマやハグロトンボ、アジアイトトンボ、モノサシトンボといった脇役にも恵まれ、実りのあるものとなりました。

この立ち寄り地でのアカネ属の種のカウントは4種となり、そのうちのネキトンボはこの日初確認でした。

第一・第二の立ち寄り地と合せたアカネ属の種の確認数は7種となりました。

更に、この訪問地で確認した別属の赤とんぼであるショウジョウトンボを加えれば、この日、8種の赤とんぼと会えたことになります。

第三の立ち寄り地では、5科9種のトンボを短時間に確認できました。
このことは、この溜池群が第一・第二の立ち寄り地に比べて水辺環境の多様性も高く、トンボにとってまだまだ好適な環境を維持していることの証左となるでしょう。

ただ、これら溜池群のうちの一つの池で、私の観察・撮影中にも釣り人が2人来ていて、釣り糸の遠投を繰り返していましたので、なんらかの外来魚が放流されていた可能性も考えられ、トンボたちの生息地が徐々に悪化していくことも懸念されました。

トンボだけでなく、多くの在来種の存立を脅かす特定外来種のこれ以上の拡散を抑制するには、この問題の深刻さを洗い出し、多くの人に認識してもらうことも必要であり、当ブログでも可能な限りそのことに取り組んでいきたいと思います。

謝辞:
現地にご案内いただいた、多和田潤治さん、松村 雄さんに感謝いたします。

引用文献:
角野 康郎(2014)「日本の水草」文一総合出版。



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