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2018-02-08 (Thu)
昨年9月後半の河川中流部の池沼群(関東地方)へのプチ遠征で、10種のトンボが観察され、少し興味深い行動も見られましたので報告します。

この湿地は河川の堤防沿いにあり、大小の浅い池沼が散在しているところで、周辺は水田地帯になっています。
河川の後背湿地に起源を持ち、周辺が農地化された後も自然な植生に近い状態を残している池沼と考えらえます。

写真1はそのうちの一つの小さな池で、岸辺沿いには草刈りが行われた形跡があります。

河川中流部の湿地(1) 
写真1 トンボの観察された池。後背湿地のうちの一つ(写真はクリックで拡大します)

この周辺には、写真1と同様のたたずまいの池がいくつか散在していて、時おりトンボの舞う姿が見られます。

そんな中、最初の被写体になったのは、アオイトトンボ Lestes sponsa (Hansemann, 1823) の産卵ペアです(写真2)。

アオイトトンボ連結産卵 
写真2 アオイトトンボ Lestes sponsa の連結産卵

♂♀ともに抽水植物にバランスよくとまり、♀は産卵管を突き立てて卵を産もうとしています。

写真3は同じカップルを背面から写したものです。

アオイトトンボ連結産卵(2)
写真3 アオイトトンボ Lestes sponsa の連結産卵(同一カップル)

♀の腹端が右に100度ほど捻じれています。
うまく卵を産むことに難儀している雰囲気が漂っています。

同じような産卵中の♀の腹端数節の極端な捻じれは、グンバイトンボ Platycnemis foliacea Selys, 1886 でも観察・撮影し、ブログ記事では捻じれが生じた原因の考察も添えました(当該過去記事はこちら)。

アオイトトンボ産卵の観察は途中で切り上げて、少し移動すると、ヨシの葉の上にノシメトンボ Sympetrum infuscatum (Selys, 1883) ♀がとまっていました。

更に移動すると草むらでアオイトトンボ♀が小さな昆虫をつかまえて食べていました(写真4)。

アオイトトンボ♀の捕食 
写真4 捕食中のアオイトトンボ Lestes sponsa 

沢山卵を産んでお腹が空いたのでしょうか、ムシャムシャと噛み砕く音が聞こえてきそうです。

近くの一つの池のはずれに細い水路があり、その水面にハグロトンボ Atrocalopteryx atrata (Selys, 1853)♀が息絶えて浮かんでいました(写真5)。

ハグロトンボ♀の死骸
写真5 ハグロトンボ Atrocalopteryx atrata♀の死骸

ピントはとても甘く、証拠写真にしかなりませんが、翅に汚れや小さな傷が見てとれることから、成熟し、おそらく交尾産卵も何度か経験した個体であったことを推測させるには十分です。

その意味で、このなきがらは、虫の一生をやり遂げ、思い残すことがなかったとつぶやいた後の姿にも見えてきます。

この後、このハグロトンボの遺骸はアメンボ等の餌食となり、生態系の中に返礼品としての有機物、無機塩類を捧げることになります。

同じ水路の水面上に水平に突き出した細い枯れ茎に、ハグロトンボ♂4頭が同じ方向(対岸方向)を向いてとまっています(写真6)。

ハグロトンボ♂ 
写真6 同じ向きでとまるハグロトンボ Atrocalopteryx atrata ♂ 4頭

もちろん、どの♂も、ここにやってくる♀を待ち受けているに違いありません。
これらの♂間で短時間の追い合いも見られましたが、どれか1♂が独占的な なわばり を占有するまでには至らない状況のもとでのこの「集団待機」なのでしょう。

産卵基質を含む好適な なわばり場所が相対的に不足し、そのため♂の込み合いが生じ、追っても追っても侵入が繰り返されるため、防衛コストが交尾獲得による利益(ベネフィット)を上回ってしまうという状況下ではこの集団待機という戦術は短期的にはベストチョイスになります。

この仮説をテストするには、この場所に何度も通い、じっくり時間をかけて記録をとりながら観察し、コストや利益をも計測する必要があります。

どなたか、いかがでしょう?

その水路を離れて移動し、別のやはり細水路沿いを歩くと、草の葉にアジアイトトンボ Ischnura asiatica (Brauer, 1865) ♂がとまっていました(写真7)。

アジアイトトンボ♂
写真7 アジアイトトンボ Ischnura asiatica 

沼辺の抽水植物の折れた先端にはアキアカネ Sympetrum frequens (Selys, 1883) ♂がとまっています(写真8)。

アキアカネ♂ 
写真8 アキアカネ Sympetrum frequens 

少し移動しながら別のトンボを探していると、草むらの折れた枯れ茎の先端に、シオカラトンボ Orthetrum albistylum (Selys, 1848) ♂がほぼ水平にとまり、同じ茎の少し下方にはアオモンイトトンボ Ischnura senegalensis (Rambur, 1842) ♂が鉛直にぶらさがっていました(写真9)。

シオカラトンボ♂とアオモンイトトンボ♂
写真9 シオカラトンボ Orthetrum albistylum ♂とアオモンイトトンボ Ischnura senegalensis 

告白すれば、このアオモンイトトンボには撮影時点には気づかず、帰宅後の写真現像の際に気づきました。

このアオモンイトトンボに忍者の素質があるのか、それとも私の視力あるいは認知力が低下してきたのか、その答えは言わないのが花でしょう(笑)。

一つの池のほとりの草の先端に、ナツアカネ Sympetrum darwinianum Selys, 1883 ♂がとまっていました(写真10)。

ナツアカネ♂ 
写真10 ナツアカネ Sympetrum darwinianum 

胸部側面や顔面が写っていいないので、種の同定は慎重にならざるをえませんでしたが、腹部・胸部の赤味、腹部の黒斑の特徴、尾部付属器のおよその形状で判断できました。

少し移動すると、池から突き出たヨシの葉にぶらさがり、ノシメトンボ Sympetrum infuscatum (Selys, 1883)交尾をしていました(写真11)。

ノシメトンボ交尾
写真11 ノシメトンボの交尾

体色に赤味のある♂と比べて地味な色彩の♀ですが、胸部側面の虎縞模様のアクセントがくっきりしていて、意外にお洒落に見えます。

また少し移動すると、池の浅い所の抽水植物の茂みの間を縫うように連結打水産卵しているアカネ属の連結ペアがいました(写真12~14)。

写真13~14を現像し、拡大して見ることで、主に♂顔面の青白い特徴からマイコアカネ  Sympetrum kunckeli (Selys, 1884) と同定できました。

マイコアカネ連結産卵(1)
写真12 マイコアカネ  Sympetrum kunckeli 連結産卵 (コントラスト調整後)

マイコアカネ連結産卵(2) 
写真13 マイコアカネ  Sympetrum kunckeli 連結産卵同一ペア(コントラスト調整後)

マイコアカネ連結産卵(3)5マ
写真14 マイコアカネ  Sympetrum kunckeli 連結産卵、同一ペア(コントラスト調整後)

この連結ペアは静止画のほかに、短時間の動画2本も撮影しました。

その動画を再生して打水のリズムをカウントしたところ、1本は14秒間に17回、もう1本は10秒間に13回、いずれもリズミカルに打水していました。

14秒のほうは後半で(小移動のため)打水と打水の間が少し空いたため、平均打水間隔がやや長くなりました。

以上、写真1の小さな池やそれに似た景観のいくつかの小さな池、そして細い水路や草むらでの観察で、9種のトンボが確認できました。

それらの小池群から少し離れたところに、かなり水面が広く残された浅い沼がありました(写真15)。

河川中流部の湿地(2) 
写真15 大型の抽水植物を伴う広く浅い沼

この写真15の沼に私が近づいた時です。
ヤンマが頭上高くを飛び過ぎたかと思うと、急降下し、沼縁の草の藪の中に突き刺さりました。

どこに行ったかと、そっと近づいて見ると、草間越しに黄緑系のヤンマの姿がありました(写真16)。

カトリヤンマ♀ 
写真16 カトリヤンマ Gynacantha japonica ♀ (コントラスト調整後)

帰宅後、現像中の写真と図鑑を見比べたところ、カトリヤンマ Gynacantha japonica Bartenev, 1910 ♀であることがわかりました。

拡大してみると、両方の複眼に♂が連結の際に尾部付属器で把持した時にできる小さな疵が残っていることがわかります。

このことから、この♀は交尾・産卵をしたことがある個体である(可能性が高い)ことがわかります。

現地では、このまま産卵でもしてくれるのかと期待して観ていたのですが、まもなく舞い上がって視界の外に消えていきました。

この後、この広い沼の中に胴付長靴(ウェーダ―)を着用して入り、はまらないように慎重に一歩一歩、歩きながら抽水植物ゾーンで活動しているトンボを探しました。

それにより、この沼でもアオイトトンボ連結、アジアイトトンボ♂、ナツアカネ、シオカラトンボを確認することができました。

もっと大物のトンボも期待していたのですが、曇り空の天候、訪れる季節や時刻の選択の甘さもあってか、淡い期待に終わりました。

とはいえ、この後背湿地一帯での短時間の観察で、5科10種(うちアカネ属4種)のトンボを確認でき、とりわけマイコアカネ産卵や当ブログ初登場のカトリヤンマに遭遇できたのはラッキーでした。

次回記事では、秋の四国路トンボ巡礼記(その1)と題して中々興味深いトンボたちをご紹介する予定です。

お楽しみに。


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