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2018-03-11 (Sun)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征では、初対面の種を含む多くのトンボとの出会いがありました(関連記事はこちら)。

第三報の今回は、赤とんぼシリーズの続きとして、北海道から九州まで普通に見られるノシメトンボ Sympetrum infuscatum (Selys, 1883)をとりあげます。

というのも、連結打空産卵という、少々ソフィストケートされた産卵行動をカメラに収めることができたからです。

ノシメトンボについては、これまでに10件超の過去記事で取り上げていますが(記事一覧はこちら)、産卵をじっくり観察できたのは今回が初めてでした。

観察地は、前回、前々回記事と同じで、最初に訪れた、やや大きめの溜池(溜池A)(写真1)です。

溜池その1 
写真1 最初の観察地(溜池A)(再掲)。(写真はクリックで拡大します)

この池のトンボ生息地としての特徴については、前々回記事で簡単に紹介しています。

この池の堤体沿いの岸で、私が他のトンボの観察をしていた時(10時40分過ぎ)のことでした。

沈水植物が繁茂した遠浅の水面上空を、ノシメトンボの連結ペア1組(写真2)がリズミカルに体を上下に振りながらホバリングしています。

ノシメトンボ連結産卵
写真2 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア

写真2を拡大してみると、♀(写真の向って左)の右前翅と右後翅の間の先端近くに白い点が写っています(写真3)。

ノシメトンボ連結産卵、拡大 
写真3 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(写真2の拡大)

そうです。
白い点は、この♀が産み落とした卵です。

以下、時系列を乱すことなく、特記すべきシーンの写真を掲げます。

次の写真4では、♀の腹端部下面に白い粒が写っています。

ノシメトンボ連結産卵 
写真4 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

この白い粒も卵です。
♀の生殖孔周辺からまさに振り落とされようとしています。

この写真では、♀は体ごと下前方に振り出していて、更に腹部先端も下前方にカーブ気味です。

このように、体後端を強く下向きに振ることで、卵を粘着力の拘束から振り切らせ、水面に向って飛ばすことを、より確実にするのでしょう。 

このとき、♀は全身の下前振りを翅の打ち方で、腹部のカーブは腹節間の縦走筋で、コントロールしているはずです。

※打空の際の♂の役割については、本記事後半に掲載する動画1の分析に基づく文章をご覧ください。

写真5は、打空と打空の間のペアで、♀の体軸がより水平に戻っています。

ノシメトンボ連結産卵 
写真5 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

この後も打空を繰りかえしていて、写真6は打空と打空の間の1カットですが、♂♀とも体軸がほぼ水平になっています。

ノシメトンボ連結産卵 
写真6 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

写真7では、♂♀とも写真4よりも顕著に体軸を後傾し、♀は腹端をカーブさせ、打空しています。

ノシメトンボ連結産卵 
写真7 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

♀の腹端が打空の瞬間だけ下前方にカーブするのは、野球のピッチャーが球を離す直前にスナップをきかせて球速を付け加えるのと似ています。

このように、確実に1個1個の卵をバラバラ撒きながら産むのは、落下先での卵の空間的集中を避けることで捕食のリスクを分散し、トータルの生存率を上げるという適応価を持つからだと思われます。

スナップを効かせる動作についても、筋収縮のためのエネルギーを消費することになりますから、そのコストを上回るベネフィット(利益)が得られたからこそ、この動作が進化したと考えられます。

写真8はまた別の打空を撮ったものですが、写真7とほぼ同一のステージが写っています。

ノシメトンボ連結産卵 
写真8 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

というより、写真8のほうが写真7よりも更に体軸が後傾していて、打空動作のマキシマムにより近いことを示しています。

撮影データから、写真2から写真8までの間に6秒(不掲載の写真データを含めると8秒)が経過していることがわかりました。

背景の水草がずーっと同一の枝であることから、少なくとも8秒もの間、この連結ペアが空中のほぼ一点でホバリングしながら、打空を繰り返していたことがわかります。

もちろん、この大きな池で空中の一点だけで産卵して終わりというわけではありません。
しばらくすると少し移動してまた同様の打空を繰り返します。

写真9はペアが少し体軸の向きを変えています。

ノシメトンボ連結産卵 
写真9 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

写真2~8の位置から、そろそろ場所を替えようとしているのかもしれません。

♀の腹先には卵が見えていますので、打空産卵しながら向きを変えていることになります。

写真10は、私から少し遠ざかった水面上で打空している当該ペアです。

ノシメトンボ連結産卵、別ペア 
写真10 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum 連結ペア(同一ペア)

写真2~9を眼下で撮影していた際のISO(2000)と絞り(f=5.6)の設定のままで撮影したため、池の面がより広く写った写真10では、大幅な露出オーバーになってしまいました。

それをパソコン上で極端な輝度調整を行った画像であるため、背景の水草や水面の色はやや不自然になっています。

ですが、写真2~9と比べて、横からの姿を捉えている1枚なので敢えて掲載します。

結局、この連結ペアを約6分間カメラレンズで追い続けた後、しばらくは別の種のトンボを観察しました。


産卵行動の動画も撮影

12時10分から1・2分の間、別のノシメトンボ連結ペアの産卵が同様に観察されました。
その様子を動画に撮影したものをYoutubeにアップしました(動画1)。

動画1の説明:Mirror image on the pond surface of tandem oviposition into the air by Sympetrum infuscatume. ノシメトンボの連結打空産卵(水面の鏡像)。

残念ながらというか、写っていたのは池の水面の鏡像で、ノシメトンボそのものを直接捕えた動画ではありません。

それでも、産卵のリズムや動作を捉えることは可能なレベルに何とかとどまっています。

この動画を再生し、打空リズムを調べてみると、8秒間に11回打空していることがわかります。
また、打空の際に♂が体軸を後傾させることで♀が体ごと下方に振られること、♀も積極的に体軸を後傾させ、腹端部を下方へにカーブさせる動作を加えていることが見てとれます。

この動画からは、♂の翅の振動が、♀のそれよりも小刻み(つまり振動数が高い)であることもわかり、ペアの空中での動きや姿勢を♂がより強くコントロールしていることを示唆しています。

産卵リズムのテンポの同属種間比較、そのテンポの持つ意味については、前回記事(オオキトンボ)で取り上げ、比較しています。


何思う単独♂

ノシメトンボの連結打空産卵の観察・撮影を終えた後は、次から次へと登場するこの池の多様なトンボたちの姿に目を奪われました。

そんな中、ふと岸辺の草むらに目をやると、枯草の折れた茎の頂点にノシメトンボ♂がとまっていました(写真11)。

ノシメトンボ♂、後ろ姿 
写真11 ノシメトンボ Sympetrum infuscatum ♂ (別個体)

向こう向きにとまっていて、特徴がわかりにくいのですが、腹部の赤い色の色調や黒斑のパターンからノシメトンボ♂であると判定できます。

とまっているトンボの後ろ姿を見ると、「何を思っているの?」と声をかけたくなります。

溜池Aでのノシメトンボの観察はこうして、終了しました。

次回記事では、溜池Aで見られた残りの赤とんぼの種を取り上げます。


謝辞:
現地に案内して下さった飯田さん、生息地の解説をされた高橋さんに謝意を表したいと思います。


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