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2018-03-21 (Wed)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征では、初対面の種を含む多くのトンボとの出会いがありました(関連記事はこちら)。

第六報の今回は、最初に訪れた生息地(溜池A:写真13)で観察された、タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax (Hagen in Selys, 1854)(サナエトンボ科)をとりあげます。

脇役として、 アオイトトンボ Lestes sponsa (Hansemann, 1823)(アオイトトンボ科)にも登場してもらいます。


目 次:
 ◆タイワンウチワヤンマとの再会
 ◆「ちょっと邪魔だネ、アオイトトンボさん」
 ◆私とタイワンウチワヤンマ
 ◆タイワンウチワヤンマの北上・東進
 ◆アオイトトンボをじっくり眺める
 ◆最初の訪問地の景観
 ◆謝辞
 ◆引用文献


タイワンウチワヤンマとの再会

本シリーズ第三報で取り上げた、ノシメトンボの連結打空産卵の撮影を一通り終えた後(午前10時51分)、岸辺に目をやると、折れた草の上にタイワンウチワヤンマ♂がとまりました(写真1)。

タイワンウチワヤンマ♂ 
写真1 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax  ♂。輝度調整後(以下同様)。(写真はクリックで拡大します)

きちんと畳んだ前脚を複眼の後に立てるように格納し、中脚と後脚でガマ属 Typha と思われる草の葉の折れ目にとりすがっています。

少し違った角度からの撮影を狙って、私が被写体に向って少し右に移動してから撮ったのが、写真2です。

 タイワンウチワヤンマ♂
写真2 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax  同一個体)。(撮影者の位置を向って右に移動後)。

引き続きカメラを向けていると、おやおや、この♂はとまったまま、体軸の向きを少しずつ変えました(写真3~5)。

タイワンウチワヤンマ♂ 
写真3 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 同一個体)

タイワンウチワヤンマ♂ 
写真4 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 同一個体)

最終的に、写真2の位置から(上から見て時計回りに)約135度回転するように、向きを替えました(写真5)。

タイワンウチワヤンマ♂ 
写真5 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 同一個体)

この♂は、結果として、ファッションショーでのモデルのように、あらゆる角度からの姿を、観察者(たち)に見せてくれたことになります。

トンボにとってのこの回転の目的は、この狭くやや不安定なとまり場所で、少しでも座り心地のよい態勢をとろうとしたためではないでしょうか。


「ちょっと邪魔だネ、アオイトトンボさん」

ようやく落ち着いたのも束の間、こんどはすぐ横にアオイトトンボの連結ペアがとまりました(写真6)。

タイワンウチワヤンマ♂&アオイトトンボ連結ペア 
写真6 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 同一個体)アオイトトンボ Lestes sponsa 連結ペア

このときの、トンボのバタつきで、トンボたちが載っている葉がフワフワと揺れたであろうことが、タイワンウチワヤンマの乗っている葉の、折れ目部分の開き具合の違い(写真6写真7)などから伺われます

タイワンウチワヤンマ♂&アオイトトンボ連結ペア 
写真7 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 同一個体)アオイトトンボ Lestes sponsa 連結ペア同一ペア)

この予期せぬ同席は、アオイトトンボ連結ペアにとっても、かなり居心地が悪そうに見えます。
ペアにとっても、この場所に留まる理由はあまりなさそうです。

写真8は同じ池の岸ですが、枯れかけた植物の茎の折れた先端分にバランスよくとまるタイワンウチワヤンマ♂です(11時22分)。

タイワンウチワヤンマ♂ 
写真8 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 同一個体)

写真8の撮影時点は、写真7の30分後ですが、右前翅の破損状態が一致したので、どちらも同じ個体であることが判明しました。

もしかすると、アオイトトンボトンボ連結ペアよりも先に、このタイワンウチワヤンマ♂のほうが写真7までのとまり場所から移動したのかもしれません。


私とタイワンウチワヤンマ

今回記事の最初の小見出しを「タイワンウチワヤンマとの再会」とした理由は、私が27年前の本場台湾での海外調査の際に、台北県の内双渓で初めて対面し、標本も採集していたからです(7月下旬;数日後に日月潭でも採集;生方ほか 1992)。

この台湾調査では、前回のブログ記事で取り上げたハネビロトンボも記録しています(ただし、標本は調査団長であった東和敬博士が採集)。


タイワンウチワヤンマの北上・東進

タイワンウチワヤンマは、日本列島で北上を続けているトンボの種の一つとして、よく知られています。

私は、地球温暖化が国際問題化しはじめた当時、『温暖化に追われる生き物たち―生物多様性からの視点』(堂本・岩槻編)という本で、一つの章「地球温暖化の昆虫へのインパクト」(生方 1997)の執筆を担当しました。

その中で蝶やトンボを中心に国内外での昆虫分布への温暖化の影響の事例を取り上げましたが、タイワンウチワヤンマはその中で日本において北上する南方系トンボの顕著な例として取扱いました。

その中で、本種が1970年代に四国から瀬戸内海を越えて岡山県や紀伊半島に分布を拡げ、1990年代前半には大阪平野を越えて琵琶湖まで到達していることを、主に青木典司氏の論文(Aoki 1997)に依拠して、紹介しました。

本種は、その後も北上を続けており、『日本のトンボ』(尾園ほか 2012)の分布地図では、瀬戸内海沿岸、紀伊半島沿岸、伊豆半島以西のの東海地方沿岸、島根県以西の日本海沿岸まで分布が拡大していることがわかります。

互井賢二氏の報文(互井、2018)によれば、神奈川県や東京都ではすでに本種の生息が確認されていて、千葉県でも今年(2018年)中に確認される可能性があるとのことです。

青木氏のブログ記事(青木 2017)に掲載されている、本種の10年単位の分布域の拡大のgifアニメ(図1)を見ると、瀬戸内海を越えてからの本種の分布拡大は、北上というより、むしろ東進と表現したほうがピッタリな変化となっています。

上記ブログ記事(青木 2017)では、本種の分布拡大の原因として、以下の5つの対立仮説を並列させ、それぞれについてデータと照らして検討しています(仮説に番号をつけたのは引用者)。

(1)開発により、広大な開水面を持つ止水域が誕生することで分布が拡大した。
(2)(北上しつつある個体群が)より気温の低い地域に適応できるように変化した。
(3)種間競争など,別の分布を制限する要因の障壁がなくなって分布拡大が可能になった。
(4)(本種は)開けた平地を好む種であることから、(海岸線づたいに)分布拡大した。
(5)分布拡大は温暖化によって引き起こされた。

その結果、青木氏は、過去100年の気温変動による等温線の北上や、現在の等温線と本種の分布境界の一致などから、温暖化原因説(つまり対立仮説5)が妥当であると結論しています。

そして、全国的に,本種の分布の最前線(日本における北限)に一致する(1993年~1994年の)冬期の等温線は、約5.7℃の線であったとのことです(青木 2017)。

幼虫の温度耐性や成長速度、成長可能期間の長さなどのについても検討を加えた青木氏のこの論考は、なんでもすぐに温暖化のせいにするのではなく、科学的で冷静な観点に照らすことの必要性を見事に示しています。

それはそれとして、温暖化が環境破壊、環境汚染とともに生物多様性を大きく損なう要因になっている現実に対して、目を反らすことなく、その原因を抑制していく方向で努力し続けることも大切だと私は思います(自戒をこめて)。


アオイトトンボをじっくり眺める

今回記事の写真6,7アオイトトンボが登場しましたので、この日、この池(溜池A)で撮影した他のアオイトトンボについても描写しておこうと思います。

まずは、沈水植物帯の水面に突き出した枯れ枝の先にとまる、独身のアオイトトンボ♂です(写真9)。

アオイトトンボ♂ 
写真9 アオイトトンボ Lestes sponsa ♂ 別個体(輝度調整後、以下同様)

水面上、それほど高くない位置の枯れ枝の先にほぼ水平にとまっています(10時44分)。

露出オーバーとなってしまった写真の、輝度を調整した写真ですので、コントラストが不自然にきつくなっています(ご容赦を)。
 
同じ個体を別の角度から撮影したものをトリミングしてみました(写真10)。

アオイトトンボ♂ 
写真10 アオイトトンボ Lestes sponsa ♂ (写真9と同一個体、トリミング)

6本の脚の棘の生えた跗節でしっかりと細枝をつかんでとまっています。

前脚、中脚は細枝を左右から挟むように、後足は枝の下面に押し当てるようにして、体の水平位を保たせています。

このアオイトトンボをしばし眺めていると、前胸背板の前後幅の大きさに、やや違和感を覚えます。
まるで長い首を大袈裟な詰襟で被っているかのようです。

この違和感は、私が、これまでの一連のシリーズ記事の制作過程で、不均翅亜目のトンボの写真ばかりを眺めていたせいではあるのですが。

♀の前胸背板は均翅亜目(イトトンボ、カワトンボなどの仲間)が雌雄連結する際に、♂が尾部付属器で左右から挟んで掴む箇所ともなっています。

異常連結の場合は、♂のこの前胸背板が、別の♂の尾部付属器で掴まれることもあります。

写真11は、岸のヨシか何かの枯れ茎にとまる、アオイトトンボ連結ペアです(10時28分)。

アオイトトンボ連結ペア 
写真11 アオイトトンボ Lestes sponsa 連結ペア (写真10とは別個体)

この連結ペアの♀の、頭部・胸部をトリミングしたのが、写真12です。

アオイトトンボ連結部分拡大
写真12 アオイトトンボ Lestes sponsa 連結ペア(写真11をトリミング)

♂の尾部付属器と♀の前胸背板の、がっちりした結合状態が見てとれます。

現生のトンボの祖先が、このような結合を、少なくとも2億5千万年前から行っていたことに思いを巡らせると、これらの生き物を高々数千年の経済活動の結果、滅亡させつつある人類の愚かさに気づかされます。


最初の訪問地の景観

最後になりましたが、毎回掲載している最初の訪問地である溜池Aの写真を、今回も文末に掲げます(写真13
)。

溜池その1 
写真13 最初の観察地(溜池A)(再掲)。

溜池Aのトンボ生息地としての特徴については、本シリーズ第一報で簡単に紹介しています。

本シリーズ、次回記事では、ムスジイトトンボを取り上げる予定です。


謝辞:
現地で案内して下さった飯田貢さん、高橋士朗さん、他の皆さんに謝意を表したいと思います。


引用文献:

Aoki, T.(青木典司)(1997) Northward expansion of Ictinogomphus pertinax (Selys) in eastern Shikoku and western Kinki Districts, Japan (Anisoptera: Gomphidae). Odonatologica 26, 121--33. 

青木典司(2017)温暖化? 北上するタイワンウチワヤンマ。神戸のトンボ(ブログ)。http://www.odonata.jp/04topics/Ictinogomphus_pertinax/index.html (更新:2017.01.03 12:00)

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

互井賢二(2018)ベニトンボの北上のこと.ト ン ボ 通 信, (138):1-5.房総トンボ研究所。

生方秀紀(1997)「地球温暖化の昆虫へのインパクト」堂本・岩槻編『温暖化に追われる生き物たち―生物多様性からの視点』。築地書館。273-307.

生方秀紀、東 和敬、野間口真太郎、朱 耀沂(1992 )台湾の北部・中部の森林生態系におけるトンボ類の生態分布(I) 1990年度のトンボ目採集記録。Tombo, 35:57-61。


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