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2018-04-07 (Sat)
2017年9月末から10月初めにかけての四国遠征で、最初に訪れた生息地(溜池A写真12)では、本シリーズ(関連記事はこちら)第七報までに列挙したように、5科13種のトンボの成虫(そのうち初対面3種;文末リスト参照)に出会うことができました。

第八報の今回は、溜池Aから掬い上げられたトンボ目の幼虫(ヤゴ)3種を取り上げます。


目 次:
 ◆トンボ目生息調査と採集・撮影
 ◆溜池Aにはどんなヤゴが?
 ◆タイワンウチワヤンマの幼虫
 ◆タイワンウチワヤンマ幼虫に不思議な穴!? → 正解は小型のミズムシ類
 ◆トラフトンボの幼虫
 ◆ショウジョウトンボの幼虫
 ◆今回の幼虫同定の根拠
 ◆生活史の中の幼虫
 ◆最初の訪問地溜池A
 ◆溜池Aで今回の訪問で観察されたトンボ目のリスト(学名省略)
 ◆引用文献
 ◆謝辞
 ◆引用文献


トンボ目生息調査と採集・撮影

一般的にいって、トンボ目を含むどの生物に関しても、生態や生息状況の観察には、種の正確な同定が大切です。

かつては、カメラの性能も不十分でしたし、フィルム代がかさみますので、種の同定のためには、(見慣れた種を除いては)サンプル個体を採集して、標本用に持ち帰ることが不可欠でした。

しかし最近では、トンボの成虫については、ネットを使わずとも、性能のよいデジタルカメラ(+望遠・マクロレンズ)で撮影すれば、定評あるトンボ図鑑(浜田・井上 1985、杉村ほか 1999、尾園ほか 2012)と照らし合わせることで、画像によりほとんどの種の同定が可能になっています。

ですので、(成虫の場合には)新記録種あるいは新奇な形態変異に遭遇した場合等を除いては、種個体群の維持の観点から、不必要な採集は自制することが推奨されます。

一方、幼虫の生息調査のためには、水中カメラを駆使しない限り、たも網等で掬い上げることが不可欠ですし、その上で、標本用に持ち帰るか、または生きたままの姿をいくつかの角度からカメラで接写する必要があります。


溜池Aにはどんなヤゴが?

今回の私の遠征は、地元の熱心な昆虫研究者・愛好家のグループ(ここでは「松山探虫団」(仮称)と呼ばせてもらいます)による、溜池のトンボ生息状況調査にゲスト参加させてもらうことで実現したものです。

この日の「松山探虫団」メンバーの1人、武智礼央さん(昆虫研究者;『愛媛のトンボ図鑑』[かわうそ復活プロジェクト、2013]の共著者)は、溜池A で、他のメンバーがデジカメ&肉眼で観察する中、たも網による水生昆虫生息状況調査に没頭しておられました。

おやおや、何かの生き物が採れたらしく、団員が集まっています(写真1)。

溜池で水生昆虫を調査中のメンバー 
写真1 掬った幼虫をチェック中の武智さんほか探虫団メンバ―。(写真はクリックで拡大します)

「どれどれ」と、私も覗きにいきました。

写真2からわかるように、手前から大、中、小3種類、各1個体のヤゴが、一緒に掬われた落葉屑、水草屑の中から掻き出されていました。

溜池で調査メンバーが掬ったトンボ幼虫
写真2 武智さんがこの時に掬い上げた溜池Aのトンボ幼虫

その場で武智さんの許可を得て、網の中で運命の時(?)を待つヤゴたちの写真を数枚撮影させてもらいました(写真2~8)(写真の当ブログへの掲載も快諾されました)。


タイワンウチワヤンマの幼虫

これらヤゴ3個体の中で、一番大きいヤゴが、写真3~4です。

タイワンウチワヤンマ幼虫 
写真3 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫

主に杉村ほか(1999)の図鑑を参照して、写真3、4のヤゴを、タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax (Hagen in Selys, 1854)と同定しました。

同定の根拠については、本記事の後半の「今回の幼虫同定の根拠」のところで記述します。

写真3から判断できることを、以下に列挙してみます。
・全体に厚くて丈夫そうなクチクラに覆われている。
・触角は鞭状ではなく、棍棒状。
・ただし、先端の節がヘラ状に幅広く広がってはいない。
・後頭部は前後幅があり、後ろに向ってあまりすぼまらず、側面後端が角張っている(ただし、角は丸みがある)。
・脚はそれほど長くなく、第7腹節の中間くらいまでの長さ。
・腹部は幅広く、背面から見て楕円形をしていて、第8腹節の側棘が判別できる。
・背棘の有無は判別困難。

写真4も同じ個体です。

タイワンウチワヤンマ幼虫 
写真4 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫(同一個体)

写真4では、背棘は少なくとも4~7節の後縁中央に存在するように見えます。

また、側棘は7~9節の後側端にあるように見えます。


タイワンウチワヤンマ幼虫に不思議な穴!? → 正解は小型のミズムシ類

 注記:この部分は4月8日および9日に記事初版から一部書き換えました。小見出しも末尾に「? → 正解は小型のミズムシ類」を加筆しています。

すでにお気づきの方もおられるかもしれませんが、このタイワンウチワヤンマ幼虫の腹部第8節
から第9節の前端にかけての中央やや左に、ヤゴの表皮(クチクラ)、さらには体の内部まで、円形にくり抜かれているように見えます(写真5~6)。

タイワンウチワヤンマ幼虫の腹端部(穴が開いている) 
写真5 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫写真3の部分拡大)

写真5では、その円い「穴」を通して、背景のたも網のメッシュが覗いているようにも見えます。

タイワンウチワヤンマ幼虫の腹端部(穴が開いている) 
写真6 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫写真4の部分拡大)

写真6では、少し後方からの撮影のためか、円形の「穴」の内側に、ヤゴの体内の白っぽい肉質部が覗いているように見えます。

写真7は、同じタイワンウチワヤンマ幼虫ですが、「穴」の位置からみて別個体であることがわかります。

タイワンウチワヤンマ幼虫の腹端部(穴が開いている) 
写真7 タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax 幼虫別個体の部分拡大)【付記:穴ではなく付着したマルミズムシということになれば、それはスライド可能なので、タイワンウチワヤンマは同一個体となる】

こちらは、腹端部の右側に、やはり、背から腹に貫通する「穴」が開いてるように見えます。

この解釈のもとで、当記事をいったん公開し、フェイスブックやツィッターで告知したところ、当シリーズ記事の取材でお世話下さった飯田貢さんから、「穴ではなく、マルミズムシ類(カメムシ目)が付着しているようだ」とのご指摘がありました。

フェイスブックでの飯田さんの追加の説明と、私がネットで調べた情報を総合した結果から、私の「穴説」は崩れ去り、飯田さんのご指摘どおり、マルミズムシの仲間に間違いないという結論になりました。

穴という先入観を捨て、ミマルズムシ類に該当するかどうかを判定するスタンスで、写真5~7をもう一度じっくり見直すと、「マルミズムシ類以外ではありえない」という確信が湧いてくる結果となりました。

穴説を打ち出す前に、「何かが付着している」という選択肢も頭を横切りましたが、写真5で穴を通してたも網のメッシュが覗いている、という先入観に影響された判断で先入観が補強されてしまっていました。

飯田さんが、この付着したマルミズムシ類を見破ることができたのは、昆虫全般への強い関心と、この溜池を含む、身近な生息地における昆虫についての豊富な観察体験があったからこそと思います。

マルミズムシ類については、次回記事で簡単に取り上げたいと思います。

 注記:一部書き換えはここまでです。


トラフトンボの幼虫

ヤゴ3個体の中で、中間サイズのヤゴが、写真8です。

トラフトンボ幼虫 
写真8 トラフトンボ Epitheca marginata 幼虫 

写真8のヤゴを、トラフトンボ Epitheca marginata (Selys, 1883)と同定しました(本記事の後半の「今回の幼虫同定の根拠」参照)。

写真8から判断できることを以下に列挙してみます。
・触角はよく見えないが、特に太短かったり、短棒状だったら判別できるはずなので、細い糸状(鞭状)の触角を持っているはず。
・複眼は小さいが、頭部前側面に突出する。
・頭部前面の複眼間に黒褐色の帯状斑がある。
・後頭部は背面から見て逆台形で、背面に起伏がある。
・脚が長い。
・脚に腕章状の褐色斑がある。
・腹部に小さい側棘があることは分かるが、背棘の有無の判別は困難。
・腹部の黒褐色斑がよく見える。


ショウジョウトンボの幼虫

ヤゴ3個体の中で、一番小さいヤゴが、写真9~11です。

ショウジョウトンボ幼虫 
写真9 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia 幼虫

写真9~11のヤゴを、ショウジョウトンボ Crocothemis servilia (Drury, 1773)と同定しました(本記事の後半の「今回の幼虫同定の根拠」参照)。

写真9から判断できることを以下に列挙してみます。
・複眼は大きく丸く、前方にも突出する。
・側棘が腹部8,9節に認められる。
・側棘は尖って意外と長い。
・背棘は見えない。

ショウジョウトンボ幼虫 
写真10 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia 幼虫(同一個体)

写真10から判断できることを以下に列挙してみます。
・頭部前面がよく見えているが、銀杏の葉のような形の下唇側片が左右からしっかりとかみ合わさっている。
・複眼は丸く大きく、頭部側面に突出する。
・脚の腿節には腕章状の褐色斑がある。

ショウジョウトンボ幼虫 
写真11 ショウジョウトンボ Crocothemis servilia 幼虫(同一個体)

写真11からは以下のことがわかります。
・背棘がない。
・側棘も目立たない。


今回の幼虫同定の根拠

主に杉村ほか(1999)(必要に応じて尾園ほか(2012))を参考に、写真から判断できた特徴を検討・総合して、今回の3個体の幼虫(ヤゴ)の種の同定を、以下のように行いました(比較対象は日本産の種)。

タイワンウチワヤンマ同定の根拠:
・日本産トンボ目不均翅亜目幼虫で、写真3~4のように腹部が縦にくらべて横に広がるのは、サナエトンボ科のコオニヤンマ Sieboldius albardae Selys, 1886 とタイワンウチワヤンマ、それにヤマトンボ科のオオヤマトンボ属 Epophthalmia、コヤマトンボ属 Macromia くらいである。
・コオニヤンマでは、触角は団扇状に幅広く扁平に広がり、第7,8腹節側棘が目立って大きい。それに対してタイワンウチワヤンマの触角は鈍頭で短い円柱状で、第7,8腹節側棘は特に目立って大きくはない。
・オオヤマトンボ属およびコヤマトンボ属の幼虫では、触角は鞭状で、脚が長い(後脚腿節が腹部第8節後端付近まで届く)。

トラフトンボ同定の根拠:
写真8の個体は、触角が糸状で細長く(鞭状で)、腹部が短いことから、トンボ科かエゾトンボ科・ヤマトンボ科に属する。
・ヤマトンボ科では頭部を背面から見た場合、左右に丸く膨らむが、写真8の個体は台形を逆さまにした形なので、トンボ科かエゾトンボ科に該当する。
・エゾトンボ科幼虫はトンボ科よりも脚が長く、後脚腿節の長さが頭幅以上となるのが多い。写真8の個体はこれに該当する。
・エゾトンボ科の中で、写真8の個体のように左右の複眼をつなぐような帯状の黒褐色斑があるのはトラフトンボとオオトラフトンボである。
・オオトラフトンボの第9節の側棘は長く、あきらかに先端が肛上片の先端を越えるが、トラフトンボの第9節の側棘の先端は肛上片の先端を越えない。
・それに、そもそも、オオトラフトンボは四国には分布しない。

ショウジョウトンボ同定の根拠:
写真10の個体は、触角が糸状、下唇側片が銀杏の葉状であること、下唇腮側片の歯の刻みが弱いことからトンボ科とわかる。
・トンボ科の中で、背棘がなく(写真11)、複眼は大きく(写真9)、頭部の前側方にあり(側方であったり、前側方だが前にも突出したりはしない)(写真9)、第8,9側棘がはっきり突出する(写真9)のは、ショウジョウトンボである。


生活史の中の幼虫

今回採集された幼虫は、いずれも腹長に対する翅芽サイズの比率が、終齢の場合にくらべて若干低いように見えることから、亜終齢かその一つ前の齢のものと思われます。

タイワンウチワヤンマ:
・高知県では、タイワンウチワヤンマの1回目の羽化は5月末から7月中旬にかけて行われ、ごく少数が9月上旬にこの年2回目の羽化を示す(青木2017の図7;元データは松本[2001])。
・このことから、今回採集されたタイワンウチワヤンマの幼虫は、この年には羽化せず、幼虫のまま越冬して、翌年の6月頃羽化する個体と考えられる。


トラフトンボ:
・トラフトンボは、高知県では4月上旬から6月中旬にかけて出現する(杉村ほか1999)。
・トラフトンボは幼虫期間が長く、春季羽化の年1化(1世代)の生活史をとっている(尾園ほか2012)。
・したがって、今回採集されたトラフトンボの幼虫は、この年(2017年)に羽化することはなく、翌年(つまり2018年)の4~6月に羽化すると考えられる。

ショウジョウトンボ:
・ショウジョウトンボは、高知県では4月中旬から12月上旬にかけて出現する(杉村ほか1999)。
・ショウジョウトンボの卵期間は最短5日、幼虫期間は最短2カ月と短く、年に2回以上羽化する(尾園ほか2012)。
・したがって、今回採集されたショウジョウトンボの幼虫は、残り1カ月以内に終齢への脱皮、幼虫の皮の中での成虫への変態を経て、年内に羽化する可能性と、冬を越して翌春羽化する可能性を共に持つ。


最初の訪問地、溜池A

今回記事で取り上げた幼虫(ヤゴ)の採集地点である、最初の訪問地(溜池A)の景観を再掲しておきます(写真12)。

溜池その1 
写真9 最初の観察地(溜池A)(再掲)。

溜池Aのトンボ生息地としての特徴については、本シリーズ第一報で簡単に紹介しています。


溜池Aで今回の訪問で観察されたトンボ目のリスト(学名省略)

今回の記事までの8件のシリーズ記事で、溜池Aで観察されたトンボ(幼虫を含む)の、すべての種を取り上げましたので、以下にリストアップしておきます。

アオイトトンボ科:
 アオイトトンボ
イトトンボ科:
 ムスジイトトンボ(初対面)
 アオモンイトトンボ
 アジアイトトンボ
ヤンマ科:
 ギンヤンマ
サナエトンボ科:
 タイワンウチワヤンマ(幼虫も)
エゾトンボ科
 トラフトンボ(幼虫のみ)(初対面)
トンボ科:
 ショウジョウトンボ(幼虫も)
 ハネビロトンボ
 ナニワトンボ(以下、アカネ属 Sympetrum)(初対面)
 オオキトンボ(初対面)
 ノシメトンボ
 リスアカネ 
 ネキトンボ

以上、6科14種のトンボを確認することができました。
そのうち4種とは初対面でしたので、満足のいく結果となりました。

たった2時間半程度の滞在でこれだけの種に会えたということは、この池がトンボ生息地として大変好条件を備えていることの証でしょう。

大規模な溜池で使用権者による維持管理も大変でしょうが、トンボを始めとした在来の水生生物の多様性をいつまでも保全していくために、管理者と自然観察者やその団体、それに調査研究者との連携の向上が望まれます。

本シリーズ、次回記事では、カトリヤンマオニヤンマ(いずれも成虫の話題)を取り上げる予定です。


引用文献:

青木典司(2017)温暖化? 北上するタイワンウチワヤンマ。神戸のトンボ(ブログ)。http://www.odonata.jp/04topics/Ictinogomphus_pertinax/index.html (更新:2017.01.03 12:00)

浜田 康・井上 清 (1985) 日本産トンボ大図鑑。講談社。

松本導男(2001)高知県南国市のタイワンウチワヤンマ羽化記録。Gracile (63):11-15。(青木2017から間接引用)。

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司 (1999) 『原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』。北海道大学図書刊行会。


謝辞
トンボ幼虫の撮影とブログ掲載を快諾された武智礼央さん、現地をご案内いただいた高橋士朗さん、飯田貢さん他の皆さんに謝意を表したいと思います。【付記:飯田さんにはマルミズムシ類についてもご指摘いただきました、改めて感謝いたします。】


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