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2018-05-09 (Wed)
当シリーズ記事の第1報では、ムカシトンボ Epiophlebia superstes (Selys, 1889) の単独♂が渓流上で婚活飛行している様子を、第2報では、婚活飛行の詳細に加えて♂が♀を捕捉するシーンや、♀が産卵動作をとるシーンなどもレポートしました。

今回の第3報では、第2報の観察場所と同じ場所を訪れた結果、♀の一風変わった産卵行動を観察・撮影することができましたので、その前後の状況と合わせて報告します。


目 次

◆産卵♀の登場
◆産卵動作
◆早目の産卵終了
◆先輩の産卵痕? 
◆毛深さ比べ?
◆注:産卵に用いられた植物について
◆引用文献


産卵♀の登場

今年のゴールデンウィーク前半、5月早々の快晴の日、数日前にムカシトンボの産卵動作は確認したのに写真撮影に失敗した場所(渓流の上流部)を再訪しました。

今回は、ムカシトンボが産卵に利用するジャゴケや柔らかそうな草本が岸辺に豊富にある場所で、産卵♀を待ち受ける方針にし、私の座り場所も確保できる一角を選び(写真1)、13時23分から定点観察を開始しました。

ムカシトンボが産卵を試みたアジサイ属 
写真1 ムカシトンボ Epiophlebia superstes の産卵が見られたアジサイ属 Hydrangea の低木(写真はクリックで拡大します)

繁殖シーズン真っ只中だからでしょう、私の眼の前を(すべてが下流側から上流側へ向って)通過するムカシトンボ(大部分♂)の数が11頭に達した14時24分、1頭の♀が下流側から現れました。

その♀は、渓流上3,40cmの高さを飛びながら、岸沿いの草陰(写真1の下半分)を数回覗いた後、私の2mほど上流側右岸に生えている、アジサイ属 Hydrangea(多分、タマアジサイH. involucrata;注)の低木(写真1の中央上)の若枝にとまりました(写真2)。

ムカシトンボの産卵 
写真2 ムカシトンボ Epiophlebia superstes の産卵 


産卵動作

そして、すぐに腹部を強く曲げて産卵姿勢をとり、腹端部をその若枝に押し当てる動作を開始しました(写真3)。

ムカシトンボの産卵 
写真3 ムカシトンボ Epiophlebia superstes の産卵(同一個体、場所)

望遠レンズを望遠端一杯にし、そっと被写体に歩み寄って撮ったのが、
写真4~8です(時系列順)。

ムカシトンボの産卵 
写真4 ムカシトンボ Epiophlebia superstes の産卵(同一個体、場所)

6本の脚でしっかりと若枝を
つかんで身体を支えた上で、産卵管を突き立てています。

ムカシトンボの産卵 
写真5 ムカシトンボ Epiophlebia superstes の産卵(同一個体、場所)

写真5では、腹端部の背方への折れ曲がり角度がきつくなっていることから、産卵管をさしこみつつあるところ、または抜きつつあるところであることが分かります。

ムカシトンボの産卵 
写真6
 ムカシトンボ Epiophlebia superstes の産卵(同一個体、場所)

写真6では写真5とくらべて、産卵管がより外側まで抜けています。

ムカシトンボの産卵 
写真7 ムカシトンボ Epiophlebia superstes の産卵(同一個体、場所)

この♀が少しこちら側を向く位置になっていることから、♀は体を(上から見て)時計回りに回すように横歩きして、産卵管を突き刺す位置を少しずらしていることがわかります。

このように、リズミカルに、そしてターゲットの位置を少しずつずらしながら、産卵管を突き立て、差し込み、そして抜く動作を繰り返します。

もっとも、枝の表皮が少し硬いのか、リズムは心なしか遅れがち、乱れがちになっているようにも感じられました(計測していないので、あくまで主観にすぎませんが)。


早目の産卵終了

表皮が硬いせいかどうか分かりませんが、この♀は、3分間ほどで産卵動作をやめて、腹部を少し伸ばしました(
写真8)。

ムカシトンボの産卵 
写真8 ムカシトンボ Epiophlebia superstes の産卵(同一個体、場所)

このあとすぐに、とまり替えて同じ低木の別の枝の葉の主脈に産卵管を突き立てました(
写真9)。

ムカシトンボの産卵 
写真9 ムカシトンボ Epiophlebia superstes の産卵(同一個体;別枝の葉)

この部位での産卵動作も長続きせずに、14時28分、この♀はこの場から飛び去りました。

ムカシトンボの1回の産卵としては短時間です。

あまり好適な産卵基質ではなかったためかもしれませんし、夕方近くに比べて午後早目の時間帯では産卵の持続時間が短い傾向があるため(札幌近郊個体群についてのOkazawa and Ubukata[1978] の Fig. 6を参照)なのかもしれません。

今後の課題の一つとしたいと思います。


先輩の産卵痕?

ところで、写真4の産卵基質を拡大してみると、この若枝の表面に褐色の小さな点状の傷が曲線状に並んでいることが見て取れます
写真10)。

ムカシトンボの産卵痕 
写真10
写真4の部分拡大)
 
ムカシトンボ Epiophlebia superstes の産卵部位

これは、この♀とは別の♀が何日か前に若枝のこの位置で産卵した際にできた痕(産卵痕)だと思われます。

というのも、傷の位置、大きさ、そして蛇行状の配列のパターンが、私がこれまでに北海道でフキの葉柄などに残されたムカシトンボの産卵痕とよく似ているからです。

これを確かめるにはその産卵痕のある部位の一部を持ち帰り、顕微鏡で観察して卵が収まっているかどうかを調べるのがベストですが、産卵行動を直接を観察・撮影できたのですから、今回はそこまでする必要性は感じませんでした。


毛深さ比べ?

写真10からは、ムカシトンボの♀の前頭部や胸部に毛が密生していて、とくに前頭部のは長いだけでなく直立しているのが見てとれます。

一方のアジサイ属の若枝の表皮からも無色透明の毛状の突起が多数出ていて、毛深さ比べのようなシーンを醸し出しています。

植物の硬い毛や棘には、動物による捕食や登攀を抑制する機能があることは容易に想定できますが、ムカシトンボ♀のこの立毛がどのような機能をもつのか、興味が持たれます。

以上で、今回観察されたムカシトンボの産卵行動の報告を終えます。

次回記事では、ムカシトンボ成虫の渓流の探索の最適戦術について、観察例を元に考察する予定です。



注:産卵に用いられた植物について

 今回、
産卵に用いられた植物の写真を数枚撮影し、帰宅後「原色日本植物図鑑木本篇」を参照したところ、葉(写真11)、花の形(写真12)、茎の毛(写真10)などの特徴が、アジサイ属のタマアジサイ Hydrangea involucrata に一致していると判断しました。

ムカシトンボが産卵を試みたアジサイ属 
写真11 
産卵に用いられたアジサイ属 Hydrangea の植物(枝の先端付近)

ムカシトンボが産卵を試みたアジサイ属 
写真12 産卵に用いられた
アジサイ属 Hydrangea 植物(同一株)の花[昨シーズン開花したものの枯れ残り


引用文献:

北村四郎、村田源 (1979) 原色日本植物図鑑 木本編2。保育社。

Okazawa, T., and H. Ubukata. (1978) Behavior and bionomics of Epiophlebia superstes (Selys) (Anisozygoptera: Epiophlebiidae). I. Daily and seasonal activities. Odonatologica 7: 135-145.  http://natuurtijdschriften.nl/search?identifier=591441


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