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2018-05-21 (Mon)
今年の5月1日、好天のもと、ムカシトンボ観察を主目的に、車で自宅から日帰り圏にある山地の渓流部にプチ遠征した際に、最初に出迎えてくれたのは、うら若きアサヒナカワトンボ Mnais pruinosa Selys 1853(注*)たちでした。

今回はその状況を報告するとともに、成虫出現初期や後期の個体と比較した上での本種の羽化後の体色変化について簡単に整理することにします。


目 次
 ◆最初は、無色翅型♂
 ◆次はうら若き♀が
 ◆最後は橙色翅型♂
 ◆体色と成熟度
 ◆橙色翅型♂の体色変化
 ◆無色翅型♂の体色変化
 ◆♀の体色変化
 ◆まとめ


最初は、無色翅型♂

その日、私は、今年初めてムカシトンボ♂を観察・撮影した渓流の一角(関連記事はこちら)へとつながる林道のゲート手前で車を停めました。

徒歩で沢の上流方向へと進んでいくと、しばらくして、沢斜面の低木の葉の表面に、1頭のアサヒナカワトンボの無色(透明)翅型♂がとまっていました(午前10時16分)。

私がカメラを構えて近づくと、すぐ近くの別の低木の葉にとまり替えました(写真1)。

アサヒナカワトンボ無色翅♂ 
写真1 アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 無型♂ (写真はクリックで拡大します)

この無色翅型♂が、今シーズン最初のカワトンボ撮影のモデルになってくれました。


次はうら若き♀が

私がムカシトンボの姿を求めて、この沢のより上流側へ歩を進めると、今度はアサヒナカワトンボの1♀が低木の葉にとまっていました(写真2)(10時43分)。

アサヒナカワトンボ♀ 
写真2 アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa ♀

写真2の♀は、この時期の無色翅型♂(写真1)と外見上は紛らわしいですが、腹部全体が円筒状でやや太く、尾端部と腹部第2節のつくりが♂と全く違う点に着目すれば意外と簡単に区別できます。

※ カワトンボ属の♀の翅は写真2のように、無色透明なのが一般的ですが、ニホンカワトンボ Mnais costalis Selys, 1869 では西日本で淡橙色翅型が広く出現します(参考過去記事[写真つき]はこちら;くわしくは、尾園ほか2012参照)。


最後は橙色翅型♂

上記の♀の発見地点付近は、沢の水も枯れ気味で、これ以上上流側を探索してもムカシトンボの姿は期待できないと判断し、私は折り返して下流側に歩を進めました。

すると、5,6分歩いたところで、今度はカワトンボの橙色翅型の♂1頭を見つけました(写真3)。

アサヒナカワトンボ橙色翅♂ 
写真3 アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 橙色翅型♂ 

この♂も、写真2の♀と同じ種類の低木の葉にとまっています。

私が何枚か写真をとっていると、おっと飛び立ちました(写真4)。

アサヒナカワトンボ橙色翅♂ 
写真4 アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 橙色翅型♂ 同一個体

トンボはピンボケとなりましたが、動きがあり、ちょっとユーモラスなシーンです。

この後、この♀は、また同じ葉にとまりました。

今季初対面のカワトンボとの出会いのスケッチはこれくらいにして、以下、今回の写真と過去に撮影した同種成虫の写真とを比較しながら、成虫期の進行にともなう体色・翅色の変化について、簡単に整理します。


体色と成熟度

カワトンボ属の成虫は、他の多くのトンボ同様、羽化後の成熟とともに、体色や翅色を変化させます。
 ※過去記事「お化粧開始!:カワトンボ橙色型♂」も参照。

以下に、2016年4月6日(出現初期)に別の山系に属する細流の河畔林で撮影したアサヒナカワトンボの二型の♂と♀の写真と、2017年6月上旬(出現後期)に河川中流域の傍流畔で撮影したアサヒナカワトンボの二型の♂の写真を過去記事から再掲します。

中間の時期にあたる今回撮影の写真も比較のため再掲します。

4月と6月の写真の個体群の生息地は、いずれも今回(5月)の生息地と異なりますし、また同じ個体群内でも個体変異が存在します。

しかしそれぞれを代表と考えれば、大まかな傾向は見て取れるでしょう。


橙色翅型♂の体色変化

まずは橙色翅型♂です(写真5、3、6)。

Mnais_costalis_160406_A  
写真5 アサヒナカワトンボMnais pruinosa 橙色型♂(過去記事から再掲) 2016年4月6日(出現初期)

アサヒナカワトンボ橙色翅♂ 
写真3(再掲) アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 橙色翅型♂ 2018年5月1日(出現前期)

アサヒナカワトンボ橙色翅型♂
写真6 アサヒナカワトンボ橙色翅型♂(過去記事から再掲) 2017年6月上旬(出現後期)

出現初期写真5)の個体は、体の表面に白粉が吹いておらず、翅の発色も不十分で、翅前縁中央部に帯状に伸びている不透明斑の発色不足が目立ちます。

また、カワトンボ♂の、♀との大きな違いの一つである、縁紋の赤色が発現されておらず、白っぽいままです。

※ 羽化後の日数がまだ少ないと思われるこの個体は、人間の発達段階に例えれば、児童期の段階のものといえるでしょう。

一方、出現後期写真6の♂では、体表は真白に粉が吹き、翅も美しい琥珀色を見せつけています。
そしてもちろん、不透明斑の白っぽさは消え去り、縁紋は真っ赤で、「完熟」個体であることを見せ付けています。

※ 人間の発達段階に例えれば、青年後期を通り越した成人期の段階に相当します。

今回記事の主役の一員である写真3の♂は、翅の発色が進んでいないところでは出現初期(写真5)の個体に近いですが、体表、とくに胸部や腹端部にうっすらですが白粉が吹き始めています。

※ このことから、今回記事のこの♂は出現中期で性的成熟も中間段階にあること、人間の発達段階に例えるなら思春期(青年前期[+中期])にあるということができるでしょう。

この体色変化の段階を参考にすることで、今回記事のアサヒナカワトンボは出現前期(ただし、初期ではない)に相当すると判断しました。

今年(2018年)は、温暖な春ということで、関東地方でも例年より1週間ほど早く生物季節が進行していましたが、今回の観察ポイントは、沢の上流部(つまり、いくらか冷涼)ということで(写真5,6を撮影した)、より下流部に比べて生物季節の進行が遅くなっているのでしょう。
 

無色翅型♂の体色変化

次は無色翅型♂です(写真7、1、8)。

  Mnais_costalis_160406_B 
写真7 アサヒナカワトンボMnais pruinosa 型♂(過去記事から再掲) 2016年4月6日(出現初期)

アサヒナカワトンボ無色翅♂ 
写真1(再掲) アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 無型♂ 2018年5月1日(出現前期) 

アサヒナカワトンボ無色翅型♂
写真8 アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa 無色翅型♂(過去記事から再掲) 2017年6月上旬(出現後期)

出現初期写真7)の個体は、同時期の橙色翅型♂と同様、体の表面に白粉が吹いておらず、縁紋も白っぽいままです。

※ 人間でいえば児童期。

一方、出現後期写真8の♂では、体表は腹部の中間部と翅胸背面・側面を残して白粉が吹き、縁紋には赤味が発現しています。

※ 人間でいえば青年後期から成人期。

今回記事の主役の一員である写真1の♂は、体表にうっすらですが白粉が吹き始めていますが、縁紋は白いままです。

※人間でいえば思春期。


の体色変化

最後はです(写真9、2、10)。

Mnais_costalis_160406_C 
写真9 アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♀(過去記事から再掲)2016年4月6日(出現初期)

アサヒナカワトンボ♀ 
写真2(再掲) アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa ♀ 2018年5月1日(出現前期)

カワトンボ♀ 
写真10 アサヒナカワトンボMnais pruinosa ♀ 2017年6月5日(出現後期)(新規掲載)

出現初期写真9)の♀個体は、体の表面に白粉も汚れも一切なく、新鮮な印象を与えます。翅も同様です。

※ 人間でいえば児童期。

一方、出現後期写真10の♀は、昨年6月5日(出現後期)に、写真5~9の生息地の山系と互いに隣接する山系に属する生息地で撮影した、アサヒナカワトンボ♀です(新規掲載)。

この♀は、腹端部や翅胸部腹面などにうっすらと白粉を吹き、翅の汚れや曇りが目立っています。
ただし、♂と異なり、成熟さらには老化が進んでも縁紋は白いままです。

※ 人間でいえば青年後期から成人期。

今回記事の主役の一員である写真2の♀は、尾の先端や脚の腿節・脛節に極うっすらと白粉が吹き始めていて、翅にも若干、曇りと硬さが増しているようにうかがえます。
※人間でいえば思春期。


まとめ

というわけで、今回私を出迎えてくれたアサヒナカワトンボ達は、いずれも人間でいえば思春期真っ只中、もう少しすれば青年後期として婚活に勤しむようになる、そういう段階にある元気な仲間であり、ライバル達だったようです。

※児童期、思春期、青年期、成人期はあくまでも人と並べた場合の例えで当ブログ記事で比喩的に使用したもので、昆虫を材料にした科学論文での使用は適しません(言うまでもありませんが)。ブログで親しみを込めて用いやすい、これ以外の人間社会用語、「青春」「婚活」「結婚」「不倫」「離婚」なども同様です。ただし、「求愛」courtship は昆虫を含め、動物行動学で古くから用いられていますので、これに限っって論文での使用に問題はありません。


引用文献:

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。


*注(過去記事から再掲):カワトンボ属Mnaisは、日本に2種(二ホンカワトンボMnais costalis Selys, 1869とアサヒナカワトンボM. pruinosa)が分布しており、両種の分布が広域的に重なっているところ(同所的分布)もあれば、戦国時大名のように領域を分け合っているところ(側所的分布)もあります。
 同所的に分布しているところでは、形質置換が起こり、両種の形態的差(翅脈の横脈数、翅の不透明斑のサイズなど)が明瞭になるため、生態写真からの種の同定は比較的正確に行えますが(下記リスト記事1&2を参照)、側所的分布の場合は、幼虫の尾鰓の形態は別として、形態的特徴だけからの種の同定は非常に困難で、DNAによる判定が得られるまでは確信が持てません(下記リスト記事3を参照)。
 ただし、側所的分布であっても、最近のDNA判定を採用した研究により、どちらの種が分布しているから判明している場合には、その研究を信頼してどちらか一方の種名を充てることが可能となります。
 今回は、苅部ほか(2010)に依拠して、アサヒナカワトンボと判定することができました。

参考となる、以前の記事:

注の引用文献:
苅部治紀・守屋博文・林 文男(‎2010):神奈川県を中心としたカワトンボ属の分布。Bull.Kanagawa prefect. Mus. (Nat.Sci.),(39):25-34.


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