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2018-05-25 (Fri)
今年5月12日、夏日予想の好天のもと、トンボの姿を求めて、埼玉県西部の耕作放棄された棚田をかかえる谷戸を訪れました。


目 次
 ◆すわっ、ハラビロトンボ
 ◆サラサヤンマとの再会
 ◆ホバリング羽ばたき術
 ◆靱帯損傷??
 ◆サラサヤンマ♂の観察地点
 ◆♀とのニアミス


すわっ、ハラビロトンボ

その元棚田の脇を流れ下る細い水路(日当たりのよい方)脇の細道を上流方向に向かって歩いていると、小さな黒っぽいトンボが、その水路のほとりのイネ科草本群落(写真2)の中の、枯草の折れ曲がったところに、とまりました(午前11時17分)。

ハラビロトンボ Lyriothemis pachygastra (Selys, 1878) ♂です(写真1)。

ハラビロトンボ♂ 
写真1  ハラビロトンボ Lyriothemis pachygastra (写真はクリックで拡大します)

私はハラビロトンボを遠征先の岐阜県と高知県(トンボ王国)では観察・撮影していますが、私の現在の地元である埼玉県、そして関東地方では確認していませんでしたので、ちょっとしたラッキーカードを引いた思いでした。

ハラビロトンボの♂の体色は成熟に伴って、黄色→黒色→青灰色のように変化することが知られています(過去記事「ハラビロトンボ:お色直しは花婿Only」参照)。

今回観察した♂は青灰色の段階に入ってしばらくたったものであるといえます。

♀の未熟個体の体色については「トンボ王国訪問記(1):多彩なトンボ達に迎えられ」を、♀の成熟個体の体色については「トンボ王国訪問記(3):梅雨時の草間にトンボ見え隠れ」を、それぞれご参照ください(過去記事から)。

この、観察された水路(写真2)の最大幅は70cm、水深は数cm程度で、それとわかる水の流れはありませんでした。

ハラビロトンボが観察された細流 
写真2 ハラビロトンボ♂が見られた細い水路


サラサヤンマとの再会

この谷戸を訪ねた主目的は、昨年の6月にこの場でトンボ探訪をした際に、サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri (Martin, 1909) ♂の♀待ち受け行動を観察できたことから(過去記事「サラサヤンマ♂:出会いの場での振舞い(前編)」参照)、それより早いこの時期なら、羽化後間もない新鮮な成虫を見ることができるかもしれない、という期待感からでした。

その期待は、思いのほか、あっさりと現実のものとなりました。

というのも、昨年サラサヤンマを見た湿地の入り口とでもいえる位置にあたる、林縁部の草原上(写真5)で、元気に飛び回るサラサヤンマが待ち受けていたからです(写真3)(11時20分)。

サラサヤンマ♂ 
写真3 サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri

写真3が、約30回シャッターを押して写した中の、ベストショットです(ISO=2000; 1/4000; f=7.1; 250mm)。

この♂は、林縁の草原の地上1.5~2mの高さを、ホバリングを交えながら飛び回っていました。

繰りかえし観察・撮影できましたので、林縁にそって数m~十数mの範囲を飛んでいたとみられます。

私のこれまでの観察経験でも、サラサヤンマの♂が♀を探しながら待ち受けていると考えられる行動は、湿地の泥面から30~50cmあるいは10~100cmの高さでホバリングを繰り返していましたので(こちらこちらの過去記事)、今回の林縁での飛行の主目的は採餌だと思われます。


ホバリング羽ばたき術

写真3からは、この瞬間の4枚の翅の動きを読む解くことが可能です。
後翅は左右2枚とも先端部が下向きに風圧で押し曲げられていることから、打ち上げ動作をしていることがわかります。

一方、前翅は翅の曲がり具合が逆ですので、打ち下ろし動作中ということがわかります。

この、互いに逆向きの動きで大気を押しやることで、その反作用として、後翅の動きはトンボの体を斜め下前方に進める力を、前翅の動きはトンボの体を斜め上後方に進める力を、それぞれ生み出すはずです。

このように、同時にトンボの体を空間的に全く逆方向に押し進めようとする力を産み出すことで、トンボの体は空中のほぼ1点に停止することが可能となり、トンボのホバリング動作を実現させていると見ることができます。

後翅を打ち下ろし、前翅を打ち上げるときも、前後翅の役割は逆転していますが、結果としてトンボの空中静止を生み出す点はまったく変わりありません。

ただし、前翅と後翅とで作用点、つまり翅の基部の蝶番の役割を果たすパーツの空間的位置が前後にわずかにずれていますので、このままでは、それによって生じるトンボの体軸を前後方向に回転させてしまいます。

この体軸の回転を打ち消すため、および重力や風に逆らう力を産むために、トンボは微妙に翅の仰角や振り下ろし速度、前後翅の動きのタイミングなどの微妙な調節が実現するよう、各種飛翔筋の収縮強度やタイミングをコントロールしているに違いありません。


靱帯損傷??

この個体の左後脚は脛節が少し垂れ下がり気味です。

ピントが少しでも合った11枚の写真のいずれにおいても、この脚は同様に垂れ下がり気味でした(例、写真4)。

サラサヤンマ♂ 
写真4 サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri ♂(同一個体)

このことから、この個体の行動上の必要があって左後脚を半伸ばししたのではなく、コントロール不能となって脛節が垂れているものと考えられます。

具体的には、この脚の腿と脛の関節を折り曲げるための筋肉に、不具合が生じていた可能性が指摘できます。

6本ある脚のうちの1本ですから、この個体が採餌や♀の連結・交尾する上で、この不具合はあまり大きな影響はないものと思います。


サラサヤンマ♂の観察地点

写真5は、この♂が観察された場所の景観です。

サラサヤンマの採餌飛翔が見られた林縁 
写真5 サラサヤンマの採餌飛翔が見られた林縁

♂は、左の林縁に沿った、幅2~4mの範囲を飛び回っていました。


♀とのニアミス

この♂が飛び去ったので、私はこの谷戸の更に奥へとゆっくり歩を進めました。

昨年6月に♂の♀待ち受け行動が観察された場所(写真6)を通過します。

サラサヤンマ生息地 
写真6 昨年6月にサラサヤンマ♂の♀待ち受け行動が観察された場所(今年5月撮影)

写真6の場所は、昨年6月には少し乾きはじめた湿土の状態でしたが、(関連記事はこちら)、今回は、数日前のまとまった降雨のせいでしょうか、水にひたった部分が多い状態でした。

一番奥の、湿草原の上流端付近の湿地(写真7)に着きました。

サラサヤンマ産卵動作が見られた湿地 
写真7 サラサヤンマ産卵動作が見られた場所。産卵基質は中央右湿土の朽木

その湿地の、湿土に倒れている朽木にとまって産卵動作をする1頭の♀を、一瞬観察することができました(11時45分)。

しかし、私が通りかかることを感づいたのか、またたくまに飛び去ってしまいました。

ということで、産卵中の♀の写真撮影はお預けとなりました。

今後の林間湿地探訪の際の楽しみとして、とっておきましょう。


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