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2018-07-16 (Mon)
今年6月上旬に月井栄三郎さんのご案内のもと栃木県の小湿地で観察したハッチョウトンボ Nannophya pygmaea Rambur, 1842 についてのシリーズ記事、5回目の今回は交尾行動をとりあげます(シリーズ記事一覧はこちら)。

今回の観察地の特徴、ハッチョウトンボ♂が なわばりを構える場所の要点については、過去記事(こちらこちら)を参照ください。

なわばり内にとまって監視している、本種の成熟♂の視野に成熟♀が現れると、♂はその♀に接近し、交尾態(リング)を形成して、なわばり内の草にとまります(写真1)。

ハッチョウトンボの交尾 

写真1 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea 交尾。(写真はクリックで拡大します)


観察初日の朝8時過ぎからこの小湿地でハッチョウトンボの観察を開始し、羽化直後個体や成熟途上から完全成熟までの単独静止個体の撮影を一通り終えた、午前10時18分のことでした。


月井さんに「ほら、交尾してますよ」と指し示されて、あわててカメラを向けたのが、私にとっての本種交尾の初撮影となりました。


その後も視野を広くとりながら観察を続けたところ、交尾態のリングで草にとまるところや、ぶら下がって交尾を続けている状態を、次々とカメラに収めることができました。

その中で、1回だけですが、交尾態形成のプロセスの一部始終を目撃することもできました。

すなわち、なわばりを占有していた単独♂が、単独♀を視野に認めて、即座に飛びかかり、瞬時に交尾態を形成して、近くの草にとまるところまでのシーンを、連続的に私の脳裏に焼き付けました。

動画として撮影できなかったのが悔やまれますが、撮影初心者の私にそれを望むのは無理というものです。

それはそれとして、10時18分の交尾の後にも、私たちがこの生息地での観察・撮影を切り上げた11時18分までに、私は全部で10件の交尾態(それぞれ別カップル)を発見し、撮影することができました(ベテランの月井さんはもっと多く確認されたことでしょう)。

気付いた交尾カップルは漏らさず撮影しましたので、全ての交尾イベントの初撮時刻をデータとして残しておくことにします(以下の通り)。

10時18分、10時22分、10時24分、10時27分、10時39分、10時42分、10時44分、10時46分、11時02分(2件)、11時08分。

以下、撮影した交尾写真から4,5点をピックアップして、ハッチョウトンボの交尾行動の特徴を見ていきます。

写真2は、写真1とは別カップルの交尾です(10時39分)。

ハッチョウトンボの交尾

写真2 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea 交尾。 (別カップル)


写真2の♂は6本の脚で踏ん張って、自分と同じくらいの体重の♀を腹端と腹基部の2箇所で吊り上げた自分の腹部を、しっかりと持ちあげています。


♀も、ただ身を任せるのではなく、自分の脚で♂の腹部を抱えるようにして、自分の体重を支える位置を分散しています。


写真3は、また別のカップルの交尾です(10時57分)。


ハッチョウトンボの交尾 

写真3 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea 交尾。 (別カップル)


写真3を掲げたのは、交尾行動というより、♂の体色で「おやっ」と思ったからです。


腹部背面の色が茶色から赤に変わる途中で、腹基部近くには淡色の横縞が明瞭に残っています(完熟では消える)。


ただし、複眼は真っ赤で、完熟個体と変わりありません。

(本種♂・♀の成熟に伴う体色変化については、こちらの過去記事で写真つきでスケッチしています)。


というわけで、写真3の♂はかなり早熟(?)な個体であると言えます。

もしかすると、ドンファンになる資質を持っているかもしれません(笑)。


写真4は、更に別のカップルの交尾です(11時02分)。


ハッチョウトンボの交尾 

写真4 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea 交尾。 (別カップル)


写真4の♂は、全身真っ赤で、成熟度は十分です。


この写真を掲げた理由は、♀が植物の葉の上に体重を乗せかける位置に、このカップルがとまっているという、ちょっと例外感のあるシーンだからです。


この態勢であれば、♂は頑張って♀の体を自分の腹部で吊り上げる必要が薄れ、エネルギー的にはお得ということになります。


であれば、他のカップルもこのような、小さな低木の水平の葉の上にとまればよさそうなものです。

しかし、実際のところ、写真1~3のような、ぶら下がるとまり方が大勢を占めています。


実際、写真4のカップルも、3分後には、同じ低木のすぐ隣の枝先のほぼ鉛直に垂れた枯葉にとまりかえました(写真5)。


ハッチョウトンボの交尾 

写真5 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea 交尾。 (写真4と同一カップル)


今度は♀はぶら下がり、♂は多少なりとも♀をリフトしています。


なぜ、♀がぶら下がりになるように、とまりかえたのか?


それは♂の副交尾器のうちのペニスの抜き差しの動き(これは精子置換に必要)が、写真4のような態勢ではやりにくいからではないかと私は考えます。


というのも、♀がぶら下がった状態であれば、♂の上述の動きは、いつでも同じ程度の力加減で行うことができると思われるのに対し、写真4のように、いわば「ベッド」の上で♂の上述の動きをしようとした場合、「ベッド」たる葉の弾性や振り子運動の特性などの(1枚1枚の葉の間の)微妙な違いに対応しなければならなくなると考えられるからです。


これは考え過ぎかもしれません。


しかし、3億年のトンボの進化の歴史の中で、気の遠くなるような数のモデルチェンジ(進化)を繰り返して現在のトンボの行動があるわけですから、私の考え過ぎどころか、もっとすごい(私の想像が及ばない)適応があっても不思議ではありません。


このカップルの交尾は、途中とまり替えもありましたが、11時02分02秒から11時05分13秒まで、3分11秒間続きました。


この日、最後に撮影したハッチョウトンボの交尾(11時08分)が、実は写真1です(下に再掲します)。


ハッチョウトンボの交尾 

写真1(再掲) ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea 交尾。


写真1の♂も、6本の脚でしっかり2頭分の体重を支えています。

♀の6本の脚も信頼しきったかのように、♂の腹部にからみついています。


♂の腹基部には部分的に淡色(黄色)部が残り、これから更に男盛りになっていくことを予想させます。


このように、仲睦まじく子づくりに励んだ後には、産卵とそのエスコート(産卵警護)が、同じ なわばり内で行われることになります。


次回記事では、ハッチョウトンボのこの産卵行動と♂による産卵警護行動を取り上げます。


お楽しみに。


謝 辞
現地をご案内くださった月井栄三郎さんに、心よりの感謝の意を表します。



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