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2018-07-21 (Sat)
6月上旬に栃木県の小湿地で観察したハッチョウトンボ Nannophya pygmaea Rambur, 1842 についてのシリーズ記事、6回目の今回は産卵♂による産卵エスコートとりあげます(シリーズ記事一覧はこちら)。

目 次
 ◆交尾直後の♂、♀の振舞い
 ◆産卵とエスコート
 ◆おせっかい? エスコート♂の行動
 ◆引用文献:
 ◆謝辞
 ◆耳より情報!(『トンボ博物学』特価頒布)


交尾直後の♂、♀の振舞い

写真1は、前回記事で写真付きで紹介した交尾カップルのうちの一組です(6月2日、11時05分12秒に撮影)。

ハッチョウトンボの交尾 

写真1 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の交尾。(前回記事の写真5を再掲)(写真はクリックで拡大します)  


このカップルは、11時05分14秒には交尾を解きました(写真2a)。

ハッチョウトンボ交尾直後の♂♀ 
写真2 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の交尾直後の♂♀(写真1と同一カップル)

写真2a) 分離直後の♀は交尾態でとまっていた枝先のすぐ近くでホバリングしています。
♂は分離して舞い上がった後、すぐに向き直り、♀を見守るようにホバリングしています。

写真2b) その10秒後のカップルですが、♀は交尾態でとまっていたのと同じ枝先にとまっています。
♂は、♀の真向いの位置のトクサ属植物の先にとまり、じっと♀を見ています。

写真2bの1分12秒後には、この直下の浅い水面で♀が産卵を開始しました。


産卵とエスコート

写真3は、♀が産卵している最中を写した中での、この日のベストショットです。

ハッチョウトンボの産卵 
写真3 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea のの産卵 (写真1、2とは別個体)

この日に見た最初の交尾カップルの分離(10時18分44秒)の後、18分58秒には産卵が始まっていました。

写真3はその時の♀ですが、草に囲まれた浅い水たまりのすぐ上でホバリングしながら、腹端の打水を繰り返していました(10時19分10秒撮影)。

けっこう疲れる仕事なのか、産卵途中ですぐ近くの草にとまるのが、よく見られました(写真4)。

ハッチョウトンボ、産卵♀の休息 
写真4 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の産卵♀の休息(写真3と同一個体)

写真4は、産卵開始後最初の休息です(10時19分00秒撮影)。

この♀の産卵も、先ほどまで交尾相手だった♂のエスコート下で行われていました(写真5)。

ハッチョウトンボ、産卵♀とエスコート♂ 
写真5 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の産卵♀とエスコート♂ (写真3と同じ♀個体とその伴侶♂)

写真5a) ♀は同じ場所で、体の水平面での向きを少し替えて、打水を続けています(10時19分10秒)。

写真5b) 2回目の産卵休止中の♀のすぐ上では、相方の♂が見守っています(10時19分32秒)。

10時19分34秒には、♂も♀も、とまり場を離れ、♀は産卵を再開しました。

写真5c) 産卵♀が体軸を前傾させている瞬間です(10時19分42秒)。

写真5d) 打水動作の1カットです。こちらは、腹部が水平よりも下がっています。(10時19分44秒)。

残念ながら、打水の瞬間の写真はシャッター速度が遅すぎたこともあり、使えるものは得られませんでした。

♀は、このあと3回目の産卵休止にはいりました(10時19分46秒から20分02秒まで)。

産卵休止は、この後も、10時20分10秒、21分10秒、21分52秒にそれぞれありました。

10時18分58秒から22分22秒までの3分24秒の間、都合6回の産卵休止を挟みながら、根気よく産卵が行われたことになります。

最後の産卵休止のときも、♂は写真5aと同じような高さの別の草にとまり、しっかりとエスコートしていました。

♀が、小湿地内のほんの小さなスポット(直径10cm弱)の浅い水面に打水を限定していましたが、これは「亭主」である なわばり占有個体の庇護(エスコート)を受けて、安心して産卵に専念することができるということも、一つの要因になっているものと思われます。

♂が、交尾後、雌をエスコート、更にはガードするのは、他の♂との再交尾を防ぎ、1個でも多い、自らの精子を受精した卵を産ませることで、自らの生涯繁殖成功度を高めることになるからということはすでに一般化された理解です(コーベット『トンボ博物学』参照)。

伴侶♂によるガードは、♀にとっても、交尾をしかけようとする他の♂の接近、つかみかかり、更には(不要な)交尾を防いでくれる、とても有難いパートナーシップ行動であるに違いありません(この点についても『トンボ博物学』は触れています)。

もし、ガードされてなければ、産卵のための貴重な時間やエネルギーが無駄に費やされるだけでなく、それが繰り返されるというつらい状況に置かれてしまいます。

トンボの なわばり防衛その後の産卵エスコート(ガードもする)は、とてもよくできたシステムに見えてきました。


おせっかい? エスコート♂の行動

産卵がつつがなく終れば、♀は1日の仕事は終わり、あとは休んだり、餌をとったりしながら、ゆったりと過ごすことになるでしょう。

一方の♂は、この後も♀がやってきたら精力の続く限り交尾と産卵エスコートを繰り返し、なわばりを奪おうとする♂が来たら追い払おうとするに違いありません。

実際、この後も(私たちが他のトンボ生息地へ移動する時点まで)、それぞれ別個体ではありますが、交尾や産卵が繰りかえし行われていました(交尾の観察時刻の一覧は前回記事参照)。

そんなカップルの中で、交尾後、なかなか産卵を始めない♀に盛んにちょっかいをかける、伴侶♂が観察・撮影できましたので、以下にご紹介します(写真6~8)。

写真6は、そのカップルが交尾を解く直前のものです(10時42分56秒)。

ハッチョウトンボ交尾、この後エスコート 
写真6 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の交尾、(別カップル)

写真7a~d、8e~hは、そのカップルのその後の行動です(時系列順)。

ハッチョウトンボ、交尾直後の♂♀、1 
写真7 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の交尾直後の♂♀(写真6と同一個体)

写真7a) 交尾分離直後、伴侶の♂♀は向かい合ってホバリングしています(10時43分02秒)。
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写真7b) ♂は腹背を少し反らした格好で、飛ぶ♀の側面下方に回りこんでいます(10時43分02秒)。
♀の写真に向って右方向への移動を促しているようにも見えます。

写真7c) ♀はbの少し下方のトクサ属植物にとまりました。
♂は、しつこく♀に超接近しています(10時43分02秒)。
この周りで卵を産めということでしょうか。

写真7d) ♀はとまる向きを変えています。
♂はその♀の視線の方向に回り込み、腹部を少し挙上しながらホバリングしています(10時43分02)。
あいかわらず、しつこいです。

ハッチョウトンボ、交尾直後の♂♀、2 
写真8 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea の交尾直後の♂♀(写真6、7と同一個体)

写真8e)  ♂は、同じ所にとまっている♀の上方でホバリングしていますが、視線は♀のほうには向けていません(10時43分04秒)。
侵入♂への警戒も怠らないということなのでしょう。
  
写真8f) ♀の上方でホバリングしていますが、向きを変えています(10時43分06秒)。
あらゆる方向への警戒をぬかりなく行おう、ということなのかもしれません。

写真8g) ♂は、また写真eと同じ方向を向いてホバリングしています(10時43分06秒)。

写真8h) ♂は♀の近くにとまりましたが、視線は♀の方向とはなっていません(10時43分18秒)。
ここまでくると、♀への産卵口説きよりも、警戒がメインになるのかもしれません。

写真は以上です。

この後、この♀が産卵を始めたかどうかは、写真も記録も残っていません。

仮に、この♀が卵未成熟等の理由で産卵しないままであったとしても、交尾後の♂がこのように♀をエスコート(+ガード)することを習性にしていることは、♂にとって決して無駄なことではなく、自己の遺伝子を次世代により多く残していく上での優れた戦略であることに違いありません。

次回の最終回記事では、ハッチョウトンボの羽化殻と、この小湿地で見られた他のトンボを取り上げます。

引用文献:
コーベット, P.S. (1999著)、椿・生方・上田・東、監訳(2007)『トンボ博物学―行動と生態の多様性ー』。海游舎。

謝 辞
現地をご案内くださった月井栄三郎さんに、心よりの感謝の意を表します。




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