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2018-08-05 (Sun)
今年6月上旬に月井栄三郎さんのご案内のもと、栃木県の農村部の溜池群を訪れ、私とは初対面となるトラフトンボ Epitheca marginata (Selys, 1883) を始め、数種類のトンボを観察することができました。

今回は、その第1報として、トラフトンボのパトロール飛行の特徴をレポートし、若干の考察を加えます(シリーズ記事一覧はこちら)。

目 次
 ◆トラフトンボが飛ぶ溜池
 ◆トラフトンボのパトロール飛行を撮る
 ◆「パイロット」としてのトラフトンボ
 ◆謝辞
 ◆引用文献
 ◆耳より情報!(『トンボ博物学』特価頒布)


トラフトンボが飛ぶ溜池

観察地は、栃木県の農村地帯の山際にあり、その中にいくつかの溜池が隣接して存在し、それぞれの池が少しずつ特徴を異にしています。

それらの池のうち、今回トラフトンボが最初に観察されたのは、写真1の池です。

トラフトンボなどが見られた溜池 
写真1 トラフトンボほかのトンボが見られた溜池。 (写真はクリックで拡大します) 

この池は、ほぼ全面が浮葉(主にジュンサイ)によってまばらに被われています。
池の岸の4分の3は、ほぼ連続的に木立に囲まれ、残りの4分の1は農道に接していて、木陰はまばらです。


トラフトンボのパトロール飛行を撮る

月井さんのアドバイスを受け、観察初日の正午少し前から20分間、写真1の手前右の岸辺に立ち、眼の前の岸沿いをパトロールしているトラフトンボ♂を、カメラで追いつつ、観察を続けました。

その間、シャッターを160回押しましたが、フレームを外れたり、ピントが合っていなかったりで、ほぼ空振りの連続でした。

それでも、昼食後の‏‎13時ちょっと過ぎからの2分弱の再チャレンジでの、20ショットの中に何とか使える写真が含まれていました(写真2)。

トラフトンボ♂のパトロール 
写真2 トラフトンボ Epitheca marginata ♂のパトロール(写真1の池にて)

写真2は、ジュンサイの葉が点在する水面上低くをパトロール飛行中の成熟♂です。

この写真から、水面上空30cmあたりを飛んでいることがわかります。

パトロール飛行の範囲は、大雑把に見て、岸から数十cm~1m沖を、岸に沿って20~30m、さらにはそれ以上の距離を往復するもので、時おり、数m沖合にまでパトロール範囲を拡げるケースも見られました。

同じエゾトンボ科のカラカネトンボ Cordulia amurensis Selys, 1887 では、競合するパトロール♂数が増加するにつれて、各♂のパトロール範囲の平均値が縮小し、パトロール範囲を独占的に守る なわばり行動(侵入者を追い出して、先住者はパトロール範囲に戻る)が出現します(Ubukata 1975)。

トラフトンボでも、同様の社会行動システムが存在しているかもしれません。

確認には個体識別した多数の♂の行動の定量的かつ多量の観察が必要となりますが、どなたか、確かめられてはいかがでしょうか?

写真3aは、観察2日目(翌日)の午前10時過ぎに、同じ池の同じ岸辺沿いをパトロールしていた♂です(別個体)。

このシチュエーションでのベストショットなので掲げておきます。

トラフトンボ♂、パトロール 
写真3(a & b)トラフトンボ Epitheca marginata ♂、パトロール(それぞれ別個体)
(撮影データ:写真3aは、ISO=500, 1/1250秒;写真3bは、ISO=2000, 1/2000秒)

写真3bは、この溜池群の中の別の池(水面直下まで、広範に沈水植物が密生していました)で撮影されたもの(写真4)からのクロップです。

写真3a、bとも、水平飛行を真横からの撮影したもので、それぞれ別個体ですが、よく似た姿勢をとっています。

いずれの個体でも、腹部はすっと後方に伸びていますが、やや背方に反らせ気味です。

また、脚はすべてしっかり畳んで、中・後脚は翅胸下部に密着させ、前脚は頭部と胸部のすきまに立てるように格納しています。

トラフトンボ、パトロール♂と沈水植物 
写真4(a & b) トラフトンボ Epitheca marginata 、パトロール♂と沈水植物 (写真3bと同一個体)

上記以外にも、トラフトンボに狙いを定めた観察・撮影を、観察初日の14時少し前から7分間の70ショット、14時46分からの8分間の60ショット分行いました。

更に、翌日の午前10時から15分間にも100ショット、10時42分から10分間に5ショット分、トラフトンボをターゲットに撮影を試みました。


「パイロット」としてのトラフトンボ

そうして得られた生態写真の中から、トラフトンボ♂のパトロール飛行中の姿勢に中々面白いものがありましたので、以下にご紹介します。

まずは写真5a、bの2カットです。

トラフトンボ♂、パトロール 
写真5(a & b) トラフトンボ Epitheca marginata ♂、パトロール(互いに別個体)

写真5aは通常の水平飛行ですが、背方から撮影されたカットなので掲げました。
直進飛行中ですので、頭部・胸部・腹部のいずれも、左右への傾きや、体中心軸からのズレはありません。

写真5bは、ほぼ水平飛行中ですが、胸部・腹部を左に傾け、進行方向を左にカーブさせようとしているところです。
頭部だけは、左右への傾きなしに前方を向いています。

次は、写真6a、bの2カットです。

トラフトンボ♂、パトロール 
写真6(a & b) トラフトンボ Epitheca marginata ♂、パトロール互いに別個体)

写真6aは、左ターン中のトラフトンボ♂です。

状況としては、写真5bと同様の動作タイミングにある飛行を、トンボの右前方から撮ったかたちになります。
やはり頭部が水平なのに対し、胸部・腹部はトンボの左方向に傾けられていることがわかります。

写真6bは、右ターンしているところを、正面から撮ったかたちになっています。

頭部はやはり、ほぼ水平のままですが、カーブする方向である、トンボから見て右前方にわずかですが向けられています。

こうして、視野の中央を実際の自分の進行方向に近づけているのは、刻々と変化する外界に俊敏に対応するための一技法として、なかなか興味深いです。

最後は写真7a、bの2カットです。

トラフトンボ♂、パトロール 
写真7(a & b) トラフトンボ Epitheca marginata ♂、パトロール(多分同一個体)

写真7aは、写真6bと同様に、右カーブをしようとしているところですが、頭部はほぼ進行方向を向いているように見えます。

写真7aで、前翅と後翅が前方から見て「X字」に見えるのは、前翅と後翅の打ち振りの周期がずれている(アゲハのように前後翅をほぼ同時に打ち下ろすのではない)からです。

これが、トンボの体軸が飛行に伴い上下にぶれることを未然に防止する上で大きな役割を果たしていることになります。

写真7bは、やはり右カーブ中ですが、腹部と胸部の中心軸が一致しておらず、腹部よりも先に胸部がカーブする右方向を向き始めていることを伺わせます。

頭部も、こころなしか、右方向を向いているように見えます。

以上見てきたように、パトロール中のトラフトンボ♂は、思いのほか器用に頭部や胸部をカーブする方向に向けて、また全体のバランスをとりながら、「機体」たる我が身を「操縦」しているようです。

次回記事では、トラフトンボ♂同士のなわばり争いについてレポートします。


謝 辞
現地をご案内くださった月井栄三郎さんに、心よりの感謝の意を表します。


引用文献
Ubukata, Hidenori  1975: Life History and Behavior of a Corduliid Dragonfly, Cordulia aenea amurensis Selys.:Ⅱ. Reproductive Period with Special Reference to Territoriality. J. Fac.Sci.HokkaidoUniv. Ser. VI, Zool., 19:812-833.


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